【GE作者合同投稿企画】アニメ化ですよ、神喰さん! 作:GE二次作者一同
投稿作品名:GE カスタマ
登場キャラ:アナグラ主要メンバー
ジャンル:日常系 没話
※この作品はGREATWHITE様の『GOD EATER カスタマ』65話Rock'n Roll Honeymoonと関連しています。本編と合わせてお楽しみください。
2071年――極東
教会跡でのリンドウ、サクヤ両名の結婚披露宴からの帰路にて
「ほら!! お前ら頑張れ!!」
「みんなー! ファイト! あはははははは!」
タキシード姿のリンドウはバックミラーをのぞき込みながら窓枠に手をかけ、悪戯っぽい笑みを。サクヤは風に真っ白なウェディングドレスを舞わせながら後部座席で自分達に続いて「罰ゲーム」で走り続けるゴッドイーターの後輩たちにエールを送る。二人とも幸せそうな満面の笑顔であった。
そんな二人が乗ったオープンカーを追う先頭集団――防衛班。
「っ!……はぁ! はぁ!……ち、くっそ……! キツイぜ! ツバキ教官! な、にもこんな目出たい、日、に!」
タツミは息も絶え絶えにやや上がり始める顎を何とか引き、そう愚痴を吐いた。
「言うなタツミ。全ては自分達の不徳が招いた事だ」
対する隣に立った大柄な青年――ブレンダンは一定の整ったフォームと呼吸で「これも修行」と言わんばかりに黙々と足を運んでいた。彼は先程「俺達防衛班のチームワークを見せてやろうぜ」と言いながら一行に協力してくれない(むしろ仕留めようとすると邪魔をしてくるようにすら感じた)相棒タツミに巻き込まれ、この過酷な罰ゲームを被る形となった。だがブレンダンは彼らしく己に課せられた理不尽な課題を淡々と受け入れ、こなしている。
「さぁタツミ! ペースをあげるぞ! ついてこられるか!?」
「……」
どこに筋肉隆々のいい汗かいてる爽やかな大男を追いまわす趣味の男がいるのかとタツミは問い詰めたくなる。
―……。うわ~ないわ~。コイツのこういう所ウザイわ~。腹立つわ~……ん? 待てよ……?「腹立つ」、はらたつ……ハラタツ……ミ? ……キタ! これキタ!! 「人の上にタツミ」以来の快作だ!! なんかどっかで聞いたような名前のような響きがするけどきっと気のせい……
「どわっ!?」
「タツミ!? だ、大丈夫か!?」
―ちっ! チンタラもたもたしてんじゃねーよ!
暴走特急最終兵器――カノンがタツミを背後より急襲。
タツミをはじき飛ばし、内心そう言い捨ててトップに躍り出た。射線上に立つ者同様、走行線上に立つ者もわけ隔てなく彼女にとっては排除対象らしい。言わばゴ〇ゴ〇3の逆バージョンである。
奴の「前」には立つな。命が惜しければ。
悲しい事に彼の「人の上にタツミ」以来の快作とやらは彼の記憶から本体と一緒にはじき飛ばされた。
第二集団―エノハを除く第一部隊。
「……」
コウタは黙ったまま走り続ける。その表情は憂いを含んでいた。
先程の騒動の発端となったあのブーケは彼の設定(妄想)上、彼から妹を奪う可能性のある危険な物体である。
しかし、それを結果リッカが手に入れた事によって彼の懸念は解消されたはずなのだ。
「……? どうしたんですか? コウタらしくもない」
「……」
彼と並走する第一部隊のアリサ、ソーマの二人は怪訝そうに彼の表情を見る。するとコウタは口を開いた。神妙な顔のままで。
「いやさ……もし、もしもだよ?ノゾミが『リッカさんと結婚したい』って言いだしたら……兄として俺……どう言ってあげるべきだろうと思って……」
――ダメだ。手遅れです。手の施しようが無いです。
病名「妹病」末期患者コウタにアリサは匙を投げる。
(……ちょっと! ソーマ! 何とか言ってあげて下さいよ!)
アリサはこっそりと隣を走るソーマにそう耳打ちした。しかしソーマに反応が無い。
「…………ソーマ?」
「無人運搬用のロケットを月まで打ち上げる費用を捻出するとなると……ブーケ代は出せて30万、いや20万までか。心許ねぇな……。いっそカレルの紹介で例の闇金で内臓を担保にすれば楠に100万までなら……いや、GEの内臓が担保になるとは思えねぇこうなりゃいっその事楠から強引に奪うってのはどうだ……?いやダメだ。エノハがブチ切れる。間違いなく高額報酬任務から締め出される。収入が減るだけだ……ぶつぶつ……」
―― ………………本気で他の部隊に異動願い出そうかなぁ……私。
病名「シオ病」末期患者ソーマにアリサは匙を投げる。
最後尾集団
「どうしたの? アネット怪我でもしたの?」
遅れている新人アネット、フェデリコの二人に、罰ゲームの割にいつもの様に涼しい顔をしているジーナは少しペースを落として歩み寄る。
他人に文句を言われない手の抜き方を熟知している彼女は要領がいい。スナイパー特有の気配を消す能力で、フェンリル仕様のジープの後部座席に腕を組んで仁王立ちし、罰ゲーム中の彼らを監視するツバキの目を器用にやり過ごしていた。
「いえ、そういうわけではないんですが……」
「……?アネット?大丈夫?」
その声に少女――アネットは顔を上げた。
「……! ……??!? ……! ……!? ……!!」
ぜー! ぜーはー! ぜー! ぜーっ
「あ。……よ、よく解ったわ……いいわ。喋らないで」
第三集団
「」
「ふん、逝ったか。メントレもフィジカルトレもサボってるからこうなるんだ」
カレルは隣で走りながら意識を失っているシュンに唾でも吐きかけるみたいにそう言い捨てた。
一方――
前方リンドウ、サクヤの乗ったオープンカーと並走する榊、ツバキ、ヒバリ、そしてリッカと唯一ツバキから罰ゲームを免除されたエノハが乗った軍用車両の車内
「エ、エノハ……その、大丈夫?」
「……だいじょぶ」
後部座席でぐてぇと車窓から上半身を乗り出し、既にグロッキー状態のエノハの背中をさすりながらリッカはそう言った。
「極東のエースが乗り物酔いとはね……ふむ、興味深い……」
助手席から榊は後部座席の右端でグロッキーのエノハ、介抱する真ん中のリッカを見、左端のヒバリに話しかける。
「そうですね。戦闘時あれだけ毎回無茶な機動をして平気なのになぜなんでしょうか?三半規管や平衡感覚とか常人に比べたら遥かに強靭なはずなんですが……」
「う~ん。『多分病は気から』なんだろう。彼の中で『揺れる車内』自体が既に『酔う空間』としてインプットされているのかもしれないね。トラウマのフラッシュバックのように」
「知ってはいたけど中々難儀な繊細さ持ってますよね。エノハって。はぁ……これならいっその事皆と一緒に走らせてあげた方がエノハにとって幸せだったかも・・」
「……うぇ」
「くすっ……あははっ。ほらしっかり? エノハ?」
「ふむ。いや……彼結構今でも幸せだと思うよ? 私でも解る」
「ふふっ、同感です」
「え…………何? ……なんですか」
実はエノハは
全く酔ってなどいなかった。
まともに顔を向けられなかっただけ。背後に居るいつも傍に居てくれた少女の顔がこれ以上なく輝き、眩し過ぎてとても直視できなかったのだ。緊張しすぎて酔うどころでは無い。
「……」
エノハはちらりと気付かれない様に目線だけ向ける。そこには隣のヒバリと満面の笑みで会話するリッカの姿が映った。今日の日のリンドウ、サクヤの二人の挙式の為にちょっと化粧、普段はしないドレス姿、そして手元には綺麗なブーケが添えられている。
日常の面影を残したままほんの少しだけ非日常の中に居る少女の姿。
――これ反則だって。可愛すぎるって。
同時エノハを妙な焦燥感が襲う。
――取られたくないなぁ……この子だけは。
そこからエノハは頭の中で自問自答のくり返し。やはり酔う暇などありゃしない。
――行け 行っちゃえ 言っちゃえ
いや 待て まだ早い 心の準備が
アホか 知らんぞ 取られるぞ
頭が破裂しそうだ。酔ってもいないのに何とも「頭痛が痛い」。
エノハが内心で大げさなほど溜息をつき、目のやり場を宛ても無く車外の過ぎ去り、流れる光景に移した時であった。
ブィーン
「……っ!」
――げ。
「……ひひひ」
「……ふふっ」
エノハは目を見開き、呼吸が止まったような感覚に陥る。目の前にエノハ達を乗せた軍用車両と並走していたリンドウ、サクヤ二人の乗ったオープンカーがいつの間にか眼前に達しており、酔っている割に妙に「別方向に顔色のおかしい」エノハの顔を見て二人は全てを悟ったような顔をしてニヤついていたからだ。
――……!!
バタン!
思わず勢いよく車窓を閉じてエノハは車内に逃げ込む。しかし
「エノハ……?もう大丈夫なの?」
「……っ!」
逃げ場等無かった。そうだ。後ろには「居る」のだ。彼をこの状態に落とし込んだ「本日反則級」の少女――リッカが隣のヒバリにもたれかかって一緒に眠っていた体を起こしつつ、こしこしと目をこする。
―おのれ……謀ったな……!?
恨めしそうにエノハが今度は横目でちらりと車外を見ると―
GOOD LUCK!(⌒▽⌒)b(⌒▽⌒)b
……的な果てしなくウザイ状態の車上の新婚二人の姿があった。今日そういうカオして冷やかされるのはアンタらの役目じゃないのかと愚痴りたくなる。
――コイツらぁ!
「ふぁ……。……? ……エノハ?」
寝起きのまだ少しぽけ~っとした口調と表情でリッカは頭を掻く。何故か妙な色香がある。
「あ、いや。うん、大丈夫」
「そう? ん~~~~っ?」
そう言いながらも挙動がおかしいエノハに訝しげにリッカは手を延ばす。ゆっくりとエノハの頬に。
「……!!」
――よせ。今そんなことされたら俺死ねる。いやホントマジで。
逃げ場のない車内で恐れおののきながら、めいっぱい退き、べったりと背中を窓につけるがあっさりと少女の小さく白く細い指先に追いつかれ、触れられた。
――……っ!
あれ?
直前昇天するかとエノハは思った。が、触れられた瞬間意外にも妙に頭が冷える。
昇天するには勿体なさすぎる心地よさが触れられた頬からゆっくりと伝って体全体を包んでいったからだ。
――……。
何事にも代えがたい安心感。えもいえぬ高揚感、幸福感。
「うん!大丈夫そだね」
リッカは首を少し傾げるようにして肩まで程の髪を揺らしつつ、目を細めて微笑んだ。
脅え、迷い、恐怖全てを浚ってくれそうなその笑顔に呆気にとられる。同時に
――とられてたまるか。
腹も決まった。
読了、そしてお付き合いありがとうございました。
タイトル通り前作のかなり終盤のお話のボツ話なので合作短編系にとことん向かない物だと執筆後に気付きましたが後の祭りです。救いは季節柄にあっているってことぐらいでしょうか。
え?これ公開七月入ってから!?ジュライ入っちゃうの!?
※この作品は6月中に書かれたものらしいです。
御礼
今回のGEアニメ化記念合作企画を立案、主導して下さった代表の「ウンバボ族の強襲」様。
この度の合作企画にお誘い頂き、ありがとうございました。
運営との交渉、規約確認など色々ご苦労とお手間をおかけしたようで本当にご苦労さまでした。
あと個人的なアドバイスまで頂き、本当に有難うございました。参考になりました。
この場を借りて御礼申し上げます。
おまけ
「……っ」
西暦2072年
――欧州
「ハイド」拠点のエノハの自室にて。
「いかん。寝てた」
起きぬけの頭を抱え、ゆっくりと机の上に突っ伏していた上体を起こす。エノハに覆いかぶされていた机の上のペンと未だ白紙のままの手紙の上には皺と一筋のカタツムリが這った後の様な液体の筋が出来ていた。
「ぅあぇ。しまった……! また貴重な資源の無駄使いを……」
周りに散乱した無数の丸めた紙クズの中心に在る落ち込む後ろ姿が何とも「売れない作家感」を醸し出す。
不特定多数の人に読ませるのではなく、たった一人に読ませる為の物を生みだすのにここ数日エノハは四苦八苦していた。その時
コンコン
『エノハさ~ん? 出来たぁ? 入るよぉ?』
「あ。レイス!?ちょっ!ちょっと待って!」
背後のドアから一人の銀髪の細身の少女――『レイス』がエノハの返事を待たず入ってきた。しかし入室早々即その表情がしかめっ面になる。
「出来た気配も欠片も無いね」
この室内の惨状を軽く見回して少女は一瞬にして経過を悟る。
「ご明察で……」
「寝てたでしょ。顔に変な筋があるよ」
「……」
「そんな私もヒマじゃないんですけど。……ホント頼みますよ『先生』」
少女は「締め切りとっくに過ぎてんだよ」担当オーラを放つ。
「…………面目ない」
「また出直しか。で。何時出来そう?また見に来るから」
――つってもこの様子じゃ次も望み薄かな……。
半ばあきらめムードの『レイス』であった。が、
「ん~~……いや多分大丈夫。少し眠って頭がすっきりしたから書けそう。もうそんなには待たせないと思うな」
「そ?」
意外にさっぱり、あっさりとしたエノハの明快な解答に意外そうに少女――『レイス』は少し首をかしげた。
「くすっ……ちょっと……いい夢見れたから」
少女の疑問の消しきれない顔にエノハは微笑んでこう答えた。
――最高の笑顔。思い出したから。
そよ風のように。澄んだ空気のように。陽の光のように。
当り前だった今は会えない少女の笑顔が彼の中で輝き、満たされていく。
真っ白な紙の上を迷いない黒い筋が走り、この世界で彼にとって一番尊い名前が形成されていく。
「リッカへ」