【GE作者合同投稿企画】アニメ化ですよ、神喰さん! 作:GE二次作者一同
投稿作品名:フェンリルに勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない
登場キャラ:コウタ・ソーマ・他アナグラモブ
ジャンル:ギャグ・シリアス・残酷描写
神機使いに憧れた。
あの眩い輝きに憧れた。
――――――俺はゴッドイーターにはなれなかった。
■ □ ■
『アラガミ』【荒神】(名詞)。
あらゆる物質を“捕喰”するという特性を持つ単細胞生物、『オラクル細胞』の群体を指す。
血や筋組織、消化器官、循環器官に類似した体機能を持つが、それらは全てオラクル細胞が変異したものであり、実際の生物としての器官としては必ずしも機能しない。
そのため、臓器や脳組織にあたる部位を破壊したとしても、活動が完全に停止することはない。
しかし細胞単位での結合が強靭であるため、通常兵器では決定的有効打を与えることが出来ず、細胞群であるために傷を負わせたとしても短時間で復元してしまう。
またアラガミの特性として、オラクル細胞が群体を成しアラガミ化すると、特定の物質や生物を捕喰しなくなる偏食傾向を示すようになる。
偏食傾向はアラガミ種によって様々であるが、全てのアラガミが備えるオラクル細胞の根源的特長、あらゆる物質の捕食が可能であるという性質は、極めて危険かつ驚異的である。
それは、数、能力共に惑星規模での生態系の頂点に立ったアラガミが、その全てにおいて“この世に満ち溢れる普遍的物質”――――――“人類”を喰う特性を備えているということである。
アラガミとは、人類の天敵種である。
人類に残された唯一の直接的抵抗手段は、対アラガミ用特殊兵装である『神機』。
そして、アラガミと戦うべくオラクル細胞を人体に取り込んだ、神機を振るう戦士達。
すなわち、『ゴッドイーター』のみである。
世界はアラガミに喰い尽くされつつある――――――。
■ □ ■
ゴッドイーターの名を一人挙げよと問われたら、誰の名を挙げるか。
そう問われたなら、『藤木コウタ』は迷い無く彼の名を上げる。
ゴッドイーターを代名詞とする存在。対アラガミの最前線である極東においてなお、極東にこの人あり、とまで謳われる男。
自分に後を託し隊長職を退いた、極東支部第一部隊討伐班“前”隊長。
彼の名を。
理由は最強。
様々な内情があるが、言ってしまえばこれに尽きる。強く優しく、コウタの理想である。
しかしそれを本人に言えば、決まって苦笑と共に否定の言葉が返ってくる。
――――――それはお前だよ。という言葉と共に。
コウタは首を傾げるしかなかった。
いつもお決まりのやり取り。
一体俺の、どこが強いっていうんだ。
「オイーッス! ソーマ、おつかれー!」
「コウタか・・・・・・相変わらず声がでかいな。任務帰りか?」
「いや、これから出るとこ。ちょっと聞いてよソーマ。
今回の任務さ、資材搬送の護衛任務なんだけどさー、そこの搬送班で仲良くしてる人がいてさー、そんでその人に妹がいてさ、もうすっげー妹自慢してくんの!
俺に嫌ってくらい写真見せてきてさあ! 可愛いだろ、でも可愛いからって惚れたら容赦しないぞ、なんだと可愛くないだと、とかさ。もう、やんなっちゃうよな」
「鏡を見ろ鏡を。お前が言うか」
「俺も負けじと妹の写真持参ですが? 俺の妹は48人の中でセンター張れるくらい可愛いから。ほら」
「会う度に妹自慢が酷くなっていきやがるこいつ・・・・・・」
「負けられない総選挙が、今幕を開ける。清き一票を! 清き一票をお願いします!」
「頼むから静かにしてくれプロデューサーさんよ」
「そんで、何それ? 何書いてんの? この前言ってた新しい防壁のなんか? マルチコアなんとかいうやつ?」
「人類の生存圏と種の衰退についてのレポートだ」
「おー、やってますなソーマ博士。なになに? 人類の巻き返し大作戦! みたいな? どんなのよ」
「いや、もっと笑える内容だ。現在の食物連鎖ヒエラルキーを考えると、アラガミは別区分じゃないかって話だ」
「ほうほう、それで?」
「循環の中にいないんだよ、アイツらは。
煮ても焼いても喰えないくせに、奴らは人をたらふく喰いやがる。弱肉強食のピラミッドが形成されることはない。
オラクル細胞に取って代わられた世界には還元されているが、既存の生物のサイクル内には影響が無い。
オラクル細胞のエネルギーはオラクル細胞の中でのみ循環する。元の食物連鎖を切り崩して、オラクル細胞の循環に吸収されてしまっている。
ピラミッドが二つ形成されているってことだ。一方が一方を切り崩していく、一方的な、な。
つまり、エネルギーの独占だ。独占された資本は消費されるしかない。ピラミッドはガタガタになって、いずれオラクルの循環だけの世界になるだろう。
これが“終末”のメカニズムだ。
自然の観点からみれば、人間の本来の食物連鎖の地位は最下層と言ってもいいだろう。これで丁度いい位置なのかもしれない。
だが、人類視点からしてみればな。世界の人口はもう百分の一以下にまで減少した。毎日数十万人以上がアラガミに喰われて死んでいたって計算だ。
もう一億を切った。終末を待つ間でもない・・・・・・秒読みに入っただろうな」
「やめたまえ。言葉のシャワーをワッと浴びせかけるのは」
「お前が説明しろっつったんだろこの野郎ぶん殴るぞ」
「で、つまり・・・・・・どういうことだってばよ?」
「つまり、人類は滅亡する」
「な・・・・・・なんだってーッ!?」
「親父のように悲観主義を気取るつもりはなかったんだが、これはな。知れば知るほど嫌になる」
「いや・・・・・・え、そんな、大げさな」
「控え目に言ってこれだ。笑えるよな」
「ちょっ、ちょっ、ちょい待ち! いや、ほら、俺たちけっこー頑張って戦ってるじゃん?
他の支部にも極東の技術が伝わって戦果が上がってるらしいし、ほら、アラガミなんかに負けないって、な!」
「“カルネアデスの板”だ」
「それって、シックザー・・・・・・えっと」
「気を使わなくてもいい。大海原に投げ出された人類の前に流れ着いた、一枚の板。一人しか掴むことの出来ないそれを、俺たちは自ら手放した。
いや・・・・・・ぶっ壊したって言った方が正しいか。荒波の中、すがるものもなければ、沈んでいくだけだ。ゆっくりとな。
結果論だが、ここに留まる以外に選択肢はなかっただろう。ただ・・・・・・考えちまうな。親父の答えは、正しかったのかもしれないってな」
「じゃあ、俺たちは・・・・・・何のために戦ってるって言うんだよ」
「“延命”だろ。俺たちの中じゃお前が一番、わかっているはずだ。それを飲める奴を、本当の意味でゴッドイーターって言うんだ」
「ちぇ・・・・・・喉につっかえてむせるもんだから、しんどいんですよーだ」
「飲むしかない。悲しみは海にあらず、すっかり飲み干せる・・・・・・だったか。あいつが変わったのは、そのせいだろう」
「アリサかあ。そっか、もっとも模範的なゴッドイーターのアリサさんになったんだもんね」
「やめてさし上げろ」
「でも」
「でも、何だ?」
「いや・・・・・・だったら、俺は本当のゴッドイーターってのにはあんまりなりたくないなって。うん、アリサとかがやってくれるんなら、それでいいや」
「そうか・・・・・・お前にはそれが一番いいさ」
「あーあ、ゴッドイーターって何なんだろうなー。神機使いってさー、アラガミと戦うだけが役目なのかなー。やんなっちゃうよなー」
「わかっていてやれる奴だから、お前は強いのさ。“アイツ”の言う通りだ。お前が迷ってくれるもんだから、俺達は少し、安心する」
「やっぱソーマ、ちょっと丸くなった?」
「・・・・・・うるさい奴だ」
ソーマ・シックザール。
褐色肌に銀髪の整った顔つきの青年は、冷たい空気を纏ってはいるが、その心根は熱く善性に溢れていることをコウタは知っている。
元第一部隊隊員。コウタの戦友であり親友だ。
今は部隊活動から離れ研究職に進んだソーマは、白衣姿がしっくりくるようになったように思えた。
父親に、そっくりになったと。
「リーダーは、さ」
「元、が抜けてるぞ」
「言いたい気分なんだよ。ゴッドイーターって何だろうって考える時さ、俺、リーダーの姿が浮かぶんだ。
たぶん、俺の中のゴッドイーターって、ああいう感じなのを言うんじゃないかなって。だからさ、ほら、何かちょっと違うじゃん」
「違う、か」
「うん。ソーマが言う、本当のゴッドイーターってのはさ、俺のなりたいのと、やっぱりちょっと違うんじゃないかなって」
「そうか・・・・・・そうだな」
「俺の父さんはゴッドイーターじゃなかったけど、でも、誰よりも最高のヒーローだった。リーダーはさ、似てるんだよ、すごく・・・・・・。
憧れてた父さんの横顔に、すごく似てるときがあるんだ。だから俺も、ってさ」
「親父、か・・・・・・」
「ならさ、俺はそういう、ソーマの言うかっこいいゴッドイーターにはなれないよ。うん、なんなくっていいや。こう、泥まみれになってさ、そこら辺走り回ってるだけってだけで、そんでいいや。
地域密着型、ご当地ゴッドイーター! みたいな? へへ」
「言ってろ、バカラリー」
言って、ソーマはレポートの束を無造作に破り捨てた。
相当の時間を費やしたはずの分厚いレポートは、ゴッドイーターの握力であっという間に意味を成さない紙クズへと姿を変えた。
もったいない、とコウタは叫んだが、ソーマはこれでいいのだと言わんばかりの顔をしていた。
それは、自論が否定されたというのに、どこか安心したような、穏やかな笑みだった。
「ほらな、言った通りだろ。お前が一番わかってる」
コウタはやはり、首を傾げるしかなかった。
■ □ ■
ゴッドイーターという存在が広く世界に認知され、どれだけの時が経っただろうか。
その始まりは兵器開発をも兼ねる多目的営利民営企業・・・・・・当時は一企業でしかなかった『フェンリル』にあることは言うまでもない。
今ではフェンリルが世界を統括、管理している。斜に構えて見るならば、支配と言ってもいいだろう。
自由への善悪論は考えてはいけない。フェンリルによる世界支配は必要不可欠なものだ。人類は、もはや管理されねば立ち行かなくなるまで追い込まれているのだから。
当初、神機とは対アラガミ戦の中核を担う次世代の、しかしただの、個人携帯が可能な特殊防衛兵装としてしか認識されていなかった。
旧文明らしく、大量破壊兵器こそがあらゆる敵性存在には有効であると、そう人類は信じていたのだ。
かくしてアラガミへの人類最大の反抗作戦が開始され・・・・・・それは同時に、旧人類最後の反抗作戦となった。
戦略級の核爆発でさえ、アラガミは捕喰しきったのである。
未だ国家という枠組みが機能しており、軍事組織が力を持っていた時代の話だ。とは言っても十数年前のことであり、近年のことだが。
人の歴史は、軍事力の歴史である。戦うための技術が積み重なったものが人の歴史である。その全てが無意味とされたのだ。これだけで、人類の衰退が約束された証拠であると理解できよう。
つまり核の否定とは、人類の歴史の否定である。人の進化の否定と言い換えてもいいだろう。
あわや地球を滅ぼすかと言われるまで発展した人類の軍事力は、突如現れた化け物達にまったく歯が立たず、一瞬で崩壊することになったのである。
人は、新たな可能性を見出さねばならなくなった。自らの力で進化の袋小路を打破せねばならなくなった。生きるために。
新しい人のカタチ――――――ゴッドイーター。
その進化の鍵がここにあった。
「しっかし、これだけ数が揃ってるとなんかこう、壮観って感じするよな。みっしりだ」
神機の群れ。
そう表すことが正しいだろうか。
大量の神機と、腕輪の装着装置が、輸送トレーラーに詰め込まれていた。
今回の任務の概要は、神機輸送及びその警護任務である。
人の知恵の集大成である、神機を運ぶこと。
食料の輸送と等しく“重い”任務である。
そのため、こうして極東の最前線を張る第一部隊がフル出動して、各員それぞれのトレーラーに乗り込み直接警備することになっている。
「隊長さんはやっぱ見慣れてるんすか? 神機すげー数あるんですけど」
「いやー、これだけの数はさすがに。でもま、最近多いんで慣れたよ」
コウタ担当のトレーラは最も巨大なものである。
積載量の多さは、そのまま危険度の高さに直結する。
こうして乗組員である輸送チームや整備チームと和やかに会話しているが、しかしどこか緊張感を漂わせている。
締まらない表情で伝わり難いが、コウタの能力に疑うべき点は無い。それを皆知っているのだ。
気安さはそのまま絶対的な信頼と、そして実力の証明である。
「やっぱ、これから新型機が基本になるってんで、こんだけ大量に運び込むんすかね。うちもフル回転っすよ。隊長さんとこもきついんでしょ?」
「あー、輸送随伴の任務で出ずっぱりだもんなあ。俺たちはともかく、一般隊員のみんなの疲れがヤバイよ、ほんと。整備班とかさ、荒事慣れてないっしょ?」
「極東って人の生活圏は狭いのに、アラガミの数は馬鹿みたいに多いっすからねえ。資源もとれないしで、外国から人も物資も運んでこなくちゃいけないし」
「その辺は極東の宿命でしょー。島国なんだから、昔っから輸入に頼ってたって聞くけど。でもまあ、自分とこで“壁”も満足に作れないのは痛いよな」
「風の噂によると、第三世代機が配備された所もあるとかなんとか。じゃあ旧型神機は何なんだよって感じで。
ここにある神機も四分の一くらいは旧型機なんでしょ? なんかこう、寂しいよなって」
「俺、旧型神機のが好きなんだよね。人の意地っていうか、そういうのが詰まってる気がして」
「そうそう、それそれ! いやあ、やっぱ隊長さんは解ってる! よっ、さすが仕事人! 社畜の星!」
「なんだよもー! 言うなよー! 照れるじゃんかよー! でへへでへでへ」
「あっ、そうだ。妹の写真見ます?」
「唐突なのやめない?」
各輸送車両に第一部隊隊員が乗り込み、縦列陣形となっての強行軍だ。
通常の戦術思想であれば集団の先頭が殿が危険であると知れよう。
しかし、相手はアラガミである。
トレーラーが対アラガミ装甲で覆われていても、安心など出来ない。
神機を好んで捕喰する、“接触禁忌”とさえ称されるアラガミもいる。特に、極東には大量に。
大型アラガミの“おこぼれ”を狙って、小型アラガミの群れが同時に出現するのも常だ。
通常の戦術思想では・・・・・・人間相手に想定された人間用の戦術思想では対処できるはずもない。
相手はアラガミなのだ。
アラガミは、どてっ腹の一番柔らかい美味い部分を食い破りにくる。
よって、最も戦力の高い第一部隊隊長が、輸送部隊の中心車両に乗り込み対処にあたるのだ。
輸送任務中、死傷者が最も多いポジションが、この中腹位置である。
ゴッドイーターの任務は物資護衛であって、人の救護ではないのだ。
不幸にも第一部隊は伝統的に人格者が揃っている。このジレンマに苦しんでいる面々は多い。
アラガミも大量にある物資を狙えばいいものを、喰い飽きたとでも言わんばかりに運転や整備担当の一般職員や部隊員を喰っていく。
悪意じみた何かを感じずにはいられない。
アラガミはいつの間にか世界に現れた、“世界”の申し子だ。
ならば、アラガミの悪意とは、世界が人に向けたものなのだろうか。
「かーっ! つれーわー! 妹がアイドルになったらシプレとか簡単に超えちゃいそうでつれーわー! 俺と会う時間もなくなっちゃうんだろうなー! かーっ!」
「妄想乙。俺の妹の方が可愛いですー。ほら見てよこの写真・・・・・・あれっ、これ妹の写真じゃないぞ!? なんで天使が写ってるの!? あっ、忘れてた、俺の妹天使だったわ!
っべー見間違えちゃった! 天使だと思ったら妹だったけどやっぱ天使だったわ! っべーわこれマジっベーわ!」
だからコウタは笑うことにした。
世界の悪意を笑い飛ばせるようにした。
悲嘆に暮れ涙を流す人々の中、自分だけはへらへらと笑っているようにした。
たとえ足を踏み外したとしても。
誤った選択を選んでしまったとしても。
それでも、笑っているようにした。
正直なところ、自分のゴッドイーターとしての力量は劣っている。
これは第一世代機である以上、仕方のない壁だ。
それでも、あらゆる悲劇を、人の過ちと儚さを、笑い飛ばす事くらいは出来る。
理不尽に対して笑ってやることが、自分の戦いだ。
そう信じて。
「なんだ・・・・・・レーダーにノイズが」
理不尽はひっそりと息を潜め、友人のような顔をして、常にすぐ隣に居ることを忘れてはならない。
ならばコウタの戦いは、終わることなき戦いである。
血を吐きながら続けるマラソンのようだ。
「やべえ、砂嵐だ! レーダーがいかれてる!」
「全員戦闘準備用意! 俺の神機出して神機!」
「囲まれてる! アラガミを目視! 間に合わね――――――」
衝撃。
横殴りの慣性。
強烈なスリップ音を経て、トラックが無理矢理に停止させられる。
アラガミの襲撃だ。
鳴き声と足音からして、一匹、二匹・・・・・・数え切れないアラガミの気配がトレーラーを囲んでいる。
他車両の進行と分断されたようだ。レーダーの合間を縫い、砂嵐を待って、絶好の機会を狙っていたのか。
そんな知恵がアラガミにあるのだろうか。それとも世界的な悪意ある偶然か。
はっきりと解ることはただ一つ。
「こりゃやべえや」
コウタは脂汗を流しながら、ニヤリとして笑った。
■ □ ■
隊長だからと意地を張って、殿などせねばよかったかもしれない。
戦闘中、トレーラーと一緒に崖下に叩き落された。救助は望めない。落下の衝撃で負傷しなかったのは幸運だった。
辺りにはそこいら中にコンテナの中身が・・・・・・神機が散らばっている。
非活性状態の神機は、アラガミ達の格好の餌食だ。
渡すわけにはいかない。
何を犠牲にしても。
この大量の神機を使えたらどれだけいいだろうか。
だがそれは不可能だ。
神機は人を選ぶ。
自分と適合するものしか、神機は使えない。
だから罠を仕掛けた。
うまくいった。
起動していない神機であっても、その構成素材は全てが対アラガミ用のものだ。
神機を守るために神機を使う・・・・・・アラガミを“縫い止める”罠とするには十分だった。
“筋力増強錠”、“体躯増強錠”。全てゴッドイーター用の効果の高い代物だ。
常人が耐えられる代物ではない。ただ、後先を考えねばその限りではないことも事実。
ドーピングを行えば、一時的にはゴッドイーターの身体能力に届くだろう。
剣形態の神機を杭として。
盾形態の神機を壁として。
銃形態の神機を枷として。
ありとあらゆる神機を使い、用途外の方法で駆使し切った。
罠に誘う餌は、神機よりも生きが良く美味そうに見える極上の餌は、初めから持っていた。
“挑発フェロモン”の空アンプルが軽い音を立てて転がっていく。
いつの間にか、ひっきりなしに通信から聞こえていた声が止んだ。
隊長、隊長とノイズ混じりの叫び声が入る度、自分はしっかりやれていたのだというほんの少しの満足感を得た。
戦闘区域外に逃れられたのだろう。よかった。
安堵の吐息。
熱い塊が喉の奥からせり上がって、口から溢れていく。
錆びた鉄の味がした。
腹を押さえていた手が落ちた。
圧力でずれてはいけないものが外に零れていく。
恐ろしくて見れない。だいたい想像がつく。
呼吸ができない。
ごぼごぼと泡が立つだけで、空気がまるで入ってこない。
苦しくないのは、もうその機能が失われてしまったのか、必要ではないからなのかもしれない。
影が射した。
アラガミだ。
“オウガテイル”と呼ばれる、極東では最弱の部類であり駆逐されつつあるが、種の多用性に特化し世界的に個体数が最も多い――――――つまり、人を最も多く喰い殺した、アラガミだ。
かぱり、といっそ呆気無く、その大口が開かれた。
涎の雫が降りかかる。
目が合った。
オウガテイルと・・・・・・アラガミと、真っ直ぐに、目が。
目には感情が映し出されるという。
だが巨大な瞳の中には、ぽかんとした自分が映っていて。
なんだか可笑しくて笑えてしまった。
ざまあみろだ。
抱える腹ももう無いが、声を上げる喉も潰れてしまったが、こみ上げる笑いを抑えることが出来ない。
わかる。この笑みは、狂ってしまったからではない。確信があるからだ。
頬が釣り上がるのは、負けていないからだ。
そうだ、人は負けてなどいない。
世界の悪意に。
アラガミの暴威に。
ありとあらゆる理不尽に。
決して、人類は負けてなどいない。
人はいずれ滅ぶのだろう。
だが、最後の一人が倒れてもなお、人は負けてはいないのだという確信がある。
人類に敗北無し。
その確信が、自分にはある。
だから、ざまあみろだ。
人は負けない。
お前達はもう終わりだ。
ざまあみろだ。
俺はやりきった。やりきったぞ。
見ろ。あの輝きを。
お前達を焼く光が来たぞ。
ああ・・・・・・なんて力強くて、美しいんだろう。
思い出した。
妹は、ゴッドイーターに憧れを抱いていたことを。
自分もまた、同じように。
壁の向こうから慢心相違で、しかし誇らし気に帰ってくる神機使い達の横顔が、とても美しく、尊いものに見えたことを。
守る者の横顔だと思った。
戦い切った者の顔だと。
だから、自分も、守るために戦いたいと・・・・・・妹の手を強く握ったのだった。
どうして忘れていたのだろう。
神機使いに憧れた。
あの眩い輝きに憧れた。
俺はゴッドイーターにはなれなかった――――――。
それでも。
■ □ ■
“バースト”の輝きが消える。
エリナとエミールから受け渡されたオラクルエネルギーが底を着いた。
辺りにもう、アラガミの気配はない。
人の気配も。
「こちら第一部隊隊長、藤木コウタ。輸送部隊第二班、生存者ありません。輸送部隊隊長の死亡を確認しました」
戦闘中、崖下へと滑落したトレーラーより投げ出されたコウタは、選択を迫られていた。
担当車を追うか、それとも、未だ無事である他車両の援護に向かうか。
そしてコウタは大を選び、小を切り捨てた。
第一部隊と共にアラガミの大群を凌いだコウタが、崖下に滑落したトレーラーに同乗していた輸送部隊員と、その隊長の救助へと向かった時にはもう、全てが終わっていた。
辺りには部隊員であったであろう人間のパーツと、破損した神機群が散乱している。アラガミに喰い荒らされた、見慣れた地獄がそこにあった。
見覚えのあるタトゥーが入った腕は、昨晩に遊びで腕相撲をした隊員の右手にあったもの。
あの新品のブーツの持ち主は、娘にプレゼントされたと言って喜んでいた父親だった隊員のもの。
そこにある片側しか残っていないが平均以上の乳房は、からかわれて誘惑された時に押し当てられたものに違いない。
そして、あのトレーラーを背にして、半身を失った男は。
つい数時間前に、お互いの妹を自慢し合っていた、輸送部隊の隊長だ。
転がっていた大量の空アンプルが、コウタの分厚いブーツの靴底に砕かれ音を経てる。
「“隊長さん”・・・・・・戦ってたんっすか」
不思議な事に、破損した神機にアラガミの歯跡は付いてはいなかった。
神機に刻まれた傷の全てが、崖下に滑落した際に付いたもの。
そして、“使われた”もののみだった。
まるで墓標のようにして、いくつも、いくつもの神機が突き立っている。
それに縫いとめられるようにして、あるいは動きを封じられ、または下敷きになって身動きがとれずに、蠢くだけのアラガミも。
明らかに、神機を“使って”戦った形跡。
神機はオラクル細胞の塊であるとはいえ、輸送のための待機状態ではその活動は非活性にあり、一般人であっても触れるぐらいならば何とでもなる。
振り回すことは出来なくても、振り上げることくらいならば。
ましてや、薬で強化されていたとなれば、然るべくだろう。
神機に触れることがゴッドイーターとなると、大きな危険が伴うことになるのは、腕輪との接続によるオラクル細胞の活性化のためだ。
この状況を推理するならば。
コウタは動きを封じられたアラガミに、一匹ずつトドメを刺しながら考えていた。
生体接続などせず、純粋に神機を“道具として”扱ったのだということではないか。
大量の空アンプルが答えだった。
アラガミ動物園とも揶揄される極東の職員は、非戦闘員であっても現場に出るのならば、その全てがそれぞれ自衛手段を備えているのだから。
つまりこの半身を失った男は、アラガミを相手に一歩も退かず、戦ったのだ。
守りきったのである。
神機を。
人の未来を。
戦う力は無くとも戦いの場に身を置いた者として、果たすべき任をやり切ったのだ。
やり切って、しまったのだ。
「ちぇ・・・・・・逃げればよかったのにさ・・・・・・隊長さん、あんた馬鹿だよ・・・・・・ちっくしょ」
アラガミを処理した後は、遺された者の責務がある。
コウタは黙々と、遺品を集め始めた。
見覚えがある。これも、これも、全てが、元の持ち主が大事にしていたものばかりが。
そして、この地面に落ちて血で汚れきってしまった写真も、また。
見覚えのある・・・・・・嫌という程見せつけられた写真が、落ちていた。
あの隊長が肌身離さず、誰にも触れさせずにいた写真が。
汚れなど、ましてやどんな非常時にあっても地面に落とすことなど絶対にありえないだろう。何年も前にとられたかのような、古ぼけた写真が。
プリントされた日付も、何年も前のもの。
コウタはこの男の妹が、アラガミ被害にあって亡くなったことを知っている。それをこの男が認められないままでいたということも。
つまりこ男は、神機を守ることを選び――――――。
「隊長さん、あんた・・・・・・最後に何を見たんだ?」
顔面の半分も失った男が最後に見た光景は、大口を開けたアラガミだったはずだ。
その喉の奥の、暗闇であったはずだ。
人は喰われるしかないという、どうしようも無い事実と、そして絶望だったはずだ。
だが、この男の顔は。
「ああ・・・・・・そっか」
コウタは知っている。
よく、知っている。
それは見慣れた顔だった。
極東のラウンジで、ぐったりとした者がよく浮かべていた顔だった。
戦い切った者が浮かべる、ある種の満足が込められた泥臭い微笑み・・・・・・ゴッドイーターの顔だった。
瞬間、全てを理解した。
これまで、コウタはたくさんの人の命が無常に消え失せる様を見詰めてきた。
ずっと不思議だったことがある。
その最後に、何故か満足気な顔を浮かべていた者が、少なからずいたこと。
彼等の苦痛、恐怖はいかほどのものか。しかしその全てを塗り替えるほどの誇りに満ち溢れた顔だった。
この男のように。
「妹さんに、会えたんだな」
コウタは全てを理解した。
彼等こそがゴッドイーターなのだと。
極東の、神機使い達なのだと。
「あんたは誰よりもゴッドイーターだったよ。誰よりも・・・・・・神機使いだった。ちぇっ・・・・・・かっこいいじゃん。へへ・・・・・・」
だからコウタは笑うことにした。
ゴッドイーターの死は哀しむべきではない。
それが人の礎となると、覚悟と共に戦場に臨んだのであれば、決して、哀しんではいけない。
戦った者の意志を侮辱することなどあってはいけない。
だから遺された者は、少しだけ心の震えるままに泣いて、そして微笑むべきだ。
そうコウタは思っている。
きっと、いずれ仲間が誰か、また欠けることがあったとしても。
自分は一人、へらへらと笑っているだろう。
それでいい。それでいいのだ。
負けてはいないのだから。
ゴッドイーターは。極東の神機使いは。人類は。
決して、負けてなどいないのだから。
だからコウタは、今日もまた笑っている。
天に向かって、挑むように笑っている。
神機とはきっと、人の内側にこそ掲げられるものなのだから。
この胸の内にある確かな想いこそが、命叶わず倒れた者達に遺され、託された、神機なのだろう。
コウタは“遺された神機”を強く握り締めた。
倒れた男。
そして、立っている男。
二人の“神機使い”。
その血と泥と汗に塗れた無様な横顔を、夕焼けが熱く照らしていた。
極東の、神機使い達の横顔を。
■ □ ■
人類は絶滅するのだろう。
アラガミに喰われて、死に絶えるのだろう。
人に未来はなく、明日などないのだろう。
だが、消え往く人類が見る最後の光景は、アラガミの口の中に広がる無限の闇ではない。
暗闇の中に散る、一瞬の閃光。
ゴッドイーター達が戦いの中放つ、決して尽きる事の無い、オラクルの輝き。
たとえ絶望と苦痛の最中にあったとしても、その輝きは曇り無く、美しい。
あの輝きの美しさは、誰にも否定することはできない。
それが例え、神であったとしても。
瞳に映る最後の光景が、儚く美しいものであったのならば。
冷たい手をかたわらでそっと握る誰かが、そこにいてくれたのならば。
人類はただ無為に消え行くだけの存在ではない。
決して、ない。
眩いオラクルの輝きに憧れて。
しかし、ゴッドイーターにはなれなかったとしても。それでも。
もし、アラガミに対抗し得る唯一無二の、人がその身に持てる何かを神機と呼ぶのならば。
拳を握り締め、顔を上げた瞬間に胸に宿るもの。
これこそが、人が持つ最強の剣。
これこそが、神機と呼ばれるものに違いない。
ならばきっと、ゴッドイーター達の戦いを観る者を。
たとえモニタ越しの録画映像であったとしても、彼らの姿に感銘を受けた者を。
それが例え加工されたアニメーションであったとしても、彼らの戦う姿を尊いと感じた者を。
彼らと共に、拳を振り上げんとした者こそを。
敗北に信念が折れ、魂が砕け散ったとしても、後に続く者がいるのだと信じられる者達こそを。
遺された心を拾い集め、継いでいくのだと信じる全ての者を。
『神機使い』と、そう呼ぶのだろう。
(´・ω・`)>きっと、ゴッドイーターのアニメを観ている瞬間。
(´・ω・`)>誰もが神機使いになってるんだ。
(´・ω・`)>信じて?
祝! GEアニメ放送直前記念! みんなで書こうGE合作短編集企画!
始めに、このような素晴らしい企画をすすめて頂きました、ウンバボ族の強襲様に感謝のお言葉を。
そして参加者の皆様方おつかれさまです。
このような企画に参加したことは初めてで、すごくワクワクしました!
なんだか参加できたことだけで嬉しくって充実しています。
ゴッドイーターアニメ化ですね!
アニメ化ですよ! それも放送直前!
いやー楽しみですね! 極東支部の皆が動く・・・・・・動くぞ!
下乳(アリサ)が! 上乳(ツバキさん)が! 横乳(サクヤさん)が!
全部動くぞおおおおおおうおおおあああああわああああああ。
みんな! いいかみんな! アニメを観ているみんなが、全員が神機使いなんだよ!
神機の準備は万全か! 自分の神機は磨いてあるか!
いくぞおおおバーストモード! 覚醒せよブラッドアーツぅうううううう!
レイジバーストおおおおおお撃ち放題だうひょおおおおおおう!
ふう。
短編の説明をいちおうするならば。
勘違い者SSの投稿者として勘違い要素をいれようとして。
ミスリードという名の勘違いをやろう! としたら。
いつもの私の感じになりました。
あとゲーム中にコウタだけ場違いな顔してたことへの解釈をあれそれと。
それでは、アニメが放送したらまた語らい合いましょう!
今一度ご挨拶を。
ウンバボ族の強襲様、投稿者の皆様、私の短編を読んで頂けました皆様方。
ありがとうございました!
6/28日追記
GE : RESURRECTION(ゴッドイーター リザレクション) 発表!
GE1のリメイク・・・だと・・・・・・!
バースト待機せざるを得ない。
RESURRECTION : You !