スズ・クラネルという少女の物語   作:へたペン

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バランスを壊されてしまうお話。


Chapter06『バランスの壊され方』

 何とか勇気を振り絞って自らアイズをダンスに誘い至福の時を過ごし、今度はリリとヘスティアにダンスを誘われている最中、アポロンがベル達の元へゆっくりと近づいてくるのに気付いた。

 

「諸君、宴は楽しんでいるかな?」

 

 華やかな演奏は止まると同時に周りの神々も、その眷族も、何か始まるのかとアポロンに視線を集中させ、アポロンとベル達を中心に円ができあがる。

 

 

 

「盛り上がっているところ悪いが、皆に謝らなければならないことがある。先日私の眷族が『白猫ちゃん』に迷惑を掛けてしまった。そのことを皆に、何よりもヘスティアに詫びよう」

 

 

 

 まさか普通に謝ってくれるとは思っていなかったベルは、もしかしたらアポロンは良い神様なのではないかと期待を抱く。

 

 だがリリとヘスティアは緊張に身構えたままだ。

 

 周りがざわつき、「ついにやりやがった」とゲラゲラと笑う娯楽神や「身の程知らずか」と呆れる神、そして「話を聞こうか」とやや殺気立つ神と反応は様々。

 会場の張り詰めた空気で、これが謝ったら終わりという単純な出来事ではないことを嫌でも理解させられてしまう。

 

 

「静粛に。せめて最後まで事情説明と言い訳をさせてくれ。まず先に絡んだのは私の眷族だ。そして『白兎君』の名誉を傷つける発言をし『白猫ちゃん』の心を痛ませてしまった。それでも『白兎君』は抗争になってはいけないと配慮してくれたようで我慢してくれたようだが、あまりに過激な罵倒に我慢がならなくなってしまったらしい。あの温厚な『白兎君』が我慢しきれなかったのだ。非はこちらにあるのは明らかである。眷族の暴走を止められなかったことと、楽しいこの場で空気の悪くなる知らせをすることになったことをまずは謝らせてくれ。すまなかった」

 

 

 アポロンが深々と頭を下げる姿にしばらく沈黙が続く。

 

 

 

「だが、私の眷族が()()()をしていただけで、酔いつぶれた勢いで愚行に走ってしまったことも理解してもらいたい。私が眷族達に『白兎君』が『白猫ちゃん』と血の繋がりがないことを教えたばかりに、『白兎君』が『レスクヴァの里』とは関係ない辺境の地から来たことまで調べ上げてしまった。本人は悪気があった訳ではなく、精霊『レスクヴァ』を信仰するあまり心配であちこちを駆けまわってしまったようだ。何せ【ヘスティア・ファミリア】のホームは廃墟と化した教会。中がどうなっているかまではわからないが、狭い空間の中に男女が寝泊まりしているとなるといかがわしいことをされていないか心配になるなという方が難しいものである。それなりの罰も与えるし私を罵倒するのは構わないが、どうか私の眷族だからと子供を嫌悪しないで欲しい。一度や二度の過ちは子供なら誰しもあるのだから。そう子供とはそういうものだと皆も理解しているだろう?」

 

 

 

 頭を上げたアポロンは大げさに両手を広げ周囲の皆に子供に罪はないと訴えかける。

 だが子供に罪がないという訴えかけよりも、さらりと宣言されたベルとスズに血のつながりがないという情報に周囲がざわめきを見せていた。

 

 ある神は「義理展開キタコレ」となぜか喜び、ある神は「まだ男女のソレは早いだろ」と笑い飛ばし、ある神はそんな周囲の反応を「面白そうなことが起きそうじゃないか」と傍観する。

 

 

 神々の興味が既に事が起こり謝られた出来事から『兄妹ではない』という新鮮な情報に移り変わった瞬間だった。

 

 

 もちろんそんな神々の反応やアポロンに対して良い顔をしない神々も多い。

 多いが、その数は全体の三分の一に加え、自分達の眷族が『有名な兄妹が血が繋がっていなかった』という事実と『興味本位に盛り上がる神々の熱気』に戸惑いを見せている。

 『白猫ちゃん』も大切だがそれよりも自分の眷族の方が大切だ。

 自分の眷族にも気を配らなければならなく、険悪なムードに持って行くわけにもいかず、話に介入するタイミングを見つけられずにいる。

 

 

 ヘスティアとリリもまた、事実だけを述べて謝罪途中であるアポロンに対してうかつなことを発言できずにいた。

 『白猫ちゃんを見守る会』ならこんな事実笑いの種にしないことをリリは何となく想像できるが、そこに属さない過保護な過激派や『レスクヴァ』を恐れて保護しようとする神、その現状をよく思っていない神がこの場に揃ってしまっているのだ。

 発言タイミングを間違えて要らぬ誤解を招けば事態はベルに飛び火する可能性だってある。

 

 

「さてはアポロンやな、『白猫たん』が『レスクヴァの里』の住人だって密かに周りに広めとったんは」

 

 そんな中、ロキが人ごみの円から出てきてアポロンを睨みつけた。

 何かあった時はフォローしてくれると言っていたが本当に出てきてくれるとは思っていなかったヘスティアは驚きの表情を隠せずにいた。

 

「何マヌケ面さらしとんねんドチビが」

「いや、ロキが本当に助け舟を出してくれるとは思わなくてさ。嬉しいんだけど、ロキとはいつも言い合いばかりしてたから何か調子狂うんだよ」

「ドアホ。『白猫たん』がからんどらんかったら誰がドチビにてー貸すかい。そんでアポロン、返答はどうなんや? ん?」

 

 何か起こる前に【ロキ・ファミリア】が物事に介入してくれたのは大きい。

 大物の登場に「すっげーイジメ」「よくやったロキ」「どうなんだアポロンさんよ」と沈黙を守っていた面々も面白半分に声を出し始める。

 

 

「もちろん私だ。『レスクヴァの里』出身の冒険者なんて重大な情報を独り占めはよくないだろう。楽しみは共有するべきだ。それとまだ謝罪中だから意見なら後で言ってもらいたいんだがね」

 

「謝罪する気もない癖によう言うわ。それと大げさに言って周り巻き込むのはやめぇ。せっかくの宴の酒が不味うなるやろボケが。主催者が何考えとんねん」

 

「謝る気がないとは心外な。それにここで謝らなければ私の子供が一生悪者ではないか。そこにいる『豆柴ちゃん』も事情は違うとはいえ窃盗をやらかした身でありながら『白猫ちゃん』と共にいる。罪と言うには本来些細なことだが、私の子供にも謝罪のチャンスを得ようとするのが親心というものだろう」

 

 

 冒険者にとって酒場での軽いいざこざは本来日常茶飯事なものだ。

 意地の悪い言い方だがアポロンの主張は間違ってはおらず、これが本当に子供がしでかしたことへの謝罪というのであれば何の問題もない。

 この場をかき回していることだって状況説明をしているだけと言ってしまえばそれまでである。

 アポロンが話を進めない限りそれは変わらないのに、話を進ませたらさらにややこしい事態に持って行かれるのは目に見えている。

 

 

「謝罪の言葉は確かに受け取ったよ。互いにこのことは蒸し返さない。それが落としどころなんじゃないかい?」

 

 

 だからヘスティアはここで話を切って事態を収拾することにした。

 周囲の意識がロキに向いている今なら、許す許さないの話まで引き戻せると踏んだのだ。

 しかし、その言葉を待っていたと言わんばかりにアポロンの口元が緩み、ベルとヘスティアは根拠のない嫌な予感に寒気を感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私もそうしたいのは山々なのだが、周りを見ると今の現状に意をとなえる神や冒険者が多くいるのも事実。それについては私よりも適任なゲストを用意した。ゲストの話を聞いてから『白猫ちゃん』の今後について少し考えてもらいたい」

 

 

 

 

 

 

 

 アポロンが指を鳴らして合図すると入口が開き、カツンカツンと堂々としたたたずまいで真っ直ぐ歩いてくる人影があった。

 周囲が再びざわめき、ざわめきは大きくなり、円の中心まで道を作る為に人込みが避けていく。

 

 

 

 

 

 見た瞬間ベルは本能で理解させられた。

 その人物は精霊であると。

 それもノームなどのたまに見かける精霊ではなく、大好きな英雄譚に出て来るであろう立派な精霊であると理屈ではなく本能的に理解させられる。

 

 

 

 

 

「紹介しよう。正真正銘『レスクヴァの里』に所属する『コロニー』の『巫女』だ。彼女ははるばる遠い地から『本家巫女』の待遇に異を唱えにやって来た!」

「初めましてご機嫌よう。『第二コロニー』出身、元エルフ現人工精霊の巫女ウルネアです」

 エルフの容姿をした長い白髪の精霊ウルネアはスカートを軽く摘まみ礼儀正しく頭を下げた。

 

 

 

「『初代巫女様』から『本里の巫女』であられるスズ様が『迷宮都市(オラリオ)』にいらっしゃると聞き不安を抱いていたところ、神アポロンからお声を頂きました」

 

 

 

 子供が嘘をついても神にはそれが嘘だとわかる。

 精霊もまた神の子であり、嘘をついていないこの自己紹介は十分すぎる身分証明だ。

 軽い自己紹介に対して「二人目の『巫女』きた」「アポロンでかした」「里の住人いよいよ本格参戦か」と一部の神が騒ぎ立てる。

 その様子を見た精霊ウルネアは軽く頭を抱えながら大きな溜息をついていた。

 

 

 

 

 

 

「『迷宮都市(オラリオ)』があまりに狭くて本家巫女様であられるスズ様の成長を妨げてしまうのではないかと危惧していましたが、実際こうして見ると最悪の環境ですね。()()中層を攻略中なのがその証拠です。ダンジョンという攻略目標がありながらいまだそんな浅い場所で足踏みをしているだなんて信じられません。なんでも所属している【ヘスティア・ファミリア】は人員募集をスズ様が入られてから直ぐに取り消しているそうですね。神ヘスティアは本気でダンジョンを攻略する気があるのですか?」

 

 

 

 

 人員募集をしていない、初めて知った事実にベルはヘスティアの顔を見つめるとヘスティアは目を泳がせる。

 続けてこの場にいる全員の目線がヘスティアに集中した。

 

「い、いや、それはだね。ほら、ボク達のホームは狭いからあまり人数が居ると寝る場所もなくなってしまうし、もう少し3人暮らしを満喫したいかな~なんて……ベル君とスズ君に変な虫が寄ってくるのも嫌だと思ったんだよう!?」

 

 どうやら本当の事らしい。

 確かに教会の地下にある居住スペースにこれ以上人を寝泊まりさせるのは難しいのは事実だ。

 ベルのヘスティアへの信仰は揺らぐことはないが、『巫女』という特別を持っていながら【ファミリア】を大きくしようとしていないという事実は多くの神にとって妬みの種となる。

 リリとロキはフォローのしようがなく頭を抱えているが、悩みの種はまだ投下され続けられた。

 

 

「それに加え、詳しい事情は聴けませんでしたが神ヘスティアは子供が心配だという理由でダンジョンに潜ったと冒険者から聞き及びました。神がダンジョンに入るなんて何を考えているのですか? 破滅願望でもあるのですか? 管理能力が皆無な神ヘスティアにこのままスズ様をお預けになってよいのか不安しかありません」

 

 

 おそらく【アポロン・ファミリア】も女型のゴライアス戦に居合わせヘスティアの姿を目撃していたか話に聞いていたのだろう。

 タブーを犯したことまで知れ渡り非難の目がヘスティアに向けられ、娯楽神が「よくやるわ」と馬鹿笑いする。

 

 

 

 

「こうして『あの里』の者が心配している中、『闇派閥(イヴィルス)』の残党が『白猫ちゃん』を狙っているという噂や、夜の歓楽街で『白猫ちゃん』を見かけたという噂まである。もしも『白猫ちゃん』が所属する【ファミリア】が【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】など大きな所であるなら安心して任せられるのだが、このような噂を流されている中、ヘスティアに『白猫ちゃん』を任せていいものか? 仲良し家族を見守りたい気持ちもわかるが、『白猫ちゃん』の実績は『白兎君』を早期にランクアップさせたことで証明されている。それを大きくなるつもりのない【ファミリア】で遊ばせておいていいものか? もっと大きな【ファミリア】に所属させた方が『迷宮都市(オラリオ)』の為にも『白猫ちゃん』の為にもなるのではないか?」

 

 

 

 

「うちかて『白猫たん』が来てくれたら嬉しい。せやけど、それを決めるのは『白猫たん』自身や。ドチビのところに置いとくのは確かに心配やけど、ほんま悔しいが『白猫たん』は現状に満足しとんねん」

「そうね。私も『白猫ちゃん』を近くで愛でたい気持ちはあるけれど、『白猫ちゃん』は自由にさせてあげた方が輝いていると思うわ。あまり束縛するのは可哀想だと思うの」

 

 ロキに続いてフレイヤまで異を唱えてくれている。

 だが、アポロンの言いたいことは少しわからないでもないことと、アポロンが『白猫ちゃん』を欲しているのではなく他の派閥に移す体勢で話を進めている為、周りは強くは言わず成り行きを見守っている。

 

 

 

 

「どうしても行き場がなくなった時は『豊饒の女主人』というお店で働いてくれるとみんな喜んでくれるのではないかしら?」

「フレイヤ様、その言い方は卑怯」

「でも毎日『白猫ちゃん』にご奉仕してもらえるのは……ゴクリ」

「ガネーシャさんこの(ひと)です」

「俺がガネーシャだ!」

 

 

 

 

「このままでは話は平行線だ。それに私が話を持ち出さなくてもいずれは誰かが同じことを訴えかけるだろう。そこで『迷宮都市(オラリオ)』ならではのやり方で物事を決めようと思う。そう、『戦争遊戯(ウォーゲーム)』だ! しっかり『白猫ちゃん』を守れる【ファミリア】だと証明できれば今後このような不毛なやり取りは起こらないだろう。私が勝てば『白猫ちゃん』を安心できる他派閥へ譲り、()()()()()()()()()()()()()()()()。別に交流を禁止する訳ではない。派遣は変えてもらうが本人の意思を尊重しよう。何、()()()()()()()()()()()。駄目じゃないか、ヘスティア。こんな可愛い子達を独り占めしちゃあ」

 

 

 

 

 

 

 アポロンの熱い視線がベルに送られ、ベルは思わず数歩後ずさってしまう。

「この変態めぇ!! ボクの評判を落として初めからそのつもりか!」

「ヘスティア様、そんな意味のない『戦争遊戯(ウォーゲーム)』を受ける義理はありません!」

「当然だ! スズ君とベル君はボクの大切な家族だ! 賭けのチップ扱いなんかして冗談でもボクは怒るぞ!!」

 リリとヘスティアが後ずさってしまったベルを庇うように前に出てアポロンを睨みつけた。

 

 

 

 

 

「それはスズ様がいながら、神ヘスティアの【ファミリア】は【アポロン・ファミリア】に勝てないから勝負をしない……ということでよろしいでしょうか?」

 

 

 

 

 

 拒否をするヘスティアとリリに不満そうな顔で精霊ウルネアが問い掛ける。

 それで、ずっと我慢していたベルの感情が爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

「そう言う問題じゃないです! そういうことじゃなくって……皆してスズを物みたいに所有権の話なんてしないでください! スズは物じゃない。一人の女の子なんですよ!? 確かに僕とスズは血のつながりも何もないけど、大事な家族で大切な妹なんです! スズの気持ちを無視した賭け事でのやりとりなんてできる訳ないじゃないですかっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 それは受ければ引き抜きどころか【ファミリア】解散すら同意したらできてしまう『戦争遊戯(ウォーゲーム)』の全否定。

 子供から見た勝手気ままな神々への訴えかけ。

 嘘偽りのない気持ちと言葉が会場に響き、しばしの沈黙。

 今まで不機嫌な顔をし続けていた精霊ウルネアがベルの頭にそっと掌を置き小さく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「スズ様のことを大切に思ってくれていることは伝わりました。やましい気持ちがあるのだったら考えものでしたが、その真っ直ぐな気持ちは美徳です」

 

 

 

 

 

 

 

 精霊もまた神程ではないが子供の噓に敏感だ。

 そのまま優しくベルの頭を撫るのとほぼ同時に、「『白兎君』やっぱりいい子だな」「神と精霊相手にストレートで物を言いやがった」「そこにしびれる憧れる」と調子のいい神々が好き勝手盛り上がる。

 

 

「神ヘスティア。しばらくの間様子を見させていただきます。ダンジョン攻略派閥ではなく『家族』として見た貴方達を私はまだ知りません」

「うぬぅ。関係者である『巫女』がそう言うのであれば、()()()戦争遊戯(ウォーゲーム)』の申し込みを断られたと諦めよう。精々精霊ウルネアを失望させないようにするんだな」

 

 

 精霊ウルネアが様子を見たいと言うと、あれだけ強引に話しを進めようとしていたアポロンは大人しく引き下がった。

 『レスクヴァの里』という大きな後ろ盾があったからこそアポロンは強く出れていたのかもしれない。

 

 

 だが周りの神の中には『戦争遊戯(ウォーゲーム)』が始まらなくて残念がっている神も見受けられる。

 

 

 ヘスティアがダンジョンに入ったというタブーは思いのほか根強くその場の話題として残り続ける。

 このままここに会場に居ても事態を良くすることはできないだろう。

 なによりも【タケミカヅチ・ファミリア】の団員がついているとはいえ残してきたスズのことが心配だし、何かを相談するならスズとスクハを混ぜて話した方がいい。

 とても宴を楽しめる状況ではないので一度【タケミカヅチ・ファミリア】に戻ることにした。

 

 

§

 

 

『『第二コロニー』というと『ラキアの魔剣』で生き場を失くしたエルフ達を受け入れた『コロニー』の一つだったかしら。お母様への信仰が根強く残っていたのでしょうね』

 

 【タケミカヅチ・ファミリア】に戻り現状を報告すると、スクハは金色に輝く【魔法】の板を両手の指でピアノを弾くかのように叩きながら軽く返事を返した。

 桜花と千草によるとスズはここに来てからずっとスクハのままで、この【魔法】で出来た板を叩く作業を続けているらしい。

 

「スクハ君。その『コロニー』っていうのがいまいちピンとこないんだけど、そろそろ詳しい事情を教えてくれないかな?」

『そうね……ミツバチを想像してもらうのが一番簡単かしら。お母様……レスクヴァが人工精霊『巫女』を育てて、『巫女』が人が育つ手助けをする。育った『巫女』はレスクヴァの血が途絶えないよう独立して、新しい地でまた新たな人を鍛える。もっとも、女王蜂に似た役割のレスクヴァを除けば『本里の巫女』にしか人工精霊を作る程の適正値はないから、そこまでコロニーは広がらなかった訳だけれど』

 

 スクハの説明を聞いてもいまいちイメージがわかないで首を傾げると、『親戚が住んでいる別の里くらいに思っておきなさい』とわかりやすい例えが帰って来た。

 今多く語らないということは、里のコロニーがどういうものか自体はそこまで大切な情報ではないので一先ず保留にしろということなのだろう。

 

 

『とにかく、『第二コロニー』の『巫女』については問題ないわ。精々エルフ特有の信仰の深さからホームが小さいとか、ベッドが一つとはどういうことだとか、生活面での小言が飛び交うくらいで『本里の巫女』である『私』……いえ、『スズ・クラネル』が『迷宮都市(オラリオ)』の生活をしっかり満喫していると知ればその内帰っていくわ。他の神やアポロンに関してはほとぼりが冷めるのを待つしかないんじゃないかしら』

 

 

 今日の出来事にあまり興味がなさそうに金色の板を叩き続けては『『モス・ヒュージ』のクセに生意気ね。これ、討伐報酬出してもらえないかしら』なんて呟いている。

 どうやらスクハにとって今回の一件はさほど問題ではないらしい。

 

「スクハ様の言う通り、確かにほとぼりが冷めるのを待つしか今のリリ達に出来ることはありませんね。しばらくの間興味本位でヘスティア様の悪口を言う派閥が増えるかもしれませんが、相手にしてはダメですよ?」

『そういうこと。構うと余計に相手を楽しませるだけよ。けれど、そうね。火の粉が降りかかるような事態になったら【アポロン・ファミリア】にはそれ相応の代償を支払ってもらいたいところだわ』

「スクハ君もボクのことで怒ってくれるのかい?」

『原因を作った彼方の為に怒るだなんて寝言は寝てから言いなさい。入団希望者が居ないと思ったら主神が原因だとは思いもしなかったわ。まあ、『私』の説明も大変だから助かってはいるのだけれど』

 

 なんだかんだ言いつつもフォローをさりげなく入れてくれるのは実にスクハらしい。

 そんなことを思いながらヘスティアは口元を緩ませると、そう思われているのを悟ったのかスクハがプイと顔を逸らしてまた金色の板を叩き始める。

 

「でも()()あきらめの悪いアポロンのことだからなぁ」

 アポロンは神なのにもかかわらず『悲愛(ファルス)』なんて二つ名がつく愛に執念深く無理やりにでも自分のものにしたがる神だ。

 求婚を天界にいる時に迫られたヘスティアはその粘着ぶりを嫌というほど知っている。

 

 

『そうね。そんなにも心配なら、せっかく来てくれている『第二コロニー』の『巫女』に頼んでホームごと葬ってもらいましょう。これが一番被害が少ない解決策だと思うのだけれど』

「スクハ君、出来ればもっと穏便にすませてくれないかい!? アポロンはともかくとして、それだとアポロンの子供達が可愛そうだろう!?」

『親に罪があっても子に罪はない。貴女らしい考えね。だからこそ安心して『スズ・クラネル』を任せられるのだけれど』

 

 

 この調子だと【ソーマ・ファミリア】の時と同じく、ホームごとアポロンを天界送りにするつもりは最初からなかったようだ。

 『手っ取り早いのに残念ね』と言いながらも、スクハの口元は緩んでいた。

 

 




プロットではアポロン様だけで同じ流れになり戦争遊戯に持って行く予定でしたが、今後の展開をスムーズにする為に元エルフの人工精霊に登場してもらいました。
色々な派閥を集めて先に謝り、溜まったヘイトをヘスティアに押し付けようとしたアポロン様の明日はどっちだ!

次回のアポロン大惨事をしばらくお待ちください。

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