IS-虹の向こう側-   作:望夢

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これで大丈夫かとびくつきつつ投稿。ちょっとくらい強くなっても良いよね?


第39話ー星を追う者

 

 宇宙というものは何処までも自由で、重力の枷から解き放たれる感覚は魂の解放感を感じる程だった。

 

 可能なら宇宙に住みたいとさえ思いながら、束は再び地球の重力を身に感じながら息を吐く。

 

 大西洋の秘密基地へ降下したシャトルから2機のガンダムを搬出し終え、一日の休憩を挟み、ユキはガンダムMk-Ⅱを纏ってカタパルトに機体を固定させた。

 

 その隣のカタパルトにはISを纏った束の姿もあった。

 

 蒼いカラーリングを中心としたガンダムタイプ。その背中には大型のスラスターと一体型のユニットが接続されている。

 

 このガンダムを纏う事に、束は少なからず躊躇した。このガンダムの特別さを知っている。それをISとして造ることは大いに賛成だった。相手がF90という新型を用意するなら、こちらも新型の配備は必要だったからだ。

 

 その為に、彼のスタイルに合うガンダムタイプのISを作っていた。彼の為に用意した機体。なのにその機体を自分が身に纏っているのは、彼への誓いの為、彼の戦いを勝利に導く為、よりMSを研究する為、自分の為に敢えて束はこの機体に乗った。

 

「大丈夫? 周りに人は居ないからサイコフレームも大人しいとは思うけど」

 

 周りに人が居ないから、完全にオフになっている素の彼の声が束を気遣う。

 

「うん。君が整備した機体だから安心だよ」

 

 この機体も、ISサザビーと同じくISの技術で再現した機体だ。そこにMS技師として彼が改良と整備をした。夜中まで続いた作業は苦とは思わなかった。

 

 MSの技術面で不馴れな束が居るなら、ISの技術面で不馴れなユキも居る。

 

 同じ目線で異なる技術を教えあい、同じ技術に意見を出し合い形になったこの機体はMS型ISへと生まれ変わった。

 

 ISの産みの親が手掛けたコアとエネルギーラインの電装系と伝達系、ハイパーセンサーの調整。

 

 MS技師の手掛けたフィールドモーター、アポジモーター、ビーム収束技術と完全なムーバーブルフレーム。

 

 そしてサイコフレームを内蔵した機体。

 

 RXー94 量産型νガンダムを束は身に纏っていた。

 

「ユキ・アカリ、ガンダムMk-Ⅱ、発進する!」

 

 カタパルトで射出されるガンダムMk-Ⅱに続いて、白い戦闘機――Gディフェンサーが発進。機首が分離し、機体がガンダムMk-Ⅱの背中にドッキングする。

 

 スーパーガンダムとなったガンダムMk-Ⅱに続いて、束も機体を射出体勢に移行する。射出のGに耐える為に前屈みになり、マーカーが赤から青に変わる。

 

「篠ノ之 束、ガンダム、行きます!」

 

 カタパルトで射出される機体。射出の勢いを乗せて背中のスラスターの出力を上げ、機体を空へと昇らせる。PICによって地球の重力を相殺出来るIS。その技術を使うMS型ISは機体を無重力下と同じように扱える。

 

 それをわかっている人間が果たしてどれだけ居るだろうか。

 

 ISでの空中戦は、国家代表ともなれば目を見張る物もある。それこそあくまでも技術者の束であるから、パイロットとして研鑽を続けてきた一流には勝てない所が多々ある。

 

 しかしどうにもユキの挙動を見ると、それも魂が重力に引かれている人間の動きなのだと思ってしまう。

 

 相手を追い掛ける時、地面に対して逆さまになることはある。しかし逆さまのまま宙に浮かぶことに忌避感を感じてしまう辺り自分も魂が重力に引かれていると感じてしまう。ユキはそれこそ逆さまだろうが横だろうが斜めだろうが好きに浮いてみせる。

 

 意識すれば出来ないことでもない。それでも無意識に人は地に足を向けて浮かんでしまう。足が地に着いているのが当たり前だからだ。

 

 スペースノイドとアースノイドの違い。宇宙という無重力の世界に適応した新人類がニュータイプ。それでもララァ・スンは地球生まれの地球育ちだ。

 

 ニュータイプになる定義は本当に曖昧すぎて条件が纏めきれない。

 

 今のところ試せる事はすべて試している。それでも効果が現れている実感はない。

 

 過度の精神的なストレスもニュータイプへの覚醒に一役買っているという話もある。しかし束をして過度の精神的なストレスを感じる事はほぼない。自由に出歩けないのは一種のストレスにはなっても、過度……というわけでもない。それこそ戦場で生死を懸けた戦いをしたこともない。その前に一目散に雲隠れしてしまうからだ。

 

「感じる……。温かい鼓動」

 

 サイコフレームから伝わってくる意思。ニュータイプでないからといってサイコフレームが無意味なわけではないのはローゼンズールが証明している。

 

 オールドタイプでも、サイコフレームはその微弱な感応波を拾って、機体制御の補助をしてくれる。

 

 ハイパーセンサーもまた、パイロットの脳波で機体制御する機能を持つデバイスである。

 

 サイコフレームとハイパーセンサーを持つこの量産型νガンダムはオールドタイプでも高い追従性をパイロットに約束してくれる。

 

 サイコフレームが導くままに機体を加速させ、スーパーガンダムの背中に取り付く。

 

「うわっ!? なっ、なんだいったい!」

 

「えへへ、めんごめんご♪」

 

「まったく、急に驚かさないでくれ」

 

 スイッチが入った彼は努めて大人の口調で喋っている。

 

 ぐわっと視界が回転し、気づけば取りついていたスーパーガンダムの背中から振り解かれていた。

 

「あっ…」

 

「フッ。油断して不覚を取ったが、蒼き鷹の影をそう易々と踏ませはしないさ!」

 

 AMBAC機動で機体を翻し、猛スピードで飛び立つスーパーガンダムに呆気に取られていた束だったが、ハッと我を取り戻すと小さくなりつつある背中を必死で追いかけ始めた。

 

「まっ、待ってよぉー!」

 

「共に歩むと豪語するなら、追いついてみせることだ」

 

 少しだけ声色を低いものに変える。それはサザビーを纏っている時の、赤い彗星を演じる時の彼の声だった。

 

 推進材の尾を引きながら飛ぶスーパーガンダム。さしずめ白い彗星となった機体の背中を束はひたすら追い掛けた。

 

 一直線ではなく、制動からの急加速で方向転換する軌道を必死で、ただひたすら置いていかれたくないという想いに量産型νガンダムは応え、正確にスーパーガンダムの軌道を追い続けた。

 

 宇宙でも見た光景。光輝く背中を夢中になって追い続ける高揚感が束の胸中に沸き上がって膨れ上がっていく。

 

 その背中に追い付きたい。それだけが願いであるように広がっていく。

 

「この動きに着いてくるのか。さすがはISの産みの親と言うべきか。天才の名は伊達ではないと見た」

 

「形がMSでも、ISだったら私にだってっ」

 

 推進材の消費を抑える巡航機動など知ったことかと言わんばかりに、戦闘機動で空を駆ける2機のガンダム。

 

 アクロバットな軌道を取ろうとも、束は必死でその背を追い掛ける。それが楽しくなってより複雑で難易度が高い機動をユキは駆使し、束を引き剥がそうとするが、彼女が纏う量産型νガンダムはピッタリとスーパーガンダムの背後を追随してくる事に、ユキはガンダムフェイスの奥で口の端を釣り上げながらフランス領へと向かった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 織斑一夏は生まれて十数年、今この時程の身の危険を意識する事はなかった。

 

 先のモンド・グロッソで誘拐された時もあまり感じる事はなかった自身の命の危険。それは世界で一番平和な国である日本で生まれ育ったが故の弊害であったかもしれない。誘拐されて人質にされても、まさか殺されるわけがないだろうと。

 

 しかし今の一夏は明確に自身の命の死を意識せざる得なかった。

 

 ガンダムという、たとえISという存在に形を変えてあっても絶対的な力の象徴。戦うための力を身に纏っていてさえ、一夏は目の前の存在に固唾さえ飲み込めなかった。

 

「どうした?」

 

 動けずにいる自身に放たれた声。それだけなのに全身から汗が一気に吹き出るのを一夏は感じていた。溜まりに貯まった唾液がカラカラの喉を流れていく。

 

「撃たれる前に撃て。戦場で生き残る鉄則だぞ」

 

 目の前に相対するのは、白色のドム。背中に巨大なユニットを背負った異形のドム。

 

 ユキの不在で代わりに一夏を鍛えていたマシュマーとはまた異なるもの。

 

 戦士としての誇りはマシュマーも持っているが、それ以上のなにかを一夏は感じていた。

 

 ふわふわとその砲口を一夏に向けながら浮いている拳大の武器。

 

 ヒートサーベルを手に持ちながら佇むドムの前面に展開しているその武器の名を一夏は知っている。

 

 ファンネル・ビット――通称ファンネルと呼ばれている小型の機動砲台端末。

 

 ニュータイプだけが扱える特殊兵装。脳波制御されるこの機動砲台システム。その威力が実際何処までなのか一夏には計り知れない。そしてそのファンネルを操る白いドムのパイロットの実力も、一夏は知らない。

 

「マシュマーにキズを付ける程上達した腕前。見せて貰おうか」

 

「っ!? うあああああああああ!!!!」

 

 全身の毛が逆立つ程の殺気を受け、頭が考えるよりも先に身体が動いていた。

 

 身体に覚えさせたビームライフルの両手持ちでの射撃。モーションセレクターが自動的に照準補正して機械で撃つ正確な射撃が始まる。パイロットの一夏はトリガーを引くだけでいい。

 

 ユキが製造したMS型ISのガンダムMk-Ⅱはすべてで3機が存在する。

 

 ハマーンへ渡した2機と一夏の持つ1機の合計3機。内1機はユキに返還され、1機はデータ収集の名目でマシュマーが乗り回している。

 

 MSのパイロットであったマシュマーやユキと違って正真正銘の素人である一夏が駆るガンダムMk-Ⅱにはパイロットを補助する機能がいくつも備わっている。

 

 この照準補正プログラムもそうだ。連邦軍製の機体にはMSのパイロットが絶対的に不足していた一年戦争期からの名残でパイロットを補助するOSが組まれている。新兵でも射撃戦や機動戦である程度の戦果を出せる様にアムロ・レイの戦闘データが反映されている。

 

 アムロ・レイの戦闘データに関しては連邦軍部外秘物として何処かに封印され、以後戦場で活躍するMSはアナハイム製ともあって、ジムシリーズに備わっていたそれらのデータも戦場から消えていった。

 

 しかし学習型コンピューターのテンプレートデータの中に密かにそれは受け継がれ続け、今日に至るまで新兵を一度ならず救っているという。

 

 話を戻す。つまり一夏のガンダムMk-Ⅱには学習型コンピューターと補助OSが組まれている。両手持ちでの射撃という決まったモーションを取ることで、OSが自動的に照準補正をしてくれるのだ。正確な射撃となってしまうが、構えて撃つだけで一夏は自分では未だ扱いきれない射撃兵装を扱えるのだ。

 

 しかしコンピューター頼りの射撃が通用するのはある程度のレベルのパイロットだ。士官学校を出た新米パイロットや中堅パイロットくらいで、ベテラン級ともなれば流れ弾でなければ避けられてしまうだろう。

 

 それをわかっているユキは補助OSに組み込ませた。結果、ベテランパイロットが相手であろうとも当てられる程の完成をさせている。参考資料には過去二度のモンド・グロッソの出場者のデータを相手にシミュレーションの結果命中率は80%をキープしている。

 

 しかしそれでも一戦級のパイロット。つまりはエースパイロットの前では通用しない。

 

 撃ち出されたビームを、ファンネルから撃ち出すビームで相殺して防ぐなど誰が考えるだろうか。

 

 しかし白いドムは実際にやってのけた。

 

「その程度か……織斑一夏」

 

「っ、あ、あぁ……」

 

 失望したとでもいうような、底冷えしそうな程の冷たい声に、一夏は身体の震えが止まらなかった。

 

「とはいえ、これで終わってはシュネーヴァイスのテストにもならん。精々踊ってみせろよ?」

 

「ぐっ…!」

 

 白いドム――シュネーヴァイスの機体からオーラが立ち上る。大人しく陣形を組んでいたファンネルが一斉に動き始める。

 

「行け、ファンネル!!」

 

 シュネーヴァイスの周囲に展開していた6基のファンネルが意思を受けて縦横無尽に駆け回る。

 

 シールドをで第一射を防ぐ一夏。頭部のバルカン・ポッドが自動迎撃でファンネルを撃つが避けられてしまう。

 

 右足に衝撃――スラスターを撃ち抜かれた。

 

 爆発して揺さぶられる機体をランドセルのバーニアにものを言わせて無理矢理上昇させる。すると先程までガンダムMk-Ⅱが佇んでいた場所を刺し貫く幾閃のビーム。

 

「ほう」

 

 シュネーヴァイスの中で、その純白の装甲を纏うハマーンは口許で僅に弧を描く。

 

 かなり手加減した攻めだったが、止めを避けられる程度の気骨はあるらしいと、一夏の評価を見直す。

 

 片方の脚部スラスターを破損したガンダムMk-ⅡはぎこちないながらもAMBAC機動で機体を安定させている。

 

 PICで浮いているISならば、片足のスラスターが無くなった所で身動きが取れなくなるわけではない。機動性や運動性は下がろうとも充分戦えるコンディションは残っている。

 

「だが、何時までも避けられるかい!」

 

 それを面白く思う半面、ハマーンのプライドを刺激し、遊びのない苛烈な攻めが一夏を襲った。

 

 とにかく動く。狙いを定められないようビームライフルでシュネーヴァイスを撃つが、誰も動かないとは宣言していないハマーンは重MSでありサイコミュのコントロールユニットも背負って機動性が大幅に落ちているシュネーヴァイスでも当たり前のようにビームを回避する。

 

 しかしビームライフルを撃つ事に意識を割いてしまった一夏はシールドに数発の直撃を受け、シールドが砕け散ってしまう。

 

「しまった!?」

 

「沈め!!」

 

 止めと言わんばかりにファンネルを展開するハマーン。少しでも被害を抑えようともがく一夏だが、動き回る程度で避けられる程オールレンジ攻撃は生易しいものではない。

 

「ぐ、ああああっ!!」

 

 ビームが次々と突き刺さり、装甲が砕かれていく。それでも競技用にビームの出力を落としているシュネーヴァイスのファンネルでは装甲を貫けても、ISのシールドで守られているムーバーブルフレームまでは砕けない。しかし故に一夏のガンダムMk-Ⅱはエネルギーが切れてしまえば敗北を意味する。

 

「(負けるのか……おれ…)」

 

 ハマーン・カーン。宇宙世紀でも屈指のニュータイプパイロット。そんな相手に抗おうとする自分がバカだったのか。

 

 ――……ベル……つ……え……

 

 もはや諦めていた一夏の頭に声が響いてくる。聞いたことのない声だ。やや高めだが、男性の声の様に聞こえた。

 

 ――ビーム……を……え……

 

 その声は次第にはっきりと聞こえる様になっていった。

 

 ――ビームサーベルを使え!

 

「っ、ぐ!」

 

 一夏は声に従うまま、ビームサーベルを抜き、それを回転させるように投げる。

 

「これは…っ」

 

 その光景に既視感を感じたハマーンはファンネルを散開させた。そして必死な一夏はそれに気を割ける余裕はなくただ、投げたビームサーベルの刀身に向かってビームライフルを撃つ。

 

「ビームコンフューズだ!」

 

 ビームサーベルに当たったビームは、刀身のIフィールドによって拡散し、2基のファンネルを破壊した。投げたビームサーベルにビームを当てる。一夏の技量では難しいことでも自動照準補正プログラムはその程度をこなす事は容易かった。

 

「おのれ…っ」

 

 一度ならず二度も同じ轍を踏む事になろうとはハマーンも思いもしなかった。自分の心に土足で踏み込んだカミーユ・ビダンと同じ方法でファンネルを退けた一夏に、ハマーンのプライドが燃え上がる。

 

 それに応えるようにシュネーヴァイスから溢れるオーラの強さが増し、背中からさらにファンネルが射出される。

 

 MSとしてのシュネーヴァイスは背中のユニットは丸ごとサイコミュのコントロールユニットだったが、ISとなったシュネーヴァイスはコントロールユニットとファンネルのプラットフォームを両立していた。

 

 ハイパーセンサーの脳波制御技術を応用し、小型化に成功したサイコミュ。その分余裕の出来たユニットにファンネルのエネルギーと推進材補給のプラットフォームを併設することで、機動性こそ重いが概ねハマーンが重い描く戦闘を体現出来る機体となっている。

 

 故に、二番煎じでも素人に毛が生えた程度の一夏にファンネルを墜とされた事はハマーンのプライドに火を点けるには充分だった。

 

 それをコアに内蔵されているサイコフレームを伝って感じてしまった一夏は、生きた心地がしなかった。

 

 押し潰されそうなプレッシャーに一夏は堪らず間合いを開ける様に後ろにジャンプした。

 

「逃すか!」

 

 それが合図の様にファンネルが動き出す。

 

 一夏を追って迫るファンネル。撃ち出すビームが機体の装甲で弾ける。右肩アーマーが砕ける。ムーバーブルフレームの為、装甲がダメージを受けても内装には響く事はない。

 

 ビームコンフューズでファンネルの撃墜を防ぐために一定の距離感を開けているファンネルへの対処は、纏まって襲ってくるファンネルよりも厄介だった。ビームコンフューズもビームサーベルがあと一本しかない為、使い所は見誤れない。そして近接戦闘装備を失ってまで効果があるかどうか一夏考えてしまう。

 

 ――落ち着け。先ずはファンネルを仕留める。

 

 故に一夏は次の方法を試す。

 

 右手にビームライフル、そして左腕で小脇に構えるハイパーバズーカを拡張領域から呼び出した。

 

 迷う暇もなくトリガーを引く。

 

 片腕での射撃は自動照準補正プログラムがあっても補正値が下がってしまう。だが数を撃てば当たる理路で一夏はトリガーに指を掛け続けた。

 

 ビームライフルは牽制の効果も薄い照準であり、しかし一夏の本命はハイパーバズーカにこそあった。

 

 撃ち出された弾頭が弾けて散弾が舞う。

 

 これも対ファンネル戦術のひとつだった。

 

「賢しいマネを!!」

 

 散弾によってファンネルを撃ち落とされれば、本体はヒートサーベルを持つドムタイプ。一夏にも勝機はあると踏んだ。

 

 しかしハマーン・カーンがその程度で撃たれるはずがない。

 

 ファンネルを一基毎に回避させ、自身も一夏のガンダムMk-Ⅱへ向けて接近する。

 

 2基のファンネルを随伴させ、牽制射を加える。

 

「ぐあっ」

 

 ――歯ァ食いしばれ!

 

 片手撃ちで狙いを定める為に身動きを止めていた一夏のガンダムMk-Ⅱはファンネルから放たれたビームの直撃を受けてしまう。しかし聞こえてくる声に叱咤され、直撃の揺れを耐え凌ぐ。

 

「もらった!」

 

 ――上から来るぞ!

 

 爆煙の切れ目からヒートサーベルを両手に持ち、交差させながら急降下してくるシュネーヴァイス。

 

「く、うおおおおおおっ」

 

 ランドセルに残ったビームサーベルを抜き、雄叫びと共に振り上げた一夏。

 

 僅に、ほんの僅にガンダムMk-Ⅱの機体がその瞬間だけ赤い光を放ち、ビームサーベルの刀身が伸びた。

 

 交差するシュネーヴァイスとガンダムMk-Ⅱ。

 

 土煙をあげながら着地したシュネーヴァイスの背後で、ビームサーベルとランドセルから爆発が起きて崩れ落ちるガンダムMk-Ⅱ。しかし絶対防御でパイロットの身の保証はされている。

 

「私の勝ちだな」

 

 気絶しているのだろう。身動きのない一夏のガンダムMk-Ⅱに告げながらハマーンはシュネーヴァイスを纏ったままピットに戻った。

 

「その調子で、精々這い上がって来ることだ。少年」

 

 ドムフェイスの下でハマーンは口許に弧を描いていた。

 

 純白のシュネーヴァイスの装甲。その肩が僅に焦げていた。

 

 交差する瞬間、ビームサーベルの間合いの外まで伸びてきたビーム刃に意表を突かれ、僅に掠めた焼け痕だった。

 

「少しは楽しめそうだよ。ユキ」

 

 育てていけば、エースパイロットとなれるだろう粗削りの才能に、ハマーンは僅に期待を掛けてみたかった。

 

 

 

 

 

to be continued…


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