魔法少女リリカルなのは ~若草色の妖精~   作:八九寺

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魔法少女リリカルなのはA's PORTABLE -THE GEARS OF DESTINY-

Sequence.1 ~異変~

「―――ん?」

 妙な魔力反応を感じた僕は、バニングス邸の庭木の剪定作業の手を止めて空を見やる。

「気のせい――では無いっぽいか」

 注意してこの海鳴一帯を探ってみると、どうも時空全体が歪んでいるというか……妙な感じだ。次元震とか断層とかそう言う物では無いから、危急と言う訳でも無さそうだけど。
 念のため、作業を中断して仕事道具を収納しつつ、念話を送りながら屋敷に向かう。

 本日、アリサとフェイトにアルフは“女子会”とやらで、翠屋に行っている。ただ、高町はユーノと一緒に次元世界の遺跡探索に行っているので不在だ。
 ヴォルケンリッター一同は出張中で、八神の主従は次元世界に行ってたはず。

『アリサ、フェイト、アルフ。ちょっと不穏な感じがする、念のため気を張っておいて』

 『面倒なことにならないといいのだけど』、そう思った時ほど既に面倒ごとが起こってるんだよなーと思いつつ、僕は屋敷へと戻るのだった。


◇◇◇

Side:???
「お? おおお?」

 あ…ありのままいま起こった事を話す!

 『俺は娘と一緒に山でキャンプ(やまごもり)していたと思ったら、いつの間にか何処かの世界の夜空に投げ出されていた』。
 な……何を言ってるのか、わからねーと思うが俺も何をされたのか分からなかった……頭がどうにかなりそうだ……催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わってるぜ……


 ……現実逃避やめて、さっさと現状認識しよう――む?


「ここは……海鳴市?」

 落下しながら見る街並みは、どこかで見たことのある物だった。

 ――――そんな風に観察しているうちにグングンとビルの屋上が眼前に迫ってくる。

「――っとぉおおおお! ……ふぅ」

 空中で姿勢を整えて足先から屋上に接地し、そのまま5点着地法で衝撃を逃がす。

 んむ、俺じゃなきゃ死んでた。
 しかし……状況が掴めないなぁ。

 周りを見渡して、更に首を傾げた。

「……あのスーパー、だいぶ前に潰れてた……よな?」

 ――もしや、いや十中八九で過去の海鳴市だったりするんだろうか?

「くそ……面倒な」

 舌打ちして、フードのついたマントを頭まで隠して着込む。この場所が本当に過去の地球だとして、知り合いに顔を見られるのは、色々と宜しくない。

「――――異世界渡航者だな? こちらは管理局員の八神シグナムという者だ、悪いが話を聞きたい。ついて来てくれ」
「……悪いが断る。こっちにも事情があるんでな」

 ……気をつけないと思った矢先に、初っ端でいきなり知人と出くわした。顔を見られないよう、目深にフードをかぶり直して、上空の彼女に視線をやった。

「事態は急を要している、力づくでも来てもらおう」

 ……あぁ、コイツ昔からこうだったなぁ。
 変わらないなぁ、うん。

 とまかく、剣を向けられた以上、こちらも対応せざるを得ない。ため息を吐きつつこちらも虚空から剣を掴み抜剣する。

「そういえば名前を聞いてなかったな……貴様、名前は何だ?」
「そうだな――――レイセン……とでも名乗っておこうか」

 俺は名乗りを上げると、先手を取って彼女へ切りかかるのだった。

Side End...

◇◇◇


という、なのはGoD編の嘘プロローグでしたw
『あれ、読む作品ミスった? それとも作者がミスった?』と思った皆様、エイプリールフールだからね、許してね?

なお、後書きにて重大発表をする模様。


42:時の庭園~突入戦~前編

42:時の庭園~突入戦~

 

「次の道は?」

「突き当たりまで行ったら左――――どりゃぁああああ!」

 

 時の庭園の屋外の敵を一掃し、庭園内に突入した僕たちは、そのまま出くわす敵を排除しつつ最奥部へと進んでいた。内部構造に精通しているアルフを先頭にその後を追う形で僕。僕の左右の後ろには左に高町で右にアリサ。その後ろにユーノ、黒服と続く鋒矢(ほうし)の陣の変形だ。

 

 立ちふさがった機械兵をアルフが殴り飛ばす。吹き飛ばされた機体が、広間の床が崩れた所に落ちて行った。

 

「……この下の空間、どうなってるの?」

「あの下は虚数空間だ! 落ちたら魔法の発動がデリートされる! 落ちたら飛行魔法もキャンセルされるから、重力に引かれて永遠に落ち続ける事になるぞ!」

「怖っ!?」

 

 黒服の説明に、アリサが顔を引きつらせる。

 

「いや、でもジーク達の魔法なら大丈夫かもよ?」

「よし、じゃあ黒服飛び込んでみろ、僕の魔法で救助できるか試す」

「誰が飛び込むか!」

「じゃあ高町でいいや、飛べ」

「悪魔なの、ここに悪魔がいるの!?」

「や め な さ い」

 

 後ろを走っていたアリサに小突かれた。

 

「むぅ」

 

 まぁ今回落ちなきゃ良いだけだ、実証は後でも何とかなる。

 

「で、もう少し進むと上下に分岐。上が庭園の駆動炉に続いて、下はプレシアが陣取ってるはず」

「そ。じゃあ僕とアリサとアルフが下、駆動炉の封印作業は任せた」

「……確かにそれが最善、か。くれぐれも気をつけてくれ!」

「んむ」

 

 アルフが言ったとおり、すぐにそれぞれ上下へと続く階段が現れた。

 互いに頷くと僕たちは二手に別れ、対プレシアと対駆動炉に向け動き出すのだった

 

 

 ◇◇◇

 

 

「そう、対機械兵の手順としては、敵の攻撃を食らわずに一撃で戦闘不能に持ち込むのが望ましい」

 

 敵の動きを見切って接敵、一撃を叩き込んで離脱。下手に攻撃を受け止めると、身体強化が未熟なアリサじゃ防御ごと質量差で押し切られかねない。

 斧槍でスパスパと機械兵を両断しつつ、アリサにそう指示を飛ばす。

 

「し、しんどいッ!」

 

 文句言いながらもきっちり倒してるから御の字。質量変化を駆使し、敵を殴るごとに『メキョ』っとスゴい音とともに機械兵が戦闘不能になっていく。

 

「……おっかしいなぁ、……ここにいる機械兵、みんなAクラス以上の戦闘力のはずなんだけど」

 

 僕とアリサで迫りくる全ての機械兵が始末されていくのを見ていたアルフが、理不尽な物を見るような目でこっちを見た。

 

「いや、たかがこの程度、手間取っちゃダメだから」

「いやいや、そんなはず。あ、ジーク、次の赤い奴は障壁を――――」

 

 他の兵の3倍くらいの早さでスラスター移動で突っ込んできた奴を、反射的に張られた障壁ごと一閃で切り伏せる。

 

「――――ん? ごめん聞いてなかった」

「…………いや、何でもないよ。あ、アリサ、その黒い奴もSクラスで障壁が――――」

「ブレイズッ!」

 

 アリサの投げた魔力刃の柄から刃が伸びて通路を塞ぎ、そこに突っ込んできた黒い機械兵が細切れに分断された。

 

「む、アリサ刃渡りの調整なんて教えた?」

「ふふ、自主鍛錬♪」

「ん、よしよし」

 

 鍛錬を怠らない弟子を撫でてやる。

 

「……ん♪ あ、アルフ何か言ってた?」

「……いや、何にも」

 

 ふむ、アルフの様子がおかしい気がする。

 ……まあ良いか。

 

 ……む。

 僕はフェイトに渡したアレが使われた事を察し、斜め上の虚空を見やる。

 ――――そうか、フェイトは踏み出したか。

 

 僕がせっついたことだ、お膳立てはやってやろう。

 

「にしても、結構降りてきたけどまだ下があるのかしら」

「いや、もうすぐ――――ここだ」

 

 体感的におそらく時の庭園の最下層、その広間は3mほどの高さがありそうな扉に閉ざされていた。

 扉に伸ばしたアルフの指から小さく火花が散る。

 

「ッ! ったく、障壁が張られてる……!」

「っせい! ……きゃっ!?」

 

 物は試しと言わんばかりに全力で殴り掛かったアリサが、障壁に阻まれ弾かれる。

 

「……む、ジュエルシードの魔力で障壁張ったのか」

 

 たぶん、僕を妨害するための障壁なんだろうけど――――

 

「ふん」

 

 ――――今の僕には造作もない。

 ユグドラシルを幾度か振るい、障壁ごと扉を切り崩した。

 

 舞い立つ砂埃(すなぼこり)を魔法で押さえつつ、僕たちは瓦礫(がれき)を乗り越えて広間へと入っていく。

 

「――――初めまして、プレシア・テスタロッサ。荒っぽい来訪、お詫びする」

 

 返事はない、その代わりに返ってきた物は無数の光弾の迎えだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 アリサに先んじて一歩前に立ち、迫りくる光弾を迎撃する。

 両手で構えた斧槍を握り直し、幹竹割りから刃を返して切り上げ、袈裟に切り返して水平に払い、柄や石突きなども用いつつ光弾を切り捨て、砕き割った。体感時間で1分ほど絶え間なく続いていた攻撃は唐突に終わりを告げる。

 

「――――全く、危ないな」

「……スゴい」

 

 たぶん、アリサには僕の動きを3割も見切れていないだろう。

 だけど、僕が何をしたかは分かってくれている。そして、自分じゃどうしたって今の攻撃を防げなかったことも。

 

「――――傷一つ負ってないのに、危ないも何も無いでしょう」

 

 ……初めて直接聞いたプレシアの声は、年齢以上に疲れ、張りの無い物だった。

 

「ずいぶん早いと思ったら……アルフ、貴女が手引きをしていたのね」

「アタシはフェイトの使い魔だ! フェイトを守るためなら、プレシアだって管理局に売ってやる!」

 

 今にも駆け出そうとするアルフの尻尾を掴んで止める。

 

「ひゃうん!? な、何で止めるんだい!」

「アルフ、ステイ」

「止め――――」

「――――……ステイ」

「……はい」

 

 尻尾をへにゃっとさせたアルフを引き下げて、前に立つ。

 

「一応聞くけども、投降する気は?」

「無いと思ってることを聞く必要は有って?」

「ごもっとも。あくまで形式」

 

 肩を竦め、改めてユグドラシルの穂先をプレシアに向けた。

 

「病人に手荒な真似はしたくないのだけど」

「ちょ、病人ってどういうことよ!?」

 

 僕の隣で臨戦状態を保っていたアリサが素っ頓狂な声を上げる。

 

「言葉通り。僕も直接会って気が付いたけど、プレシアは健康とはほど遠い。肺と……内臓系全般ってところ?」

「医者でも無いくせに、鋭い子供ね……」

「こう見えて、治癒系の魔法が一番得意だもの」

 

 大陸一と名高かった母上直伝の魔法だ、治癒・強化系で遅れを取るわけにもいかない。

 まぁ、外傷はともかく、プレシアみたいな病気だと専門からは外れるけど。

 

「……もう一度聞いておくわ。貴方、私に協力する気は無い?」

「くどい」

「そう……じゃあ死になさい」

 

 放たれた紫光の極太な魔力砲撃を、眼前の空間を曲げる事で斜め上の方向へ受け流す。

 ……しかし、なんて魔力量。管理局に聞いた前情報だと、『条件付きSS』クラスだとか。

 今はそれにジュエルシードの魔力を上乗せしてるようだから、魔力の出力だけなら測定不能に近いだろう。

 

 ちなみに、高町とフェイトのクラス推定はともに『AAA』らしいから、戦闘の巧さは別として単純計算でも二つ上のスペックということらしい。

 

 傷一つ負わない僕たちに、プレシアは目を細めて苛立たしげにこちらをにらむ。

 

「……いったい、貴方は何なの?」

 

 ……うん。まぁもっともな疑問だろう。

 

「私の攻撃はどれも、SSクラス以上の攻撃だったはず。さっきの砲撃はSSS+の出力は出ていた……私のようにジュエルシードでも使わない限り、個人で傷一つ防げるような物じゃ無かったはず」

 

 僕がジュエルシードを使ってないのは、プレシアなら分かっているだろう。

 …………頃合いか。僕はチラリとアリサに視線をやって、前に向きなおる。

 

 

「――――少し、説明をしようか」

 

 

 僕は構えを解いてプレシアを見つめ返す。

 

「僕たちとそちらの魔法の系統が根本的に違うのは把握してると思うけど、根本的な違いは魔力の使い方。そちらの魔法は自分を魔力のタンクに見立て、そのタンクに付いた蛇口から魔法を放つ……っていう認識で大丈夫?」

「ええ。タンクが『魔力総量』、付いている蛇口から出せる瞬間の水量が『魔力出力』と言えるでしょうね」

 

 プレシアが話に乗ってくるのは、僕が積極的に攻めて行かないと分かっての時間稼ぎというのも有るのだろうけど、自身が研究者っていうのも有るのだろう。

 あわよくば、僕の技術を盗んでアリシアの蘇生に活かそうとも考えているのだろうし。

 フェイトがこちらに来るまでのちょっと掛かるだろうから、時間稼ぎはこっちとしても歓迎で別にいいのだけど。

 

「対する僕たちの魔力の使い方は……そう、自分の魔力を『着火剤』として周囲の自然にある魔力を『燃料』にして、魔法(ほのお)にする感じ」

「まさか、そんなことが可能なわけ――――いえ、収束系の術式を自己の散布した魔力じゃなく、効率度外視で周囲に有る魔力全てと捉えればあるいは……」

「勝手に続けさせてもらうけど……。当然、僕たちの方式だって限界はある。自身の魔力を一度に多くつぎ込んで、周囲の魔力をさらに多く運用しても、現れる“魔法――炎――”を御しきれなければ意味がない」

 

 プレシアと同時に、アリサに言い聞かせるように分かりやすい言葉を選んでいく。

 

「無論、僕たちの過去の偉人たちも、色々なアプローチを考えた。

『自分たちの魔力――着火剤――の質を上げれば良いのではないか?』

『周囲の魔力――燃料――の効率的な運用を行える方式を生み出せば良いのではないか?』

『よりよい魔法――高温の炎――を生み出すべきではないか』

それこそ、それぞれの流派、国、歴史で無数の考えがあった」

 

 『高品質の杖――火炎放射機――を開発し、炎を制御する』なんてのも、その一部と言えるだろう。

 

 そこまで話したところで、広間の天井が壊れ、その穴から人影が飛び出した。

 

 高町とユーノに黒服、そして――――フェイト。

 ……なぜか黒服の髪型がスゴいことになっている、ボーンッって感じ。

 

「――――よく来た」

「――――うん」

 

 万感の思いを込めて、フェイトに言葉を投げる。

 凛々しくバルディッシュを構えていたフェイトが相好を崩してはにかみ、僕に頷きを返してくれた。

 僕の指示通りおすわりの体勢――人型である――で座り込んでいたアルフがフェイトに駆け寄った。

 

「フェイトっ!」

「……うん、アルフ、心配かけてごめんね? 私はもう大丈夫。ジークに、背中を押してもらったから」

 

 ……ふむ、大勢は決した。

 

「フェイト、少し待ってて。プレシアと話を終わらせる。……黒服は髪型なんとかしろ」

 

 アフロ(?)で真面目な顔しつつ何か言われても反応に困る。

 高町とユーノは黙って僕の様子を伺っている。口を挟むと僕が怒ることを理解しているようだった。

 

 

後編へ続く




 拝啓、読者の皆様方へ

 桜の花が開き嘘の飛び交う今日という日、皆様いかがお過ごしでしょうか?

 貴方がこの後書きを読んでいるとき、私はもう既にこの世(シャバ)にはいません。
 更新予定は『予定が未定』を地で行くスタイルで、皆様にはいつもご迷惑をおかけ致しました。謹んでお詫びいたします。

 以前、私が『内定決定祝い』と称して、連日投稿したことがありましたね。特に明言してはおりませんでしたが、私の就職先はとある都道府県警です。
 その都合で私は本日付で警察学校での生活となり、同時にケータイを含む電子機器類の持ち込みも制限されるため、執筆が非常に困難な状態となります。

 ですので、残念ですが本作の更新は凍結――――






























――――するとでも思ったかッ!

 ご安心ください、警察学校に監禁されることを踏まえて、ストックを作って置きました!(更新が遅れた原因
 毎月15日(無論今月も)の12:00~14:00に投稿するよう、予約を掛けました。ですが流石に感想はすぐに返せません、休暇の際に纏めて見させて頂く形となります。
 それだけはご承知いただけると幸いです。

なお、今回の話は前後編です。
半端なところで切ってしまって申し訳ない…。後編が投稿され、しばらくしたら統合するかもです。

>じゃあ黒服飛び込んでみろ、僕の魔法で救助できるか試す
主人公は鬼である

>他の兵の3倍くらいの早さでスラスター移動で突っ込んできた奴
赤い彗星、頭部に角が生えている。

>魔力刃の柄から刃が伸びて通路を塞ぎ、そこに突っ込んできた黒い機械兵が細切れに分断された
イメージは劇場版バイオハザード(タイトル忘れた)の一場面。

 魔法・魔法概念に関する説明は、一応本文だけの説明にとどめておきます。
 その点に関して疑問質問などありましたらご連絡ください。

では、短いですが今回はこの辺で。

ご意見ご感想、誤字脱字報告など有りましたら、感想欄からお願いします。
 ……作者への激励も貰えたりすると、とても喜ぶかもしれません。(感想を見れるのは、恐らく5月半ばですが……

追伸:R18版はちょっと待っててください

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