IS-虹の向こう側-   作:望夢

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皆様からの様々な声を骨身に噛み締めながら筆を進めておりますわたくしです。今回は一夏がISを動かせる理由を書いてみました。そして話は進まない。早く話を進めたいです。


第11話-束の嘲笑-

 

「ふぁ~あ……。おはよう」

 

「おはよう」

 

 大きくあくびをしながらダボダボのタンクトップにパンツ一丁なんていう格好で起き抜けの彼を見るとニュータイプってなんだっけっと思う。

 

「おはよう……ございます……zzZ」

 

 そのあとをロング銀髪を枝が脇に伸びまくったみたいにぐしゃぐしゃにして、シャツも半分脱げかけでしかも立ちながらまた寝るクロエちゃんもやって来る。

 

 最近クロエちゃんがだらしなくなってきてる気がする。

 

 この絵面で普通は昨夜はおたのしみでしたねと思えないのは二人してだらしなさすぎるからだね。

 

「ほらクロエ、コーヒー飲んで目を覚ませ」

 

「はい……いただきます…」

 

 マグカップに入れられたコーヒー。目覚まし用だからあれはブラックだ。

 

「ぅぇぇぇ……に、苦い、です」

 

「目は覚めたろ? シャワー浴びに行って着替えるぞ」

 

「了解です…。ぅぅ」

 

 まだコーヒーの苦さを引き摺っているクロエちゃんの手を引いていく彼。

 

「折角だから私も入っちゃおうかなぁ?」

 

「別に良いんじゃないのか? おれは構わないよ」

 

 しれっと彼はそう言う。いやどうして? ちょっとは気にするとかもなし? これでも私それなりにスタイル良いし、おっぱいだっておっきいんだぞ!

 

「そういうムードなら意識もするだろうけど、博士はおれが軍人だって忘れてないか?」

 

 それってどういう意味?

 

「忍耐力ぐらいはあるということさ。身体は性欲旺盛でも、精神力で捩じ伏せるのなんてわけはない。だからクロエとだって普通に風呂に入っていられる」

 

 それってクロエちゃんを気にしてるってこと? 君ってもしかしてロリコンなの?

 

「違うわ。てかクロエも普通に欲情するくらいにはキレイだぞ。ただ襲うわけにはいかないだろ。猿でもあるまいし。33歳童貞現役を嘗めるな」

 

「私、キレイですか…? 興奮しますか?」

 

 なんだかキラキラと擬音が聞こえそうな程にくりくりした眼を彼に向けるクロエちゃん。盲目的にぞっこんなクロエちゃんからすると気になるんだと思うけど、なんか違う。

 

「なんか変な話になってきたから、とりあえずお風呂入ろっか」

 

「そうだな」

 

「マスター、答えてください。私で興奮しますか?」

 

 なんか朝から変な雰囲気になりながら、流れでお風呂に入ることになったわけだけども。

 

「マスター、お背中流します」

 

「ああ。頼むよ」

 

 クロエちゃんの頭を彼が洗い終わると、今度はクロエちゃんが彼の背中を洗い始めた。

 

「……クロエ」

 

「なんでしょうか?」

 

「タオルはどうしたんだ」

 

「必要ですか?」

 

「ここは風俗じゃないぞ」

 

 さっきまでタオルを巻いていたクロエちゃんは裸になって、自分の身体を使って彼の背中を洗っていた。

 

「こうすると男の人は喜ぶはずなのですが。嬉しくないですか?」

 

「俗物共が……」

 

 眉間を押さえながら引き攣っている彼の顔は正直恐かった。いや思う気持ちはわかるけど。

 

「博士、頼めるか……?」

 

 彼の言わんとする事はわかる。面倒ごとはイヤだけどこれは修正しないとダメだ。

 

「仕方ないね。その代わり、ひとつ頼まれてくれる?」

 

「内容によるけど、わかった」

 

 とりあえず私が教えられるかどうかわからないけど、クロエちゃんの教育を承った。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「織斑一夏をISに乗せる? 本気なのか」

 

「でなかったら、君に話は振らないよ」

 

 クロエちゃんがトレーニングしてる合間。工作機械を使ってISを組んでいる彼に打ち明けた。

 

 MSのIS化技術を教えた彼は、その技術を使って新しい機体を組んでいた。まだ装甲を施し切れていないが、その形は間違いなくガンダムMk-Ⅱだとわかる。

 

「でも何故だ。男である彼をISに乗せればどうなるか想像がつかないわけでもないだろう」

 

「うん。きっと世界中がいっくんを欲しがるだろうね。でも、今回いっくんはちーちゃんの邪魔をするために拐われた。君とクロエちゃんが控えてたから良かったけど、でなかったらどうなっていたかわからない。いっくんになにかあったら、ちーちゃんも箒ちゃんも悲しむ。私はそれがイヤだ」

 

「だから敢えてISという自衛権を持たせると? 世界中から狙われるとわかってもか」

 

「だって、また狙われないとも限らないし。国が用意する護衛が役に立たないのなんてわかりきってる。だからせめて自分を守れる力があれば、いっくんだったらそれを正しく使ってくれると思う。それとも、四六時中いっくんの傍に君が居てくれるの?」

 

「ふむ……無理だな」

 

 ニュータイプだって万能じゃないのは私にだってわかってる。ニュータイプはやっぱり人間だ。人間が進化したって言っても、別のナニかにならない限り人間と同じだ。

 

 こうして会話はするし。悩みも、考えもする。人間と同じ。ただ、人の心を感じて理解する事が出来る人間というだけだ。

 

「だがISにどう乗せる? おれみたいな方法は無理だろ。彼は確かに素質を持っているが、まだオールドタイプだ。コアにどう織斑一夏を認識させる」

 

「それに関しては問題ないよ。君の稼働データと、ちーちゃんといっくんが姉弟だから出来る裏技があるから」

 

「裏技?」

 

「そう。要はニュータイプが動かしていると、コアに感じさせれば良い。いっくんの脳波を君の脳波に変換させるシステム。擬似人格コンピューターtypeY.A.の出番というわけだよ」

 

「いつの間にそんなものを」

 

 ちなみにこれはガンダムF90の擬似人格コンピューターとF91のバイオコンピューターがヒントになった。

 

 ISも搭乗者の脳波を機体の動きに反映している。そういう意味だとISはバイオコンピューターを積んでいるわけだけども、あくまでそれは機体を動かすためで、サイコミュとは違う。

 

 彼のISコアはサイコフレームを使って、バイオコンピューターの様に直接機体に彼の存在を認識させているけれど、それは彼がニュータイプという他人とは違う脳波を持っているから出来る裏技だ。

 

 その裏技を発展させて、パイロットの脳波を彼の脳波に変換するコンピューターを間に挟んでやれば、男でもISを動かせるということになる。あとはいっくんがちーちゃんの弟だから、遺伝子パターンを誤魔化せば動かせる方法もある。そして1度動けば、いっくんの存在を認識したISはいっくんにも反応させる事が出来るわけさ。

 

「二つの裏技でISに織斑一夏の存在を認めさせるか。何故そんな面倒な仕様にしたんだか」

 

「え? だっていっくん以外の男なんてハッキリ言ってどうでもよかったし」

 

「そういうわけか。ISが女にしか動かせない理由は」

 

 なんか拍子抜けしたという様子の彼に、首を傾げる。私、変なこと言った?

 

「いやいい。となると、もう一度ドイツに出向く必要があるな」

 

「え? なんで」

 

「本人の了承も得ずに勝手に話を進めても無駄だ。それに織斑千冬は織斑一夏をISに関わらせたくない様に思えた。迎えに来た時にも、自身はドイツに作った借りの為に軍の教官をやるから残るが、織斑一夏には日本に帰れと言ったしな。余程の過保護だな彼女は」

 

 それは君も他人のこと言えないでしょ。クロエちゃんに甘々なんだからホント。

 

「だが巻き込まれたとはいえ、裏に関わったのだから平穏に暮らすのは難しいだろう。ドイツにハマーンが居て良かった。ハマーンなら、織斑一夏にアリの一匹も触れられないからな」

 

「やけに信用するよね。敵じゃなかったの?」

 

「敵……、というよりはライバル、いや同士か。おれが一年戦争後にアクシズに向かっていたら、恋人という関係もあったかもしれない。でも互いにネオ・ジオンの指導者とエゥーゴの指導者の代役者。意見の食い違いと立場から争ったが、決して分かり合えていなかったわけじゃない。よく言葉には出来ない相手だけれども、彼女の手腕は信用して良いのは保証する」

 

 そう言いながら優しい顔を浮かべる彼。それはクロエちゃんに向ける親愛の優しさとは違う顔。

 

 昔を懐かしみながら、どこかまんざらでもなさそうな、恥ずかしさを隠した顔だった。

 

 なんでだろうね。そんな顔をされると良い気分じゃない。

 

 ララァ・スンの事を話す時にも似たような顔をするけど、その時は今の顔の中に深い悲しみと、既に過去の事だと割り切っている顔をするから気にしないでいられるけど。

 

 ハマーン・カーンの話になると優しさと嬉しさを感じる顔をするのがなんか気に入らない。

 

「ん? 珍しいな。ハマーンからか」

 

 彼のISに通信コールが入ったらしい。

 

 ウィンドウには中学生くらいの桃色のツインテールの女の子が映る。間違いなく若き彗星に出てきたハマーン・カーンそのままだった。ただその釣り上がった目元だけはネオ・ジオンを率いたハマーン・カーンだろう強さが見える。こんなアンバランスな女の子、実際に居るなら気味が悪い。でもそれを問答無用で捩じ伏せるプレッシャーを見ているだけで感じる。恐い娘だと素直に感じるならそう思う。

 

「どうしたハマーン。なにかあったか?」

 

『織斑 一夏が鍛えて欲しいと泣きついてきてな、私は忙しい身だ。お前が面倒を見ろ』

 

 それを聞いた彼は、一瞬キョトンとしたけれど、直ぐに話を理解した表情になった。またニュータイプ同士の交感でもしたのだろうか。

 

「なるほど。わかった。丁度組み終わったガンダムMk-Ⅱが2機ある。コアも含めてそちらに向かう」

 

 そう言いながら一瞬私を流し見る彼。その意図はわかっているから、私も頷く。

 

『了解した。伝えておこう』

 

「ああ。頼む」

 

 言葉少なく、話を纏めて通信を終えた両者。

 

 ニュータイプって通信越しでもそんなに簡単に相手の事がわかるのだろうか。

 

「いや。これはおれとハマーンだからだ。シャアとアムロがそうであるように、互いをわかっているから話も、考えもわかるだけさ。だから博士とはちゃんと会話をするだろう」

 

「それはそうなのかもしれないけど」

 

 私はユキ・アカリという人物をまだまだ知らない。その過去だって、何処に所属して戦った程度だけ。話されたくらいのことしか知らないけど。

 

 こちら側では私の方が彼と関わっているのに、あんな会話をされる。やっぱりニュータイプってズルいと思う。

 

「まぁ、渡舟だ。向こうから申し出るなら、確り面倒は見るさ。おれにもロンド・ベルMS部隊隊長の矜持はある」

 

 そう言って得意気にする彼は、言葉はカッコいいけれど、見掛けが童顔で華奢な男の子なだけにちょっぴりカワイイマスコットな感じを受ける。

 

 うん。普通にマスコット的な人気はあったと思う。

 

「マスコット言うな! ソロモンでさんざっぱらマスコット扱いされてたんだ、もうお腹イッパイだ!」

 

 あ、されてたんだ。

 

「そうなんだよ。聞いてくれよ。大体おれだって16のハイスクール生と同じだってのにさあ――」

 

 その後、延々と彼の愚痴を聞かされたわけだけども、マスコット扱いされても仕方がない。

 

 椅子に座った彼を真ん中にして、その両肩に手を置きながら笑っているドズル・ザビを筆頭に、周りには柔らかい顔を浮かべる屈強な男たちの写真。

 

 あのソロモンの悪夢ことアナベル・ガトー、その戦友ケリィ・レズナー大尉、赤い彗星のシャア・アズナブル、青き巨星のランバ・ラル、白狼ことシン・マツナガ等々。ぱっと見でわかる宇宙世紀でも有名なパイロットたちに囲まれているキリッとしながらも満更でもない顔を浮かべる彼は周りよりも二周りは小さくて幼く見える。

 

 中でもランバ・ラルとケリィ・レズナー大尉やら、大人たちには相当子供扱いされて可愛がられた様な事が愚痴の中から窺える。殺伐とした戦場での癒し枠でしょ? 仕方がないんじゃないかな。

 

 そしてアナベル・ガトーやシン・マツナガの様な(おとこ)になりたかったらしいが。

 

 ラー・カイラムの中で撮ったのだろう写真には、アムロの隣に一回り背の小さい男の子が写っている。男性じゃない。少年でもない。男の子だ。一年戦争の時から少しだけ大人になった感じの男の子。

 

 艶やかなセミロングの黒髪の所為で年頃の女の子に見えなくもない彼がアムロより年上の30歳だと言うのだからもう言葉もない。

 

 しかし何故そんなにも時間が飛ぶのか気になって他の写真も見せてもらったら、エゥーゴ時代もあまり一年戦争当時と変わらないからだった。むしろショートカットの髪だけセミロングにしたらしく、もうマスコットよりお人形さんだった。

 

 うん。カワイイよね。

 

「やめろ! その生暖かい眼を向けるな!」

 

 カミーユとアムロが写っているからたぶんホンコンで撮ったやつだとは思うけれど、カミーユと並ぶと二人とも女の子みたいに写っている。

 

「本人が居なくて良かったな。居たら噛みつかれるぞ」

 

 ジェリド乙ですね。わかります。

 

 でも彼の持つ写真データは面白い。

 

 他にはデラーズ・フリート時代の物か。エギーユ・デラーズを挟む様にアナベル・ガトーと写っている写真もあった。ただハマーン・カーンと写っている写真はなかった。

 

「ハマーンは写真が嫌いだからな。シャアを思い出してむしゃくしゃするらしい。言うなよ? おれが殺される。比喩じゃなくガチだ」

 

 なら言わなきゃ良いのに。でも良いこと聞いちゃったなぁ。うんうん。そっかそっか。

 

「ねぇ、アカリ。せっかくだから写真撮ろう」

 

「まぁ、構わないけど。クロエも呼ぶか」

 

 うーん。二人だけで撮りたいけど。二回撮れば良いかな。

 

 彼を真ん中にしてクロエちゃんと私が両脇に居る写真は、写真立てに飾って、私の部屋の机に飾ってある。

 

 ただこの写真立ての裏の隅にある小さな隠しボタンを押すと、写真が変わる。

 

 シャッターが切れる瞬間を狙って、彼を後ろから抱き締めた写真。身長差から丁度彼の頭が私のおっぱいに当たるから思いっきり抱き締めた彼の頬は少し朱くなった徹底的瞬間の写真。

 

 いやはや、彼も男の子なんだね。わざわざ量子格納でノーブラにして抱きついた甲斐があったというもの!

 

 あのハマーン・カーンすら持っていない彼とのツーショット。しかも私を意識したテレ顔付き。

 

 ふっふっふっ、精々悔しがると良いさハマーン・カーン。彼を拾ったのは私だよ? だから彼は私のモノさ。私だけのニュータイプなんだよ。

 

 だからつまらないダメ男に騙される小悪党女は草葉の陰で泣いていれば良いんだ。

 

 

 

 

to be continued…


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