魔法少女リリカルなのは ~若草色の妖精~   作:八九寺

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 3月頭のエントリーシート&履歴書ラッシュが小休止状態になりましたので、一旦投稿~。

 え、フェイトとの混浴?
 残念ながら次話へ持ち越した、異論は受け付ける。


24:鮫島の夢&なんでお前がここにいる

24:鮫島の夢&なんでお前がここにいる

 

 

「……まんぷく、まんぷく」

「……育ち盛りとはいえ、食べ過ぎな気がしないでもないですな」

「食べられる内に食べとく、それが大事なこと」

 

鮫島の言葉に、そう返しておく。

温泉饅頭を手始めに温泉卵や何やらを食べた後、〆として夕食を食べた僕だけど、決して無理してまで食べてない。

 

ちゃんと余裕を持って間食……じゃなく完食した。

今は鮫島の淹れてくれたお茶を飲みつつ、晩酌中の鮫島に酌をしてあげている。

 

「……ふぅむ、五臓六腑に染み渡りますな」

「…………おつまみもどうぞ」

「おや坊ちゃん、ありがとうございます」

 

日頃鮫島には迷惑をかけてる自覚があるので、こんな時くらいその恩を返してあげなくては……!

そんな決意を胸に、僕は鮫島に甲斐甲斐しくおつまみを勧めてあげる。

 

 ちなみに、勧めたおつまみは“ホタテ貝のひも”……非常にお酒に合う味だ。

 僕もお酒を飲みたかったのだけど、鮫島に“こちらでは飲酒は20歳以上の特権です”と止められたので我慢中。

 ……これじゃ蛇の生殺し。

 

「鮫島、杯が空。……はい」

「おっとっと……。……ふふふ」

「……鮫島?」

 

 小さく笑う鮫島に僕は首を傾げる。

 

「いえいえ。以前、旦那様と私で『坊ちゃんが来てから、息子か孫が出来たみたいだ』と話したことを思い出しましてな」

 

 む、そんな話ししてたんだ……。

 

「それと今の笑い、何か関係してる?」

「ええ、しておりますとも。アリサお嬢様は女性でございますから…旦那様も私も内心を把握しずらいのですが、ジーク坊ちゃんは同性ですので。……ここだけの話、最近旦那様が『息子がいたら、一緒にキャッチボールするのが夢だったんだ』……と、グローブとボール一式を買っておりました」

 

 ……酔ってるせいか、いつもより鮫島が饒舌だ。

 

 ……とりあえず、帰宅したらデビッドさんを、その“きゃっちぼーる”とやらに誘ってみよう。

 “きゃっちぼーる”が何かはよくわからないけど。

 僕はそう決意した。

 

 そんな風に僕が密かに決意している合間にも、鮫島は次々と杯を重ねている。

 

「坊ちゃん、私はね、嬉しいのでございますよ……。坊ちゃんが屋敷に来られて以来、お嬢様が毎日楽しそうで……」

「……? アリサはいつも楽しそう。学校の話も、習い事の話も、魔法の勉強も」

 

 僕の言葉に、鮫島が少し寂しそうに言葉を繋ぐ。

 ついでに僕は少なくなっていたおつまみを補充した。ちなみにチー鱈だ。

 

「いえ、そうではないのでございます。最近が例外なだけで旦那様は本来この屋敷にいらっしゃらず、仕事で海外を回られていることが多いのです。

奥様も今は海外を飛び回っておりますので……、現に坊ちゃんは奥様にお会いしたことがございませんでしょう?」

「ん。……確かに」

 

 確か、デビッドさんと入れ替わりで海外に出張に行ってるとか。

 

「ええ。……ですので屋敷にいるのはお嬢様と私たち使用人のみ、先ほど坊ちゃんが言ったような事を話せる機会は多くないのでございますよ。ですが坊ちゃんが来て以来、屋敷で何でも話せるお相手が出来たお嬢様は毎日が輝いておられます……」

「……僕は僕が来る前のアリサのことを知らないから何とも言えないけど、役に立ててるなら嬉しい」

 

 僕は『ずずず』とお茶を飲みながらそう答える。

 

「……私としましては、このまま坊ちゃんとお嬢様がご結婚していただけると嬉しいのでございます。万が一どこぞの馬の骨にお嬢様が(たぶら)かされたらと思うと……」

「……僕がアリサを(めと)るの?」

 

 ちょっと予想外な鮫島の言葉に、僕は少しだけ目を見開く。

 ……僕がアリサを娶ってもいいんだろうか?

 

 そんな僕を視界に納めつつ、目の据わった鮫島が話し続ける。

 

「私はお嬢様がお生まれになったときからずっとその成長を見守って参りました。親バカと言われるものかもしれませんが、お嬢様は利発で気立てもよく、数年も経てばさぞ美しくなられるでしょう」

「……ん、アリサは綺麗、それに聡明で向上心もある。だけど、僕でいいの?」

 

 鮫島の言葉には僕も大いに同意するけど……、最大の疑問はやっぱりそれだ。

 過去が薄ら暗い僕より、もっとふさわしい奴が居るんじゃないだろうか?

 

「こう言いたくは無いですが、旦那様の元へはお嬢様への縁談が毎日のように舞い込んできます。全員が全員とは言いませんが、彼らの目には“バニングス”という家名とグループ企業の利益しか見えていないのです。

そんな者たちとお嬢様が結婚するより、お嬢様と直接触れあっている坊ちゃんこそふさわしいと私は思うのですよ」

「むぅ……」

 

 故郷では立場的に政略結婚しなければいけない――父上は例外で、城下にて母を見初めて身分を隠したまま告白、何度もフられたが諦めずに言い寄り……。紆余曲折あって相思相愛になって結婚した……と師匠に聞かされた――立場だったから考えたことはなかったけど、今となってはそんなことは関係無くなってる。

 父上は一途で、正室の母上以外の側室を持ってなかったし。

 

「……それとも、何かお嬢様に及ばぬところがございましたか?」

「ん、そういう訳じゃない。……大事なのはアリサの意志だから。僕としては何の不服もない」

「そう言って頂けると、私も安心でございます…………。……いつか……アリサお嬢様と……ジーク坊ちゃんの………お子を……抱ける……事を――――」

「――――……鮫島?」

 

 急に黙り込んだ鮫島を訝しく見やった僕は、その理由を理解して苦笑いする。

 さっきまで意外なほど語っていた鮫島は机に突っ伏して寝息をたてていた。

 

「……えいやー」

 

 鮫島を持ち上げて、敷いておいた布団まで運ぶ。

 筋力強化と軽量化の魔法を使ってるから楽々だ。

 

 布団を掛けてあげて、(さかずき)やおつまみを片づける。

 

 ……騎士団の連中が酒宴を開いた後の惨状に比べれば、これくらい可愛いものだ。

 

 そんな考えが頭をよぎり、僕はそれを頭を振ることで打ち消す。

 最近、事あるごとに昔の記憶が浮かぶ自分に、ため息を吐きたくなる

 

 いつになったら、この記憶は僕の内から消えるのだろう?

 

 歯磨きを済ませ、僕も布団に入る。

 ベッドとはまた違う寝心地だけど、野宿とは比べられないくらいまし。

 

 そんな思いを抱きながら僕は目を閉じ、意識を闇へと落としたのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

「――――ッ!?」

 

 夜遅く、僕は最近お馴染みになった魔力の波動に飛び起きた。

 一瞬で意識が覚醒する。

 

「……ジュエルシード。何で今夜発動する……」

 

 フェイトに聞いてたから、ジュエルシードが近くにあったのは把握済み。

 だからこそ、これはフェイトの意志でないことも理解できる。

 

 僕に敵対することの愚かさを知ってるフェイトが、危険を犯してまで強引に発動させるはずもない。

 これはフェイトにとっても望まない事態だったはずだ。

 

「放っておくには……近すぎる」

 

 旅館から離れてればフェイトに丸投げしてただろうけど、残念なことに旅館からほど近い場所だ。

 アリサに危害が加わる可能性もある。

 

「……気が乗らない」

 

 体中に魔力が流れ渡る。

 薄く青みがかった僕の髪が、月の銀光を乱反射させる銀色へと変貌を遂げる。

 重いため息を吐きながら窓を開け、窓枠に足をかけたところで振り返り、返事を期待せずに言葉を投げる。

 

「いってきます」

 

「ZZZzzz……いって…………らっしゃいませ………………」

 

「……!?!?」

 

 鮫島くらい凄腕の執事になると、寝ていても無意識で反応するらしい。

 鮫島の執事力に戦慄を覚えながら、僕は部屋を後にしたのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

「…………何でお前が居る」

「そ、それは私のセリフなの……!?」

 

 僕がジュエルシードの発動現場で出くわしたのはフェイトとアルフ、ユーノとお漏らしだった。

 

「……フェイト、なんでコイツがここに居るの?」

 

 ジト目で白服を睨みながら僕はフェイトに問いかける。

 

「えっと……私はその子とは初対面だと思う」

 

 フェイトの言葉に、お漏らしが愕然とした表情で叫ぶ。

 

「え!? 私、あなたとアントワーク君が子猫の持ってたジュエルシードをかけて戦ってたとき、一緒にいたの!」

「……ゴメン、記憶にない。……ジーク、この子は?」

 

……僕に聞かれても困る。

とりあえずわかる範囲で答えておく。

 

「そのフェレットの方がユーノ、なかなかいい腕をもった魔法使い。白い方が……お漏らし?」

 

 白い方の本名はずいぶん前に聞いた……気がするけど、覚える価値を見いだせなかったので記憶にない。

 

「えっと……いい名前…………なのかな?」

「違うの! その名前って信じちゃダメなの!! あとアントワーク君! 私の名前忘れてるでしょ!?」

 

 ……僕は人の名前を忘れるような不躾者じゃない――――

 

「何を失礼な。……お前の名前、忘れる以前に覚えてないから」

 

 ――――ただ、覚えようと思わなかっただけだから。

 

「ひ、酷いの……。わ、私の名前は高町なのは! 忘れないで!!」

 

 お漏らしの心からの叫びが、僕の記憶をわずかに刺激する。

 高町……って、士郎さんや恭也と同じ名字だ。

 

「……気に入らない」

「…………え?」

「お前が僕の知り合いと同じ名字っていうのが腹に立つ」

「理不尽すぎるの!?」

 

 白服が(わめ)いているけど、僕にとっては些末(さまつ)ごとだ。

 

「やっぱりお前は“お漏らし”でいい」

「「……!」」

 

 僕は二組それぞれに拳銃を向ける。

 フェイトとお漏らし、二人の後ろでは、アルフとユーノがそれぞれが即応態勢に移行していた。

 

 僕がここに来た時には、既にジュエルシードの封印は――おそらくフェイトによって――為されていた。

 今ここで僕がすべき事はただ一つ、不穏な雰囲気を纏って向かい合っていた双方を、この場所から遠ざけること。

 

 ユーノによって、この周囲一帯に空間隔離の結界が張られてはいるようだけど、極々近くにアリサが泊まっている。

 万が一億が一、目覚めて感づかれ、ここに来られでもしたら厄介。……というか、僕がここに居ることを知られたら拙い。

 

 只でさえ、最近のアリサの魔法の腕は怒濤の勢いで向上中。

 気づかれる前に、双方には退散願いたい。

 

「ジュエルシードの回収が終わってるなら、双方さっさと退いて。ここで争われると迷惑、用件があるなら迅速に済ませて」

 

 僕の言葉に、お漏らしが堰を切ったように口を開く。

 

「……ッ! わ、私はその子とお話がしたいの! 貴女がジュエルシードを集める理由、それを教えて!」

「……きっと話しても仕方ない」

「でも、話してくれなきゃわからないの!」

「――――ジュエルシードを賭けて勝負。貴女が勝ったら、私は理由を話す」

 

 小さくため息を吐いたフェイトがお漏らしに譲歩する。

 僕としてはこの場が早く収まってくれればいいので、口は挟まない。

 

「……わかったの。ユーノ君は手、出さないでね!」

「アルフも手を出さないでいいよ。ジーク、見届け人やって……もらえる?」

 

 2人の言葉に、ユーノとアルフが首肯する。

 

 確かに、中立の見届け人が居たほうがいい。面倒ではあるけれど、この場に中立の立場でいるのは僕しかいない

 僕も小さく頷いて、フェイトに言葉をかけた。

 

「……ん、仕方ない。出来るだけすぐに片づけちゃって」

「大丈夫だよ、……そう何分もかからないと思うから」

 

 その言葉が終わるか終わらないか、そのタイミングでフェイトが宙へと舞い上がった。

 慌てて白服の方も飛び上がるけど、フェイトの方は悠々と空で相手があがるのを待ち構えている。

 

 さながらそれは、格下の相手に対する余裕、自負であり――――

 

「……ちょっと前に僕が排除した時より動きは良くなった。……けど、ただそれだけ」

 

 ――――事実そのお漏らしは、フェイトの高速機動により戦いの主導権を掴めずに、僅か数十秒で一方的に敗北した。

 力の差を見せつけられるように、首への斬撃を寸止めする形で。

 

「……うそ、そんな」

「……キミは確かにすごい。……だけど、ジークより遅くて攻撃も緩い。ジークを倒そうと訓練してる私が負けるはず無いから」

 

 為す術もなく封殺され、呆然とするお漏らしと、当然と言った風に言い放つフェイト。

 現時点での力の差は誰の目から見ても明らかだった。

 

「お漏らし、お前の負け」

 

 僕は見届け人として、勝敗を宣告する。

 

『Pull out』

「レイジングハート!?」

 

 お漏らしの持つ杖からジュエルシードが1つ排出される。

 光輝くその粒は、フェイトの手へと収まった。

 

 離れた二人は、そのまま地面へと降り立つ。

 

「私の勝ち。……アルフ、行こう」

「ん~♪ さっすが私のご主人様だね♪ ちびっ子にフェレット、力の差はわかっただろう? もうコッチの邪魔はしないでおくれよ。それじゃ~ね」

「……じゃあジーク、またこんど」

「ん」

 

 小さく手を振ってくるフェイトに、僕も手を小さく振り返す。

 そのままフェイトとアルフは闇夜に紛れて、空へと消えていった。

 

「――――待って」

 

 同じく背を向けて帰ろうとした僕に、お漏らしから力無い声がかけられる。

 

「……なに?」

 

 言葉から滲む不満を隠そうとしないで振り向き、僕はそう返す。

 

「……どうしたら、どうしたらアントワーク君やあの子と分かりあえるの? どうやったらお話を聞いてもらえるの?」

「…………相手を話し合いに持ち込めるくらい、強くなればいい。……どんなに高尚(こうしょう)な考えだろうと、相手が聞こうとしないと始まらない。

 僕は分かり合うための手段の1つに“強さ”を選んだ、ただそれだけ」

「……強さ。……強くなれば、強くなればアントワーク君やあの子は話を聞いてくれるの?」

「さぁ? そんなこと自分で考えて。僕は強さを選んだだけ、他の道を選ぼうがそれはお前の自由」

「……わかんない、わかんないよ。……私はどうすればいいの?」

「なのは……」

 

 これ以上、言ってやる義理もない。

 僕は後処理をユーノに任せ、その場を立ち去る。

 

 今度は、呼び止められなかった。

 

 

 




 ご意見ご感想お待ちしております~
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 では、次回の混浴回をお楽しみにー。
 …………この話だけでコメントが5つ以上付いたら、アルフも一緒に混浴させるんだ(遠い目

2014/3/10
痛恨のミスに感想欄の指摘で気づき、あわてて修正。


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