06:捜査、そして気づいてしまった現状
テレビを見ていたアリサが『学校』に向かった後、――言い忘れてたけど今は朝だ。アメリカと日本は離れてるから時差が存在する。……僕の些細なプライドのために言わせて貰えば、僕の故郷とこの世界の科学技術の差は歴然だけれど、『時差』の概念くらいあったからね?――僕は鮫島に頼んでテレビの『ニュース』に出ていた病院のところに車で案内してもらっていた。
「ジーク坊っちゃん、申し訳ありませんがこの車ではこの先の道が狭くて入れませんので…ここからは歩いて頂けますか?この通りをまっすぐ行くとその病院が右手に見えますので」
申し訳なさそうな鮫島の言葉。僕は鮫島の指す通りを見やる。……確かにこの車じゃこの道を通るのは難しそうな道幅だった。
「ん、わかった。…鮫島、ありがと。歩いて帰るから、先に帰ってて大丈夫」
「はい。では、お気をつけて」
僕は手を振って鮫島を見送ると、踵を返して病院のほうへと歩いていく。
僕はここの地理に自信が無かったけど、……どうやらそれは杞憂だったみたいだ。
「……うわぁ」
通りに群がる野次馬たち、いい目印だった。
テレビ越しで全体を把握できてなかったから被害の度合いがわからなかったけど、こうやって直接見ると被害は意外と広範囲に及んでいた。
酷く陥没した道路、倒れた壁、傾いた石の柱――『でんしんばしら』と言って、それらを結ぶ『でんせん?』に雷
道路は黄色のテープでふさがれ、紺色?の同じ服を着た大人たちが野次馬が入らないように視線を巡らせている。
……腰に堂々と『拳銃』を下げているから、アレがアリサの言っていた『お巡りさん』という存在なんだろう。
詳しく調べるにはもう少し近づきたいんだけど、人ごみを掻き分けるのは難しいし、何よりお巡りさん<見張り>がいるから諦めた。
大まかに調べるだけなら、この距離でも充分だし。
「『残留魔力探査術式 弐型 術式名「ミネルヴァの眼」』」
小声でそう囁いた僕を中心に展開される魔方陣。
周りの人の目には見える事は無いけども、ソレは一瞬でこの辺り一帯をその内に収めた。
僕の脳内に周囲の魔力情報が、滝から流れ落ちる水のような奔流となって入り込んでくる。
体感的には、20秒くらいかな?
……結果はアリサに伝えていた確信どおり。
新たにわかった事は次の3つ。
まず1つ、感じ取れた魔力は3つぶん。
中くらいなモノ――仮称はαだ――と、大きなモノ――仮称はβ――、そしてソレより更に大きなモノ――仮称はγ……念のため言っておくけど、『α・β・γ』って名称は
手抜きじゃないからね?ただ名付けるのがめんどくさかっただけで……――。
2つ、感じ取った魔法の残滓から考えるに、僕の知っている『魔法』とは全く違う系統に属している事。
3つ、辺り一帯を破壊したのは対象β。αとγ…たぶんγがβをどうにかしたっぽい事。
簡単な調査だから、今はこれくらいが精一杯。
僕は術式を破棄すると、その現場に背を向けた。
長居をする必要はない。
僕はアリサの家に向かって歩き出した。
ん?
……とりあえず歩く。
…………?
………………あれ?
「これは……迷子って状況?」
おーけーおーけー。落ち着こう、僕。
こんなときこそ冷静に。
僕は目に付いた公園に入って現状の把握を図った。
僕はぐるりとあたりを見回す。
似たような建物、似たような風景。画一化された構造物――『でんしんばしら』や『でんせん』、あと『ゆうびんぽすと』?とか言う奴――の群れ。
…………ここは、どこなんだろう?
「鮫島の車に頼りすぎてたのが仇になるとは……」
自分の足で歩かなくちゃ、地理はつかめないってわかってた筈なのに…。
……認めよう、僕は『迷子』だ。
「うわぁ……情けない」
ソレを認めた瞬間、情けなさが僕を押しつぶす。
知らない土地で、見知らぬ科学技術にガラにも無く浮かれちゃって、挙句の果てに迷子とは……。
「あ゛~!!」
僕は頭を抱えて呻く。
……そんな風に呻き続けて数分後。
僕は街を当ても無く散歩する事にした。
え?そうゆう結論に至った理由?
……ただ単に、暗くなってから飛行魔法を使って高いところに行けば、アリサの家を見つけられる――大きなお屋敷だったからね――なぁ、って事に気づいた。ただそれだけ。
……お恥ずかしいところをお見せしました。
僕はそんなお詫び文句を頭の片隅に流しながら街を歩く。
二度と道に迷う事が無いよう、この機会に街の地理を把握しておきたい。
……まあ、道に迷った状態で地理の把握ができるのか?と言われたら身も蓋も無いんだけどね………。
そんな事を考えながらも、僕は見知らぬ街を歩き続けるのだった。
リリカルなのはのSSは数あれど、居候している家に帰れなくなる主人公などかつて居ただろうか、いや居ない(反語)。
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