IS-虹の向こう側-   作:望夢

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やっぱりこのタイトルしか思い浮かばなかった。

しかしISの小説なのにガンダムメインだなんて詐欺かもしれず怒られそうだけど、ちょっとずつお気に入り増えてるから需要はあると信じたい。

しかし書き終わって読み返したら何故かエマさんとの絡みが多くなっていた。なんでさ?


第26話ージャブローの風ー

 

「すぅ……すぅ……」

 

 隣で静かに寝息を立てている彼を横目に、私は投影ディスプレイに目を走らせる。手元は静かに動かしているから作業効率はいつもの30%程だけれども、彼の寝顔を見れるから構わなかった。

 

 起きてる時は自然体に見えても無意識に気を張っているから、完全に無防備の彼を見れるのはベッドの上だけである。

 

 半年も経てば随分と髪の毛も伸びてくるけど、手入れが良いのかサラサラで指通りの良い髪の毛を手櫛で梳く。

 

「んっ……んん……」

 

 髪を撫でられて身動ぐ彼から手を離して作業に戻る。

 

 宇宙で製造中のガンダリウムを使って、ISサザビーは真のIS型MSとして生まれ変わっていく。

 

 またチタン合金セラミック複合材も作って、それはリック・ドムⅡに使っている。

 

 宇宙世紀の技術転用は着々と進んでいる。

 

 純粋な戦闘用ISの開発は、一昔前の私ならやらなかっただろう。

 

 でも彼が現れて、私の夢を実現するために必要なら、何より彼の為ならいくらでも作ってあげられる。

 

 私のニュータイプは、替えの利く存在ではないのだから。

 

 胸元からサイコフレームを取り出して手の中で転がす。

 

 T字状の形をしたサイコフレームのサンプル。

 

 これが宇宙から降ってきてくれてからすべてが始まった。

 

 ニュータイプという存在に興味を持った。

 

 そして現れたニュータイプは私の夢を笑わなかった。

 

 大人が、男が一笑いにISの存在を認めなかった。

 

 男なんてキライだ。

 

 でも、彼だけは違う。待ち望んだニュータイプだからってわけじゃない。

 

 私の話を、夢を笑わなかった。そればかりか私の夢を手助けしてくれる。汚れ仕事も嫌な顔もせずに引き受けてくれる。

 

 私を肯定して、天才だからって押し付けないで自身で努力して私と共に立つ彼に思いの比重が寄るのはそう時間はかからなかった。

 

 今はまだ、友達以上恋人未満の様な曖昧なのが心地良いからだけど、彼さえ受け入れてくれるなら、そうなっても良いと思える。

 

 優しくて、たくさんの傷を抱えていても夢を追っている眼に魅入られてしまったから。彼という存在を愛おしく感じてしまっているから、何でもしてあげたいし、守ってあげたくなる。

 

 私は彼にたくさんもらっているから。それを返せるなら、私の人生をあげても良いの。

 

 だからずっと傍に居て欲しいの、優しくしてよ。

 

 ハマーン・カーンや、ララァ・スンの所には行って欲しくないの。

 

「その為にはハマーンを倒してみせないとっ」

 

 オールドタイプだからってニュータイプに勝てないわけじゃないんだ。   

 

 その為にISの開発は第四世代の開発をもって中断。今はIS型MSの開発に全力を注いでいる。

 

 シナンジュがあるなら、敵もIS型MSを実戦に投入して来るだろう。

 

 ISの戦闘能力は自衛手段の為の付属物でしかない。それをわかっていないでISを最強の兵器として扱うから嫌なんだ。

 

 IS型MSは初めから戦闘するために生まれたMSにISの能力を付けるという逆転現象になっている。

 

 それの何処が違うのかと言われたら、稼働するのにISコアを必要とする以外は、普通車とスポーツカー位の差がある。戦闘用に特化しているから、

 

 シナンジュの完成度からいって、IS型MSの技術は向こうに分がある。だから急いでこちらも開発を進める必要がある。

 

 図面に起こした設計図。ガンダムフェイスの機体。背中のプラットホームには幾つもの突起物が付いている。

 

 また両肩にシールドを備えたザクもある。いくつもの設計図を吟味して次に造れる機体を製造ラインに入れる。

 

 クロエちゃんの機体も考えなくちゃならないし。やることは山程だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「私服だと、雰囲気も変わるものですね」

 

「エマ中尉もお似合いですよ」

 

「ええ。ありがとう」

 

 パイロットスーツから普段着に着替えた自分は、服に着られている様に見えるだろう。トレンチコートを羽織っているから背伸びをする子供に見えるらしいが、この深緑のコートを羽織っていると落ち着くものがある。緑さ加減がジオンの制服と同じだからだろう。

 

 エゥーゴでもやっぱり心の底ではジオンとして戦いたがっている証拠だ。

 

 星の屑に殉じる事が出来なかった男の無様な悪足掻きだろう。

 

「カミーユ……」

 

 レコア少尉に引かれてやって来たカミーユの姿を見て、おれは声をかけられなかった。

 

「良いのよ、無理しないで」

 

 レコア少尉がカミーユをソファに座らせ、クワトロ大尉が声をかけた。

 

「……冷たい言い方だが、ティターンズというのはああいうものだ」

 

 スペースノイドを、宇宙を省みないからあんな事が出来る。入れ物のひとつ程度としてひとつのコロニーの住人を毒ガスで殺すことが出来るのだ。

 

「特に酷いやり方とは言えないのが、悲しいことなのさ」

 

 それで割り切れるなら楽な事はない。目の前で両親の死を見て、その切っ掛けが自分にあって、そのことを受け止められるほどカミーユは大人じゃない。

 

 両親をザビ家に殺されたあなたなら、カミーユを察して別の言葉を掛けることだって出来るだろうに。

 

「クワトロ大尉は、まだ私をスパイとお思いなんでしょう?」

 

「ふむ…。エマ中尉のご両親が地球にいらっしゃるのなら、ティターンズの人質に取られているようなものです」

 

 人の情と言うものは大人であっても割り切れるものでもない。ましてや肉親ともなれば揺れ動いて当然だ。

 

 万が一にもエマ中尉がカミーユと同じ立場に置かれても、エゥーゴの側に着いてくれるという確信は言えないのだ。

 

「それが現実的な見方ですよね」

 

「カミーユ君が体験した」

 

「あ…、えっ、ええ……」

 

「クワトロ大尉、少しは」

 

 デリケートなことなのにデリカシーのないことを言うクワトロ大尉を咎める。

 

 同じティターンズだったエマ中尉も、自分の指揮官の惨さに責任を感じて顔に影を差してしまう。

 

「でも、バスク・オム大佐のやり方を知れば、私はもうティターンズには居られません。私の志しの高い両親なら、私がエゥーゴで働いても認めてくれましょうし」

 

 地球育ちのアースノイドとしては、エマ中尉は真っ当な見方を出来る人だ。そのエマ中尉を育てたご両親に会ってみたくなった。

 

 スペースノイドとアースノイドの溝が深い今という時代で、地球で生まれ育ちながらそう言う物言いを出来て物事を見れるエマ中尉の様な人は貴重な存在だった。

 

 ましてや地球至上主義者の集まりのティターンズに居ながらに染まることのなかった強かさも好感が持てる。

 

「アカリ大尉はどう見る」

 

「誘い入れた手前。おれはエマ中尉が信頼に当たる人物だと信じるよ。もしそうなってしまったら、同じ過ちを繰り返さないために皆で事に当たれば良い」

 

 でなければ目の前で深い傷を負っているカミーユに向き合う顔がない。MSを上手く扱ってみせるエマ中尉は、今のアーガマには必要だ。

 

「頭で考えていたって、身体が動くもんか……っ」 

 

 絞り出す様にカミーユが言った。確かにそうだ。カミーユの後悔を言葉にすればそれ以上の事はない。

 

「地球育ちの人が、宇宙で戦おうだなんてっ。…ハァーッ」

 

「考えている事と、やれる事というのは」

 

「それは、そうでしょうけど……」

 

 理想と現実というものだ。耳に痛い話だ。特におれや……、シャアにとっても。

 

 いや、多分それだけではないだろう。

 

「戦争がなくったって父は愛人を作ったし、母は母で、父が若い女と寝ているのを知っていても仕事に満足しちゃって見向きもしなかった。軍の仕事だ、ティターンズのだって張り切ってみせて。エゥーゴだティターンズだなんて、そんなのはどうだっていいんです! 子供はね、親に無視されちゃ堪らないんですよ!」

 

 レコア少尉の胸の中で泣くカミーユの慟哭。それでも親を失って涙を流すカミーユの優しさを尊く思うのは勝手な事だろうか。そんな親でも、カミーユにとっては替えの利かない存在だったのだ。

 

 今はグラナダに居る父を思う。MS一筋に生きて家庭を見なかった父。それでもおれの為に高機動型ザクを回してくれたし、使っているハイザックにも父の手が入っている。

 

 母を亡くして、親として父を見てなかったけど、カミーユの事を聞いてしまっては自分は恵まれているのだろう。だからかける言葉に迷う。

 

「シャア・アズナブルという方が居ましたよね?」

 

 エマ中尉からその名を聞いて一瞬身構えてしまったのは、目の前でコーヒーを口にする人物こそがその人だと知っているからか。

 

「サイド3を、地球連邦から独立させようとした、ジオンの子供で。キャスバル・ダイクンの別名ですよね?」

 

 少し思い出しながら確認する様に言うエマ中尉に、クワトロ大尉の様子が硬くなるが、カミーユにエマ中尉が目配せしたのを見て軟化した。皆目見当が着いたと。

 

「ジオン・ダイクンはザビ家に暗殺されて、ザビ家はサイド3にジオン公国という名前をつけて、地球連邦に独立戦争を仕掛けたんですよね」

 

 それが今から8年前の宇宙世紀0079の一年戦争だ。忘れよう筈がない。

 

「その時なんだろう? キャスバルがシャアと騙って父の恨みを晴らそうとしたのは」

 

「カミーユ君は、知っていて?」

 

 まるでカミーユに言い聞かせる様に語る。成る程、そう言うことか。

 

「知ってますよ。有名なんだから」

 

 目元を拭いながら起き上がったカミーユに、ハンカチを手渡す。涙を拭いたカミーユは口にした。

 

「でも、あの人、一人で組織に対抗して敗れた。バカなんです」

 

「フッ、正確な評論だな」

 

 一般的に考えてバカなことだろう。父の恨みを晴らす為に、ジオン公国に挑む。普通は諦める。でもこのバカはそれをした。アムロとガンダムだけじゃない。ジオン公国敗戦の切っ掛けはシャアも一枚噛んだのは事実だ。

 

 なのに赦せてしまっているのは、ララァのお陰だろう。

 

「自己破滅型なんですよ、あの人」

 

「そうなのか? シャアって」

 

 他人に言われて無自覚だから、クワトロ大尉はエマ中尉にも訊くように返した。

 

「地球に流れていった妹さんの事を、大切に思っていた人ですよ。そういうロマンスを持った人って…」

 

「ずっとバカだったのよ。ね? カミーユ」

 

「え…、そうですよ」

 

 確かにバカかも。妹と一緒に地球で暮らすことだって出来ただろうに。目の前の妹をほっぽり出して私怨を優先したのだから。

 

 でもそうであったから、おれはララァに出逢えた。だからバカでも感謝はしている。

 

「めでたいんだろうな。…どうです、エマ中尉。食事、ご一緒にしませんか?」

 

 ……酷評されて逃げたな、シャアめ。

 

「え? ええ…、レコア少尉は?」

 

「付き合うわよ。カミーユ君は?」

 

「ここに居ちゃ、いけませんか?」

 

「別に怒られないわ。アカリ大尉はどうしますか?」

 

「お邪魔でなければご一緒します。今はゆっくり落ち着いていけば良い、カミーユ」

 

「はい。……ありがとう、ございます」

 

 カミーユを残しておれは部屋を出る。今は言葉を掛けるより、そっとしておくべきだろうからだ。

 

「どうかしたんです?」

 

「クワトロ大尉にお尻を触られて」

 

「男ですからね。エマ中尉も気をつけてくださいね、美人だから」

 

「おだててもなにも出ないわよ?」

 

「つもりはないですよ。思った事を言っただけですから」

 

 なにしろ男所帯だ。花のあるエマ中尉に近寄りたい男だって、その内に出てくるだろうさ。

 

「でもその歳で大尉だなんて」

 

 見掛けはカミーユとそう変わらないからだろう。エマ中尉は不思議そうに言った。ブレックス准将の遊び心か、または皮肉なのか。デラーズ・フリート結成と共に戦時昇格で少佐にはなったが、連邦軍の公式文には自分はア・バオア・クーで大尉としてMIAとされている。

 

 だから大尉を賜らせられて色々と責任が着いてまわってくれている。

 

 部屋のドアが開いてレコア少尉が出てくるとカミーユの声が聞こえた。

 

「口外はしませんよ」

 

「ん?」

 

「大尉にお尻を触られてたの」

 

「ああ」

 

「違うぞ」

 

「はい」

 

 中でレコア少尉と何か話していたらしいけど、エマ中尉もそれを察しながら乗るのは、お茶目さもある。

 

「そう言えば、アカリ大尉の名前を聞いて思い出したんですけど、ジオンにはニュータイプのユキ・アカリという人も居ましたよね」

 

「ジオン・ダイクンの提唱したニュータイプ論の新人類ですね」

 

 ふと思い出した様に口にしたエマ中尉に、クワトロ大尉がこちらに話を向けてきた。

 

 シャアめ。自分がズタボロに言われたからって引きずり込む気だな。

 

「直感力と洞察力に優れて、宇宙での生活に適応した人間のことですけど。実際にそんなことがあるんでしょうか?」

 

「エマ中尉はどう思います?」

 

 ニュータイプの話を持ち上げたのだから、エマ中尉の思うニュータイプの事を聞いてみたくなった。

 

「それは、カミーユ君を見たらそう思いたくもなります。あんなあるがままを見て周囲の状況をわかってしまう洞察力が、訓練もしていない子に簡単に出来るとは思いません」

 

 確かに訓練を経た軍人には驚嘆するのも無理はないだろう。

 

 軍人としての観点なら誰もがエマ中尉と同じことを思うだろう。ただそれがニュータイプなら出来てしまうのではと不思議には思わない。

 

「でもニュータイプはそんな便利な存在じゃないし、万能でもない。ニュータイプだからって、戦争をひっくり返せる物じゃないんだ」

 

「アカリ大尉?」

 

 そうだ。ニュータイプだからって精々が戦術クラスをひっくり返せるけど、たった一人じゃ戦略をひっくり返せるわけじゃない。

 

「エマ中尉もニュータイプの素質はあると思いますよ。だからこうしておれの話を聞いてくれた。違いますか?」

 

「え? ええ、でもそれは、あんな事があれば私でなくとも」

 

「ティターンズに居ながらにスペースノイドの話を聞けるエマ中尉だからでしたよ。だからカミーユも任せられた」 

 

 空になったトレーを持って席を立ち上がる。

 

「MSの整備があるから下がるよ。Mk-Ⅱは2機をバラして予備パーツと解析に回す」

 

「良いのか? Mk-Ⅱの性能なら」

 

「確かに良い機体だけど、ハイザックでも十分に戦えるし、Z計画が軌道に乗れば、そこから機体を引っ張ってくるさ」

 

「わかった、そうしてくれ。ブレックス准将には」

 

「もう伝えてるよ」

 

「早いな」

 

「誰だと思ってるの?」

 

「それもそうだな」

 

 クワトロ大尉と、シャアとの会話を終えておれは食堂をあとにした。

 

「パイロットなのに整備士もしているんですか? 彼」

 

「私の至らない所のサポートをしてもらっている。ああ見えて、アーガマやリックディアスの図面を引いた秀才だよ。どうかなエマ中尉? 申し分ないとは思うぞ」

 

「私は別に。それに彼もまだ子供でしょう?」

 

「フッ、あれでも今年で23だぞ?」

 

「ご冗談を。……本当なんですか?」

 

「フフ、私も最初はそう思ったわ。でもエゥーゴのNo.3なのよ? 人は見掛けによらないっていうけど、騙されちゃうわよね?」

 

「ええ、まぁ……」

 

 多くのメンバーが初見の時はユキを子供だと見るが、その能力に裏打ちされた年期の深さを感じれば子供だと見ることも改めていくのだ。

 

 実際エマもクワトロの話を聞くまでユキをただ者ではなくとも子供だと見ていた。でもそうなら、自分たちと同じ視点で話しているのも頷けた。

 

 とはいえ出逢ったばかりで親身にされるのも彼が自身を誘った手前だと思っているし、子供だと思っていたから気兼ねなく話せていただけで、クワトロの言う意味では決してないのだ。

 

「アカリ大尉もニュータイプで?」

 

「ニュータイプなら、中尉はどう感じる?」

 

「どうって。カミーユ君に感じるものと近い物をとしか。3機に囲まれてああもあっさり切り抜けてしまうなんてそうとしか」

 

「腕は折り紙つきだ。一年戦争のソロモンやア・バオア・クーに居たからな」

 

「そんなっ!? 一年戦争って16歳でそんな激戦区に。知らなかった……」

 

 あの優しそうな子がそんなに前から戦っていた猛者だとは見えなかった。そんなキャリアがあるのに連邦軍内では噂すら聞いた事がない。

 

「一年戦争後、連邦軍はニュータイプを危険思想として幽閉している。彼もその一人だよ」

 

「でもアムロ・レイの名は聞きます。ならどうして」

 

「英雄と言うのは必要ですからね。でなければ日陰も生まれない」

 

 光の指す英雄が居るなら、その影に隠れる者も居る。

 

 クワトロの言葉からエマはそう汲み取った。

 

 アーガマはルナツーを迂回して進路を地球に向けた。エゥーゴの次の作戦、地球連邦軍本部のあるジャブローへの攻撃の為だ。

 

「テンプテーションがビーム攻撃を受けたって?」

 

「らしいですぜ、どうも」

 

 アーガマの補給中での一報を、アストナージから受け取る。

 

 補給中でアーガマは動けないし、MSデッキもごちゃごちゃしていて出せるMSも少ないと言うのに。

 

『聞こえるかユキ』

 

「なんですか? クワトロ大尉」

 

『カミーユを連れてテンプテーションの救助に向かってくれ。私も百式の慣らしに出る』

 

「わかった。ついでだからフライングアーマーとメガ・バズーカ・ランチャーのテストもしたいけど」

 

『わかった。任せる』

 

 クワトロ大尉との通信を切ると、ふと誰かに見られているような感覚を感じた。

 

「不愉快だな。人を見下されている感じがする」

 

「どうかしたんで?」

 

「いや、なんでもない。テンプテーションの救助だ。おれのザクを出してくれ」

 

「了解。5分くださいよ」

 

「なるべく急いで」

 

 アストナージにハイザックの準備をさせるように言って、もう一度気配を探るともう感じなくなっていた。

 

「なんなんだ……」

 

 でも気にしても仕方がない。まずはテンプテーションの救助が先だ。

 

 ハイザックに乗り込み、フライングアーマーと共にカタパルトに乗る。

 

『進路クリア! 発進どうぞ』

 

「アカリ・ユキ。ハイザック、フライングアーマーで発進する!!」

 

 カタパルトから射出され、フライングアーマーがウィングを展開する。

 

「機動性は中々だな。大気圏突入能力と、SFS能力とは結構な物だ」

 

『どうしてシャトルがビーム攻撃を受けたんだ?』

 

「さてね。でも気をつけて。おれたちを見てたやつが居る」

 

『見ていた? 感じたのか』

 

「人を見下す厭な感じだったよ。っ、来るぞ!!」

 

『え?』

 

『なに?』

 

 テンプテーションを視界に納めるまで接近すると、彼方から近づいて来るものがあった。

 

『なに!?』

 

『モビルアーマー!?』

 

 MSの一回り大きなMAがおれたちの脇を通り過ぎて行った。

 

 百式がメガ・バズーカ・ランチャーを展開する。おれもフライングアーマーでMAのあとを追うが推力の差がありすぎて追い付くことが出来ない。

 

「まただ。おれたちを見ている。もしかして」

 

 テンプテーションを攻撃したのはおれたちを見るためか?

 

 もしそんな事で攻撃したならとんでもないやつだ。

 

 百式がメガ・バズーカ・ランチャーを放ったが、シャアの腕をしても中る事はなかった。

 

 あのMAのパイロット、ニュータイプか……。

 

「テンプテーションへ。私はエゥーゴのアーガマ所属、アカリ・ユキ大尉であります」

 

 攻撃されたエンジンの消火作業に当たるMk-Ⅱと百式に代わって、おれが代表としてテンプテーションに接触する。

 

『テンプテーション機長、ブライト・ノア中佐であります。救援に感謝します、ユキ大尉』

 

 ブライト・ノア。一年戦争ではホワイトベースの艦長だった男だ。因果な物だ。地球の軌道上で再び会うことになろうなんて。

 

「消火作業後にアーガマに収容します。よろしいですね?」

 

『よろしくお願いします。当機はグリーンノアからの難民も乗せていますので』

 

「それも合わせて対応します。クワトロ大尉!」

 

『聞こえていた。カミーユ!』

 

『あ、はい!』

 

『ユキからフライングアーマーを受け取って先にアーガマに戻れ』

 

『了解です。アーガマに説明すれば良いんですね』

 

『そうだ。出来るな?』

 

『出来ますよ』

 

 消火作業を終えて近づいてくるMk-Ⅱにフライングアーマーを明け渡しながらカミーユに声をかける。

 

「フライングアーマーの動きに慣れておいて。ジャブロー降下に使うから」

 

『わかりました。お先に!』

 

 フライングアーマーに乗ったカミーユのMk-Ⅱを見送って、テンプテーションに取り付く。

 

『スラスターは全部ダメだ。MSで曳航するぞ』

 

「了解、ザクで押していくから引っ張ってくれ。ったく、マメなことで」

 

 結局正体不明のMAとは接触出来ず、テンプテーションを曳航してアーガマまで戻った。だがパイロットがニュータイプであろうことはシャアと自分の共通認識だ。

 

 しかしジャブロー降下作戦を前にしてピリピリしている時に民間人を船に入れなくちゃならないなんて。人情に厚いヘンケン艦長でも嫌がりそうだ。

 

 テンプテーションを収容したアーガマは、乗っていた民間人の収容に追われた。

 

 気をつけて戦っていたとはいえ、MSが墜落して家を失ったグリーンノアの人々を前にして申し訳なくなる。大事な作戦の前とはいえアーガマで面倒を見るのが筋であり、せめてもの罪滅ぼしだ。

 

「自分に問題はありません」

 

「頼みます」

 

「そうなりゃ、自分は提督のお供が出来る」

 

 補給の催促の為にアーガマを離れることになったブレックス准将。

 

 そして一年戦争の英雄艦、ホワイトベースの艦長を迎い入れたとあって、ヘンケン艦長はブライト中佐にアーガマのイスを譲る事にしたらしい。

 

「君がシャトル便に回されたのも、ティターンズの陰謀みたいなものさ」

 

「まぁ…」

 

 かつて連邦軍のニュータイプ部隊とまで言われていたホワイトベースの艦長だけあってか、人気の高い彼をジャマに思ってティターンズに冷飯を喰わされていたらしい。

 

 そういうことをしないとやっていけない連中の矮小さが眼に浮かぶ様だ。

 

「ホワイトベース時代の中佐の実績が、今のアーガマには必要なのです」

 

 なにしろジオンの勢力圏に降りたホワイトベースは、ほぼ地球を一周してジャブローに入り、さらには宇宙でのソロモンやア・バオア・クーにも参加したのだ。

 

 一隻の船の戦歴としてはあり得ないほどの戦場を潜り抜けてきたのだ。その艦長がアーガマに乗るなら不満を言える者などいない。

 

「自分は2隻も艦を沈めてしまった艦長ですよ。クワトロ大佐」

 

「私は大尉です。ブライトキャプテン」

 

 パイロットスーツの襟に階級章も着いているのにシャアをクワトロ『大尉』ではなく『大佐』と無意識に口にしていたのだろう。ニュータイプ部隊を率いていたまではある。ニュータイプではなくとも本質を感じる事が出来る人の様だ。

 

「先程はありがとう。しかし初めてなのにその気がしないな」

 

「こちらこそ。一応は8年前に宇宙(ここ)で出逢いましたよ、あなたとは」

 

「8年前? 一年戦争……。まさか…!?」

 

 さすがはブライト艦長。少しヒントを出しすぎたかも知れないが、激戦を潜り抜けてきた艦長ではある。

 

 疑る様な、疑問に思う視線を向けてくるブライト艦長だが、せっかくの艦長就任に余計な蟠りは持ち込みたくない。

 

「今の自分はエゥーゴですから」

 

「なら、その様に扱う。よろしく頼む」

 

「こちらこそ」

 

 ブライト艦長と握手を交わす。少なくとも疑念は晴らしてくれたようだ。

 

 今さら怨み辛みを持ち込むほど子供じゃない。戦争で、互いにそうだったということだ。

 

「紹介します。ガンダムMk-Ⅱのパイロット」

 

「カミーユ・ビダンです。2年前に、講演会でサインを頂いた事があります」

 

「そ、そうか。よく助けてくれた。ありがとう」

 

 少しはしゃぎ気味のカミーユに気圧されたか、ブライト艦長は困り顔を浮かべてカミーユの手を取った。

 

 ただ困っているというより困惑していると感じた。

 

「驚いたでしょうね」

 

「え?」

 

 後ろからエマ中尉に声をかけられ、どういう事なのかと続きを待った。

 

「カミーユがガンダムMk-Ⅱに乗ったところを一緒に見たのよ。私とブライトキャプテンは」

 

「ああ、なるほど。そういう」

 

 納得が行って理由がわかったところで、エマ中尉を連れてMSデッキに下がる。

 

「でも良いのかしら? 私がリックディアスに乗って。アカリ大尉の方が」

 

「重MSよりもザクの方が性にあってるからお構い無く。直に作戦開始ですから、調整は忙しいですよ? シミュレーションでも良いので挙動に慣れておいてください」

 

「ありがとう」

 

 新しく納入されたリックディアスをエマ中尉に任せ、初めての重MSに対してレクチャーする。

 

 重MSは一年戦争後半でリック・ドムに乗っていたし、リックディアスの設計、さらに言えば設計を流用した基のガンダムGP02の図面もおれが引いた物だ。

 

 ある意味リックディアスを知り尽くした人間が説明をするのが間違いではないだろう。

 

「感覚がわかってきました」

 

「さすがだ」

 

「どうも」

 

 エマ中尉へのレクチャーを終えてブリッジに上がると、丁度ブライト艦長とヘンケン艦長の引き継ぎが行われていた。

 

「ご家族がジャブローに居ると言うが、良いのか?」

 

 気遣う様にヘンケン艦長がブライト艦長に訊ねる。

 

 これからエゥーゴはジャブロー降下作戦を行い、連邦軍の中枢を攻撃しようと言うのだ。その戦火に巻き込まれないという保証もないし、その作戦指揮も自ら執らなければならないのだ。余程の者でなければ心配して当たり前だ。

 

「なに、女房はニュータイプみたいなものですから」

 

「奥様はどういうお方で?」

 

「ミライ・ヤシマと言います。一年戦争ではホワイトベースの操舵手をやっていました」

 

「なるほど」

 

「そりゃあ、大丈夫だな」

 

「同感です」

 

 ニュータイプともあれば、ブライト艦長が信じるのもわかる気がする。

 

「クワトロ大尉」

 

「はい?」

 

「頼み事があるのだが…」

 

 解散となってブリッジを出ようとした所に、ブライト艦長がクワトロ大尉を呼び止めた。

 

「わかりました。ユキ」

 

「了解。終わったら呼んでくれ」

 

 とはいえ心配なものはそうなのだと言ってやるわけにも行かないだろう。

 

「ボウズも行ってこい」

 

「え? でも」

 

 ブライト艦長に代わって艦長席に座ろうとするのを、ヘンケン艦長に押し退けられてしまった。輸送船の出発まで時間はあまりないのに、乗り遅れたらブレックス准将との合流も遅れてしまう。

 

「ジャブローに降りるんだ。最後の仕事くらいさせろ」

 

「わかりました。クワトロ大尉、ブライト艦長も」

 

「感謝します、ヘンケン艦長」

 

 大人同士の機微という物だ。理念に拠って立つ組織にあって、人同士の繋がりが組織を支える。

 

 デラーズ閣下のもとで学んだ事だ。

 

「そのエレベーター待って!」

 

「え?」

 

 閉まるエレベーターに手を挟んで乗り込む。

 

「ほっ。間に合った」

 

「危ないですよ? 次を待っても良いんじゃないですか、大尉」

 

 エレベーターに乗っていたのはエマ中尉だった。強引に乗ったから少し飽きれ気味だった。

 

「パイロットの睡眠時間は貴重ですよ。エマ中尉も仮眠ですか?」

 

「ええ、まぁ」

 

「んっ、ふあぁ。…失礼」

 

「いいえ。…寝てないんですか?」

 

「忙しくてね。本当はMSの整備に着いてなくちゃいけないんですが、アストナージに突っぱねられちゃって」

 

「パイロットなんですから。寝不足は天敵ですよ」

 

「熟知していますよ」

 

 エレベーターが着いて降りると女の子の声が聞こえてきた。

 

「子供のわたしに見ていられると思うの!? 」

 

「あ…」

 

「勘弁してよ! バカぁー!!」

 

「エマ中尉?」

 

 先に降りたエマ中尉に手を引かれると、エレベーターの扉に縋りついて泣く女の子が見えた。確かカミーユのガールフレンドのファ・ユイリィと言ったか。テンプテーションに乗っていて、両親はティターンズに捕まったとか。カミーユがガンダムを盗んで、その隣に住んでいたからという理由でらしい。偶々彼女は逮捕の時に居合わせず難を逃れたとか。

 

「悲しいものですね」

 

「だからティターンズは叩かないとならない。エマ中尉も」

 

「わかっています。そういう時が来ても迷いはしません」

 

「例えそうであっても抱え込まないでほしい。こんなおれでも、聞き役位は出来る」

 

「ありがとう」

 

 誰もが先のわからない戦いに不安を持っていた。ティターンズの非道さが、その不安に拍車を掛けていた。

 

 仮眠を終えて、艦隊が集結すると艦内放送がかかった。

 

『私は、本日をもってアーガマの艦長に就任した、ブライト・ノア大佐である。パイロットはMSデッキに集合。各員発進準備にかかれ!』

 

「さすがはブライト艦長。威厳がある」

 

 ブライト艦長の放送でアーガマの空気が引き締まったのがわかる。

 

「カミーユ。エマ中尉も」

 

「ユキさん。今の放送聞きました?」

 

「ああ。ブライト艦長のな。いよいよ作戦だ、引き締めていけよ」

 

「了解です!」

 

 カミーユの返事を聞きながらやって来たエレベーターに乗り込む。

 

「大尉は地球に降りたことは?」

 

「4年前に一度きりです。生まれは地球でも、宇宙で育ちましたからね。心はスペースノイドのつもりだ」

 

「僕と一緒ですね。僕も生まれは地球でした」

 

「不思議ね。ニュータイプだからかしら」

 

「偶然さ。……ティターンズも態々こちらを降ろす気はないだろうさ。降下しながら戦闘になる。重力に引かれながらの戦闘だから動きには注意して行くように」

 

「まるでやったことあるように言いますね」

 

「まぁね」

 

 カミーユの言うように、実際に一年戦争の時に低軌道海戦はやったことがある。

 

「この背中のキャノンはどうしたの!?」

 

 MSデッキに行くと、おれのハイザックの背中にキャノンが着いていたのだ。

 

「グラナダからの贈り物ですよ。ジェネレーターもアナハイム製に換装してあります。あと手紙っすね」

 

「手紙?」

 

 アストナージからカプセルを渡されて中身を見る。

 

「『健闘』……か。フフ、まったく不器用なんだから。父さんらしい」

 

 昔から不器用で話した口数は少ないけど、ジオン軍時代から変わらず色々と便宜を図ってくれていた。

 

 だから家庭を見向きもしなかった父でも、MSに対する熱意は共有出来ていた。

 

「降りられるんだね!」

 

「フライングアーマーの推力なら平気です。大尉なら出来ますよ!」

 

「でなきゃ乗らないよ!」

 

 ハイザックのコックピットに上がって機体を立ち上げる。

 

「240mmか。MSなら木っ端微塵だな」

 

 ビームランチャーも装備してフライングアーマーを引っ張り出す。

 

『出るぞ!』

 

『ガンダムMk-Ⅱ、発進よろし!』

 

『リックディアス、発進よろし!』

 

「ハイザック・キャノン、発進よろし!」

 

 MS隊の発進が始まった。百式やリックディアス、ガンダムMk-Ⅱがフライングアーマーで発進するのを見送る。

 

 するとブリッジからコールがかかる。

 

「アカリだ。如何した、艦長」

 

『すまないが、頼んだ。健闘を祈る』

 

「了解した。任せてくれ」

 

『発進どうぞ!』

 

「アカリ・ユキ。ハイザック・キャノンはフライングアーマーで発進する!!」

 

 フライングアーマーに乗ってアーマーから発進する。

 

「MS隊は百式を中心に編隊を組め! 後続はティターンズの迎撃に当たるぞ! 続け!!」

 

 MS隊に指示を飛ばし、高度を上げる。

 

「今の光。右翼の外縁がやられた!?」

 

 サラミスが撃沈され、テンプテーションを襲ったあの気配が感じられた。

 

「エマ中尉とカミーユを寄越したのか? 他の者はティターンズの第一波を迎撃しつつ地球に降下だ!」

 

 襲ってきたのはたったの一機だ。なら数で囲んで叩いた方が早い。

 

「それでも速すぎる!」

 

 ビームランチャーを撃つが、ビームが通る時には既に機影は過ぎ去っている。

 

「深追いするなエマ中尉! そいつは普通じゃないっ!」

 

『エマさん! それはダメです!』

 

 MAに構っていたら、ティターンズの先鋒がやって来てしまった。

 

「カミーユはガルバルディに当たれ! MAはこちらで抑える! エマ中尉!」

 

『了解! 行きます!!』

 

 カミーユをガルバルディβに当たらせる。動きが先の手強いやつだが、カミーユならば切り抜けてくれるだろう。

 

「くそっ、おれがここまで外すなんて」

 

 長距離狙撃も可能なビームランチャーでMAを狙うが、一発も掠めず苛立ちを感じ始めた。

 

(ジェリド、あんたには無理だ! 魂を重力に引かれている奴には――ジェリド!!)

 

「言葉が走った!? だからティターンズに着くからっ」

 

 同じスペースノイドの最後を感じながら突っ込んでくるMAにビームランチャーを撃つ。

 

「なに!? 離れろエマ!!」

 

『MAが!? ああっ!!』

 

 まさかのあろうことか。MAはMSに変形してエマ中尉のリックディアスの右腕を切り裂いて行ったのだ。

 

「こいつはあああっ!!」

 

 あまり使いたくなかったキャノン砲も使って、エマ中尉のリックディアスから可変MSを追い払う。

 

(ユキ! 距離を取れっ)

 

「エマが危ないんだよバカ!!」

 

 シャアの声に怒鳴り返しながら、機械に頼らず感覚を研ぎ澄ませて可変MSに向けてビームランチャーを撃った。

 

 撃ったビームは可変MSの左足を貫いて爆発を起こした。

 

(ぐうっ!? これ以上地球の重力の井戸に引かれるのは御免だ。あとは後続に任す)

 

「退いてくれたが。しかし」

 

 可変MSはアナハイムでもまだ計画中のカテゴリーだ。それが出てきているなんて脅威以外の何者でもない。

 

「エマ中尉、無事か!?」

 

『え、ええ。でもさっきの声は』

 

「ニュータイプだと言うことだ。エマ中尉はアーガマへ下がれ」

 

『そんな、まだこの程度なら降りられます!』

 

「ここは経験者の言うことを聞け! 損傷箇所から熱が上がって爆発しないとも限らないんだから!!」

 

『っ……。了解。でもギリギリまでアーガマの直掩に回ります!』

 

「それで済むならそうしてくれ。大気圏突入だ! 始まるぞ、わかってるの!?」

 

 敵に構い過ぎる味方機に注意を促しつつ、エマ中尉を伴ってアーガマに向かう。

 

『予備の弾と一緒にフライングアーマーを出させる。それで行ってくれ!』

 

「了解した、キャプテン」

 

 リックディアスが収容されるのを見届けて、射出されたフライングアーマーに乗り換え、MS降下部隊の最後尾に着き大気圏へ突入する。

 

「バランスが取りにくい! アストナージめ、戻ったら文句言ってやるっ」

 

 僅かにフライングアーマーの外に出てしまう砲身を庇う為に機体を傾けるから不安定なバランスで大気圏に突入していく。

 

「はぁ……。地球の重力か。……ガトー少佐、ビッター少将、デラーズ閣下。……私はこれで、本当に良かったのでしょうか」

 

 かつて二度と地球に降りることはないだろうと思った。脳裏を過ぎた男たちの顔。星の屑に殉じた同胞の顔が思い浮かんだのは、その言葉をその渦中で口にしたからだろう。

 

『本当に降りられるのかよォ!!』

 

『ミ、ミサイルが!!』

 

『コア・ブースター!? 迎撃機が上がって来ているぞ!!』

 

「狼狽えるな!! 動いていればこれしきの弾幕程度どうという事はない!」

 

 対空砲火に怖じ気づく味方に発破を掛けながらジャブロー上空へ降下する。

 

「くっ、反動が強くて気軽には撃てんか」

 

 キャノン砲を撃つも、反動でバランスが崩れてしまうためそれを念頭に入れながら対空砲座を潰していく。

 

「感覚がわかってきた。……カミーユとクワトロ大尉はどこだ?」

 

 一番最後に降りたとあって、もうジャングル内でMS戦が始まっていた。その所為か百式もガンダムMk-Ⅱも見当たらない。

 

「赤いリックディアスはやはり目立つな。うわっ!?」

 

 地上からの攻撃がフライングアーマーに突き刺さり、慌ててジャングル内に着地する。

 

『アカリ大尉! ご無事で』

 

「ロベルト中尉か! 鷹があの程度で墜ちるか!」

 

『ご尤もで』

 

 いかんいかん。念願のジャブロー攻略とあって、ジオンの血が沸いているらしい。

 

「……戦況はどうなっているんです?」

 

 一度落ち着いてから、ロベルト中尉に窺う。

 

『この先のゲートを攻撃中ですが、守りが堅くて、うっ!』

 

「うおっ! ええい、砲台か!?」

 

 近くで大爆発が起きて機体が揺れる。

 

 ここにこのまま留まっていても埓が明かない。

 

「正面から突っ込む! 援護を!」

 

『了解! 各機、大尉に続け!!』

 

 支援用MSで正面を張るなんてバカのすることだが、ジェネレーター出力も上がってパワーもある今のこのザクならばやれない事じゃない。父に感謝して、あとで土産でも送るか。

 

「あれは、ザメル!? 連邦に降ったかっ」

 

 680mmという化け物砲を装備する重MSだ。その巨体に反して機動性はドム並みに高いのである。嘗めてかかると手痛い目に遭う。

 

「だが、動きが鈍い!」

 

 ビームランチャーで680mmカノン砲を撃ち抜き、ジャンプしてキャノン砲で身動きを止め、ビームサーベルでコックピットを一突きする。

 

「脅威は排した! 進め!」

 

『さすがは大尉ですな。大尉が道を開けた、MS部隊突入せよ!』

 

 攻撃の要のザメルを黙らせたあとは脆いものだ。トーチカを破壊し、ザクタンクやガンタンクを次々と撃破してMS部隊は進んで行く。

 

「ザメルよ、静かに眠るが良い……。ジーク・ジオン」

 

 やはりジオンの血が沸いている様だ。

 

 過ぎ行くザメルの背中に敬礼を送り、MS部隊に続く。

 

「おかしい。迎撃機が旧式ばかりとは」

 

 なにかがある。そう感じられずにはいられなかった。

 

『罠ですかね?』

 

「でなければ説明のしようが出来ん」

 

 抵抗も入り口に入るまでの方が激しかった。なのにジャブロー内は殆ど抵抗されずに進んで行く。

 

『おかしいですな。エリア1のビルは殆ど空です。ティターンズはここを引き払ったんじゃないですか?』

 

「捕虜に確認を取らせる。私はエリア2に向かう」

 

『了解。お気をつけて』

 

 ロベルトと別れて、先に進む。だが進めば進む程気持ちが悪いくらい静かになっていく。

 

「エリア2か。静か過ぎるな」

 

 MSどころか人っ子一人見当たらない。まるで空き家には入ったかの様だ。

 

「なに!? レコア少尉か! カミーユ!」

 

 必死なレコア少尉と、カミーユの気配を感じて機体を進ませる。

 

「どこだレコア少尉……。もう少し強く必死になってくれ」

 

 感じていた方向に 機体を進ませていくと、ガンダムMk-Ⅱが見えた。

 

「見つけたのか、カミーユ!」

 

「ユキさんか!? レコア少尉を見つけました!」

 

「良く見つけてくれた。一度本隊に向かうぞ!」

 

「了解! …あっ、クワトロ大尉だ!」

 

『ユキとカミーユか。あと10分でここの核爆弾が爆発する! 動けんのなら百式で運ぶ!』

 

「核での自爆か。だからか」

 

「レコアさんを見つけました! それと、カイ・シデンさんと言う方を救出しました!」

 

『良くやった。脱出する!』

 

 最大速度でジャブロー内を突き進む。だが、まだあちらこちらで人の居る気配を感じてしまう。

 

「味方まで巻き込んで自爆とは。正気の沙汰ではないっ」

 

 助けを求める声を聞けてしまうニュータイプの力が、今は恨めしい。

 

『大丈夫か、ユキ』

 

「……平気だ。とは言い切れんよ」

 

 ゲートを抜け、滑走路を進むガルダに3機のハイザックが絡んでいた。

 

『飛べカミーユ! 敵は私が抑える』

 

「発進を援護する必要がある。行け!」

 

『了解!』

 

 人を乗せているカミーユのMk-Ⅱをアウドムラに向かわせ、ビームランチャーでハイザックを1機撃墜する。

 

『相変わらずだな』

 

「世辞はいい!」

 

 反動の強いキャノンは使わず、もう一度ビームランチャーで狙い撃つ。

 

「防いだ? なかなか!」

 

『先に行け! ザクのジャンプ力が届かなくなるぞ』

 

「ええいっ。お前もだぞシャア!」

 

『おう!』

 

「行くぞ!!」

 

 パワーをバーニアに回して一気にジャンプする。

 

「届くか!?」

 

 推力が上の百式がハイザック・キャノンを追い越して先にアウドムラに乗る。

 

「クソッ」

 

 だが機体の重さか、あと一歩での所で機体の浮力が無くなるのを感じた。

 

 ここまでか。……いや、それも良いのか。今ならジオン軍人として死ねそうだ。

 

(諦めないでっ! キャノンを外して!!)

 

「カミーユ!? ええい!!」

 

 だがそんなおれにカミーユが発破をかけてくれた。

 

 キャノンをパージすると、ガンダムMk-Ⅱがビームライフルでキャノンを撃つと残っていた弾の火薬が大爆発を起こして機体の背中を押した。

 

『やった!』

 

『うむ。よくぞ』

 

「カミーユのお陰だ……」

 

 背中に核の光を感じながら、俺たちはジャブローを脱出した。

 

 エゥーゴ初の大規模作戦は、空振りという結末に終わった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「この感覚は何度やれども慣れないな。重力の井戸に引かれるのは御免だというシロッコの言葉。わかるな」

 

 久方ぶりに束博士のオーダーが入った。

 

 場所はフランス。ドイツから行ける距離だが、関係性を悟られない様に衛星軌道上からの降下強襲となった。いつものやり方である。

 

「モビルドールか……」

 

『戦いを機械任せにしようだなんて。ただでさえISをそうは使われたくないのに』

 

「……すまない」

 

『君は特別。私を理解してくれてるから』

 

「光栄だよ」

 

『だから全部壊してきて。徹底的に』

 

「了解した。ユキ・アカリ。リック・ドムⅡ、発進する!」

 

 リック・ドムⅡにラジエーター・シールドを持たせて地球に降下する。

 

 目的はISを無人で動かすシステムを研究する施設だ。無論非合法である施設だ。

 

 ISの無人機化くらい公式に研究すれば良いものの。隠れてやるからこうもなる。

 

 大気圏に突入し、地表を目指す。こうして地球の重力を感じてそれを心地よく感じてしまう自分が居る。

 

 やはりそれは生まれがアースノイドであるからなのだろうか。

 

 

 

 

to be continued…


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