スズ・クラネルという少女の物語   作:へたペン

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日常を壊されてしまうお話。


Chapter07『日常の壊され方』

 『神の宴』から翌日。

 ベルが目を覚ますと既にスズが起きており、金色の板をカタカタと指で叩いていた。

 

「あ……ごめんね、ベル。起こしちゃった?」

「うんん。ちょうど目が覚めたところでスズが起きてたの気づかなかったよ。昨日もスクハがそうやって光を叩いていたけど何をしてるの?」

「えっと、文字での【伝言魔法】かな。すーちゃんが手を動かして、【魔法制御】もすーちゃんがやってるから私はただ流れていくログを見てるだけだよ」

 

 少し眠たそうにぽけ~っとしているが、「すーちゃんすごいんだよ」とはにかむ笑顔を返して楽しそうに金色の板を眺めている。

 

「もしかして寝ずにずっと?」

「私は寝ているつもりだったけど、すーちゃんがずっと起きてたから体は寝てないってことになるのかな」

「ちゃんと寝ないとダメじゃないか。朝食は僕が作るから、スズは少し横になったら?」

「もうちょっとだけ。リドさんっていう冒険者さんとすーちゃんの会話が終わったら解散だから」

 

 リド、初めて聞く名前の冒険者だ。

 スズも昨日言っていたがスクハはいったいどこから冒険者を招集してきたのだろうか。

 もしかして昨日の精霊ウルネアと同じで『レスクヴァの里』の関係者なのだろうか。

 ものすごく気になる。

 

 

「ちょっとマッチポンプになっちゃったけど、本当は秘密にしないとダメなんだけど、昨日からすーちゃんが指示を出してる人達が『迷宮都市(オラリオ)』の危機を救っちゃったんだ」

「え?」

「すーちゃんがすっごく頑張ったこと、ベルには早くに知ってほしかったから特別。すーちゃんが言うまで神様にも内緒だよ?」

「危機を救ったって、もしかして黒い変異種関係の?」

「うん。一先ず危ないのは壊せたみたいだから、しばらくの間は黒い変異種が何回も復活するなんて『異常事態(イレギュラー)』は起こらないと思うよ」

 

 

 どうやら昨日言っていたナビゲートして『寄生』している何かを破壊するという言葉をスクハは有言実行したようだ。

 どれくらいの危機だったかはわからないが、少なくとも何度も漆黒のミノタウロスに追われる心配がないなら安心して、というのもおかしな話だがダンジョン探索に取り組めそうである。

 

『余計なことは言わなくていいのに、まったくあの子は。流石に少し疲れたわ。貴方の言葉に甘えて休ませてもらうわね』

「うん。お疲れ様。おやすみスクハ」

 

 余程疲れていたのかスクハはヘスティアが寝ているベッドまで行かず、近くにあるベルが先ほどまで眠っていたソファーで横になり毛布を抱きしめながら穏やかな寝息を漏らす。

 スクハに対して「おやすみ」と言ったことはあるが、こうしてスクハが無防備で眠っている姿は初めてかもしれない。

 しばらくするとスクハの気配が消えスズの気配に戻るも体の疲れは共有しているので穏やかに眠ったままである。

 

 二人がしっかり眠ったところを見届けるとベルは教会の手入れを今の内にしておこうと地下室の階段を上り外へ出る。

 スズと違って建物の修理やガーデニングなんて器用なことはできないが、雑草を抜いたり掃除をするくらいなら慣れたものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にスズ様をこのような場所で寝泊まりさせているのですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 庭の手入れをしていると敷地の外から精霊ウルネアが「おはようございます」と言葉を付け加えて挨拶をしてきていたので、ベルは手入れを中断して慌てて立ち上がり挨拶を返す。

「お、おはようございますウルネア様!」

「様はいりません。『巫女』と言っても、『本里の巫女』であられるスズ様以外は代わりの育成氏のようなものですから。彼方は神々や精霊に対して信仰心が篤い方なのですね」

 精霊ウルネアはくすくすと笑うと、スカートを軽く押さえながらひょいと門を飛び越え敷地の中へと入って来る。

 

「古い建物ですけど庭はよく手入れされていますし、修繕し続けている痕が見受けられますね。手入れは彼方が?」

「僕はその、スズの手伝っているだけですけど……二人でゆっくり綺麗にしていこうって手入れを始めたんです」

「元々スズ様はおしのびで来ていたと、あの後会場で神ロキから聞きました。住むのに適した場所、とは言いにくいですが、とても大事に使われている場所だとこの庭を見ただけで伺えます」

 

 スズと二人でゆっくり手入れをしてきた廃教会を見て歩き精霊ウルネアは頬を緩ます。

 悪い人には見えないし、何か企んでいるような人でもない、ただスズを心配してくれているだけの良い人に見える。

 それでも、失礼かもしれないけど、精霊ウルネアと【アポロン・ファミリア】との関係は聞けるときに聞いておいた方がいいだろう。

 

「あの、昨日アポロン様と一緒にいましたが、ウルネアさ……んは【アポロン・ファミリア】に所属しているんですか?」

「まさか。私は生涯消えるまでレスクヴァ様が譲って下さった土地をお守りするつもりです。『初代巫女』様がお忙しく、代わりに私の里のミードを『迷宮都市(オラリオ)』に納品しに来たところ神アポロンに声を掛けられました。本家に劣るミードで評判を悪くしなければよいのですが……」

 

 どうやら里からミードを納品しに『迷宮都市(オラリオ)』へ来たところアポロンに声を掛けられたらしい。

 そのまま【ヘスティア・ファミリア】の情報を断片的に聞かされ、スズを任せてもいいか心配になってしまったようだ。

 

 

 

 

「前々からスズ様のことを心配していたところ、不安しかない情報しかない情報を頂き少々取り乱しました。神ヘスティアについてはまだ調査不足ですが、これでも貴方のことはそれなりに信頼しているつもりです」

 

 

 

 地下室以外を一通り見て周ると精霊ウルネアはベルに背を向け入口の門へと歩いて行く。

 

「スズには会っていかないんですか?」

「スズ様にお願いされたら心を鬼にして情報収集ができなくなってしまいます。私はまだ神ヘスティアのことを信用していませんので」

「そんなっ。神様はいつも僕達のことを思って下さって……」

「聞き及んでおります。神ヘスティアが貴方とスズ様を溺愛していることも、貴方とスズ様が神ヘスティアを信仰していることも。なのでいつも通り生活して私を安心させてください。噂通りなら私は安心できますから」

 

 精霊ウルネアは「もう少し情報収集をした後また来ます」と言い残し、また門を飛び越え敷地の外へと出ていった。

 言う通りやましいことは何もないのだから いつも通り生活をして安心させるのが一番だ。

 一番なのだが、信仰する神であるヘスティアが少しでも疑われるのはベルにとって心苦しかった。

 

 

§

 

 

 朝食を三人で食べている最中、教会が大きく揺れた。

「【雷よ。吹き荒れろ。我は武器を振るう者なり。第八の唄ヴィング・ソルガ】」

 最初に動いたのはスズで、【ヴィング・ソルガ】で強化し、左手でヘスティアを抱え、鞘に収まった精霊の剣と盾を【魔力】で自らの背に引き寄せながら地下室の出口に向かい階段を駆け上がる。

 

「ベル急いで!」

「何の揺れ!?」

「なななななななな何事だい!?」

 

 急いでスズを追うベルに、揺れを感じる前に勢いよくスズに抱えられ状況が全くつかめないでいるヘスティア。

 立て続き揺れ教会が崩れ出口である階段が埋まりそうになるが、スズが【ソルガ】で降り注ぐ瓦礫を吹き飛ばしながら外に飛び出し、ベルもスズの後ろにぴったりとついて行き外に飛び出す。

 いったい何が起きたのか、二人で作った花壇が燃え、教会が崩れゆく光景を呆然と空中から見下ろす中、崩れゆく教会に向かって何かを投げている人影が見えた。

 

 投げているのは『火炎石』、投げている人物は【ソーマ・ファミリア】のエンブレムをつけた男。

 それも一人ではなく五人もの男達が『火炎石』を教会に向かって投げ込んで爆破している。

 

 

「まだ息があるぞ! 散れ!」

 

 

 男の一人がそう叫びちりじりになって逃げようとする。

 動きが遅い。

 二人はLV.1、もう三人に至っては恩恵を授かってすらいない一般人。

 そんな彼らがなぜ、【ソーマ・ファミリア】のエムブレムをつけた防具を着込んでホームを攻撃してきたのかが全く分からない。

 大事な場所を失ったベルの頭は一瞬だが真っ白になってしまうが、スズも自分同様にショックを受けていると考えが及ぶとすぐに考えが切り替わる。

 

 

 

 

 

 ―――――スズと神様を守らないと―――――

 

 

 

 

 

 防具は付けていないが、寝る時も肌身離さず身に着けていることが幸いして『ヘスティア・ナイフ』は手元にある。

 相手は逃げているが念の為に『ヘスティア・ナイフ』を抜いてスズと共に着地した。

 

 そこを狙い逃げていた男の一人が振り向き『火炎石』を投げるが、スズはヘスティアをその場に残して真っ直ぐ投擲された『火炎石』に向かって疾走し、衝撃を与えないように手に取るとそのまま空高く投げて、【必中魔法】である【キニイェティコ・スキリ・ソルガ】で確実に『火炎石』を射抜き被害を出さない空中で爆発させる。

 

 

「ひぃっ! 来るなっ! 少しでも衝撃を与えると『火炎石』がっ」

「……何でりっちゃんの所のエンブレムをつけてこんなこと、したの?」

 

 

 鬼気迫る表情のスズに男は腰を抜かすが、スズが胸倉を掴み自分の目線に合わせて問い詰める。

「俺達は元【ソーマ・ファミリア】だ! 今なら何してもアポロンのせいにできるって()()()()から聞いて、自由にやってた俺達の生活ぶち壊したお前らに仕返ししようって、だから!!」

 涙と鼻水を垂らしながら目をつぶり、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここで死んでくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自ら『火炎石』を爆発させた。

 スズはギリギリのところで手を放し【アスピダ・ソルガ】が爆風を防ぐが勢いを殺しきれず衝撃による痛みに眉を歪ませながら吹き飛ばされ、1回、2回、3回と地面を跳ねながら勢いよく地面を転がる。

 

 

 そんなスズ目掛けて建物の陰から飛び出す人影が一つ。

 黒装束を身にまとった男で正体は不明だがダガーを両手に持ち二本のダガーでスズを狙っている。

 

 既にスズを受け止めようと走り出していたベルは目標を正体不明の男に変えて、スズ目掛けて振り下ろされる右手のダガーを【ヘスティア・ナイフ】で受け流し、左手のダガーの薙ぎを手首を左手で掴むことで阻止する。

 

 しかし、すぐさま相手のニーキックが放たれそれがベルの鳩尾に食い込んだ。

 避ける間がなかった。

 おそらくLV.3であろう格上、最初の二連撃を防げたのが不思議なくらいに相手は強い。

 躊躇なく黒装束の男はベルにトドメを刺そうとナイフを振り下ろすが、地面を転がっていたスズが体勢を立て直し【ソルガ】が的確に相手の頭部に決まり黒装束の男が怯む。

 この隙を逃したら一方的にやられるかもしれない、そんな予感からとにかく仕切り直さなければと詰まる息や痛みを無視して肩から黒装束の男に体当たりをして突き飛ばした。

 

 相手が体勢を立て直す前に一瞬痛みによろけながらもスズの元に駆け寄り、続けてヘスティアに危機が迫っていないか状況確認を行う。

 

 

「ベル君! スズ君! 大丈夫かい!?」

 ヘスティアには誰も手を出していないようで、無傷でこちらに駆け寄ってきてくれている姿が見える。

 だが黒装束の男と同じ格好をした男達が追加で2人物陰から飛び出し、それぞれスズとベルに向かってきている。

 最初の男もすぐに体勢を立て直して襲ってくるだろう。

 

 

 

 

 

 

 どうしてこんなことになったのか、どうすればヘスティアとスズを連れて安全なところに逃げることができるのか全く見当のつかない中、複数の獣人が数に物を言わせ襲い掛かる二人に攻撃を仕掛け抑える。

 続けて複数の矢が最初の黒装束の男に降り注ぎ、男は矢を避けるためさらにベル達から距離を取ることとなった。

 助けてくれた獣人達、そして屋根に陣取る弓使い達の防具のエンブレムは【アポロン・ファミリア】。

 

「各員『白猫』と『白兎』を守れ! 神ヘスティアもだ! アポロン様の顔に泥を塗るような真似は許さんぞ!!」

 

 【アポロン・ファミリア】の団長ヒュアキントスが団員達に指示を飛ばし、最初に攻めて来た【ソーマ・ファミリア】のエンブレムをつけていた男達を全員無力化して捕え、周囲を包囲し始める。

 

「【アポロン・ファミリア】!? 君達が攻めて来たのかとばかり思ったのに違ったのかい!?」

「ええい、喋っている暇があったら中立地帯であるギルド本部へ向かえ! 私はアポロン様より貴様らを守るよう命を受けているのだぞ!」

 

 ヒュアキントスは「なぜアポロン様はこのような輩に執着されるのか」と舌打ちをしているものの、最初の黒装束の男がスズ目掛けて投げたナイフを長剣で弾く。

 命を受けているということは何かアポロンには思惑があるのだろうが、ベル一人ではこの場を切り抜けるのは難しかったのは事実だ。

 さらに前招待状を持ってきたカサンドラとダフネが駆け寄って来て、カサンドラがスズに【回復魔法】を掛けてくれた。

 爆破の衝撃で受けたスズのダメージが見る見るうちに治っていく。

 

「急がないとっ。急がないとダフネちゃんがっ」

「はいはい、いつもの妄想はいいから行くよ。屋根伝いで大通りに出てそこから真っ直ぐギルドに向かいましょ」

「大通りは絶対ダメ! お願いだから信じて! 回り道の方が絶対に安全だから! 人が多いところはダメぇ!」

「急がないとダメ、最短で行ってもダメってカサンドラは何が言いたいのよ、もう。前にも言ったけれどこの子には妄想癖があるのよ。気にしないで頂戴。今貴方達に何かあったらウチ……【アポロン・ファミリア】のせいにされてしまうわ。急いで!」

 

 こうしている間にも謎の黒装束は次から次へとやってきており、次第に数で勝っている【アポロン・ファミリア】の団員達でも抑えきれなくなってしまっている。

 事情はどうあれこの場を今すぐに離れるのが自分達の為にも【アポロン・ファミリア】の為にもなるだろう。

 帰るべき場所を失い、謎の集団に命を狙われている現状、ベルはカサンドラの言葉を聞いてあげる余裕がなかった。

 

 

§

 

 

 黒装束の……その姿から仮に暗殺者としておこう。

 黒装束の暗殺者達は【アポロン・ファミリア】の包囲網を抜けて必要以上にベルとスズを狙ってくる。

 

 相手の最大戦力はおそらくLV.3、最低戦力でもLV.2と高い相手が今現在4人。

 ベルの片手はヘスティアを抱きしめたままで使えない中、とてもでないがまともに戦える状況ではない。

 

「【ファイアボルト】!」

「【雷よ。敵を貫け。第二の唄。ソルガ】!!」

 

 幸いなことに相手は投擲攻撃を行ってくるが【魔法】は持っていないらしく、こうして遠距離から【魔法】で牽制しながら、時に一緒についてきてくれているダフネとカサンドラにカバーしてもらいながら攻撃をさばき、屋根伝いでギルド本部に向かっている最中である。

 

 屋根の下には何の関係もない『冒険者』や『恩恵』を授かっていない一般人すらいるというのに黒装束の暗殺者達は攻撃の手を緩めようとしない。

 【ヴィング・ソルガ】の『冷却時間(クールタイム)』が終わりスズが【魔法】を撃てるようになっても、片手でLV.3の暗殺者に勝てる気がしなかった。

 

 LV.3の暗殺者がまた一人増え、防具のない体に刃がかすり脇腹を削がれる。

 

 ここは一度スズにヘスティアを預けて自分が時間を稼いでいる間に逃げてもらうしかない。

 そうベルは腹をくくり暗殺者達を自分一人で迎え撃つ覚悟を決めると下の方からまた新たな人影が次から次へと屋根の上に飛び乗ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『白猫ちゃん』を狙うたぁどういう了見だ、あぁっ?」

「防具もつけてない相手いたぶって楽しいか? どこの冒険者だオラァっ!!」

「白昼堂々と一方的な抗争を仕掛けたと見た! 民衆を不安にさせる者は【ガネーシャ・ファミリア】が許さんっ!!」

 

 それは追われているのを下で見ていて見るに堪えないと加勢しに来てくれた様々な冒険者の数々。

 【ファミリア】という枠を超えた様々な派閥が次々に屋上に上がっては、下の方から神々が声援を送り、一般人達は巻き込まれないように慌てて建物の中に避難していく。

 戦いに加勢する【ファミリア】もいれば、そういった一般人の非難を誘導する【ファミリア】もいる。

 白昼堂々と行われた襲撃だった為に目立ち、沢山の冒険者がこの場に集まってくれたのだ。

 すると多勢に無勢を感じたのか暗殺者達は一斉に屋根の上から飛び降り、路地の陰に隠れ散っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!? 【雷よ。邪気を払う盾となれ。第四の唄。アスピダ・ソルガ】!!」

「【迷い込め、果てなき悪夢。フォベートール・ダイダロス】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこからともなく放たれた紅の波動が、屋根の上に居た冒険者達を飲み込む。

 そこから先は悪夢のような光景だった。

 助けに来てくれた筈の冒険者が突然暴れ出し見境なく人に、物に、襲い掛かっていく。

 

 ベルとスズ、そしてヘスティアとカサンドラは【アスピダ・ソルガ】で守られ何の影響もないが、カサンドラが慌てて手を引いて守ろうとしたダフネは【防御魔法】の範囲外だった。

 赤い波動の狂気、【呪詛(カース)】の効果を受けてしまったダフネは我を失い一番近くにいたカサンドラの首を破壊衝動により締め上げる。

 そしてその後ろには同じく我を失った冒険者が剣を振りまわし、一番近くにいたダフネに背後から迫っていた。

 

「ダフネ、ちゃん……逃げ……」

 

 自分の首を絞められても友人ダフネの身を案じて必死に声を漏らすカサンドラだが、その声はダフネには届かない。

 

 

 

 

 

 どうすればいいのかなんてベルはわからない。

 わからないけど、止めないと、ただその想いでベルは一瞬だけ【英雄願望(アルゴノゥト)】の『蓄力(チャージ)』を足に行い勢いよく地を蹴り、ダフネに振り下ろされそうになった剣を【ヘスティア・ナイフ】で両断、そのままの空中で身を昼返すように回し蹴りを叩き込み冒険者の意識を刈り取る。

 

「ごめんなさい!」

 

 そしてダフネをカサンドラから強引に引きはがして後ろから羽交い絞めにした。

 首絞めから解放されて咳き込むカサンドラと羽交い絞めにされて暴れるダフネ。

 ここから先の事なんて考えていない。

 だが下で事態が理解できず呆然と見ていた冒険者達が暴れ回っている冒険者が正気でなくなっていると理解し、ベルを見習って羽交い絞めにすることで何とか無力化を図ろうしてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【雷よ。吹き荒れろ。我は武器を振るう者なり。第八の唄ヴィング・ソルガ】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな中、スズが静かに【魔法】を唱える。

 そして大きく屋根を蹴り暴れている冒険者に接近すると、【ソル】や【ソルガ】で意識を刈り取っていき、まだ抵抗して暴れるものには【ミョルニル・ソルガ】を振り下ろす。

 淡々とその作業を繰り返すスズの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていて、けれどベルには器用に冒険者の意識だけを刈り取る手段がなくって、ただただヘスティアと共に辛いという思いが続く。

 

 屋根の上に上がってきてくれた冒険者達は普段からスズに声を掛けてくれる気さくな冒険者達だった。

 




次回で軽い説明がありますが、先に補足を。
本来のアポロン様の計画では他の【ファミリア】を焚きつけておいて、自分の所で守り「やっぱりヘスティアの所に任せて置いたら心配だろ?」なんていけしゃあしゃあと言ってのける予定だったようですが、大物が釣れてしまったようです。

なおカサンドラさんは既に頑張って2度運命を変えておきながらこの大惨事だった模様。

どうなるアポロン。
次回ぐーぱんから始まる物語をしばらくお待ちください。

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