IS-虹の向こう側-   作:望夢

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最初は真面目に書いていたんだが、なぜこうなったのかわからん。果たしてこれで良かったのだろうか?


第7話-救出と邂逅-

 

 発信器の反応を辿って辿り着いた資材倉庫。

 

「さて、どうするか」

 

 そこから数キロ離れた高層ビルの屋上からおれたちは倉庫の様子を伺っていた。

 

 こういう場合は強襲して一気に突き抜けた方が速いのだが、人質を取られでもしたら厄介だ。

 

 さすがにパワードスーツのような物はないだろうが、ISが控えている可能性も捨てきれない。

 

「とは言え、このまま黙っていても事態が騒がしくなるだけか」

 

 速攻を仕掛けるのならば速い方が良い。

 

「クロエ、スキャンは終わったか?」

 

「はい。見張りは正面に2人。倉庫の中に6人。特殊装備などは見受けられません」

 

 ということは、有って精々が対人火器程度だろう。対戦車装備があったとしても、ISには無力だ。

 

「よし。おれが正面から行く。クロエは上から直接織斑 一夏を救出だ。わかるな?」

 

「はい。了解しました」

 

 ニュータイプ同士であるから、互いに言葉短くてでも意味が通じるというのは便利だ。だがそれも互いを受け入れ合っているからこそだ。

 

 正面からおれが注意を引いている間に、クロエには倉庫の天井をぶち抜いて織斑 一夏を助け出すという作戦だ。

 

 手を汚すのは自分だけで十分だ。

 

「お気をつけて、マスター」

 

「ああ、クロエもやれる。心配するな」

 

 額を重ねて頭を撫でてやる。今一クロエは自分の能力に自信がない様だが、普通にラー・カイラムでエースをやっていける腕は持っているのだ。もう少し自信を持っても良い。

 

 だからおれが彼女を肯定してやらないとならない。

 

 今のクロエは、おれという存在を支えにしている。だからこそ余り否定することが出来なくて教育に苦心しているのであるが、そこは追々考えるとしよう。

 

「作戦の成功を」

 

「お互いにな」

 

 一時の別れを告げ、おれはビルを飛び降りた。ハイパーセンサーでは、クロエもISを纏ってフライングアーマーで飛び立つのが見える。PICを起動。重力という枷から解放されたISサザビーが、空を駆ける。

 

 ビルの上を駆け抜け、倉庫街の前で地面に降り立ち、他の倉庫の影を使って、目的の倉庫に近づいていく。フライングアーマーで一足先に上空でクロエは待っている。

 

 あとは突撃を掛けて連中の注意を引き付けるだけだ。

 

「ッ!? クロエ、下だ!!」

 

「くうううっ」

 

 倉庫の中から弾丸が突き抜け、空中に待機するクロエのフライングアーマーを撃ち抜いた。

 

 警告が早く、フライングアーマーが撃ち抜かれた時には、クロエのギラ・ドーガ サイコミュ試験型は離脱していた。

 

 そして倉庫の屋根をぶち抜いて空に飛び出したのは一機のISだった。

 

 ラファール・リヴァイブ。幅色いオプション装備によりあらゆる状況に対応できる第2世代量産型IS。

 

 それは肩に物理シールドとレドームが装備され、ISの全長近くある長身のライフルを装備していた。

 

 倉庫街はほぼ徒歩で移動していたサザビーと違って、クロエのギラ・ドーガ サイコミュ試験型はステルス迷彩とはいえフライングアーマーで旋回しながら待機していた為、レドームのセンサーに気づかれたのだ。

 

 ラファールはそのままクロエの方に向かって行った。

 

「アレがクロエに向かうなら」

 

 迷っている暇はない。様子を伺っていた物影から飛び出し、バーニア全開で倉庫の入り口に向かった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 空に飛び出してくるIS。ラファール・リヴァイブの装備は遠距離型だとわかる。だが、ISに取って武装というものはMSの様に固定ではない。それも装備類の多さから多種多様の形に変わるラファール・リヴァイブもその限りではない。

 

 クロエを攻撃したラファール・リヴァイブは物影から飛び出したサザビーに気付くも、行かせはしないと、ビームライフルで牽制し、注意を引く。

 

 ラファール・リヴァイブは腕に持つロングレンジライフルを撃ち返してくる。それをアポジモーターを僅かに噴かして回避する。レドームのお陰か、射撃は恐ろしく正確だった。だが――。

 

「正確過ぎるのも!」

 

 射撃は正確。弾速も速い。だが連射は出来ないのか、一発一発を見切れば良いのだから避けるのは簡単だ。

 

 ラファール・リヴァイブはライフルでは埒が明かないとしたのか、ロングレンジライフルとレドームをベルトの繋がったライフルと箱の様なパーツに換えると、先程とは桁違いの弾丸を放ってきた。

 

 マシンガンの弾幕の中でも、クロエは冷静に射線を見切って回避する。連続で射撃する所為か、狙いが甘く却って避け易くなったのだ。

 

「そこっ!」

 

 回避に徹していたクロエが、弾幕が甘くなった僅かな一時を突いてビームライフルを撃った。

 

 打ち出されたビームはラファール・リヴァイブのマシンガンを撃ち抜いた。

 

「今だ、ファンネル!!」

 

 完全に弾幕が途切れた隙に、クロエは勝負に出た。

 

 両肩から射出される6基のファンネルが、サイコフレームで増幅されたクロエの意思を受けて展開する。

 

「あたれえええええーーっ!!!!」

 

 ファンネルから放たれたビームがラファール・リヴァイブのシールドを貫いてスラスターを潰していく。

 

 絶対防御すら発動する攻撃の嵐にあっという間にエネルギーの尽きたラファール・リヴァイブは墜ちていく。

 

 初めての実践で脅威を退けたクロエはファンネルを回収すると肩の力を落とした。最大の脅威と言えるISを排除して一段落と言った風に気を緩めてしまったのだ。戦場の真っ只中で。

 

「なるほど。なかなか筋は良いが、戦場は初めての様だな、(むすめ)

 

「え?」

 

 いつの間にという思考すら追い付かずに、目の前が真っ暗になると、そのまま引き摺り降ろされる感覚に見回れるクロエ。

 

 そして二度に渡り身が砕けそうな強い衝撃を感じると、そのまま真っ暗な闇へと意識を持っていかれるのだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 物影から身を出して直ぐに男二人はこちらに気づいた。やはり赤い機体は目立ちすぎる。

 

「あ、IS!?」

 

「違う、MSだ!」

 

「死にたくなければそこをどけ!!」

 

「な、なんだぁ!?」

 

「と、トリモチランチャーだ! マジで取れねー!」

 

 見張りの男二人に向けてトリモチランチャーを撃ち込み、身動きを封じると、倉庫の入り口を蹴破った。

 

「時間が惜しい。使ってみるか!」

 

 推進材が噴き出すバーニアを一時停止。慣性が掛かる中でバーニアからエネルギーを放出、そのエネルギーをバーニアに圧縮しながら取り込み、推進材と合わせて一気に放出する。

 

「ぐおおおっ!? っく、なんという加速力だ…!」

 

 瞬間的に身体を襲うGに骨身が軋みを上げるのがわかる。

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)というISの特殊加速技術らしいが、やればできるらしい。

 

 普段のサザビーとは違った加速力で、あっという間に倉庫の中を突き進んだ。

 

「なんだコイツは!?」

 

「くうううううっ!!」

 

 トップスピードから機体各所のアポジモーターから全力で逆制動を掛ける。反動のGが内蔵を掻き乱すが、歯を喰いしばって耐える。

 

 サザビーが降り立ったのは丁度男たちの前。織斑 一夏を背中に庇う形になった。鉄骨に縛り付けられているらしいが、外傷はないようだ。

 

 突然の来訪者に驚く男たちが各々に銃を抜くが、IS以前にガンダニュウム合金製の装甲には意味がない。

 

「少年! 息を止めて眼を閉じろ!!」

 

 シールドからミサイルを床に撃つと、爆発ではなく煙幕が辺りを包む。

 

 煙幕で盛大にむせる男たちを殴って気絶させていく。

 

 事が終わった為、スラスターを噴かして煙を吹き飛ばす。

 

「もう良いぞ。無事か、少年」

 

「え? あ、は、はい」

 

 目紛るしい状況の移ろいに、一夏は眼を丸くさせて理解が追いついていないようだ。

 

 無理もない。姉の応援に来ただけの少年が、いきなり誘拐されたと思えば、赤いロボットが助けに来て、話しかけてくるのだ。事態が急変しすぎて、大人であってもパンクするだろう状況だろう。普通の少年が直ぐ受け入れられるはずがない。

 

 サザビーを一度解除したおれは、織斑 一夏が拘束されている縄を解いて手を貸した。

 

「ほら、立てるか?」

 

「ああ、えっと、はい」

 

 手を借りて立ち上がった一夏は、目の前の事が夢なのではないかと錯覚しそうだった。声質も高く、顔も中性的だが、自分と同い年くらいだろう男がISを動かしていたのだ。

 

 いや、ISではなく見掛けはMSだった。だが地面から浮いていたし、パワードスーツのように降りるのではなく光となって消えた。そんなもの、ISしか知らない。

 

「特にケガがなくてなによりだ。君に何かあれば、博士が煩いだろうからな」

 

「博士って……誰が」

 

「篠ノ之 束博士が依頼主だ。ちなみに今見たことはオフレコだぞ?」

 

「あ、ああ。わかったよ」

 

 安心させるために素顔を見せたが、一夏の返事を聞いて大丈夫だと確認し、再びISサザビーに身を包む。

 

「さて、さっさとこんなところは引き払って、君の姉に無事な姿を見せてあげなければな」

 

 そう言いながら、織斑 一夏を担ぎ上げようと手を伸ばした所で、天井を何かか突き破って地面に激突した。

 

「ゲホッ、エホッ、な、なんなんだいったい……」

 

 巻き上げられた土埃にむせる一夏。

 

 サザビーがそうした様に土埃の中でスラスターを噴かす音が唸る。

 

 土埃を吹き飛ばしたのは純白のIS。

 

 突き破った天井から降り注ぐ陽光が、その姿をより美しく照らし出す。

 

「クロエ!」

 

 その純白のISの下敷きになっているギラ・ドーガ サイコミュ試験型を見てクロエの名を叫ぶ。反応がないのは気絶しているからか。

 

 純白のISはゆっくりとした動きで、馬乗りになっていたギラ・ドーガ サイコミュ試験型の上から立ち上がって、此方を見詰めてきた。

 

「くっ、かはっ……!」

 

 そのISから放たれる肩を押さえつけられる様な強烈なプレッシャーに、一夏は固い息を吐いて膝を落とした。

 

「久しいな。またこうして逢えるとは思っていなかったよ」

 

 ISから放たれた声。それは年若い少女特有のソプラノの利いた声だったが、その言葉には聞くものに重々しい重圧を感じさせられる。

 

 あり得ない。ビームショットライフルを向けながらも、おれの心の中はそんな思いでいっぱいだった。

 

 この気迫とプレッシャー。それはもうこの世には居ない女性が放つものだった。無意識の内に、なにも握らない左手を握っては開いてと、その手にかつて感じたものを確かめる様に動かしていた。

 

 純白のISが解除され、パイロットの姿が現れる。

 

 ツインテールに結んだ桃色の髪は、見た目の少女らしさから違和感はない。だが、面影がある顔からその瞳を見て、あり得ないながらに確信してしまった。その力強く年齢不相応な切れ目の海の様に深い蒼の瞳は、見違えるはずがない。

 

「私を覚えていてくれて嬉しいよ。ユキ」

 

「ハマーン……。ハマーン・カーン」

 

 確かめるように、そして思い出して噛み締めるようにその名を紡いだ。

 

 ハマーン・カーン――。

 

 一年戦争で敗れたジオン最大の残党、アクシズ。そしてシャアが率いる前のネオ・ジオンの実質的な指導者。

 

 指導者としてのカリスマを持ちながら、MSのパイロットとしても相当な腕を持った女性だ。

 

 彼女とは幾度か関わる内に、その心にある寂しさを知った。

 

 グリプス戦役時。激しい戦いの中で愛機だったZプラスが大破して宇宙を彷徨うはずだったおれはアクシズに拾われた。

 

 赤い彗星に並ぶジオンのエースパイロットにしてニュータイプ。

 

 おれ自身にそんな気はないが、アクシズでは相当な有名人扱いを受けた。その時に、腰を据えてハマーンという女性と関わりを持った。

 

 互いにシャアの被害者であることも手伝って、そこまで険悪な仲にはならなかった。ハマーンはザビ家再興は建前として、地球に居座る者達を抹殺し、スペースノイド、いずれはニュータイプの世界を作ろうとしていた。

 

 ニュータイプの世界を作る。その点においては互いに道を同じくしていたが、その過程に至るまでの意見の違いに、結果は敵対することとなった。

 

 MSのパイロットとして、ニュータイプとしてのすべてを出し切ってぶつけ合い戦った結果。辛うじて勝利したおれの腕の中で、永遠の眠りに着いたはずの彼女が目の前に居る。それが事実なのだ。

 

 一歩ずつ歩み寄られるだけでプレッシャーは増し、彼女が目の前に居るという現実を認めさせられる。

 

「どうした? ISを解いて、私に顔は見せないのか?」

 

「…………」

 

 ISを解除するのは危険だろうが、こちらは織斑 一夏とクロエを人質に取られているような物だ。

 

 サザビーを解除して、ハマーンと対峙する。

 

 警戒するおれを余所に、ハマーンはさらに歩み寄ると、腕をおれの背中に回して、胸に身体を預けられた。

 

「ハ、ハマーン!?」

 

 抱かれていると理解するのに随分と時間がかかった。ハマーンという女性は人前でその様な事をする人ではないからだ。

 

「ああ、この鼓動だ。私を看取ったこの鼓動の音。貴様は変わらないな」

 

「ハマーン……」

 

 ISスーツを着ないでサザビーに乗っていた自分と、グリプス戦役で来ていたあの黒い服に身を包むハマーン。数枚だけの布の向こうに感じる鼓動は、確かな温かさを持っている。

 

「ッ、ハマーン!!」

 

 抱き着かれてどうすれば良いのか持て余していたところに、気絶させた男たちのひとりが眼を覚まして、銃をこちらに向けているのが目に入った。

 

 つい反射的に彼女を抱きすくめて、銃口に背を向けた。銃声が響いて、銃弾が腕を掠めた。

 

「っぅぅ」

 

「ユキ! 俗物風情がよくも!!」

 

 激昂するように声を荒げたハマーンから強烈なプレッシャーが放たれ、怒気を孕んだ思念波がビットを展開し、銃を撃った男を穴だらけにして命を蒸発させた。

 

 ハマーンは身体を離すと、銃弾が掠めて血が流れている右腕に、上着の裾を破ってキツく縛って止血をしてくれた。

 

「ユキ、私と共に来てもらうぞ。そこの少年と娘もな」

 

 利き腕が今すぐ万全に使えない自分に拒否するメリットもない為、おれはハマーンの申し出を受けることにした。

 

 

 

 

to be continued…

 

 


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