IS学園の中心で「ロマン」を叫んだ男   作:葉川柚介

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番外編 その八「マジカルIS使いシャルロットちゃん」

「……由々しき事態だ」

 

 玉座に座す、一人の女性。

 クールな美貌に鋭い眼差し。広い部屋と高い天井を余すところなく豪奢な装飾が彩る玉座の間の主にして、居並ぶ家臣たちの主。そんな女性が重々しく口を開く。紡ぐ言葉は危急の事態。王たる彼女が、この国の全てを賭しても成し遂げなければならないと決意するほどの、大事件だ。

 

「今朝方、次元牢獄からあの男が脱走していることが判明した」

 

 緊張に静まり返っていた数多の家臣たちの間にざわめきが広がる。はっきりとした名を挙げずとも、女王がこのような場でこうも深刻に告げなければならない者など、この世界には一人しかいないからだ。その名を、その所業を思い出すだけで震えが走る、女王自らの手で次元牢獄の最奥に幽閉された最悪の犯罪者。

 

「ゆえに、ヤツを討つ。イタズラクロウサギよ」

「はい!」

 

 女王が名を呼ぶと、一人の女性が進み出て恭しく首を垂れる。女王からの信頼が厚いんだか警戒されているんだかわからない、だが紛れもなく王国最高の頭脳を持つ女だ。その女の名が呼ばれたことで、家臣たちの反応は真っ二つに分かれる。あの女ならば成し遂げるだろうという信頼と、あいつに任せたら絶対ロクなことにならないという確信によるものだ。

 

「次元の壁を越え、異世界へと逃げたヤツを追え。必ず見つけ出し、その世界の魔法少女と協力してぶちのめしてこい」

「はい、ブリュンヒルデ・チフユ様!」

 

 命は下った。そして女王ブリュンヒルデ・チフユの命とあらば、イタズラクロウサギは必ずや成し遂げるだろう。どんな手を使おうと。どんな犠牲を払おうと。奴が逃げ込んだ異世界とやらが、たとえ炎の海に沈もうと。それこそが彼女がこの役目に選ばれた信頼の源であり、家臣の一部が討伐対象以上に厄介かもしれない女をぶち込まれるだろう異世界の未来に涙を流した理由であり。

 

「私をその名前で呼ぶなと言っているだろうがああああ!」

「あふんっ!? ちーちゃんの愛が痛い!」

 

 なんだかんだ幼馴染のこの二人には、そういう周囲の事情が一切関係のないことなのであった。

 

 

◇◆◇

 

 

「私の名前はイタズラクロウサギ! 地球は狙われている!」

「……は?」

 

 呼ばれてないのに飛び出て一声。それが、その子との出会いでした。

 

「だから、私と契約して魔法少女になってよ。君が差し出す代償は、たった一つ……」

「なにこれ!? ウサギのぬいぐるみがしゃべってる!? な、ななな何も見てない聞こえない! こんなの夢に決まってるよ!」

 

 そう、これはごく普通の女の子だった私、シャルロット・デュノアが魔法少女になる物語。

 

 

◇◆◇

 

 

 私、シャルロット・デュノアには好きな人がいます。

 ごく普通の高校に通う、ごく普通の女子高生。女の子としてはちょっと珍しい趣味があるけど、それでもどこにでもいるようなただの女の子です。……フランス人だけど。お父さんもお母さんもフランス人だけど、普通なんです。それが、私なんです。

 

「てなわけでだな、本来3機合体なわけだから改造してもう1機をグレート合体させようと思ってるんだ」

「ははは、それはいいな真宏くん。完成したらぜひ僕にも見せてくれ」

 

 そんな私の好きな人。偶然私の教室の前の廊下を友達と話しながら通り過ぎて行った学校一の有名人、織斑一夏先輩。

 カッコよくて優しくて、学校中の女の子の注目の的。頭もよくてテストの順位はいつも1位。剣道部の主将を務めて全国大会で優勝したこともある文武両道。そして会話の中に混じるクールなジョークも素敵な人なんです。

 

 そんな織斑先輩との出会いは、忘れもしない4月のある日。たまたま電車が遅れて遅刻して、閉じた正門の前で途方に暮れていた私に声をかけてくれたのが、織斑先輩でした。

 

「おや、君も遅刻かい」

「ひゃわっ!? お、織斑先輩!?」

「正門が閉まっているね。……よし、少し悪いことをしようか。先生たちには、内緒だよ?」

 

 そう言って、ひらりと門の横の壁を登って私に向かって手を差し伸べてくれたあの日から、私の胸のドキドキが始まりました。

 

 織斑先輩をちらりとでも目にすることができれば一日中幸せな気分でいられるくらい好きなんだけど、だからこそ私なんかが恋人になれるはずもない。そう思って、淡い片思いを募らせる。そんなところまでごく普通だった、私。

 

 そんな人生を一変させたのが、自称魔法の国からの使者、イタズラクロウサギとの出会いだったのです。

 

 

◇◆◇

 

 

「……というわけで、地球は悪の権化に狙われているのさ」

「な、なるほど。そんなことが……」

 

 イタズラクロウサギの語るところによると、地球に危機が迫っているらしい。

 家に帰ってきたら部屋に飾ってある黒いうさぎのぬいぐるみがいきなり動き出したときはびっくりしたけど、話を聞いてみたらどうやらこのイタズラクロウサギは魔法の国からこっちの世界にやってきた使者だそうです。

 こことは別の世界、IS次元。イタズラクロウサギたちが平和に暮らしていたその世界に謎の魔法使い、妖怪ロマン男が突然現れて人々を洗脳して回ったらしい。恐ろしいことに、妖怪ロマン男に洗脳されると「ロケットパンチが見たい!」とか「イグニッションブースト? クイックブーストに改名してやんよ!」とか意味不明のことを言い出すのだとか。

 

「妖怪のせいなんだ」

「そうなんだよ」

 

 そういうことらしい。本当にそれまで平和だったのかIS次元。

 

「とにかく、妖怪ロマン男が次に狙うのがこの世界ってわけさ。放っておいたらこの世界の大人も子供もおねーさんもみんな洗脳されて、アニメや特撮やゲームに出てくるロボットがみんなロケットパンチを標準装備するようになっちゃうんだよ!」

「それは大変! ……なのかなあ?」

「大変だよ! 具体的に言うと、青い狸みたいな国民的アニメのロボットが毎回必ずロケットパンチをするようになるんだよ!?」

「たとえが良くわからない!?」

 

 そしてこの緊張感のなさ。

 異世界からの侵略者なのは間違いないっぽいけど、何とも言えないどうでもよさが漂っている。放っておいてもあんまり害がなさそうに思えて仕方ない。

 

「まあまあ、いいじゃない。妖怪ロマン男を倒した魔法少女は、特典としてどんな願いも叶えてもらえるんだよ? ちょっとどころじゃなくニブいイケメンとラブラブになることだって思いのまま」

「……ゴクリ」

 

 そんな情報を伝えに来たイタズラクロウサギの目的は、妖怪ロマン男の侵略からこの世界を守ること。そのために、妖怪ロマン男に対抗できる存在である「魔法少女」をこちら側で見出すこと。

 ……そう。どういうわけか、私には魔法少女の資質があるらしい。いや、いきなりそんなことを言われても。

 

 

「……むっ! この気配は、妖怪ロマン男! まさか、もうこの世界に!?」

「ええ!? ほ、ほんとに? どうしよう……!」

 

 それでも時間は待ってくれない。

 家でうだうだと説得されたり迷ったりしているうちに、イタズラクロウサギが妖怪ロマン男の反応をキャッチした。場所は家のすぐ近く。放っておいたら、それだけで私の家も、お父さんもお母さんもご近所の人たちも襲われるかもしれないほどに。

 まだ直接この目で見たわけではないけれど、イタズラクロウサギの言葉を信じるなら……かなり胡散臭いけどそこを百歩譲って信じるなら、まぎれもなくこの世界を塗り替えようとしている妖怪がすぐ近くまで迫っているわけで。

 

「もちろん、止めに行くんだよ! 今この世界を守れるのは君だけなんだ! さあ出撃だ!」

「うえええええ!? ちょ、ちょっと待ってよおおおおお!?」

 

 なんて悩んでるうちに首根っこ引っ掴まれて、小さい体からは想像もつかない怪力で空を飛んで連れ去られる私。何この力技マスコット!?

 

 

 

 

「うわわわわ、あわわわわ……!」

「静かに。どうやらすぐ近くに敵がいるらしい。ここからなら様子が見えるはずだよ」

 

 そして、ぬいぐるみの細腕一本で吊るされるという恐怖の空中散歩のあと、ようやくたどり着いたのは町の中心部にある繁華街のビルの屋上。妖怪ロマン男が暴れているかもしれないところというのは、イタズラクロウサギの耳に備えられたセンサー的なナニカによるとこのすぐ下らしい。

 

「……ねえ、イタズラクロウサギにこんな力があるんなら、私が魔法少女をしなくてもいいんじゃない?」

「いやー、そのあたりはこっちの世界にも事情があってね? そりゃあ確かに、こう見えても現役時代はリリカルな魔法少女としてブイブイ言わせてたんだけどさ」

 

 平日の夕方で人通りが多くて、いかにも悪の組織が狙いそうなロケーションと言えるかもしれない。こっそりと建物の影に隠れてみると、確かに向こう側からは何やら騒がしい音や人の悲鳴が聞こえてくる。間違いない、何かが起きているんだ。

 とにかく、まずは状況を知らなくちゃ。ただの事件なのか、本当に妖怪ロマン男なる悪人が暴れているのか、せめてそれだけでも。そう思って、私はそっと建物の角から顔を出して。

 

 

『扱いづらいパーツとかって話だが、最新型が負けるわけねえだろおおお!』

「うわあああ! なんかロボットが出たー!?」

「両腕がブレードになってる遠距離攻撃手段の一切ない素敵性能の高そうなロボットだああ!?」

 

「……なにあれ」

 

 そこには、両腕がそのままブレードになっている扱いづらそうだけど妙にカッコいいロボットの姿が!

 

「ああっ、遅かった!」

「え、まさかあれが妖怪ロマン男? どう見てもロボだよ?」

「ううん、違うんだ。あれは妖怪ロマン男の手先。やつが持つ悪のエネルギー結晶<ロマン玉>をぶつけられた人は、心の中に秘めたロマンが暴走してあんなふうに自分の好きな物がいい感じに扱いづらくねじまがった怪人にされてしまうのさ」

「あー、うん。確かに使いづらそうだね? さっきからぶんぶんブレード振り回してるけど、そこらにいる普通の人にも当たってないし」

「武器腕ブレオンだなんて、業の深いロマン……あの怪物の素体にされた人はきっと相当の素質の持ち主だよ」

「何の素質さ」

 

 そして明らかになる、侵略の真実。なんと妖怪ロマン男は、この世界の人たちが心の中にうっすらと持つロマンを増幅して、それを蔓延させようとしているのでした。なんだその力技なんだか回りくどいんだかわからない方法。

 ともあれ、少しだけ安心した。こういう感じなら、こちらの世界にも大して被害が出ることはないんじゃないかな。なんだか思ったよりも大分悪役らしい方法で、だからこそあんまり深刻なことになりそうもないし、これなら私が魔法少女をしなくても……って、ん?

 

「……ねえ、イタズラクロウサギ。あの、空中で十字磔になって浮かんでる人って、もしかして」

「ああ、あれ? ロマン玉をぶつけられた人だね。心の中のロマンを抜き出されてあの扱いづらい最新型にされちゃってるから、ああやっていかにもな拘束の仕方をされてるんだよ」

「へーそうなんだ……って、あれ織斑先輩だよ!?」

 

 私が魔法少女をしなくても、よかったはずでした。

 妖怪ロマン男の手先の怪人にされたのが、織斑先輩でなかったならば。

 

 

 空中で謎の力場っぽいモノに捕らわれて意識を失った様子の織斑先輩。それでも顔には苦しそうな表情が浮かんで、よくよく耳を澄ませてみると町で暴れているあのロボからも織斑先輩の声が聞こえているような。

 ど、どどどどうしよう! 何とかして織斑先輩を助けないと!

 

「どうすれば、どうすればいいのイタズラクロウサギ! 織斑先輩があんな姿にされちゃったなんて……助けないと! 警察!? 警察を呼べばいいの!? 特状課ならなんとかしてくれるかも!」

「無駄だよ。この世界の警察じゃあ、あのイケメンで超モテるんだけど自分に向けられる好意には一切気づかなそうな男の子を助けることはできない」

「でも風都にも応援を頼めば!」

「そこから駆けつけてくれる赤い刑事さんはロマン玉の影響を受けないかもしれないけど、あの男の子を元に戻すことができないのは変わらないよ」

 

 大慌てで携帯を取り出した私に、イタズラクロウサギは冷たく言い切った。

 愕然と振り向く私の前で、腕組みをして立つイタズラクロウサギ。ぬいぐるみにしか見えない姿だけれど、形容しがたい威圧感がそこにある。

 

「あの男の子は……君の好きな男の子は、妖怪ロマン男の、私達の世界の力でああなった。この世界の人たちの力ではどうしようもない。警察が来ても、倒すことができたとしても、元の姿にすることはできない。せいぜいがピーピーピーボボボ要員にされるだけだね」

「じゃあ……それじゃあどうしたら!」

 

 その時、私は必死だった。

 織斑先輩を助けないと。ただその一心で、すがるようにイタズラクロウサギに何とかする方法を聞いた。先輩を助けられるならなんだってする。ニンゲンヤメたってナニカサレたって助けたい。本当にそれだけを考えていて。

 

「方法はあるよ。……私と契約して、魔法少女になってよ」

「する!」

 

 ……だからだろう。手足は動くのに顔だけは徹底してぬいぐるみの表情そのままだったイタズラクロウサギが、このときだけニヤリと笑っていたことに気付かなかったのは。

 ちなみに、イタズラクロウサギの言う「契約」はカードデッキの形をしていました。さすが、やることやったら何でも願いが叶うだけはある。死ぬほど胡散臭いけど。

 

 

◇◆◇

 

 

『行くぞおおぉああ!』

「きゃー! なぜか斜めに逸れながら向かってくるー!?」

 

 突如町に現れた謎のロボット。両腕がブレードという特異な姿で暴れまわり、しかし絶妙に下手なのかなんなのか人にはさっぱり当てられないその怪人から、人々は逃げまどう。混乱のるつぼと化した街中で、救いを求める声があちこちから上がっている。

 だが、応える者はない。なにが起きているのかわからず、あの怪人を止める手立てを持つ者も、知る者も一人としていないからだ。狂ったように荒れ狂うブレードがまたしても無駄に空を切り、しかしいつしか誰かを斬り裂くかもしれない。そんな恐怖が人々の中で最高に達しようとした、その時。

 

 

「待ちなさい!」

『あぁ!?』

 

 人々の頭上から、高らかに響く声がある!

 逃げまどう市民のみならず、怪人すら見上げるその先に、太陽を背にビルの上に立つ少女の姿が!

 

 

「これ以上の狼藉は! このマジカルIS使いシャルロットちゃんが許しません!」

 

 

 ……なんかどっからどう見ても飛行パワードスーツに身を包んだ少女の、というか私の姿が!

 

 

「……ちょっとイタズラクロウサギ!? なにこれこの姿どういうこと!? 私、魔法少女になるんじゃなかったの!?」

「え、だからそれが魔法少女でしょう? 私達の次元では、私が現役時代にちょっと新機軸を取り込んでから魔法少女と言えばそれがデフォだよ? これが君の力、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡさ」

「あからさまに科学系だよねこれ!?」

 

 そして、さっそく足元のマスコットっぽい何かと揉める様子をぽかーんと見上げる人々と、ついでに怪人。魔法少女っぽい名乗りを上げながら、実際はロボ系というこのギャップ、思考停止を招くのに十分な威力があったみたい。そりゃそうだよ、私だって同じ気持ちなんだから!

 

「そんなことより、危ない! 来るよ!」

『やっと来やがった! 偉そうにしやがって、マジで強いのかよ!?』

「ひぃー!?」

 

 一足早く我に返ったのは、なんと怪人。ビルの壁を蹴って飛びあがって、ブレードをぶんぶか振り回しながら迫ってくる。

 

「ど、どどどどうしたら!?」

「逃げてばかりじゃダメだよ! あの男の子を助けたいんじゃないの!?」

「う、そ、それはそうだけど……!」

 

 こっちは空を飛べるけど、向こうはどうやら自在に空中を動けるわけではないらしいのが唯一の救いとはいえ、当たったらただではすまなそうな勢いでブレードが振るわれるのを必死に避ける私。

 なんとか逃げ続けることはできてもそれだけじゃいけない。私が人前で高らかに魔法少女じみた名乗りまで上げたのは、織斑先輩を助けるためなんだから!

 

「なら、君の思いを打ち込んで! ロマンを暴走させられた人を元に戻せるのは、魔法少女の思いが籠められた一撃だけなんだ!」

「思い……わかった、やってみる!」

 

 ブレードが髪をかすめる感触にヒヤッとしながら何とか避けて、同時に急いで距離を取る。そして、真正面から怪人にされてしまった織斑先輩を見据えた。

 どこからどう見てもロボットな体。両腕は割とゴツめのブレードで、これまで一度として人にも私にも当たったことはないけどどう見ても危険。そして、その遥か後ろに空中で磔にされ、意識を失っている織斑先輩の体。

 私はそんな織斑先輩の姿を見て、助けたいと心から願う。織斑先輩だってこんな風に人を傷つけることは望んでいないはず。だから私が止めてみせる。きっとこれが、イタズラクロウサギの言う魔法少女としての資質。妖怪ロマン男の手下にされた人たちを救うための、力なんだ。

 

「……行きます、織斑先輩!」

『来いやあああ!』

 

 全力でブーストをかけて、怪人になった織斑先輩に向かっていく私。それと同時に、怪人もこちらに向かってくる。みるみる距離が縮まって、振り上げられたブレードが視界を埋め尽くすような気さえする。恐怖はある。でもそれ以上に先輩を、助けたいから。ぎゅっと握ったこの拳で、きっと先輩を救って見せる! その思いをひたすらに込めて、込めて、込めて! 魔法少女の力の導くままに、叫ぶ!

 

「マジカル……とっつきーーーーーー!」

『うぼあーーーー!?』

「……って、ええええええええ!?」

 

 半ば無意識に体が動いたその結果。

 ラファールの左腕の楯の下に隠されていたパイルバンカーが、先輩のどてっぱらに突き刺さったのでした。

 

 

◇◆◇

 

 

「うええええ!? な、なにこれ刺さってる!? お、織斑先輩!」

「あー、大丈夫大丈夫。それはとっつきにしか見えないけど、暴走したロマンだけをぶち壊すマジカルとっつきだから。これで浄化完了だよ。……あ、でもあの男の子も放り出されるから、拾いに行かないと落ちちゃうよ」

「うわあああああ!? 織斑先輩危ないいいい!?」

 

 これが、僕の初陣だった。一応先輩から生まれた怪人は浄化して、空中で磔から解放された先輩は当然のように重力に引かれて落ちて行った。何とか間に合ったけど、心臓に悪いよこれ! 仮にも織斑先輩である怪人なのに、お腹に風穴開けちゃう魔法少女なんて想像もしてなかったよ!

 ……織斑先輩を助けるとき、焦ってたからお姫様抱っこしちゃったし。うぅ、織斑先輩にお姫様抱っこしてもらうより先に私がすることになるなんて。

 

 

 嬉しくはあるんだけど、同じくらい複雑で、これが魔法少女の仕事なのかと思うとちょっと泣きたくなってくる。そう思った、矢先。

 

 

 

 

『はーっはっはっは!』

「!?」

 

 何とか先輩を元に戻してホッとしたのもつかの間、また別の声が響いてきた。大声で笑うその声、凄まじくお約束の匂いがする。

 

『なるほど、貴様がこの世界の魔法少女か。……とっつきとは分かっているようだな』

「お前は……妖怪ロマン男!」

「ええっ!? 敵の親玉!?」

 

 声のした方を振り向くと、なんだか私の登場シーンをそのまま再現したかのように無駄に高いビルの上に立つ人の姿。……ううん、人の姿じゃない。それは、まぎれもなく。

 

「ロボット!? いや、サイズ的にあの人もパワードスーツかな」

『いかにも。超速理解まで備えているとは、ますます期待が持てるではないか』

 

 そう、ロボットそのもの。

 人間サイズだしイタズラクロウサギと同じ世界の人らしいからきっとあれもパワードスーツなんだろうけど、あくまでリアル系っぽい私の変身した姿と違って相手は全身余すところなく装甲に包まれたどう見てもロボな姿。それも、角っぽい飾りがついていたり目の部分がしゃべる度にぴかぴか点滅していたり、どう見てもその筋です本当にありがとうございました。あとなぜか腕を組んで仁王立ち。それが基本姿勢と言わんばかりのポージングだ。

 

『ふふふ、あの男はなかなかのロマンをこじらせていると思ったのだがな、たやすく倒してのけるとは……それでこそ侵略のしがいがあるというもの。心しておくがいい、マジカルIS使いシャルロットちゃんよ』

「律儀にその名前で呼ばないで!」

 

 しかも、言いたいことだけ言ったらまた高笑いを残して掻き消えるように帰っていくという謎っぷり。なんだろうあの、ラスボスやってるのは趣味ですみたいな雰囲気は……!

 

「う、うぅ……」

「あ、織斑先輩、意識が戻ったんだ。よかった……」

「うん、それはいいけど早く帰った方がいいよ? もし顔を見られたりしたら大変だし」

「え、どうして……?」

「魔法少女の正体を隠すのは基本だからね。もし誰かにバレたりしたら、とっつきに強制転生させられちゃうよ?」

 

『つっつきー♪』

 

「今頭の中に杭部分に私の顔がついてるとっつきの変なイメージが!? 転生っていうけどもはや生物ですらないよねそれ!? っていうかこの魔法服、全く顔隠せてないし! あわわわ、は、早く逃げないと!」

 

 

 こうして、私の魔法少女としての日々が始まったのでした。

 妖怪ロマン男から人々を守り、世界を守り、織斑先輩とももうちょっと仲良くなるために! 私、がんばります!

 

 

◇◆◇

 

 

 そして、次々とシャルロットちゃんの身に降りかかる事件!

 

「一夏兄さん、久しぶりだな」

「箒ちゃん!? そうか、転校生というのは君だったんだね」

(ええええ! 篠ノ之さん、織斑先輩の知り合いなの!?)

 

 続々と現れる新たな魔法少女達! 仲間になるためには当然一悶着あるし、仲間になった後もことごとく織斑先輩を狙う恋のライバルと化す!

 変なタイミングで転校してきた黒髪大和撫子は、一夏先輩と同門の剣道少女、篠ノ之箒。そしてその正体は、魔法少女だというのにブレオンを貫く物理系魔法少女、マジカルブシドー箒ちゃん。

 

「あ、あなたが昨日わたくしを押し倒した男性ですわね! せ、せせせ責任を取ってもらいますわ!」

「おや、セシリアさんだったか。貧血で倒れたところを助けただけのつもりだったのだが……」

 

 箒に続いて突然転校してきた、やたらちょろそうな金髪の美少女。

 親の仕事にたわむれでついてきて日本を訪れ、ふとしたきっかけで出会った一夏先輩にちょろっと一目惚れ。その翌日には英国貴族として持てる権力の全てを駆使して転校してきたのはセシリア・オルコット。イギリスの魔法少女、マジカル貴族セシリアちゃんなのだ。武器はスナイパーライフル。なぜかストックを肩に担いで狙撃するぞ。

 

「一夏兄ちゃん、最近店に来てくれないじゃない。お父さんも兄ちゃんにうちのラーメンと私を食べて欲しがってるんだから、たまには来てよ」

「鈴くん。ご無沙汰して済まないね。今度寄らせてもらうよ。……はて、ラーメンと『私』?」

 

 箒と並ぶ一夏先輩の昔からの知り合いである凰鈴音。貧乳ではあるがツインテール力と幼馴染の気安さが強力で、しかも家族からのバックアップつきというある意味とんでもないアドバンテージを持っている。

 そんな彼女もまた魔法少女であり、飛刀を得意として放てば仕損じなしと言われている。魔法少女としての名は……言わぬが花であろう。

 

「一夏様、なぜあなたのボディーガードである私まで同じ学校に通う必要があるのです。クラスどころか学年まで違うと護衛し辛いのですが」

「そう言わないでくれ、ラウラ。君はまだ僕とそう変わらない年齢なんだ。守ってくれるのは嬉しいけど、学校に通う楽しさも知って欲しい」

「……一夏様が、そう言うなら」

 

 さらに、現在進行形で一夏先輩と最も接触時間が長いのは、織斑家が一夏先輩につけたボディーガード、ラウラ・ボーデヴィッヒ。銀髪赤目眼帯ロリ軍人風という属性過積載の存在であり、プロに徹して一夏の護衛を務めている……ように見えて時折隠しきれないメスの顔が覗く強敵だ。

 その正体は魔法少女マジカル特殊部隊ラウラちゃんでもあり、音もなく背後に回ってのブスリや首に糸を巻きつけて吊るして弾いて敵を倒すことを得意とする。

 

 ラウラとまで出会った時点で、シャルロットはいい加減魔法少女とは何か、という哲学的な問いに捕らわれるようになってきたのだが、本編とは関わりがないので割愛する。

 

 ともあれ、譲れないところもあれば同じ人を思う縁から通じ合うものもあり。

 

 

「マジカルブシドー! 箒ちゃん!」

「マジカル貴族! セシリアちゃん!」

「マジカル酢豚! 鈴音ちゃん! ……ってちょっと待てコラァ!」

「マジカル特殊部隊! ラウラちゃん!」

「マ、マジカルIS使い! シャルロットちゃん!」

 

『5人揃って! 魔法少女戦隊! ISファイブ!』

 

 なんやかんやでこの町を守る魔法少女戦隊が誕生したのであった。

 ただ一人、自分の名前に納得がいかない少女の意思を犠牲にして。

 

 

「あなたたちは……魔法少女じゃないの!? どうして妖怪ロマン男に協力なんて……!」

「うふふ、私たちはロマン男様に忠誠を誓ったの。あの方と共にこの世界をロマンで染め上げること。それが私達、更識姉妹の目的よ」

「邪魔をするなら……容赦は、しない」

 

 そして、ついに現れる人類を裏切りロマン男に与する邪悪な一族、マジカル暗部楯無ちゃんとマジカルメガネ簪ちゃんの更識姉妹! 魔法少女達と同じ力を持つ彼女たちをシャルロットちゃんは倒すことができるのか! そして更識姉妹の正体とは!

 

「ねえ、一夏くんに真宏くん。悪いんだけど、ちょーっと生徒会の仕事手伝ってもらえるかな。最近忙しくて、人手が足りないのよ」

「構いませんよ、会長。僕でよければいつでも手伝います」

「もう、そんな他人行儀な呼び方しないでよ。一夏くんなら、私のことを刀奈って呼んでもいいのよ?」

「あ、あの、近づきすぎでは? 腕を抱える必要がどこに……」

 

「はっはっは、人気者は辛いな一夏」

「真宏も人気だよ。私と、お姉ちゃんに大人気」

 

 何となく学校で見覚えのある顔のような気もするが、謎の敵なのだ。

 

 

 妖怪ロマン男の侵略から世界を救うため、そして数多のライバルとの魔法少女バトルを勝ち抜いて織斑先輩との恋を成就させるため、戦え! マジカルIS使いシャルロットちゃん!

 

 

「織斑先輩は……好きな人とか、いるんですか?」

「……ああ、気になっている人なら。マジカルIS使い、と言ったかな。以前助けられたことがあるような気がしてね。それ以来、彼女のことをもっと知りたいと思っているよ」

(……言いたいのに言えないこのジレンマー!?)

 

 たとえその恋が、成就した瞬間とっつきに強制転生させられかねない茨の道だとしても!


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