07:尽きせぬ想い そして 出会い
僕は特に当ても無く、見知らぬ街を歩いていく。
今歩いているのは、おそらくこの街の大通り。
高い建物、不思議な店――『こんびに』というらしい。アリサと前に街を回ったときに教えてもらった。
1日中休まず1年間営業するということ、それは継続的な労働力の確保や商品の入荷、店内の環境維持、他にもたくさんの事が必要だ。
……アリサに『こんびに』の『ぽす<POS>しすてむ』と言うのを聞いたときには衝撃を受けた。この世界の『あいてぃー技術』を生かした商業方法……学ぶところが多い――、街を行き交う車。
……ちゃんとした意思を持って異世界の街――魔法が存在しない世界は初めての事だけど――を歩いたのはこれが初めてだ。
これまでは必要最低限の物資を手に入れたら、再び時空の狭間を流れ行くままにたゆたう暮らしだった。
必然的にそのセカイにいる時間はほんの少し。
こうやって長い間留まるのは……初めてだった。
僕はアリサに聞いたこの国の話を、頭の中で反芻する。
飢えを知らない人々、あふれる物資、戦争を放棄した憲法――……逆を返せば、周囲の国に攻め込まれないだけの力を持っているということの証左なんだろうけど――。
………僕には全て考えられない事だった。
亡くした故郷で、これらのことが実現できれば――――
「……馬鹿らしい」
――――僕はその考えを即座に頭から打ち消した。
失ったモノをとり戻すのは不可能。
決して小さくはなかった故郷を一瞬で、尚且つ余裕を持って消滅させた僕の膨大な魔力。
全てを使って、さらにこの命を代償にしても、亡くしたモノは帰ってこない。
「……はぁ」
僕は、重い、重い溜息を吐くと、いつの間にか止まっていた足を、再度動かしだすのだった。
◇◇◇
繁華街を離れ、僕はまたさっきとは別の住宅が立ち並ぶ辺りに歩を進めていた。
街の中心部から離れたこの辺りは、住宅街と個人商店――この世界には『ちぇーん店』という営業形式があって、国の違いによって多少の特色は有るけども、飲食店の場合その店ではどこでも同じ味のものが食べられるとか。……恐るべし――が主として構成されている。
……くー
「おなか空いた」
体感時計での現在時刻は13時38分46秒――魔法使いにとって、時間というのはとても重要な要素。大規模儀式魔法なんかは特にそう。時計を見ながら儀式を行うなんていうのは論外だから――だ。
話を戻そう。
朝、アリサと一緒にご飯を食べてから何も食べずに散策してたせいで、おなかが空いた。
どの世界でも常識だけど、食事をするにはお金がかかる。
そして僕の財布の中には――――
「な~つ~め~♪」
――――デビッドさんから『お小遣い』として貰ったお金――紙で作られたお金を見るのも初めてだ――が一枚入っている。
この国では、一番偉い人…ではなく、文化的な貢献?をした人がお金の肖像画として使われるらしい。
僕が持っているお札に描かれている人物は、『我輩は猫である』とかいう本を書いた人だ。
……この本を読んだ後、アリサに『この世界の猫もしゃべるのか!?』と聞いたら、『猫が喋るわけないじゃない!』大笑いされた。
………大真面目だったのに。
というわけで、僕は昼食を摂るためにお店を探す。
『○○のお店がおいしい!』っていう情報がないから、自分の嗅覚だけが頼りだ。
歩き回ること10分弱、僕の足が一軒の店の前で止まる。
僕の嗅覚と勘が正常なら、この店は当たりのはず。
問題はお値段なんだけど――――
『☆ 本日のランチセット 750円 (+100円で食後の飲み物とデザートを付けられます) ☆ ランチタイムは11:00~14:00まで』
僕は手に持つお札と、店の前におかれた黒板に書かれた値段を見比べる。
大丈夫、お札のほうが桁が多い。
僕は意を決して店の扉を押す。
カランカラン
扉についていた鐘が音を立てる。店内から溢れたコーヒーの香り――名前は違ったけど同じ飲み物が僕の世界にもあった――が僕を包み込んだ。
そして、出会うのだった――――
「「いらっしゃいませ。喫茶『翠屋<みどりや>』にようこそ」」
――――僕と同じ“におい”がする人物に。
この頃はまだ、投稿速度重視で文章量が少なかった時期。
進むに従い、だんだんと文字数が増えていくんですよね、私…… (^^;