IS-虹の向こう側-   作:望夢

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なかなか日常的な事を書くのが苦手になっている様です。早く書きたいことも山ほどあるけど、フラグ立てだって頑張らないとね。


第20話ー休息ー

 

 おれが戦った蒼いIS。その形状や装備からトーリスリッターと名付けられたその機体は、おれが殺気を感じなくなると同時に反応が消えた。

 

 それは司令部の方でも同じで、直ぐ様山狩りの様に反応が消えた森の中を捜索されたが、手懸かりは一切出てこなかった。

 

 あのISから感じた事をハルフォーフ大尉に事細かに伝えたところ、あのトーリスリッターにはHADESらしきシステムが組み込まれている可能性が高いと言う。

 

 ガンダムに関することなら何でも聞いてくださいと、頼もしく胸を張るその知識は確かな物がある。

 

 物語の世界であるから、一軍人では知り得ない情報も全部筒抜けなのだ。それは最高機密も例外ではない。

 

 HADESや、トーリスリッターとその母体であるペイルライダーや、HADESの基となったEXAMシステム周りの資料を製作してくれたハルフォーフ大尉の手腕に舌を巻くばかりだ。アドバイザーとして欲しくなるものだ。

 

 しかし敵の情報が筒抜けであるなら、純粋に宇宙世紀の技術を再現している此方の情報も筒抜けということだろう。だが、そうだとしても最終的にはパイロットの力に左右されるのはISもMSも同じことだ。次は不覚は取りはしない。 

 

「ニュータイプを殺す機械か。まさか一年戦争当時にNTーDと同種のシステムがあったとはな。それにア・バオア・クーにもペイルライダーが出ていたとは、カチ合わなくて良かったか」

 

 ララァも守れずリック・ドムⅡは中破。リック・ドムの脚を移植した応急修理でア・バオア・クーの戦闘に参加したが、そんな機体であんな機体と戦えたとは思えない。

 

 まぁ、過去のことは今は良い。問題は、このトーリスリッターがパイロットの意思を無視して動いている可能性も考慮していかないとならないと言うことだ。

 

 ニュータイプ的な力は感じなかったが、あの反応速度は強化人間でもなければ無理だ。しかし強化人間ならば、クロエの時の様に気づかないはずはない。

 

 ならばISが自律している可能性があり、HADESにもそう出来る可能性もある。

 

 もしもそうなら、あの蒼いISに囚われているパイロットも救ってやりたい。まだそう決まったわけじゃない。あくまでももしもの話だが。

 

 自分の意思で戦わず、ただ戦うためだけの道具になってはいけないんだ。それは悲惨な結末しか生みはしなかったのだから。

 

 あれと戦うにも、早くナイチンゲールを完成させないとならないな。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 トーリスリッターを退けた少佐は、あまりよろしい顔をしていなかった。私が知る限りのペイルライダーに関する情報は渡してあるが、あれがトーリスリッターそのものであるか早々に決めつけるかどうかという話だが、少佐の戦闘ログで見直したが、やはり何処をどう見てもトーリスリッターにしか見えなかった。しかもEXAMだかHADESを発動させた様に機体の性能が上がったのだ。敵にも中々の技術者が居るらしい。

 

 でもなぜ、ニュータイプを駆逐するシステムを積むMSを再現したのかは解せない。一騎当千をするなら、EXAMやHADESは使えるかもしれないが、その為だけにパイロットの意思を無視するようなシステムを再現するとは思えない。貴重なISを使い潰すような事だ。

 

 もしも本来のニュータイプを駆逐する為に用意された機体だとしても、そんな曖昧な存在の為に用意する採算が合わない。私だって、少佐がニュータイプだと言われてもまだ信じきれていないところがあるのだから、トーリスリッターを造った人物は余程の酔狂者か何かだろう。

 

 だが、もしもだ。もしもトーリスリッターがHADESの、引いてはEXAM本来の役割を持つ機体として生まれたならば、私の知らない所でニュータイプ脅威論が生まれているという事でもある。

 

「まさか少佐の方からデートのお誘いがあるとは思いませんでした」

 

「たまには気分転換くらいしたいさ。おれも」

 

 つけ毛をしないで隣を歩いている少佐は、やはりどう見ても子どもの様にしか見えない。

 

 もし街でばったり会ったとしても、少し雰囲気の固い男の子にしか見えない。

 

 なのに二人っきりで出掛けたいと誘われた時は思わずドキッとしましたねぇ。

 

「付き合ってくれないか? ハルフォーフ大尉」

 

 朝の食堂であまり人が居なかったとはいえ、少佐の声を聞いた他の人達からの視線を集めたのをこの人はわかっているんですかね?

 

「しょ、少佐殿!? いい、いったい何をを……!」

 

「街に出るのに案内役を頼みたいんだが」

 

 どもっていた私がバカを見た様な哀れむ視線があったのは無視する。大体、少佐は軍では性別を偽っているのだから、つまり私×少佐で禁断の百合!? いやそうじゃない。女の子と偽っている男の子から壁際に詰め寄られる私受けの少佐攻め! いやしかし普段しっかりしている少佐を無理矢理手込めにする少佐受けも中々。

 

「クラリッサ、クラリッサ!」

 

「ひゃはうあ!?」

 

 私が妄想に耽っていると、此方に背伸びをしながら名前を呼ぶ少佐の顔がドアップに!

 

 驚いて変な声をあげてしまった。その所為で道行く人々の注目の的に……。は、恥ずかしい…。

 

「ボーッとして。何処か具合でも悪いのか?」

 

「い、いえ。心配には及びません。少佐」

 

「なら良いけど。あと、外に居るんだから少佐は止めて。周りに変に見られるだろ?」

 

 いやもう既に注目の的ですよ。しかし。

 

「上官を呼び捨てにするのはさすがに」

 

「非番なんだから気にしなくても良いのに」

 

 まだ緊張をしている私に対して、少佐は涼しげにリラックスしている様で、初めて見る柔らかい態度で私に接している。

 

「なんだかキャラが違くないですか?」

 

「それだけリラックスさせてもらっているのさ。大人としての背中を見せるわけでも、少佐としての威厳を払う必要もないし」

 

 まぁ、言わんとすることはわかりますが。

 

「だったら良いじゃないか。それとも、クラリッサはおれと連れ立って歩くのはイヤ?」

 

「そ、そういうわけでは…」

 

「だったら、ハイ。クラリッサもリラックス、リラックス」

 

 なんというか、こうまで言われると張り詰めていても仕方がないか。

 

「では、ユキと呼ばせていただきましょう」

 

「よろしい。それじゃあクラリッサ、案内よろしく」

 

「お任せを」

 

 そう言って、私はユキをエスコートしながらウィンドウショッピングに駆り出した。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 トーリスリッターの事を考え過ぎて、自分の中の鬱蒼とした感じを振り払いたかったおれは、ハルフォーフ大尉にショッピングへの誘いをかけた。

 

 無理にテンションを高めていたが、やはり心の若さはもうないのだろうか。テンションを上げて疲れて閉まった。

 

「大丈夫ですか?」

 

「まぁな…」

 

 ベンチに座って一息吐く。ショッピングなんて久し振り過ぎたのと、クラリッサの事を侮っていた。

 

 連れ回されるのは別に良いとして、なんで行く先々がコスプレ用品店ばかりだった。

 

 お陰で一日中着せ替え人形にさせられて疲れた。

 

「でも、似合っていますね。まるで以前から着こなしていたように違和感ないです」

 

「世辞は止めてくれ。この服が似合う人物なんて一人しか居ないさ」

 

 今のおれは、クラリッサにせがまれて着せられた赤い制服に身を包んでいる。いきなり連れ出した代金代わりと言われては着ないわけにもいかないが、まさかネオ・ジオン総帥の制服を着せられるとは。

 

 クラリッサ・ハルフォーフ、侮り難いな。

 

「少し疲れた。飲み物を買ってきてくれるか?」

 

「了解致しました、大佐!」

 

「私は少佐だよ。ハルフォーフ大尉」

 

 何処か楽しんで嬉しそうな顔の彼女を見れば、必要な犠牲とでも言うのだろう。

 

 さて、人払いは出来たか。

 

「出てくればどうだ?」

 

「やはり気づいていたか」

 

「気づかないでか」

 

 おれが声をかけると、プランターを挟んだ背中側から声が上がる。女性の声だが、その声は最早身に覚えた。

 

「おれを付け回して、何の用だ。フル・フロンタル」

 

 実は街に出て来てからずっとフル・フロンタルに付け回されているのはわかっていた。だが、仕掛ける様子もないので放っておいたら、今の今までずっと見られていたわけだ。ストーカーか、こいつは。

 

「君を笑いに来た。とでも言えば満足かな?」

 

「茶化して誤魔化すな」

 

 こう言う格好をしているからそう言われても仕方がないが、あんなマスクを着けていた人物には言われたくはなかった。

 

「アレと戦った感想を聞いてみたくてね」

 

「トーリスリッターか」

 

「対ニュータイプ用システムを内蔵したIS。だが君の相手ではなかったようだな」

 

「お前が関わっているのか」

 

「寧ろ我々も被害者と言っても良い」

 

 そう言いながらフル・フロンタルは一束の資料を渡してきた。

 

「例の機体に関する情報の資料だ。役立ててくれたまえ」

 

「こんなものを渡して、どうしようって言うんだ」

 

「対ニュータイプ用システムは、我々共通の脅威と考えるが?」

 

「共同戦線を張るというのか?」

 

「互いの邪魔をしないという意味で、と言うのはどうかな?」

 

 そう提示するフル・フロンタル。そういう落とし所が、おれたちには丁度良いだろう。

 

「……これが、あの機体の秘密か。こんなものが……!」

 

 フル・フロンタルから渡されたトーリスリッターの資料。対ニュータイプ用システム、それを作動させるのにニュータイプを使う。こんな人のエゴの悪辣さの結晶があるのが我慢ならない。

 

「何故お前が居て、こんなものが生まれる!」

 

「私はフル・フロンタルであって、シャアではないよ。ユキ・アカリ」

 

「シャアの絶望の残留思念でも、ニュータイプをこうも扱われて、なんとも思わないのか!?」

 

「私は器だよ。人の総意を実現すること以外の興味はない」

 

「これが人の総意だと言うのか? こんなものが!」

 

「ある意味ではそうとも言える。我々ニュータイプの力を危惧する者たちの総意とも言えるだろう。故に私はそれを止める権利はないと言うことだ。しかし降りかかる火の粉を払うのはやぶさかではないがね」

 

「都合の良いことを言う」

 

 そう吐き捨てて、資料を背中とマントの間に隠して量子格納すると、ベンチから立ち上がる。

 

「やはり君にはジオンこそ相応しい居場所ではないかな?」

 

「スペースノイドの自治権を獲得するために戦ったジオンだったらね」

 

「ならば何故、我々と敵対したのか知りたいものだが」

 

「立場と、もう今のジオンに大義がないからだ。赤い彗星の再来に酔狂して、怨みを晴らすことを考えているジオンにかつての大義はないと判断した」

 

「だがそれを君が導けば、変わったのではないかな?」

 

「シャアの真似をしても、意味はないさ。あれはジオン・ダイクンの遺児であるシャアだから出来た事だ。星の屑で死んだおれには出来ないことだと予想は付けられる」

 

「そうして君は逃げ続けるのだな。失敗を糧ともせずに居る者に、ニュータイプの未来が導けるものでもない」

 

「なんだと……」

 

 言い返そうとも思ったが、それをさせない重圧が、フル・フロンタルの眼にはあった。あの自身を器と定義し、空っぽであるフル・フロンタルがだ。

 

「お前は……」

 

「故に、私が人類をニュータイプへと導こう」

 

「どうやってだ」

 

「それは今は秘密と言うことだ。今は君とは事を構えたくはないのでね」

 

 そう言って去っていくフル・フロンタルに、おれは声を掛けなかった。これ以上の会話は、無意味だと思ったからだ。こちらとしても、トーリスリッターを片付けるまでは、フル・フロンタルと事を構える必要がないのは助かるからだ。

 

「わかっているさ。過ちを繰り返してばかりの情けない男だって言うことくらい」

 

 ララァの時も、カミーユの時も、同じ過ちを繰り返した。ハマーンに言われても逃げた結果が、シャアと戦う事になった。そして何もかもを失った。

 

 そんな情けない男だって、目指す物があるから、今も戦っている。フル・フロンタルに言われるまでもない。遅いこと、今更かも知れないけれど、過ちを繰り返した事を反省して、次に生かしてみせるさ。

 

 フル・フロンタルに発破付けられたのは気に入らないけど。

 

 

 

 

to be continued…


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