【GE作者合同投稿企画】アニメ化ですよ、神喰さん!   作:GE二次作者一同

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題名・作者名:君の思い出になるまえに・みか

投稿作品名:絶対零度の御嬢様が往く

登場キャラ:エリック・デア=フォーゲルヴァイデ ソーマ・シックザール エリナ・デア=フォーゲルヴァイデ 操縦士S 竹田ヒバリ 

ジャンル・タグ:華麗ではない 華麗になろうとするエリック 残酷な描写あり 友情 上だ(出番無し)



君の思い出になるまえに (作:みか)

フェンリル極東支部。

世界を脅かす災厄、人類の天敵、八百万の神たちになぞらえてアラガミと呼ばれているそれらが我が物顔で歩き回る極東に、ぽつりと存在する人類最後の砦、通称アナグラの一室にて……。

 

「エリナ、今日も行ってくるよ」

一人の青年が一枚の手紙と写真を手に、真剣な表情を浮かべていた。サングラスを掛け、髪をセットしたこの青年の名はエリック。真っ暗な絶望に染め上げられた世界のなかで、人々のただ一筋の希望ともいえるゴッドイーターという職に就いており、弱冠十七歳ながら、演習、実務共に優秀な成績をおさめている。まさにエリートと呼ぶにふさわしい存在だった。

 

「……おい、エリック、そろそろ行くぞ」

「お、もうそんな時間かい?」

エリックは写真と手紙を腰につけたバッグの中にしまう。

「さっさと支度しろ」

「わかったよ、ソーマ」

 

ソーマと呼ばれたフードの青年はふん、と鼻を鳴らすと、エリックを置いて部屋を出ていった。

 

「よし、今日も華麗に任務をこ、こな……ふぁああ~」

残されたエリックは気合を入れようと、腕を上に大きく伸ばしたところで一つあくびをしてしまった。

「だ、誰にも聞かれていないだろうね」

エリックは恥ずかしそうに顔を赤らめ、

「コホン、今日も華麗に任務をこなしてみせる」

一つ咳払いをするとソーマの後を追った。

 

――――

 

「今日の任務はコンゴウの討伐と」

「……オウガテイルとコクーンメイデンの討伐だな」

ヘリに乗り込んだ二人は向かい合わせに座っていた。とは言っても、嬉しそうにニコニコしているエリックとは対照的にソーマの方はヘッドホンを装着し、何かを考えるかのようにしかめっ面で横を向いていたのだが。

彼らの横には神機と呼ばれる武器――アラガミの動きを停止させることの出来る唯一の兵器、が大仰な装置に接続され置かれていた。

ヘリの操縦士はどのような事態にも対処出来るよう、辺りと計器に注意深く目を向けており、自分からエリック達に何かを話しかけようとはしない。そのため、手持無沙汰になったエリックはミッションプランの確認という名目で無愛想な友人に絡むことにしたのである。

 

「コンゴウか、いつも通りに僕が援護するから、ソーマは注意を引き付けていてくれたまえ」

「ああ」

「あとはオウガテイルとコクーンメイデンだね」

「そんな雑魚、対策を立てるまでもない。近付いてぶった斬るまでだ」

「まあ、君ならそう言うと思ったよ」 エリックは髪をかき上げ、言葉を続ける。

「でもね、今回は例の新人くんもミッションに参加するらしいんだよ」

「例の新型か……」

新人というワードにソーマが顔を少し上げる。

「まだあまり実戦の経験は無いはずだから、ひょっとしたら危険かもしれない。……僕らが上手くフォローしてあげないとね」

「いくら策を弄したところで、死ぬ奴は死ぬ」

ソーマは鼻を鳴らし、そう言い捨てた。

「そうだね」

そんな辛辣な言葉にもエリックは表情を変えず、優しい口調で言葉を続ける。

「でも、僕とソーマが協力すれば、そんな可能性は限りなく低くできると思うよ」

「……ちっ」

再度横を向いてしまったソーマを見て、エリックは微笑む。

先ほどの動作が、不器用な友人なりの「わかった」というサインだということをよく知っていたからだった。

「まもなく、目標地点です」 

操縦士から声が掛かる。

「了解」

「……」

装備品等の最終確認を行うエリック。その顔には既に、先ほどまでの柔らかな笑みは無く、これから命のやり取りを行うという緊張感を孕んだ、狼のように鋭い表情が張り付いていた。

 

――――

 

ヘリは目標地点へと到着した。

贖罪の街――アラガミによって無残にも喰い荒らされた旧世代の街だ。

かつての栄華は見る影もなく、穴だらけのビル、ステンドグラスが半分抉り取られた教会など、大きな建造物しかその姿をとどめていない。風を受けて時折虚しく音を立てているそれらは、まるですすり泣きを上げている哀れな乞食のようだった。

 

「ご武運を」

「ありがとう、帰りも頼むよ」

操縦士の言葉に片手をあげて答えたエリックは一つ大きく息を吐くと、神機を担ぎ勢いよく飛び降りた。輸送ヘリがアラガミに襲われてしまっては、ゴッドイーター達はアナグラに帰ることが出来なくなってしまう。そのため、少々荒っぽくはなるが、着陸するよりはリスクの少ない低空からゴッドイーター達を送り出すのだ。

エリックは着地の瞬間に膝を曲げてうまく衝撃を受け流すと、顔を上げて次第に上昇していくヘリを見送る。もしも今、ヘリの付近にアラガミが出現した場合、遠距離にオラクル弾を撃ち込むことのできるエリックが文字通り生命線となる。これは近接神機のソーマには出来ない、エリックだけに与えられた重要な役目だった。

 

ヘリが無事に飛び去るのを確認して、エリックはようやく肩の力を少し抜いた。

 

「無線で一つ連絡を入れれば、すぐに来てくれるとはいえ、少し心細い気分になるね」

「まあな」

エリックより先に降りて辺りを警戒していたソーマがぶっきらぼうに答える。

二人が降り立ったのはエリアの端にある高台の上。両側面と背面が土壁に囲まれているため、まだ危険は少ないものの、既に敵地であることには変わりない。

(エリナ、今日も必ず生きて帰ってみせるよ)

「こっちだ、行くぞ」

エリックが感慨にふけっている間に、ソーマは勢いよく高台から飛び降りていった。

「少しくらい待ってくれたまえよ」

エリックは髪をかき上げると、空中で華麗に何度か回転しながら高台を飛び降りた。今日も命を懸けた人類の天敵との戦いが幕を開けようとしている。

 

「ソーマ! 足を挫いた、回復錠、回復錠を」

「ちっ、世話が焼ける」

否、油断という名の天敵との激闘は既に始まっていた。

 

――――

 

「ソーマ、一度下がりたまえ」

「ちぃっ」

振るわれたコンゴウの尻尾をかわし、ソーマが後方にステップを踏む。

「くらいたまえ」

重苦しい音が一度響き、コンゴウの横腹に紫色の閃光が突き刺さった。

怒り狂い、エリックに狙いを定めて背中のパイプ状の器官より空気の弾丸を発射しようとしたコンゴウに、真っ黒な猟犬が肉薄する。

「……」

ソーマは上段から大きく刃を振るい、コンゴウの尻尾を無言で破砕した。

耳をつんざくような叫び声が上がる。と同時にエリックが動いた。ブラストを構え、

「 」 ソーマに向けて何かを叫ぶ

コンゴウの叫び声に消されて、エリックが何を口に出したのかはよく聞こえなかったが、付き合いの長いソーマにはその動作だけで十分だった。

ソーマは一歩右にずれ、友人の射線を確保した。そして自身の持つ黒色の大剣を肩に担ぎ、力を込める。

それはいわゆるチャージクラッシュの体勢だった。

ダメージから回復したコンゴウが近くで無防備に剣を構えるソーマを押しつぶさんと、両腕を振り下ろす。

「僕の華麗さに痺れたまえ」

コンゴウの剛腕がソーマに触れようとしたまさにその瞬間、エリックの銃が再び火を吹いた。

コンゴウが腕を振り下ろそうとした姿勢のまま、まるで糸にからめとられたかのように動かなくなる。

エリックの銃身から放たれたのはホールド弾、アラガミの動きをほんの一瞬だけ止める効果を持つ特殊弾だ。

「くたばれ」

無防備にさらされたコンゴウの顔面に死神の刃が迫る。

ソーマの渾身の一撃はコンゴウの顔を割っただけには留まらず、上半身を両断して地面に深く食い込んだ。

頭部を無くし、背面のパイプ器官をも両断されたコンゴウは、最後に両腕を大きく上げると、力無く倒れ込み、動かなくなった。

ソーマはすかさず神機を捕喰形態に変化させると、アラガミからコアを奪い取った。

アラガミに存在するコアと呼ばれる器官は、周りのオラクル細胞に命令を出す機能を持っている。何千、何万ものオラクル細胞の集まりがアラガミという存在を形成しているのだが、コアからの命令がなければ、それらは動くことはできない。牙なら牙、爪なら爪、尻尾なら尻尾、それぞれの部位に在るコアがその部位を動かす役目を担っているのだ。そのため、アラガミが動きを停止させた後も、コアを抜き取るまで油断はできない。

 

「華麗なる連係プレイだったね」

「ふん」

辺りに他のアラガミが居らず、コアの摘出も終わったことを確認して、エリックが神機を下ろした。左手で髪をかき上げる。

「ソーマ、周囲の警戒を頼んだよ」

「ああ」

任務後のアナグラへの報告はエリックが行うことになっていた。別に何か取り決めた訳では無いのだが、人付き合いのあまり得意な方ではないソーマを、エリックなりに気遣ったのかもしれない。

 

「ヒバリ嬢、こちらエリック、ミッションは無事に終了したよ」

『あ、エリックさん、お怪我などはありませんか?』

「もちろん、華麗な僕がついているんだからね」

『了解しました。すぐに帰投ヘリが向かいますので、もうしばらくお待ちください』

「了解、あ、こんなに早く終わったのは無論、僕の手柄だよ」

『流石はエリックさんですね』

「もっと褒めてくれてもいいんだよ。はーっはっは!」

『あ、通信機の調子が……ざざざ』

「ヒバリ嬢? ヒバリ嬢? また切れてしまったのか……、これで三百回は連続だ。通信機を新しいものに変えた方がいいんじゃないかな」

「……やれやれ」

アラガミの気配はもう感じられない。

通信機をぶんぶんと振っているエリックを横目に、ソーマは旧世代の遺物の回収に向かう。

「ど、どこへ行ったんだいソーマ、一人にしないでくれたまえよ」

「こっちだ馬鹿」 

小走りで近付いてくるエリックを見て、ソーマは口元に自分でも気付かないほどの小さな笑みを浮かべた。

 

「何かいいものは落ちていたかい?」

「いや、ハーブが少し見つかったぐらいだ」

「そうかい……お、あれを見たまえソーマ」

「エリック、あまりうろちょろするなよ」

「わかっているさ。お、あんなところにも」

「はぁ……」

フードを外したソーマが神機を担ぎ、どんぐりを拾い歩く幼子のようにあっちへこっちへ、ちょこちょこ動き回る手の掛かる友人の後に続く。二人の頭上では陽の光を浴びたステンドグラスがひっそりと輝いていた。

 

――――

 

「補給は必要ないから、このまま鉄塔の森に向かってくれたまえ」

「承知しました」

二人を乗せたヘリはかなり上空まで飛び上がっていた。低高度の場合はザイゴートやシユウといったアラガミの襲撃を受ける可能性があるため、警戒を行う必要があるが、ここまで飛び上がってしまえば、もうエリック達にやることは無い。

神機を装置に接続すると、エリックは途端に手持無沙汰になった。

向かいに座る友人は朝と同様、早々にヘッドホンを装着してしまっている。エリックはバッグの中からコンパクトな鏡を取り出し、アラガミとの戦いで少々乱れていた髪を整える。そして次に何をしようかぼんやりと考えた。窓から差し込んでくる柔らかな陽の光に微睡んでしまいそうになるものの、あいにくとここは安全な屋敷やアナグラ内の自室ではなく、どこにアラガミが居てもおかしくない無法地帯の真っ只中なのだ。襲ってくる眠気を頬を叩くことによって誤魔化し、読書でもするか、と本を取り出したものの、妙なところで真面目なエリックは、乗り物酔いしてはいざという時に危ないと、五ページも読まないうちに本を閉じた。

「ふーっ」

エリックは硬い座椅子にもたれかかり、そのままの姿勢で外の様子をぼんやりと眺めた。青い空がどこまでも広がり、所々にふわふわとした綿雲が浮かんでいる。眼下はどこもひどい有様でも、空の上は平和だった。

 

水筒の水を飲んでしまうと、エリックはいよいよやることが無くなってしまった。エリナからの手紙――今ではかなりの量の紙の束だ、はもう暗記するほど読んでしまったし、ミッション内容の確認も終わった。操縦士の気を散らすわけにもいかない。さて、何か暇を潰せるものはないかと辺りを見回したところで、うつむいているソーマがいつもより悲しそうな顔をしているのに気付いた。

エリックの友人は時折、ひどく悲しそうな瞳をして何かを考え込むことがある。それはきっと今までソーマの身に降りかかった、沢山の辛いことを思い出しているのだろうと、エリックは考えていた。ソーマは過去を語らない。付き合いが長いエリックでもソーマのことはほとんど何も知らないのだ。

(語りたくないことの一つや二つ、誰にだってあるものだからね。……でも、いつか吐き出してしまいたくなったら、その時はいくらでも付き合うよ)

エリックはそう思いながら、いつものようにソーマに話しかける。

 

「ねぇソーマ、何の曲を聴いているんだい?」

ソーマが顔を上げた。

「お前には関係無い」

「そんなこと言わず、教えてくれたまえよ」

 

ソーマが悲しげな顔をしている時、今のエリックに出来るのは、陽気に笑いながらとりとめのないことを話しかける事くらいだ。エリックが話しかけると、無愛想だが本当は誰よりも優しい友人は、面倒くさそうにしながらも、ほんの少し表情をやわらかく変化させてくれるのだった。

 

「はぁ……」

ソーマは一つため息をつくと、無造作にヘッドホンを外した。

「聴いていてみりゃ早いだろ」

そう言ってエリックにヘッドホンを差し出す。

「いいのかい?」

「このままずっと付きまとわれるよりはマシだ」

「じゃあ少し失礼するよ」

エリックはそれを受け取り、頭に取り付けた。

耳をそばだてる。

 

――終わらない歌が無いなら

 

美しく、切ない旋律が流れ始めた。

 

エリックは目を閉じ、音楽に合わせて色々な事を考える。自分のこと、最愛の妹のこと、目の前の友人のこと

 

エリックが極東にやってきたのは今からおよそ二年前、妹のエリナを自分の手で守りたい、その一心だけでゴッドイーターになり、極東支部までやってきたのだ。勿論、父親をはじめとした周囲の人間からは強い反対を受けた。お前はフォーゲルヴァイデ家の跡取りだ、何もあんな激戦区に行くことは無い、ひょっとしたら死んでしまうかもしれないんだぞ。エリックをなんとか引き留めようと投げかけられる沢山の言葉に、全て否、と答える。「妹が泣いているんだ、それを黙って見ているわけにはいかない」と。

 

何度殴られても決して意見を曲げないエリックを見て、父は「勝手にしろ、お前の事などもう息子とは思わん」と後ろを向いた。しかし、一礼して部屋を出ようとしたエリックを呼び止め、「絶対に死ぬな」と泣きながら抱擁してくれた。そんな暖かい場所を捨てて、エリックはたった一人、極東へとやってきたのだ。

極東、そこはまさに地獄だった。欧州では見たことのない凶悪なアラガミがダース単位で現れ、仲間の命を奪ってゆく。先ほどまで共に話していた未来ある青年が、まだ未熟なエリックに戦いのイロハを教えてくれた先輩が、妹によく似た少女が……ゴッドイーターであっても無くても、様々な命が日夜アラガミに刈り取られていく。段々と疲弊していく一人ぼっちのエリックの味方は妹だけだった。

 

部屋にやってくるエリナにせがまれ、毎日のようにエリックは偽りの英雄譚を語った。自分は極東で最も優れたゴッドイーターであり、多くの仲間に囲まれている。どのようなアラガミもまるでワルツを踊るように華麗に討伐していくヒーローなのだと。

エリックが大げさに武勇伝を語ってみせると、無邪気な妹は「エリックはすごく強いんだね」と目を輝かせるのだった。

妹の前では格好の良い兄を演じるエリックだが、その仮面が剥がれ落ちてしまう時もあった。情けないとは思いながらも、何も言わず妹を抱きしめる。このぬくもりだけは決して無くすまい、と。

そんな時、エリナはエリックの膝の上に座って、その日にあった嬉しい事や悲しい事、とりとめもないことを、エリックが笑顔になるまでたどたどしく語った。

 

何が妹を守りたい、だ。

助けられているのは自分の方じゃないか

 

エリックはある日、ついに情けない胸の内を妹に吐き出した。

大勢の仲間が目の前で死んだこと、自分もいつか死んでしまうのではないかという不安

 

「嘘だったんだよ、今までの話は全部作り話だったんだ」

 

吐き出される慟哭を、少女は慈しむような目でじっと聞いていた。

 

「本当の僕は誰一人助けることもできない、ただの役立たずなんだ」

 

 

エリナはまるで小さな子供にするように、うな垂れるエリックの頭を撫で続けた。

 

みっともなく全てを吐き出して、最後に

 

「こんな……情けないお兄ちゃんで……ごめん、エリナ」

 

 

そう言ったエリックに、エリナは小さく首を振った。そして太陽のような笑顔を浮かべると

 

「お兄ちゃん、大好き」

 

エリックを強く、強く抱きしめた。

 

「エリックが来てくれたから、私は毎日笑っていられるんだよ」

 

 

不安に押しつぶされそうになっていたエリックは、その一言で救われた。

 

 

 

その日からエリックは変わった。

明確に守るべきものを認識したからかもしれない。彼の身に何らかの劇的な変化が訪れていた。神機がまるでエリックの思いに応えるかのように、今までとは比べものにならない程の力を吐き出す。

 

大切な誰かを守るための力

 

エリックは変わった。毎日、日付が変わるまで訓練に勤しみ、民間人を救うために、必死にアラガミを退け、傷だらけになりながらも決して仲間を見捨てない。そんな彼を見て、教官の雨宮ツバキは「一皮剥けたな」と笑った。

 

 

エリックは強くなった。彼自身もそれは感じていた。

 

 

……全てが順調に進んでいたある日のこと、エリックはいつもの通り防衛任務に当たっていた。

しかし、運が悪かったというべきか、想定されていない事態が起こった、起こってしまった。

 

一体であっても脅威であるヴァジュラが複数体、しかも中型アラガミのシユウを伴ってエリックの守るエリアへとやってきたのだ。

ここで一目散に逃げだせば、自分だけは助かるかもしれない。こんな所で死んでしまってはただの犬死にだ。見ず知らずの他人のことなんて放っておけ。そんな事を頭の中で幾度も考えながら、エリックの震える足は自然と動き出していた。安全な後方ではなく、死神達の待つ戦場へと。

 

自分は間違いなくここで死ぬだろう、そう考えていたエリックの予想は大きく外れる事となった。

死神達の宴の会場になる筈だったその場所には、死神を喰らう死神が居たのだ。

 

 

エリックは、遠くからその光景を見ていた。エリックとほとんど歳が変わらない青年が、次々とアラガミ達の命を刈り取っていく。 

自分が今までやってきた努力は何だったのか、そう思ってしまうほどの圧倒的な力。

 

シユウを一撃で屠り、ヴァジュラ数体に周りを取り囲まれても、当然のようにそのすべてを叩き潰す。まるで、アラガミを殺すために作られた機械のようだ。呆然と眺めながら、エリックはそう思った。

後にツバキに尋ねると、その青年の名はソーマといい、凄腕の神機使いが集まる極東でもトップクラスの実力を持っていると教えられた。

 

エリックには目標ができた。

 

いつか彼に追いつきたい。堂々と隣に立ち、共に人類のため華麗に戦うのだ。

 

 

「やあ、君がソーマ・シックザールだな」

 

「誰だ……お前」

 

「僕はエリック、エリック・デア=フォーゲルヴァイデ」

 

 

 

エリックの挑戦は今も続いている。目指した壁は高く、頂は未だ見えない。

 

(でも、それでいい。壁は高くなくては張り合いがないからね)

 

 

エリックの目標は今日も隣で無愛想に佇んでいる。

 

 

――――

 

 

「とても……綺麗な曲だね。感傷的な気分になる」

 

「……そうか」

「でも、珍しいね、ソーマがこんな曲を聴くなんて」

「悪いかよ」

「いいや」

 

少し恥ずかしそうに横を向くソーマを見て、エリックは微笑んだ。

ヘリは鈍く光りながら高度を段々と下ろしていく。

もう間もなく、運命の任務が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 





あとがき

この小説はオリジナル設定を多々含みます。ご注意ください。
エリックの奮闘とソーマの苦悩、そして友情、そんなものを文章にしてみようと思い立ち、この作品は生まれました。
エリックとソーマの出会いである食堂での会話はほぼ丸々カット。更に、大切なシーンであるエリックとエリナの絡みについても、申し訳程度にしか書けていません。本来なら『鉄の雨』の終わりまで載せて、二万五千文字ほどを考えていたのですが、想像していたよりも私のタイピング能力が低過ぎました。まさか清書にここまで時間を取られるとは……。
当初は二千文字程度、ギャグ九割八分の華麗なエリックの短編を書いていたのですが、「ギャグが多過ぎます」という意見を横から再三に渡って受け、このような形になりました。
泥臭く、華麗になろうと頑張るエリックの話なんて需要は無いでしょうか? 
あ、無いですかそうですか。


この度は、ゴッドイーターアニメ化記念短編集に参加させていただき、忘れていた大切な事を沢山思い出せました。お誘いくださったウンバボ族さん、どうもありがとうございました。

また、読んでくださった皆様に、心よりの感謝をお伝え申し上げます。
本当にどうもありがとうございました。 まめた みか

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