「さーて相手の情報は……はぁ!? 2機とも第四世代機ってなによこれ!?」
「鈴……だから喧嘩は相手を選んで売れとあれほど」
アイリス王女とジブリルさんとの試合が決まり、とりあえず俺を相手に1週間に渡って特訓し、試合開始直前になって相手の機体データがやって来た。
その辺全く気にしない鈴も鈴だけど、国家機密が云々と言ってこの土壇場まで機体情報を隠す辺り、相手も本気なのか単にお国事情なのか、微妙なところだ。
ともあれ送られてきた相手の機体情報を、ピット内で機体の最終調整をしながら確認する鈴は驚きの声を上げた。
ルクーゼンブルク公国の二人の専用機は、第四世代であることからもわかる通り束さん謹製の機体だ。
「王女の専用機は<セブンス・プリンセス>。第四世代兵器<
「……束さん、もうちょっと名前を捻ろうとしなかったのかな」
「千冬さんとか箒以外のことはどうでもいいらしいし、そのせいじゃないの。まーなんでもいいわ。勝つのは私達よ。模擬戦の度に変な装備持ちだしてくる真宏ともしこたま対戦して特訓を積んだし」
情報を精査してくれる簪の説明を聞きつつ、鈴はしかし怯まない。
鈴は喧嘩を売る相手は選ばないし、一度喧嘩を売った相手にビビりもしないのだ。
「いやー、でも俺はあれでも加減してたんだよ? 昔束さんからもらった、『指パッチンすると全ISの半分が機能停止するガントレット』とか使わなかったし」
「……姉さんは本当にそういうモノを作って、特に理由もなくお前に渡していそうなところが悲しい」
「真宏、それぶっ壊しておきなさいよ」
それに、憶する必要もないほど鍛錬を積んで来たことは俺が一番よく知ってる。
元々手練れの箒と鈴はますます強くなっている。たとえ初見の第四世代機が相手でも、十分に戦えるはずだ。
「それにしても……二人合わせて光速の異名を持ち重力を自在に操る高貴なる女騎士とは……強敵の予感だな」
「なぜわざわざ合わせる。結果として正確な情報がほぼ残っていないぞ」
とはいえ、油断ならない相手であることは間違いない。箒は瞑目して精神統一しながら俺にツッコミを入れてくるし、鈴は鈴で2日前に突然送り付けられてきた専用パッケージ<
「それにしても急だな。しかも鈴の戦闘スタイルとはあんまり合わない重砲戦パッケージをこのタイミングで送って来るなんて」
「まあね。でも甲龍自体との相性はいいから、やってみせろってことでしょ。……うちの管理官、その辺結構スパルタだから」
いつぞや鈴のことをジープで追い回していたあの管理官さんのことを思い出したか、ちょっとげっそりする鈴。中国の代表候補生も大変だな。
「頑張ってくださいね、鈴ちゃん! 装甲材はうちが提供してますから、相手の攻撃はほぼ無視して大丈夫ですよ!」
「……え、なんでここにいるのワカちゃん。ていうか……マジ? このパッケージ、蔵王重工が噛んでるの?」
「はい。中国政府から依頼を受けて、装甲材の開発提供、そして設計のアドバイスなど。おかげでとってもずっしり頑丈になりました!」
……大変だな! まあでも気にするな。蔵王重工はグレネード系でも有名だけど、それ以上に装甲系ではもっと有名だから。世界中のISに装甲材提供してるんだし、そりゃあ関わっても来るだろうよ。
「ちょ、ちょっと待って! じゃあまさか、この『とりあえず付けときました』みたいな装備は……!」
「鈴、時間だ。行くぞ」
「うそでしょおおおおおおお!?」
がんばれよ、鈴。蔵王重工の装備はどれもこれも例外なくアレだけどその分強いから、使いこなせれば相手の度肝を抜けるぞ。使いこなせれば。
自分の祖国が悪魔に魂売ったことを知ったみたいな悲鳴を上げつつ、箒に引きずられていく鈴の姿。今夜夢に見そうだな。
◇◆◇
「……みたいなところを目撃する羽目になりましたけど、大丈夫ですか楽さん」
「げっふごふ! あ、ああ……。大丈夫だ、一夏。話に聞く鈴の様子になんかちょっと深刻なダメージ食らった気もするが」
ピットにて、そんな感じで箒たちの様子を見届けた後モニタールームにやってきた俺は、そこで一夏と一緒に楽さんの様子を窺っていた。
楽さんとは、一条……じゃなかった劉楽音さん。鈴の親父さんだ。楽さんの作るチャーハン美味しいんだよねー。
まあ、離婚した理由がガンに侵されて余命いくばくもなくなったかららしく、今じゃ昔の見る影もなくほっそりしてるけど。
「楽さん……病院に戻った方がいいんじゃないですか。正直、見てられないです」
「すまんな、一夏。だがもう少しだけ時間をくれ。鈴の……鈴の晴れ姿を、せめてこの目に焼き付けたいんだ」
突然IS学園にやってきて、鈴にはバレないようにこうして俺と一夏で相手をしている楽さんは胸を押さえて重苦しい咳をこぼしながら、それでも食い入るように鈴の姿を映すモニターを見つめている。
そして、複雑な家庭環境に置かれていることにかけては引けを取らない一夏もまた、複雑そうな顔を楽さんに向ける。親と子の関係とか、家族とかそういうのって大変だよね。俺は前世のことはよく覚えてないし、今生だとそういう関係はじいちゃん以外皆無だからあんまりわからないけど。
だが、いずれにせよ鈴の家族に何らかの結論が出る。そういうタイミングであることは、間違いないだろう。
……だって、楽さんがIS学園に来てるって、既に鈴のお母さんに連絡入れてあるし。
「それにしても、楽さんって一夏と声似てますよね」
「そうか?」
「まあ、俺も昔は一夏みたいにいい男だったがな? モテたんだぞー」
そんなことを話して時間を稼いでいるうちに、一夏を賭けた鈴たちの戦いが始まる。
さあて、どんな戦いになるのか、しっかり見届けさせてもらおう。
試合中の様子がわかりやすいように、強羅を展開しないままハイパーセンサーだけオンにして、っと。
◇◆◇
『それではこれより、織斑一夏くん争奪タッグマッチ……試合開始!』
鈴と箒、アイリス王女とジブリルさんのマイクパフォーマンス的なやり取りのあと、早速試合が始まった。
適当に距離を取っていた4機が一斉に散開。とはいえアリーナの中は全てISの射程内、誰がどのように仕掛けるか……と機を窺う間もなく、鈴が速攻に出た。重装パッケージを装備していても、前に出てとにかく攻める鈴の気質は変わらない。
「王女には近づかせん!」
「くっ、鈴!」
とはいえ相手は本職の女騎士。素早く鈴の軌道上に割り込んで斬りかかり、フォローに入った箒と斬り結ぶこととなる。
「サンキュー箒! そっちはお願い。私は……あっちをやるわ!」
その隙を逃す鈴ではない。両肩の重装型衝撃砲の照準をアイリスに合わせ、射撃体勢に入る。物々しい追加装甲のパッケージ。その正面に立てば吹き付ける威圧感はどれほどか。並みの胆力程度では震え上がる事請け合いで。
「構わん、来るが良い。わらわは逃げも隠れもせぬ」
「上等!!」
それを跳ねのけてこそ、王者の風格。
鈴を冷たく見下ろしながら、アイリス王女は微動だにせず。
放たれた衝撃砲は不可視のまま、しかし空間を捻じ曲げる奇妙な歪みを空に残して殺到し。
「ふむ、中々の威力じゃ。じゃが、このセブンス・プリンセスの防御を貫くほどではないのう」
「うそ、マジで!?」
セブンス・プリンセスの持つ防御機構、
簪からのデータが俺の手元の端末にも送信されている。それによると、重力で空間そのものに干渉して攻撃を遮断する、全方位対応型の障壁なのだとか。そりゃあ分が悪い。
「ジブリル、避けよ。次はわらわが馳走する。
「はっ!」
「くぅ!?」
「げっふぅ!?」
その力、余すところなく発揮された。
自身を狙っていた鈴と、ジブリルさんとの距離が空いた箒。決して固まっていたわけではない、距離も王女からの方位も異なる位置にいた二人が、同時に地面へ叩きつけられた。
しかも、明らかにISが落下した衝撃によるもの以上に地面がへこみ、箒たちがすぐには立ち上がれない。おそらく名前の通り、相手に過剰な重力をたたきつける攻撃なのだろう。
「食らった相手は重みに耐えかね必ず地に這いつくばり詫びるのように頭を差し出す……故に『侘助』とはよく名付けたもんだな」
「
一夏からのツッコミが刺さる。が、どうやら永続的に効果を発揮するものではないらしい。追撃を食らうより先にその場から弾かれるような勢いで距離を取り、体勢を立て直した。
「どうする、鈴。あの攻撃、一発で撃墜されるほどの威力ではないがもう一人と連携された場合何もできないままやられかねんぞ」
「………………………………手は、あるのよねー。すごく使いたくないんだけど、どうにかできる装備が」
「ならば使え」
「ちょっ、話聞いてた!?」
「聞いていた。が、取るに足りん。……一夏が連れ去られることと比べれば、な」
「ぐぬぬ……!」
などと葛藤しつつも、ゆっくりとアリーナ上を横切るようにしてプレッシャーをかけてくるアイリス王女、並びにとりあえず近くにいるヤツから斬りつけるとばかりに遊撃するジブリルさんの攻撃を避け続ける二人。どうやら鈴には何かしら対抗手段があるようだ。
新しいパッケージも装備してるし、その能力辺りかな?
「ああもう! じゃあやってやるわよ! オラァ、王女! こっち狙ってきてみなさいよ!」
「ふん、威勢がいいな! その挑発、乗ってくれよう!」
ジブリルさんが箒の方と斬り合っているのを見届け、鈴が動きを止めた。
そのまま衝撃砲にエネルギーをチャージ。最大出力の砲撃を叩き込むつもりだ。
真正面から向かい合う鈴と王女。回避など捨てた殴り合いが所望だと、正々堂々宣言する。王女とて、挑まれれば逃げるなどということはしない。できない。だからこそ再びチャージされた重力爆撃が、放たれる。
恐らく、鈴の狙い通りに。
重力というものは視認も出来なければ実際にかかって来なければ感知も出来ない。
だからこそ、目撃できた。
甲龍にかかった一瞬の負荷。しかしそれをすぐに打ち消した……鈴の左腕に輝く、巨大な。
マイナスドライバーを。
「ちくしょー! やっぱ効くわね!!」
「何……重力爆撃が、効かない!?」
そう、鈴は重力爆撃の直撃を受けながらも空中に健在。その理由が巨大マイナスドライバーにあることは間違いないだろう。
「あれは……空間湾曲ドライバー!」
「知っているのかワカちゃん!」
「はい、作ったことがあります!」
「やっぱり蔵王の製品かよ」
そして、それがなんなのかはいつの間にか隣で観戦していたワカちゃんがしてくれるようだ。一夏が呆れたような顔をしてるけど、まあ仕方ないよね。いつものことだ。
「中国政府との取引の一環で甲龍の重装パッケージ用装甲を提供したんですけど、よく考えたら甲龍って空間に作用する能力がありますよね。なので、昔勢い余って作ったはいいんですけどイマイチ効果を発揮しなかったあの空間を湾曲させて戦闘フィールドを作ったりできる気がするドライバーもおまけで付けたんです。甲龍なら機体自体の力もあって使いこなせると思ってましたが……想像通りです!」
「鈴……大変だなあ」
重力とは、質量によって生じる時空の歪みが他の物体を引き寄せる作用、と説明されることがある。なので恐らく、鈴はあのドライバーで空間を湾曲させて重力を相殺したのだろう。
「いや待て、それで重力を防ぐことができるのか!?」
「そんなこと……私が知るか!」
「お前は知っておけ!?」
などと言い切る鈴。さすがだ。
「立派になったなあ、鈴は……。一夏、行ってやってくれ。鈴にはお前さんの応援が一番いいだろうからな」
「楽さん、大丈夫なんですか?」
「こっちは俺が見ておく。一夏は行ってやるといい」
「……ありがとな、真宏」
鈴の勇姿を見て安心したのか、楽さんは一夏を送り出した。
アリーナ内では重力爆撃を一度しのいだとはいえ、いまだ激しい攻防が縦横無尽に繰り広げられている。
一夏は一夏の思いのままに鈴たちの下へと駆けつけ、楽さんはその背中を眩しそうに細めた目で見送っていた。
「すまんな、真宏。俺の面倒なんて押し付けてよ」
「いえ、お気になさらず。……どうせ、あと少しの間のことですから」
「………………………………あのさ、真宏。なんでスマホ見てるんだ? さっきちらっと見えた画面に、俺の元女房と交わしてるメッセージが出てなかったか?」
「さあ楽さん、試合がクライマックスですよ。しっかり見届けましょうね。ここで。絶対動かずに」
「おい真宏おおおおおお!?」
そして、すっかりやせ細ってしまった楽さんの腕をがっしりと掴み、回収に来てくれる鈴のお母さんが来るまで呑気に試合を観戦することにしたのでしたとさ。
◇◆◇
「鈴、箒! 相手をよく見ろ! 第四世代機って言っても、無敵じゃない!」
「なあっ、織斑一夏! 貴様そこはアイリス王女を応援するところだろうが!?」
「おのれ一夏……! 覚えておれよ!」
客席の最前列に駆け付け、叫んだ一夏の声はISのハイパーセンサーならばたやすくとらえられる。その声が届いたアイリス王女たちは激高し、一方鈴と箒は冷静さを取り戻す。
相手を、よく見る。
全方位への防御と攻撃能力という、一見して弱点が無いように見えるアイリス王女のセブンス・プリンセス。どんなに攻撃を繰り出そうとも一切が効果を見せず、いまもきゃいきゃいと叫びながらゆっくりと一夏の方へ振り向く泰然自若とした姿は……明らかに、搭乗者の望んだ動きではなく。
「まさかあの機体……どうしようもなく遅いのか!?」
「攻撃と防御に極振りした結果機動力は、ってやつね。……あれ、それって強羅と同じじゃない?」
そして、気付く。
ああいうの、普段からよく相手にしているな、と。
「強羅の場合は全方位攻撃などできんから旋回性能は高いがな」
「でも、それならやりようはあるわ。この1週間真宏相手に散々特訓してきたわけだし……それに、あの王女とISが、真宏と強羅より強いとは思えないしね! 少なくとも、篠ノ之博士からもらったっていう『ISを強化するんだけど使い過ぎると自我が崩壊する禁断のアイテム』とか使ってこないし!」
「お前ら一体どんな奴らと戦っておるのだ」
「王女、アレでも一応仲間のことを言っているらしいです」
「マジでか!?」
失礼な。きっちり暴走する前に使用停止しましたよーだ。
ともあれ強羅相手の特訓で培った経験を活かせばいいと気付いた鈴と箒の動きは早かった。
王女に猛然と迫る鈴、それを阻もうとするジブリルさん、そこへさらにインターセプトする箒とISが入り乱れ、その間隙を抜けたのはやはり鈴。
連結した双天牙月を投げ、障壁に阻まれても構わず一瞬の隙さえあれば十分だとばかりに体当たり。
ISで触れ合う間合いにたどり着けば、甲龍の衝撃砲で重力障壁に干渉できる。バリアを突き抜けてセブンス・プリンセスに組み付き。
「全弾持ってけ、零距離で!!」
「ぬうううう!?」
アリーナで観戦している俺たちの腹に、重く衝撃が伝わって来る。
衝撃砲の着弾によって空気が、あるいは空間そのものが揺れているせいだろう。2機のISは空中でもつれあったまま、鈴が休まず、そして自機の損傷も構わず砲撃を打ち込み続ける。
「は、離せ! 離さんか! お前もただではすまんぞ!」
「……やっぱり、まだ子供ね。真宏だったらこういうとき、手の中にグレネード出してそれを握りつぶしてこっち諸共自爆するわ。実際一昨日辺りやられたし」
「それ本当にIS操縦者なんじゃろうな!? 底抜けのバカではないのか!?」
「バカよ。まぎれもなく。バカで、何するかわからなくて……覚悟の決まった、大馬鹿野郎よ!」
甲龍、両肩の衝撃砲、爆発。
最後の一発は自身と引き換えにするような威力で、鈴のみならずアイリス王女までも爆風に煽られる。
「箒! あとよろしく!」
「請け負った!!」
「させるか……! この身に代えても!」
ジブリルさんと斬り結んでいた箒はエネルギー砲<穿千>を起動。アイリス王女を狙い撃つ。
穿千の砲撃自体はジブリルさんが身を挺してアイリス王女をかばったことで防がれたが、まともに防御も出来なかったためにそのまま落下。今度こそ王女の護衛はいなくなる。
「あんたは私の相手をしてもらおうかしらぁ!」
「くっ、邪魔をするな!」
地上では、先に落ちていた鈴が武器も持たずにジブリルさんへ襲い掛かり、その上空では箒の二刀が次の獲物として王女の首を所望した。
「う、うぅ……!」
「……」
戦場に訪れる一瞬の静寂。少なくとも箒と王女の間ではそうだっただろう。
両手の刀の重みに抵抗しない脱力の立ち姿の箒。静謐の眼差しはまっすぐ、眠そうにさえ見えるほどになんの意もなく王女の姿をくまなく捕え。
対する王女は動かないのではなく、動けない。
ISにおいて二人を隔てる数mの距離は一足一刀と何も変わらない。箒ほどになれば、斬る、と頭が思うより先に体が斬りに行っている。
そんな箒と相対し、千冬さんならそれすら超えるだろう。一夏なら互角だ。俺は多分一方的に斬り捨てられる。
さて、アイリス王女はこれらのいずれか。
その答えは。
「そこまで! 勝負ありだ!!」
さすがに14歳の少女を剣鬼の域に片足突っ込みそうになっている箒の斬撃に晒すのは忍びないと、客席から身を乗り出して叫ぶ一夏が止めることによって、割と安全に着地することができたのでありましたとさ。
うん、いいんじゃないかな。あのままあと5秒放っておいたら確実にトラウマ植え付けてたし。
いやー懐かしいなー。俺も篠ノ之道場に通ってた頃はよく千冬さんにあの目のもっとスゴいヤツで見られてたっけー。
「お、おい真宏。大丈夫なのか? なんか症状がヤバいときの俺よりも震えてるんだが」
「あはははははははは、ちょっと昔の千冬さんを思い出しちゃっただけなんでご心配なくあはははははははは……」
◇◆◇
「というわけで! 織斑くん連れて行かれなくてよかったね&二人とも勝利おめでとうそしてありがとうパーティーの始まりだー!」
ウェーイ、というテンションマックスの叫びとジュース色のグラスが弾ける、IS学園学生食堂。鈴と箒の勝利によって一夏の日本残留が決定したことを祝してのパーティーが急きょ開催される運びとなったのは、いつものIS学園のノリからすれば自然なことだろう。
アイリス王女とジブリルさんの残念会も兼ねているので、勝利側と敗北側が両方いるというのもよくあることだ。二人ともさすがに苦虫かみつぶしたみたいな顔してるけど。
「なあ、鈴。親父さんのことだけど……」
「ああ、それね。ありがと真宏。さっきお母さんが来て、回収していったわ」
「えっ」
「婚姻届持参してたし、楽さんは多分もう逃げられないよね、アレ」
一方、鈴の家の方は丸く……かどうかは別として、とにかく収まるべきところに収まるようだ。大喧嘩の末、首根っこ引っ掴まれてずるずると役所の方へ引きずられていく楽さんの姿は、久々に会ったばかりの時より少しだけ元気そうに見えたし。
「さあそれでは、敗者にふさわしいエンディングを与えるお時間ですね!」
「ま、真耶! 貴様何をするつもりだ!? 周囲の生徒たちがチベットスナギツネのような目で私たちを見てくるぞ! ……た、頼む! 私はどうなってもいい、だからアイリス王女だけは……!」
「うふふ、ジブリルさん。その言葉が聞きたかったんです」
さらにその後、余興の一部のような勢いで発表されたアイリス王女のIS学園入学と、ついでに当初教員として赴任予定だったジブリルさんのIS学園「入学」騒動もあったりした。
やー、つい2年くらいまで着てたというだけあってIS学園の制服姿似合ってますね。
「おのれ、おのれ……! 騎士団長の身にありながら、齢20を過ぎて再びIS学園の制服に袖を通す辱めをうけるなど……! くっ、殺せ!」
「おー、くっころだー」
「ジブリル先輩すごーい」
「よろしくお願いしますね、ジブリル先輩!」
「先輩と呼ぶなああああああああ!」
そして、さっそく明日からの同級生に先輩呼ばわりされてダブり感に苛まれていた。
「先輩……」
「だ、大丈夫ですよ先輩! まだまだ行けますって! ……多分」
「ひっ!? む、昔の後輩に見られた……殺せええええ! いっそ殺せええええ!」
さらに、どうやらIS学園在籍時代をギリギリ知っている3年生の先輩たちからも温かい声をかけられて発狂しかけている。……そうなるとわかっていて制服を押し付ける山田先生、鬼じゃなかろうか。
こうして、例によって例のごとくIS学園に新たな仲間が加わった。
年明けからここまで、外部からの襲撃がない比較的平和なIS学園の日常。
どうせそう長くは続かないけど、だからこそ尊く楽しんでおくとしよう。
「ジブリルさん、本当によく似合ってるから大丈夫だと思うんですけどねえ。……あ、真宏くんそこのお菓子取ってください!」
「はいワカちゃん。ジブリルさんよりさらに年上なのに、しれっとIS学園の制服着込んで紛れ込んでるワカちゃん」
ジブリルさんにおかれましては、強く生きて欲しい。
まあ、健やかに成長した結果既にしてちょっとプレイな感じが漂うジブリルさんと違って、体型的にはアイリス王女にこそ近いワカちゃんとは一緒に出来ないと思うけど。