高校教師になったらToLoveるな毎日を過ごすことになりました。 作:くるぶし戦線
「それじゃあ近いうちに連れていくからの」
近藤さんはそう言って電話を切った。そして俺の方に改めて向き直る。
「教員免許を持ってるというのは本当かの?」
「は、はい!教育学部で大学を出たので…」
「そうか…そんな偶然もあるんじゃの…」
近藤さんもまだ驚いているようだ。俺を見つめながら思わず口から出たような感じで呟いている。だが、言わせてほしい。1番驚いているのは間違いなく俺だ。さっきから驚きすぎて頭が回らないくらいだ。
「とりあえず良かったじゃないか後藤くん」
間宮さんがニコニコしながら俺と近藤さんを交互に見ている。
「ジロちゃん、良かったね。こんな偶然なかなかないよ」
「そうじゃの…これも何かのめぐり合わせなのかも知れぬの…」
近藤さんはふむ、と顎に手を当てて、しばらく思案した後、
「よし、後藤くん、とりあえず彩南高校の理科の常勤教師として内定ということで…詳しいことは後日、書類で送るから、住所と電話番号を教えてくれるかの?」
と言って、懐から折りたたまれた紙を出してきた。
「は、はい!ありがとうございます!」
俺は今日何度目か分からないお辞儀をする。ボールペンを出しながら紙を開けると、目にアイドルのグラビア写真が飛び込んできた。確か今流行ってるアイドル歌手の子だ。
「あ、あの…」
俺が困り顔で近藤さんに紙を向けると、
「おっと、いかん!これは違うやつじゃわい!」
と紙(裏はグラビア)をひったくっていった。
「ちょっと待ってくれ…他の紙を…」
そう言って近藤さんはポケットをゴソゴソ、懐をゴソゴソと漁るが、メモに使えそうな紙が出てこない。てかなんでグラビアを1枚だけ懐に入れてるんだろうか…?よっぽど好きなのかな…。
「あの…他にないようでしたらその写真の裏に…」
「後藤くん…儂より早くあの世に行きたいのか…?」
「すみませんなんでもないです」
俺の提案は近藤さんの鋭い眼光によって叩き折られてしまった。
結局、間宮さんに頼んでコピー用紙を貰い、住所と名前、電話番号を記入する。
「あ、あとLINEも交換しとくかの」
いや、良いですけど…なんで?
「あ、私もいいかな」
いや、なんで?必要性が感じられないんですけど。
「よし…ちゃんと書けてるの…今日のところはこれでお開きにするかの。悪いの、場所だけ借りる形になってしもうて」
「いや、いいんだよ。それくらい。良かったね後藤くん。また来なさい」
「本当に有り難うございました。ですが…また来なさいとは…?」
「ははっ、それはそのうちわかるさ」
こうして俺は、彩南高校の内定と新しい友達「きんちゃん」と「みやたん」をGetして家路についた。
2人ともLINEのアカウントはっちゃけ過ぎだよ…。
彩南高校からの正式な書類はあの日から3日後くらいに来た。内容は、俺を特別採用枠という形で4月から採用してくれるというものだった。本来は有り得ないことだが、理事の鶴の一声というやつで決まったらしい。彩南高校が私立で良かったとつくづく感じる。
だが、その日から1通も手紙が来ない。来ないままもう1か月が経とうとしている。もうすぐ春休みだ。
いくら新任と言っても、いや新任だからこそ4月から仕事をするために早くから色々学ばなければならないと思うのだが、学校から連絡が来ない。思い切ってきんちゃん、もとい近藤さんにLINEで尋ねてみてもあやふやな返事しか返ってこない。皆忘れてるんだろうか…俺のこと…。
世間の学生が春休みに入る2日前、悲しみに打ちひしがれる俺の元にやっと彩南高校から封筒が届いた。
アパートのポストに見慣れぬ封筒を見つけた俺は光の速さで部屋に戻り、急いで封筒を開ける。中の書類には少ない文字で3月20日つまり明後日、彩南高校に出勤するように、と書いてあった。
いよいよか…。ちょっと通達が遅い気もするけど…。
遠足の前の晩の小学生と、テスト前の高校生を足して2で割ったような…そんなそわそわした感じであっという間に3月20日がやってきた。
電車で2駅と徒歩10分、気がつくと俺は彩南高校の校門前に立っていた。春休み初日だというのに部活のためか運動着を来た生徒がちらほらと見えた。まだ朝の9時だというのに…熱心なことだ。
よし、俺も行くか…。口から飛び出んばかりの心臓の鼓動を必死に抑えながら、俺は彩南高校の門をくぐった。