IS-虹の向こう側-   作:望夢

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ちまちま書いていたのが出来上がったのでうp。最近モチベーションがガンダムに湧いてきたから次は少し早く出きるかもしれない。

その結果IS本編より宇宙世紀の話しが比率が上になるけど良いかな?


第21話ーはじまりのゆめー

 

 おれの父は、MSの設計技師だった。こてこての技術屋で、ジオンのザクの設計・開発にも携わっていた。

 

 そんな経緯があって、おれは学校が終わった放課後にMSのシミュレーターのモニターとして開発に協力していた。

 

 父もデータのサンプリングの一環として触らせてくれたMSのシミュレーター。最初はゲームセンターの体感型ゲームの感覚で遊んでいただけだった。でも操縦桿やペダルが不思議と手足に馴染んだのを今でも覚えている。

 

 初めてザクⅠを見た時は衝撃を受けた。アニメでしか見たことのない二足歩行ロボットが、目の前に存在して動いているのだから。

 

 そんなMSに乗るために、おれは士官学校に入った。多分一生分の努力をしたのではないかと思うくらいに勉強に励み、飛び級をしてルウム戦役開戦一週間前にようやく念願のMSに乗れることになった。

 

 座学で少々もたついたが、実技に関しては士官学校校長をしておられたドズル閣下と、卒業試験にて実技を担当されたランバ・ラル大尉のお墨付きを頂いた程だった。

 

 しかし戦場は、そんな子供の夢や憧れが生温い場所であると牙を剥いて襲い掛かってきた。

 

「いやだ、いやだいやだやだやだやだやああああああっ!!」

 

 錯乱状態になりながらも、身体は生き残る為に動く。

 

 おれのザクⅡC型は6機のセイバーフィッシュに囲まれていた。

 

 これでも最初は12機に囲まれていたのだから、それまで生きていたのが不思議なくらいだ。

 

 小隊を組んでいた僚機は、既にセイバーフィッシュとサラミスに狩られていた。誤射を避けるためにサラミスが大人しくなったのが幸いだ。サラミスの船体を沿うようにザクを飛ばし、セイバーフィッシュからも積極的に攻撃させない位置取りをして、隙あらば撃ち落とし、サラミスから引き剥がそうと強引に突っ込んできた機体は、足場にして方向を変える土台にさせて貰いながら必死になって逃げ回っていた。

 

「死にたくないっ、死んでたまるかあああああーーっ!!」

 

 情けない悲鳴を上げながら、バズーカでサラミスの最後の砲塔を黙らせた。弾が無くなったバズーカを捨てる。あとはセイバーフィッシュのみだが、体力的にもキツくなっていた。接敵から10分も経っていないのに、体感的にはもう何十時間も戦っていた様に感じる。

 

 死という重圧感に、心身が悲鳴をあげているのがわかる。もう操縦桿を動かすのも、ペダルを踏むのも辛い。

 

 動けなくなったMSなど、単なる的でしかない。

 

 MSを持たない連邦からすれば、動けなくなったザクを鹵獲するだろうが、パイロットの自分は替えが利く人間でしかない。

 

 それが余計に死を連想させる。生きたいなら、殺さないとならない。

 

 サラミスを事実上黙らせた所で、誤射の恐れが無くなったセイバーフィッシュたちがより過激な動きで向かってくる。サラミスという障害物があるだけで、それは大きな小惑星の周りで戦うような物だ。

 

 サラミスへの誤射だけを考えれば良いあちらの方が動きやすくなってしまったようだ。

 

「こんなところで、死んでたまるかあああああ!!」

 

 サラミスの船体を掴み、急旋回しながら、抜いたヒートホークで後ろからオーバーシュートしたセイバーフィッシュを熔断する。

 

『そこのザク、よく持ち堪えたな』

 

「え?」

 

 通信からそんな声が聞こえると、残ったセイバーフィッシュが瞬く間に弾丸に貫かれて爆散していく。

 

「赤い……ザク?」

 

 全身真っ赤。漆黒の宇宙にあってこれでもかと目立つ色のザク。

 

 助けてくれたのか。そう思う前に、助かったことの安堵が疲れとなってどっと肩に押し寄せた。

 

『此方シャア・アズナブル中尉だ。応答を願いたい』

 

 何時の間にか赤いザクの視線は此方へと向けられており、そして接触回線で通信が繋げられていた。は、っとしながら思考を動かす。相手は上官だ。失礼のないようにしなくてはならない。

 

「ハッ! おれ、あ、いや。自分はユキ・アカリ曹長であります!」

 

『若いな……。一人の様に見えるが作戦行動中かね?』

 

「いえ、自分を除いて仲間は沈んでしまいました……です」

 

『成程。……ならば私と来るが良い、これから連邦の戦艦を落としに行くぞ。無理であれば近くの僚艦まで送り届けるが?』

 

 まだ若い小僧であるから気を回させてしまったらしく、中尉はおれに行くか下がるかの選択肢をくれた。

 

 しかし、MSはジオンの切り札であり、今この戦場において間違いなく機動兵器の頂点に君臨している。たとえ中身が悪かろうと、後方で遊ばせておく余裕などないのだ。

 

 腹を決め、声を張り上げる。気遣いは平気だと示すように虚勢を上げる様に。

 

「ハッ、了解しました! これよりアズナブル中尉の指示に従い、行動します」

 

『そう硬くなる必要はない……行くぞ』

 

 思えばこれが、運命との出逢いだったのかもしれない。

 

 この時、シャアと出逢わなければ、おれは死んでいたかもしれない。もし生きていたとしても、ニュータイプの未来を夢見ることもなかったかもしれない。

 

 ララァと逢うこともなく、星屑となって散っていただろう。

 

『私が切り込む。援護を頼むぞ』

 

「了解しました!」

 

 弾幕の中をまるで踊るように駆け抜ける赤いザクに引き寄せられるようにその後を着いていく。

 

 自分と同じ様に引き寄せられるセイバーフィッシュに向けて、その予測進路にマシンガンの三点射。

 

 狙い澄ました1発は機首を胴体から吹き飛ばし、続く2発は胴体に風穴を開け、続く3発目が推進器を直撃し、機体が爆散する。

 

 赤い光に吸い寄せられる羽虫を叩き落とす様に、ひたすらセイバーフィッシュを処理し、爆散しなかった機体や、敵の艦を足場にしながら加速する。

 

 シャア中尉が艦橋にバズーカを叩き込んだ間に、対艦ライフルでエンジンを撃ち抜く。徹甲榴弾が内部で炸裂し、盛大な光と共にマゼラン級が沈む。

 

 あっという間に五隻の船を沈めて見せるその腕に、心知らず天狗になっていた自分を見直させた。

 

 上には上が居るのだ。だからもっと、この光景を見てみたくなった。自分の知らない境地を見ている高揚感が、四肢を駆け巡り、手足を動かす。

 

 マシンガンでセイバーフィッシュを撃ち落とし、対艦ライフルでマゼランの艦橋とエンジンを撃ち抜き撃沈する。

 

 ライフルを撃ったことで僅に衰えたスピードを、敵を踏みつけることで加速して、彗星の様に戦場を駆け抜ける赤いザクに必死に食らい付く。

 

 今はまだ、着いていくだけで精一杯だ。でも、負けたくないと思う一心で着いていく。それは男としての意地と、もっとその姿を見ていたいという憧れだった。

 

『私の後に着いて来れるとは、中々の腕だな。曹長』

 

「いえ、そんな。着いていくので精一杯です」

 

『世辞のつもりはなかったのだが。謙遜することもないぞ。君のMSの腕は確かだ、私が保証しよう』

 

「恐縮です」

 

 終わってみれば、サラミス4隻とマゼラン1隻を沈めていた自分が恐ろしくなる。

 

 だがシャア中尉は単機でマゼラン2隻とサラミス3隻を撃沈せしめた。

 

 この功績によって、シャアは少佐へと昇進し、シャアは『赤い彗星』の異名を取る事となった。

 

 それに付随して誰が言い始めたのやら、自分も『蒼き鷹』の異名を賜り、中尉への昇進が決定。周囲からは期待以上の成果を求められるようになってしまった。

 

 そんな中であっておれはシャアの部隊へ召喚され、ソロモン勤務と相成った。それはまた別の話であり、この時の自身は、エースというのは目の前の人のことを言うのだろうと思っていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「懐かしいな……」

 

 サザビーの整備をしている途中で寝てしまったらしい。

 

 寝ていたのにあんな夢を見た所為か、ひどく疲れてしまった様な感覚を訴える身体を起き上がらせる。

 

 シャアとの出逢いは、今でも鮮明に思い出せる。宇宙の中を駆ける赤い軌跡。それを追うので精一杯だった自分。

 

 いつかその背中に追いつきたいと、その当時は子どもながらの純粋な思いがあった。

 

 終には追いつくことの出来なかった背中。

 

「シャア……」

 

 手を自身の胸に宛ながら、アクシズで託されたその熱を想う。

 

 ニュータイプの未来。人と人が分かり合える世界。

 

 それを実現するには、人はまだまだ未熟すぎる。

 

 ISという存在が、人類を男女の争いに二分しようとする構図は、やがてスペースノイドとアースノイドの争いの焼き増しになるだろう。

 

 人は、そんなに愚かな存在ではないと思いたい。

 

 人には互いを分かり合える力があるはずなのだ。ニュータイプの力も、本来ならばそういう人との分かり合いのために使われるべきなのかもしれない。

 

「今という時代では、ニュータイプの力は戦うための道具でしかない……、か」

 

 身に染みてわかっていることだ。戦いの為にニュータイプの力を使っているおれだから言える。

 

 この力が正しく使われる時は、人々がニュータイプへと覚醒した時代でなければ無理だろうということも。

 

 そして、自分はそんな時代を生きて迎えることはないだろうという確信もある。

 

 バナージが言っていた。人は託されて歩き続けると。

 

 夢を託す。おれがシャアやアムロ、ララァにそうされた様に、おれもいつか、この夢を託す側になるのだろう。

 

 それが誰なのかはわからない。未だ見ぬ誰かもしれない。もしかしたらクロエか、あるいは一夏であるかもしれない。そんなことは数十年先の未来の話ではあるのだが。

 

「らしくないな。まだまだ現役さ、おれも」

 

 自分の思考を区切る為に、軽く鼻で嘲笑う。

 

 あの頃の純粋な自分を思い出したからだろうか、それと比較した自身の老をまじまじと感じたからだろうか。

 

 まだまだ老いるには早いと自身を叱咤する。

 

 フル・フロンタルを倒せるのは恐らくこの世界では自分かハマーンくらいだろう。

 

 だがヤツとの決着はおれの手で着けなければならないだろう。

 

 それが赤い彗星の意志を継ぐ者としての役目だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇ 

 

 

 

「夢……か」

 

 MSで宇宙を駆け巡るという破天荒な夢だった。これが子供であるならば、子供の見る絵空事で済むのだが、果たして自身をそう表現するには些か複雑な立場にある。

 

 MSを駆る感覚は、瞳を閉じて思い浮かべれば自然と手足に甦ってくる。

 

 自身の後に必死に喰らいついてくる一機のザク。獲物を狩る鷹の様に鋭い攻めに、敵が次々に墜ちて行く。

 

 ジオンの蒼き鷹の異名を取ったその操縦センスに、心が踊る感覚さえあった。

 

 本気を出しても着いてこれる僚機が居る。その事実に気分を高め、後ろを気にせずただ目の前の敵を打ち倒した戦場の心地好さは言葉にし難い至福の時だった。

 

 指導者でありながら、戦士としての自身の感情を優先する男の感性は時として理解し難いこともある。

 

 それがワタシと、シャア・アズナブルという男と相容れない価値観だ。

 

 この身は器だ。感情と言うものは不要の物。しかしただの人形が組織を率いる事が出来ようか。

 

 故に私は道化となる。人形ではなく、決められた演目に従って演じる一役者だ。その筋書きを外れぬならば、ある程度の感情は些細な物でしかない。

 

「しかし……不快だな」

 

 私自身。元々はくだらない人間のエゴによって生まれた存在だ。だが、3年前に何かが起こり、私は本来の役目とは違う役目を帯びる者として目覚めた。

 

 私を目覚めさせた人物も、私が純粋にその意志を継ぐ者として目覚めなかったのは誤算だっただろう。

 

 眠っていた私に、私を作った者達は彼の赤い彗星を再現しようと意識をリンクさせていたサイコフレームが受信してしまった意識。その思念を受信してしまった私はまったく別の意識を芽生えて目覚め、そして今はニュータイプの未来を作るという夢物語の様な願いを実現する為に動いている。

 

 目覚めてからというもの、この身体を突き動かす意志が誰の物かすら定かではない。だが、この身に注がれた執念にも似たその意志を実現するのは吝かではない。

 

 もとより私はそういう存在なのだ。自身の明確な行動理由はなく、この身に注がれた意思によって動く道化だ。

 

 故に私は自身を名付けた。フル・フロンタルと――。

 

 しかし自身を器と定義しても、時折夢を見ては自身を光へと導こうとする意思が絡みつく。

 

 私はシャア・アズナブルではないのだよ、ララァ・スン。私を導こうとしても無駄な事だ。私はこの身に受けた意志を実現する為の道具でしかない。

 

 球状のコックピット。結晶に包まれたそのコックピットが何なのかを知る人物はそう多くはない。

 

 我々の組織の力を飛躍的に高めたパンドラの箱。

 

 その箱の中にある希望。そして絶望が世界をどう導いて行くかは誰にもわからない。そのわからない道筋を導くのが私の役目だ。

 

 

 

 

to be continued…


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