IS-虹の向こう側-   作:望夢

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タイトルで展開モロバレの上に新たに宇宙世紀からキャラを引っ張り出します。何故その人なのかは組織に縛られない立場の頭目が欲しかったからです。

先に言っておきます。ごめんなさい、だから石投げないでください。


第27話ーユニコーンの日ー

 

(あるじ)。鷹がフランス支部への攻撃を始めたそうです」

 

「フランス支部か。あそこは老人達のテリトリーだったな」

 

 なんのともない昼の出来事だった。書類整理をしていれば側近の少女が部屋に入ってきて告げる。

 

「はっ。しかし我が方の強化人間個体が機体と共に出向中でありますが」

 

「その分危険か。良いだろう、私が出る」

 

 強化人間は作る事は出来るが、その分金が掛かる。そう何個も作れるほど、我らにも余裕はない。

 

「主自らでありますか!? ご命令くだされば(わたくし)が参ります!」

 

 そう言う側近の少女ではあるが、腕は決して悪くはないが、鷹を相手にするにはまだ未熟なのだ。

 

「そう急ぐなアンジェラ。ようやく私が出るに値する案件があるのだ。私もたまには羽を伸ばしたくなる」

 

「っ、失礼致しました。では親衛隊共々お供いたします」

 

 怯えた様に一歩下がって一礼すると部屋を出ていくアンジェラ。私が拾い上げた少女は私を盲信しているから捨てられてしまうことに怯えているのだ。

 

 あの程度で気分を害するほど、私は狭い器の人間ではないのだがな。

 

「さて」

 

 あの蒼き鷹が相手ともなれば、こちらも身を引き締めなければならない。ニュータイプ同士の激突による感応波に、騎士が吸い寄せられないとも限らない。

 

 あの蒼き鷹であれば人形程度軽くあしらってくれるだろう。その間に強化人間個体を回収させてもらう。最悪でも機体は回収しなければならない。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 もうこちらは敵として認知されているのだろうか。警告もなしに会敵から一発撃ち込まれた。

 

 先に手を出されたから遠慮なく蹂躙させてもらった。

 

 やはりドムは宇宙よりも地表こそが最強の戦場だ。

 

 高速ホバー移動に着いてこれず無人のパワードスーツは鉄屑を晒す。ビームバズーカの威力の前には棺桶でしかない。

 

「あらかた片付いたな。しかし」

 

 まだ敵意が残っている。

 

 地下からリフトで上がってきた機体は連邦系のデザインをしていて、頭には対のVアンテナに、目元はジム系由来のゴーグルタイプ。

 

「確か……キャバルリーだったか」

 

 HADES搭載型のペイルライダーの量産検討試作機だったか。クラリッサの資料にあった機体だ。

 

「高威力のビームランチャーか。だが当たらなければな!」

 

 シェキナーと言ったか、ビームランチャーとガトリング、ミサイルランチャーが一緒になった複合兵装ユニットとは良いアイディアだが。

 

「その機体の弱点とも言える!」

 

 一気に懐に入り、ヒートサーベルで武器を切り裂く。そのままキャバルリーを蹴り飛ばして反動で距離を開ける。

 

 中のミサイルが誘爆を起こして大爆発するが、離脱の為に蹴り飛ばしたキャバルリーも目立った損傷は見受けられない。

 

「忘れていたな……っ」

 

 互いにMSの姿をしているから、ついついMSと戦っている感覚になってしまうが、コイツらはISだ。

 

 ISの拡張領域から新しい武器を展開したのだろう。

 

 キャバルリーは新たなシェキナーをこちらに向けてきていた。

 

「ぐっ、ああ、ぎぃぃっ!!」

 

 右腕に焼き付きそうな熱を感じながらギリギリでビームを回避するも、リック・ドムⅡの右腕を持っていかれた。

 

「徹夜で直した機体をよくも!!」

 

 左腕にスカートから抜いたMMPー80 90mmマシンガンを握らせて弾幕を張りつつ肉薄する。

 

「連続してビームは使えまい!」

 

 先程シェキナーを破壊した時に腰の補助機もパージしていたのは見えた。そして今も補助ジェネレーターを展開していないとあれば、今の言葉通りだ。

 

「右腕がなくとも!」

 

 ガトリング程度の攻撃では重MSの装甲は抜けない。肩ごと機体をぶつける。よろけた拍子にスラスターを全開にした回し蹴りを叩き込む。

 

「もらった!!」

 

 回し蹴りの合間にマシンガンをスカートに懸架させ、ヒートサーベルを抜いて突き出す。狙うは胸。中にパイロットが居るなら、胸を突けば終わる。

 

「なに!? 横合い!?」

 

 横からビームが飛んできでヒートサーベルを飴細工の様に融かして行った。

 

「まだ居るのか!」

 

 新たなキャバルリーの出現に、内心穏やかではなかった。

 

 2体1は、片腕が使えないとなると少々厳しい。

 

「だからって、退くわけには!」

 

 腰からシュツルム・ファウストを抜いて増援のキャバルリーに撃ち込む。

 

 その場でターンしつつ撃ち込まれるビームを回避する。

 

「動きが素直すぎる」

 

 撃ち込んだシュツルム・ファウストを回避するのに飛び上がったキャバルリーにマシンガンを撃ち込んでるが、エネルギーシールドに防がれてしまっている。

 

「これだからISは!」

 

 MSならば仕留められた事に舌打ちしつつ後ろからガトリングを撃ち放つキャバルリーに振り向きつつグレネードを叩き込む。

 

「囲んでいても!」

 

 ジャンプから着地しようとするキャバルリーに、予備のヒートサーベルを抜いて斬りかかった。

 

 着地の瞬間を狙って兜割りの様にヒートサーベルを降り下ろす。

 

 その切っ先の当たる瞬間、キャバルリーのゴーグルが光って目の前から消え失せた。

 

「今のは、まさか!? うわっ」

 

 背中から爆発。装甲は抜かれていない。

 

 動きながら振り向けば、シェキナーを構えてミサイルを撃ち放ちながら飛ぶキャバルリーの姿があり、ゴーグルは赤く、エアインテークが白熱化している。

 

「HADESか!?」

 

 HADESを起動して動きの良くなったキャバルリーがガトリングとミサイルを撃ちながら突っ込んでくる。

 

「この程度で!」

 

 ヒートサーベルからマシンガンに持ち替えて迎撃するも、弾丸を避けもせずにエネルギーシールドで防ぎながら肉迫された。

 

「恐怖がないのか!? くそっ」

 

 ISでの捨て身の戦法に悪態を抱きながら下がる。

 

「うおっ!? 横槍をっ」

 

 残っていたキャバルリーがビームランチャーでこちらを狙ってくる。ビームを避けつつ、ビームサーベルを振り抜いてきたキャバルリーを遣り過ごしてジャンプすると、見当違いの方向からビームがプロペラントを喰い破って行った。

 

「あああああああっ!! がふっ、がっ、ぐっ」

 

 予期せぬ攻撃にバランスを崩して、リック・ドムⅡは墜落してしまう。

 

「っぅぅ、まだ居たのか……っ」

 

 レーダーに動く物体はすべてで3。

 

 2機のキャバルリーに、ペイルライダーが現れた。

 

 機体はまだ動くが、3対1でこの機体状況では切り抜けるのは厳しい。

 

「なんだ……?」

 

 ペイルライダー達が狼狽えている。

 

「この感じは……」

 

 空の彼方からビームが降り注ぐ。

 

 キャバルリーのシェキナーを撃ち落として現れたのは赤い機体だ。

 

「シナンジュ!?」

 

『ほう……』

 

 まるでおもしろい物を見つけたと言うように、リック・ドムⅡの横に降り立つシナンジュ。

 

『どうした? 蒼き鷹の名が泣くぞ』

 

「うるさい。不意を撃たれただけだ」

 

 軋む機体を立て起こして、シナンジュに並ぶ。

 

「どういうつもりだ」

 

『相互不干渉だが。君に死なれては張り合いがなくなってしまうからな』

 

「バカにして。後悔するなよ!」

 

 先に前に出てペイルライダーに喰いつく。シナンジュは2機のキャバルリーを相手取ってくれるらしい。

 

 フル・フロンタルに貸しを作るのは癪だし、任務も果たせなかった。ならばせめてペイルライダーだけは仕留める。

 

「リミッター解除、……またあとで怒られるな」

 

 直したばかりだというのに。右腕損失、これから機体に無理もさせる。さらに任務失敗。

 

 軍人としては無能の証明だな。

 

「ちっ、保って1分。無理をさせ過ぎたか……」

 

 コアから必要以上にエネルギーを引き出す。

 

 機体の唸りが聞こえてくる。

 

 マシンガンで牽制。グレネードも撃って動きを制限するが、ペイルライダーは頭のバルカンでグレネードを打ち緒とした。

 

「弾切れ!? だが!!」

 

 マガジンを外し、量子展開のみでマガジンを交換する。

 

「うおおおおお!!」

 

 マガジンを交換する合間に180mmキャノンを構えたペイルライダー。その弾頭が発射した瞬間を狙ってイグニッション・ブーストで懐に詰める。

 

「今度こそおおおお!!」

 

 マシンガンを捨て、ヒートサーベルを抜く。必殺の間合いだ。避けることは出来ない。

 

(し――た――な――い――!)

 

「っ!?」

 

 ヒートサーベルがペイルライダーの頭に触れようとしたとき、生の感情を拾ってしまった。

 

「ぐっ、があああああああああ!!!!」

 

 動きを止めてしまった一瞬に、ペイルライダーはビームサーベルを抜いて左腕を切り飛ばし、胸を十字に切り裂いた。

 

 地面に叩きつけられ、口の中に地の味が広がっていく。

 

 ダメージ限界を迎えたISが解除される。

 

 リック・ドムⅡの胸部装甲が厚かったから致命傷は避けられたが、手痛い傷は負ってしまった。

 

 ペイルライダーがビームサーベルで止めを刺そうと向かってくる。

 

 ……ここが、おれの最後か。

 

 戦場では死は誰にでも降り掛かる。それは歴戦の兵も新兵も関係がなくだ。

 

 その死神の鎌に、偶々今回おれの首が狩られるだけの事だ。

 

(――――――!!)

 

「(な…に……)」

 

 気づけば光の中にいた。真っ白な空間だった。

 

 死んだにしてはまだ魂が肉体と繋がっているのがわかる。

 

「……ララァ」

 

 現れたのは黄色いワンピースの褐色肌の女性だった。

 

 初めて自分という存在を理解してくれた人だった。そして永遠に叶わない初恋を抱いた女性でもある。

 

「あなたはまだ、ここに来るべきではないわ」

 

「どうして?」

 

「新しい夢を追い始めたばかりなのに、もう諦めてしまうのか?」

 

「アムロ……」

 

 現れたのは青い上着を着た男だった。

 

 ララァを奪った男。でも憎みきれない優しさを持っている男だった。ララァが赦しているから、おれに彼を怨む権利はない。

 

「私は君に呪いを遺してしまった。だが、その呪いが新たな生きる目標となれば、せめてもの罪滅ぼしとなれれば良い」

 

「シャア……」

 

 現れたのは赤い服装に身を包んだ男だった。

 

 自身の生涯の指針をくれた光。赤い彗星に、おれは追い付きたかった。

 

「ニュータイプの未来が、人間の未来が作れるなら。それはあなたにしか出来ませんよ」

 

「バナージ!? 何故ここに……?」

 

 バナージ・リンクス。血の宿命を背負った子。だがニュータイプの在り方を示してくれる子だ。

 

 バナージが白い光に包まれて、白い空間を白に染め上げていく。

 

 すべてが白く染まった時、胸の奥から温かい光の鼓動を感じた。

 

(…君に……託す。――成すべきと思ったことを)

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「どうした!? 何が起こったというのだ!」

 

 2機のキャバルリーを相手にしながらも、フル・フロンタルにはリック・ドムⅡが墜ちるのが見えていた。

 

 情けないISに乗るからと悪態を吐いた時だった。

 

 横たわるユキが光に包まれたのだった。

 

「あれは!?」

 

 戦いの中で戦いを忘れる程の光景だった。

 

 光の中から声が聞こえたのだ。産声が。

 

 そして光の晴れたそこには白い白亜の機体の姿があった。

 

 一点の曇りのない純白の機体の姿は記憶に焼き付いているものだった。

 

「…ユニコーン……ガンダム…!!」

 

 動き出したユニコーンガンダムは、自身の姿を確かめる様に手を動かした後。機体の目に光が灯る。

 

「行けるな、ユニコーン!」

 

 聞こえた声はかつてその機体に乗っていた少年の物ではない。

 

 素直にニュータイプの有り様を追い続ける一人の男の物だった。

 

 力強い波動を放ち、ユニコーンの機体が変形していく。

 

 フレームを露出させ、その赤く放つ光は相対するすべての敵を滅ぼす破滅の光だ。

 

「引っ張られるなユニコーン。お前はもう、道具じゃない。お前はもう、ひとつの生命になった。だから――」

 

「っぐ、この力はっ。これがニュータイプか!」

 

 一際激しい波が機体を襲い、サイコフレームが蒼く輝く。

 

 ペイルライダーも感応波に当てられて機体をぎくしゃく苦しむように震えさせ、否、討つべき敵の現れに歓喜して身震いしているのだ。

 

「ユニコォォォォォーーーンッ!!」

 

 叫びと共にサイコフレームの光が蒼くなった。

 

 NTーDの発動だ。それは破滅の力を乗り越えた生命の力だ。

 

 キャバルリーとペイルライダーがユニコーンに向かっていく。

 

 だがユニコーンの発するサイコフィールドの前に機体が止まる。

 

 ユニコーンがペイルライダー達に手を触れると、繰糸を切られた人形の様に、ペイルライダー達は地面に横たわった。

 

「あれが人の心の光。だがあの温かさを持った人間が、地球さえ破壊するのも事実だ。故に私は……」

 

 これ以上この場に留まる理由もなくなった。

 

 ユニコーンはライフルで施設中枢を破壊すると、蒼い光を引いて去っていった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ユニコーンのお陰で、任務は無事成功させることができたが。

 

「がはっ、げほっ……死ぬな……、これは……」

 

 背中を近くの木に預けて、ずるずるとへたり込む。

 

 流れ出る血の勢いからして、直ぐ様手当てをしないと結末は見えていた。だがその気力も今の自身にはなかった。

 

 降り頻る雨にも体力を奪われていって、いよいよ秒読みだろう。

 

 まさか都合よくこの森に人が来るわけもあるまい。人目を避けたし、こんなアルプスの麓の森だ。地元住民でも先ず来ないだろう。

 

 眠気を訴える身体を気合いだけで意識を繋げる。

 

 救急パックを拡張領域から取り出すが、腕が上がらない。

 

「まだ……死ね、ないっ」

 

 みんながくれた命だ。こんなところで屍を晒すのは恥だ。

 

「だれか……居るんですか?」

 

「!?」

 

 人目を避けたのに、人の声がしたのを身構えてしまう。

 

 だが敵意を感じない事に身を緩めてしまう。

 

 相手が近づいてきた。万が一敵でもあるかもしれない可能性もあるから銃を手に握っておく。

 

 そして気配がすぐ傍に立ったのがわかる。

 

「ッ!? ひどいケガ、早く救急車を――――」

 

 ボヤけている視界の中で、ポケットから携帯端末らしき物を取り出す様を見て、最後の力を振り絞ってその腕を掴んだ。

 

「よ、ぶな……っ」

 

 自分でも聞き取るのが難しいほどの、蚊の鳴く様な小さな声だった。

 

「何を言ってるんですか!! 早く手当てしないと死んじゃいますよ!!」

 

 だが公的機関に自身の存在が露出するのは不味すぎる。ISを動かせる男はまだ誰一人として世間には存在しないのだから。

 

「頼む……っ」

 

 それが最後の力だった。確かな一言を告げた後、意識が闇に落ちた。

 

 もう3度目だ。こうやって戦闘の後に意識を失って、そして目覚めたら自身のなにかをきめるのだろう。

 

 一年戦争でも、グリプス戦役でもそうだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 その日は雨が急に降ってきて、慌てて洗濯物をしまっている時だった。森に光が落ちるのが見えたんだ。

 

「おじさん、少し出てくるね!」

 

「うむ。気を付けて行ってくると良い。雨も降ってきている、傘も忘れずにな」

 

「わかってるよ!」

 

 親代わりに育ててくれているおじさんに声を掛けて森に向かう。

 

 すると白い白鳥が現れて飛んでいった。この近くで白鳥が見れることはない。不思議に思って着いて行った。

 

「がはっ、げほっ……」

 

 誰かの苦しく咳き込む音が聞こえた。

 

「誰か……居るんですか?」

 

 ザッと葉の鳴る音がした。

 

 雨に濡れている子供が居た。自分と同い年くらいの子だった。俯いているから顔はわからない。長い髪の毛で女の子かとは思って近づいた。

 

「ッ!? ひどいケガ、早く救急車を――」

 

 緑色のパイロットスーツみたいな服からひどい血が流れ出ているのを見てポケットから携帯を取り出すと、弱々しい力で腕を握られた。

 

「よ、ぶな……っ」

 

「何を言ってるんですか!! 早く手当てしないと死んじゃいますよ!!」

 

 雨の音で聞き逃してしまいそうな程に小さな声だった。ひどく弱っているのだとわかる。

 

 ケガだって素人が見たって、一目で死んでしまうとわかる血の量だ。こんな雨の中で放っておいたら手遅れになってしまうのは子供だってわかる。

 

「頼む……っ」

 

 一言力強く言って力が抜けた様に、掴んでいた腕が地面に落ちる。

 

 慌てて脈を測ればまだ生きている。

 

 慌ててパイロットスーツを脱がす。何故だかおじさんが前に自慢してくれたパイロットスーツと同じ構造だった。

 

 おじさんは良い人だけど濃い趣味の持ち主で、そのパイロットスーツを見た時も。

 

 素晴らしい! まるでジオン精神が形となった様だ。

 

 と喜ぶくらいの趣味の人なのだ。

 

 見よシャル! ギレン総帥より賜りしグワデンの再現模型をっ。

 

 と、色々とアレな面もあるが良い人である。こんな自分を親に代わって育ててくれているのだから、感謝しても仕切れない。

 

 傍に転がっていた救急パックを使って先ず応急処置をする。胸に痛々しく黒く焦げたみたいな傷跡がバッテンに刻まれていた。

 

 一瞬息を呑んでしまう。こんな子がどうしてこんな酷いケガを負うのかと。

 

「これで一応は」

 

 応急処置をしても、雨に濡れたままじゃ風邪をひいてしまう。

 

「ごめんね」

 

 一言謝って家に電話を入れる。家に引き入れるにしても、見つからずに世話なんて無理だから。

 

『おお、シャルか。どうした? 忘れ物でもしたか』

 

 この世界で唯一優しくしてくれるおじさんの声を聞いて、少しだけ落ち着いた。

 

「話はあとでするから、裏の森に来てほしいんだ。ごめんなさい、なるべくはやく」

 

『……わかった。少し待っていなさい』

 

 こちらの事態を察してくれたのか、おじさんはなにも聞かずに電話を一度切って、携帯に切り替えてやって来てくれた。

 

「おじさん。ごめんなさい」

 

「いや、良い。大方把握した」

 

 おじさんは血だらけの女の子を見ると、優しくその身体を抱き上げた。

 

「帰るぞシャル。貴公も風邪を患ってしまう前にな」

 

「あ、はい」

 

 女の子を抱えあげたおじさんの顔は、あまり見たことのない悲しそうな顔を浮かべてからいつものように優しい顔になった。

 

 それはケガを心配するのとは少し違う様な感じがした。

 

 おじさんは、この子を知っているんだろうか?

 

 

 

 

to be continued…


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