IS-虹の向こう側-   作:望夢

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お久しぶりです。お待たせいたしました。待っている方が未だ居るかわかりませんが最新話を投稿させて頂きました。




第36話ー消えたガンダムー

 

 PICによって重力の枷から解き放たれたユニコーンはサイコ・フィールドによって押し上げられ、既に地球の重力圏を脱しつつあった。

 

 足許に広がる青い星。ハイパーセンサーは全天周囲モニターの如く360度の範囲を映し出している。

 

 静止衛星軌道にまで上がり、PICとサイコ・フィールドを解除。アポジモーターを僅かに噴かしながらAMBAC機動で機体を振り返らせる。

 

 宇宙というなにも重圧を感じない環境へ身を置くことで身体の芯から力が抜けていくのがわかる。

 

 地球から宇宙へ。重力が無重力へと変わるこの感覚は何時感じても良いものだった。この良さがわからないアースノイドが地球を食い潰す。それは悲しいことだ。

 

 しかし宇宙遊泳に来たわけではない。気を引き締めてバーニアに点火。再度アポジモーターとAMBAC機動で機体を振り向かせ、漆黒の宇宙を進む。

 

「誘われているのか…。やっぱり」

 

 地上に居ても感じた気配。いや、呼ばれた気がしたのだ。行かなくてはならないと確信させる程に。

 

 慣性飛行でゆったりと宇宙を進む。

 

 自分にあそこまで反応させた感応波。それこそニュータイプが持ち得る強力な感応波。しかしハマーンの物ではなかった。ララァの名を呟いたのは無意識だった。

 

 魂が永遠に宇宙に生き続けるララァは有形無形にいつも自分を導いてくれていた。だからついララァの名を口にしてしまうことも多い。

 

「なんだ…?」

 

 ザザッと、ハイパーセンサーにノイズが走る。

 

 パイロットとしていち速くその原因を調べるのはもはや無意識での行動だった。

 

「レーダーが使えない。この現象は…っ」 

 

 直ぐ様身体と意識が警戒レベルをMaxにする。

 

 ミノフスキー粒子。

 

 レーダー波に干渉し、無力化するその粒子の登場により、従来の誘導兵器を無力化し、第二次世界大戦期の有視界戦闘にまで戦争の戦術を後退させた粒子。

 

 この宇宙においてミノフスキー粒子が散布される状況というものは決まっている。

 

「ビーム攻撃!?」

 

 なにもない筈の宇宙からビームが放たれ向かってくる。

 

 それをシールドのIフィールドが弾く。

 

 熱センサーに反応。ビームを撃った事による砲身加熱が仇となった。

 

「沈めぇぇ!!」

 

 シールドに装備されているビームガトリングからビームの弾丸が雨の様に吐き出される。

 

 なにかを穿ち削り、爆発が起こる。

 

 爆発の中からは機械の破片が飛び散る。

 

「自動砲台…?」

 

 爆発の中に人の思惟を感じなかった。爆発が落ち着いた破片は自動砲台衛星の様だった。

 

「いったい何故……」

 

 しかし考えている時間はなかった。アラートが鳴り響き、その音が耳に入り脳が音を認識した瞬間には既に機体に回避行動を取らせていた。

 

「ひとつだけじゃない!」

 

 先程まで居た所をビームが過ぎ去る。

 

 出方を窺っていると、今度はミサイルで攻撃される。

 

「ミノフスキー粒子散布下でミサイルが来るのか。データがあるのか?」

 

 ミノフスキー粒子散布下でのミサイル攻撃は誘導兵器という意味合いではそれほど脅威にはならない。だが全く脅威でもないわけでもない。誘導性が低下するものの、追尾性がなくなっているわけでもないのだから。

 

 飽和攻撃により広範囲にばら蒔かれたミサイルの内、数基が此方の熱を探知して追ってくる。

 

「この程度ならば」 

 

 射線から退避しつつバルカンで迎撃。そのままバルカンでミサイルの発射口を狙う。

 

 バルカンによって残っていたミサイルを誘爆させ爆発する自動砲台。

 

「手品は読めた!」

 

 攻撃を受ける事でノイズを走らせて実体を現す自動砲台。光学迷彩で隠れ潜んで居たのだろう。システムを休眠状態にさせればセンサーにも見つかりにくい。

 

 自動砲台の位置から明らかに何かを守るために置かれているのは明白だった。

 

 バーニアを噴かし、戦闘機動で突撃を掛ける。

 

 接近するユニコーンに反応を見せる自動砲台の数々。ビームがあちらこちらから飛んでくるが、機械によって正確に狙われて飛んでくるビームを避けられない程にパイロットも機体もポンコツではない。

 

「配置を記録。回避行動をランダムに、Iフィールド減衰0.2% 敵の位置から最重要目標の位置を算出」

 

 広範囲への飽和攻撃は同士討ちの危険性もある。そうプログラムに組み込まれているのか、飛んでくるのはビームばかり。

 

 シールドにIフィールドを搭載するユニコーンにはビーム兵器は無意味である。

 

 回避を機械に任せて自分は次に進むべき進路を導く。

 

「ビームマグナムで…!」

 

 人に向けては撃てない武器も、相手が機械であるなら遠慮は要らない。

 

 縮退した高出力メガ粒子が赤い閃光となって宇宙を突き抜ける。

 

 自動砲台を数基串刺しに、或いは抉りながら進んだ先。ビームがなにかに直撃した。

 

「小惑星? 人の手が入っているのか…?」

 

 ビームマグナムが直撃したのは硬い岩塊であった。掠めただけでもMSを撃墜する威力を持つ高出力ビームでも貫けなかったとなればそれだけ質量を持っているといる事だ。

 

 ただビームの直撃は光学迷彩を一部引き剥がす事には成功した。そのまま岩塊を沿って飛ぶユニコーン。その中でユキはこの小惑星が人の手が加えられている事を認める。でなければ岩の塊が光学迷彩などをするわけがない。

 

 その小惑星の内部に入れそうな入り口を見つけるに至るが、しかし妨害が入る。

 

「っ、そう易々とはか!」

 

 ビームマシンガンによる弾幕、さらにはシュツルムファウストやグレネードランチャーによる飽和攻撃。ビームと実弾によって形成される嵐の中を、しかしユニコーンは避けてみせる。

 

 サイコフレームとインテンション・オートマチック・システム、そしてパイロットのノーマルスーツに搭載するバイオセンサーが相まって、ユニコーンはパイロットの思考のみでの機体制御を可能としている。

 

 ユキが攻撃を察知した瞬間には既にユニコーンも回避運動を行っているのである。 

 

「あの機体、袖付きか!」

 

 小惑星施設内部へと侵入を図るユニコーンを妨害したのはMSだった。――機体の大きさからIS型MSというべきか。

 

 その姿は敵として戦ってきた機影。袖付きのギラ・ドーガであった。その数は僅か4機。一個小隊編成である。

 

「敵の気配を感じない。どういう事だ?」

 

 IS型であるなら中にパイロットが乗っている筈だ。しかしそのパイロットの敵意をユキには感じられなかった。サイコ・マシンである筈のユニコーンに乗っていながら敵の気配を感じないというのは先ず有り得ない。

 

「撃ってくるか!」

 

 袖付きのMSと言えば、フル・フロンタルの姿が真っ先に浮かぶ。

 

 この小惑星がフル・フロンタルに関係しているのなら、攻撃をした此方に非もある事だが。向こうから接触らしいものがないことも気掛かりだ。

 

 ビームマシンガンの攻撃をシールドで防ぐ。Iフィールドの鉄壁はビームマシンガン程度の出力で貫く事は叶わない。

 

 ビームが通用しないとわかると、ビームマシンガンの銃身下部からグレネードランチャーを放ち、シールドからもグレネードランチャーやシュツルムファウストを放ってくる。

 

 それを頭部バルカンで迎撃し、ビームガトリングを向ける。

 

 銃身が回転し、ビームの雨がギラ・ドーガへと向かっていく。

 

 それをギラ・ドーガ部隊は一糸乱れぬ動きで回避する。その動きは制御された機械の様に固かった。

 

「無人制御か? ありえるのか……」

 

 無人機というのなら人の意思を感じないことも理由は付けられる。統制された動きもまた然り。

 

 しかし相手が袖付きとなるなら安易に撃墜することは出来ない。互いに不可侵という締約を破るわけにもいかない。

 

 故に撤退を考えてはいるのだが、ニュータイプの勘は更に進むことを望んでいる。地上で感じた事がただの錯覚だと思えないのはなまじ力を持っているが故の悲しい性だ。

 

「鬱陶しい連中だな」

 

 離脱しようとすれはその退路を塞ぐ様に攻撃が飛んでくる。此方がアクションを起こそうとすればそれを牽制される。追い散らそうと攻撃しても律儀に回避してからまた同じやり取りに戻る。

 

 明らかに足止めされているのがわかる。

 

 侵入阻止ではなく、時間稼ぎの足止め。施設からの撤退の為か、或いは他の意図があるのか。

 

「打って出るか…」

 

 このまま様子見をされるのも面白くない。回線をオープンにしていても通信が入る素振りもなし。

 

 離脱させて貰えないのならば敢えて火中に飛び込むことも必要だろう。

 

「ただ駆け抜けるだけだな」

 

 いつもそうだった。やたら考えた所で答えが導ける程、戦場は容易い場所ではない。敵の策が不透明で、それを理由に足踏みするのなら、それが明るみになった所で対処をすれば良い。時間を与えてしまう方が不利な事が多いのだから。

 

「サイコフレームが使われている盾は、こういう使い方も出来るさ」

 

 意識をシールドに集中する。シールドに内蔵されているサイコフレームが感応波を受けて展開し、蒼く光る。

 

 パージされた両腕のシールドは自ら意思を持ったかの様に動き出し、装備されたビームガトリングでギラ・ドーガ部隊の連携を崩す。

 

 編隊が崩れた合間に向けて、ユニコーンを加速させる。

 

 並のISの瞬時加速を上回る機動力でギラ・ドーガ部隊の包囲網をユニコーンは突破する。

 

 そのまま小惑星の施設入り口まで辿り着き、ビームサーベルで入り口の隔壁を切り裂いて中に入る。

 

「中に入ってしまえば、攻撃も出来ないだろ」

 

 一度背後を振り向き、ギラ・ドーガ部隊が追ってくるのを見ながら施設内部へ進もうとした所に、足下が爆発する。

 

「なにっ!?」

 

 爆風に煽られ、機体が前に押し出される。側面の壁が爆発し、機体が揺らされる。

 

「これくらい!」

 

 アポジモーターを噴かし、機体の体勢を立て直そうとした所に背中から衝撃と爆風が襲い来る。

 

「ぐぅぅぅっ」

 

 ユニコーンの中で衝撃に歯を食い縛りながら振り向けば、シュツルムファウストを放った後のギラ・ドーガの姿がある。通路はそれこそISが数機でも展開できる広さではあるが、戦闘機動をするには狭すぎる。

 

 予備のシールドを格納領域から展開し、攻撃を防御する。

 

 シュツルムファウストが直撃し、大きく後退るとビームマグナムをユニコーンは構えた。

 

 トリガーを引き、腕から身体に響く重低音を響かせながら掠めただけでもMSを大破させる高出力のビームが、通路に展開していたギラ・ドーガ部隊を蹴散らした。

 

 2機を撃墜、1機は大破、また1機は中破程度だが、片腕と片脚を失ってはまともに戦えないだろう。

 

「ヒトの意思を感じない。やはり無人機……」

 

 束がその手の物を開発している事は知っているユキではあったが、世界最高の天才をして、やはりまだ動きにぎこちなさがある無人機を作るのが関の山。

 

 しかし今のギラ・ドーガ部隊は、機械のような動きであったが、編隊機動は完璧と言って良い程の出来映えだった。

 

 あんなものが量産されでもすれば、再び世界は次の混乱に曝されるだろう。或いはそれが目的なのか。

 

 考えることは後に回し、ユキはユニコーンを進ませる。

 

 隔壁のシステムにハッキングし、ロックを解除する。

 

 内部は次の隔壁があり、それも自動で開くと、ユニコーンが中に入るのを確認して閉まる。

 

 プシューと、空気が満たされる音が聞こえ、次の隔壁が開く。

 

「人が居る。もしくは居た、か…」

 

 宇宙空間で空気が必要な事となれば生き物が居るという事であり、これ程の大規模で本格的な施設ならば人が居て当然だろう。

 

 しかしそれにしては妙に静かすぎるのが不気味だった。

 

 警戒しつつも、ユニコーンは歩いていく。

 

 適当に目に付いたドアをハッキングして開ける。

 

 身を屈めながらドアを潜れば、そこには荒れ果てた部屋が存在した。

 

 大急ぎで逃げた痕の様な有り様の部屋だったが、PCの類は放置されていた。

 

「不用心だな。機密保持がなっちゃいない」

 

 しかし今はそれが有り難い。これでこの施設の手懸かりくらいは掴めるだろう。

 

 ハッキングしようとするが、PCに電気が来ていないのか、うんともすんとも手応えがない。

 

「中身が焼ききれているのか?」

 

 周りのPCも試してみたが、無駄だった。

 

 部屋自体に明かりが点く時点で電源が来ていないと言うことは考えにくい。

 

 PCを分解し、HDだけでも回収し、次の宛を探して歩いて行く。

 

「ここから先は、ISじゃ無理か」

 

 階段を見つけたものの、元々人が通る為の物だ。ISではこれ以上先には進めない。物資搬入用のエレベーターを探すかとも考えたが、ユキはユニコーンを解除し、ノーマルスーツの足にくくりつけられたホルスターから銃を抜いて階段を降り始めた。

 

「呼んでいる…間違いない」

 

 言葉には出来ない。しかし呼ばれているのがわかる。

 

 階段を降りた先、また通路を進み、ロックされている隔壁をハッキングして先を進んで行く。

 

 しばらく同じ様な事をしながら進んで行けばたどり着いたのは格納庫の様な場所だった。

 

「っ!? そんな、まさか!!」

 

 格納庫はMSが置かれるには十分な大きさだ。

 

 しかしそれだけでここまで動じる訳がない。問題はそんな格納庫のハンガーに固定されているMSだった。

 

 白い体躯。黒い胸部。金のアンテナ。翠のデュアルアイは数々戦いで伝説を打ち立てて来た象徴。

 

「ν……ガンダム」

 

 蒼い光の中に消えていった、地球を救った奇跡のガンダムが、ユキ自身にとっても特別な機体が静かに鎮座していた。

 

 

 

 

to be continued…

 

 

 


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