スズ・クラネルという少女の物語   作:へたペン

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『白猫ちゃんを見守る会』が話し合うお話。


Chapter04『白猫の宴』

 『白猫の宴』。

 それは気ままな会員達(神々)がやりたい時に開く気まぐれな神らしい社交場である。

 

 場所は毎回【ガネーシャファミリア】のホームであり、『神の宴』のように壮大なパーティーをする訳ではなく各自飲物食べ物持参の上で『白猫ちゃん』の話題で盛り上がり『白猫ちゃんグッズ』や『白猫ちゃん本』の即売会の場としても設けられている。

 

 中には眷族に見られたら神の威厳が保てないほどドン引きしてしまうような『薄い本』も混ざっているが、創作は自由に己が欲求を満たせというガネーシャの立てた方針に神々は『さっすが~、ガネ様は話がわかるッ!』と『白猫ちゃん』自身は見守り優しく愛で、創作物ではやりたいジャンルを好きに描くことで本来は絶対に出来ない欲求を満たす。

 

 さすがの超越存在(デウスデア)である神々も自給自足は難しい。

 中には出来る超越した神もいるようだが他の神が描いた本で『ふぅ』と満足して自分の描いた本で他の神々を『ふぅ』と満足させるのが主流なのだ。

 

「俺がガネーシャだっ!」

「うちが集めたことと真面目な話するいうことくらい伝えんか! というわけで、今回号令を掛けたんは他でもないうち―――――」

「ガネーシャだっ!」

「話が進まんから叫ぶなアホッ! 何締切間近の徹夜でハイテンションになっとんねん! 後、新刊楽しみにしてるんやから発売日延期でええんよ。うちら3秒くらいなら待つから」

「三日ぐらい待ってくれたらガネーシャ超感激! ……3秒じゃ待ってなくない?」

 ペンを走らせたまま目の下にクマを作っているガネーシャを無視してロキは話を続ける。

 

「あんさんらも薄々気づいてるとは思うんやけど、最近『白猫ちゃんを見守る会』以外でのマナーが非常に悪いねん。注意しても聞かんし、『うぇいうぇいうぇい』周りに仰山迷惑かけてる奴がどっかにおる。『うぇいうぇいうぇい』と他の神をたきつけてる嫌らしい神がどっかにおるんや。一先ず犯人捜しはおいといて、この中で『白猫たん』の出身地知ってる奴は何人おるん?」

 

 全員が手を上げるのを見て、ロキは穏やかな顔のまま内心舌打ちしてしまう。

 

「じゃあ、噂やなくて一目見て『あの里』の住人だと気づけたのは何人おるんかな。これ、もっとも大切やから見栄はらんといてな。『白猫たん』を守る為の大事な大事な確認や」

 全員が手を下げた。

 噓をついている実行犯が混ざっているかもしれないが、全員流された噂からスズが『レスクヴァの里』出身だと知ったようだ。

 

 噂を広げた者の行いは、見守って愛でるだけの立場から言わせてもらうとめんどくさいことこの上ない。

 予想通り噂でしか大体の神が気づけていなかった事態にロキは噂を流した神への怒りが増していく。

 

 自分も団員達には自慢げに話してしまった口だが、外に……特に他の神々に洩らすとスズが狙われる可能性があるから情報の漏洩は控えるようには注意した。

 ロキは子供達を信じているから犯人は【ロキ・ファミリア】の人間ではないと確信している。

 

「うちはレスクヴァとは縁があってなぁ、昔からの付き合いやからすぐにわかったわ。そこまで目立ったもんやないから知らん奴は無垢な幼女の甘い香りだと勘違いしがちやけど、『レスクヴァの里』の住人は魂から独特の香りがすんねん。神々(うちら)なら誰でも感じることが出来る蜂蜜酒(ミード)のような甘い香りや。感じ方はそれぞれやけど、『レスクヴァの里』の住人やレスクヴァ自身に縁がなければ気づかない程度の些細な違いやな。その違いに気付いて意図的に噂を広げたムカつく奴が迷宮都市(オラリオ)のどこかにおる」

 

 神々がざわついた。『な、なんだってー!』『真実はいつも一つ』『知っているのか雷電』といつも通り各々の反応を返してくれるが、しっかり顔は真面目でロキは安心した。

 しっかりこの場に居る者達は『見守る』姿勢のままで居てくれているのだろう。

 

「うちが思うに、犯人の狙いは『白猫たん』の引き抜きやな。まあ比較的に安全な『白兎君』の方かもしれへんが、『白兎君』は蜂蜜酒(ミード)の香りが『すごく薄い』から『レスクヴァの里』の者が欲しい場合は『白猫たん』一択やろうな。とにかく、ギルドとうちらを数の暴力で困らせて、混乱に乗じて行動を起こそうとしている最低な奴がいるんは確かや。おそらくやけど犯人は、うちらが動いたら『他の『白猫ちゃん』を欲しがる【ファミリア】』も動くように仕向けて、動けば迷宮都市(オラリオ)内で最終戦争が勃発するようこそこそ隠れながら準備を整えてる陰険な奴やな。どうやってそんな中、自分とこに『白猫ちゃん』を置こうとしてるかは知らんけど、うちはそんな汚いやり口は嫌いや。なによりも『白猫たん』に手を出そうと思ったことが気に入らんっ! 手遅れになれば阻止しても『白猫たん』が確実に傷つく最低の発想やっ! なんせ、今まで良くしてくれてた人達同士が目の前で争い始めるんやからな。ほんま腹立つわっ!」

 

 他の神々も同意してくれる。『まさに外道』『ゆ゛る゛さ゛ん゛!! 』『覚悟しろよ! この虫野郎ッ!』と反応はいつも通りだがやる気は十分なようだ。

 

「で、変な噂も一緒に流れてるんやけど、こっちの方は出所に心当たりある奴おるん?」

「あ、俺ストーキングしてる奴見つけて注意しようと思ったら、そいつが【猛者】に跳ね飛ばされたの見たわ」

「フレイヤ様最強に護衛させるとかマジぱねぇ!」

「俺達がフレイヤに見惚れ過ぎて『白猫ちゃん』の話題にならないから通販でしか購入してないらしいぜ」

「ふひひサーセン」

 一つ噂が事実だったことがわかった。

 

 相変わらずオッタルがお使いに使われていることが不憫でならない。

 陰から護衛しているとはいえ、ガタイのいい男が誰にも気づかれないようにこっそりと幼女の護衛とか、見る人が見ればそれもただのストーキングだ。

 ベートで遊んでいる自分が言えたことではないが『やめたげてよお!』とロキは思ってしまう。

 

「あ、『抱きつかれたらランクアップ』は俺のせいだわ。『神々が認めるほど高難易度』だって笑い話にしたら、うちの子が真に受けちまって『俺の為に抱き着いてくれ!』って『白猫ちゃん』に言ったら【猛者】に跳ね飛ばされたらしいわ」

「オッタルさん仕事しすぎだろ」

「フレイヤ様マジ過保護」

「つーか犯人お前んとこの奴かよ!」

 

 これまたしょうもない理由でオッタルの目撃例が上がった。

 あまりに速くてオッタルだと確認されることはあまりないようだが、噂になるくらいには突撃して相手を気絶させるのを繰り返し行っているのだろう。

 オッタルが不憫すぎて泣けてくる。

 

「夜の『白猫ちゃん』が怖いってのはアレ多分『別物』だわ。見た目は『白猫ちゃん』なんだけど魂がないっていうか、なんというか…とにかく『別物』だ。『人』じゃなくて『物』な。マジックアイテムで姿を偽装した無機物っつうのかな。変だなって凝視してみると中身が真っ暗で何もないんだ。あれは怖くてちと俺は近づけなかった。とにかく中身がなくてビビったぜ」

 

「なにそれ怖い」

「え、マジなの? もしかして誰かが『白猫ちゃん』の自動人形を作ったとか?」

「それ欲しいんだけど。温もり再現とダッチワイフ機能付きなら500万出そう」

「俺1000万!」

「うちは1億出すで! って、冗談は置いといて、他にその中身がない『白猫たん』目撃した奴はおらんの?」

 確認をとると他に出会った神はこの場にいないらしい。

 

 実にキナ臭い。

 特に白猫のイメージダウンは白猫ブームを起こして『うぇいうぇい』と騒がせている犯人にとっては計画外の筈だ。

 それとも白猫の姿で悪事でも働かせるのだろうか。

 そこで救いの手を差し伸べるフリをして手懐ける。

 そんな陰険な方法だったとしたらなおさら許せない。

 まだ『白猫ちゃんダッチワイフ』で荒稼ぎしようとしている方が好感が持てる。

 抱き枕として一体欲しいくらいだ。

 

「ちとそれは手分けして探した方がええかもな。『白猫たん』に濡れ衣着せて傷つけられでもしたら、うちはさすがに大暴れするで?」

「全力で探せ! 絶対に逃がすな!」

「見逃すフラグ乙」

「物だったらお持ち帰りしてダンケダンケしてもいいですか!? いいですよね!?」

「待て!! 入れた瞬間に股間を切断する罠かもしれんぞッ!!」

「男だけを殺す兵器かよっ!?」

 全然まとまってないように思えるが、なんだかんだで『見守る』スタイルでいざという時にしか動かないが、今がいざという時だからふざけながらも彼ら彼女らはしっかり自分のやるべきことは模索している。

 

 『白猫を見守る会』はあくまで『見守り』『迷惑を掛けず』『優しく愛でる』をモットーにしているのだ。

 今の周りに迷惑を掛けていつ『白猫ちゃん』を傷つけるかわからない状態を見過ごすことは出来ない。

 

 何より『白猫ちゃん』ではなく『レスクヴァの里出身者』としか見てない神々だって出てきている。

 『世界初』の『恩恵』を受けた里の住人だ。

 喉から手が出るほど欲しがっている神は多いだろうが、『白猫ちゃんを見守る会』を恐れ、『レスクヴァの里』に悪いイメージを与えれば今後一切里から『恩恵』を授かりに来る者が現れなくなることを恐れているのだろう。

 

 『打倒黒竜』の壁役不在に意地を張るのを諦め、『恩恵』の様子見に『白猫ちゃん』を迷宮都市(オラリオ)に送ったと考えている神々は多い筈だ。

 ギルドもおそらくそう思っているのだろう。

 

 しかし、ロキはそうは思っていない。

 おそらく『巫女』であるスズのワガママにレスクヴァが泣く泣く折れたのだろう。

 今更『恩恵』に頼らずに『打倒黒竜』を成し遂げる馬鹿な意地を変えるほどレスクヴァの頭は良くはない。

 ただし里の住人、特に『巫女』のことを本当の子供のように溺愛しているレスクヴァが大好きな子供達を手放す訳がない。

 戦闘に参加させないか、もしくは『巫女』だけ特例として見逃したか、今期も『打倒黒竜』に踏み出す気はないかのどれかだろう。

 

 だから今後も積極的に『レスクヴァの里』の者が『恩恵』を授かりに来ることはないとロキは確信している。

 

 

 ただ『レスクヴァの里』ことを知っている者達が一番恐れていることは、その場のテンションに身を任せているレスクヴァの報復攻撃だ。

 

 

 『レスクヴァの里』の住人は『恩恵』の力に頼らなくても『魔剣を持ったラキア』の侵略行為を返り討ちにした戦績を持つ。

 『レスクヴァの里』を敵にまわせば迷宮都市(オラリオ)は勝つことは出来ても被害を出てしまうだろう。

 少なくともテンションに身を任せたレスクヴァ本人による【超遠距離砲撃】を先手で撃たれれば市壁周りが消し飛ぶ。

 あれは威力がどうのというよりも『粉砕』する【魔法】だ。

 避けるか、倍以上の魔力で押し返すかしなければ防げない『対黒竜用』に生み出されたとんでも【魔法】だ。

 そんなものを不意打ちで迷宮都市(オラリオ)に向けられたら防ぐ手段はない。

 

 レスクヴァも馬鹿だが非道ではないので無関係な人間を巻き込むことを良しとはしないが、馬鹿だから撃つ瞬間まで無関係な人間がいることを忘れている可能性はある。

 彼女は神以上に気分屋だ。

 もしも冒険者が『白猫ちゃん』を事件に巻き込んだなんて事案を知れば『ならば戦争だ』と攻め込んでくる可能性は否定できない。

 

 ラキアとの戦争では人質を取られても『ゆ゛る゛ざ゛ん゛』と気にする前に殴り掛かり、人質と里の前衛ごと魔剣を持ったラキアの軍勢を吹き飛ばして10年間泣き続けた大馬鹿だ。

 大いにあり得る。

 『古代』に目立った戦績を上げなかった馬鹿が目立とうと努力した結果、今では『さいきょー』ではなく『最強の馬鹿』になってしまったのだ。

 色々な意味でレスクヴァは手におえない。彼女に常識は通用しないのだ。

 

 今この迷宮都市(オラリオ)には『白猫ちゃんを見守る会』『ただの白猫ちゃんファン』『白猫ちゃんや白兎君を何とか【ファミリア】に引き抜こうと足掻く者』『次の里から来る訪問者に期待している者』『レスクヴァの里による報復を恐れている者』と五種類の『白猫ちゃん』グループが存在していると見て間違いないだろう。

 

 最近過激に『白猫ちゃん』を守ろうとしたり心配する者達は後者の二つ。

 この流れを意図的に作り出して隠れ蓑にしているのが『白猫ちゃんや白兎君を何とか【ファミリア】に引き抜こうと足掻く者』だ。

 

 原因を特定して潰せれば話は早いのだが、噂が広がりすぎてその【ファミリア】の特定は難しい。

 下手に手あたり次第怪しい【ファミリア】を睨みつけていたら、それこそいつか何かをきっかけに多数の【ファミリア】による大きな抗争となって、迷宮都市(オラリオ)が築き上げてきた秩序が崩壊してしまう恐れがある。

 それは『白猫ちゃん』が悲しむことを差っ引いても絶対に避けなければならない。

 なので穏便に物事を進め、噂を流して迷宮都市(オラリオ)と『白猫ちゃん』に迷惑を掛けている神を脅すなり天界に強制送還するなりして止めなければならないのだ。

 

 迷宮都市(オラリオ)と『白猫ちゃん』の為にも手遅れになる前に何とかしなければならない事態である。

 この緊急事態にしばらくの間、珍しくも真面目に対策を神々達は話し合った。

 

 

§

 

 

「何か些細なことでも情報掴んだら、掴んだ奴がまた会合開いてぇな。それじゃあ湿っぽい話はここまでにして即売会と新製品紹介を始めよか。うちからはなんと『巫女白猫たんねんぷち』や! まだ原型で量産できてへんけど、こいつはうちの超自信作やでっ!」

 

「「「やべぇ、超欲しいっ!!」」」

 

 大切な話は終わったので、本来の活動に戻るとガタっと神達が席を立ちロキの作った『ねんぷち』と呼ばれるデフォルメ化された小さな人形を食い入るように見つめる。

 

 極東の巫女服を着たロキ製の白猫ちゃんねんぷち第三弾。

 尻尾の取り外しはもちろんのこと、今までの表情パーツと互換性を持ち剣と盾用の手まで付いて来ている。

 付属パーツはお祓い棒とお札。

 飛ばしているお札の支え棒もついている。

 安心のロキクオリティーに神々のテンションは高まり各々の歓喜の声を上げた後、ガネーシャに目を向ける。

 

「「「群衆神様量産の取次お願いしますッ!」」」

「待て待て、俺は見ての通り新刊で忙しいんだぞ! 直接【ゴブニュ・ファミリア】や【ヘファイストス・ファミリア】に金型申請してくれ!」

「えー、そんなことしたらうちのイメージ壊れてまうやろ?」

「ロキよ、お前のイメージは何をやってももうかわらん。だから新刊を書く作業に―――――」

「ガネーシャが大好きな群衆もこの『ねんぷち』で元気出ると思うんやけどなぁ。発売延期になったらしょんぼりしてまう人もおりそうやけど、うちはイメージ壊しとーないから諦めるわ」

「よし、このガネーシャに任せてもらおうっ!」

「「「さっすが~。ガネ様は話がわかるッ!」」」

 印刷や金型などなどめんどくさい量産作業の申請はいつも皆してガネーシャに丸投げだった。

 

 そのせいで最近ガネーシャが寝不足なようだが、それでも言葉に乗せられて引き受けるガネーシャの意地がどこまで続くかも『白猫ちゃんを見守る会』のもう一つの楽しみである。

 

 不穏な動きを警戒しつつも、今を楽しむことはやめない。

 実に神々らしい会議は今日も平和に行われるのだった。

 

 




迷宮都市(オラリオ)の『白猫ちゃん』事情と、『白猫ちゃんを見守る会』視点のお話でした。

『レスクヴァの里』は『古代』から意地になって『打倒黒竜』を目指した結果、ようやく倒せそうな手段を得たものの、『黒竜』を怯ませて必殺技を当てる手段と攻撃を耐えられる壁役の不在から、今だ準備完了とは言えず里の住人を馬鹿みたいに鍛え続けていたようです。

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