IS-虹の向こう側-   作:望夢

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読み終わったあと、皆は必ずこう言う。

「お前ガンダム乗ってたんじゃないのかよ!?」と。


第2話-赤い彗星という機体-

 

 宇宙遊泳をしてから一ヶ月。

 

 彼女――篠ノ之 束に週一程度で宇宙に上がることをせがまれた。

 

 宇宙に出る為にISを造った彼女が、宇宙を感じられるということは何事にも変えがたいことなのだろう。

 

 ちなみに今のところ彼女にニュータイプになる予兆なり素質なりはまったく感じないことを伝えたら思いっきり蹴りを入れられた。結果5mくらい吹き飛んでめちゃくちゃ痛かった。

 

 いくらニュータイプでも身体は普通の人間なので勘弁しろください。

 

 しかしニュータイプの危機感知を上回る速さの蹴りとは。

 

 ニュータイプよりもガンダムファイターの方が向いていそうだと言ったらラビットアリスフィンガーを喰らった。脳ミソが鼻から出るかと思った。

 

 束からはどうすればニュータイプになれるのかとしつこく訊かれるのだが、おれだって戦いの中で覚醒したニュータイプだ。

 

 自覚したのは一年戦争時、やはりララァ・スンとの出逢いと、その散り様に居合わせた時だっただろう。

 

 あの時、刻の流れを見た気がしたんだ。そこからニュータイプとしての感覚が異常発達したのをハッキリと覚えている。恐らくララァの感応波におれのニュータイプとしての感覚が刺激されたからだろう。

 

 それは置いておくとして。

 

「ホント、静かで良いな、この世界の宇宙は……」

 

「静か? 宇宙に静かもなにもあるの?」

 

「まぁね。宇宙世紀の宇宙は人が死にすぎた。場所によったらヒトの残留思念が残っている場所がある。ソロモン宙域辺りは一年戦争とデラーズ紛争で死人がわんさか出たからね。進んで行きたいとは思わんよ」

 

「なるほどねぇ……」

 

 そんな宇宙世紀の世間話をしながら宇宙遊泳をするのがこのところのおれたちの交流だった。 

 

「やっぱり、人が死ぬ時は感じるものなの?」

 

「意図的に意識して感じないようにはしているけど、強い意思の波長はやっぱり感じる。相手がニュータイプや強化人間だったりすると、その最後を感じさせられるよ」

 

 だから一番人の死に敏感だったのはグリプス戦役と第一次ネオ・ジオン戦争辺りだった。あの時期は敵味方にニュータイプや強化人間が沢山死にすぎた。

 

 おれはニュータイプの力を戦いの道具として使って余計な思念を感じないようにしていたが、カミーユやジュドー、バナージのようなニュータイプという存在の在り方そのものだった彼らには、人の思念が荒れ狂う戦場というものは辛かっただろう。

 

 地上に戻れば特にやることもなく時間だけが過ぎていく。暇潰しに束とゲームに勤しむこともあるが、専ら双六のような運要素の強い物しかしない。

 

 なにしろニュータイプ能力と言うのはON/OFFの効かない力だ。アクションゲーは相手の出方がわかってしまう、シューティングゲーならばどう弾を避ければ良いのかわかってしまうのだからズルいと彼女に言われたが、こればかりはおれにはどうしようもない。

 

 さて、ただ飯食らいの自分ではあるが、いよいよそれも終わりの様だ。

 

 束が開発したISと呼ばれるパワードスーツだが、その絶対数が少なすぎる為に政治的な道具としても扱われている。

 

 MSの誕生で旧来の戦闘機や戦車に替わった様に、ISもまた旧来の兵器を鉄屑と替え、国防の基幹として扱ったのだ。

 

 MSショックというものを知っているから気持ちはわかるが、だからと言って女性にしか動かせない兵器を国防の要とするなんて神経がおれには理解出来なかった。

 

 束が行方を眩ましたのも、ISが軍事利用され始めた頃だと本人から聞く。彼女はあくまでもISは宇宙進出の為の物であると主張したらしいが、各国のお偉方は聞く耳を持たなかったらしい。それで彼女が雲隠れしたのはもはや自業自得だろう。

 

 故に開発者本人にしか造れないISコアは絶対数が限られ、各国は彼女を血眼になって探しているわけだ。

 

 彼女を手中に納めれば、ISコアを量産出来るわけだからだ。

 

 だがそれが出来ない現状で出来る事は、数少ない量の質を高める事は誰もが思い付くだろう。

 

「そして中には非合法研究もあるのは世の常か」

 

 鋼鉄の鎧を身に纏い、おれはアマゾン川の森林に紛れて造られた研究所へ向けて進んでいた。

 

 アマゾンとなると、ジャブローを思い出す。

 

 そして今回、これから襲う研究所も地下施設と言うことだ。

 

 今回の目標はヴァルキリー()トレース()システムという物の研究をしている非合法研究所の襲撃だ。

 

 モンド・グロッソというISで行うオリンピックなるものがあり、様々な分野でISの性能を競い合うのであるが、その各部門での優勝者がヴァルキリーとして称えられるのだとか。

 

 つまりもうお分かりだろう。そのヴァルキリーの動きを再現するシステムが、VTシステムと言うわけだ。

 

 なお、VTシステムの研究はIS運用協定、アラスカ条約と言うもので開発が禁止されている。

 

 そんな非合法の研究所をわざわざおれが襲撃する理由は、まぁ、この手の非合法な研究所が存在をしている時点でお察しである。正規の対応で排除出来ないのだから、こうして非合法的にこちらも対処するまでという事だ。

 

 連邦軍の軍人が聞いて呆れるだろう。しかし、必要であるから、彼女の申し出を受けたまでだ。それに一年戦争はジオン、グリプス戦役ではエゥーゴに所属して連邦軍とも戦火を交えたこともあるのだから今さらだ。

 

『このまま何事にもなければ、あと5分程で入り口が見えてくるはずだよ』

 

「了解した」

 

 川の流れに身を任せながら川を下っていく。MSが潜っていても隠れて進めるだけあって、4m程の今の自分を察知するなど難しいことだろう。

 

「これか……」

 

 バカ正直に地上に入り口があるわけではなく、地表をスライドさせて入り口を開くタイプである様だ。川の中から小型カメラを出して様子を視ると、川縁に不自然な亀裂が入っている。

 

「博士。ここ以外に入り口は?」

 

『ちょっと待って。――500m下流に行くと、もうひとつ小さいのがあるけど』

 

「ならそらちから行こう。ここは爆弾で吹き飛ばすだけでいい」

 

『どうして? 君の腕とその機体なら正面からだって負けないのに』

 

「だからといって、正面から戦う必要はないのさ」

 

 敵が内部にどれ程居るのか正確にはわからないのだから、余計な消耗は避けるべきなのだ。

 

 ナビゲートに従って、川から上がる。二つ目の入り口は地上に設置されているエレベーター型の入り口だった。

 

「それにしても、目立つな」

 

 周りは土と木々の中で、真っ赤なロボットが移動しているのだ。目立たないはずがない。

 

 MSN-04 サザビー

 

 あのシャアが最後に乗ったMSとして有名だろう。 

 

 重MSでありながら機体各所のアポジモーターにより運動性は高い水準にある。

 

 本来なら20mを超える巨体であるのだが、今は4mサイズの大きさでジャングルを歩いている。

 

 篠ノ之 束博士がISにMSの技術を取り入れて開発した新型のISである。

 

 女性にしか動かせないISをおれが動かしているのは、ISコアにサイコフレームを使って、ニュータイプであるおれを認識させているからだそうな。

 

「さて、始めるか」

 

 自身の中でスイッチを切り換える。今から自分はMSのパイロット。戦場に立つ一人の戦士。人を殺すニュータイプだ。

 

 最初の入り口に仕掛けた爆弾を爆発させる。結構な量を仕掛けさせて貰った為、軽い地震染みた地響きが機体から伝わってくる。

 

 今の爆発で向こうの目は逸れているだろう。

 

 ビームサーベルを抜き、地表に突き出ているエレベーターの入り口を切り開く。そのままエレベーターシャフトを降下する。

 

「さすがに無警戒過ぎるな」

 

 エレベーターの底に辿り着き、再びビームサーベルで扉を切り開いて施設内に侵入したというのに、歓迎はない。

 

 一先ず物陰に隠れ、サイコフレームで増幅された意識を拡げ、周囲の気配を探った。

 

「静かすぎる……」

 

 警報がけたたましく鳴ってはいるが、それにしては人の動きが静かすぎる。

 

「チィッ、これだからジャブローでも見つかる!!」

 

 悪態を吐きながらバーニアに火を入れて飛び上がる。後方から此方を見つけて接近していた四本脚のガードメカがレーザーを撃ってくる。相手が機械であり、気配を探るのに意識を向けすぎて反応が出遅れた。

 

 それをアポジモーターを噴かして回避しながらビームショットライフルのライフルモードで撃ち返す。

 

 U.C.0093年代でも強力な威力を持つビーム火線が、ガードメカを爆発する余裕もなく熔解させた。

 

 だが今ので此方も見つかったのは明白だ。レーダーで捉えている熱源の数々が此方に向かってきている。

 

「だから赤い機体は目立つと言った!」

 

 宇宙空間でも目立つような色が、目立たないわけがないのだ。なのに機体のカラーリングの変更を許して貰えなかったことに悪態を吐く。

 

 天然の地下空洞を利用して造ったのか、MSで乗り入れても十分な広さの施設内を飛びながらガードメカを撃ち抜いていく。

 

 連装ミサイルランチャーを積んだ戦闘車輌や、電磁加速砲を持つリニアタンクが行く手を阻むが、ミサイル程度でこのサザビーが止められるはずがない。電磁加速された弾丸すらも、鈍重な見掛けに反した軽やかさで躱していく。

 

「成り行きとはいえ、赤い彗星の機体だ。それを乗るからには易々と傷を付けることは出来ないのでな!」

 

 反撃に撃ち込まれた拡散メガ粒子砲は地面を融解させながら戦闘車輌やリニアタンクをメガ粒子の中に呑み込んでいく。

 

「あ、赤い彗星だ……」

 

 目前に迫ったメガ粒子のカーテンに呑み込まれる直前、戦闘員のひとりがそんなことを呟いた。

 

「赤い彗星か。この程度の事で」

 

 続けて出てくる戦闘車輌を相手にしつつも、そんなことを呟いた。

 

 肩慣らし程度の動きでそう言われてもシャアに申し訳ない。一年戦争、グリプス戦役、第二次ネオ・ジオン抗争と、戦友としてその動きを見て、立ちはだかる敵として相対して来たのだ。

 

 シャアならばもっと鋭く、そして早く敵を仕留める。

 

 ビームショットライフルで前方の戦闘車輌を撃ちながら、後ろにシールドの先を向けてミサイルを放ち、身を乗り出してきたガードメカに申し合わせた様にミサイルが直撃して吹き飛ぶ。

 

「なに?」

 

 前方からその他とは違うかとなくプレッシャーを感じる。

 

 熱量測定。ISクラス――!

 

「聞いてはいないが。面白い」

 

 前方からライフル弾による弾幕が放たれるが、殺気を感じない。牽制が目的だ。

 

「やる気のない弾など」

 

 捉えた影はラファール・リヴァイブ。デュノア社製第2世代型と情報が表示されるが、そんな情報に目を向けている暇はない。

 

 向かってくる弾丸は無視して肉薄する。

 

「見せて貰おうか、ISの性能とやらを!」

 

 つい口走ってしまった言葉に内心で苦笑いを浮かべながらシールドを装備する左手にビームサーベルを握り、斬りかかる。

 

『くっ』

 

 近接戦闘領域に入ったお陰で、ラファールのパイロットの声が聞こえた。

 

 初手は後ろに飛び退くことで回避されたが、間髪入れずにビームショットライフルでラファールのライフルを撃ち抜く。

 

 弾倉に残っていた弾薬の火薬に引火して爆発する前にライフルは手放したが、爆発した爆炎の中にサザビーは突っ込む。

 

『なっ!?』

 

 爆炎の中を突っ切られるとは思わなかったのか、ラファールのパイロットは驚愕を浮かべていた。

 

『ヅ、アアアアアア!!』

 

「この程度か。……先を急ぐ。退いて貰おう」

 

 その鳩尾にサザビーの渾身の蹴りが炸裂する。反動を使ってサマーソルトで一回転すると、追撃に残ったシールドのミサイル二発を撃ち込む。

 

『キャアアアアアアア!!!!』

 

 まともに重量の蹴りを喰らって吹き飛ばされたラファールは体勢を立て直す前にミサイルの直撃を許した。

 

 爆煙が晴れると装甲がボロボロになったラファールが現れた。

 

 素人目で視るなら中破程度だろうか。だが最優先はVTシステムだ。ISを相手にいつまでもかかずらってはいられない。

 

 だがまだ戦う意思を見せるラファールは近接ブレードを抜き放ち、突っ込んでくる。スピードからしてフルブーストだろう。

 

「だが、向かってくるという相手を無下にはできんだろう」

 

 降り下ろされた近接ブレードをビームサーベルで受け止めるが、拮抗は一瞬。ビームサーベルにブレードを熔断されたラファールは、降り下ろした姿勢のまま前につんのめった。

 

『ゴフッ』

 

 つい反射的に膝蹴りをラファールに打ち込んでしまったおれは悪くない。だが今のがトドメだった様だ。

 

 ぐったりとしたラファールを捨て置き、サザビーを進ませる。

 

「なるほど。衝撃までは完全に防御しきれないらしいな」

 

 となれば、対IS戦闘の攻略も楽になるだろう。

 

 防衛の要のISが墜ちたからだろう。防衛火線が熾烈になってくる。ガードメカの数も増え、戦闘車輌も対空車輌まで出てくる。中には鈍重なパワードスーツまで姿を現すが、サザビーの敵ではなかった。

 

「なんと他愛のない。鎧袖一触とはこのことか」

 

 地下施設の制圧に成功した後、VTシステム関連のデータを納めたサーバーを発見。物理的に他とは独立した造りになっていた。

 

 なるほど、ISを突入させた理由がわかった。

 

 腹部の拡散メガ粒子砲でサーバーを破壊した後、施設の自爆プログラムを作動させた。

 

 地上に戻り、施設の爆発を見届けた後はそのまま帰還の途に着いた。

 

 

 

 

to be continued…

 

 

 

 


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