魔法少女リリカルなのは ~若草色の妖精~   作:八九寺

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少々遅れました……ESやら何やらで忙しくorz

ちょいと駆け足で(かつ短く)進みます……え、理由?
男だけの入浴シーンなんて……需要あります?


22:歩んだ過去、剣を握る理由

22:歩んだ過去、剣を握る理由

 

「……士郎さんに、恭也……さん?」

「お? やぁ、ジーク君じゃないか」

「む、忍の家で会った少年!? あの時はどうやって……いや、聞くまい」

 

出会ったのは、『喫茶 翠屋』の店長とその息子。

高町士郎さんと、恭也だ。

 

僕の見た限り二人ともかなり高位の剣士で、恭也は不幸な偶然から僕と相対した時にその実力の一端を垣間見ることが出来た。

……まぁ士郎さんはともかく、恭也に関しては負けはしないと断言できるけど。

 

「……お二人とも、奇遇です」

「そうだね、店以外で会うのは初めてかな? 今日は仕事? それともプライベートかい?」

「プライベート……休暇です。……演技下手な雇い主さんに、気を使われました」

 

僕は士郎さんに小さく頷く。

僕の返答が不完全だったのか、士郎さんが少し不思議そうな表情を浮かべたけど、『まあいいか』と言わんばかりの表情で話しを続けてくれた。

 

「演技下手? ……まあいい、ここの泉質は疲労回復・肩こり・打ち身に良く効く。疲れを取るにはぴったりだよ」

「俺やジーク君は若いから、打ち身はともかく肩こりは無いさ」

 

効能を説明してくれた士郎さんに、恭也が苦笑を向ける。

そんな恭也に士郎さんも苦笑を返した。

 

「ハハハ、確かに違いない。……さて、いつまでもこんな所で立ち話してるのもアレだ。続きは奥でしよう」

 

確かにここは浴場の扉のすぐ近く。僕たち3人が立ちっぱなしじゃ、出入りの時に迷惑極まり無い。

僕らは足早に奥へと進むのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

「……ふむ、ウチの娘たちより髪の手入れが行き届いている気がするね」

 

 

――――わっしゃわっしゃわっしゃわっしゃ

 

 

「……士郎さん?」

「うん? なんだい?」

 

 

――――わっしゃわっしゃわっしゃ

 

 

「なんで気配を消してまで背後を取って、僕の髪を洗ってる?」

「大人は子供の髪を洗ってやるもんなのさ、この国の様式美と言ってもいい」

 

その言葉に、僕は渋々ながら頷くしかない。

 

「……様式美ならいい。…………でも、僕は子供じゃないから」

 

一応、そう苦言を呈しておく。

あと、士郎さんの手が首筋に触れる度、緊張で体が固くなるのは仕方ないと僕は思う。

 

いくら士郎さんでも、背後に立たれるのは落ち着かない。

 

 

――――わっしゃわっしゃ

 

 

「わかったわかった。それにしても、ジーク君のこの髪は生まれつきかい? 黒でいて、だけど薄く青みがかってて……何色というべきか……」

 

「……『烏羽(からすば)色』って呼ばれる。この髪の色は生まれつき、僕はご先祖様の血を強く引いてるから、その証」

 

「ほう、ご先祖様からか……。あ、流すから目を瞑ってくれ」

 

「ん」

 

素直に目を瞑る。

この“しゃんぷー”とか言うもの、目にはいると猛烈に染みるのだ。

こっちにきた頃、知らずに目に入れて悶絶する羽目になったけど、もうそんなへまはしない。

 

一時期、これを目潰しに使えないかと真剣に考えたことが、僕にはある。

あれだ、水鉄砲を使うとか、転移魔法で相手の目にシャンプーを直接転移させるとか。

 

 

閑話休題(それはともかく)

 

 

「……はふぅ」

「極楽極楽……」

「いい湯加減だ」

 

背中を流してくれようとする士郎さんの申し出を固辞し、各各(おのおの)で体を洗った僕達は、ついに温泉に浸かっていた。

 

僕の故郷では、蒸し風呂が主流――火山地帯に行けば一応温泉もあった――でこんな風に肩までお湯に浸かれる機会は少なかったけど、こっちに来て今の形式に慣れてしまった後では、もはや昔には戻れない。

温泉の人を引きつける魔力、恐るべし。

 

「……ジーク君、いくつか聞いてもいいかい?」

「内容によりけりです」

 

士郎さんの問いかけに僕は鷹揚(おうよう)にうなずいた。

 

「ではまず一つ、君の“仕事”は僕も恭也も承知している。怪我をする機会も多いだろう、それは僕も経験があるから承知している。……だけど君の体中に残っている傷の跡は、……こう言っては変かもしれないけれど、年齢に対して不相応に多く……深手すぎる。……君はどんな場所――――いや、過去を歩んできたんだい?」

 

いきなり答えにくい質問をしてきた士郎さんに、僕は閉口する。

 

確かに僕の体は傷跡だらけ。

僕は自己回復・補助魔法の術式に特化している。

僕の回復魔法は新鮮な……というのも変だけど、負ったばかりの怪我は傷跡なんて微塵も残さず――そうは言っても怪我の限度はあるけど――治せる。

 

……だけど、怪我の回復が遅れた時とかはどうしても傷跡が残る。

 

僕は回復魔法を使う暇すらおぼつかない戦場にいた。

つまりはそう言うこと。

自身の血と、それ以上の斬った敵の返り血。

剣戟の音や悲鳴、攻撃魔法の炸裂音。僕はいつも真っ赤に染まっていた。

 

慎重に言葉を選びながら閉じていた口を開く。

 

「……故郷を亡くして、故郷の(かたき)を討って、最後は仲間全員が敵になった。

斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って、気づいたら剣が握れなくなってた。体は平気なのに、心が言うことを聞いてくれない。……で、紆余曲折の後、今の場所に落ち着いてる……これで充分ですか?」

 

「…………ああ、充分だ。……もう一つ、君は誰かに強制されて剣を握っていたのかい?」

 

僕は過去に意識をとばし、首を横に振る。

 

「違う。確かに僕の家は故郷を守り導く立場だった、だけど自分の意志で剣を握ってた」

「そうか……」 

 

質問はそれが最期だったようで、士郎さんはそれきり何かを考えるように黙り込んでしまった。

僕はこの期に、恭也さんに話しかける。

 

「……恭也さん、僕の見立てだと恭也さんはヒトを手に掛けたことがない」

「……ああ。その通りだ」

「じゃあ僕からの忠告。斬った相手の顔も姿も、それどころか人数さえも思い出せなくなるくらいにヒトを斬っちゃいけない。その一線を越えちゃうと今の僕みたいになる」

 

僕はそれだけ言うと返答を待たず湯船から立ち上がる。

 

「僕はそろそろ上がります。お二人はごゆっくりどうぞ」

 

……話しすぎた。脳内に過去の出来事が溢れだし、心の中で形容し難い淀みとなって滞留し始める。

 

「ジーク君、僕は君の背負った物を軽くすることは出来ない――――」

 

引き留めるように掛けられる士郎さんの声から逃げるように僕は歩み続ける。

 

「――――でも、君がそれを話すことで楽になれるようだったら、喜んで聞き手に回ろう。……いつでも、翠屋においで」

「……ありがとう、ございます」

 

聞こえたかは分からないけど、振り向かず僕はそう返す。

 

 

…………このセカイには、優しい人が多すぎる。

 

 

そう、心の中でつぶやきながら…………。




いつもより短いですが、ご容赦いただけると幸いです。
次の話とくっつけるのも手かと思ったのですが、それはそれで長すぎるので……。


では、ご意見ご感想をお待ちしております。
一応確認したつもりですが、誤字脱字・前話との齟齬などありましたらご一報ください。


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