IS-虹の向こう側-   作:望夢

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今回はサザビーの強化プランの提示になります。まぁ、ニコ動のFAシナンジュに多大な影響受けてますが。あれはマジでカッコいいので、皆さんも一度見てみてください。ナイチンゲールも好きですが、ビジュアル的にはサザビーに軍配が上がる私にはドストレートな好みでした。なんでネオ・ジオングがああならなかった!


第16話ー力の鼓動ー

 

 久し振りに私のもとに帰ってきた彼は、少し疲れていたみたいだった。見掛けは普通に元気してるけど、なんでもひとりで抱えるちーちゃんを見てきた私にはわかる。

 

「なにかあった?」

 

「…いや。少しね」

 

 なにかを悩んでいるみたいに見えた。

 

「はっ!? もしかしてこの束さんのナイスボデェに欲情しちゃってその処理に困ってるとか! ――すいません調子ぶっこき過ぎましたからビームライフルしまってください」

 

「まったく。ウサギ故に発情期かこのやろう」

 

 呆れた風に息を漏らす彼。さすがの私もメガ粒子喰らうと熔ける人間なんで勘弁してもらった。

 

 でも悩みがあるなら言って欲しい。今さら遠慮する仲でもないし。

 

「……サザビーを今以上に強くすることは出来るか?」

 

 少し遠慮がちに言った彼。申し訳無さそうな顔に、私は嬉しさを感じる。やっぱり有象無象とは彼は違う。彼は私の技術を認めてくれているから、私が作ったサザビーを信頼してくれている。技術屋としてはこんなに嬉しいことはないよ。

 

 そう言う理由としては、やっぱりあのシナンジュ擬きとの戦いの所為だと思う。

 

 高機動白兵戦特化型のシナンジュのコンセプトを持つあの赤いISには、重MSのサザビーだと相手がし難い。運動性は負けてなくても、追従性と機動性に差があるのが見てわかる。それでも互角に戦えるのは彼のMSパイロットとしての経験があるからだと思う。

 

 彼も、そしてフル・フロンタルも、まるで重力を感じていないように空を駆ける姿は、これが宇宙に出た人間の戦い方なのだとわかる。

 

 とはいえ機体のスペックが負けているのは、気に入らないな。うん。ちょうどいいからやってみちゃおっか。

 

「策があるのか?」

 

 ふっふっふ。私を誰だと思っているのさ。私はISを作った篠ノ之 束さんですよ? ガンダム大好きの私にサザビーをパワーアップするなんて朝飯前さ!

 

 取り敢えずこんなこともあろうかと、ラフプランだけは考えていた図面を彼に見せる。アナハイムでνガンダムを作った彼はその図面をすぐに理解したらしい。

 

「悪くないな。全体的な性能をブラッシュアップするわけか。それにこのバックパックのブースター。増えた重量を大推力でコントロールするか」

 

 まぁ、コプセントはトールギスに近いかもね。

 

 ファンネルコンテナを廃して、シュツルムブースターに換装。さらにシュツルムブースターにバインダーブースターを取り付けて高機動化。リアアーマーにもスラスター内蔵のスカートアーマーを増設。消費する推進材をカバーする大型のプロペラントタンクもリアアーマーに接続する。もちろん肩にもスラスターを内蔵したショルダーアーマーを増設して、ジェネレーターを内蔵したフロントスカートアーマーには隠し腕を二基追加。ファンネルはリアアーマーと背中のバインダーアーマーに各5基ずつの計15基装備。脚部にも外側にスラスターを増設。そしてIフィールドを内蔵した鋭角的なフロントアーマーを始め、すべての追加アーマーのフレームにサイコフレームを使うことでNT専用MSがサイコマシンに様変わりしている。

 

 うんFA(フルアーマー)サザビーの皮を被ったナイチンゲールなんだ。やっぱりサザビーをパワーアップと聞かれたらナイチンゲール一択でしょ!

 

 まぁ、逆シャアのパラレルっぽい小説のベルチカに出てくるサザビーの扱いだけどね、ナイチンゲールって。

 

 ともあれ、FAサザビーことナイチンゲール製作の為に、ちょっち頑張っちゃおうか。動くナイチンゲールなんて夢みたいじゃないか。

 

 性能は多分この先に現れるどんなISよりも強くなる機体に仕上がると思う。まだ試作段階の第四世代型ISだって、このナイチンゲールの前には足元にも及ばないと思う。

 

 純粋な機械じゃ、サイコマシンには勝てない。しかも乗っているのは本物のニュータイプなんだから、絶対に負けはしない。なにが相手であっても。

 

 昔の私だったら、こんなものは作らなかったと思う。

 

 私の夢。人を宇宙に巣立たせる夢は、始まりはただ純粋に宇宙に出たかったからだ。あの満天の星空の中には、私を理解してくれる誰かが居るんじゃないかと思っていた。

 

 ニュータイプという言葉を知って、その夢は少し変わった。誰も理解してくれないなら、理解させられる世界を作ればいい。宇宙に出れば、ニュータイプだって現れるはずだと信じてISを作った。

 

 でもISは、魂を重力に引かれている連中の駒にされた。だから私はそれに嫌気がさして世界から居なくなった。

 

 そんな私にもう一度夢をくれたのは彼だった。私が憧れた本物のニュータイプ。

 

 彼が私を理解してくれる。だから私は彼に力を貸してあげる。彼が望むなら、私に出来ることをしたい。

 

 力を求めるなら力をあげる。なにかが欲しいならそれをあげる。

 

 だからもっと私を理解して欲しい。そう、私を愛してくれてもいい。私も君を愛してあげる。

 

「博士、ここのエネルギーラインの設定をあと0.3上げられないか?」

 

「ん? ああこれね。でもここを弄ると全体的に今の2割増しでピーキーになるけど」

 

「遊びがないほうが性に合っているのさ。遊びがあってしっくり来ないんだ」

 

「ふーん。でもよくこんな過密な設定で戦えるよね。私だったら扱いたくないなぁ。一ヶ所でも壊れたらマトモに動けないよ」

 

「その分素直に動いてくれるからな。それに当たらなければどうということはないのさ」

 

「それ当たったらどうにかなっちゃうって言っているようなものじゃないか」

 

「そうともいうがね」

 

 私がガンダムじゃなくて、面白半分でサザビーを彼に与えたけれど、それが正しかったかどうかはわからない。

 

 彼の目に宿る熱さ。ガンダムに乗っている時の彼は穏やかで、温かい優しさがある。でもサザビーを前にする彼は熱い情熱に燃える男の顔をする。

 

 クロエちゃんが言うには、ガンダムに乗っている時の彼には優しい人が居て、サザビーに乗っている時の彼には真っ直ぐな人が居るらしい。

 

 ガンダムで優しいとなると、彼との関わりも深そうなアムロ・レイを、サザビーではシャア・アズナブルぐらいしか思い浮かばない。

 

 もしかしてね。ありえないとも言い切れないのがニュータイプとサイコフレームだ。

 

 ただ、お願いだから、私から彼を奪うようなことはしないで欲しい。死人は死人として、人の思い出の中にだけ居てちょうだい。彼はもう、私のものなのだから。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ドイツから帰ってきたマスター。そのマスターになにが黒いものが纏わりついていた。

 

 ただそれも、マスターがガンダムに触れたことで消え去ってしまった。ガンダムから溢れる温かい優しさが、マスターの黒いものを祓ってくれたとわかる。

 

 マスターの周りにはいつもマスターを見ている人達が居る。赤い人、青い人、黄色い人。

 

 サザビーの中には赤い人。ガンダムの中には青い人。そしてマスターの中には黄色い人と角のある白馬。

 

 赤い人と青い人は優しい眼でマスターを見守っている。黄色い人はマスターを守りながら角のある白馬を育んでいる。

 

 私にはその人達が何者なのかわからない。でもマスターを大切に想っているのはわかる。マスターもその人達を大切に想っている。

 

 マスターを取られてしまいそうで、私はあまり心穏やかではないけれど、その人達は優しく見守っているだけ。その人達が、マスターが健やかにあることを望んでいるから、害はないと信じたい。

 

 だからマスター、もっと私を見てください。私を感じてください。私は求めています。こんなにもあなたを。

 

 だから今を見つめてください。でないと、私は寂しいです。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 仕事を終えた私は、自身の愛機であるシナンジュ・ファントムを見ていた。亡霊と言う名は、私の属する組織の象徴にしたかったらしいが、私には良い皮肉だ。

 

 既に修復された機体は万全の状態だ。

 

 だがISという存在を操る様になって今日まで土を着けなかった私に、組織は少々騒がしくなったが、私にとってはそれくらいして貰わねば張り合いがない。

 

 奴が赤い彗星の希望を継ぐ者ならば、私はその絶望を継ぐ者だ。

 

 今の世界が望むものは女尊男卑ではあるが、こちらは私が手を下すまでもなく勝手に物事は進んでいる。

 

 この器に込められたものは、ニュータイプの誕生だ。

 

 だがこの世界ではニュータイプを生むのは難しいことだ。人は宇宙に進出することでその秘められた力を覚醒させる。その力の一つがニュータイプというものだ。

 

 しかしこの世界の人類はアースノイドのみだ。ニュータイプになる為の土壌がない。

 

 女尊男卑などというくだらない争いをしている人類が、宇宙に巣立てるはずもない。

 

 であれば、その土壌を作るにはもうひとつの選択肢がある。

 

 ニュータイプのその多くは、宇宙という極限の環境の下で、闘争という刺激を受けて開花してきた。

 

 ならば我々がその土壌を作れば良い。闘争が人の進化を促すのは古来からの実証だ。

 

 ユキ・アカリ。その身に希望を宿す者ならば、この私を止めてみせろ。今の私には、以前の様な人の心の光は通用しない。

 

 そうだ。その純然たる力で、私を止めるしかないのだよ。ユキ。

 

 

 

 

to be continued…


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