魔法少女リリカルなのは ~若草色の妖精~   作:八九寺

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10:魔法使いの弟子、過去の記憶、そしてショッピングへ

10:魔法使いの弟子、過去の記憶、そしてショッピングへ

 

草木も眠り始めるそんな時間、僕とアリサはまだ眠りに落ちてはいなかった。

 

「ん~~!!」

「……肩にそんなに力を込める必要ない。力を抜いて、呼吸するように」

 

アリサが僕に魔法の指導を頼んでから数日。

僕たちの間には一定のサイクル、そしてそれまでの倍以上の共に過ごす時間が増えていた。

 

夕食を食べ終えた後、ちょっと時間を置いて、アリサを先生役に僕の語学の勉強が始まる。

決められた勉強が終わると、今度は僕が先生、アリサが生徒になって魔法の勉強。

 

そんなわけで、必然的に僕とアリサの共有する時間は単純計算で倍増していた。

 

「で、出来たわ! これでどう!?」

「……10点」

「き、厳しいわね」

 

今は僕の指導時間。

練習している魔法は初歩の初歩、物体を飛行させる魔法だった。

 

水の入った1.5Lの“ぺっとぼとる”――ぷらすっちく? を加工して作るとか……。そのぷっすらちく?も、地面を掘ると出てくる燃える水が原料とのこと。……恐るべき発想だ――を浮かばせているのだけど、そのぺっとぼとるはあっちにフラフラ、こっちにフラフラといった感じで、空中に固定できてない。

 

……率直に言わせて貰うと、とても危なっかし――――

 

「…!?」

 

とっさに伏せた僕の頭上を、風斬り音を立てながらペットボトル――……現地語っぽく発音できた!――が通過した。

 

「きゃっ!? じ、ジーク!? だいじょぶだった!?」

「なんとか。……ちょっと、休憩にしよう」

 

――――……訂正、非常に危なかった。

 

 

◇◇◇

 

 

「アリサはどんな魔法使いになりたいの?」

 

鮫島が淹れてくれたお茶を飲みながら、僕はアリサに尋ねる。

 

「え、どんな魔法使いになりたいか? ……RPGとかのジョブ的な意味で?」

 

 

アリサが学校に行ってる間、この世界の文化を研究するために色々している。

ゲームもその一環だ。

 

……そして、自慢じゃないけど『高○名人の冒険島』をノーミスでクリアした。

宇宙からの侵略者を倒すゲームでは“名古屋撃ち”もマスターした。

連打能力測定器で秒間60連打を記録した。

格ゲーで一度空中に浮かんだ敵に、そのまま連撃を加えて倒す空中殺法もこなせる。

蛇のおじさんを操作するゲームではノーキル&ノーアラートで全クリ。

東方ってゲームのEXTRAも、戦闘で鍛えた動体視力と先読みのおかげで弾幕の美しさを愛でる余裕さえある。

 

僕に死角は無い。

 

「ん、F○とかドラ○エとかの職業的な意味で」

 

この世界(リアル)は科学が発達してるのに、非現実(2次元)の世界では『魔法』の存在を肯定している。

この事から、以前この世界には確かに魔法文化が有ったのではないかという仮説が立てられるのではないか。

 

……非常に興味深い。

この世界の人間の魔法に対する発想、実際に生かせるんじゃないだろうか?

 

それは追々研究するとして、話を戻そう。

 

「そうねえ……。……賢者?」

「アリサがもし賢者に成れたとしても、僕がプレイヤーだとしたら、総魔力量的に勇者のパーティーから外すよ?」

 

もっと手厳しく言うなら、勇者のパーティーに加入した当初は、そこそこパラメーターが高いから使ってもらえるけど、そのすぐ後に入ったメンバーに出番をとられるような扱い。

 

……実を言うと、アリサの魔法の資質を調べたとき、総魔法量が中の中から中の上くらいだった事に、僕は言いようのない安心感を覚えた。

強い素質を持つ者は、必然的に争いへ巻き込まれる。

 

…………この僕のように。

 

 

「く……、才能のない自分が悔しいわ…!」

 

僕は内心のそんな想いを隠し、口を開く。

 

「その言葉、僕以外の人の前で言わないほうがいいよ?」

 

アリサの『才能がない』なんて言葉は、世間一般の人が聞いたらただの嫌味だと思う。

 

「……ま、いいわ。貴方に会えなかったら魔法になんて一生出会えなかったと思うし。……ありがと、ジーク」

「お礼はいらない、魔力の最大量を増やす方法はあるけど、それでもきびしい」

「方法を考えてくれただけでも嬉しいわよ。それにしても賢者はムリか~、ざ~んねん」

 

本当に残念そうなアリサを見るうちに、僕はいつの間にか新たに言葉を紡いでいた。

 

「――――決して魔法使いとして大成できないって意味じゃ無い」

「え? どういうこと?」

「ん。アリサはゲームの賢者みたいに、大魔法・高位魔法をバンバン、全体全回復の魔法をジャンジャン使えない。だから、自分にあった使い方で巧く魔法を使えばいい」

 

僕はそう言いながら、練習用に使われていたペットボトルの一群――総数24本。別名2“だーす”とも表現できるらしい――に手を向ける。

使うのは、アリサが練習していた純然たる、対物飛行魔法。

 

そして、それの行き着く最高峰。

 

ペットボトルが一糸乱れぬ動きで均一な高さ、距離で虚空に固定される。

 

「アリサ、動かないで」

 

僕はまっすぐ向けていた手のひとさし指を『くい』と曲げた。

 

 

その瞬間――――

 

「ひゃッ!?」

 

――――24本の容器が各々別の鋭角的な軌跡を描くと、瞬きをする間もなくアリサを全方位から殺到し包囲する。

 

 

「これがアリサのさっきまで練習してた魔法の行き着く終着点。複数のものを同時かつバラバラに、それを高速で飛ばせるだけで有効すぎる攻撃手段。……現に、僕の師匠の一人はこの魔法と剣技だけで大陸中に名を馳せてた」

 

最強の双剣士と呼び名の高かった師匠。

 

『剣技だけ』と条件をつければ、僕でさえ一閃のもとに切り伏せられる。それほどの腕だった。

 

不利な戦局を一瞬でひっくり返すような大魔法は当然ながら、戦場で戦う剣士に最低限必要とされていた筋力強化の魔法でさえ使えなかった師匠に、唯一使えたこの魔法。

彼はこの魔法を極め、その魔法と己が両手の剣だけで戦乱を戦い抜いた。

 

空を駆ける無数の剣群を従え、蒼銀と紅銀の双剣を手に真っ先に敵陣に切り込んで敵に恐怖を、味方に勢いを与えるその姿。

 

敵味方を通して呼ばれた二つ名は“剣爛武踏”。

 

……そして、あの悪夢の日、最後まで国民を背に庇ったまま戦い続け、………僕の魔法でその生涯を終えた。

 

酒癖は悪かったけれども、守るべき民の笑顔を見るのが大好きな人だった。

 

「…………………………」

「えっと、ジーク……。とっても辛そうだけど、大丈夫?」

 

……そんな表情を浮かべてるつもりは無かったんだけど、アリサがそう言うなら本当なんだろう。

だけど、僕はそれを否定する。

 

「……気のせい。アリサ、今日の練習はこれでお仕舞い。明日は朝からサッカー? とか言う運動の試合を見に行くんでしょ? ……もう寝たほうがいい」

「あ! 明日はすずか達と試合見に行くんだっけ!! 明日はジークも一緒に来る?」

「ん、行かない。午前中はちょっと家でやっておきたい事がある」

「そ、解ったわ。午後からはパパと一緒に買い物に行くから、そのときには付き合いなさいよ?」

 

僕はコクリと頷く。

アリサはそれを見て、満足げに首を縦に振ると「ジーク、おやすみ~」と言って僕の部屋を後にしていった。

 

アリサの気配が遠ざかっていくのを確認して、僕はため息を吐く。

 

「辛そう……か」

 

僕はのろのろとパジャマに着替えると、魔法で何処からともなく一本の酒瓶を取り出し、一緒に出したグラスになみなみと注ぐ。

中身は“火の酒”とも呼ばれる非常に度数の高い蒸留酒だ。

 

魔法の触媒(カタリスト)にも使われるソレを、僕は一息に呷(あお)った。

熱いソレが喉を焼く一瞬を耐えると、僕はベッドに潜り込み、固く目を瞑る。

 

僕は、こうして一度(ひとたび)故郷の人を深く思い出してしまうと、酒精に頼らなければ寝つけない。

 

こうすれば、いつの間にか意識が途絶え、いつの間にか朝が来る。

そう、…こんな風に……意識が………闇に………飲まれ…て。

 

――――僕の意識は闇に落ちた。

 

 

◇◇◇

 

 

「……いってらっしゃい」

 

次の日、僕は鮫島の運殿する車で出て行くアリサを見送ると、その足でデビッドさんの元へと向かう。

 

「おはようございます」

「うん、ジーク君、おはよう」

 

コーヒーを飲みながら新聞――昨日の出来事が次の日には国全体に伝えられる。……すさまじい情報網だ――を読んでいたデビッドさんが顔を上げ、僕に笑顔を向けた。

 

僕はそれに頷き返すと、デビッドさんに話を切り出した。

 

「デビッドさん、頼みがあります。僕に拳銃以上の火力を持つ銃器の保有許可を下さい」

「……ふむ、詳しく話を聞かせてもらおうか」

 

デビッドさんが、新聞を畳むと、僕に視線を向ける。

僕は昨日の神社での出来事を掻い摘んで話した。

 

この街に起こっている異変とその原因である青い宝石“ジュエルシード”、昨日の魔犬、そして僕以外の魔法使いの存在を。

 

「……つまり、非殺傷のSRゴム弾では相手にダメージを与えるのが難しく、アリサのガードに支障をきたすと?」

「そう。人間用の弾じゃ、ダメ。それに、魔法使いもいる。障壁を張られたら、普通の弾丸なんて徹(とお)らない」

 

……殺していいというのなら、楽なんだ。

素手だろうがなんだろうが、障壁の可能防御力以上の力で攻撃すればいい。でも、そんな硬い障壁を破れる力で殴られたら、魔法使いだろうがひとたまりもない。

 

僕は言葉を続ける。

 

「障壁だけなら、弾丸に対障壁用の術式を埋め込めばどうとでも出来る。問題なのは魔犬なんか問題じゃないほどの防御力を持った魔法生物が出てきた時。

いまの武器じゃ、アリサのそばから離れないでどうにかするのはムリ」

 

魔犬と言っても所詮は“犬”。

 

飛竜(ワイバーン)や岩人形(ゴーレム)、機械人形(オートマタ)が出てきたら拳銃の弾丸なんて、子供の投げる小石みたいなものだ。

牽制の効果もない。

言いたいことを言い終えた僕は黙ってデビッドさんを見つめた。

視線を伏せ、思案に耽っていた彼は一つ大きなため息を吐くと、僕と目を合わせる。

 

「……いいだろう。ただし、人間にはこれまで通りSRゴム弾の拳銃を使用すること。これ以上は譲歩できない」

 

「それで構わないです。……じゃ、ちょっとアメリカまで銃の入手に行ってきます。アリサと買い物に行くまでには戻ってきますから」

 

デビッドさんの前から辞すと、僕は以前作成したアメリカ直通の魔方陣を発動させ、単身アメリカに降り立ったのだった。

 

年齢?見た目?

そんなの魔法でごまかせばいいんだから。

 

 

◇◇◇

 

 

アメリカから無事帰国?した僕は、アリサ、デビッドさん、お供の鮫島と一緒に買い物に出かけていた。

 

其の一  ~ ケータイを買おう!! ~

 

「……ケータイ?」

「そう、ケータイ。アンタは仮にも私のボディーガードなのに、私からの連絡手段がないのはマズいでしょ? どんなのがいい?」

 

アリサの言葉に、僕は周りを見回す。

 

『ケータイ』と呼ばれるものが周りにたくさん置かれてるけど……正直、どれがどう違うんだか解らない。

 

「そういわれても」

「……あー、確かにそうよね。……ジーク、それ以前にあなたケータイってどういうものかは解る?」

 

僕はアリサの言葉に力強くうなずく。

 

「当然だよ、この世界の文化はテレビとか見て勉強したんだから。……ボタンを押してベルトに着けると、ライダーになれるんでしょ? しかも遠く離れた相手と話せる機能がおまけで付いてくるすごい機器」

「ちがーう!! そんなケータイは日曜の朝の30分だけにしか存在しない架空のものだから!! それに通話機能はおまけじゃないから! むしろメイン機能だから!!」

「そんな馬鹿な!?」

 

この世界の科学力なら普通に存在してると思ったのに……!!

 

「……まぁ、早いうちに気づけたんだから良しとしましょう」

「アリサ、ということは、バイクが人型に変形して一緒に戦わないのか!?」

「そのネタはもういいから!!」

 

……夢も希望もない。

 

「……選ぶのは、アリサに任せる」

「それが一番無難そうね。……じゃ、じゃあ私も機種変して、あんたと同じやつの色違いにするから!」

「え? なんで? まだ使えるのに新しいのにするの?」

「ケ、ケータイってのはそういうもんなのよ! そ、それにほら、同じケータイならあんたにも使い方教えやすいでしょ!! けけけ決してジークとお揃いがいいとかじゃないんだからね!?」

 

僕はアリサの言葉に首をかしげた。

 

「……おそろいに何か意味があるの?」

 

アリサが薄っすらと頬を紅くしたまま、表情を引きつらせる。

 

「ふん!」

 

アリサに向こう脛(ずね)を全力で蹴り貫()かれた。

正直、死ぬかと思うほど痛かったです。

 

 

其の二 ~服屋さん~

 

「さて、次はアンタの服ね、服屋さんに行くわよ!!」

「……仕立て屋さんに来てもらうんじゃないの?」

 

僕は首をひねる。

 

「……アンタはどういう世界の住人だったのよ?」

 

いや、確かに僕は王族だったけども――――

 

「……普通じゃないの? 僕の居たところでは、肌着の類を除けば新しい服を買うとしたら王族だろうが庶民だろうが、服は採寸を取ってもらってから作るんだよ?」

 

――――仕立て屋が城まで来てくれる。という点を除けば一般庶民と同じはずだ。……たぶん。

 

 

「そんな非効率なことがあるわけ――――」

「――――いや、恐らくジーク君の言っていることは真実だ」

 

再度否定しようとしたアリサに、話を聞いていたらしいデビッドさんが会話に入ってきた。

 

「え、パパ、どうして?」

「うむ、話を聞いた限りだと、ジーク君の居た世界は我々でいう中世ヨーロッパぐらいの文化水準だと考えられる。

その時代には当然化学繊維は存在しないから、服の原料は必然的に麻や木綿、絹といった物が主流だろう。それらは化学繊維のように大量生産も出来ないから、在庫を作り万人に対応できるようにしたんではなく、その都度注文に応じて製作するというのがデフォルトだったんじゃないかな?」

「……ところどころ解らないところがあったけど、たぶんそれで合ってます」

 

“服”あるいは“布”というのは貴重品だ。

着れなくなった服は、古着屋に持っていって大きさを手直ししてもらったり、古着屋に売ってそこで新しい古着――古いのに新しいって変な表現だ――を買うのが普通。

 

僕は王族という立場上、他国に対して最低限の体裁を保たなきゃいけないから新品ばかりで“古着”には縁がなかったけれど、そういった物流があることは教わっている。

 

擦り切れて着れなくなった服も、ただ捨てるのではなく雑巾として最後まで利用する。

布というのは、農家の方々の血と汗の結晶なんだから。

 

僕はそういったことを掻い摘んで二人に説明した。

 

「……消費社会に生きる私達には耳が痛い言葉だな」

「今度から買い物のときは無駄なものを買わないよう注意するわね」

 

微妙な雰囲気の二人に、僕は首を捻るのだった。

 

 

其の三 ~ペットショップにて~

 

「ま、足りないのはこんなとこかしら。……ジーク、私はちょっとお会計に行ってくるから、このあたりで待ってて」

「ん、わかった」

 

アリサを見送り、僕は周りを見渡す。

 

このお店は動物の飼育品などを扱っているお店らしい。

アリサの家にたくさん居る犬達用の物を買いに来たみたいだけど、細かいところは解らない。

……この世界の文化ならともかく、犬のことまではさすがに勉強していないし。

 

僕は、なんとは無しに周りに積まれているカンヅメ――金属の器に食物を入れて密閉すると、年単位で保存が利くらしい。これを聞いたときには身体に雷が落ちたかのような衝撃が走った――を手に取り、描かれている絵を見て硬直した。

 

 

描かれていたのは――――

 

「……ま、まさか………!?」

 

――――犬の絵だった。

 

 

僕は、カンヅメというものを知った際、鮫島に色々と聞いてみた。

そして解ったことの一つに、『カンヅメの表に描かれている絵は、中身が何かを表すモノ』という事実がある。

その事実から導き出すに、このカンヅメの中身は、犬の肉。

 

…………この世界の人間は犬を食べるのか!? 人類の古くからの友人である犬を!?

 

僕は驚愕の事実に身体を硬直させた。

同時に僕の頭の中で恐るべき推測が立っていく。

 

……アリサは犬をたくさん飼っている。もしやそれは食用?

あの犬達に向ける目は、仲間や家族に向けるものじゃなく、自分の血肉になるモノ達へのだったのか!?

 

「……ア、アリサ、なんて恐ろしい子」

 

僕は久しぶりに戦慄が走ったことを自覚するのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

「ちょ、イヌの、カンヅメなんてッ……そんな発想、誰も……わ、笑いすぎて、お腹が痛いわ……!!」

「ア、アリサ、そこまで笑ってやるな、ジーク君は大真面目なんだから……ブフッ!!」

「…………ッ(恥)」

 

帰りの車中、意を決して質問した僕は、アリサとデビッドさんに爆笑されていた。

 

「真面目な顔して、何を言うのかと思ったら、『アリサ、この世界ではイヌを食べるんだな!!』って」

「さ、さすがにその発想はなかった!! こ、こんなに笑ったのはいつ振りだろうな!」

 

穴があったら入りたい。……おぉ、この国の諺が咄嗟に浮かんだ、うん、進歩だ。

 

「……そんなに気を落とす必要はありませんよ、坊ちゃん。誰にだって勘違いはあるものです、今こうやって間違いに気づけたのだから、良いではありませんか」

「……鮫島」

 

……運転席からバックミラーを通してやさしく諭してくれた鮫島が、神様に見えた。

 

「鮫島、ありがッ――――」

 

瞬間、首筋に走る怖気。

戦場から離れた今でも本能的に危険を知らせるこの“嫌な予感”は、何度も僕の命を救ってきた。

 

僕は脊髄反射で鮫島に告げる。

 

「――――鮫島!! 車を脇に寄せて!! 早く!!!!」

「!? はい、坊ちゃん!!」

 

躊躇はほんの一瞬、鮫島は僕の剣幕にただ事ではないと察したのか、すぐさま路肩に車を停めた。

 

「ッ、ジーク君、何事だ!?」

「いきなりどうしたってい――――これ……地震?」

 

混乱から我に戻ったアリサのつぶやき。

確かに車が、街が、大地が揺れている。

 

だけどこれは地震なんかじゃない、魔力によって引き起こされたナニカ。

まあ無理もないとは思う、魔法に触れてまだ少ししか経ってないんだから。

……だけど、長年空気と同じように魔力と触れてきた僕には、明らかな違和感として感じられる。

 

……そして、これと同じ魔力と、僕は神社で相対していた。

 

ソレは――――

 

「ジュエル……シード………!!」

 

――――青い宝石の、魔力だった。

 




おまけ:もしジュエルシードが発動してなかったら

「……そんなに気を落とす必要はありませんよ、坊ちゃん。誰にだって勘違いはあるものです、今こうやって間違いに気づけたのだから、良いではありませんか」
「……鮫島」

僕は鮫島のその言葉に救われた気がした。
だがしかし、その心は続く言葉で砕かれる。

「それに、この国にはございませんがお隣の国には犬肉の缶詰も御座いますゆえ、厳密には間違いでは御座いませんよ」
「「「……え゛?」」」

鮫島の言葉に車内の空気が凍るのだった。

2013/6/12改訂
おまけは改訂から追加しました。

実際に犬肉の缶詰は存在します。
国によっては蛙肉も食べますし、ザリガニなんかは高級食材だったりします。
海外の方から見たら日本のホヤとかイナゴとかナマコとか、そんな印象を抱くんでしょうね。

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