45.5:ジークのとある一日
おまけ~アルフ編
草木も眠る丑三つ時、僕はそっとベッドの側にやってきた彼女に、薄目を開けて声を掛ける。
「――――だいじょぶ、フェイトはよく寝てる」
「――――び、びっくりした、まだ寝てなかったのかい?」
「んん、誰かが近づく気配がしたから起きた」
近づいてきた人型の彼女――アルフに僕はそう告げる。
「ったく、野生動物みたいな反応だね……」
「性分だから……何処行くつもり?」
「いや、フェイトもちゃんと寝付いたみたいだし、私は部屋にもどっとこうかな~ってね」
『床で寝るより、ベッドの方がよく眠れるからね』、などと当然の事を言いつつ、アルフが肩を竦めて見せた。
「じゃ、ジーク。フェイトの事はよろし――――」
僕は無言でフェイトと反対側の、空いている方の掛け布団を持ち上げてみせる。
「――――アルフも一緒。仲間外れ、ダメ」
「いや、でも……いいのかい?」
……んむ?
アルフの言わんとする事はよく分からないけど、いい加減僕も眠いので端的にアルフに伝えることにする。
「僕がいいと言えばいーのだ、拒否権などない」
「……ジーク、実は半分くらい寝てるダロ?」
「ひてーしない。いい加減寝たいから、早く布団に入って。それにフェイトが起きる」
現に布団を持ち上げてるせいで暖かい空気が逃げたのか、僅かに震えたフェイトがさらに僕へ身を寄せてきている。
「あー、解った解った、一緒に寝させて貰うよ」
「ん、それでいーのだ」
もぞもぞとアルフがベッドに入り込んでくる。
流石に3人も入ると大きめなこのベッドも若干手狭で、必然的にアルフもベッドから落ちないように僕へと寄り添った。
「……ねぇジーク」
「んー?」
目を細め、うとうとしつつそう返す。
「なんかさ、最近不安なんだ。プレシアの事が一区切りついてフェイトは毎日幸せそうなのに、それを見てると――――」
“――――不安なんだ”
消え入りそうな声で、ポツリとアルフが漏らしてくれた。
――――呼び方はこっちに来てから知ったけど、いわゆる『幸せ恐怖症』……とかいう奴かな?
故郷の頃、結婚を控えた部下にも、同じような不安を口にしてる者がいたっけ。
おそらく、今の幸せそうなフェイトが、何かを切っ掛けに以前のような状況になったらどうしよう……という漠然とした不安なのだろう。
この症状の改善に必要なのは、幸福を与えることでなく、不安を減らしてあげること。
「――――大丈夫」
「……?」
「フェイトの幸せは僕が守ると保証する。管理局だろうが何だろうが、その程度じゃフェイトの幸せを壊せないくらいに」
僕の宣言に一瞬“きょとん”とした表情を浮かべたアルフが、ふっと笑みをこぼしてくれた。
「――――なら、安心だね」
「無論、アルフも含む」
「えぅ?」
なんだその、生まれたばっかのドラゴンの赤ちゃんみたいな変な声?
「当然だろうに。アルフの居ないフェイトは幸せといえる?」
「い、いや、アタシを守る余力が有るなら、それはフェイトの――――」
アルフの自身を省みない発言を、ぺしっと軽く頭を叩いて止めさせる。
「一人でも二人でも三人でも、手を伸ばせば届く範囲の幸せくらい、今も僕でも守ってみせる、よ?」
ほんの少しだけ微笑み、獣耳がぴこぴこしてるアルフの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「――――あぅん、分かった、分かった。フェイトとアタシ、……二人揃って末永くよろしく」
「んむ、心得た」
最後にもう一度、くしゃりと頭を撫でるとそのまま僕は睡魔へと身を委ねたのだった。
おまけ2
Side.Fate Testarossa
ふと目を覚ますと、私の目の前には静かな寝息を立てて眠るジークの横顔が視界一杯に広がっていた。
「~~~~~~~ッ!?」
個人的に刺激の強すぎる光景に、鏡を見なくても分かるほど私の頬が赤くなったのを自覚する。
朝の日課になりかけている、膝枕の時とは距離感が違う。気づいてみれば、伸ばされたジークの腕を体全体で抱きしめて寝ていた。
私は高鳴る心臓の鼓動を感じつつ、無防備なジークの横顔を観察する。
光の加減で青みを帯びる
普段、起きてるときは野生動物みたいに周囲を警戒してるジークの寝姿は、打って変わって湖面に写る月のような――――目を離したら消えてしまいそうな儚さがある。
少しの間だが、ジークの横顔を目に焼き付けているうちに、無防備に晒されたジークの首筋に目が止まった。
“思わず”ジークが起きていないか確認する。
大丈夫、ジークも、いつの間にか私と反対側にいるアルフも寝てる。
目に見えない何かに引き寄せられるように、私の顔はジークの首筋へ近づいていき――――
「すーはーすーはーすーはー」
――――そのまま全力でジークの匂いを嗅いでいた。
くんかくんか、くんかくんかくんか!
…………たぶん、5分くらい満喫してから顔を離す。
あぁ、コレ、スゴいッ……!
今の私、きっとスゴいだらしない
……あぅ、ちょっと鼻血が。
私を信じて無防備に寝ているジークを裏切っているような、何ともいえない背徳感に背筋が震えた。
昼間ベッドで時が経つのを忘れて、ベッドと服から匂うジークの残り香を嗅いでいた時も幸せだったけど…………直接嗅いでいる今となってはその幸せも色あせちゃう。
あぁ、なんだか幸せすぎて頭がぼぉっとしてきた……。
「――――んにゅ」
んにゅ、んにゅって!
あーもー!起きてるときは格好いいけど、寝てるジークは可愛いんだからもぉ♪
ちょっと魔が差して、寝言の拍子に薄く開かれたジークの唇を指先でなぞってみる。
――――で、そのジークの唇に触れた指先で、自分の唇をなぞった。
「~~~~~~~~!!!!」
……やってみて、恥ずかしさの余りちょっとジークの隣で悶えた。
私がジークを独り占めして満喫できるまで、残りは後数時間。
胸がキュンキュンして、なんだかお腹の下のほうが温かくなる不思議な感覚を覚えつつ、私はジークの頬に指先を走らせるのだった。
オマケのオマケ
翌朝、朝食時。
「あれ? ジーク、襟元のところ虫にでも刺された?」
「ん?」
アリサの指摘に首を傾げる。
特に襟元に痒みも無いし、触った感じだと腫れてもいない。
視界の奥で、アリサの後ろで控えていたメイド姿のフェイトの肩が、小さくビクリと跳ねるのが見えた。
「なんか、3箇所くらい赤くポツポツっと痕が着いてるけど?」
「むぅ、なんだろう」
「なななな、なんだろうね? そうだアリサ、そろそろ学校行かないと! 鮫島さんも車で待ってるよ!」
妙に慌てた感じのフェイトがアリサを急かす。
確かにそろそろ出ないと、アリサは学校に間に合わない。
「あ、ホントだ。ジーク、念のため後で薬か何か塗っときなさいよ?
じゃ、ジーク、フェイト、行ってきま~す」
「ん、気をつけて」
「い、行ってらっしゃ~い」
手を振ってアリサを見送る。
それにしても、今日のフェイトはどうしたというのだろう?
終
更新が盛大に遅れました、大変申し訳ありません。
皆様にお詫びをば。
私事ですが祖母の逝去や異動等が重なり、てんやわんやしており二次創作から離れておりました。
ですが、最近ようやく自身も周囲も落ち着きましたので再度筆を執ることにした次第です。
亀更新になるとは思いますが、お待ちいただけると幸いです。