【GE作者合同投稿企画】アニメ化ですよ、神喰さん!   作:GE二次作者一同

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題名・作者名:とある神機使いの非日常・赤夏目

投稿作品名:GOD EATER ~とある捕喰者の日常~

登場キャラ:オリ主、第一部隊

ジャンル:日常? ほのぼの



とある神機使いの非日常 (作:赤夏目)

 

 

『とある神機使いの非日常』

 

 

今日もいつも通り、小さなアラガミが集う贖罪の街。

大きく(かじ)られたようなビルの隙間から橙色をした淡い光が差し込んでいた。

やっぱりいつ何時でも、もちろん戦場でも夕陽というものは綺麗だ。

贖罪の街の夕陽は、特に綺麗に見える気がする。

と言っても、夕陽の全景が見られたわけじゃなくて、漏れた光が見えているだけなんだけど。

 

あれ? もしかしてオレ、夕陽じゃなくて赤っぽい空が好きなだけ?

そんな風に頭を悩ませつつ、オレは景色を見渡していた。

街の中心にある教会の屋根に座ったまま、だけど。

 

いやいや、これもちゃんとした理由があって、こういう高いところにいるとアラガミの取りこぼしのチェックがやりやすいんですよ。

夕陽が綺麗なこの場所には、最近大型アラガミもちょくちょく顔を出してくれるようになって、帰投直前に出てきてくれたりするし。

 

 

まあ、全部討伐しちゃった後なんだけどね……。

やや西の方を見ると、消えかかっているハガンコンゴウの頭が2つ見えた。

1体40秒を目安に戦ってたら、合計30秒でやっつけちゃった。

 

 

どうも。強敵と戦うことのみに快楽を見出すバーサーカーこと衣笠(きぬがさ)カエデです。

で、快楽って何? ソーマに言われたんだけどよくわからなかったんだよね。

ああ、強い敵、どこかに転がってないかなぁ……降ってきてくれてもいいんだけど。

少々憂いを感じていると、風が頬を空しく撫でた。

 

「おーい、カエデ。何してんだ?」

 

「そろそろ帰投時間ですよ」

 

真下から声が聞こえる。

腰を前に傾けて下を見ると、そこにはアリサとコウタがいた。

チームとして同じミッションに当たった2人は、屋根の下からオレを呼んでいた。

 

そういえば2人とも、結構長い付き合いになってるのかなぁ。

最近会ったことといえば……あ、そうそう。シオの服を作ったこと。

リッカさんの腕前にはなかなか驚いたっけ……あれ、どんな服だったかな。

 

「カーエーデー!」

 

思考の片隅に歩いていくところをコウタの声に止められる。

いけない。こうやってすぐ別のことに気を取られているようじゃダメだ。

 

「あ、今行きまーす」

 

そう返してから、ぴょんと地面へ飛び降りた。

 

 

飛び上がった瞬間に、少し高い位置からの景色が見えた。

ビルのてっぺんを越えた先に見えるのは、大きな夕陽。

オレの髪と同じ、真っ赤な色をしたそれは、とても眩しくて鮮やかな色をしていた。

風にはためく(・・・・)自分の服の音なんて聞こえない。

先程見た一瞬の光景の余韻に浸ってしまっていた。

ああ、やっぱり綺麗だ――――――――

 

 

「ぎゃああああああああああ!?」

 

 

突然、コウタの悲鳴が聞こえた。

それとほぼ同時に、足に地面ではない不安定な何かに触れた、鈍い感触が伝わってくる。

地面のくせに妙にやわらかく、ごつごつと不安定な何かだ。

 

「あっ」

 

余韻から一気に覚めたオレは、現実に引き戻された。

ああ、やってしまった。別のことに気を取られてうんぬん、とは何だったのか。

そう理解したのは、コウタと地面に熱い抱擁を交わさせた後だった。

 

「コウタごめん!」

 

彼の上から飛びのいて、すぐさま慌てて助け起こす。

力の抜けたコウタから、ぐにゅうと気の抜けた声が漏れた。

手から神機を落とし、地面から鈍めの金属が鳴った。

完全にのびてしまっている。

 

「コウタ! しっかり!」

 

コウタの両肩を持って前後に揺する。

連動して首ががくんがくんと揺れる。

こ、これはもしかして――――

 

「し、死んでる!?」

 

「死んだ! 今のは死んだ!」

 

コウタが揺れながら叫んだ。

あ、しゃべったってことは生きてる。

 

「よ、よかった……」

 

「神機使いがこの程度で死ぬわけないでしょう」

 

揺らす手を止めたオレに向かって、アリサは柔らかな微笑みを湛えながら呟く。

その笑顔の裏で、銃形態になった神機でコウタをばしばし突いていた。

……もしかしてそれはツッコミ? 随分と辛辣な物理攻撃のような。

 

「カエデに与える優しさの半分でもいいから、オレにも分けてくれよ……」

 

哀しげに呟くコウタの姿には、どことなく哀愁が漂っていた。

 

 

「ごめんねコウタ」

 

服も、自慢のマフラーもどろどろになってしまったコウタに頭を下げる。

理由はもちろん、オレが空から降ってきたせいだ。

オレの言葉に対し、コウタは落とした神機を拾いながら言った。

 

「フッ、いいって別に」

 

上から押しつぶしたというのに、さわやかな微笑みを返してくれる。

普段のお調子者の風体はどこへやら、大人っぽさの滲み出るクールな態度だった。

夕陽なんかよりコウタのほうがずっと綺麗だ。友情ばんざい。

 

「カシミヤ4つと上絹糸9つで許してやる」

 

きりっとした表情で、そう言ってのけた。

……綺麗なのかな?

友情とやらに疑問を抱いた瞬間、アリサが素早くコウタから身を引き(別に近くにいたわけでもないのに)、オレの真横に寄ってきた。

 

「どん引きです」

 

「ええ!? いいじゃんそのくらい!」

 

「……」

 

「う、うぅ」

 

コウタが抗議の声を上げるも、じっとアリサに見つめられて黙殺されてしまう。

アリサの表情は、こちらからではよく見えない。

でも、きっと帽子の下には凍てつくような侮蔑の視線が発射されているに違いない。

名付けてアリサビーム。なんかサリエルみたい。

 

まあ、それは置いておいて。

このままではコウタが可哀想なので、ちゃんとフォローを入れておく。

 

「カシミヤ4つと上絹糸9つね」

 

「え、いいのか!?」

 

「うん。余ってるし」

 

コウタにぐっとサムズアップしてみせる。

その他にもたくさん、拾得物は一通りそろっている。

むやみやたらにミッションに出ているせいか、よく落ちているのを見かけて拾うので、売るくらいある。

でも売ってもお金貯まるだけだし、買うものも特にないしで困る。

だからプレゼントするというのは、みんなが得をする、最も美しい昇華方法になる。

 

「やったぜ! これでバガラリーの衣装、リッカさんに作ってもらえる!」

 

コウタは、満面の笑みを浮かべてガッツポーズをした。

ていうかリッカさんにそんなこと頼んでたんだ。

ああ、そういえばシオの服を作ったのもリッカさんだったもんね。

何はともあれ、めでたしめでたし。これで一件落着だ。

 

「はぁ……あなたは甘いですね」

 

アリサは嘆息しながら、やれやれという風に首を振る。

オレはそれを見て、笑って見せた。

一方コウタはというと、アリサに対して半眼を作っていた。

 

「いや、アリサのほうがカエデに甘い……いやごめんなさい、何でもないです」

 

アリサに銃口を向けられたコウタは緊急回避できる体制をとった。

2人とも仲いいなぁ。

 

「では、帰りましょうか」

 

コウタいじりを終えたアリサがそう告げる。

ふと空に目をやると、夕焼けが明るみを失い始めている。

そろそろ日も暮れてきたことだ。

 

「そうだね」

 

「ああ、帰ってバガラリー見よっ」

 

オレたちは夕陽に背を向け、乗ってきたヘリの方へ向かった。

 

 

「反省会、ね」

 

「はい。ぜひやっておくべきです」

 

ツバキさんに任務内容を報告し終えた後、なぜかテンションが高めのアリサに連れられて、オレたちは再び集まっていた。

ロビーの1階の片側のソファに集合し、今日の任務の反省会を行う、という名目で。

しかしそんなものは初めてだし、何より反省するような任務を行っていない。

というか、近くで聞こえた第三部隊メンバーの会話から推測するに、第三部隊がやってたそれの真似をしたいみたいだった。

 

アリサって意外とわかりやすいところあるよね。

なんて言うと怒られかねないので、オレは口を(つぐ)んでおく。

 

「何か意見はありますか?」

 

「アリサが神機で殴ってきて痛かったでーす」

 

この場を仕切るアリサに、コウタが意見を発した。

意見というよりは、ただの不満に近かったけど。

 

「それは制裁です。以降はそうならないよう、気を付けてください」

 

「えっ、何その権限。ていうかオレが悪いの?」

 

どうやらコウタの負けらしい。アリサは強い。

ふむと息を鳴らしたアリサは、腕を組みつつ次の意見を待った。

それを見たコウタが追撃を図るも、彼女にひと睨みされて退(しりぞ)いた。

あ、これオレの意見待ちかな。

 

だが、それと言って文句もないオレは、特に意見なんて持ち合わせていない。

その態度を全身で表すため、ソファの背にもたれかかってふんぞり返ってみる。

リンドウさんの「任務終わったからビール」のポーズだ。

隣に座るコウタが、わかるわかると言わんばかりに首を振る。

 

「?」

 

対して、目の前のアリサには首を傾げられた。

くっ、わからないか……。

 

 

ちなみに今日、リンドウさんは普通に休みなので部屋で寝てます。

えっ、教会に閉じ込められてアラガミ化してバースト? 何それ?

 

 

とにかくオレには出す意見がないので、話題を切り替えることに思考をシフトチェンジした。

 

「それにしても、神機使いって不思議だよねぇ」

 

オレは自分の左手についた腕輪をちらりと見た。

真っ赤な腕輪は少し薄汚れていて、随所に傷が見られる。

こんな腕輪と、ちょっとした細胞を入れるだけで肉体が超活性化するなんて不思議だった。

 

「え? そうか?」

 

しかしコウタは疑問を抱かないらしい。

あれ?

 

「そうでしょうか?」

 

アリサも同じく、オレに対して不思議そうな目を向けた。

……あれ? 話題チェンジ失敗?

 

「いや、その疑問は実に素晴らしいよ」

 

オレとコウタの肩の間から、サカキ博士がひょこっと顔を出した。

 

「うわあおお!?」

 

「あ、こんにちは」

 

慌てふためくコウタと対照的に、オレはいたって冷静にあいさつした。

だって後ろの方から博士っぽい匂いしたもん。メカメカしい匂いが。

 

「それでだ、君たちは神機使いの何を知りたいんだい?」

 

口の端をくいと上げ、いつもの笑顔を作ると、細い目でオレたちをぐるりと見まわした。

眼鏡に照明の光が反射し、すぐに目元が見えなくなる。

おお、博士っぽい感じ。博士だけど。

 

そうか、サカキ博士に聞けばわかるんだよね。

隣で怯えきったコウタと、意見待ちで面を食らったアリサの代わりにオレが聞くことにする。

 

「神機使いのメカニズムを教えてください!」

 

光る眼鏡越しでもわかるほど、博士の顔が驚きに満ちたものとなる。

吊られたように上がった口端が下がった。

 

だが、それもほんの一瞬だった。

 

「いいのかい?」

 

ねっとりとした低く響く声が鼓膜を震わせる。

このロビーの一角だけ、明らかに空気が変わった。

そんな風に感じるほど、博士の顔は真剣でいて、かつ喜んでいるように見えた。

こんな表情はあまり見ない。レアだ。

それに、ここまで持ち上げてやっぱりいいですとは言えないだろう。

 

「よくわからないんですけど聞きたいです」

 

それが悲劇の始まりになるとは、この中の誰も予想していなかった。

 

 

「……う、うおお」

 

軋む体、脳に渦巻く無数の単語の猛攻に耐えながら、オレは自室へ向かった。

出撃ゲートのから見えた空は、もう明るくなっていた。

どうやら徹夜だったらしい。博士の勉強会は。

 

「アリサ、大丈夫?」

 

背に乗った彼女からは、返事はなかった。

どうやら博士にやられてしまったらしい。

寝息も聞こえないのだから恐ろしいことこの上ない。

早くベッドに寝かせてやらないと、過労で倒れてもおかしくない状況だ。

 

コウタは先に自室へ向かったが、足取りは非常に重そうだった。

やつれた顔をしながら、うわ言のようにエレベーターに乗っていった様子は鮮明に記憶している。

コウタが乗る前に出てきたカノンの驚きようも覚えている。

たしかゾンビって言って驚いてた気がする。ゾンビって何だろう。食べ物かな。

 

「今日、休みでよかった……」

 

ふぅとため息をつき、自室のドアを開ける。

見えるのは、服が散らかった床とオレ用とアリサ用の2つのターミナル。それに、2つ並んだベッド。

片方のベッドに背を向け、膝を曲げてアリサをそこに下ろした。

そしてゆっくりと寝ころばせると、ようやく寝息が聞こえ始めた。

眉間のシワも消えているし、もう寝たのだろう。

 

「同室ってこういうとき便利だなぁ」

 

オレはどことなく他人事のように呟きながら、ベッドの隣の机に近寄った。

机の上に置いてある日記帳とペンを手に取って、すぐに今日の出来事を書き留めようとする。

これは日課だし、ちゃんとやらないと。

 

「うっ」

 

――――ダメだ。書き留められない。

今日の、正しくは、昨日の夜から今日の朝にかけての出来事が思い出せない。

思い出そうとすると、記憶に(もや)がかかったように見えなくなる。

 

「書けない……」

 

オレは日記帳を閉じ、ベッドに倒れこんだ。

凄まじい倦怠感に押しつぶされそうになる。

どんなアラガミと戦った時より疲れた。そんな気がしてやまない。

 

そういえばサカキ博士は、あの後どこに行ったんだっけ。

ずきずき痛む頭を抱えながら思い出してみる。

 

……そうだ、研究があるとか言って、また研究室に向かったんだっけ。

博士のにこやかでいて満足気な表情とともに、その部分だけの記憶が蘇る。

 

――――強化された神機使いよりもタフなサカキ博士って、神機使いより強くない?

 

薄れゆく意識の中、その事実だけを脳裏に焼き付けたまま、オレは深い眠りについた。

でも、翌日には忘れていた。


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