本話以前の三点リーダーに関しましては、暇を見て修正いたします
05:オルタナティブ <代替品>
「La~♪ Lu~♪」
てっぽう、てっぽう、け・ん・じゅう!!
「随分と嬉しそうだね」
デビッドさんが僕を困った目で見ている。
「気のせい」
武器を買って貰って喜ぶなんて、子供じゃないんだから。
僕は未知の科学で出来た『工業製品』に胸を躍らせてるだけなのに。
「そういう台詞は、もらった銃器のカタログから視線を放してから言いなさい。
付箋でマークまで付けてるじゃないか……」
僕は今、デビッドさんの仕事にお供して『日本――アリサが居る国――』ではなく『アメリカ――海の向こうの大きな国だ――』に来ていた。
目的はただ一つ『拳銃』の入手。
アリサの護衛を請合う以上、手は抜かない。
けど、前回の男みたいのを相手に剣を使わないで戦うと、僕は……アリサを守れないかもしれない。
だからこそ、剣の代替品が欲しかった。
日本では銃を手に入れるのは難しいらしいので、僕はその規則がゆるい『アメリカ』に連れてきてもらったのだ。
で、現状としては、無事に拳銃を2丁入手。
車――リムジンという名前らしい――の後ろの席で、僕はデビッドさんと2人で会話の真っ最中なのだ。
「気のせい、断じて気のせい。これは有事に備えて、敵の使用可能性のある武器に目を通しているだけ」
「き、気のせいか」
「うん」
デビッドさんがなんとも微妙な表情でうなずいてくれた。
この武器の危険さは、僕が身を持って知ってるのに。
「まあいい。だが君に渡す弾丸は『SRゴム弾』……つまりは非殺傷の弾丸だ。これだけは私も譲れない」
「それで充分」
『日本』って国だけではなくほとんどの国では『人を殺す事』は犯罪らしい。
正当防衛でも殺しはダメなんて、理解できない。
でも、デビッドさんやアリサに迷惑を掛けるわけにはいかないから、僕はそれに従う。
「だが、どうやってそれを日本国内に持ち帰るんだ?」
この人は何で気づかないんだろう?
「転移魔法で、この国からアリサの家まで一瞬で着くから、問題ない」
というか、ここまで来るほうが大変だった。
転移魔法は発動条件として、
『一度訪れた事がある』
『転移先の目印となる魔方陣』
この二つがある。
つまり、僕は地図を見せてもらってもアメリカまでこれない。
もっと言うと戸籍も無いから出国できない(らしい)。
仕方ないから、タイヘイヨウ?を飛行魔法で横断するはめに。
……二度とやりたくない。
「魔法とは……便利なものだな」
ため息を吐かれた。
「ん、便利」
とりあえず、僕はうなずき返しておくのだった。
◇◇◇
「ジーク君そういえば気になっていた事が一つあるんだが……質問して良いかね?」
「? 内容による」
故郷の事なら……話せない。
「そう構えないでくれ。……君がこの銃を選んだ理由だ。強化プラスチックで出来た軽いものもあったのに、なぜこの銃を?」
僕が買ってもらった銃は、『ベレッタM92F』。1丁が1キログラムくらいの鉄砲だ。
「剣は、もっと重いよ?」
剣に比べたらこんなの軽い。
それに、筋力強化の魔法も使うから重さはあんまり気にならない。
「む、……質問が悪かった。『なぜ性能が似た、軽い銃があるのにそちらを選ばない?』
という意味だ。軽い方が取り回しが良いだろう?」
……ふむ。
「デビッドさんは、戦争に出征して、イノチの奪い合いしたこと……ある?」
「いや、ない」
「じゃあ、わからないかもしれない。……デビッドさんは、戦場で一番怖い事って、何だと思う?」
「それは……殺される事じゃないのか?」
違う。
僕は頭を振ってそれを否定する。
「そうじゃない。それは、お互い。そんな事考えたヤツは死ぬ」
デビッドさんは、その後いくつか答えたけども、正解には近づかない。
「さっぱりわからん。降参だ。」
「これは、僕個人の見解――――」
僕はそう前置きして口を開く。
「――――僕が戦場で一番怖い事は、武器が壊れる事。素手でも戦えない事は無いけど、
その場しのぎが精一杯。
たぶん、遠からず殺される。……戦場で命を預けるのは仲間じゃなくて、結局のところ自分の腕と武器。
……命を預けるものだから、重くてズッシリしたほうが存在感があって安心できる。違う?」
細い剣は取り回しやすいけど、どこか頼りない。
それが良いっていうヤツも居るけど、僕はその意見に賛成できない。
……というか、重ければいざというときに鈍器として使えるし。
「……そうなのかも、しれないな」
「ん、そう。……僕はここで降りる。じゃ、日本で」
「む? ああ、ではアリサを頼む」
僕はデビッドさんと別れ、車から降ろしてもらい人気の無い建物の影に行くと、チョークで足元に魔方陣を描くと、アリサの家に飛んだのだった。
◇◇◇
「ただいま」
「あ、ジークお帰りなさい。パパは?」
家に着いた僕は、まず最初にアリサの部屋に向かった。
アリサはテレビ――薄い5センチくらいのヤツだ。僕が驚く事を予測していたアリサに注意されていたおかげで、初見の際にテレビに殴りかからずに済んだ――から目を離さない。
「まだ、アメリカ。先に魔法で帰ってきた」
「ふ~ん。魔法って便利ね~」
目を離さない。
「……何、見てるの?」
「ん~?昨日の夜、近所で原因不明の事件があったのよ。ほら、見て」
僕はテレビに目を向ける。
「動物病院?」
こちらに来てから1週間くらい。
勉強の結果、ひらがな、カタカナ、漢字はなんとなく読めるようになった。
魔法使いに語学は必須だったからね、覚え方のコツがわかるから楽だった。
……数学――統治者の嗜みとして、経済・経営学は修めてるけど――は全然出来ないけど。
「そ。怪我人は居なかったらしいけど、建物が壊れたんだって」
映し出された事故現場、…僕の動きが止まった。
違和感、圧倒的な違和感。
この慣れ親しんだ感覚、間違いない。
精神を研ぎ澄まして、確信を得た。
「この病院って、あっちのほう?」
「あれ? ジークってあっちのほう行ったことあったっけ?」
「……アリサ、僕以外の魔法使いって、いないよね?」
「…………ちょっと、それって!?」
アリサは察しがいい、余計な手間が省けて助かる。
魔法が無い世界だからこそ、本来なら気付けない距離の場所でのその痕跡が際立っていた。
「これ、魔法での戦闘の跡。魔力の残滓が感じられる」
この事件が、これからこの街――海鳴市――でおこる騒ぎの始まりであったとは、今の僕達には気づかなかった。
補足:SRゴム弾<ショックラウンズ・ラバーブリット>
弾頭がゴム。
着弾時に高圧電流が流れ、意識が飛ぶ。
スタンガンが弾丸になったものだと考えればOKです。
テイザーという名前で似たような効果の銃が売られていますね。
(日本で持ち歩いてはいけません^^;)