IS-虹の向こう側-   作:望夢

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IS学園篇を早く書きたい。しかしもうなんだかガンダム色強くてISどこに行った状態で不安になっています。ハイスピード学園ラブコメのはずなんだけどなぁ。まぁ、ゆったり行くか。


第17話ーハマーンとユキー

 

 いつものようにユキを相手にしてボコボコにされる毎日を送る俺に、あいつは質問してきた。

 

「そう言えば、一夏は進路をどうする気だ?」

 

「え? 進路?」

 

「お前も来年受験なんだろ? そろそろ次の身の振りを考えても良いと思うけど?」

 

「身の振りって」

 

 選べるのかという先の言葉が続かなかった。今は少しでも強くなりたいという思いだけでここに居る。

 

 でもそんな事を、いったい今何故。

 

「これから先をどう選択するにせよ、ハイスクールくらいは出ておいて損はないさ」

 

 ユキの言う通りではあると思う。高校くらいは出といた方が良いよなぁ。でも高校3年間でISに触れる時間が減るのはなぁ。

 

「なぁ。もし高校に行くとして、やっぱりISに乗れる時間も減るよな」

 

「必然だな。日本のジュニアハイスクールは義務教育だから、こうして休んでいられるけれど、ハイスクールはそうもいかないからな。……一ヶ所だけを除けばな」

 

「一ヶ所?」

 

「……IS学園だ」

 

「ああ、なるほど。確かにIS学園だったら、ISにも関わりたい放題なのか」

 

「いや待て。確かにIS学園とは言ったが、普通に入れる気でいないかお前」

 

「え? なんでだよ。俺はISを動かせるんだし、行けるんじゃないのか?」

 

「お前ってやつは。短絡過ぎだ。いいか、今の世界でISを動かせるおれたちは特別。特例と言っても良い。そんな中でISを動かせる事を公表すれば、たちどころにお前をつけ狙う者達も出てくる。それらに対してどう対処する」

 

「いや、それは」

 

 でも、だったらどうすれば良いんだ。3年間もISに触れる時間が減ると、千冬姉ぇに追いつくのに時間がかかっちまうし。

 

「それでもIS学園に行くかはどうかはお前が決めろ。場合によったら、おれたちも動かないとならないからな」

 

 そう言ってアリーナを出ていくユキ。

 

 俺は、何をどう選べって言うんだ。

 

 それにしても、髪の毛長くするとまるで女の子みたいだよなぁ。背は鈴と同じくらいなのに、俺たちと同い年くらいには見えない。

 

 そういえば、みんな元気でやってるかな。ここのところ連絡してないし、そろそろ様子見も兼ねて一度日本に帰るのもありか。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 一夏にはああ言ったが、恐らくあいつはIS学園に行くことを選ぶだろう。

 

 わかっていたさ。IS学園の名を出せば、一夏は迷わず選ぶだろうことは。強くなることに貪欲だからな。少しでも強くなりたいと思う若さは、悪いことだとは思わない。

 

 一年戦争の頃の自分もそうだった。少しでも強くなることで、少しでも戦争が早く終わることを、ジオンの勝利を信じていた。

 

 そんなおれが、一夏に強くなることを一時でも止めろとは言えなかった。

 

 ただ、一夏の存在を世に知らせる時は、先手を打たなければならないだろう。くだらない連中のエゴで、一夏を潰させてたまるか。

 

 あまり人前に立つことはしたくはなかったのだけれど、少しでも一夏から目を逸らさせる為には、おれが人身御供になるしかないか。

 

 アクシズに拾われた時に、ジオンの蒼き鷹ではなく、エゥーゴのユキ・アカリで居ることを選んだツケが、まさかこんなところで回ってくるとは思いもしなかったが。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「そうか。まぁ、お前がそれでも良いと言うのならば、私の方もそれを利用させて貰おう」

 

「構わないけどな」

 

 コーヒーを飲みつつ、私に了承を言う奴の肩は重いと言うのを隠さない。

 

「自分で言っておきながら、あまり進まなそうじゃないか」

 

「とは言うがな。おれがこう言う事を向いていないのを知っているクセに」

 

 確かに、お前には向かないだろうさ。本人がじっとしていることを嫌う。夢見だけでなく、こういうところもシャアに似る。だからこそ、私が言った時に立てば良かったのさ。あの時なら、ジオンの蒼き鷹として気軽だったものを。

 

「捻り曲がった思想が渦巻いている所で立っても、無意味さ。官僚と民衆に呑まれて、ジオンの初心を忘れたアクシズで立つくらいなら、デラーズ閣下の様に組織起こしをした方がマシさ」

 

「それで逃げた末の今だ。甘んじて受けろ」

 

「だからこうして教えを請うているんじゃないか」

 

 私が手渡した分厚い資料を読みながら言う。私がネオ・ジオンのハマーン・カーンとして、組織をどう導いたのかを、客観的に、時には私見も入れて作った資料だ。

 

 自分を過小評価するが、ユキも指導者としての求心力の才は持ち合わせている。人を惹き付けるものは持っているのだ。あとはカリスマ性は、シャアの真似事でもさせれば良いだろう。気迫というものも折り紙つきだ。

 

 それらをどう上手く使うかが問題であるだけだが、そこは教えるというよりも、やらなければわからないものだ。

 

 こうしてあの頃もやってくれれば。

 

 私が初めてやつと逢ったのは、グリプス戦役でのエゥーゴとの交渉の時だったが、その時はミネバ様に無礼を働くシャアに目が行っていたから、精々がシャアの近くに居たニュータイプ程度だったが。

 

 グリプス戦役が終わり、カミーユ・ビダンとシロッコの気配が消えた宇宙の中で輝きを放つ魂を感じて回収したのが、奴の乗るΖガンダムだった。

 

「驚いたものだ。ジオンの蒼き鷹が生きていたとはな……」

 

「あなたは……ハマーン・カーン…」

 

 初めて顔を合わせた時の奴は私を見向きもしなかった。まるで迷子になった仔犬の様だったよ。

 

「ユキ・アカリ。貴様にはジオン再興に協力する義務があるが?」

 

「……おれは、もうジオンの蒼き鷹じゃない。ジオンの蒼き鷹は4年前に死んだよ。ここに居るのは、エゥーゴのユキ・アカリだよ」

 

 そう言う奴の瞳は揺れ動きながらも、熱い情熱を感じた。その情熱の中心にシャアの気配を感じさせた。

 

「シャアならばもう居ないぞ。奴は私が討たせてもらった」

 

「それは違うよ、ハマーン・カーン。シャアは……、シャアは、居なくなっただけだ。カミーユの魂を連れていかれて、シャアは絶望したんだ。だから。おれも連れていって欲しかった……」

 

「ジオンの蒼き鷹も地に堕ちたな。だが貴様にはまだ利用価値がある。黙って我々に協力して貰うぞ」

 

「良く言う。あなただって寂しいのに」

 

「なんだと……」

 

「あなたもおれと同じだ。寂しさを抱えている。それをシャアに埋めて欲しかった。シャアの夢で寂しさを埋めているおれにはわかる」

 

「黙れ! 貴様も土足で人の心の中に入るな!!」

 

 銃を向ける私に、奴は立ち上がると一歩一歩、私との間合いを詰めてきた。

 

「寂しいなら、寂しいって、言えば良かったんだ。例えニュータイプ同士だって、隠した本心はわからないんだから」

 

「どの口が言う! その口を閉じなければ、今ここで撃ち殺す!」

 

「撃てないよ。あなたは優しいから。その優しさは引き金を引けない」

 

 このハマーンに優しいと宣う奴は、銃口が身体に当たる距離まで歩み寄っていた。私が引き金を引けば、その胸を撃ち抜き、その命を奪える距離だった。

 

「ッ!?」

 

「ね…?」

 

 銃を握る私の手に、奴は手を重ねてきた。気安く触る奴の手を振り払うことも出来たはずだ。

 

 だがそれを忘れてしまう温かさが、私の中に入り込んできた。

 

 私の抱えていたものを溶かし、包み込むその温かさ。

 

「私を理解するというのか? 貴様の様な子供が……!」

 

「わかるよ。同じ寂しさを抱えているんだから」

 

 奴の中にある寂しさ。孤独と絶望という闇。

 

 それを照らすのは赤い彗星の光。だが今はそれもない。

 

「どうして世界はこんな孤独にならないといけないんだろうね。痛みばかりが増えて。こんなに悲しいんだ」

 

 奴の心の悲しさが伝わってくる。感じすぎる心が、このハマーンを押し込むだと…!?

 

「あっ……」

 

 これ以上は危険だと手を振り払った。それに奴は顔を落ち込ませた。何故それを私は不愉快だと思う。

 

「また来る。傷を癒しておけ」

 

「うん。……待ってる」

 

「フンッ」

 

 奴の負った傷を理由にその場を離れたが、ユキ・アカリという存在に、私はこの時から興味以上のなにかを感じていたのだ。

 

 それが今ではこうして同じ空間で語らい、コーヒーを飲んでいるのだから、その時の私には予想もつかなかったことだろうさ。

 

「あまり難しく考えることもないだろう。指導者になるわけでもあるまい」

 

「でも少なからずは人身御供になるのだから、傀儡ではいたくない」

 

 だから人の上に立つ者の身の振り方を覚えるか。

 

 傀儡ではなく、人身御供だろうと自分の確たる意思で動くその姿勢が、指導者としての第一歩だとわかっているのか。指導者は思想家ではないのだからな。自分の重い描く展望を語るだけでなく、その実現の為に動かなければ、下々は着いてはこないのだから。

 

 赤い機体に乗り、人を導かんとする者。その姿は生まれたばかりの若き赤い彗星か。

 

 貴様が遺したものも、あながち無駄ではなかったようだな。シャア。

 

 

 

 

 

to be continued… 


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