IS-虹の向こう側-   作:望夢

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IS組のニュータイプ化に是非を問う声があったので、プロットを根本的に見直すか悩んでいます。

とりあえずクロエに関しては……強化人間ってことで勘弁してください。空間認識能力の拡大とかも強化処置の中にはあったと思うので。


第10話-織斑一夏の決断-

 

 モンド・グロッソが終わってから一ヶ月が経った。

 

 俺は日本に帰ることなく、まだドイツの地に居た。

 

「うおおおおお!!」

 

 俺の降り下ろしたビームサーベルをユキは降り下ろされる軌道に合わせてビームサーベルを振り上げてきた。

 

「まだ間合いが甘いぞ。それと大振りに振り下ろすのをどうにかしろ。初動がバレバレだ。射撃が苦手な分は間合いの読み合いでなんとかしろ」

 

「なっ!? ぐあああっ」

 

 唾競り合っていたビームサーベルを一瞬消したユキ。拮抗する力の支えを無くした俺は込めた力の勢いに前のめりになる。そこに蹴りを喰らって吹き飛ばされる。

 

 同じガンダムに乗っているはずなのに、良いようにあしらわれる。

 

 ガンダムMk-ⅡをISサザビーと同じようにISにした機体で俺はユキと戦っていた。

 

 ユキはティターンズカラーよりは少し明るい紺色。俺のはエゥーゴカラーの白のカラーリングがされている。

 

 どうして俺がこのガンダムMk-Ⅱに乗っているのかというと、俺が望んだことだからだ。

 

 千冬姉ぇにいつまでも守られてばかりじゃダメだと思ったからだ。

 

 モンド・グロッソ決勝戦。試合に勝った千冬姉ぇは、でも表彰式をすっぽかして俺の所に来てくれた。

 

 それは嬉しかった。でも同時に悔しくて、情けなくなった。

 

 俺の所為で千冬姉ぇは表彰式に出れなかった。ブリュンヒルデという世界一の称号。それを手放すことになったからだ。

 

 だから俺は今よりももっと強くなりたいと思った。少なくとも自分の身は自分で守れるようになりたいと思った。

 

 少し大きな木製の扉を前にして、固唾を飲む。何の変哲のないただの木製の扉だ。だがその扉の奥に居る人物のことを思うと、身持ちが固くならない方が無理だ。

 

 ただのなりきりコスプレイヤーなんて生易しいものじゃない。あの少女(ひと)のもつものは本物と感じとることが出来る。

 

 アニメの登場人物のはずだ。そう思えなくなったのは間違いなく、ユキに見せられたものの所為だ。

 

 だから見た目は自分と同い年くらいでも、気が抜けない。むしろガチガチに固まる。俺はガノタってわけじゃないけど、その女性(ひと)のことを知っている。だから余計に肩の身が張る。

 

 それでもこの溶接されたみたいに動かない足を進めないと話は始まらないのだ。

 

 不可視の重圧を掛けられたように重い腕を上げて、ノックする。

 

「誰だ?」

 

「あ、っと。俺、です。織斑 一夏です」

 

「織斑 一夏か。入れ」

 

「し、失礼します」

 

 ガチガチに緊張しながら扉を開ける。

 

 そこにはティーカップでお茶を飲んでいた途中だろうこの屋敷の主。ハマーン・カーンの姿がある。

 

 見た目は可愛いお嬢様なはずなのに、そう感じるのは見掛けに囚われるからで、本質を知っていれば、そんな生易しいものを感じることはない。

 

「どうした、ただ突っ立って私の顔を見にきたわけではないのだろう?」

 

 ティーカップに口を着けながらニヒルに笑って此方に声を掛けるハマーンの姿は、同年代とは思えない妖美さと気品さがある。たぶん他の同年代の女の子がやっても背伸びをしたような温かい目を向けられるのだろうけと、こと彼女はそれがまったく違和感なく嵌まっているのは、彼女が普通ではないからだろう。

 

 そんな相手に、ただの中学生の俺の言葉が通用するかどうかなんてわからないが、やるしかないと意を決して口を開いた。

 

「忙しい中で悪いと思いましたが、この織斑 一夏。お願いがあって参りました」

 

「なるほど。このハマーン・カーンと知って願い出るか。だが私がそのようなことで動く女でないことは知っているのだろう?」

 

 愉しい見せ物でも見るかのように厭らしい笑みを浮かべながら言い返すハマーン。

 

 悔しいけど、彼女の言う通りだ。俺は彼女と親しいわけじゃない。だから俺の言うことに興味がなければ切り捨てられるだけだ。だからと言って彼女を楽しませるトーク術も話題もない。

 

 ええい! 男は度胸だ。正面から行ってやる!

 

「俺を、鍛えて欲しいんです。千冬姉ぇにも負けないくらい強くなりたいんです。お願いします!」

 

 言い切って、頭を下げた。こんなに真面目に誰かに物事を頼んだのは初めてかもしれない。これで取っ掛かりを掴めなければそれまでだ。

 

「では訊くが一夏。お前は世界最強のブリュンヒルデに比する力を得てなにをする」

 

「俺は弱いから、千冬姉ぇに守られてばかりじゃダメだと思って。だから俺は……千冬姉ぇより強くなって、千冬姉ぇを守れるようになりたい!」

 

「その力を私が利用するとは考えんのか?」

 

「そういうことになれば構わない。今の俺は一人じゃなにも出来ないから、俺は貴女に頼るしかない。だから利用されるのも承知だ」

 

「それで人を殺すことになってもか?」

 

「それは……」

 

 俺はハマーンの言葉に即答出来なかった。人殺しは悪いことだ。だからいざ人を殺せと言われても、俺にはそれを出来ないと思ったからだ。

 

「まだ青いな、一夏。私はこのドイツの裏を取り仕切っている身と言っても過言ではない。その私に何も見返りも出せないお前が頼み事を言うのだ。それ相応の対価も予想しておけよ」

 

「うぐ……」

 

「だがその若さと実直さに免じて、代理人くらいは立ててやろう」

 

「代理人?」

 

「私も忙しい身だ。お前に構う暇がない。だが安心しろ、優秀な教官を呼んでやる」

 

 そう言いながらハマーンが投影ディスプレイを操作すると、ユキの顔が映った。

 

『どうしたハマーン。なにかあったか?』

 

 ディスプレイに映ったユキはシャツが汗でびっしょりの俺とは違って、涼しげに通信に応えていた。

 

「織斑 一夏が鍛えて欲しいと泣きついてきてな、私は忙しい身だ。お前が面倒を見ろ」

 

『なるほど。わかった。丁度組み終わったガンダムMk-Ⅱが2機ある。コアも含めてそちらに向かう』

 

「了解した。伝えておこう」

 

『ああ。頼む』

 

 2分も話さずに話を纏めた二人。ハマーンはわからなくもないが、そのハマーンとトントン拍子に話を纏められるユキって何者なんだ。

 

「奴は否定するが、本気になれば一軍を率いる力を持った男だ。私と来てくれればグレミーの反乱などなく、今頃地球圏はネオ・ジオンのものだっただろうな。シャアと並ぶジオンの導き手になれただろうに、戦士であることを選んだ卑怯者だ」

 

 昔を懐かしむように語るハマーン。卑怯者と言葉は責めているのに、柔らかさがあった。ああ、この人なりの惚気けなんだよこれが。分かりにくい。よくユキはこんなにも分かりにくい人と付き合えると感心する。

 

「このハマーンを使ったのだ。お前の言った理想は叶えてみせろよ。私を失望させればどうなるか、わからぬものでもあるまい?」

 

「ああ。わかっているさ」

 

 こうして俺は力を付けるためにISという兵器に乗ることになった。ISは女性にしか動かせないと言われているけれど、事実ユキはISに乗っている。

 

 そして俺も今はガンダムMk-Ⅱという機体に乗っている。

 

 機動戦士Zガンダムの中盤まで主人公のカミーユが乗っていた第二世代型のMSの雛形となる機体だ。

 

 高い汎用性と機動性を持っていて扱いやすい機体だとユキは言っていた。

 

 確かに動きやすくて、俺の思うままに動いてくれる良い機体だ。といってもユキ相手にボロ負けしている。

 

 同じ機体のはずなのに、まったく歯が立たない。ビームライフルを自動照準に任せているから悪いのかもしれないが、まったく中らないし。

 

 ビームサーベルを抜いても負けるしで、正直へこみそうになる毎日だ。本当に強くなれてるのかわからないまま、今日も俺はガンダムMk-Ⅱで挑みかかる。

 

 

 

 

to be continued…


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