IS-虹の向こう側-   作:望夢

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一番書きやすい回想でありながら、一番時間の掛かる回想。元から完成している道筋に余計を入れて壊れない様にするのも大変だ。その点、やはりISは書き易い。さすがは二次創作入門に最適と言われるだけはある。


第34話ーそれぞれの関係ー

 

 束博士に抱えられながら一階に降りたおれは、クロエの異変に気づいた。

 

「どうしたクロエ!」

 

「あっ…」

 

 博士の腕の中から飛び出して駆け寄る。クロエは身体を震わせながら頭を抱えて俯いていた。

 

「ちがう……、私は私だ。入ってくるな……。私は、マスターに…」

 

「クロエ……っ」

 

 クロエに触れたとき、彼女の身に何が起きているのかがわかった。

 

 何かと脳波が混線して、自分を自分と認識出来なくなっているのだ。

 

 蹲っているクロエの隣に座って、その身体を抱き締める。

 

「ま、すた……うぐっ」

 

「しっかりしろ、クロエ。お前はお前だ」

 

 クロエの意識を包み込んで、外界からの干渉を遮る。そして、クロエの力の先を辿っていく。

 

 人の意識を辿っていくというものは、その相手の深層にまで至ると言うことだ。

 

 それもニュータイプの持つ能力(ちから)にして、ニュータイプという存在、互いに分かり合う力の根幹だ。

 

 だがそれは、他人の心に土足で踏み入るものだ。その加減を間違えれば、カミーユとハマーンの様に分かり合っても互いを拒絶してしまう悲劇を生みもするのだ。

 

 だがクロエならそれも赦してくれるだろう。

 

 クロエの心の中は真っ暗だった。フル・フロンタルに見せられた虚無の中に居る様だった。でもその暗闇の中には一筋の光が射していた。

 

「うっ……!?」

 

 その光を辿ろうとすると、いきなり意識を引き込まれそうになる。

 

「ボーデヴィッヒ……?」

 

 おれの腕を掴んで引っ張るのは、今にも泣き出してしまいそうな表情をするボーデヴィッヒだった。

 

「少佐……」

 

 縋りつく様な手つきで、ボーデヴィッヒがおれの腕を抱き寄せていく。その手は、この虚無の様に冷たくて、ありとあらゆる熱を奪われてしまうのではないかと感じるほどにすべてを奪う寂しさがあった。

 

「うぐっ……クロエ!?」

 

 ボーデヴィッヒに引かれているのとは反対の腕を、クロエに捕まれる。

 

「マスターは私のものだ! 私だけのっ、私だけが居れば良い!! オマエは要らないっ」

 

「少佐は、私のすべてなんだ! こんな私にも優しくしてくれる。それを奪わせたりしてなるものか!!」

 

「うぎっ!! がっ、あああああ!!!!」

 

 身が引き裂けてしまいそうな力で引っ張り合う両者に、口から悲鳴が漏れる。しかし、二人は悲鳴なぞ聞こえてはいない様に尚もおれの身体を自分の側に引き込もうと力を入れる。

 

「少佐は、こんな私を拾い上げてくれた。失敗作の烙印を押されて、無価値になってしまった私に、新しい価値をくれた。キサマにはわかるまい!」

 

「マスターは暗闇の中に居た私を連れ出してくれた。深い絶望の中で、ただ生きるだけの私に、生きる意味を与えてくれた!」

 

 言葉と共に、二人の感情が入ってくる。

 

 共に造られた存在。その造られた意味を、彼女たちはしらない。ただ絶望の中で生きていた時、自分を照らしてくれる光に出逢った。

 

 互いに知るおれを見せあって、それを知る事を自慢し、それを知れる事を喜び、それを知らない事に嫉妬する。

 

 そんな二人に共通することは、自身のすべてを受け入れて肯定してくれる相手だと言うことだ。

 

 甘やかし過ぎた結果がこれだ。だが彼女たちの心に触れれば、彼女たちを否定する言葉を紡ぐことは憚られてしまう。

 

「マスターは……」

 

「少佐は……」

 

『私の光なんだ!!』

 

 伝わるのは二人の悲痛さ。

 

 同じ生まれをした同じ存在だから、認めたくないのだ。自分だけを見て欲しいという切実な独占欲。

 

 自分を照らしてくれる光がなくなってしまう事を恐れるのだ。

 

 気持ちはわかるつもりだ。自身もまた、自分を照らしてくれる光に導かれて、それをなくしてしまった人間だ。

 

 だから、彼女たちの気持ちもわかる。でも、クロエはクロエだ。そして、ラウラはラウラだ。

 

 かつておれは、彼女等の様に同じ存在を持つ少女たちに出逢った。

 

 互いの存在の為に、彼女たちは戦ったが、それでも最後には互いを自己として確立して、自分を手に入れる事が出来た。

 

 彼女たちに出来たのなら、クロエとラウラにも出来るはずだ。

 

「マスター……?」

 

「少佐……?」

 

 二人が引き合う手を引いて、彼女たちを抱き締める。

 

「互いにニュータイプ並みの脳波を持っているか ら、相互干渉引き起こしてしまった様だ」

 

 今起こっていることを言い聞かせる様に口を開く。

 

 クロエもラウラも、素質を持っている。ただまだ力の使い方を知らないから、今回の様な事が起こってしまったのだ。それ以上に、クロエとラウラが同じ存在であることも一役買っているが。

 

「クロエもラウラも、その出自は同じなのだろう。だから互いを自分の様に思えてしまう。だから反発し合う」

 

 まるで生き写しの様に、二人は似ている。ただ違うことは、クロエが少し歳上と言うだけだが、そんな事は些末な問題でしかない。

 

「姉妹と呼ぶには似すぎているんだ。まったく同じ存在のように」

 

 人間は、自分を見るのが嫌な生き物なのだ。不愉快な迄に。それは自分が内側に隠しているものさえ筒抜けてしまうような、そんな感覚を容認出来ないのだ。

 

 それでも人は、自分自身を止めることも、殺すことも出来ない。それをしてしまうことはとても悲しい事なのだ。

 

 かつてカミーユは、死んでいった人たちの力を借りて、それでも足りない力を、自分自身を殺すことでZガンダムに発揮させた。

 

 アムロも、落下するアクシズを押し出すために、自分とシャアの命を使って奇跡を起こした。

 

 そしてもう一人の自分を止めるために、プルも命を散らそうとした。

 

 どれもこれも、何かを止めるために、自分ではなく誰かの為に使った力だ。でも、それは悲しみしか生まない事をクロエとラウラには知って欲しい。

 

「シャアの事をとやかく言えないな。急ぎすぎて、彼女たちを惑わせてしまった」

 

 二人の素質の目覚めを促すのに躍起になって、肝心要の、力の使い方を教えることを疎かにしていた。これではアムロに殴られても文句は言えない。

 

「今は静かに眠ると良い。クロエ……、ラウラ……」

 

 互いの本質を受け入れるには、彼女たちの出逢いは突然過ぎたのだ。

 

「ま、すた……」

 

「しょ、う…さ……」

 

「安らかに、穏やかに。たとえ同じ存在でも、クロエとラウラは同じではないのだから……」

 

 そう、二人とも同じ存在でも、歩んできた人生は違う。そしてこれから続く未来も、同じ方向を向いて、同じ道を歩いたとしても歩き方が違うのだから。

 

 人を導く光。自分が彼女たちにとってそうなるのならば、その役目を引き受けよう。かつて自分が手を引いてもらったように。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 彼がクロエちゃんに何をしたのかはわからない。でも、ただ抱き締めるだけで震えていたクロエちゃんが治まって、穏やかな顔で寝息を立てるとは思えない。

 

「クロちゃんに何かしたの?」

 

「……いや。ただ、少しだけ心に語りかけただけさ」

 

 額に手を置きながら口を開く彼は頭痛を我慢している様だった。

 

「頭が痛いの?」

 

「……クロエとラウラの潜在能力はおれ以上だからな。一歩間違えれば取り込まれてしまっていたかもね」

 

 ユキの発する言葉には、深い疲れが見えてくる。そんなにも危ないことをしたのか。オールドタイプの私には、彼が何をしたのか言葉で伝えられても憶測で物を測ることしか出来ない。

 

「博士……?」

 

「一人で背負わないでよ。君が居なくなったら、私は……」

 

 ソファーに座ってクロエちゃんを膝枕に寝かせている彼の隣に座って、その肩に身を預けながら言う。

 

 クロエちゃんだけが君を求めているわけじゃない。私だって、君には傍に居て欲しいのだから。

 

 いっそのこと、彼を縛りつけてしまえたらどんなに楽な事だろうか。

 

 でも、それは出来ない。ニュータイプを縛りつけたら、それはただの人と変わりない。自由でいるからニュータイプなんだと思う。

 

 行く先々で様々な人間と繋がりを持ってくるユキ。

 

 相手を理解するというニュータイプの力がそうさせるのだろうか。

 

 それなら、私と彼の間にはどういう繋がりがあるのだろうか?

 

 ただの協力者? 命の恩人? それとも同じ夢を見る同士? 気心を許せてしまえる友人?

 

 私は彼とどういう繋がりを持っているのか。

 

 曖昧な繋がりが、今の心地の良い距離感を生んでいるのはわかるけど、もう一歩を踏み出したら、私と彼の繋がりはどう変わるのだろうか。

 

「どうかしたのか? 博士」

 

「ううん。なんでもないよ」

 

 その一歩を踏み出す勇気がなくて、今の心地の良さに甘えている。

 

「私もニュータイプになれれば良いのに……」

 

「なりたくてなる……、のとは違うからなんとも」

 

「知ってる」

 

 彼が言うには素質を感じないと、出逢ったばかりの頃に言われた。ニュータイプの素質ってどうすれば手に入るのだろうか。認識力の拡大とは言うけど。

 

 ハッキングして手に入れている資料なんかにも、薬物投与で脳波を強化しているとある。

 

 強化した脳波と、空間認識能力だけでニュータイプと言えるものじゃない。それはただの強化人間だ。

 

 他者を理解するという能力(ちから)があって初めてニュータイプと呼べるのなら、私には無理な話なのだろうか?

 

 そんな事、思いたくない。天才を自負するシロッコがニュータイプなら、私だってニュータイプになれるはずなのだから。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 その日、アメリカの西海岸側にあるとあるIS研究所が火の海に包まれた。しかし人的被害は皆無であり、それと同時にその研究所で非合法の人体実験が行われていた事が、IS委員会と米国政府に知らされた。

 

 そのデータの差出人の名はC.A.R.

 

 それがなんの綴りの略語であるのかはわからないが、今後ともこの様な事が起こる場合、その対象を破壊するという男の声の音声データも添えられていた。

 

 これに対し、アメリカ政府は関与を否定。IS委員会は調査委員会を設置して現地の調査を行ったが、完膚なきまでに機械類は破壊されていた為、データのサルベージは不可能とし、取り調べにて真相に迫ろうとしたが、非合法の人体実験に関与を疑われた研究員は悉くが既に失踪をしていた。

 

 その数日後、幾人かの研究員の遺体がアメリカ全土のあちこちで発見され、結局真相は闇の中と言うことになってしまった。

 

 その後一月の間、北アメリカや南アメリカの各地で、ISの研究所や、企業下の兵器工場などで同一犯の物と黙される襲撃が立て続けに起こった。

 

 そういった中で、目撃者が居ないはずもない。

 

 金色の装甲のISが研究所を襲った。

 

 そういった目撃情報だけが唯一の手懸かりだった。

 

「物騒な話だな」

 

『お陰で裏社会は蜂の巣を突いた様に騒がしいものだ』

 

 空間投影ディスプレイに指を走らせながら、おれはハマーンと通信をしていた。

 

 博士が居るお陰で、各MS型ISも整備は万全だ。だが二度と不覚を取らぬようやるべき事は山程あった。

 

「しかしお前が目をつけていた施設が悉くか。内部からの離叛者かあるいは」

 

 襲われている施設のすべてが、ハマーンが調べを入れていたものだった。ニュータイプを秘密裏に研究していた研究所の襲撃。その仕立て人が何者なのか、興味が惹かれずにはいられなかった。

 

「しかし金色のISか。余程腕に自信がなければ乗り回せないな」

 

『まるでどこぞの誰かを思い出すな』

 

「違いない」

 

 金色のISと聞いて、おれとハマーンは一人の男とMSを思い浮かべるのは自然だった。

 

 金色なんていう自己主張の激しい機体は敵味方問わず戦場で目立つ存在だった。

 

 その姿に敵は恐怖し、味方は勇気づけられた。

 

『情勢は動き始めている。傷が癒え次第、お前にも動いてもらうぞ』

 

「承知している。それに敵か味方の何れであれ、一度相対する必要はあるだろう」

 

 もし味方であるのならば、同じ道を歩める同志となることを期待したい。

 

 もし敵であるのならば、その時はその時だが。

 

『幻影に囚われるなよ。その時は私がお前を墜とす』

 

「わかっているさ。……信頼してるよ、ハマーン」

 

『信頼か……。もう少し気を利かせた言葉は言えんのか?』

 

「愛している……。とは少しだけ違うかもしれないよ?」

 

 実際、おれがハマーンに抱いている感情は愛ではあるものの、親愛に属するものであって、恋愛というものとは少し違うのだろう。ララァに対して一緒に居るだけで満足ならば、ハマーンには一緒に居て欲しいという感情がある。

 

『構わんさ。……愛してるぞ、ユキ』

 

「ッ、そ、そういうからかうこと禁止! ダメ! また何かあったら連絡ちょうだいっ、以上!」

 

 あまりの不意打ちに、言葉を捲し立てて一方的に通信を切る。

 

 あんなに一点も曇りのない綺麗な表情で愛しているなんて言われたことなんてなかったから。

 

「ハマーンの、バカ……」

 

 頬が熱い。胸がドキドキして痛い。こんな初な乙女みたいに取り乱す自分が恥ずかしくて余計に熱くなる。

 

 その所為で被っていた仮面が悉く剥離して、普段隠している素になっていることも構わずにハマーンに悪態を吐く。

 

 恋人なんて居たことがないから、ああいう言葉にどう返したら良いのかわからなくなってしまった。

 

 同じ空間に居るだけで良かったララァに対してとは違い、会話をして互いに触れ合う距離で居て欲しいハマーンにはどう受け答えするのか正しいのか。

 

 如何にニュータイプでも、男女の愛はわからない事が多すぎる。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 夜明を迎え、東に進むアウドムラは朝焼けに焼かれていた。

 

 そんなアウドムラの艦内は慌ただしかった。

 

「んー……っ。いったいなんの騒ぎ?」

 

 ヒリヒリする目元を擦りながら、ベッドから身を起こす。

 

「ブリッジ、いったいなんの騒ぎだ?」

 

 出撃とも違う慌ただしさに、ブリッジに何事かと問い合わせる。

 

『ヒッコリーからの案内係が来たんですよ。複葉機だから着艦に手間取って』

 

「なるほど。ありがとうございます」

 

 だから少し焦りの様な感情を感じるのか。

 

「ぞろぞろ出て行っても仕方がないか」

 

 何より泣き腫らした顔で出て行ける様なものでもない。

 

 大人ぶっていても、中身の根本は子供のままだ。わかっているのに、そんな自分に嫌気が射す。それでもシャアという甘えられる相手がいるから、つい甘えてしまう己の甘さをそろそろ正さないとならないと、カミーユに笑われてしまうだろう。

 

「しっかりしなきゃ……っ」

 

 頬を叩いて気合いを入れる。

 

 腑抜けている自分を伏せ、エゥーゴのアカリ・ユキに戻る。

 

「行けるな」

 

 自分にそう言い聞かせて、身仕度を整えると部屋を出る。

 

 ブリッジに上がると、ハヤト館長とクワトロ大尉が打ち合わせをしていた。

 

「この霧の中であれば、シャトルの正確な位置までは掴めないでしょう」

 

「その間、アウドムラが囮になってスードリを引き付けると。しかし向こうには変形アーマーも居る事だし」

 

「とはいえ、大尉らとカミーユには宇宙に上がって貰わねばならない」

 

「ティターンズがコロニー落としを計画しているという話。その裏は取れているのだろうか」

 

「カラバで送り込んでいるスパイの情報と、ティターンズが宇宙で核パルスエンジンを用意しているのは確かです」

 

 そんな物騒な話を耳に入れながらクワトロ大尉に歩み寄る。

 

「囮が必要なら、おれが残ろう。最悪、ホンコンかジブラルタルから宇宙に上がるさ」

 

「良いのか?」

 

「クワトロ大尉には宇宙でやるべき事がある。カミーユを連れて、宇宙に上がってくれ」

 

 未だ腑抜けたままのアムロ・レイ一人にアウドムラを任せるのは不安が残る。

 

 それに、百式とガンダムMk-Ⅱと違ってハイザックだから替えは利く。

 

 最悪の場合は単身で宇宙に上がれば良いとさえ考えている。

 

「MSの整備を手伝ってくる。何かあったら呼んでくれ」

 

「アカリ大尉、途中で見掛けたらベルトーチカさんにブリッジに来るように伝えてくれ。打ち合わせをしたい」

 

「了解した、ハヤト艦長」

 

 ブリッジから出て、格納庫に向かう為にエレベーターに向かうと、丁度ベルトーチカとアムロに出会した。

 

「ああ、ベルトーチカさん。ハヤト艦長が呼んでいました。打ち合わせをしたいそうです」

 

「あ、はい。今行きます!」

 

 アムロと別れてブリッジに向かうベルトーチカと擦れ違って、アムロに歩み寄る。

 

「……女の気配がする。尻を叩かれたってわけか」

 

「……軽蔑するか?」

 

「いや。おれも同じ口だから、どうとは言わないよ」

 

 おれも、シャアに尻を叩かれたから今此処に居るようなものだ。

 

「……MSを一機、置いていって貰えないか?」

 

「ガンダムはカミーユが慣れているから、置いていけないのだけど」

 

「リックディアスで良い」

 

「あれはエゥーゴで開発したものだから、カラバで運用出来ないよ」

 

「させるさ」

 

 エレベーターに乗り込むと、アムロも乗ってきた。そのままドアを閉じて格納庫に下がる。

 

「……クワトロ大尉と宇宙に上がる気はないのか?」

 

「……まだ、その決心が着かない」

 

「まぁ。MSに乗る気になっただけマシか」

 

 7年もの間、宇宙から離れていたアムロが、そう簡単に宇宙に上がる気にはなれないというのは、ずっと宇宙に居たおれにはわからないものだ。

 

 しかしそれでも戦う為にMSに乗る気になってくれた事は歓迎したいところだった。

 

「……リックディアスもガンダムタイプの設計思想を持っている。肌に合うかはわからないけど、ハイザックには負けない機体だ」

 

「わかった。レクチャーを頼めるか? 早く慣らしておきたい」

 

「わかったよ。時間もないから厳しく行くよ」

 

 格納庫に着いたエレベーターから降りて、アムロを連れ立ってリックディアスのコックピットに上がる。

 

 普通に動かす分には問題もなくやってみせて、戦闘に対しても、シミュレータだが直ぐに順応してみせた。

 

 改めてアムロ・レイという人間の異常性というものを肌身で感じる時間だった。

 

「なら、リックディアスはアムロに任せて良いんだな」

 

「ああ。あれなら問題ない。20分もしないでおれのレコードを超えられたのは少し悔しいけど」

 

「アムロ・レイとはそういうものだろうと言うことさ。でなければ一年戦争でガンダムに乗って戦い抜いた説明がつかない」

 

「面目丸潰れだけどね」

 

 赤い彗星、そして蒼き鷹を相手にして生き残ってみせた。それはただ単にザクとガンダムの性能差だけではなかったという事だ。

 

「しばらく離れる事になる。……大丈夫か?」

 

「女だったらキスでもせがみたいけど、おれだって蒼き鷹と呼ばれた人間だ。大丈夫、やれるさ」

 

「そうか。だが無理はするな。君はまだ死ねない身だ」

 

「んっ……。お互いにね」

 

 そう言いながら頭を撫でてくれるシャアの手によって、肩の力が抜ける。知らず知らずのうちに、緊張していたらしい。

 

 当たり前か。道を指し示してくれる人と離れて、自分で道を選ばないとならないのだから。

 

 いつまでも甘えていられない。その練習と言うわけだ。

 

 ベルトーチカの乗る複葉機が先行し、百式とガンダムMk-Ⅱが乗ったドダイが発進する。続くアムロのリックディアスのドダイに続いて、おれのハイザックを乗せたドダイが発進する。

 

「さて。上手く行ってくれよ。……むっ?」

 

 ヒッコリーに先行する百式とガンダムMk-Ⅱを見送っていると、上方からプレッシャーを感じ取る。

 

「アムロが動く? 遅れるわけには!」

 

 いち早く反応したアムロのリックディアスに続いて、こちらも機体を上昇させる。

 

「ハイザックは抑えてやるさ!」

 

 ビームランチャーから放たれたビームが、敵のハイザックを貫く。

 

 敵はアウドムラの前方と後方から挟み撃ちにするつもりらしい。

 

 アウドムラも高度を下げ始めているから、雲や霧を利用して敵を翻弄する。

 

「そこっ!」

 

「くっ」

 

 カミーユを堕とす寸でまで追い詰めた可変MS――ギャプランに向かってビームライフルで牽制する。

 

「当たれぇぇぇっ!!」

 

「中るかっ!!」

 

 ビームランチャーの射撃を、バレルロールで回避するギャプランは急上昇して高度を上げると、反転して直上から急降下攻撃を仕掛けてくる。

 

「ちぃぃっ、厭らしい!」

 

「貰ったよ!!」

 

 MA形態のギャプランから放たれるビームをシールドで防ぐが、二発を受けたところでシールドを吹き飛ばされてしまう。

 

「まだだ!!」

 

 ビームサーベルを抜いて、迫り来るメガ粒子砲のビームを斬り払う。

 

「時間をかけている暇はないのにっ」

 

「やはりコイツは、普通のパイロットではない!」

 

 アウドムラの援護にも向かわなければならないのに、その焦りだけが募る。

 

『ア、アッシマーがああああっ!?!?』

 

「アムロがやったのか? よくも」

 

 敵のパイロットの最後の思念と共に、爆発をしたのを視界の端で捉える。7年のブランクがあっても、あの頃のニュータイプは健在だと言うことか。

 

『ユキさん!』

 

「カミーユ!? お前、なんでここに」

 

『すみません、でも心配で』

 

 年下の子供に心配される。それほど情けない姿を晒した覚えはないのだけれど。仲間が来てくれる事に無意識のうちに口の端がつり上がる。

 

「しばらく宇宙に帰れないよ?」

 

『もう、覚悟しています!』

 

「上等。アイツを墜とす!」

 

『了解!』

 

 ビームランチャーで牽制してやって、カミーユが動きやすい様にしてやる。

 

「今だカミーユ!」

 

『はい!』

 

 ギャプランに突っ込むガンダムMk-Ⅱの道を作る為に、ビームライフルとビームランチャーで弾幕を張る。エネルギーがかなりの早さで無くなっていくが、そうでもしないとあの可変MSは止められないとわかっている。

 

「当てずっぽうで!! ぐあっ」

 

「数を撃てばなんとやらだ!」

 

 ビームライフルの一発が当たり、ギャプランが体勢を崩した所に、ガンダムMk-Ⅱがビームサーベルを抜いて斬りかかる。

 

『墜ちろおおお!!』

 

「っ、私が、こんなことでっ!!」

 

 ギリギリでガンダムMk-Ⅱの降り下ろしたビームサーベルを回避するも、右側のバインダーを持っていった。

 

「そこだあああっ!!」

 

 変形してどうにか立て直そうとするギャプランに向かってビームランチャーを放つ。

 

 放たれたビームはギャプランの左足を撃ち抜き、墜落して海に落ちていくギャプランを見送った。

 

「はぁぁぁ……。静かになった……」

 

 戦力の中核を失い、敵部隊は撤退していった。

 

『大丈夫ですか? ユキさん』

 

「ああ。カミーユのお陰で助かったよ」

 

 実際、やられないまでも機体の性能差は腕でカバーするのは限界がある。ましてや相手はMSに慣れているパイロットだ。昔のアムロを相手にした様に、パイロットの差で性能の差をごり押すのも無理が出てきているのを感じる。

 

「Z計画。急がないとな」

 

 エゥーゴの新型MSの開発計画にして、フラッグシップ機となる機体の開発も盛り込まれているそれは、ガンダムMk-Ⅱに使われている技術のお陰で、飛躍的にその開発スピードが上がっている筈だ。

 

 ティターンズが次々と新型MSを開発しているのなら、こちらも新型MSの開発と配備は急務であると言える。

 

 その中には当然、ガンダムタイプの開発も盛り込まれている。

 

「その時までに、どれ程のパイロットとなってくれるか」

 

 アウドムラに着艦するガンダムMk-Ⅱの背中を見ながら溢した一言。

 

 カミーユは宇宙でシャアに導いて欲しかったけれど、地球に残ってしまったのなら仕方がない。幸い、こちらにもアムロ・レイが居る。

 

 アムロなら、カミーユにも良い影響を与えてくれるだろう事を祈るだけだ。

 

 それは自分が薄汚れていて、大きな罪を抱えている人間が若い少年を導くものではないと思ってしまったからに他ならなかった。

 

   

 

to be continued…


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