IS-虹の向こう側-   作:望夢

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CCA回が反響良くて満足です。泣きながら書いた甲斐があったというもの。てかもうなんか燃え尽きた。
 
さて今回はハマーンの仕返しだ。


第13話-過ちの影-

 

「ニュータイプ研究所? この世界にもニタ研があるのか?」

 

 休暇を終えたおれは久し振りに爽やかな気分で朝を迎えられた。映画を観て、あの時のことを思い出したからだろう。この胸に宿る温かな希望を再確認したからだろう。

 

 だがそんな清々しい気分も冷や水を被されたように今は落ち着いていた。

 

「この世界にも超能力者だのエスパーだのという人種は存在するのだよ。ただ本来の一割の力も発揮出来ていないが。この世界には『ガンダム』というアニメが存在し、『ニュータイプ』という言葉も世俗には広まっている」

 

 前置きを語るハマーンが一束の紙を寄越した。

 

「オカルトとして笑われてきたそれだが、お前たちが人の心の光という物をこの世界にも齎した結果、馬鹿正直に研究を始めた者達もいると言うことだ」

 

 渡された紙の束を流し読みしたが、かなり非人道的なという言葉で片付けて良いようなものではなかった。

 

 倫理を無視した非道な実験。違法薬物の使用。

 

 流し見で良かったとおれは思った。腰を据えて読んでいたら、ニュータイプ特有の殺気で2、3人は人の心を殺していただろう。

 

 エゴを剥き出しにした人間の悪辣さを見た。

 

「直ぐに出る」

 

「言うと思ったよ。だがこれは軍部との合同作戦だ」

 

「軍部? 非正規軍の上に男のおれを使って良いのか?」

 

「あとでその資料をじっくり読んでみろ。ニュータイプのひとりやふたりは覚悟して良い」

 

 ハマーンの言葉を聞いて、男であることが知れるリスクがあっても、おれを引っ張り出す意味がわかった。

 

「ハマーンの方の管轄だけには出来ないのか?」

 

「こちらも一枚岩ではないのだよ」

 

 如何にハマーンが優れていようとも、やはり10代の娘という年齢では無理は出来ないのだろう。

 

「わかった。しかしニュータイプ研究所とは。世界が違えども人間のエゴは変わらないのか。まったく!」

 

「やはりニュータイプを人工的に産み出すのを嫌うか」

 

「当たり前だ。強化人間だ強化処置だ、無理矢理着ける力は悲劇と争いしか生まないんだ。ニュータイプは自然に目覚めてこその存在だ」

 

「その割にはやけに織斑一夏に構うじゃないか。自発的ではなく外から目覚めさせようとして、お前のやっていることも強化処置と変わらないよ」

 

「なにが! おれは請われたから彼を鍛えてるだけだ」

 

「お前は自分の同類が欲しいだけなのさ。寂しさから他のニュータイプを求めるところは変わらないな。だからシャアに付け込まれる」

 

「なにを!」

 

 ハマーンの言葉を否定したが、互いに理解している間柄、その本心はとうの昔に筒抜けだ。

 

 ハマーンの言う通りだ。おれは一夏を求めている。

 

 ララァを喪った時の傷は、おれに寂しさを嫌わせた。

 

 その寂しさの裏返しが、他人へ向ける優しさだった。優しさを向けてくれた人を邪険に扱う人間は居ない。優しさと引き換えに、他人との繋がりを求めた。

 

 デラーズ・フリートが壊滅して2年もの間。生きるために、他者との繋がりを求めて身体を売っていた時期があった。幸い容姿は少女然として整っていたから、そういう趣味の客には困らなかった。

 

 ある時、シャアと再開して、アイツはおれに他者との繋がりを是とする世界を作る夢を語った。人と人とが誤解なく分かり合える世界。ララァが見せてくれた刻の果ての希望。ニュータイプの未来。

 

 その時から、シャアの夢がおれの生きる目的になった。

 

 だが今はシャアはもう居ない。おれに生きる希望をくれたシャアを本能的に好きになってしまったおれは、ニュータイプの他者を求めるようになっていった。

 

 好きというよりは生きる柱。依存と言っても過言ではないだろう。

 

 グリプス戦役でシャアと離れたからまともに自立できるようになったが、でなかったら自分はクェスと同じになっていたかもしれない。

 

 そういう意味では、ハマーンという彼女との出逢いは、おれを自立させてくれた切っ掛けだった。

 

 シャアを求めた者同士。そして寂しさを抱えたもの同士。他人には思えなかったから、互いを知りたくて関わり合ったのだ。

 

 お陰で今、本心を語れる相手が居ることは嬉しい。

 

 でも、シャアとアムロにも一緒に居て欲しかったおれは、やっぱり寂しかった。二人を欲しがるおれはララァの事は責めきれないな。ララァが羨ましいよ。

 

 そんな欲張りのおれは、シャアの持つ純粋さと、アムロの持つ優しさ、その両方を持っている一夏がニュータイプになれば、一緒に居てくれるんじゃないかと、心のどこかで思ってしまっているのだ。

 

「私が居ながら不服か? お前らしくもない」

 

「違う。そうじゃない。ただ……」

 

 こちらの世界に来てから、心の片隅にぽっかりと空いている虚無。以前そこに感じていたはずの三人の想いを感じられないのだ。だから少し情緒不安定なのは否定しない。 

 

「可能性を感じるから、見てみたいんだ。ハマーンには、くだらない男のロマンチズムに見えるかもしれないけど」

 

「確かに、くだらんな」

 

 そうはいうが、ハマーンにだってわかるはずだ。ニュータイプの未来。その為には人類すべてがニュータイプになる必要がある。

 

 でもそんなことを80年少しの寿命しかない人間には出来っこない。人間は不完全で弱い生き物なのだから。

 

 だからその希望を託すんだ。託して、歩き続ける。どんな辛い道であっても。

 

 それを信じたアムロと信じることが出来なかったシャア。

 

 だからシャアは地球を寒冷化して人を無理矢理にでもニュータイプの覚醒に導こうとした。

 

 だからアムロはシャアを急ぎすぎたと断じた。

 

 ――今のおれなら、アムロに殴られるんだろうな。

 

「いたっ!! なにすんの!?」

 

「殴ってほしそうな顔だったからな」

 

「どんな顔だよ…」

 

 しかもビンタじゃなくてグーですよ。末恐ろしいなホントに。

 

「っっ、唇切った」

 

 結構な力が込められていた所為か、唇の端から血が出ていた。

 

「私を煩わせるなよ、ユキ」

 

「いっ! ハ、ハマーン!?」

 

 顎を指で持ち上げられたところに、ハマーンが唇の端を指で撫でる。血の着いた人差し指を舐める。まるで調味料の味をみるかのように人差し指に着いた血を舌で舐めただけなのに猛烈な羞恥心に押し潰されそうになる。

 

 対するハマーンは何事もないように、おれの唇の端に絆創膏を貼った。

 

 なんか猛烈に悔しい。

 

「いずれにせよ、軍とはある程度歩調を合わせる程度で構わん。あとは好きにしろ」

 

「わ、わかったよ…」

 

「やはりそちらのほうが良いよ、お前は」

 

「や、やだよ。ッ、ゴホン、遠慮しておくよ」

 

 わざと咳払いして砕けかかった口調を直す。やっぱり情緒不安定だ。今のおれは。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 奴が出ていった執務室で、私は込み上げる笑いを噛み殺していた。

 

「なかなかどうして、可愛がりがある」

 

 少し攻めてみれば、奴の仮面は脆かった。あんな映画なんぞを見るから自分を保てなくなるのだ。

 

 三年前のとある夜だった。地球を包む虹色の光を見たのは。

 

 オールドタイプにはただのオーロラに見えたのだろうが、私は視た。その光の温かさと優しさのなかで果て逝くシャアとアムロ・レイの姿を。

 

 そしてその中に居る奴の姿を。シャアとアムロの死を悼む姿は、私を看取った時と変わらなかった。相も変わらず泣き虫だと安堵した。

 

 人の起こす奇跡。それがもう一度奴と逢えるだろう機会だと確信した私は今の地位に登り詰めた。

 

 そしてコロニーレーザーをMSで受け止めるという予想通りのバカな真似をした奴は、こちらの世界に零れ落ちてきた。

 

 だがその雰囲気は少し変わっていた。子どもだった奴は、後に続く者の為に示し託す大人になったのだ。

 

 だがまだまだ青二才の若さがありすぎる。脆くなった殻は割れやすいと言うことだ。

 

 今の奴も、対等の立場としては良き者だが、私が親しんだ昔の方が可愛気もある。それに未だに初心でもあるようだ。攻めると面白い奴に育つとは、これが笑わずにいられようか。

 

「精々笑っていれば良いさ。写真程度で勝ち誇れるその矮小さは滑稽だよ」

 

 写真等という物に残さずとも、奴の中には私の遺した物が根づいている。シャアのものと共にされているのは気に食わんが、やつの根底に根差しているものだ。この際我慢するとして、次は何を遺してやるか考えるのが愉しくてしかたがない。

 

「勝ち誇れば良いさ、篠ノ之 束。上面だけでは奴は動かんよ」

 

 

 

 

to be continued…


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