魔法少女リリカルなのは ~若草色の妖精~   作:八九寺

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んほぉおおおおおおおお!
内定貰えちゃったのぉおおおおおおおお!
というわけで3日連続更新しちゃうのほぉおおおおおおおおおっ!!


……失礼、少々取り乱しましたが、予告通り3日連続更新です。
なお本日は1日目。


33:魔法の秘奥と交渉《ネゴシエイト》

33:魔法の秘奥と交渉《ネゴシエイト》

 

「正直に言おう。僕たちアースラは君のジュエルシードに対し行った“行為”を危険視している。正直、僕としては君の身柄を拘束すべきだとも思ってる」

 

 ……“行為”、“行為”ね。

 こういった『話し合い』の基本の定石は、相手の言葉・態度・状況から内心を推測し動く事。

 

「その言いようだと、僕のやったことがなんだか理解できてないと思うのだけど」

「……推測はたっている、と言っておく」

 

 色々と感情が入り交じっているせいか、黒服の表情からは内心が読みとれない。

 

「ふぅん、聞かせてもらっても?」

「……ウチの観測班から貰ったデータを見ての推測だ。あの時、次元震は二つ発生していた。一つはジュエルシードを起点に、もう観測班を信じたいし、言ってる僕自身信じられないが……お前は“次元震に次元震をぶつけて相殺”したんだろう」

「……ふん」

 

 管理局とやらの技術力、そして黒服の洞察力に対する認識を一段階改める。

 思ったほど無能ではないらしい。

 

「その反応から見るに、合ってるのか?」

「一つ訂正するなら、時空の揺れを真っ向から力技で相殺したんじゃなく、逆波長の揺れをぶつけて相殺した高等技術なんだけど……まぁ結果は同じだからいい」

 

 強いて言うと、前者じゃこの世界に被害が及ぶだろうし、僕も生きて今この場にはいない。

 それを聞いた黒服が呻くが、知った事じゃない。

 

「正直、今こうして直接聞いても半信半疑よ。人間が単独で次元震を、しかもそれを細かに制御して発生させたなんて」

「信じてくれなくてもいい、別に困らない」

「魔法の詳細に付いて、詳しく聞かせて貰っても?」

「残念、これは僕の秘奥の技。それに教えても再現なんて出来るはずない」

 

 は、と鼻で笑って返す。

 

「……信じられない」

「ユーノ君、これもやっぱりスゴいことなんだよね?」

「うん。どんな術式を使えばそんなことが……」

 

 顎に手をあて、しかめっ面のユーノ。

 何となく、気まぐれでヒントを出すことにした。

 

「ユーノ、それ違う」

「え?」

「厳密には“魔法を使った”んじゃない、魔法を発生させはしたけど」

「え、一体どういうこと?」

「教えてあげるのはソレだけ、後は自分達で考えて。答え合わせはしてあげる」

 

 この件はこれまで。そうここの艦長に目で伝える。

 承知してくれたようで、彼女が仕方ないと言わんばかりに渋々とうなずいた。

 

「ジークさんの魔法についてのお話の続きは、また今度にしましょ。いいわね、クロノ執務官?」

「……はい」

 

 黒服が恨めしげに僕を見てくるが、華麗に気づかぬ振りで無視。

 僕は素知らぬ顔で、出されたお抹茶を啜るのであった。

 

 

◇◇◇

 

 

「さて、用がないなら僕はもう帰るけど?」

 

 腰を浮かせかけた僕を、眼前の二人があわてて制止する。

 

「待て待て! このジュエルシードの件に関して、3人に伝える事がある!」

「申し訳ないのだけど、これが最後だからもう少しだけ付き合って貰えないかしら?」

「……さっさと済ませて。弟子を心配させたくない」

 

 浮かせかけた腰を再び座布団へおろす。

 

「すぐに終わるわ。この事件に関しての話よ、クロノ?」

「はい、艦長。……これ以降、この事件は時空管理局が全権を持って捜査する。君たちは今回の事件から身を引いて、一般人として元の生活に戻ってくれていい」

 

 裏表の無さそうな、真摯な態度での言葉。

 出会ってからそうは経っていないけど、これまでの話し合いで黒服が余り交渉事で感情を隠すことに長けてないことは分かった。

 僕はともかく、一般人の白服をこの件から離したいというのは本心なんだろう。

 

 だからこそ続いて話された艦長の言葉に、僕は不信感を抱かずにはいられなかった。

 

「まぁ急に言われても、気持ちの整理が出来ないでしょう。今夜一晩、ゆっくりと話すといいわ。その後で改めてお話しましょう」

 

 優しい笑みを浮かべての言葉だが、内面で何を考えているのを察した僕は、彼女に向ける視線の力を強めた。

 一晩なんて時間を与える必要はない。

 仮にも“時空管理局”なんて大層な名前を名乗る治安維持組織(?)――さらには法定組織でもあるらしい――だ。そんな組織が『考える時間を一晩与える』なんていうのはおかしい。

 

 黒服のようにに元の生活へ戻るよう言って、聞かないようだったら一時的にデバイス(?)を取り上げてでも不介入を命令すればいいのだ。

 時空に影響を与えるような、下手を打てば命に関わるだろう事柄に一般人を踏み入れさせるべきではない。

 

「……一晩なんて時間、与える必要ないだろうに」

 

 これまで見た感じ、白服は無駄に責任感が高い。そして幸か不幸か腕はともかく人並み以上の、天賦の才といってもいい魔力量。

 かくいう僕は言わずもがな、相手から見れば未知の魔法で次元震を相殺する者だ。

 

 十中八九、これは誘導なのだ。

 僕たちから『協力をしたい』と言わせ、あわよくば取り込むための。

 

「え、どういうこと?」

「簡潔に言うとこの人たちは、この件に僕たちから自発的に巻き込まれて欲しいらしい」

 

 ねめつけるように正面の艦長を睨みながら、そこまで考えが至らない白服に簡潔に説明していく。

 こういった場は初めてだろうから、流石に相手の思惑を察しろなんていうのは酷だろう。

 

 無知は罪じゃない、経験して学べばいいだけだ。

 そのあたりの心遣いは出来る。

 

「まさか! そんな事考える訳がない! そうですよね、艦長!?」

「…………」

 

 黒服の問いに、艦長は沈黙をつらぬいて答えない。

 

「沈黙は肯定と取らせていただくけども?」

「……艦長!」

 

 黒服の悲痛な声に、彼女は小さく首を振った。

 

「ごめんなさいね、クロノ。彼の言うとおり、私は彼らにこの事件の解決を手伝って貰おうとしたわ」

「……母さん」

「私はこの艦の艦長として、この事件を解決しなければいけない立場として、解決確率を高めたかったの」

「ふん、綺麗事を……。こっちが子供だから、御しやすいとでも思ったか、危険性くらい説明するのが道理だろうに。少年兵の斡旋業者にすら劣る」

 

 もはや不快な態度を隠そうともせず睨み、殺気を放ちながら舌打ちを一つ。

 

 どんなに子供であれ、自分の意志で戦場に出るなら――無論、自分の意志に関係なく戦場に立たされる者がいるのも事実だけど――それは一人前の“大人”で“戦士”なのだ。

 年下と侮ることはあれど、心の奥の最後の一線で互いに対する敬意は持つ。

 

 だけどこいつらがやったのは騙し討ちもいいところ、命を懸ける者に対する侮辱だ。

 

 険悪な僕の雰囲気に、白服とユーノは狼狽えた表情で僕たちの間で視線をオロオロとさせる。

 

「……反論のしようも無いわ」

「もはやお前達管理局と、足並み揃えて対処するつもりは無い。元々指図される言われも無いんだ、こっちで勝手に対応させて貰う。ジュエルシードが欲しいって言うなら買い取れ、力付くでも奪うってなら受けて立つ」

 

 態度や殺気だけでなく、同時に魔力の放出も始めた。

 もはや紛れもない威嚇、臨戦態勢だ。

 

 放たれた始めた魔力で、茶器に残っているお茶がさざ波だつ。

 

「僕にはこれ以上話すこともないから帰る。……白服とユーノ、お前達はどうする」

 

 いったん殺気と魔力の放出を止めて、固まっていた二人に問いかける。

 

「ユーノ君……」

「僕はなのはの決めた考えに従うよ。無責任かもしれないけど、僕が巻き込んじゃった事だから。僕はなのはの意見を全力でサポートする」

「……ユーノ君、ありがとう」

 

 二人は見つめあい、小さく笑いあった

 白服はいったん目を閉じたが、少しして何かを決心したのか、そっと目を開く。

 

「私は、私は中途半端で終わりたくない。……ううん、終われない! フェイトちゃんともっとお話しして、分かりあいたい!」

「日常には戻らない……と、それがお前の選択か」

「うん!」

 

 考えた上での結論で、決心で、決意だろう。

 思うところはあるけれど、ソレを尊重しよう。

 

「立ち位置はどうする。僕みたいに管理局とは離れるか、それとも逆か」

「……アントワークさんがさっき言ってた事は分かるの。管理局、リンディさん達が信用できないって事だよね? ……私は魔法に触れてまだほんの少しだから、私の使ってる力がどんな物なのかもよく知らないの。

……変な話だよね、自分の力がなんだか分からないなんて――」

 

 困ったようにはにかむ白服に、僕は続きを話すように促した。

 

「――……だからね、とりあえず今回は管理局さんをお手伝いしようと思うの。私が使ってる魔法が、持ってる力がなんなのか、私は役に立てるのか、知ってみたいから」

 

 ……まぁ、筋は通ってるか。

 

 出会った頃みたいに、場や状況に流されて戦いに身を投じてる訳じゃあ無い。

 

「……ふん」

 

 意志を明確に定めて戦うと決めたんだ、その在り方を認めよう。

 

「……えっと、怒ってる?」

「怒ってなんかない、お前自身が決めたこと」

 

 ……乗りかかった船、餞別代わりだ。

 最後まで面倒をみてやろう。

 

「高町なのは、――」

「え!? いま、名前……!?」

「――お前、管理局側を手伝うとして、見返りにはなにを求める?」

「……ふぇ?」

 

 質問が予想外だったのか、高町が戸惑いを浮かべた。

 分かりやすく、管理局の面子に聞かせるように説明する。

 

「本来ならこれは管理局が始末する事件で、こいつらはそういった事件を解決することが仕事。……そのあたりは理解してる?」

「え、……うん」

「なら話は早い、その仕事を手伝わせるんだ。管理局なんて大仰な名前を名乗る組織が、『彼女が自主的に』といってもタダ働きで一般人を前線で、しかも見返り無しに奉仕させる訳がないだろう」

 

 『当然だよね?』という表情を管理局側の二人に向けたら、目を見合わせたあとに強ばった表情で頷きを返された。

 

「ユーノ、こういった交渉の経験は?」

「……ごめんなさい、無いです」

「そう、じゃあ見とくといい。遺跡の発掘を生業にするなら、こういった場面に出くわすこともきっとあるから」

「えっと、私は見返りとかそういうものは別になくても……」

 

 高町がバカな事を言いそうなので、今のうちに諭しておく。

 

「自分の力を安売りしちゃ駄目。それ相応の対価も無しに力を振るうな、自分のためにも相手のためにも、後々同じような状況に出くわした他人のためにもならない。『前の人はタダでやってくれましたよ』なんて前例を作っちゃいけない。確かこの国にもあったでしょ『タダより高い物はない』って」

「え、あー、そうなの……かも?」

 

 取りあえずは納得したようなので、話を進める。

 

「待ってて。今から毟れるだけ毟りとる(・・・・・・・・・)から」

 

 

 久しぶりの舌戦だ、心が躍る。

 断言しよう、今の僕は満面の凶悪な笑みを浮かべている。

 

 

 ……ん、話し合いの結果?

 管理局の二人の顔色は蒼白を通り越して、土気色になったとだけ言っておく。

 

 

 




28話でジークが行ったことに対する(部分的な)ネタバレと、なのは組との若干の関係改善回……といった感じでしょうか。

>“次元震に次元震をぶつけて相殺”した
ジュエルシードの封印or破壊で次元震を食い止めたのではなく、次元震自体を押さえ込んだ感じです。

>厳密には“魔法を使った”んじゃない、魔法を発生させはした
おそらく、勘のいい人にはわかります。
ヒントを述べるなら、『某魔術ラノベ』といった感じ。

>今夜一晩、ゆっくりと話すといいわ。その後で改めてお話しましょう
自主的に参加してくれれば、管理責任には発展しない……。
さらには管理外世界だから、どんな扱いをしても“管理局の法(労基法的なもの)”で守らずに済む優秀な戦力の確保……不可読みすると、何処までも悪く言える不思議。

>考えた上での結論で、決心で、決意だろう。
>思うところはあるけれど、ソレを尊重しよう。
自分の意見をしっかり持って、立ち向かうならば、主人公も認めます。
当然、相容れない思考・立ち位置の際は認めた上で敵対しますが。
感想欄等で、『なのはの扱いが酷い』と何度か言われてしまいましたが、これ以降は(人並みに)改善されていきます

>毟れるだけ毟りとる
原作だと、小学校を休ませてまでジュエルシードの捜索を手伝って貰っていた管理局……。特に触れられていませんでしたが、あれはなのはの無償での助力だったと私は考えています。
ジークは契約する際、金銭面や待遇面で細部まできっちり詰める派(しかもエグい)

では、ご意見ご感想・質問などありましたら、感想ページからお願いいたします。
次回もよろしくお願いいたします。


次回予告:ジークがお風呂でラッキースケベ
ラッキースケベに会ってしまうのは、何処の誰でしょうねぇ・・・

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