IS-虹の向こう側-   作:望夢

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ちょっとだけ話が進みますが、フル・フロンタルに続き、また厄介な物を引っ張り出してきてしまいました。


第19話ー蒼い死の騎士ー

 

 久し振りに我が家に帰ってきて、掃除も一通り終わって落ち着いたわけだが。

 

「さて、聞かせて貰おうか」

 

「な、なにを…」

 

 ち、千冬姉ぇの目付きがこえぇ……。

 

「惚けるな。隠しても無駄だぞ? 足運びが変わっているのはわかっているぞ」

 

 有無を言わさないってくらいの目付きの中になんか殺気まで感じるのは気のせいじゃないと思う。

 

 いやでもさすがにISの訓練してますって言ったら、千冬姉ぇ怒るだろうしなぁ。それがわかっているから黙ってたのに、なんでバレた。

 

「いや千冬姉ぇ。俺は別に」

 

「隠すほど不都合なことがあるのか?」

 

 さらに目付きが険しくなる。これ正直に言っても言わなくても嫌な予感しかしないんだが。

 

「い、いやだからさ。別に隠していることなんて」

 

「最近はユキ・アカリとアリーナに入り浸っているのは知っているぞ」

 

 うわぁ。いつの間にそんな事を何処から。一応おれがIS動かせるのは秘密だから、アリーナも事前に貸し切りにしているってユキは言ってたんだけど。

 

「そ、それはさ。ほら、ISを見せてもらってたんだよ。ユキのISってカッコいいからさぁ」

 

 苦し紛れな言い方だけど、俺にだって千冬姉ぇに秘密にしたい事はある。

 

 だって、守りたいと思う家族相手に、守りたいから強くなる為に鍛えてますって恥ずかしい事が言えるかよ。

 

 俺にだってプライドはあるさ。

 

「どうしても言わない気か」

 

「お、俺にだってプライドはあるさ」

 

 手に汗握る様な緊張感の中で、千冬姉ぇの目を真っ直ぐに見つめる。固唾を飲み込むのさえ厳しく渇く喉。

 

「……わかった。追求するのは止めてやる。危なくはないんだな?」

 

「それは大丈夫だ。ちゃんと教えてくれるから」

 

 なんだかんだ激しい指導だけれど、絶妙にケガだけはしないからそこは心配ない。代わりに体力がすっからかんになるけど。

 

「ほう。それは楽しそうだな。今度見せてもらうか」

 

「いや。それはユキに聞いてみないことには」

 

 すまないユキ。俺には千冬姉ぇを止められそうにない。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ニュータイプ。その力は他人と分かり合う力だと言う。

 

 だが、今という時代ではニュータイプの力は戦場での道具でしかない。

 

 それをわからない訳ではあるまい。だがそれでも人の可能性を信じると言う。そんな虚しさが他にあろうか。

 

 いくらニュータイプの可能性を示そうとも無意味なのだ。あまつさえ、ニュータイプを危険分子として、連邦はニュータイプを幽閉した事実を忘れたわけではあるまい。

 

 さらには同じスペースノイドすら、ニュータイプがオールドタイプを殺すと妄想し、ニュータイプを殺すシステムを作りもしたのだ。

 

 人はそこまで愚かなのだよ。そして過ちも繰り返す。

 

『申し訳御座いません、我が主。実験素体を取り逃がしました』

 

「いや。ご苦労だった、アンジェラ。その後の消息は」

 

『真っ直ぐ南下中です。今はスカンジナビア半島を抜け、このままではドイツ領に入られます。追撃の許可を』

 

「いや。それには及ばん。これ以上被害を被りたくは無いのでね。アレは放っておいて構わない。そちらの後始末は任せるぞ」

 

『ハッ! 了解致しました』

 

 部下からの通信を聞き、とある資料を手に取る。

 

「対ニュータイプ用のシステムか。つまらないものを作るからこうなる」

 

 仲間内の不始末。というには割に合わない仕事になってしまった。

 

 我々ニュータイプの出現が、組織内での不和を呼んでいるのは紛れもない事実だ。

 

 宇宙世紀であれば、この様な勝手は無かっただろうが、この世界では赤い彗星の名は偶像のカリスマ性でしかない。

 

 話が逸れてしまったが、求心力が細部にまで至らなかった結果、利益を脅かされる事を嫌った老人達が、我々ニュータイプを駆逐する力を求めるのも無理は無かったという話か。

 

 だがそれの為にニュータイプを必要とするとは皮肉な話だ。

 

 これを聞いたらユキは怒り狂うだろう。あれはニュータイプの力を人間のエゴで穢されるのを嫌う。シャアの純粋さを受け継いだが故の弊害だな。

 

「さて、ニュータイプを殺す機械がどこまで通用するか。見せてもらおうか、この世界の対NTシステムの性能とやらを」

 

 その験素体が向かう先には、この世界で最高のニュータイプ能力を持つ者が居る。ハマーン・カーンも殲滅対象だろうが、より優先度の高いニュータイプを感じているのはその動きから判断できる。

 

 IS6機を相手にして無傷で退いてみせた性能だ。普通のパイロットならば脅威的だが、余程の事がなければ負けはしないだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「今から30分程前にスカンジナビア方面から、我が国に侵入した所属不明のIS。ノルウェー、スウェーデン両政府は公式で関与を否定しているが、私たちが考慮しなければならないのはそんなことではない」

 

 ハマーンがスクリーンの前で説明している。

 

 スカンジナビア半島からドイツ領土に入ってきたISは、真っ直ぐこの基地があるベルリン方面に向かっていることだ。

 

「このISは脅威的な戦闘力を有し、進行途上で迎撃に出たドイツ海軍と空軍は壊滅したという報告が来ている」

 

 だがIS単機が軍隊を退けた歴史はある為、驚く者達は居なかった。ISには出来て当たり前なのだろうが、単一戦力が脅威的な戦闘力を有する恐さというものを知るおれからすると、あまり歓迎できる雰囲気では無かった。

 

「ハマーン、敵の戦力はわかっているのか?」

 

 そんな空気の中で、恐らくはハマーンの考えているだろう作戦の中核になるだろう自身の役割の為に、敵の戦闘能力は把握したかった。ハマーンはわかっているじゃないかと此方に目配せをして語った。

 

「敵のISは大して速くはないが、運動性能は高い。また、ビームを放つ有線ビット兵器を搭載しているという報告もある」

 

 その言葉でざわめきが広がる。世間的にはビット兵器はイギリスが心血を注いで挑んでいる技術だからだ。試作型は間も無く完成予定らしいが、実践配備されている話は無いからだ。

 

「局長。それはインコムと言うことでありますか?」

 

「そういう認識で構わん。これにはユキのサザビーをぶつける」

 

 ハマーンの言葉でシュヴァルツェア・ハーゼ隊の視線が集中する。

 

 サザビーのファンネルは、戦場を共にしたシュヴァルツェア・ハーゼ隊の知るところにある。

 

 敵がビット兵器という未知の兵器を持ち出すなら、その対抗手段もまたビット兵器を操るサザビーになるのも説得力がある。

 

「シュヴァルツェア・ハーゼ隊にはサザビーと目標が1対1の状況を作ってもらう」

 

 それに対して文句を言う声は無いが、納得のいかない感じも僅かにある。

 

「シュヴァルツェア・ハーゼ隊に告ぐ。目標を少佐の下へエスコートするのが我々の役目だ」

 

 隊長であるハルフォーフ大尉が命令として告げた。

 

 彼女達もISパイロットだ。軍人でもあるから彼女達なりのプライドもあるだろう。

 

 だがビット兵器を操る者の強さを知らないわけでもないのだ。

 

 それは先の作戦で次元の違う戦いを実際に見ている者達にはわかっていた。

 

『01より各機。作戦通りに事を進めろ。重ねて言うが、勝手に戦おうとするな。相手の力は未知数だ。繰り返す、勝手な交戦は避けろ』

 

 コア・ネットワークを通じてハルフォーフ大尉の声が聞こえる。

 

 おれはサザビーを纏って、シュヴァルツェア・ハーゼ隊の持つ演習場にて待機していた。周りには森と湖と小高い丘がある演習場では空中機動訓練をする場所だ。演習場の中では最大に広く、近くに人も住んでいない。存分に戦える場所だと言うことだ。

 

『こちら04。目標に接触。敵ISの画像を送ります』

 

 送られてきたのはリアルタイムの映像だった。

 

 ISとは言うが、見掛けはフルスキンタイプだった。

 

「このIS……ガンダム、なのか?」

 

 全体的には連邦系のMSの印象を受ける機体だった。ガンダムタイプの顔。しかし目元はゴーグルタイプ。全体的に蒼い装甲に彩られたMS。少なくともおれは知らない機体だった。

 

『この機体は、ペイルライダー……、いや、背中にインコムがあるからトーリスリッターか!』

 

「トーリスリッター、死の騎士か。知っているのか?」

 

 敵のISを見て驚きを隠せないと言った様子のハルフォーフ大尉に、おれは少しでも敵の情報を求めた。

 

『端的に言えば対ニュータイプ用のシステムを搭載したMSです。あれがISになっているのか? でもそんなはずは』

 

「NTーDに近いものか?」

 

『ニュータイプを駆逐するEXAMシステムを原型にしたHADESを搭載していて、機体のリミッターを強制解放して能力を100%解放すると共に、戦況に応じた最適解をパイロットに伝達して実行する戦闘補助システムです。不完全ですがサイコミュ波の受信から敵の思考も先読みする機能もあったはず。でもそんなものがあるわけが…』

 

 その辞典めいた知識量も恐ろしいが。その情報を纏めると、NTーDに近いものを感じる。

 

 まだそのシステムを積まれているとは決まった訳ではないが、見ていて少し厭な感じがする。

 

「ッ!?」

 

 画像のISと目を合わせた時、胸を鷲掴みにされるような感覚が襲った。

 

『目標加速、追尾します!』

 

「止めさせろ。ヤツに近づいちゃならない!」

 

『少佐?』

 

 アレに普通の人間が関わっちゃならない。アレには死が渦巻いている。

 

「04は下がれ! 他も素通りさせろ。向こうが此方を見つけている!」

 

 サザビーのサイコフレームを通じて、敵に捕まったのがわかる。此方に近づかれる前に空に駆け登る。アレを相手に動きが制限される地表近くには居られない。

 

 センサーで向こうを見つけると、先制は向こうからだった。

 

 高出力のビームが通り過ぎる脇を、機体を舐める様に躱して、ビームショットライフルを向ける。

 

「そこ!」

 

 ニュータイプの勘で、絶対に中ると言う確信がある一発を放った。

 

「なに!?」

 

 だがその一撃はまるで予めわかっていたように躱された。

 

「躱した? ならばもう一度!」

 

 シールドのミサイルで牽制して、もう一度ビームショットライフルを撃った。

 

 だが蒼いISはアポジモーターを僅かに噴かして、最小限で躱した。

 

「このおれが二度も外した? 只者じゃない!」

 

 傲りでもなく慢心でもない。中ると確信した攻撃が中らなかったなんて、アムロやハマーン相手でもなければ無かった事だ。

 

「だったらこれで、ファンネル!!」

 

 4基のファンネルを射出して、連携して仕留める為にビームショットライフルで牽制し、ファンネルで動きを制限して、本命を叩く。

 

「インコム程度!」

 

 敵のISもインコムを射出してきたが、インコムを使ったことのある自分だからわかる。インコムはファンネル程自由に動かせないし、ケーブルが切れれば使い物にならない。

 

「そこだ、ファンネル!」

 

 飛び回るインコムを狙ってファンネルで撃つ。だが、ビームを受ける間際にインコムはそれをケーブルを巻き上げて躱した。

 

「これもか!?」

 

 中ると確信した攻撃が悉く躱された驚愕。まさか本当に此方のサイコミュ波を感じて動いている訳じゃないよな。

 

「チィッ!」

 

 反撃に撃たれるビームを躱して、ビームトマホークサーベルを抜く。

 

 ファンネルを6基に増やして、突撃する道を作る。

 

「でええええあああ!!」

 

 瞬時加速にて、景色が一瞬で視界いっぱいに敵のISの蒼い機体が映る。

 

 振り抜くビームトマホークサーベルに、蒼いISは対応してビームサーベルを抜いて受け止めてみせた。

 

「ここまで反応出来るのか!? なんなんだこのISは!」

 

 だがビームトマホークサーベルを消して、そのまま拳を叩きつけた。

 

「ぐぅっ!!」

 

 だが蒼いISを殴り飛ばす為にその装甲に触れた瞬間、強烈な殺意と恐怖に心を苛まれた。

 

「こいつは、危険過ぎる」

 

 心に負った衝撃を建て直す頃には、向こうも体勢を建て直していた。

 

「な、なんだ……!?」

 

 蒼いISが身震いしながら、殺気をそこら中に放つ。

 

 センサー部分が赤くなって、エアインテークが赤熱化する。

 

「ッ!? 速い!」

 

 瞬間加速を使った様な突撃を、アポジモーターを噴かし、さらには身体まで捻って躱す。

 

 ハイパーセンサーで通り過ぎた影を追うが、既に後ろに回られていた。

 

 その手のビームカノンを撃ってくるが、プロペラントタンクをパージし、脚部のスラスターを全開にしてその場でバク宙する様に一回転する。

 

 高出力のビームがプロペラントタンクを撃ち抜き、推進材が強力な爆発を生んだ。

 

 シールドでその衝撃を受けながら機体を後退させる。

 

「まるでニュータイプの様に動く。――だが、この程度で負けていられない!」

 

 サザビーの機体の周囲に量子展開の光が集まる。

 

 背中のファンネル・コンテナがシュツルムブースターに換装され、両肩と両脚にスラスターを内蔵した追加装甲が装着される。

 

 機動性を強化したサザビー・フルバーニアンならば!

 

「逃しはしない!」

 

 一瞬の加速で間合いを詰めるサザビーに、蒼いISも反応が出遅れている。

 

「遅い!!」

 

 ビームトマホークサーベルでビームカノンを切り裂き、胸部のマシンキャノンを撃ちながら離脱する蒼いISのあとを追い掛ける。

 

「ぐううううう――っ!!」

 

 シュツルムブースターの生む爆発的な加速力に身体が軋み、口の中に血の味が広がる。

 

 ――――……!

 

「ッ、なんだ!?」

 

 ビームトマホークサーベルをビームサーベルで受け止めた蒼いIS。接触した時に何かが聞こえた気がした。

 

 だがそれを確かめる暇もなく背中から殺気を感じて、蒼いISをスラスターで加速した脚で蹴りあげてサマーソルト。後方から狙うインコムに向けて、ビームショットライフルのショットガンモードの広範囲攻撃でインコムを3基撃ち落とした。

 

「逃げるのか?」

 

 インコムは囮で、脅威的な速度で離脱していく蒼いISの背中を見送った。下手に深入りすることもないだろうと判断したまでだ。

 

「あの機体のパイロット。ただ乗せられているだけなのか?」

 

 殺気を感じたが。生の感情には思えない機械的で固いものだった。それ以上を感じようとしても、殺気がまるでフィルターの様に邪魔をした。それにあの聲も気になるところだ。

 

「ハマーンに調べてもらうしかないな」

 

 あれほどの機体を造る技術。もし量産されたらパワーバランスが崩れてしまうものだ。そうなれば大なり小なり争いが起こって、それが火種にならないとは言えない。

 

「でも、ここまで狂った殺気を機械が放つ。いったいどうだって言うんだ」

 

 遠く離れていく気配を見送る。感じた聲がなんだったのか確かめることも出来ずに気配は薄れていく。

 

 口に広がる錆び鉄の味がかつて身を置いていた戦場の匂いを感じて、汗で張り付いたシャツの気持ちの悪さが、今のおれの気持ちを代弁していた。

 

 

 

 

to be continued…


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