IS-虹の向こう側-   作:望夢

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ちょっと暇潰しにふと思い付いたので何番煎じかわかりませんが暇潰しにどうぞ。


IS篇
プロローグ


 

 宇宙世紀0096年――

 

 ラプラスの箱を廻る一連の戦いは終わろうとしていた。

 

 ラプラスの箱の真相。

 

 なるほど、確かにそれは、その時は、人の善意で刻まれたものだったのだろう。

 

 ニュータイプが進化した人類かどうかはわからない。互いに分かり合える筈なのに、より一層互いを憎み合うこともするニュータイプが、新しい人類ならば、人の中から争いがなくなることはないのだろうか?

 

 でもそれは違うと思う。ニュータイプも人間だ。結局、ニュータイプだからって別の生命体になるわけじゃない。ニュータイプも人の延長線だから、人と同じく争うし、分かり合えるのだと思う。

 

 だが今、ラプラスの箱を消し去ろうと、コロニーレーザーがインダストリアル7を狙っている。

 

「コロニーレーザーをガンダムで止める、か。石ころを押し返すよりはまだ現実的なのかねぇ…」

 

 そう呟きつつも、コロニーレーザーの射線上に愛機である量産型νガンダムを進める。

 

 もう3年も使っている相棒の力を疑う訳ではないが、サイコフレームがコックピット周りにしか使われていないコイツでは大したサイコフィールドは張れないだろう。

 

「不安だったら、おれの後ろでフィールドを張っても良いんですよ?」

 

「抜かせヒヨッコ。サイコフレームもニュータイプ能力も、おれの方が先輩だ。後輩は大人しく後ろで踏ん張ってなさいな」

 

 バンシィに乗るリディの生意気な軽口に軽口で返す。バンシィも右足を損失している為、ユニコーンの後ろでサイコフィールドを張らせるつもりだが、全身のフレームがサイコフレームで出来ているから当然量産型νガンダムよりも強いサイコフィールドを張れる。最低限パイロットの命は守ってはくれるだろう。

 

「あの、ユキ大尉。やっぱりユニコーンが前に出ますから、ユキ大尉は下がって」

 

「言うなバナージ。おれもひとりの大人として、お前たち子供を守らないと、アムロにもシャアにも顔向け出来ないんだよ」

 

「ユキ大尉……」

 

「そう悲しい声を出すなよ。年功序列だ。少しはカッコいい思いをさせろよ」

 

 バナージにはわかっているんだろう。量産型νガンダムではコロニーレーザーの直撃を防げないと。おれも何となくだが、そう思っている。

 

 だが、やらなきゃならない。子供が身体を張って未来への可能性を守ろうとしているのだから、大人として、子供を守るくらいはさせて欲しいものだ。

 

「思えば、随分長生きはしたな……」

 

 今から17年も前、一年戦争が起こった。17年もの間、6度も大きな戦いに身を投じて生きてこれたのだから、十分生きてきた口だろう。

 

 一年戦争の時は16歳。今33歳と考えると、十分おっさんなんだな。敗軍の兵だったせいで、10代は灰色の青春だったし、20代だってむさい軍族だったから灰色だったし。今も今で子守りの毎日だったし。女っ気のなかった人生はちと寂しいもんだな。

 

「行け、フィン・ファンネル――」

 

 ネェル・アーガマから射出された6基のフィン・ファンネルでIフィールドを形成する。ユニコーンのシールドみたいにサイコフレームが使われていればサイコフィールドも張れたのだろうが、無いよりはマシだろう。

 

「あと60秒後にくるぞ! 気張れよみんな!!」

 

「了解!」

 

「わかりました!」

 

 二人の若者の良い返事を聞きながら、機体をユニコーンの前に位置させる。

 

「ユキ大尉!?」

 

「来るぞ! サイコフィールドを全力で展開しろ、他のことは考えるな!!」

 

 意識をすべて、コロニーレーザーを防ぐことを――背中の子らを守ることだけを考える。

 

 両腕を広げるνガンダムを中心にサイコフィールドが展開する。ユニコーンの様な翠でも、バンシィのような黄金でもなく、それはかつて視た光だった。

 

 虹色の輝きに包まれるガンダム。

 

 かつてはそれを観ていることしか出来なかった。

 

「うぐっ、ああああ!! くぅぅぅっ」

 

 コロニーレーザーが直撃し、サイコフィールドを通じて全身が焼き尽くされるような感覚が脳髄を苛む。

 

 νガンダムの手足が吹き飛び、頭部も熔解した。コックピットを守るために、Iフィールドを形成するフィン・ファンネルの位置を変える。

 

 だが申し訳程度にサイコフィールドを纏うのみのフィン・ファンネルも吹き飛ばされてしまう。

 

 人の無意識――アクシズが地球に落ちようとした時は、多くの人々の意識を集めたから、あんな奇跡が起きたのだろう。

 

 だが、今のνガンダムにはそこまでの力が、乗っている自身のニュータイプ能力は、アムロやシャアと言った強いニュータイプのそれには及ばない。

 

 コックピットが火花を散らす。全天モニターがあちこち弾け飛び、ノーマルスーツに刺さっていく。ヘルメットのカバーが割れて頬を切る。

 

 ヘルメットを脱ぎ捨て、ノーマルスーツの襟を開ける。随分と息苦しい。コックピットには血が舞っている。意識が朦朧とするが、今気を失ったら後ろのバナージとリディが危ない。

 

「気張ってみせろよ……、ユキ・アカリ! νガンダム! お前だってニュータイプで、ガンダムなんだろうが!!」

 

 後ろの方から強い想いを感じた。心の底から沸き上がってくる暖かさ。

 

 これが――人の持つ心の光りなのか。

 

「ダメだバナージ! お前は…、此処に居ろ!! ユニコーンとは……おれが行く!!」

 

 気づいたら発していた言葉。コックピットの中が金属の結晶で溢れ、νガンダムからさらに虹色の輝きが溢れていく。

 

「νガンダムは――伊達じゃない!!」

 

 白く染まる閃光の中、白いガンダムの姿を視た。

 

 あのとき、届かなかったものに届いた気がした。

 

「これが……、刻を視るということなのか」

 

 

 

 

to be continued…


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