魔法少女リリカルなのは ~若草色の妖精~   作:八九寺

16 / 60
……え、期末考査?
……もうどうにでもな~れ♪(レイプ目)

これを見ている中高生の方、大学に入ったらちゃんと授業出て単位とる努力をしましょ。
作者との約束だぞ……


14:戦装束

14:戦装束

 

「……眠い」

 

……夜なべして、アリサの戦装束を手縫いして、『やっと縫い終わった』と顔を上げてみたら朝……というか昼の11時でした……わーい。

 

布地の魔術的処理に始まって、縫う際も魔術的に意味を持たせるために特殊な縫込みも必須。

取り回し易いよう各所にポケットを付けたり、袖口にナイフなんかを仕込めるようにしてみたり。

 

途中で差し入れを持ってきてくれた鮫島の意見を取り入れつつ、現代風なデザインで日常生活で合わせやすく、更には女の子らしい物に。

 

そしてこの完成したコートの布地を強靭にするため魔法を重ね掛け。

急所には裏地へ魔鋼製の薄いプレートを縫いこんでおく。

 

ついでに体温調整の術式や軽量化の術式、持ち運びがしやすいように異空間へ仕舞える術式などその他諸々あると便利な術式も組み込んでおこう。

 

そして、なんと洗濯機で普通に洗えるように!

 

……………………。

………………。

…………。

……Zzz。

 

……(ハッ!?)……気のせい気のせい、居眠りなんてしてない。

 

「……まだ、寝るわけにはいかない」

 

唇の端から垂れかけてたよだれをぬぐう。

僕は死力を尽くしてベッドに向かいそうになる脚を停めて、部屋の外に出る。

 

今日の夕方からアリサを教える都合上、それまでに最低限の準備を済まさなくちゃならない。

 

……それまでは、頭の中の睡魔を叩きのめすしかない。

…………ふふふ、少女Aより楽しめそうだ。……ひゃっほー!

 

りーすとかっとで、てーけつあーつ♪ 夜なべでチクチク、てーけつあーつ♪

 

「…………あぁ、脳内が末期だ」

 

自分でそう認識できるだけまだマシだった。

 

とり合えずそう思って、僕は自分を鼓舞する。

どんな場でもぷらす思考は大事なのである。

 

顔でも洗って眠気を覚まそうと、水場に向かう。

僕は蛇口をひねって水を出すと、顔を洗った。

 

………この国では、こうやって簡単にいくらでも綺麗な水が手に入るんだからありがたい。

 

故郷では井戸まで行って水を汲み、それを水瓶に溜めて使うっていうのが一般的――魔法で“どばーっ”と水を出すような事をしたら別だけど――だったから、この環境は目を見開くくらいの差だ。

国、街、村……程度の違いこそあっても特殊な場合を除けば、それらは水源の近くに作られる。

 

しかしこの国では治水技術が非常に進んでいるらしく、貴賎を問わず各家庭に水が引かれているのだから驚きだ。

しかも、干ばつなどへの対策として、ガムとかダムとかいう“人工の大きな池”(アリサ談)を作っているらしい。

恐るべきかな科学力……。

 

『僕たちには魔法で雨を降らせることくらいが限界かな』

 

そうアリサに言ったときの何ともいえぬ表情は、未だ鮮明に記憶に残っている。

広域の天候干渉術式は手間がかかるから、楽なわけじゃないんだけどね。

 

……さて。

 

「眠くない、眠くない、僕は全然眠くない」

 

自己暗示をしながら、僕は部屋へと戻る。

あくまでまだ『縫い終わった』ただそれだけ。

これからその戦装束に魔術的な処理を施さなければならない。

 

“たいむりみっと”はアリサが帰ってくるまで、残り……6時間。

対して普通の職人が魔術処理にかかる時間……約12時間。

 

魔術加工の並立運用、術式の効率化ならびに高速化して時間を短縮。されど品質は最高級に……!

 

「ふははははー、僕の戦いはこれからだー」

 

自分を鼓舞するために、一人で笑う。

……ああ、虚しい。

 

…………僕の戦いは、ようやく折り返し地点にたどり着いた所だった。

 

 

◇◇◇

 

 

終わった。

ついに完成だ。

 

僕は万感の想いと共に、使っていた器具を机に置く。

 

努力――と言う名の別な何かかもしれない……――の結果、僕は仕事を4時間で完遂させた。

くじけそうになる心を叱咤激励し、体に鞭打って確保した猶予の2時間。

 

2時間あれば、シャワーを浴びてちょっと午睡(おひるね)できるはずだ。

 

それくらいしたってバチはあたらない…と思う、いや思いたい。

 

「汗を流して一休み――――」

 

そんな僕の些細な願いは次の瞬間、泡沫(うたかた)の幻想の如く消え去った。

 

「――――たっだいま~!!」

「…………へ?」

 

……こんな反応をしてしまった僕は、きわめて普通だと思う。

 

『鳩が豆鉄砲を食ったよう』、『寝耳に水』、『青天の霹靂』、『藪から棒』……勉強の成果か、様々な“ことわざ――古くから伝わる格言のようなことをいうらしい――”が頭の中に浮かんでは消えていく。

 

「……いつもより、早い?」

「ええ。今日は先生方の会議があったから、B日課の短縮授業だったの。それに、帰り道で鮫島にちょっとスピード出してもらったのよ。そうすれば、今日の特訓に長い時間取れるでしょ?」

 

…………いつか師匠が言っていた。『人間、どうしても「いいえ」って答えられない機会が何度もやってくるんだぜ…』と。

 

師匠は、正しかった。

 

キラキラした期待に満ちた目で、こちらを見つめてくるアリサに対して『ちょっと休ませて?』などと口に出来るほど、僕は冷酷非道に――これが敵だったら躊躇わないけども――成りきれるはずもなく……。

 

「…………うん、ちょっと顔を洗ってくるから、玄関で待ってて」

 

この世の無情を感じ零れそうになった涙を隠すため、僕はフラリと自分の部屋を後にしたのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

「……だいじょうぶ? ちょっと目が虚ろと言うかなんと言うか……死んだ魚の目?」

「気のせい、断じて気のせい」

 

場所は変わってアリサの家の庭、青々とした芝生が広がる空間である。

いつもはアリサが飼っている犬が居るんだけど、今日は避難してもらった。

 

せっかくなので、アリサには完成したばかりの戦装束を着てもらっている。

採寸を取っていなかったから目分量で作ったけど、大きさはあっているようだったのでほっと一安心。

 

本当は肌着から何まで全部揃えてこその“戦装束”なんだけど、そんな戦装束はそれこそ正式な戦い用なので即応性に欠ける。

だからいきなりやってくる戦いに備えた“戦装束”が主流なのだ。

 

僕たち基準では、“戦装束”=“それぞれが戦いやすい鎧に最低限の装飾をしたもの”だ。

けど、この世界で鎧を着て出歩くと、『けーさつ』に『しょくむしつもん』される(アリサに聞いた)らしい。

 

僕たちの世界では『装飾の着いた鎧=騎士』、『簡素な鎧=傭兵と職業軍人』みたいに身分を証明するものなのにね。

『拳銃と警棒=警察官』、『赤い車と銀色の服=消防士』みたいなもの~とアリサに説明したら「同列にするようなものじゃない!」と怒られた。……理不尽だ。

 

 

閑話休題(それはともかく)

 

 

だからこそ、持ち運べるような外套型の戦装束にしてみたのだ。

 

「ねぇ、似合ってる?」

「ん、綺麗、似合ってる。アリサのためだけに作った、逆に似合ってなかったら困る」

「……あ、ありがと、大事にする」

「……? アリサ顔真っ赤、もしかして暑い? 温度調節の術式組み込んだはずだけど」

 

いくら眠気交じりでも、単純な術式だから間違えるとも思えない。

でも万が一ということもあるし。

 

「ち、違うから! これは照れk……じゃなくて……えっと、そう! 嬉しくて顔が火照っちゃっただけだから!?」

「そう、喜んでもらえて嬉しい。……じゃ、問題ないみたいだから、始めよう」

「え、ええ。……今日もいつも通り浮遊魔法の練習?」

 

僕はその質問に首を左右に振る。

 

「違う、今日は新しい魔法。あの浮遊魔法は遠・中距離用。今日の魔法は、近接戦闘用の術式。アリサ、その杖貸して」

「え? はい」

 

僕はアリサから、自分の作った杖を受け取った。

アリサのために調整された杖だから他の人間は使えないだろうけど、作り手である僕は別だ。

アリサほどじゃないけど、この杖と僕の相性はいい。

 

「今日教える魔法はコレ」

 

僕は鮫島に準備してもらった球――野球とかいう運動に使う球とのこと――を取り出す。

 

「野球のボール?」

「ん。これに今日教える魔法をかけると・・・・・・」

 

魔法を発動させ、それと同時に球を落下させる。

 

――ドスリ

 

本来、地面に跳ね返るはずの球が鈍い音とともに半分ほど地中へとめり込んだ。

 

「……え?」

「アリサ、その球を持ち上げてみて」

「うん。……あれ?」

 

球をつかんだアリサが、持ち上げようとして首をひねる。

もう一度、今度は両手で試してみるもその結果は変わらない。

 

「アリサ、気がついた?」

「……たぶんね。これって物体に対する重量操作魔法ってとこ?」

 

僕は黙ってその言葉に頷く。

 

「さすがアリサ、察しがいい。じゃあどう使うか、わかる?」

「えっと、重くした物を投げつける?」

「残念、違う」

 

さすがのアリサでも、戦いにコレをどう応用するかはわからないか。

僕は大きな鉄の杭ーー例にもよって鮫島に準備してもらったーーを倒れない程度に地面に軽く指す。

 

そして――――

 

「これは、……こう使う!」

 

『ゴスッ!』

 

「……え、ウソ!?」

 

――――その杭の頭に向けて、僕は杖を叩きつけた。

その一撃で、鉄杭は地面に完全に埋まってしまう。

 

「これは、単純な技法。叩く武器の重さを重くして叩くことで、威力を上げてる。分かりやすく例えるなら、鎚(はんまー)でトラックがぶつかったくらいの攻撃が出来る」

「けどそんなに重いもの持ち上げられ……ッ!? 分かった! もしかして対象に対するインパクト……攻撃して触れた瞬間だけ重さを!?」

 

聡いアリサに僕は頷く。

教え子が優秀だと、教え甲斐もある。

 

「そう。さらに言うと、さっきの僕はその攻撃の瞬間だけじゃなく、振りあげてる時には杖の重さを軽く、振りおろす瞬間には杖の先端だけを重くしてぶつける瞬間の速さを出来る限り速くしてる。今すぐアリサに僕のやってることを出来るようにとは言わない。けど、敵に当たる瞬間にだけ重さを変える位は今日中に形にする」

 

アリサは僕の使った魔法の説明に少し唖然としていたけれど、僕の言葉を理解するにすれ徐々に笑みを浮かべていく。

 

「今日で今ジー……師匠が見せてくれたこと、モノにしてみせるから!」

「ん。なんかアリサなら出来そうな気がして怖い」

 

本当なら、1日でできるようになる術式じゃあない。

 

だけど、アリサの生き生きとした輝いている表情を見ていると、そんな無粋なことを指摘する気はなくなった。

それにアリサなら何とかしてしまいそうな気がする僕も確かにいるのだった。

 

アリサの宣言した日数まで、あと4日。

 

 




2013/07/30:改訂完了
旧版とは各所変更あり。

10日近く間を空けての更新です……。

前書きにも書きましたが、今期は油断しました……orz
とった教科、昨年とは教授が変わり、カモだったはずが超難易度の高い教科に……
それが2教科、計4単位。

もう嫌だw

ご意見ご感想、誤字脱字などありましたら、感想欄からご連絡くださいませ。

次回→目指せ10日以内;;

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。