特殊船団護送艦隊 船団護衛戦記 第四次北インド洋海戦   作:かませ犬XVI

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第十一話 砲戦開始

 敵との距離が更に縮まり、距離三万二千を切ったその時。水平線に隠れるように微かに姿を現す相対する敵戦艦部隊の艦影が、相次いでまばゆく瞬いた。チカチカと、一隻につき三回。合計六回光るのを見て、扶桑は遂に始まったのだと思った。敵戦艦ル級は、三連装十六インチ主砲を前部に二基、後部に一基の計三基九門を搭載している。それら各砲塔が一発ずつの一斉射撃である。

 

「山城、方位一一○に転進用意。てっ!」

 

 敵戦艦の主砲発砲を視認して、扶桑はすぐさまそう指示を下した。

 主砲の射程距離で負けている以上、ただ直進し続け敵の接近を待つのでは、レーダー射撃の良い的になるだけである。こちらの砲撃が当たる見込みが無く、勝機の無い超遠距離砲撃戦は、何とかして避ける必要がある。

 そのため扶桑は、敵に一方的に撃たれる超遠距離砲戦の間は回避機動で敵弾を避ける事を重視しつつ、自分達が実力の真価を発揮出来る距離三万以下にまで近付こうと考えていた。

 詰めねばならない距離は、最低でも残り二千。その間、恐らく敵からはもう数斉射は撃たれる事になるだろう。だが、レーダー射撃は未来位置の予測精度が高いというだけで、砲弾自体が誘導されているわけではない。不規則にさえ動き続けていれば、そう簡単には当たらない。

 こちらも発砲を開始し、やがて双方の距離が詰まり、二万に迫るかそれを切る頃。その頃こそが、戦艦同士の真の殴り合いの時であると思っていた。

 

 三十キロ以上の彼方を狙って砲撃しても、砲弾がそこに届くまでには一分近くもの時が必要となる。敵の砲弾が風を切り、音を裂き、空間を歪ませる唸りを上げて空から降って来たその時。扶桑達は既に回頭を始め、敵の予測した未来位置からは大きく外れ終わっていた。

 三発ずつ、二つの固まりとなって、砲弾が海面に相次いで大きな水柱を立ち上げる。固まりの中でもそれぞれの水柱が微妙に離れて見えるのは、恐らく気のせいではないだろう。三万二千という距離は、敵の主砲にとっても少々遠過ぎるのだ。

 それから扶桑は、水柱の立ち上がった位置を見て、敵戦艦が二隻とも扶桑を標的にしている事を見て取った。先頭を潰し、後続の機動を乱す。ヲ級艦載機部隊の最初の爆撃の時といい、セオリーに忠実なようである。

 だが、それで構わない。敵の攻撃が扶桑に集中するという事は、扶桑が敵を引き付け矢面に立っている間、山城は好きに撃ち放題だということなのだから。扶桑が被害甚大で敵から見棄てられる頃には、山城が戦果を稼いでいる事だろう。

 

 敵戦艦が四斉射目、五斉射目を行う頃には、こちらが回避に専念している事に気付いたのか、砲撃の速度を上げてきた。大体十五秒に一斉射三発、一分で四斉射十二発程を、二隻揃って乱射して来始めたのだ。レーダー射撃が当たらないから、とにかく撃ちまくって数撃てば当たるの戦法に変えて来たのだろう。

 この戦いは、互いに東に向かいながらの同航戦である。双方が艦首を向けあって一直線に突撃し合う反航戦と違い、中々距離も詰まらない。無論、扶桑達は南下し、敵は北上しているため、確実に距離は縮まりつつあるのだが、反抗戦の時のように一分で二キロ弱も距離が縮まる事は無い。近付くまでに時間が掛かり、その分撃たれる砲弾の数も増えてしまう事が、扶桑には少々不満ではあった。

 

「距離、そろそろ三万を切ります。姉様、狙いは敵先頭艦のままで良いのですか?」

「ええ。一隻ずつ仕留めましょう」

 

 とはいえ、回避に専念さえしていれば、敵の攻撃も恐れるほどではない。敵戦艦の発砲開始から、五分。その間、景気良く撃ち続ける敵の攻撃は、直撃弾はおろか、一度たりとも扶桑を夾叉する事すら無く、辺り一面の海に無駄弾をバラ撒き続けていた。

 そして、その後は。距離が三万を切ったその時は、もう回避はしない。舵を直進で固定し、こちらも口火を切り、敵のお望み通り、艦隊決戦に応じる。

 その時のためにこちらの立てた戦術も、敵と大して変わりはしない。まずは山城と共に揃って敵先頭艦を狙い、速やかに戦闘能力を奪う。その後は、敵先頭艦の損傷具合や射撃の精度等から脅威度を査定し、そのまま一番艦を沈めるか、それとも二番艦の戦闘能力減退を優先するかを決める。

 どちらの流れになるにしても、まずは片方、敵先頭艦の無力化、無害化から始まる事は変わらなかった。

 

「針路、方位一二○で固定。右砲戦!」

「了解、針路、方位一二○に固定、右砲戦用意」

 

 敵のレーダー射撃を交わすため、右に左にと蛇行させていた針路を固定する。

 

「推定角度、七十三度。推定敵速、二十五・三ノット」

 

 こちらへの砲撃のため、敵艦隊はずっと針路を一定に保ち続けている。故に、扶桑達が同じく針路を固定すれば、互いの艦隊の角度くらい簡単に割り出せた。

 また、敵艦隊の速度も、目視、電探、彩雲からの報告含めあらゆる手段で測定済み。周囲の風、気温、海流の向きや強さも、実際に観測したデータの他、陸上基地からの詳細な予測データも送られてきている。それらを統合すれば、より精度の高いデータの抽出も出来る。そして、それらが撃ち出した砲弾にどんな影響を与えるのかも、可能な限り計算されている。砲弾が風に流されるのが判り切っているのならば、予め流される事自体を予期して撃てば何の問題も無いのだから。

 総ては、織り込み済みだった。

 

「距離、三万。撃ち方始め!」

 

 目標としていた距離、三万をいよいよ切る。それと同時に、扶桑は艦内無線でそう命令を下した。

 直後、今までずっと沈黙を保ち続けていた六基もの連装砲が、一斉に火球を噴く。つんざく轟音と爆炎による閃光を撒き散らしながら、扶桑の主砲十二門中、半数の六門から巨大な砲弾が撃ち出された。

 僅かに遅れて、山城からも相次いで六回の爆音が轟く。こちらも、総ての砲塔から一発ずつ、交互射撃の基本通りである。

 これで、二艦併せて主砲十二基二十四門中、十二門での一斉射。敵の一斉射六発と比べると、手数は倍。砲弾の大きさこそ負けているものの、時間あたりの投射重量でもこちらの勝ちだった。

 

「どうかしら……」

 

 双眼鏡で、敵を眺める。未だ水平線から全貌を出し切っていない敵への攻撃という事で、ここからでは敵艦周囲の水面は見えない。しかし、三式弾は空中で炸裂し弾子をバラ撒く榴散弾であるため、どこで爆発したか、そしてその子弾の描いた軌道ぐらいは見えるはずである。

 扶桑は砲撃の結果が待ち遠しくてたまらなかった。今回は、撃っているのが攻撃範囲の広い三式弾である事もあり、扶桑としては、初弾命中すら視野に入れて砲撃している。

 流石にそれは虫が良過ぎるという事も理解してはいるが、それでも心の何処かで期待しているのも事実だった。

 

 風を切る音がする。こちらが針路を固定し発砲を開始する前に撃たれた、敵の乱れ撃ちの内の一斉射である。それが、扶桑の十時方向五百メートルと、五時方向四百メートル付近に落ちてくる。着弾を知らせる高く立ち昇る水柱が、それぞれ三本ずつ。

 それをちらと横目で見やり、扶桑はすぐに意識の外に追い出した。まるで狙いが定まっていない。これは数撃ちゃ当たるの精神で撃たれた無駄弾である。気にする必要すらも無かった。

 その後も、短い間隔で二斉射ほど、敵が相次いで発砲して来たが、果たして狙いはきちんとつけてきているのかいないのか。扶桑としては、敵がもたつけばもたつくほどにこちらに時間の猶予が齎されるだけに、その間に先制攻撃が出来れば恩の字なのだろうと考えていた。

 

「四、三、二、弾着、今」

 

 こちらの撃った砲弾が落ちるまでの時間を、カウントダウンする。最後の方がつい口から出てしまったのは、内心でそれだけ期待していたせいなのか。

 ともかく、こちらの第一斉射が、敵に届いた。三式弾が相次いで六発、空中で炸裂する閃光が見え、そしてそこから内蔵されていた子弾達が炎の尾を引きながらしだれ柳の如く降り注ぐ。

 だが、見るからに敵戦艦からずれている。扶桑には、一番近い砲弾でも敵の百メートル弱程前方を攻撃しているように見えた。

 続いて、山城からの六発も炸裂する。が、こちらもどうもずれている。閃光の炸裂した位置は良かったように思えたが、降り注ぐ子弾達は全て敵艦の影に隠れて見えなくなってしまった。こちらは向きは合っているが遠過ぎである。

 やはり、三万近い射撃はそう簡単には当たらない。両艦とも、第一斉射は外してしまった。流石にこの距離で、初弾命中は厳しかった。

 とはいえ、外した事を落胆している暇など無い。すぐに頭を切り替え、今砲撃結果を見て砲の向きを修正する。今頃、山城も取り過ぎた仰角を抑えている頃だろう。この距離の初弾にしてはまずまず近いところに落とせたように思えるため、効力射を得られるまでの所要斉射数も少なくて済みそうなのは良い事であった。

 

 敵が乱射していた時の砲弾が、扶桑達の近所に落ちてくる。それらが立てるバシャバシャという水音を聞き流している間に、扶桑達は照準の修正を完了した。

 第一斉射を外した事を確認してから二十秒足らずの沈黙を経て、腹の奥底まで響く、幾度もの衝撃が再び船体を揺らす。照準の修正を終えた六基の主砲が、第二斉射を放った事によるものだった。

 天を指向する六本の砲身から巨大な紅蓮の火球が月夜の中で鮮やかに咲き誇り、その爆風で以て、六百キロを超える砲弾を敵目掛けて撃ち放つ。すぐに夜空に同化し見えなくなる砲弾を一瞬目で追って、扶桑は、今度こそ、と意気込んだ。

 現在の敵味方の距離は、二万九千二百。まだまだ遠距離戦と言える範疇である。そして、初弾の結果を見る限り、この第二斉射もまだその調整を行う段階と言って良い。先の砲撃よりはマシな位置に落ちるだろうが、そう簡単に当たるものではないのは解っている。

 だがそれでも、扶桑達戦艦は、常にそれを敵艦のど真ん中に直撃させるつもりで砲撃し続けていた。

 精神論など役に立たない事は知っている。それに縋るつもりなど更々無い。しかしそれでも、最初から外す気で撃った砲が当たるはずも無い。砲戦とは、言ってしまえば歩兵の狙撃銃の代わりに大砲を用いた、超遠距離狙撃戦である。当てる気で撃たねば当たるようなものではなく、内心が後ろ向きでは、勝てる戦すらも勝てなくなる。周囲では、敵の侵攻を食い止めようと友軍が奮闘しているのだ。その主力を任された扶桑達が腑抜けるわけにはいかなかった。

 

 こちらの撃った砲弾が炸裂するのを待つ間に、敵からの砲撃が二斉射分飛んで来る。こちらが砲撃を始めてから敵が撃った、最後の二斉射の分である。一斉射目はいずれも方角も出鱈目で更に扶桑から四百メートル以上も外すというお話にならないものだったが、二斉射目は扶桑の八時方向二百五十メートルを中心に三発、二時方向三百メートル付近を中心に三発という内容だった。

 双方の艦隊の航路が七十三度の角度で交差するよう接近しつつある今、この方向というのはまさに敵艦隊が居る方角である。距離の測定は難ありのようだが、敵の砲は既に扶桑の方を向いていると言って間違い無かった。

 敵の電探射撃は、やはり侮れるものではない。だが、距離の測定に失敗している。これから、敵はこの結果を受けて照準を適宜修正して来るだろう。ここから先は、どちらが先に効力射を与えられるか。どちらが先に敵先頭艦を叩きのめし、数的有利を確保出来るか。その競争となるだろう。勿論、扶桑には負けるつもりなど毛頭無かった。

 

 敵戦艦部隊が、第二斉射を放つ。その火球を双眼鏡で確認した直後、扶桑達の第二斉射が敵へと届いた。扶桑の六発、続いて山城の六発が、遠く水平線の上で炸裂する。

 空中で三式弾が花開き、再び子弾がしだれ柳のように敵へと襲い掛かる。その描く軌道を双眼鏡で見詰め、しかし扶桑は、まだまだ甘いと断じた。

 扶桑の第二斉射は、最も惜しい砲弾で敵一番艦前方、恐らく二十メートルから三十メートルの範囲に落ちていった。ギリギリ至近弾と言えるかも知れない距離だが、その他の砲弾は全てそれより前の何も無い虚空を攻撃している。

 これでは、仮に敵艦が散布界の中に入っていたとしても、艦首がギリギリ含まれている、という程度でしかないだろう。まだ照準がずれている。もっと調節しなければ、これではいくら撃っても当たらないか、当たっても被害が無い。こちらの狙いは、敵の装備するレーダーと射撃管制装置の破壊なのだ。敵のマストや砲塔を薙ぎ払えなければ意味が無かった。

 一方、山城の放った攻撃は、かなり近かった。三式弾の炸裂した光が一瞬敵艦を照らし、それを反射して敵艦の装甲が煌めいた。恐らく、敵艦のほぼ真上で炸裂している。至近弾だ。もう三十メートルも手前に照準をずらせれば、直撃弾を出せるだろう。

 

 この結果を受けて、すぐに第三斉射の準備に入る。

 現在の敵艦との距離は、二万八千六百。まだまだ遠距離砲撃戦である。そして、この距離で着弾地点を僅か数十メートルずらそうと思えば、それこそ百分の一度単位での細かな角度の調節が必要となる。その気の遠くなる様な調整を手早く済ませ、扶桑は直ちに第三斉射を撃ち放った。

 それから数秒後、敵の第二斉射が扶桑のもとへと飛んで来る。八時方向、百五十メートル付近に三発。最も近い弾で約百メートル。遅れて、二時方向百五十メートル付近にももう三発。最も近い砲弾で、百二十メートル程度。

 まだ、夾叉もしていないし、至近弾とも言えない。しかし、第一斉射と比べると、確実に扶桑のもとへと迫って来ている。角度は変わらず合っているため、後は距離を合わせられれば、扶桑は遠からず直撃弾を貰う破目となるだろう。そして、敵の砲撃の精度を考えれば、被弾するのはそう遠くない時だと言えた。

 

「こちら瑞鳳! 敵空母甲板に大型機を複数確認! 攻勢の兆し有り、総員警戒して下さい!」

「何!? 今か!」

「若葉! 奴等はこの混乱を突く気だくま! 気を抜いたら喰われるくま!」

「くっ、第三船団護衛艦隊! 対空戦闘用意!」

 

 無線の向こうでは、瑞鳳や若葉、球磨達が会話をしている。いい加減敵空母が何か仕掛けてくる頃だろうとは予想していたが、大型機という事は雷撃機で決まりであろう。攻撃部隊が遂に再始動したらしい。実に半日近い沈黙を破り、第三次攻撃隊を組織して来たようだった。

 だが、扶桑や山城には、最早どうしようもなかった。今、扶桑達の上空は多数の烈風部隊が護衛についている。敵がこの防衛網を突破し扶桑達に攻撃を仕掛けて来れるとは思えない。ならば、敵の狙いは敵水雷戦隊への対処のために突出している球磨達だろう。球磨達水雷戦隊を排除、または行動を妨害し、敵のホ級率いる水雷戦隊が扶桑達のもとへと辿り着けるように図っているのだ。

 援護の為にこちらから対空砲を撃ち上げる事も可能だが、完全に烈風達の傘の下に隠れる扶桑達では、むしろ友軍誤射しかねない。敵航空機の進撃を食い止めるには、戦闘機で迎撃するのが一番。下手に手を出しては、味方の邪魔になりかねなかった。

 

「こちら祥鳳です。大鷹、そちらの烈風からこちらに増援は出せませんか?」

「可能です。今直ぐ準備します」

「お願いします」

 

 敵戦艦の艦影がチカチカと瞬く。敵による第三斉射の発砲炎である。それを確認した直後、それに覆い被さるように、扶桑達の第三斉射が敵へと襲い掛かる。

 遠弾。遠弾。近弾。遠弾。遠弾。遠弾。まず炸裂した扶桑の砲撃は、敵艦の艦影の手前と奥に分かれて炸裂した。向きはバッチリだ。さらに、夾叉している。ようやっと照準があった。もう調整は要らない。後は敵が沈黙するまでひたすら砲撃を続けるだけだ。

 そう思った時だった。僅かに遅れて、続く山城の砲撃が炸裂し、敵一番艦を襲う。

 遠弾。近弾。近弾。遠弾。かなり上々である。どうやら山城は、扶桑よりもより散布界の中心に敵を捉えているらしい。そう感想を抱き、五発目の炸裂を見届けたその時だった。扶桑の覗く双眼鏡の彼方で、敵艦中央部、後部マストと第三主砲塔の境目付近から、遂に火の手が上がった。

 近弾となった六発目に一瞬視界を塞がれるも、敵艦はなおも炎上中。星空の下に、赤い炎に照らされた敵艦が姿を浮かび上がらせる。間違い無い。見間違いなどではない。命中弾が出たのだ。

 

「命中!」

 

 無線の向こうから、隠しきれぬ興奮に上気した山城の声が聞こえてくる。

 遂に先手をとった。幸先の良いスタートだった。

 

 狙いが合っているため、もう調整する必要はない。そのため、すぐさま二隻揃って第四斉射を撃ち放つ。

 ここからは、確率と手数の問題だ。なるべく早く少しでも多くの砲弾を敵に送り込み、艦上部を薙ぎ払って敵一番艦を無力化。同数の戦いから、二対一の数的有利に追い込む。そして、その数的優位を活かして、扶桑が無力化されるよりも前に、敵二番艦を追い詰める。この理想的な流れのための第一段階が見えてきた。

 

 敵艦隊の第三斉射が扶桑を襲う。左舷方向、最も近い砲弾で、約六十メートル。右舷方向、最も近い砲弾で、約三十メートル。炸裂した砲弾が高々と大きな水柱を立ち上げ、天に向かって吹き飛ばされた海水が弧を描いて扶桑の上へと降り注ぐ。また、水中を伝って来た爆発の衝撃が、艦を細かく震わせる。大丈夫。衝撃は全て装甲が防いでくれた。浸水無し。パイプの破断も報告されない。無傷だ。

 だが、もう猶予などない。この調子では、次は直撃弾を貰っても可笑しくはないのだから。

 

 敵艦隊の第四斉射発砲を確認。手数を増やしたのか、発砲炎が増え、それぞれ四発になっている。それに遅れる事数秒、今度はこちらが第五斉射を発砲。第四斉射着弾まで、まだ残り三十秒弱残っている。狙いを修正する必要が無くなったため、一斉射前の着弾を待たず、発射サイクルを上げても問題が無いのは良い事であった。

 それから二十秒以上の時が過ぎた頃、敵の第四斉射がこちらに届く前に、続けて第六斉射を発砲する。

 その直後、扶桑にも聞こえるほどの空を裂く唸りを上げて、敵の第四斉射が扶桑に襲い掛かった。

 

 まず四発。九時方向、いきなり至近弾。アンテナ線を引き千切りながら扶桑の上を通過し、艦スレスレの水面に着弾。爆圧を受けて装甲に亀裂、少量ながら浸水発生。二時方向、二十メートル。十一時方向、三十メートル。四時方向、二十メートル。夾叉。

 続く四発。八時方向、三十メートル。五時方向、また至近弾。浸水は無かったが装甲に歪みが発生。懸念したスクリューや舵の異常は報告されず。三時方向、二十メートル。十時方向、三十メートル。こちらも夾叉。

 敵二隻から、一斉に夾叉された。ついに、敵の主砲が扶桑を捉えた。今直撃弾が無かったのは、敵に運が無かったからだ。それを理解して、扶桑は小さく息を吐いた。

 敵味方の距離は、現在二万七千六百。この距離で、敵味方合わせて四艦の戦艦全てが、わずか三、四斉射だけで敵艦を夾叉、または直撃弾を出す。随分と、否、極めて優秀なものである。かつてと違い、砲弾も燃料も潤沢に使えて全盛期と同等以上の練度を保てているという自覚のある扶桑としては、敵のこの練度の高さは驚異だった。

 だからこそ、同時にこの戦いを何が何でも負けられない、とも思う。もしこれで扶桑達が突破を許せば、この驚異の練度を保った敵がそのままタンカー達に襲い掛かる事となる。仮に、この戦艦部隊が別働隊の敵巡洋艦隊と合流などされようものなら、船団は良くて壊滅。悪ければ、護衛についた艦隊もろとも皆殺しの憂き目に遭う可能性すら否定出来ない。

 だが扶桑は、心の何処かでこの海戦を愉しんでいるのもまた事実だった。この敵の練度。相手にとって不足は無い。こんな好敵手と真っ向から撃ち合う機会など、今まででもそうありはしない。戦艦同士、同数で、互いにほぼ無傷で会敵し、さらには航空部隊の横槍も殆ど無く、砲戦で以て決着を付ける。常に海戦の主役を赤城達空母艦隊に取られ続けてきた戦艦としては、久し振りとなるこの戦艦同士の殴り合いが一番の見せ場となる戦いに、心奮えていることは否定出来なかった。

 

「姉様! 損害は!?」

「大丈夫よ。至近弾二、浸水が少々。戦闘行動に支障は無いわ」

 

 敵艦隊が第五斉射を発砲している。今度は五発ずつのその発射炎を確認しながら、扶桑は山城からの問い掛けに応えた。

 被弾、被雷した際のダメージコントロールなら、既に幾度となく演習をこなしている。海自仕込みの鬼のダメコン訓練を経ている今、多少装甲を抜かれた位でそう簡単に沈む気は無かった。




一つ甚大な設定ミスを発見。
マラッカを通って日本に石油を持って来るタンカーは、一隻あたり石油を二十万トンではなく三十万トン積んで来る。
従って、本作の設定二十五隻のタンカーが一度に持って来る石油量は、500万トンではなく、750万トンだった。
よって、一年(遠征三回)に持って来る総石油量は、2250万トンに。当初の設定値1500万トンから随分と増えた。やったねこれでロシアからの輸入量を上回ったよ。

一体この設定を考えた時の俺は何処で何を調べていたのだろう。
何故肝心要な護衛対象たるタンカーの設定をどうしてここまで派手に間違えたのか。
全く以て自分自身が解せぬ。

ついでに言えば、日本の石油の最大の買い付け先はサウジアラビア、次点がアラブ首長国連邦なのだが――
まぁ、今現在クウェートとも取引しているのだから、ここは別に良いとするか。
出口に近いサウジ、UAE、カタールやらは欧州連合艦隊に譲った事にしておこう。今回は。向こうの方が軍艦数多いし。

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