ある日の放課後。
今日は生徒会のお二方に頼まれ、必要な荷物を運ぶ簡単なお仕事をしていた。
その仕事も今しがた終わりを迎え、いざ帰らんとするところなわけで。
前に会ったあの日から、ちょこちょことお手伝いをしたりしてるんだけど、そのおかげか最近では2人と仲良くなった気がする。
「今日もわざわざありがとう。悠がいてくれて最近凄く助かってるわ」
「これくらいならいつでも、ですよ」
「もうウチとしては、悠くんは生徒会の一員といっても過言じゃないと思ってるよ」
や、それは過言です!
何こっそり人員確保しようとしてるんですかやめてください。
「それじゃあ、また何かあったら呼んでください」
「ええ、ホントにありがとう。またね」
「ばいばーい」
別れの挨拶を終え、生徒会を後にする。
それにしてもいつの間にか2人とも僕のこと名前で呼ぶの定着してますね…。女の子から名前で呼ばれるなんて恥ずかしいけど、そのうち嫌でも慣れるはず、っていうか慣れるしかないんだよね。
最初は「代わりにウチのことは『のんたん』って呼んでいいんよ?」と言われて対応に困った記憶がある。
ちなみに、「絵理ちは絵理ちだよ」などと本人の意思関係なく言ってたっけ。
それこそ恥かしいから呼ばないけどね!
普通に希先輩と絵里先輩にしましたよ。それでも若干の気恥ずかしさはあるけど。
「女の子は仲良くなったら名前呼び!そっちの方が嬉しいもんだよ」みたいなことをいってたけど(真偽は不明)、確かにそっちの方が友達感はでる…のか?
ふむ、それがホントなら今度高坂さん達も名前で呼んでみようかな。
とりあえず今日は早く帰るとしますか。買い物も頼まれてたことだし。
えーと、確かメモを生徒手帳に…ん?……あれ、生徒手帳がない?……落ち着くんだ。こういうときは冷静に考えよう。
朝学院にきたときにあったのは確認したから、その後に落としたとして、だとしたら学院のどこかにあるはずだよね。
まずは職員室で落し物がなかったか聞いて、なかったら今日行った場所をしらみつぶしに探すしかないか。
「ねえ、ちょっと」
買い物もメモは別段また聞き直せばいいけど、アレが挟んであるんだよなー。誰かに拾われる前に見つけないと、アレはさすがに見られたら恥かしい。
「ねえってば!」
「はい?」
一際大きな声に呼び掛けられた。
「何度も呼んでるのに無視しないでくれる」
そこには、黒髪をツインテールにした女の子が立っていた。
2年のタイをしているので、年上のはずなんだけど、なんとなく年下に見える。
背が低くて、白い肌が特徴的。美少女ではあるんだけど、全体的に美人というより、可愛さが目立っていた。
何回も呼んだみたいなことをいってるけど、全く気付かなかった…。
「これ、あなたのでしょう?」
彼女がそういって見せてきたのは。
僕の生徒手帳!?すでに誰かに拾われた後だったか!中を見られてなきゃいいけど…と思ったけど、中身ないと落とし主が僕であることなんてわからないよね…。明らかに僕の落としものだと分かった上で話しかけてきている様子をみるに、希望はない。
ここは早々に受け取って、離脱を試みるのがベストか。
「…探してたんですよ。ありがうございます!」
そういって手を伸ばし、生徒手帳を受け取ろうとする…スッと交わされる。受け取ろうと…交わされる。
えっ!?なぜに!
「ちょっと話したいことがあるんだけど、返して欲しかったらついてきなさい」
なんなのこの人!見た目可愛いくせにやってることが悪魔です!!まさかの脅迫ですよ!
しかし、生徒手帳は取り戻さなければいけない。ここは大人しくついていくしかないみたいだ…。
「わ、わかりました…」
「こっちよ」
そういって彼女は僕を先導するように歩き出した。
果たして僕はどこに連れていかれるのだろうか。無事に帰れるといいな…。
ーー僕はとある部室の前に立っていた。
その扉には『アイドル研究部』と書かれた小さなテープが貼ってある。
アイドル研究部ですか…。
先ほど連れてこられ、先輩は中に入っていったけど、僕も入らなきゃダメ?
えー、ホントに行かなきゃダメ?正直なんか怖いんですけど。見知らぬ土地にきた的な。既にアウェイ感が半端ない。
でも人質(生徒手帳)がいるし、行かないわけには。
今選択肢があったら…。
1.おとなしく従い中に入る。
2.文句をいいながらも中に入る。
3.嬉々として中に入る。
あれ?自分の脳内ですら帰る選択肢がない!?何この強制イベント!諦めの境地なの!?
すぅー、はぁー、深呼吸を1回。
決意を固めて、いざ尋常に!
勢いよくドアを開け、部室の中へと入っていく。
その部室の中にはアイドルのポスターや、DVDなどの沢山のグッズ。
凄い数のアイドルグッズだな…。
「早くこっちにきて座りなさいよ」
しぶしぶと、言われた通りに椅子に座る。
早く取り戻してさっさと帰ろう。
「あのー、それでお話というのは?」
「コレの中身のことよ」
僕の生徒手帳を出してそう言った。
「中身というと買い物メモ…ですかね?」
「そっちじゃないわよ!写真の方よ!」
やっぱりそっちしかないですよねー!
そう、僕の生徒手帳にはとある写真が入っているのだ。
だが、彼女がその写真について聞きたいことというのには皆目見当がつかない。
「この写真どこで手に入れたの?」
「はぁ…?どこで、といわれても、家にあったとしか」
「家にあった?こんな貴重な写真が?」
「貴重?まぁ、貴重といえば貴重ですけど、別段家に割とありますよ」
「な、なんですって!?家にこの写真以外にも沢山ある…あなたさては相当なオタクね」
「唐突なオタク認定!?」
「だってこんな…あの、『星せらら』の写真を、しかも明らかにプライベートなものを持ってるなんて普通じゃないわ!」
星せらら?はて、一体?…あぁ!そうだその名前!母さんの現役時代の名前だ!
「もしかして、母さんのこと知ってるんですか?」
「は?母さん?星せららが…あなたの?」
「はい。本名は瀬奈せららですけど」
「…あなた名前は?」
「瀬奈悠ですけど」
「ホントに?」
「や、嘘をいってどうするんですか」
いやー、母さんが『アイドル』だった時の名前だからすっかり忘れてた。
正直、今の世代の方で知ってる人がいるとは思わなかった。
「ふ、ふふふ。ツいてる、私ツいてるわ!ここであの『煌めく一等星』や、『シャイニングスターせららたん』の異名を持つ、星せららの縁者に出会えるなんて」
うわ、よくよく聞いたら恥ずかしいキャッチフレーズ…ってか、最後のなに!?人の母親を萌えキャラみたいにいわないで!
「というか、よく知ってますね。まるっきり世代じゃないと思うんですけど」
「ふっ…私こう見えてもアイドルオタクでね。色々な世代のアイドルを知っているのよ!まぁ、その中でも星せららは別格ね。アイドル好きで知らない人はまずいないわよ」
そんな有名なの!?そこまでは知らなかった…。
でもそうか、母さんのファンなのか…なんか身近にそういう人がいると…なんか嬉しいや。
「私もせららを見てアイドルを目指したといっても過言ではないわ」
なに、過言って流行ってるの?みんな使いすぎじゃない?
「っていうか、先輩アイドルなんですか?」
「そうよ。今をときめく『スクールアイドル』ってやつね」
『スクールアイドル』ですか。
高校の学生だけで組むアイドルでしたっけ?確か近くの『UTX学院』が輩出した『A-RISE』の人気があって流行り出したんですよね。
1回だけA-RISEの映像を見たことがあるけど、確かにあれは人気でるかもね。歌もダンスもレベル高かったし。まぁ、俄か意見だけど。
「お一人でやってるんですか?」
「…ええ、今は一人よ」
苦虫を噛み潰したような顔でいわれた!?
あれ?いきなり地雷踏んだっぽい?
「どうして?とは聞かない方がいいんですかね?」
あえて地雷原を渡る勇気!
「別に。周りがついてこれなくなっただけよ。私は一人でもちゃんとアイドルをやれるわ」
そういった彼女の顔は少し寂しそうに映った。
「ところでものは相談なんだけど」
「は、はい!なんでしょう?」
いきなりの話題転換に多少驚きながら答える。
もうこの話題はなしってことね。
「その…せ、せららに…サインとかもらえないかしら?」
あー、まぁファンだとしたらそうなりますよねー。気持ちはわかりますけど。ただ…。
「ここで出会ったのも何かの縁ですし、いいですよって、言いたいのは山々なんですけど…無理なんですよね」
「ど、どうして?」
「……えーと、母さんは…今年、僕がこの学院に入る前に亡くなりました」
「……そうだったの。悪いこと聞いたわね」
「いえいえ、もう何ヶ月も経ちますから」
そういえば、この話したのこの先輩が初めてな気がするな。まぁ、別段聞かれなきゃ自分から言うような話でもないしね。
でもサインか…サイン…たしか。
「あ、確か家にあったような気がするので、差し上げますよ」
「いやいや、悪いわよ。それは…ほら形見になるんでしょう?」
「や、家にただ置いてあるより、好きな人にあげた方が母も喜ぶと思いますし」
「でも…」
「ならこうしましょう。差し上げる代わりに、僕のお願いを2つばかり聞いていただくというのはどうでしょう?」
「交換条件というわけね。それで、お願いっていうのは何?…はっ!?まさか体が目当てじゃないでしょうね」
体を腕で隠しなが半目で睨まれる。
いやいやいや、そもそもそんな貧相な体型で何を…ん?でもこの先輩の場合はそれだから良いのか?これでなまじナイスバディとかだったら違和感バリバリだよね?ってことは、これで正解なわけか。
や、目当てじゃないけどね!?そんなこと言った日には学院での僕の人生詰んじゃうからね!詰まなくても言わないけど!
「そんな勘違いは置いておいて、1つは、これからも母さんのファンでいてくださいって事ですね。やっぱりこっちとしても嬉しいので」
「そんなものいわれなくてもやめないわよ。もう1つは?」
「僕と友達になりませんか?」
「へ?……ふ、ふふふ。何それ、そんなのがお願いなの?おかしなやつね…ふふふ」
あれ?何かおかしなこと言った?至極真っ当なお願いだと思ったんだけど。
せっかく可愛い子と知り合えたならお友達になりたいのは普通だよね?だよね?
「はー、笑った。私はにこ…矢澤にこよ。特別ににこって呼んでいいわ。よろしく」
そういって、握手を求め手を伸ばしてくる。
この人ちょいちょい上から目線だなー。実際年上なんだけど。まぁ、それもなんか愛嬌があって可愛い感じがして憎めないんだよね。
「瀬奈悠です。こちらは好きなように呼んでください。よろしくです」
そうして握手を交わす。
「ところで悠。あなた私の部活に入らない?」
「え、入らないですけど」
「入らないの!?今流れ的に入る場面じゃないの!」
「いやー、部活とかはちょっと今の所は」
「ふん!べ、別にいいけどね!」
「部活には入らないですけど、ちょこちょこ遊びにきてもいいですか?色々と話は聞いてみたいんですよね」
「しょ、しょうがないわね〜。きたいならきてもいいわよ」
「あれですよね。にこ先輩若干めんどくさいですね」
ついつい、笑いながらそう言ってしまう。
「めんどくさい!?」
「でもなんかそこが可愛いっていうか、そんな感じです」
「〜〜っ///う、うるさいわよ!早くそれ持っていきなさいよ!」
顔を赤く染め、照れているのか、怒っているのかわからない様子でいいながら生徒手帳を投げてくる。
ってか、生徒手帳を投げないで!大事にしてあげて!
「ひとまずコレ、拾ってもらってありがとうこざいます。今日はとりあえず帰らせてもらいますね」
「はいはい、さようなら」
ぶっきらぼうに返事をするにこ先輩に苦笑しつつ、部室を後にする。
にこ先輩か…。また面白そうな人と仲良くなれたな。
なんかまだまだこれから学院生活が楽しくなる予感!そんな考えをしながら帰宅する。
この後、買い物のことをすっかり忘れて帰宅し、怒られたのはまた別の話。
というわけで、遅ればせながら3話投稿させていただきました。
今回は我らがアイドル、にこにーのご登場でしたが、自分の文章力でにこにー感を出せているのか甚だ疑問です。
残すは1年sだけですが、楽しみにしている方(いるのか?)には申し訳ないですけど、もう暫くは出てこれない可能性が…。
できるだけ早く出せるように努力は致します。
それでは皆様、次回をお楽しみにしていただけたら幸いです。