魔法少女リリカルなのは ~若草色の妖精~   作:八九寺

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私を起こさないでくれ、死ぬほど疲れてる。
クリスマスも正月もバレンタインも無かったんや……

年末のバイトラッシュから、そのまま卒業のかかった期末考査が1月末まで。
2月前半は東京から地元への引越しを行い、半ばはその流れで海外旅行。
そしてストレスと過労が要因で精密検査に引っかかると言うダブルアタックで今に至ってます、はい。

基本、感想返しは時間の有るときか次の話の投稿前後に纏めて返す形になります。

なお、今回の正月企画『続きはよ!』無事達成いたしました。
唯一の誤算は、達成までの期日を定めなかったことと、予想以上に達成が早かったこと……あれ唯一じゃねぇ。

R18の続きに関しては、正月特別版のあとがきに詳細を書いてありますので、しばしお待ちを。

たぶん、3月頭前後になりそう(忙しい

50件超の感想を一気に返信したせいで、両手が軽く腱鞘炎気味w




41:時の庭園~前哨戦~ (あとがきにてPSPシナリオに関する告知有り)

41:時の庭園~前哨戦~

 

 

『よく調べたわね……私の目的はただ一つ、アリシアの蘇生だけ』

 

 プレシアのフェイトを見る目は、娘に向けるものどころか、人に向けるものですら無い。

 

『でもダメね。ちっとも上手く行かなかった。まがい物の命は所詮作り物。アリシアと同じ体と記憶を与えたのに、その人形はアリシアの持っていなかった魔法資質を持っていた。利き手すら違う』

 

 フェイトと繋がれた手が、痛みを感じるほどキツく握りしめられる。

 

『手に入れた、たった8つのジュエルシード。これだけでアルハザードにたどり着けるか分からないけれど……。でも、もういいわ。これで終わりにする。

 アリシアを亡くしてからの陰鬱な時間も、その身代わりの人形に記憶を与えて娘扱いするのももう終わり。

……分かっているわよね、貴女のことよ――――フェイト』

 

 僕はプレシアの物言いに内心で舌を打つ。

 

「……バカめ」

『あぁ、貴方がフェイトの言っていた“強い男の子”かしら……それは、どういう意味?』

 

 濁りきった瞳でこちらを見たプレシアを、僕は真っ向から見つめ返す。

 

「同じ体を作って、同じ記憶を与えれば同じ人間になる……? そんなわけがない。

 剣の、武術の稽古は基本的に“型”を覚える所が基本。『知識』でも『理論』でもなく、反復練習で体に『経験』って形で覚え込ませる。記憶を失っても、剣の型は覚えてる……そんな奴だって見たことある」

 

『理論上は問題無いはずなの。だけど確かにその人形はアリシアじゃなかった、でも私の代わりに自由に動ける便利な人形が手に入ったと思えばいい。私はジュエルシードを使ってアルハザードに行き、その秘術でこの肉体を元にアリシアを蘇生させる……!』

 

 どうなろうとも、『アリシア』を蘇らせたいのか。妄執と言うべき……なんだろう。

 

『ねぇ貴方……私と手を組まない?』

「「「「!?」」」」

 

 アースラの管制室全体が、ザワリと確かにどよめいた。

 全員の視線が僕を射抜く。

 

 周りの視線を気に留める事無く問い返した。

 

「……理由を聞いても?」

『単純な話よ。私はより多くのジュエルシードを使って、確実にアルハザードへと至りたい。貴方のジュエルシードと併せて、アルハザードにたどり着けばこちらのモノ、アリシアを蘇らせたら貴方の願いをなんだって叶えてあげるわ。……どう? 悪い条件じゃ無い――――』

 

 隣で何か言おうと一歩踏み出したアリサを片手で遮る。

 

「――――オーケー、概ね理解した。確かにジュエルシードを使えば大抵の願いは叶う」

『そう、なら話が早いわ。理解が良くて助かる――――』

 

 

「――――だ が 断 る」

 

 

 僕の返答にプレシアは目を見開いて沈黙し……信じられないと言いたげに首を振った。

 

『……理解に苦しむわね、何でも願いが叶うのよ? 貴方にだって願いは有るでしょう?』

「もちろん。……でも、僕のこれはもう叶えるべき“願い”なんかじゃなくて、向かい合うべき“後悔”だから」

『言ってご覧なさいな、貴方一人程度の願い、私に比べれば――――』

 

 

「――――僕の願いは(こきょう)の再生。内訳は人口約5万弱並びに彼らの生活基盤及び財産すべて、なお死体も土地も遺品も、(ちり)一つ残ってない。……ねぇ、こんな願い叶うと思う?」

 

 

『…………』

 

 僕の言葉に、画面の向こうのプレシアだけでなく、こちらの管制室も痛いくらいの沈黙に包まれた。

 

「沈黙は否定と取らせてもらう。……プレシア、僕が言えた事では無いけども、無くしたモノも過去も戻らない」

『……黙りなさい』

「過去を振り返るのは悪くない、だけどずっと過去をみている訳にも行かないのも事実。……僕達が居るのは今というこの日この時なんだから」

『黙れ、黙れ、黙れッ!』

 

 僕は一歩下がると空いてる手でアリサの手を取り、握りしめる。アリサが僕のいきなりの行動に、ちょっと慌てたようだけど、すぐに握り返してくれた。

 僕はチラリとアリサに視線を投げて画面の向こうのプレシアを見返した。

 

「……プレシア、僕は未来(まえ)を見る理由――アリサ――を見つけたぞ?」

『黙れと言っているでしょう!』

 

 息を荒げ、目に怒りの色を(たた)えながらプレシアが怒声をあげた。

 

『私は、私にはアリシアしか居ないの!』

「……そ。まぁ交渉は決裂と言うことで」

 

 この件に関して、これ以上の交渉は無意味か。

 

 大声を出して我に返ったのか、呼吸を整え、見た目だけは落ち着きを取り戻したプレシアが、フェイトに向けてトドメの一言を言い放った。

 

『私はね、フェイト……貴女のことがずっと大嫌いだったの! アリシアが戻る目処が立った以上、貴女はもういらない。何処へなりとも消えてしまいなさい!』

「……ぁ」

「フェイト!」

「フェイトちゃん!?」

 

 その言葉がよほどの衝撃だったのか、あるいはこれまでの暴言の蓄積なのか。

 崩れ落ちるフェイトに、アリサと高町が反射的に声を上げた。

 フェイトの膝がカクンと折れて倒れ込みそうになるのを、僕は上手く受け止める。

 

『私たちは行くわ。失われた都、アルハザードへ!!』

 

 その言葉を最後に、映されていた画面が消えた。

 

「艦長! 時の庭園内より次元震発生! 30秒後に本艦に到達します!」

「ディストーションフィールド展開! 衝撃に備えて!」

「ダメです! さっきの武装隊の転送で落ちた出力が回復していません、ディストーションフィールド展開不可です!」

「――――ッ! 私が展開するわ!」

 

 言うが早いか、背から羽根を出現させた艦長が、何らかの障壁を展開させたのが感じられる。

 

「む、艦全体を次元震を防ぐ障壁で守ったか、見事」

 

 僕はわりと心からの賞賛を艦長に掛ける。

 あくまで“相殺”じゃなく“防御”だから、僕の物よりは劣るのだけど、あの状況でこれだけ張れれば十分以上に及第点。

 

「……ま、アントワーク君のやったことに比べたら劣るけど…………艦長だもの、これくらいはね?」

 

 そう言いつつこちらにウィンクして見せてはいるものの、そこまで余裕が在りそうにも見えない。現に彼女の頬を一筋の汗が伝って落ちた。

 

「でも……マズイわね。エイミィ、魔導エンジンの出力低下が改善されるまで何分?」

「整備班からの連絡によると……2時間です!」

「く……っ。ユーノ君、アントワーク君、二人は転送魔法が使えると思うけど、この時空震が発生してる状態で、転送ポートに頼らない個人レベルの転送は可能?」

「つ、通常状態ならともかく、この状況じゃ安全を断言できません」

「そう、……アントワーク君は?」

 

 ……ふむ。

 アリサに『ちょっと黙って見てて?』『わかったわ』と念話で言葉を交わす。

 

「可能、安全も保障できる。人数も10人くらいまでなら確実に」

「――――! 

 …………アントワーク君、管理局の提督として、庭園への転移を含めて事件の解決に協力を要請することは可能?」

「問題ない。ただし、見返り無しには手伝えない」

 

 僕の反応に、黒服が声を荒げた。

 

「君は状況が分かって言ってるのか!?」

「もちろん、これ以上無いくらいには」

「ならば見返りなんて言ってる場合じゃ――――」

「――――僕としては、別に手伝わなくてもいい事案だもの」

 

 その答えに黒服が絶句するが、すぐに僕へと言い返す。

 

「この次元震をどうにかしないと、次元断層が発生して第97管理外世界……君たちの地球だって滅びるかもしれないんだぞ!?」

 

 予想通りの言葉に、僕は鼻をフンと鳴らして黒服を見返し言い放つ。

 

 

「次元断層が発生したって、僕たちの世界だけ守ればいい話だもの。元凶を断つか、起こった断層に対処するかの違い」

 

 

 『そっちに協力するメリットは無いんだぞ?』と暗に告げてみせる。

 まぁ、この星を助ける代わりに知らない世界が滅びます~とか実際にそんなことしようもんなら、アリサに怒られる気がするからやれないけど。

 

 

 だけど『仕事には相応の対価を』だ。ここで助けて、後々ずっと頼られるもの癪だし。

 

 

「クロノ、構わないわ。こちらが一方的に負担も責任も押しつける形だもの。けど、この状況じゃ管理局本局に通信もできないから、あくまで“私の立場で出来る範囲”の見返りでも、構わないかしら」

「ん、それでいい。契約成立、証人はここにいる全員とデバイス達」

 

 ちらりとアリサを見てみたら、ケータイの録音機能をオンにして、一連のやりとりを撮っておいてくれたらしい。

 『どやぁ』という顔でこっちを見てたので、『あとでご褒美』と伝えておいた。小さくガッツポーズをするアリサを見守りつつ、僕は周りに宣言する。

 

「転移は20……いや、15分後。場所はこの艦の転送ポートから、問題は? じゃあ、状況開始」

 

 僕の言葉に、周囲の面々が準備に動き出す。

 さて、僕も時間までにフェイトを何処か、寝かせられるところに移動しよう。

 

 

◇◇◇

 

 

「ん……と」

 

 僕は抱いていたフェイトを、艦長に指示された医務室のベッドへ寝かせた。

 この部屋にいるのは、僕とフェイトだけ。管理局側は先の戦闘で負傷した部隊の治療や突入準備、アリサはアルフに呼び留められてここにはいない。

 

 寝かせたフェイトの様子を見てみるけども、茫然自失といった感じで開かれた目は、何も映していない。

 

 ……ま、反応を返せる心境に無いだけで目も耳も聞こえてはいるのだろうけど。

 ……そうじゃなきゃ、いまから僕が話すことはただの独り言だ、恥ずかしいにもほどがある。

 

「ねぇフェイト、フェイトがいま気に病んでるのは『プレシアから不要とされたこと』と『自分がアリシアを模して作られた存在』……ってことだよね?」

 

 僕の見立ては概ね間違ってはいない……はず。

 ああもう、こんな心神喪失状態じゃなく、泣き叫んでくれてた方がよっぽどマシだ。

 

 僕はフェイトを寝かせたベッドに腰掛け、手を握りしめる

 

「まずは第一点、プレシアに嫌悪されてる事に関して。……僕の私見を言うなら、残酷だけど仕方のないこと。『血は水よりも濃い』なんて言葉はあっても、互いに自己のある生命だもの、どうしたって好悪は存在しちゃう。

 歴史書を紐解けば、子供が親を殺す事もその逆もある。

 親が子供を愛しても、子が親を愛するとは限らない。子が親を愛しても、親が子を愛すとは限らない」

 

 

 …………かく言う僕も理由はどうあれ“親殺し(・・・)”なのだから。

 

 

「――――でも、これは時間や会話で解決できる事もある。プレシアに“嫌悪されている”事を甘受するか、それを改めてもらうよう頑張るか……それはフェイト次第」

 

 一つ目に関して僕が言えるのはこれくらい。

 ――――さて、次が僕にとっても本題だ。

 

「次に第二点、自分の出自に関して」

 

 僕は指を二本立ててみせながら、フェイトの反応を伺うが……無反応か。とりあえず気にせずに話を続ける。

 

「自分が作られた存在で、全うなニンゲンじゃ無いかもしれない……その点で気に病んでいると思うのだけど」

 

 フェイトの手を取り、僕の顔に当てさせる。フェイトの手からは、確かに血の通っている温かさが感じられた。

 ……まぁ、これで違和感に気づけるわけもないか。

 

 僕はそのままフェイトの手を下に誘導し、首筋を押さえるような位置に滑らせる。

 何の反応も見せなかったフェイトの瞳が、無表情ながらもわずかに疑問の色を帯びた。ただ、その疑問の理由は分からなかったらしい。

 

「ねぇフェイト、僕の体から……鼓動は感じられる?(・・・・・・・・)

 

 首筋に当てた手はそのままに、僕はベッドサイドの棚に置いたバルディッシュに声をかける。

 

「バルディッシュ、今の僕からは生体反応……出てないでしょ?」

『……Yeah』

 

 気のせいか、バルディッシュの機械音声も何処となく固く感じられた。

 

 今の僕の服の下には、血の通った実体のある肉体が無い。

 あるのは半透明の肉体の輪郭のみだ。

 

 僕は念のためバルディッシュの記録に残らないよう、フェイトの耳元に口を寄せる。

 

 

「今の僕はね、細かい説明抜きに表現すると『生命』じゃなく『魔法』そのものになっている。……フェイトは前に街で次元震を起こしたジュエルシードを僕が抑えたときに思わなかった?

 『“人間が、セカイを揺らすようなモノと対等な魔法を放てるはずがない”』

 って」

 

 

 フェイトの目が、確かにこちらに向いてることを確認し、僕は話を続けていく。

 

「生身で操作できる魔力を超えた魔法は使えない、ならば自分が肉体を捨てて『魔法そのものに昇華してしまえばいい』。そんな揚げ足取りみたいな理論を実践してるのが今の僕だ」

 

 まぁ、僕の生まれやら何やらがそんな無茶を許している理由では在るのだけど、いま説明する時間も無い。

 

「細かい話は後で話してあげるけど――――作り物だろうが何だろうが、僕と比べればフェイトはよっぽど人間さ。

 後悔は後からでも出来る。事が終わったら、泣き言だろうが懺悔だろうが、フェイトの話に付き合ってあげる。だから――――」

 

 僕はフェイトの手に魔法を込めた指輪を握らせる。これを使えば一人でも、時空震を気にせず時の庭園まで来れるだろう。

 

「――――今は前だけ、見ればいい」

 

 最後に一度、強くフェイトの手を握ってから離すと、僕は医務室を後にしたのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

「待たせた?」

「いま来たところよ」

 

 集合場所へ向かった僕に、代表でアリサが答えた。……なぜか、言った後でアリサが両頬を押さえて悶えている。

 そんなアリサに首を傾げつつ、僕はこの場に居るメンツに目をやる。

 

 アリサにアルフ、高町・ユーノと管理局の黒服の計5人。……まぁ、戦闘メンバーのほとんどは先の突入で戦闘不能だし、こんなものか。

 

「『我が杖よ、我が(よろい)よ』!」

 

 眼前に現れた因縁の斧槍杖『ユグドラシル』を掴み、フォンッと風を切るように回転させて両手で持つ。

 以前の街中でのジュエルシードの時と違うのは、久しく身につけていなかった鎧を身につけたことか。

 

 ドラゴンの(かわ)を素材に、動きを妨げないよう極力最小に抑えた胴体全てを守る、黒い艶を放つ革鎧。それに胸部などの急所を聖銀製の追加装甲で防御。

 これに肩当てと両前腕を覆う金属製の手甲を追加して完成だ。左腕の手甲は、防御にも用いるので一回り大きい。

 

 重さはどうにでも出来るから、全て金属鎧にしたほうがいいのだけど、金属鎧は成長期の体に合わせて調整するのが大変だから、その点で楽な革鎧なのだ。

 金属操作系の魔法で何とか出来なくも無いのだけど、大きくしたぶん薄くなって本末転倒になる。

 ドラゴン革なので、下手な金属鎧よりかは丈夫で、柔軟性もあるから嫌いじゃないのだけどね。

 

 久しぶりの戦装束だけども、……んむ、やはり馴染む。

 

 

 ――――さて、逝くか。

 

 

「アリサ、アルフ心の準備は?」

「準備万端、いつでも来なさい!」

「同じく!」

「よし、その他3名、行くぞ」

「「「……扱い酷くないか?(の!)」」」

「五月蠅い、転移は気を使う。おとなしく運ばれろ」

 

 転移先の時の庭園、時空震が絶賛発生中と。

 まずは時空震抑えて、転移の確実性を上げるか……。

 ――――まぁ、抑え方なんて一つしかないけど。

 

「『我が杖よ』」

 

 ――――さて、下手すると今度は無事に戻れないかもなぁ。

 数週間前の街での暴走時以上に、魔法へと置き換わっている自分の体の調子を思い……その雑念を振り払う。

 

 

「『紅き太陽、青の月、金の大地に翠銀の風。翠緑の風となり大地を馳せた旧き精よ、その末裔たる(われ)(こいねが)う』」

 

 

 僕の周囲の空間が、僕から溢れる魔力によって陽炎のごとく歪んでいく。

 ……魔力の出力の高まりが早い、1週ないしは半月位前に一度発動したばかり……無理もないか。

 

 

「『今この時この場所で、我は人でいられるか、……(いいや)』」

 

 

 フェイトを“人間”で無く“人形”と呼び捨てたプレシアをの計画を、“人間”から“人外”になる僕が邪魔をするっていうのは……皮肉だろうな。

 

 

「『――――我が名はジーク・ゴスペリオ・アントワーク、“翡翠の福音”の血を継ぎし者、ヒトとの狭間に生きし者』」

 

 

  背中からは3対6枚の羽根の形をした翼、体からは泉の水のようにこんこんと魔力が溢れ出る。

 

 自分の手を見ながらにぎにぎと動かし、きちんと実体があるか確かめた。

 

 まずは転移の間だけ、一時的に次元震を押さえ込もう。完全に押さえ込むのは震源である現場へ行ってからだ。

 逆位相の次元震を発生させて、この艦船周囲の空間を安定……よし完了。

 

「さて、行こう」

 

 振り返って見回してみたら、管理局ご一行の3名は唖然とした表情で、逆に初めて僕のこの姿を見たアリサは『なんかすごい、羽根生えてるし!』と僕の背中の羽根に手を伸ばしかけている。

 試しにふるふると震わせてみたら、ビクゥッと体を跳ねさせて手を引っ込めた。

 

「……いや、話には聞いていたが、次元震を防御じゃなく相殺だなんて、実際に見ても信じられん」

「信じるも信じないも勝手にすればいい」

 

 再度手を伸ばしていたアリサをデコピンで迎撃しつつ、腕を一振りして転送陣を展開する。

 

「転移――――時の庭園」

 

 ――――戦闘、開始。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 転移した僕たちを迎えてくれたのは、整然と隊列を組んだ無数の機械鎧の兵士たちだった。

 

「いっぱい居るわね……腕が鳴るわ」

「うわー……ユーノ君、あれって中身は――――」

「――――大丈夫、中身は機械だから、手加減せず壊して平気だよ」

「機械兵か……いずれもAランクかそれ以上、まったくよくもここまで揃えたもんだ」

 

 意気込んで杖を構え直す二人とユーノを制し、僕が前にでる。

 

「僕がやる」

「ちょ、私にも手伝わせなさ――――」

「――――僕に任せて。アリサはフェイトとの戦いで勝ってみせた。なら師匠の僕もいい所見せないと、立つ瀬が無い」

 

 手を伸ばし、アリサの頬に触れて微笑んでみせる。

 僕の師匠も、僕が腕を上げたと思ったときは、更に高みの技を見せて、次なる到達目標を作ってくれた。

 

 ならばその弟子である僕も、弟子に対してそう()ろう。

 

「う、うん」

「(顔赤くして、恥ずかしそうなアリサちゃんなんて初めて見たの……)」

 

 高町が愕然とした表情でアリサを見て何かつぶやいていたが、関係なさそうだったので聞き流す。

 僕が元いた世界にも、形は違えどもこうやって使役するタイプの傀儡(くぐつ)の兵は存在する。

 

「アリサ、僕がアリサにこれまで教えた技は、良くも悪くも1対1に特化させた力任せ。こういう数に物を言わせた相手には手数で負ける」

 

 前に出て、ユグドラシルを大きく一度回し、その石突きをスピードをあげてこちらに迫る敵へと向ける。

 剣を握れないから本式の技ではないけども、斧槍でも刃物ではあるから技の本質は変わらない。

 

「倒し方は色々あるけど、たぶんこれが一番速い――――」

 

 普通に振っては刃の届かない位置だが、この技はその例外。

 何故なら、これは物理的に刃で裂く技じゃないからだ。

 

「――――アルカディア騎士団流魔法剣闘術、特型 壱の太刀『傀儡(くぐつ)斬り』」

 

 構えたユグドラシルを真横に一閃、薙ぎ払いに併せて空間が波打った。

 こちらへ突進を仕掛けてきた部隊が、鎧の隙間から黒煙を噴いてそのまま崩れ落ちる。

 

「「「な!?(にゃ!?)」」」

「堅い装甲を持つ敵は、内部を狙って壊す。この技はこういった機械兵の中の核の魔法の流れを斬り壊し、暴走させて自壊させてる」

 

 もう一度お手本を見せるつもりで、今度はこちらから踏み込んでもう一閃。

 次は奥に控えていた部隊が同様に崩れ落ちた。

 

 今の二振りで4割は削ったのに、追加でその倍が魔法陣から出現した。

 数で一気に押そうとしたのか、全てが僕めがけて走り出す

 

 お手本はこれくらいで十分だろう。

 あとはただ駆逐するのみ。

 

 

 ――――空間指定、『前方15mから50m、幅30m高さ4mの直方体』。

 ――――分割指定、『上下に二分』

 

 

 「――――秘剣、『空裂(からわれ)』」

 

 僕は再度、ユグドラシルを横薙ぎに一閃した。

 次の瞬間、優に80を越える機械兵の下半身が停止、“斬線に沿って綺麗に分かたれた”上半身だけが慣性に従って進み……爆発した。

 

 ここからでは見えないけど、機械兵の切り口は鏡のようになめらかなはず。

 

 爆風と破片が後ろのアリサ達に飛ばないよう、障壁を張って防ぎきる。

 

 追加の兵力は……無し。

 

「片づいた、侵攻開始」

 

 僕はユグドラシルを肩に担ぐと、そのまま悠々と歩き出すのだった。

 




 お待たせしました、難産だった41話です。
 個人的に、もうちょっと上手い表現があったと考えつつ、更新を先延ばしにするわけにもいかなかった……
 あとで細部を手直しするかも知れません。

 また、お正月企画、無事に達成いたしました、有難うございます。
 詳細はお正月特別編のあとがきに記載しております。(文字数の関係上

 質問があったのでこの場でお答えしますが、本作は劇場版とTV版をミックスしつつ編集しております(ホントに今さら
 バリアジャケットなどヴィジュアル面の設定は、劇場版準拠でやっております。

 また、以前アンケートをとりましたPSPシナリオに関してですが、結果を発表いたします。
 結果としましては、執筆決定・本編とのリンク有り・メインヒロインはシュテルと相成りました。(数え間違いは無いはず…
 票をゲットしつつも選考から漏れたヒロインに関しましては、作中で多少の砂糖成分を入れる予定です、ご了承を。

 では、以下いつもどおりの説明など。

>利き手すら違う
利き手は3~4才くらいで決まるらしいです。

>「――――だ が 断 る」
元ネタは『ジョジョの奇妙な冒険・第4部』の登場人物の岸辺露伴のセリフより

>……ねぇ、こんな願い叶うと思う?
→Q.過去に戻れないの?
→A.主人公の世界の法則だと、どんなに膨大な魔力を使っても過去には戻れない。

>貴女はもういらない。何処へなりとも消えてしまいなさい!
よく覚えておこう、伏線である

>さっきの武装隊の転送で落ちた出力が回復していません
主人公のせいで、割と甚大な被害を受けているアースラであった

>私が展開するわ!
原作と異なる点として、フィールド展開に伴い、艦長がアースラへと釘付けになります。

>「む、艦全体を次元震を防ぐ障壁で守ったか、見事」
NGシーン
主人公:『さすが僕たちより年食ってるだけの事はある』
艦長:『あ゛ん?』

>「問題ない。ただし、見返り無しには手伝えない」
一度タダ働きすると、付け込まれますからね。
どんどん貸しを作っていくスタイル

>ちらりとアリサを見てみたら、ケータイの録音機能をオンにして、一連のやりとりを撮っておいてくれたらしい。
アリサさん、マジ有能
>(アリサが)『どやぁ』という顔でこっちを見てたので
可愛い(確信

>剣の、武術の稽古は基本的に“型”を覚える所が基本。『知識』でも『理論』でもなく、反復練習で体に『経験』って形で覚え込ませる。
 運動記憶とかそういった部類の話になります。私は文系で脳科学専門では無いので、本作ではそういうものだと思っていただけると幸いです。

 どうでもいいことですが、
 『記憶が無くても体は覚えてるんだよ』
 って台詞がエロく脳内変換された人……それは私です。年齢×10回の腹筋に励みましょう。

>僕はそのままフェイトの手を下に誘導し~
この誘導先が下半身だったらR18展開だっ(ry(このコメントは粛清されました)

>『生命』じゃなく『魔法』そのものになっている
個人的なイメージは、三田誠先生の『レンタルマギカ(角川スニーカー文庫)』内の『魔法使いが魔法になる』という感じ。
レンタルマギカは、私の初めて読んだラノベでもある愛読書。

>フェイトの手に魔法を込めた指輪を握らせる
ここで左手の薬指に嵌めてもらっていれば、正ヒロインルート一直線だった。
フェイトの意思に応じて、自動転送する優れもの。効果は使い捨てだが、指輪は残る(意味深

>――――今は前だけ、見ればいい
なのはStsの挿入歌『Pray』の歌詞の一節より。
『Pray』という曲名を見て、野球選手名のアレを連想した者は年齢×10の腹筋。

>「待たせた?」
>「いま来たところよ」
場所と持ち物が良ければ、デートの台詞である。

>――――僕に任せて。
クロノの出番を積極的に奪っていくスタイル

>たぶんこれが一番速い
元ネタは『多分これが一番早いと思います』
とあるTAS動画で生まれた名言。なお、私はリアルタイムでこの変遷を見ていたw

>――――秘剣、『空裂(からわれ)
主人公の特殊状態時限定の中級必殺技。
指定した空間を問答無用で叩き斬る

以上、説明etcでした。
その他説明が欲しいところありましたら、ご連絡いただけると幸いです。

主人公のステータスとか、需要あるんだろうかと思う今日この頃。

誤字脱字・ご意見ご感想などありましたら感想からお願いいたします。


また、最後になりますが、本年もまた本作をご愛読して頂けると幸いです。


P.S:夕方更新とか言いつつ、夜の19:00になってしもうた……すまぬ、すまぬ……

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