Lv1→2は1ヶ月半なので、6週間前だとちょうどギルド登録を行った時期ですね。
失礼いたしました。
士郎と凛がファミリアに入るのはもう少し後。入るファミリアは決まっております。
ダンジョンに潜り始めるのはその後くらい。
しばらくは地上の二人をお楽しみください。
迷宮都市オラリオ
神々が降臨する以前の『古代』と呼ばれる時代から存続する世界有数の大都市。
円形状の堅牢な市壁に取り囲まれたこの大都市。
中心には天を貫く巨大な摩天楼が建っている。通称『バベル』。
中心施設のこのバベルから放射状に、北、北東、東、南東、南、南西、西、北西の八方位に巨大な大通りが伸びている。
その中でも西地区は、【
そしてその西のメインストリート沿いに建つ建物の中でもひときわ大きな造りの酒場が『
全ての従業員が女性で構成されるこの酒場は、男女問わず人気が高い。
その酒場の離れの2階。そこに士郎は寝かされていた。
「…ッ…?……ここは…?」
知らない天井。知らない部屋。知らないベッド。そして、知らない
外から聞こえてくる喧騒にもまるで覚えがない。
五感からもたらされる全ての情報に覚えがなかった。
ーーまるで異世界にいるかのような感覚。
「ここは…どこだ…?俺は、なんで、ここに…試験…いや講義が終わって…
部屋の中から爆発音…そうだ遠坂…遠坂は!?」
慌てて部屋を見渡し、
「! あれは遠坂の服…だよな?…良かった。無事、だったんだな…っつ!」
安堵とともに後頭部に痛みが走る。
「…痛い…あーあの時の…そういやぶん殴られたような衝撃があったな…
たんこぶになってるな。これだけで済んで良かったと考えるべき、か。」
今でも凄まじい衝撃を覚えている。部屋の中にいた人はどうなったのだろうか。
無事だと良いが。
「あら、士郎。起きてるじゃない。」
「遠坂か。遠坂はだいじょうぶだった…か…」
振り返り、士郎が目にしたのは。
緑色のメイド服を着た凛だった。
「何よ惚けちゃって。…あ、この服?どうどう?
普段緑色って着ないんだけど、存外似合ってると思わない?ねぇねぇねぇ!」
「似合ってる…似合ってるけど…なんでさ」
「士郎ね、あんた5日間寝てたのよ。あ、私が起きてから5日間だから正確には6日かな。
それで、私たちを介抱してくれたのは酒場の人たちだったの。
ただお世話になるのはいやでしょう?だから、私もお返しってことでお手伝いしてるのよ。
…あ、お店に戻るわね。ごめんなさい。ちょっと士郎の様子を見に来ただけなの」
「お、おう…なんか、すまん。」
「良いのよ。目を覚ましてくれて本当に良かった。
…士郎。私を庇ってくれてありがとう。この通り怪我一つない。あなたのおかげよ」
「意識して動いたわけじゃない。お礼を言われるようなことなんて…」
「それでも、いいえ、だからこそ、ね。いつもありがとう士郎。あなたのそういう所 すごく好きよ」
「………」
「ふふ、照れてる照れてる。じゃあ行ってくるわね。あと1時間くらいだから、待っててね。
お腹空いてるでしょう?お店の人に言って何か持ってきてもらうから!」
上機嫌で出て行く凛。
恋人として付き合っている期間はそれなりに長いとはいえ、平時に直接的な好意の言葉を向けてくれることは少なかった。
それなのに。いつもとは違う、見慣れない服装で。3年前のようなツインテールで。
顔を真っ赤にして伝えてくれた想いは士郎を貫いていた。
「…はぁ。なんでさ…あんなの反則だろ…」
「そうにゃー…会って一週間と経ってにゃいけど、あんなに嬉しそうな凛を見るのは初めてにゃー…」
「!!?」
「あ、初めましてにゃ。ごめんなさいにゃ。ご飯を持ってきてくれる人はまた別にゃー」
(コスプレ…か?猫耳…尻尾…尻尾?!動いてる?!なんで!?)
「………にゃーを無視するとは良い度胸にゃ…シルー!しろーはお腹空いてないって「わぁああごめんなさい初めまして!」一言も言ってないから早く持ってくるにゃー」
「…ごめんなさい。」
「わかればいいにゃ。」
凛と同じ服装のこの猫耳少女はどうやら凛の同僚らしかった。
「えーっと、…」
「あ、名前を言ってなかったにゃ。にゃーの名前はアーニャニャ。」
「俺の名前は衛宮士郎。…そういえばさっき俺の名前を呼んでたな。遠坂から聞いたのか。」
「そうにゃ。よろしくにゃーしろー。
凛はしろーが起きない間寂しそうだったにゃー。心配そうで見てられなかったにゃ。
愛されてるにゃー、しろー?」
会ったばかりのコスプレ少女にからかわれ、思わず赤面する士郎。
…遠坂には心配かけちゃったみたいだな。
「っ!か、からかうなよ…まぁいい、よろしくな。アーニャニャ。」
「ち、違うにゃ!にゃーの名前はアーニャにゃ!」
「え、えっと…アーニャニャ?だよな?」
「ちーがーうーにゃー!アーニャ!アーニャにゃ!」
「アーニャ・アーニャニャ?珍しい名前だな」
「にゃあああああああ違うって言ってるにゃあああああああ!
しろー!わざとやってるんじゃにゃいの!もー!もおおお!」
二人して不毛なやりとりをしていると、くすくす、と。
廊下から笑い声が聞こえてきた。
「もう仲良くなったのね、アーニャ。シロウさんもお元気そうで何よりです。」
「シル!しろーがいじめるにゃ!」
「そう言わないの。シロウさん、この子の名前はアーニャ。アーニャ・フローメル、ですよ。
私の名前はシル・フローヴァ。よろしくお願いしますね、シロウさん?」
そう言って士郎の間違いを正すもう一人のメイドさんーーシル・フローヴァ。
「…そうか。よろしくな、フローヴァさん。それから、フローメルさん、いやアーニャさんも。
悪かったな。よろしく頼む。」
「シルでいいですよ。はい、これ。ご飯です。お腹空いてるでしょう。
お腹いっぱい食べてくださいね。」
「むー…にゃーのこともアーニャでいいにゃ。おバカしろー」
「わかった。改めてよろしくな。シル、アーニャ。」
「はい、よろしくお願いします。それじゃ、食べ終えたら食器はまとめておいてくださいね。
また後で取りにきますから。ほら、アーニャもお店に戻るよ。お母さんに怒られる前に戻ろう?
シロウさん、ごゆっくりどうぞ。」
「…またあとでにゃ、しろー。次間違えたら引っ掻いてやるにゃ。」
「ありがとう、シル。アーニャも悪かった。」
そうしてお店に戻る2人のメイドさんを見送り、6日ぶりの食事にありつく。
食べた食事はどれも見たことない料理で、そしてどれも空腹のスパイスを抜きにしても、美味しかった。
「…これ何の肉だろ…こっちのソースも美味しいけど、食べたことない味だ…でも美味しい。
レシピ教えてくれるかな…いやお店の料理だったらレシピは無理か。」
今度日本に帰ったら、藤ねえに振る舞おう。
それが叶わぬ願いとは知らず、用意してもらった夕飯を食べていった。
士郎が凛を「凛」と名前で呼んでいたので訂正。