IS-虹の向こう側- 作:望夢
実際メロメロ甘々束さんとはにゃーんさまはどっちが需要あるんだろうか?
私の夢は宇宙に出る事だった。
小さい頃から自分は非凡だと自覚はあった。
でもその非凡さを認めてしまったら、途端に世界はつまらない灰色の世界に見えてしまった。
それでも妹の箒ちゃんはかわいいし。ちーちゃんだって大切な友達だし。二人の大切ないっくんだって私は好きだ。
でもそれ以外は別段どうでも良い。みんなつまらない物に見える。
だからそんなつまらない物から抜け出したくて宇宙を目指した。
宇宙は人がまだ理解しきれていない世界だから。未踏の地に懸ける期待は大きかった。
でも人間は22世紀になっても、宇宙に人や物を打ち上げるのでやっとだった。そして宇宙に身を投げ出すことさえ重たい宇宙服を身につけなければならなかった。
だから私はISを造った。
従来の何倍もの身軽さ。そして真空での船外活動を保証し、ありとあらゆる危害から身を守る術を搭載した宇宙服。
最初はそんな感じだった。
でも世界はISの性能を兵器として欲した。それを求めてしまう切っ掛けが白騎士事件だった。
日本の東京を射程圏内に納める大陸間弾頭ミサイルがハッキングを受けて発射され、そのすべてを白騎士が撃ち落としたその日。
今までISを子供のオモチャとバカにしていた大人たちの対応が一変した。
ミサイルの迎撃の為に集まった軍隊が、白騎士を捕まえようとして、その軍隊すら無効化したことでISは世界最強の軍事兵器としての有用性を示してしまった。
最初はそれでも良かった。どんな形であれ、ISが注目されればその分だけ夢の実現が早くなると、そう思っていた。
でもそうじゃなかった。
世界はISに、本当に兵器としての価値しか興味がなかった。
私が何度訴えても、ISは兵器としての道を突き進み始めてしまった。
私にはこの流れをどうにも出来ない。私はこんな事をする為にISを造ったわけじゃない。期待した私がバカだった。
だから私は世界から身を隠した。私独りだけでも夢を実現する為に。
時間は掛かるけれども、私にはそれを可能とする技術力と頭脳があった。
寝る間も惜しんで開発に勤しむ。どんな困難に直面しても退けられる為の性能を求めた。
でも私も結局はISを兵器として作り続けてしまっている。そうでないと身を守れない。もう何者にも囚われたくない。
しがらみから抜け出して自由になれても、世界は窮屈すぎる。私は私に出来る事をして世界から身を隠した。あとは凡人にだって時間は掛かってもISは兵器として完成していくだろう。だから私の事なんて放って置けばいいのに、世界は変わらず私を探し続けてる。
そんな環境に身を置いて過ごし続けた私の身の回りは、最近は賑かであると言える。
「博士、これは何処に置いたら良い?」
「あ、それは捨てちゃって良いよ。もう使わないし」
ニュータイプという人の革新を信じるようになってから3年。長いようで短いその3年。
あの日、空から――いいや、宇宙から降ってきた金属。
T字型の金属だった。
それは虹色の光を帯びて墜ちてきた。
それに触れた時、私はひとつの宇宙が辿った歴史を見た。
そしてニュータイプという存在に私は興味を惹かれていった。
誤解もなく、本質で解り合える存在が居るのなら出逢ってみたいと思った。
そんな想いを募らせた3年後に、宇宙からもう一度流れ星が降ってきた。そしてそれは私にニュータイプという存在を現実にさせてくれた。
ひとりのニュータイプの出現は、私に新しい世界を見せてくれた。
蒼く光る宇宙は、私を優しく、そして温かく迎えてくれた。ニュータイプはそんな宇宙といつでも触れる事が出来るのが羨ましい。
ニュータイプである彼。多くの傷を背負って、悲しい目をしていても夢を追い続けるその瞳は、吸い込まれてしまいそうに深く、そして綺麗だった。
星の光を写すその目に、私も同じものを見てみたくなった。ニュータイプの素養が私にはないと言われたけど、それだって変われるかもしれない。
ニュータイプが人の革新。宇宙に出た人が進化した姿であるなら、私にだってその機会はあると思いたいし、あって欲しいと思う。
彼を通じてでしか宇宙を感じられない自分が少し嫌だった。私は彼をアンテナ扱いしたくないから。
私がニュータイプなれれば、私は彼の居る場所に立てると思って。
私は、虹にのりたいのだから――。
◇◇◇◇◇
一年戦争開戦から8ヶ月がたった頃。
各地で補給線が伸びきり、攻勢限界を迎えていたジオンと、MSという絶対的な存在によって敗北を重ねていた連邦との戦いは膠着状態を迎えていた。
コロニー落としの失敗。それまでの戦いで失った艦艇再編に国力を注ぐジオンに、無理に地球を攻める余裕がなくなっていた。
連邦軍の輸送船を襲撃しては物資を回収するという半ば海賊的なことさえ珍しくはなかった。
通商破壊作戦を終えたファルメルは、ジャブローから上がってきたホワイトベースを捕捉し、その監視に着いた。
そしておれはその戦場で初めて対峙したのだ。
後の白い悪魔と呼ばれる機体――ガンダムと。
「一撃でザクを墜とした……? なんてやつだ……」
その光景を見た時。背筋が凍る思いだった。正直生きた心地がしなかった。
戦艦並のビーム砲がMSの機動力を持って襲ってくるなんて悪夢も良い所だった。
『ムサイまで撤退する! 援護出来るか!?』
「了解しました! しかし――」
何時もとは声室が固いシャア少佐の声に返しつつも、おれは愛機の高機動型ザクを駆る。
「やられてばかりは!」
マシンガンでガンダムを撃つも、120mm弾が弾けて爆煙を生むだけで、其処には無傷のガンダムの姿があった。
「なんてMS! 直撃しているのになんともないのか!?」
恐怖だった。こちらの攻撃の通じないMSなど恐怖でしかなかった。
『無理をするな! そのMSは普通ではない!』
シャア少佐の言葉を聞くまでもなく、肌身で感じていた。
じっとりとパイロットスーツの中に汗が滲みる。
ガンダムがこちらを狙ってくるが、瞬時に機体を翻して回避行動に移る。一拍遅れてビームが通り去る。
「でもこれなら!」
どのみちシャア少佐の撤退を援護するには、ガンダムを抑えなければならなかった。この高機動型ザクの推力ならば多少は離れても十分合流できると確信があるからだった。
「素人か? 間合いが甘すぎる!」
確かに凄まじい攻撃力と防御力でも、その動き、挙動が全くの素人然としていた。
脚部スラスターで通常のザク以上に細かな軌道変更が可能であるこの高機動型ザクの性能ならば勝てる。そう確信を抱きながらガンダムへ急接近する。
ビームライフルを向けてきても、撃つまでに一瞬の間がある。しかもフェイントに対しても素直に軌道を追って銃口が動くのを見て確信する。
「自動照準程度で……このザクが捕まるもんかよ!」
ヒートホークを抜き、ガンダムの上方から急降下し、背後に回って急速反転からの急上昇しつつ切り上げを放つ。
「なんと!?」
しかしガンダムはヒートホークをビームサーベルを抜いて受け止めた。シャア少佐ですら破った必殺の一撃を受け止められた衝撃を隠すことなどできなかった。
ガンダムのパワーに押されて、機体が後退する。
「圧倒された!?」
ザクを軽々しく押し出したパワーに戦慄を隠せない。攻撃力と防御力だけでなく、純粋な機体出力からガンダムはザクを圧倒していると技術者畑の頭が警告を発していた。
「しかし、その大振りじゃ当たってやれないな!」
ガンダムが仕返しにとビームサーベルを降り下ろして来るが、ザクを瞬時に斬撃の軌道から脇に滑り込ませて退避させる。
「手土産に、破片のひとつも貰っていく!」
ガンダムの肩をザクの手で掴み、機体を押さえつけて思いっきりヒートホークを降り下ろす。
だがガンダムは頭のバルカン砲を放ってザクのカメラを破壊したのだった。
「メインカメラを!? くそっ」
サブカメラに切り替わる間を待つまでもなく勘のままに機体を急速離脱させた。
『こちらは後退した! 離脱してくれ、中尉』
「了解しました。カメラをやられましたので、離脱します」
モニターが切り替わり、若干のノイズの走る光景で遠ざかる白いMSを睨み付ける。
「連邦軍の新型MS……あんなものが量産されたらジオンは」
ちらりと脳裏を過ぎ去る嫌な妄想だった。
だがそれを一抹に感じさせるほどの性能を見せつけられた。パイロットは素人のはずだ。動きを見ればそれがわかった。なのに倒せなかったその性能を脅威と言わずなんとする。
そんな苦い苦汁を舐め、ガンダムとの初戦は戦術的な敗北と相成った。
◇◇◇◇◇
「なるほどねぇ」
「今思えば、あの時にアムロを倒せさえいれば、或いは少しは歴史は変わっていたのかもしれないな」
彼から聞いたのはガンダムとの初対決の話だった。
連邦の戦艦を沈めるよりも手に入れるのが難しいとされていた高機動型ザクに乗っていたのも驚いたけど、改めて聞くとやっぱりガンダムの性能の高さは彼の主観だけれどもデタラメに強かったのだと肌で感じさせられそうな程だった。
ガンダムを倒せていれば、或いはジオンの崩壊は無かったかもしれない。ジオンが負ける切っ掛けになるガルマの死も無かったかもしれない。そんなIFは話したところでキリがないけど。
話終えた彼の悔しそうな顔を見ると、やっぱり男の子なんだなぁって思う。負けず嫌いなところがね。
「ねぇ、そのあとのルナツーはどうなったの?」
「攻撃はしたが、アニメ通りさ。高機動型ザクの整備が間に合わなくて、ルナツーと低軌道会戦には参加しなかったんだ」
「ちぇ、つまんないのー」
「詰まらないと言われてもねぇ。高機動型ザクはかなりデリケートな機体だから無理は出来ないし。余りのザクも無かったからなぁ」
確かシャアの受けた補給のザクはC型だったはずだったかな? 高機動型ザクでも勝てなかったんだったら、態々機体性能の低いMSに乗り換える必要だってないもんね。
「……なんですか? 急に」
「んふふ、なんでもないよー」
彼の小さな身体。抱きすくめたら胸にすっぽり収まってしまう身体を抱き締める。
確かに面白い話が聞けないのは残念だけど、もし性能の低いC型に乗ってやられちゃったら、今こうして彼にも会うこともなかったかもしれない。運命の神様、ありがとう。
「苦しいから離してくれると有り難いんだが」
「えへへ、うりうり~、おねぇさんのダイナマイツおっぱいは柔らかくて気持ち良いだろー?」
「息苦しくてかなわないわ」
もぞもぞと顔を動かして逃れようとする彼を逃がすまいと脚を絡める。
柔らかいし、温かいし、最強の抱き枕を逃しはしないよ。
「ならせめて普通に息をさせてちょうだい」
「むぅ。わがままなんだからぁ」
「そっくりそのまま返すわその言葉」
少しだけ腕の力を抜くと、少しだけ身体を離れさせる彼に身体を寄せる。
「ちょ、狭いんだから押すな。クロエが落ちる」
彼を真ん中にして左にクロエちゃんと、右に私が横になるベッドのサイズはわざと一人用だがら結構くっついて寝ることになる。
「じゃあ仕方ないよね?」
そう言って私は彼の身体をぎゅっと抱き締める。
正直ここまで懐を許す人間なんて、私には居ない。ちーちゃんも箒ちゃんも照れ屋だからぎゅっとさせてくれないんだもん。
外見だからか、それともニュータイプだからか、または心の傷を話してくれたからか。
ララァ・スンの死を語ったあの夜から、私達は毎夜抱き合って寝ていた。甘えるように抱き着いて、温もりを感じるように抱き締めて。
守ってあげたい、癒してあげたいと思いながら、私はそれを彼にも求めていた。
しがらみが嫌で世界から身を隠したのに、結局は他者との繋がりというしがらみを求めてしまう辺り、私もまだまだ普通の人間なのだろうと思わされる。
クロちゃんはそんな素振りを全く見せないし、あのハマーンとだって、多分彼は何処にいてもその居場所がわかるんだろう。
私にはわからない領域で繋がっている。
やっぱりニュータイプってズルい。
to be continued…