IS-虹の向こう側-   作:望夢

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又々サザビー無双回と、束さん家のマスコットの登場です。なお皮だけで中身は弄っている模様。『性格改変』タグでも付けるか。

ちなみにパワードスーツはクレストのCR-MT85辺りをイメージしてください。


第4話-強化人間の少女-

 

 悲しみを背負ったニュータイプ。

 

 彼の時間は止まったまま。その純粋で、優しさを持った心は尊いもので、幼かった。

 

 気がついたら、そんな幼い心を愛おしく抱き締めていた。

 

 おかしな話だ。自分でもそう思う。

 

 他人なんてどうでも良い私が、興味があるとはいっても、まだ他人の域に居た彼に、こうも懐を許してしまった。

 

 一晩中包容力になら自身がある胸に彼を抱きながら、枯れることのない涙を受け止め続けた。

 

 そこには、戦っているときに見た赤い彗星の再現でも、年相応の少年のようなものでもなく、世の事すべてから守られて安心しきった無垢な赤ん坊のような寝顔があった。

 

 そんな事のあった翌日の彼の顔は少し暗かったが、いつも通りに振る舞おうとしていたから、私もそのように振る舞った。

 

「アカリ、また頼み事があるんだけど」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 新たに束から頼まれたのは、先に壊滅させたVTシステムの研究所の物資の流れから、次のターゲットを確定したということだ。

 

 その研究所はイギリスにあり、そこは表向きを遺伝子の研究をしているが、裏では強化人間を生み出す為の研究施設だった。

 

「ぶっ壊して欲しいの。なにもかも全部」

 

 理由はわからないが、彼女が強化人間を造る技術に対して、激しい嫌悪感を持っているのは感じ取れた。

 

 迷うべくなく受け持った。

 

 人が人を弄ぶのを許しておけないのはおれも同じだ。多くの強化人間の悲劇を見てきた所為で、強化人間技術アレルギーになっているからだろう。

 

 救えるならば一刻も早く救ってやりたいというエゴから発しての行動だった。

 

 地表から36000kmの静止衛星軌道上。青い地球を見下ろすそこに、ISサザビーの姿はあった。

 

 この世界に来てからは、自分のガンダム以外での初めての宇宙。

 

 己のガンダムではなくサザビーという、戦友の忘れ形見を身に纏っている所為か、涙が零れてくる。

 

 あの時を思い出すからだろう。

 

 シャアとアムロ、二人の戦いを前にして見ているしか出来なかった。ララァに止められてしまったからだ。そしておれは、置いてけぼりにされた。

 

 ララァはシャアとアムロを連れて行ってしまったのだ。おれを置いて。

 

 頭を振りかぶってリセットする。

 

 言って聞かせる為とはいえ、ララァの死を生々しく思い出してしまった所為か、今の自分はひどく弱い。

 

「ユキ・アカリ、サザビー、発進する!」

 

 だから、弱い自身を隠すために今は仮面を被ろう。幸いにも、赤い彗星という好都合な仮面があるのだから。

 

 ISである今のサザビーにはバリュートやフライングアーマーといった大気圏突入用装備がなくとも、宇宙からかの大気圏突入が可能である。

 

 だがそれにはISのシールドエネルギーを使うため、専用の装備を今回は拵えた。

 

 MSの身の丈近くもある分厚いシールド。ガンダムシリーズを知る者ならば、一目でそのシールドがなんなのかを看破できるだろう。

 

 ガンダムGP02。

 

 歴史の闇に葬られたガンダム試作2号機に装備された対核冷却シールドだ。

 

 これの冷却機能ならば十分に大気圏突入が可能だ。

 

 さらに大気圏突入に合わせて廃棄された人工衛星を爆破させ、その破片に紛れて降下することになった。

 

 遺伝子研究所とはいえ軍事研究所を襲撃するのだから、それなりの装備も抵抗もあるだろう。

 

 電子的な目潰しをする予定だが、光学的には誤魔化しきれない部分もある。故に残骸に紛れて大気圏を抜けようということになったのだ。

 

『作戦開始。以後は無線封鎖。……気を付けて』

 

「ああ」

 

 どうやら彼女に気を使わせてしまったらしい。

 

 人工衛星を爆破し、破片に紛れて降下を開始する。

 

 さて、あとは無事に降りられることを祈るのみか。

 

 大気との摩擦熱で赤く染まる機体。砕けた人工衛星が流れ星となって墜ちていく中で、正しく今は赤い彗星として、おれは征く。

 

 大気の層を抜け、青空の中を落ちていく。

 

 シールドの冷却機能で十分に装甲が冷えたのを確認すると、拡張領域に入れていたサザビーのシールドと交換する。ISは拡張領域という物があり、ここに装備を量子情報として格納する機能を持つ。これによって前線での装備換装を可能とするのが強みだ。

 

 地上の様子が見え始めた。

 

 こうしてMSで降下すると、グリプス戦役を思い起こした。

 

 大人である自分達が、あの子を導いてやらなければならなかったのに、目まぐるしい状況の中ではそれすら叶わなかった。

 

 カミーユ・ビダン――。

 

 彼には守り役の母親と、導き手である父親が必要だった。

 

 エマ中尉やレコア少尉に母親を求めていたようだが、カミーユが求めていた無条件で甘えさせてくれるような女性たちでもなかった。彼女たちは強かだった。それもカミーユを想えばこそだったろう。

 

 導き手としての父親――若者の手本となるには、自分はまだまだ若造だった。だから見守る事にした。躓いた時には手を貸せるように。それがいけなかったのだろう。

 

 結局、カミーユはおれたちと同じような悲劇を体験し、より強力なニュータイプの力を身につけ、グリプス戦役に終止符を打った。その代償はあまりにも大きかった。

 

 多くの仲間を喪い、シャアでさえ行方不明となり、導き手を失ったアーガマを守るために必死になるしか、あの時のおれには出来なかった。

 

「感傷だな……」

 

 気持ちを切り替えて意識をシフトさせる。過去の感傷を振り切るように、サザビーのバーニアに火を入れた。

 

 降り立ったのはイギリスの北西。

 

「ん? 出てくるか」

 

 国も関わっている遺伝子研究所故、少しの防衛戦力は期待していた。

 

 しかし軍事的にはあまり重要でもないにも関わらず、出てきたのはパワードスーツが12機。各々マシンガンやライフルで武装し、肩のアタッチメントからミサイルポッドやキャノン砲を装備するものまである。

 

 さらに取り巻きには数機の戦闘ヘリも展開している。

 

 中々の戦力だが、所詮はISの代替にもなれぬ性能しかない木偶だ。

 

 結局は、おれもシャアを笑えないということだ。

 

 ニュータイプである以前に、自分はMSのパイロットだ。強敵との戦いに餓えているのだ。

 

『所属不明のISに告げる。直ちに停止せよ。貴官は我が国の領土を侵犯しつつある。武装解除し、こちらの誘導に従え』

 

「悪いが、推し通らせてもらう!」

 

 真実を知るか否か、それは対した問題ではない。

 

 隠しだてしてコソコソと動き回る者達への警告だ。人を弄ぶお前たちの喉元に、赤い彗星の再現が迫りつつあると。

 

 故に、今回の作戦では大気圏突入時と作戦終了後の帰還以外は電子的な工作は一切施されてはいない。見たければ見れば良い。挑むならば拒みはしない。今の自身は赤い彗星としてその力を世界に示すまでだ。

 

 戦闘ヘリからミサイルが飛んでくるが、それをビームショットライフルで撃ち落とす。

 

 パワードスーツたちが各々の武器で弾幕を張ってくるが、サイコフレームで敵の意識を受信している今の自分は、攻撃への反応速度が上がっている。

 

 ISとしては特殊で、平均的なISよりも一回り程巨体であるサザビーではあるが、PICでの浮遊力で重力というものを気にしないで済むのならば、サザビーはそのスペックを宇宙のように遺憾無く発揮できる。

 

 対するパワードスーツは、重力に縛られた行動しか出来ないのだ。

 

 低重心と平面装甲の無骨さは高い防御力を持ち合わせていそうだが、ホバリング移動でも対した速度もなく、また如何なる装甲でも、ビーム兵器の前には無力なのだ。

 

『撃て撃て! 撃ちまくれ!!』

 

『同じ人間だ、やれるはずだ』

 

 ミサイルや弾丸が嵐の様に迫ってくるが、まだまだ生温い弾幕だ。

 

 ビームショットライフルでパワードスーツを撃つ。情けも慈悲もない、機体の中心を撃ち抜いた。

 

『ゲイリー!!』

 

『ウソだろ、1発だぞ。たったの1発でかよ!!』

 

『各機、フォーメーションを縮めろ。火線を集中し、反撃の隙を与えるな!』

 

 中々統率の取れている部隊だ。弾幕の密度が増し、回避も難しくなる。

 

 それなりのレベル――自分が先日相手にしたIS乗り辺りならば捕まえることが出来ただろうが、おれにとっては難しくなると感じる程度だ。火線の切れ目を擦り抜けるようにして進む。

 

「おれに出逢った不幸が、運の尽きだ…!」

 

 反撃のビームを撃ち、また1機黙らせる。そしてビームトマホークサーベルを抜き急降下。パワードスーツと同じ土俵に降り立ちながら進む。

 

『態々降りてくれた!? 嘗めやがって!!』

 

 近接ブレードを抜いて悪態を吐きながら向かってくるパワードスーツ。

 

『待て! 早まるなケビン!!』

 

 先程から指示を出している声が突出したパワードスーツを呼び止める。やはり優秀な指揮官というのは厄介に尽きるが、もう遅い。既にサザビーの間合いだ。

 

 密集されると厄介だが、出てくるのならば狩らせてもらおう。

 

 マシンガンを撃ちながら突撃してくるパワードスーツの射撃を、身体を逸らすことで最低限の回避に留める。

 

 降り下ろされるブレードに合わせてしたからビームトマホークサーベルを振り上げる。

 

 ビームサーベルよりも出力の高いビーム刃は近接ブレードをバターのように両断し、返す太刀で胴体を両断する。

 

『あのケビンを一瞬で。これが赤い彗星……』

 

『バカヤロウ! 赤い彗星なんぞジャパニーズアニメの空想だろう!! 粋がっているクソアマを引き摺り出して仲間の仇を討つ!』

 

 空想か……。確かにこの世界の人間からすれば、宇宙世紀というものは空想の世界で、赤い彗星はその産物だ。

 

 だがおれにとっては現実だ。その名の持つ特別な意味を知るが故、手を抜くようなことはしない。

 

「これで終わりにする。行け、ファンネル!」

 

 このサザビー最強の武装。サイコミュによってコントロールされる機動砲台は、それまでのMS戦術の幅を広げる兵器だった。

 

 サイコミュ兵器である以上、ニュータイプや強化人間でなければ使えないという制約があるが、ニュータイプである自分には関係がない話だ。

 

 サザビーの背中のコンテナから4基のファンネルを射出する。ファンネルはおれの意思を受けて戦闘ヘリを撃ち落とす。

 

 だがファンネルを展開してより広く意識を広げたからか、脳裏にビジョンが浮かび上がった。

 

 真っ白な部屋の中で、子供たちが殺しあっている。

 

 手術台に寝かされて、麻酔もないまま身体を弄られる。

 

 薄汚い大人の性欲の捌け口にされる。

 

 人間の尊厳なんてない、命を弄ぶそんな光景に湧く憤慨は、自身の感情だけではないだろう。

 

「サザビーが引かれている…。いや、サイコフレームが引っ張られる? ニュータイプが居るとでもいうのか?」

 

 コンテナに残した2基のファンネルも射出し、サザビーの武装もフルに活用して速攻をかける。

 

 ビームショットライフルも、ファンネルも、パワードスーツ程度を相手にするには過剰火力だが、今はその過剰さは早さとなって変わる。

 

 ファンネルがパワードスーツの四肢の関節を貫いて達磨に解体すれば、ビームショットライフルは胴体の中心を撃ち抜き、拡散メガ粒子砲が飴細工のようにドロドロに溶かす。

 

 展開していたすべての部隊を黙らせると、サイコフレームが引っ張られるままにサザビーを進めた。

 

 途中、なんの変鉄もないエレベーターの床をビームサーベルで切り開いて、エレベーターのボタンにはなかった深さの地下へ降りていく。

 

 隔壁が降ろされていたが、ビームサーベルで切り開けないものはない。天井には侵入者迎撃用のレーザー発振器もあったが、対人用ではISは止まらない。

 

 そして最深部に行くに連れて、気分が悪くなる。

 

 培養器には人の物とわかる内臓や四肢、胴体等といったパーツが納められ、調整中なのだろう個体も幾つか目に入った。

 

 ただなんとなくだった。近くにある、心安らかといった風に少女が眠っている培養器に触れようとした時だった。

 

 培養器が爆発した。

 

 それも触れようとしたものだけではない。羅列されていた培養器が、人の形を納めていたもの、そうでないものを納めていた物も関係なく爆発して弾けとんでいく。

 

 培養器の残骸と、中に入っていた液体、そして人の形だったものがズタズタに混じりあって、乱雑に床にぶちまけられた。

 

「俗物どもが……!」

 

 人間というのはここまで愚かしくなれるのかという光景が広がっているのだ。悪態のひとつも吐きたくなる。

 

 ここで研究員にでも出会っていれば衝動的に殺してしまいかねない怒りを募らせながらもサザビーを進ませる。

 

 そしてハイパーセンサーが複数の銃声を拾った。

 

「あっははははははは!! 終りだ、ぜんぶ終わった! お前たちが情けないから私の人生も終わるのだよ!! だから死んでしまえよ!!」

 

 聞こえてくる狂った様な男の言葉。バーニアの出力を上げ、ドアをサザビーの脚で蹴破る。

 

 飛び込んできたのは、複数人の子供の死体と、一人の男。部屋の隅で震えている子供に、白衣を血で汚した男が銃を向けていた。

 

 ドアを蹴破った音に此方を振り向く男を、容赦なくシールドで打ち払った。打ち払った方向が偶々部屋の奥行きが広かった為、白衣の男は床を跳ねながら錐揉みして吹き飛んだ。

 

「あっ……」

 

 サザビーのモノアイと、震えていた子供の目が交差した。

 

 銀色の髪に、黒い眼球と銀色の瞳。

 

 そんな瞳が、真っ直ぐサザビーを見詰めていた。

 

 気づけば、意識が宇宙の中に居た。感じるものはこんな夢も希望もない薄汚い世界のなかでも、自由になりたいという、たったひとつの望みだった。

 

「来るか……?」

 

 手を差し伸ばす。この娘の望む自由が、おれが連れ出すことで手に入るかどうかはわからない。だが、ここにこのまま居続けても、彼女に自由が手に入るか保証はない。選ぶのは彼女だ。

 

 差し出した手に白い小さな手が重ねられた。

 

 サザビーの腕に彼女を抱き上げると、ビームショットライフルで辺り構わずビームを撃ちまくる。

 

 培養器が並んでいた部屋も同様だ。メガ粒子による熱量がすべてを蒸発させていく。

 

 発電機かなにかを撃ち抜いたか、大爆発が起きて、灼熱の炎がサザビーの装甲を舐めるが、ISのシールドは紅蓮の中でも腕に抱く少女を守っている。

 

 あらかた地下研究所を破壊したおれは、サザビーを煙に紛らせて空に上がると、ステルス迷彩が施されたフライングアーマーにサザビーを乗せて離脱した。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 何事もなく隠れ家の島に戻ったおれは彼女を束に引き渡した。なにしろ裸だったし、あの施設に居たなら強化人間の可能性もある。一度は精密検査を受けさせた方が良いだろう。

 

「イヤ! イヤイヤ!! ヤアアアッ!!」

 

 だがどうにも離してはくれなくて、結局は簡易的な検査に留まった。

 

 ニュータイプ同士の意識の感応。彼女は強化人間だが、脳波レベルは十分ニュータイプとして通用するレベルの様だ。

 

 本気で離れるのを嫌がられてしまっては、離れるわけにもいかないだろう。

 

 というより人体は普通のおれが、女の子とはいえ強化人間の腕力に勝てるわけがない。

 

 シーツにくるまりながらも、おれの服を掴んだまま離さない彼女に添い寝する形で、眠りについた。

 

 意識が眠りに落ちる片隅で、誰かか笑っているような気がした。

 

 

 

 

to be continued…


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