IS学園の中心で「ロマン」を叫んだ男   作:葉川柚介

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第32話「12月」

 12月の初めのことだった。

 それはもう「盛大に」楽しまれたハロウィンパーティーから約1カ月の時が過ぎた頃の話になる。

 

 

 これまでのIS学園における日々は極めて平穏に過ぎていった……とは言い難いだろう。

 一応断っておくが、何かIS学園に特別の変化が起きたわけではない。無人機襲撃があったにも関わらず授業の停滞はほとんどなく、いつぞやの専用機持ちタッグトーナメントのときと同じくほんのわずかな間、一部のアリーナや施設が立ち入り禁止になった程度で授業はつつがなく行われ、訓練などもカリキュラム通りに進んでいった。

 

 ただ一つ違うのは、我らがクラスの担任である千冬さんが、時折姿を見せなくなったことだ。

 別に理由もなくふらりといなくなるわけではない。日本国内どころかたまに海外へも出張の用事ができ、しっかりと山田先生に引き継ぎをした上で、企業との話し合いだ国際IS委員会の小会議だと色々理由つきであちこち出向いては、人と会ったりなどしているという話だった。

 

 そのことは、ワカちゃんからの話にも聞いた。なんでも千冬さんはこれまであまりそういった外部との関わりを持たないようにしていたのだが、最近ではそれが嘘のように積極的に外へ出るようになった、とのこと。さすがにどんな議題の会議に出ているのかまではワカちゃんも口を滑らせなかったが……おそらくこの変化の契機となったであろう一か月前の事件を思えば、千冬さんの考えていることにある程度の想像はつく。

 おそらく、千冬さんにとって重大な決意のもとに何事かを為そうとしている。

 

 千冬さんのいないIS訓練を受ける度に浮かない顔をしている一夏は、その確信を深めて行っているようだった。

 

 

 きっと千冬さんの双肩にかかっているだろう責任と重圧。さらには俺達が想像もつかない何か。プレッシャーを抱え、それでもなお毅然と立ち向かっているのだろうことは、その背を見るだけでもわかる。

 とはいえ、それによって千冬さんが体調を崩したりすることがあるかもしれないとか、俺はそんなこと一切心配していない。

 

 

 いやだって……ねえ?

 

 

◇◆◇

 

 

「……今まさにこうしてギタギタにされてるわけだしさあ」

 

 そこにはなんと、スーツの上着を脱いだだけのワイシャツ姿に竹刀一本携えた千冬さんと、ばっちり防具付けてるのに精魂付き果てた感じで剣道場の床に這いつくばってる俺の姿が!

 

「何をぶつくさ言っている、神上。まだ稽古は終わっていないぞ」

「もっちろん、わかってますともさあああっ!」

「まだまだだ、千冬姉!」

「いい加減学校では織斑先生だと覚えろ!」

「がふっ!?」

 

 昔、千冬さんや箒の父親たる柳韻さんに稽古をつけてもらっていた時の癖で、ダウンしても可能な限り素早く起き上がって再び挑んでいく俺と、なんとかかろうじて立っていられた一夏がタイミングを合わせて斬り込み、二人まとめて何が何だか分からないうちに面をくらったのがほぼ同時。

 俺と一夏はこうして本日五度目のダウンを千冬さんから頂戴するのであったとさ。

 

 

 おっといけない。あんまりボコられたせいか、何をしているのかの解説が遅れてしまったな。

 まあ、詳しく説明するまでもない。今の俺達は見たままそのまま、千冬さんに剣の稽古をつけてもらっているのであった。

 

 きっかけはハロウィンの日の事件。特に、あの時起きた一夏の覚醒がこの状況を生んだ。

 

 

 襲来した無数の無人機に対して零落白夜とイグニッション・ブーストという白式最大の武器たる二つを封じて戦った一夏は、そこで自分が持つ最も生かすべき特性に気が付いた。すなわち、幼少のころから鍛えた篠ノ之流の剣の技。かの流派が持つ可能性が、ISを使い、剣を振るう今の自分にとって最も必要なものだったのだと、一夏はあの戦いの中から改めて掴み取ったわけだ。

 

 それではここで問題です。

 強くなれるきっかけを得た男の子が、ここに一人。しかしながら彼はそのきっかけたる剣から長年離れた生活を送っていたため腕は鈍りに鈍り、全国大会で一位に輝いた幼馴染あたりからは怒りをもってしばき倒されるほどになってしまっておりました。

 しかし幸か不幸か彼の周りにはお手本になる人がたくさんいます。先の幼馴染はもちろんのこと、なんかあらゆる格闘術に精通しているっぽい生徒会長がいて、さらに加えることには、男の子自身のお姉さん。かつて刀一本で世界最強の座を射止めたこともある、同じ流派の姉弟子でもある人がいたりします。

 

 

 さて、このとき男の子は一体どんな行動に出るでしょう。

 

 

「一夏、立て。真宏……はもう立っているか。さすがの頑丈さだな」

「も……もちろんっ、ようやく太刀筋が見えてきたところなんだからな……っ!」

「ほう、そうか。……では、これはどうだ?」

「へ? ……ぐぁっ!?」

 

 答えは一つ。「頼みこんででも鍛えてもらう」でしたー。

 

 そりゃあ、そうもなるだろう。今まではISという良く把握しきれていない力に振り回されないことに精一杯で、自分はどうすれば強くなれるのか、という道筋に関しては五里霧中もいいところだった一夏だ。

 ようやく気付いたその道はかつてずっと歩いてきたもので、しかも身近にちょうどよく先達もいる。まして一夏は今、強くなりたい理由もある。弱いままではいられず、いつか掴みたい手ができた。ならば多少無茶をしてでも、強くなるため邁進することだろう。

 

 これが、一夏を突き動かす理由。

 あの事件の翌日、さっそく千冬さんと箒と会長に頼みこみ、一夏の部活動貸出がなく、IS訓練もない日は連日剣道場の隅を借りて稽古に励んでいるのであった。

 箒に篠ノ之流を基礎から鍛え直してもらい、会長との模擬戦で搦め手を駆使されては苦渋を舐め、簪の薙刀を相手に不利な得物に対する立ちまわりを学び、……そしてたまに千冬さんが顔を出してくれると、隔絶した実力差のもと厳しい稽古をつけてもらっているのであった。

 

 ……千冬さんが来た日の場合は、何故か俺も一緒に。

 

 いやホント、どうしてこんなことになったんだろうね?

 そりゃまあ一夏が強くなりたいってのは賛成するし協力もするけど、どうして俺まで剣道的な特訓する羽目になるのだか。最初に千冬さんが来てくれた日に「すまん、手伝ってくれ真宏……! 今の俺一人じゃ千冬姉の特訓で死ぬかもしれんっ!」とか言われたのを聞き入れてしまったのが悪かったのだろうか。

 そんなことを、顎先からすくい上げるかのような妙な力のかかる突きをくらって天井を見たまま水平にすっ飛ばされつつ思うのだった。

 

「ま、真宏っ!」

「大丈夫よ、簪ちゃん。織斑先生は何度真宏くんが挑んできても致命的なことにならないようにやってるみたいだから。……それより、あとで看病する準備をしておいたほうがいいかもしれないわね。うふふ」

「お、お姉ちゃんまで、そんなこと……!?」

「で、では一夏の方は私が請け負おう」

「箒は私達をダシにしてるだけでしょう!?」

 

 ……ま、まあこうやって鍛えてもらえるのは貴重な機会だし、悪くないとは思うけどねっ。別にその後のことに他意なんてないけどさ!

 

「ぁ、ありがとう……ございましたっ」

「うむ。耐久力だけならば一夏とは比較にならんな、神上。終わったら足腰立たなくなる程度に相手をしたつもりなのだが」

「あ、あはは……鍛えてますから。シュッ! ……と冗談はさておき、昔から千冬さんと箒の親父さんには技とかそっちのけで『お前はとにかく倒れる度に立ちあがれ』って言われながら鍛えられたんで」

「そのことをよく実践しているようだな。……織斑、お前はどうだ」

「なんとか……4割くらいは太刀筋が見えた……かな?」

「そうか。感覚を慣らせてもっと割合を増やせ。そしてせめて致命的な物くらいは防げるようにしろ」

 

 そしていよいよもってズタボロになり、ただ立つだけでも限界なくらいになってようやく千冬さんの鍛錬が終わる。

 ちなみに、俺も一夏もへろへろだというのに千冬さんは息一つ乱していない。俺は剣をメインに使うわけじゃないけど、それにしたってこの実力差。相変わらず底が見えないったらありゃしないな、このお人は。

 

「大丈夫か、一夏」

「ありがとう、箒。……まあ、さすがにちょっと疲れたけどな」

「真宏、怪我はない?」

「まずは怪我の心配しなきゃならないくらいには本気出してもらえるように実力付けてからになりそうだな。でも大丈夫だよ、簪」

 

 だがそれは今後の課題だ。

 俺達に残された時間はたっぷりあるのか、それともほとんどないのかわからないが、それでもここ一カ月特訓を続けてきたことは無駄じゃない。……そう信じたいもんである。

 

 

◇◆◇

 

 

 しかしそれらはあくまで一夏と真宏の都合。

 世の中は彼らのみによって動いているわけではなく……奇しくも今は、12月である。

 

 

「うー……ん、一体どれがよろしいかしら」

 

 一夏達が千冬相手の特訓を下その日の夜、自室のベッドの上で悩ましげな声を上げるセシリアがいた。

 彼女を悩ます物の正体は、ぱらりぱらりとさっきからめくって見ているある種のカタログ。こだわり抜かれた写真の中に映っているのは男物の腕時計、ネクタイやスーツといった紳士用品。あるいは夜景の見えるレストランでのディナーなどの諸々についてが書かれたそれは、セシリアがチェルシーに頼んで見繕って貰った、殿方に対してセシリアがプレゼントしたら喜んでもらえそうな品の数々。

 

 

 ……何を隠そう、一夏へのクリスマスプレゼント候補なのであった。

 

「一夏さんにはこういう上品なものも似合いそうですわねぇ。で、でも二人きりのディナーというのも捨てがたい気が。……いっそ両方、というのはいかがかしら。フォーマルな装いが必要なところを選べば、スーツも一緒にプレゼントすることに違和感は……きゃーっ」

 

 どうやら、そんな候補の中でもセシリアのお気に入りはディナー系であるらしかった。

 

 女の子ならば誰もが夢見るような、思い人と過ごすロマンチックな聖夜。

 セシリアの妄想の中でもそれは同じことであり、いつもより一層イケメンな一夏と淑女然とした自分が夜景をバックにワイングラスで乾杯をするシーンなど思い浮かべれば、自然と滾るものがある。

 ベッドの上で足をバタバタさせる姿を部屋の隅に押しやられたルームメイトが色々諦めたような目で見ているが、割といつものことなので気にしない。

 

「……ふぅ。やはりそういう路線がいいですわね。だとするとどこが良いでしょうか。たしか以前箒さんとのインタビューの報酬でレストランには行ったという話ですし……あら、豪華客船のディナークルーズ? ……ティンときましたわ!」

 

 そして、セシリアが目をつけたのがクリスマスイベントとして近くの港から出て湾内を一周するというものであった。

 船は最近就航したばかりの豪華客船。セシリアもその手の船に乗ったことは何度かあったが、その経験からくる視点で見ても施設は充実しているし、この船に乗ったことがあるという人の声を聞いても中々に評判が良かったと記憶している。さっそく世界中あちこちを回っている船だから信頼性も高く、一夏には船内の異国情緒も楽しんでもらえるだろう。

 なにより、船ならば一度乗ってしまえば邪魔も入らないだろうし、これは今のセシリアにとって天啓にも等しい解答なのではなかろうか。

 

「これは要チェックですわね。豪華客船<セントエルモ>。……うふふ」

 

 手に持ったマーカーでチェックを入れ、付箋をつける。他にもいくつか候補は上がっているが、これはなかなかよいのではなかろうかと、心から思った。

 

 

 この日辺りから、同じようなことを考える生徒が増えた。

 特にヒロインズはこのクリスマスに一夏との思い出を作ろうとそれはもう本気になって色々考えだしたのである。

 

 例えば箒は誕生日の時ともインタビュー後のディナーとも違う何かいい物は無いかと頭を悩ませ、鈴はやはり手料理を振舞おうと腕に磨きをかけ、シャルロットは未だ構想段階ながら彼女らしい口に出せないようなことを色々と企み、ラウラはナイフを研いでいた。

 

 

 各人各様の思惑が飛び交い、クリスマス当日に向けて少々気が早いようにも思えるが準備を始め出したその頃。

しかしまた、彼女達の胸中にはまた別の想いもあるのであった。

 

 

「……というわけで、今日はみんなでお話しようか」

「それは構わんが、かしこまって一体なんの話題についてだ」

「もちろん、クリスマスについてよ。……特に一夏との、ね」

「っ!」

 

 IS学園一年生寮のある部屋に、五人の少女が集っていた。

 授業も放課後訓練も食事も入浴も終え、各々寝間着に着替えた箒達いつもの面子。

 セシリアがオススメの紅茶を持ちこみ、箒と鈴が持ってきた和菓子とケーキをラウラが軍用のナイフで切り分け、シャルロットが配ればそれだけでパジャマパーティーの準備が出来上がった。

 

 こういったことは、これまでにもなかったわけではない。

 彼女らが集まれば自然と話題は一夏のことになるのが常であったが、それはそれで楽しいもの。たまにさりげない牽制ののろけが飛び交って火花が散ったりもするが、気にしてはいけない。乙女はいつでも真剣勝負なのだ。

 実際のところ、たまにお互い抜け駆けしようとすることを除けば彼女達は基本的に仲が良い。

 

 だが、実のところ今日はいつものように無軌道なパジャマパーティー、あるいは芋煮会ではなく、シャルロットを発起人として開催の運びとなった、ある種の会議なのであった。

 

「どういうことだ、シャルロット」

「落ち着いて、箒。……一応確認なんだけど、みんな一夏とクリスマスを一緒に過ごしたいよね?」

「べっ、別に好きで一緒にいてあげるんじゃないんだからねっ! 一夏がクリスマスを一人で過ごすんじゃかわいそうだから、仕方なくよっ!」

「鈴さん、ツンデレするには少し早いですわ」

 

 そして、これだけキャラの濃い面子が集えば議論がまともに進むわけもなく、頻繁に脱線するのが常である。

 

「えーと……話を戻すと、多分みんな考えてることは同じだと思う。……というか、ラウラなんてすごかったし」

「『クリスマスプレゼントはわ・た・し』というのが一番喜ばれるとクラリッサが言っていた。この作戦に欠かせない物資として、大量のリボンも送られてきたぞ」

「やめておけ、ラウラ。そういう体を張ったネタは楯無さんの役目だ」

 

 などなど。同時刻、IS学園のどこかで今のうちから無駄に大量のリボンを仕入れていた上級生がくしゃみをしたという説もあるが、真偽のほどは不明だ。

 この場で繰り広げられる会話の数々をIS学園入学当初の彼女らに聞かせたら何を言っているのかわからないだろうレベルの専門用語が飛び交っているのだが、今さら気にしてはいけない。この学園においてネタ的な意味で平常を保てる存在などいないのだ。特に、極大の感染源を身近な友人としている彼女らの場合はなおのこと。

 

「それで、さ。思ったんだ。……一夏は今、すごく大変な状況にある」

「……ああ、もちろんわかっている」

「だからあんまり一夏に負担をかけたくない。……そりゃあ、僕だって一夏と一緒にクリスマスを過ごしたいよ? でもみんなも同じように思っていて、必死に一夏との約束を取り付けようとしたら……きっと一夏のことだから、すごく悩むと思う」

「一夏の場合、一切悩まずにみんなでパーティーしようとか言いだす気もするんだけどね」

「そうとも限りませんわ。ハロウィン前に真宏さんに煽られたときの反応を見ても、今の一夏さんがわたくしたちを全く意識していないということはないと思いますもの」

 

 話題はそれぞれにとっての思い人のこと。白熱しようというものだ。

 しかしこれまでと違うのは、ヒロインズ一同の目の中に相手を出し抜こうという狡い考えはなく、揃って一夏の身を案じる優しさがあることだ。

 

 これには二つの事情が影響している。

 一つ目は、ここ最近箒達の心境に起きた変化。

 真宏と簪という、IS学園で成立するとは思われていなかった本物のカップルがいることだ。彼女らはこの二人とも共通して仲が良く、専用機持ちという立場もあって行動を共にすることが多い。

 そして学んだのだ。真宏が他の女子と話したり訓練相手になっていたりしても優しく見守り、それでも度が過ぎたときには少しだけむくれて近くに寄って行ってみせる簪の姿から。

 

 真宏はそのことに気が付くと決まっておろおろし、真宏に訓練を見てもらっていた女子達は二人をニヤニヤと見ながらごめんねーとかわざとらしく言いつつ下がって行き、二人の世界を作ってやる。

 するとなんということでしょう。しばらく放っておくだけで二人して赤面し、あっちゅー間に仲直りとかしていやがるのだ。

 

 ぶっちゃけ、超うらやましい。

 自分も一夏とあんな風になれたらと本気で思う。

 

 では、どうすればよいか。あんな風に理想の関係を築くために必要なのは、寛容さ。一夏が誰かに無自覚な色目を使ったとしてもその度に制裁を加えるのではなく、優しく許してむしろ自分にこそ興味を持ってもらえるように甘えること。それこそが一夏に好かれることなのではないかと思いだしたのだ。

 

 

 これが一つ目の理由。

 では、残りはなんなのかといえば。

 

「それに……織斑マドカのこともある、か」

「ええ。今の一夏さんの特訓量、あのサイレント・ゼフィルス操縦者と無関係とは思えませんわ」

 

 あの日ついに素顔をあらわにしたファントム・タスクの刺客、織斑マドカだ。

 

 その名は後から一夏に聞いた。

 最初に現れたのは文化祭の時。その後キャノンボール・ファストの試合中に乱入し、夜の街中で一夏を襲ったあの少女は千冬にとてもよく似た顔をしていて、織斑マドカと名乗ったのだという。

 

 この場にいる者達は一夏の家庭の事情について、あらかたのことは聞いている。かつて両親に捨てられ、一夏は幼いころの記憶がない。そしてこのことに関して千冬は何を聞いても頑として応えてくれないのだと。

 この件に関しては、一夏から気にしないでくれと言われている。千冬が言えないのならばそれは理由があってのことだろうと一夏は信じているし、そのことに疑いを持つ余地は無い。千冬がどれほど弟である一夏のことを想っているかは、一夏の幼馴染である箒と鈴を筆頭に、誰もがよく知っていることだ。

 正直、あまり触れていい話題でもないだろうと思う。そのうち一夏達を捨てた両親がベルトになって現れて、地球を静止させようと暗躍を始めるということもありうるのだからして。

 

 そして、マドカに関するいくつかの事態に面してなおこれまで通りの生活ができるほど、一夏は薄情な男ではない。

 まだ確証などどこにもないが、それでも一夏はマドカが自分の家族であると確信しているようだった。その結果の行動が、誰もが知る最近の一夏の鍛錬の激しさだ。

 

 生徒会から課された部活動貸出をしっかりとこなした上でなお自分の鍛錬をこれまで以上にこなしていき、剣の腕をめきめきと取り戻し、それに伴ってISの操縦技術も目覚ましい向上を遂げつつある。

 イグニッション・ブーストと零落白夜を多用する傾向は変わっていないが、それは自分にそれしかないと諦めたからのものではなく、白式の性能と特性を全て生かすための短期決戦に特化した戦術を極めようとしているからに他ならない。

 しかもこれまでのような突撃一辺倒ではなく、剣の振るい方を考え、相手の動きを読んで動く剣士の術理がそこに生まれつつある。未だ遠距離戦を得意とする相手に対しては不利であるが、それでも白式の機動力で至近距離まで迫ってしまえば、もはや二度と離れることはない。

 それほどの力を、今の一夏は自らに課した厳しい特訓によって物にしつつあった。

 

 

「一夏と一緒にクリスマスを過ごしたいっていう気持ちは僕達……ううん、きっとたくさんの子達が同じように持ってると思う。でもだからこそ、あんまり一夏に無理はさせたくない」

「それは……同感だ」

「まあ、そろそろ無理矢理にでも休ませてやるべきだとは思うけどね」

「だからこそ、こうして集まったのですわね……」

「自分のことだけを考えて、一夏に負担をかけるようなことはしない、ということか」

 

 だから、一夏をずっとそばで見守ってきた彼女らは決める。このクリスマスを最高の思い出にしたいという心は変わらないが、その胸の中の感情はそのままに一夏をいたわりたいという思いもまた芽生えているのだから。

 

 

 おそらく今年のクリスマスは、まだ誰も一夏と二人きりで過ごすことはできないだろうという予感がある。ライバルが多いのは無論のこと、あの朴念仁が気を利かせてくれるなどということはありえないし、仮にそういう事態があったとしてもそれはきっとみんな一緒のパーティー、とかの形に結実するだろう。

 それでも、きっと最高に楽しい思い出はできるはすだ。

 自分達の望む理想は確かにある。だが同時に、一夏の望むことをこそ叶えたいと言う気持ちも、彼女らの胸の中には大きく温かく育っているのであった。

 

 

「じゃ、そういうことだから。真宏もよろしくね」

「……言ってる内容自体はかまわんのだが、なんで俺の部屋でそう言う話をするんだよ?」

「あ、お茶……入ったよ」

 

 でもって、その辺の結論を今日のパジャマパーティー会場となった部屋の主たる真宏に報告するシャルロットである。

 

 さっきから勉強机とセットの椅子に腰掛け、ヒロインズが放つあまりの女子力にツッコミすらできずに大人しくしていたのだが、シャルロットに声をかけられてようやく話に入ることができた。

 こうして真宏の部屋でこの話し合いを持ったことには、もちろん理由がある。なんと言っても真宏は一夏にとって最も身近な男の友人だ。共に過ごす時間も長く気心も知れていて、一夏と他の生徒の間を取り持つことも中々多い。

 そんな真宏には自分達のスタンスを知っておいてもらった方がいいだろうと、ある種の開き直りのような気持ちが最近の彼女らの間に芽生えているのだ。

既に全員が一度ならず真宏に恋愛相談をしたことがあり、その度に一夏の絶望的な鈍さを嘆き、愚痴を聞いてもらったりアドバイスを受けたりなどなどいろいろしている。そういった経緯があれば、今さら隠す必要もない。

 

 さすがに一夏本人にはまだ気持ちを伝える勇気が持てないのだが、真宏はむしろ自分達の陣営に近いから気安く話せる、というのが共通の認識なのだった。

 ……別に、真宏が一夏を横からかっさらって男二人のクリスマスを過ごす可能性を警戒したなどという事実はない。IS学園の一部に生息し、自作の薄い本を巡って真宏と熾烈な争いを繰り広げている一部の猛者ではあるまいし。

 

 ちなみに、お茶汲みをしてくれていた簪は元からこの部屋にいたわけではなく、シャルロット達が連れてきた。さすがに簪が真宏の部屋に遊びに来ているのであれば遠慮しようとも思っていたが、真宏の彼女たる簪を差し置いて真宏の部屋へ遊びに来るなどということもよろしくないし、この話し合いの後のパジャマパーティーにて親睦を深めたいとも思っていたからだ。

 

「さて、それじゃああとはおしゃべりしようか。……ね、ねえねえ簪さん。普段真宏と二人きりのときはどんなことしてるの?」

「ふぇっ!?」

「あら、興味深いですわね。後学のためにも、是非。是非に教えてくださいまし」

「セ、セシリア目が怖いっ」

「まあまあ、いいじゃない簪。あの真宏が本気で誰かを好きになったら一体何をするのか、気になるのよ」

「それは、確かに。真宏はこれまで『愛などいらぬ!』という性格だったからな」

「クラリッサが言っていた。日本では、男女の交際は転校初日に曲がり角でぶつかるところからはじまると。そして最近ではそのままプリキュアになるのだと」

 

「お前ら当人がいる前でそういうこと聞くなよっ!?」

 

 しかも、せっかくだから真宏も巻き込んで。こういう話を振られ、照れて赤くなる簪は同性の目から見ても大変に可愛らしく、さらに普段から勢い任せでこちらを自分のペースに巻き込んでくる真宏を追い詰められる機会などそうある物ではないことも手伝って、実に楽しい。

 

 

 その後、年頃の女の子が集まれば話題が尽きることは無く、ましてやなんだかんだ言いながらも真宏がいいタイミングでお茶のおかわりや追加のお菓子を用意してくれる居心地の良さも相まって、ついつい話が弾んでしまった。

 だが、少しの夜更かしは楽しい話のスパイス。この日は存分に、ガールズトークを楽しんだ。

 

 平和で楽しく、なんということのない日々。

 これまでの人生が決して平坦ではなかった彼女達は、その尊さをとてもよく知っている。

 

 

◇◆◇

 

 

「山田先生、調子はどうだ」

「あっ、織斑先生。……やっぱり解析は難しいです。それでも、ある程度は分かってきました」

 

 同日深夜。昼夜の別があまり関係のないIS学園地下特別区画。先日一人の所属不明IS操縦者に侵入を許してしまって以来セキュリティ強化策が講じられたこの区画にて、真耶がその日に襲撃してきた無人機達のコアの解析を行っていた。

 

 これまでもIS学園は二度に渡って無人機の襲撃に晒され、その度に機体の残骸を調査し、二度目の襲撃時にはコアを回収することもできた。今回は襲撃してきた数が多かったため機体もコアも大量に回収され、逆に処理にも困る有様だ。

 しかしだからこそ得られる情報は多いと、千冬も真耶も確信している。

 

 コアについての研究はどのIS関連施設でも大なり小なりされていることであり、IS学園もまた例外ではない。ISについて、コアについて。それらを深く知ることは、今のこの世界の中で自分達のスタンスをどうすべきかを決めるにあたり、重要な意味を持つ。

 特に、中立を謳っているIS学園にとっては世界情勢における立ち位置が少し変わるだけでも死活問題たりうる。ゆえにコアの研究と……そして、各国、各IS企業の動向は常に最新の情報を得なければならない。

 

 ゆえに。

 

「ほへー、IS学園の地下ってこんな風になってたんですねえ」

「はい、機密も防衛もそれなり、だったはずなんですけど……って、へ? な、ちょっ、ワカさん!? なんでこんなところに!」

「心配するな、私が連れてきた。今日の会議の席で出くわしてな。せっかくだから情報を聞かせてもらうために呼んだ」

 

 千冬はこうして、本来なら許されざる客を招いたのである。

 ワカの性格と蔵王重工のスタンスを考えればある程度の信用はできるし、持っている情報も侮れない。なりふり構っている余裕が無くなりつつあるIS学園には、これもまた必要な措置なのだ。

 

「そういうことらしいですよ、真耶ちゃん。お久しぶりです。……ぁふう」

「いい年をしてこの程度の時間で眠くなるな、ワカ」

「しょうがないじゃないですか~。私、普段はもうこの時間には寝てるんですよ? お仕事は部下の人たちがすごーく優秀なんで楽ですし」

「いいですねぇ……」

 

 なんともうらやましそうな真耶の声。

 IS業界はなかなかどうして狭く、ましてや真耶もワカも日本の出身。

 ワカとはこれまでにも何度か会ったことがありそこそこ親しいのだが、初めて会った時から身長含めてほとんど変わりがないように見える。というか、年を取っているように見えない。その胡散臭い若々しさの原因はあるいはこの無駄にストレスがないことなのだろうかと思ったりもしたのだが、今は一端置いておこう。ワカのペースに巻き込まれつつあるが、実のところ今日の報告は重要だ。

 

「それじゃあ、ワカさんにも報告を聞いてもらっていいんですね?」

「ああ、蔵王には色々と便宜を計らせる予定もあるからな。ワカあたりに事情を説明しておくことも悪くはない」

「らしいです。……眠くなりそうなんで、難しい言葉は少なめでお願いしますね?」

「えーと……はい」

 

 ちなみに今真耶の目の前にいる二人は、ISを装着してグルになったりした場合、一国の軍事力に匹敵するのではないかなーと割と本気で思える人たちである。少なくともぶっちぎりで世界最強の人物と、日本最強クラスの人であるのは間違いない。二人が並んでいるのを見ただけでも、諸国家の元首クラスが顔を青くするような組み合わせだ。

 そんな人たちと知り合いになるなんて人生わからないなーと現実逃避をしつつ、真耶は今の時点で判明した事実の説明を開始した。

 

 

「端的に言いますと、先日襲撃してきたゴーレムⅠに酷似した無人機。あの機体に搭載されていたコアは、ISコアではありません」

「ISコアではない? どういう意味だ」

「あー。そういえば真宏くんが、白鐡が今回の無人機のコアは食べさせようとしたけどそっぽ向かれたって言ってましたね。やっぱりそのせいでおいしくないんでしょうか」

「またそんなことをしていたのかあいつはっ。ダーク強羅とやらのときは事故だったようだから敢えて問いただしもしなかったが……っ」

「えーと、説明を戻しますね。色々と調査をしてみたんですが、ISコアらしい人間と接触した時の反応が見られないんです。機体に戻すと活性化はするんですけど、それも再起動を促すほどじゃなくて……おそらく、通常のコアより純度、エネルギー総量、そういったものが低いんだと思います」

 

 真耶が伝えるのは、ゴーレムⅠのコアについて。調査の結果判明した事実は、これが通常のISコアとしての転用が不可能、ということであった。

 専用機持ちタッグトーナメントの際に鹵獲したコアは機体さえ用意すればそのまま有人ISを作ることも可能なものであったのだが、今回はどうやら数を揃えるために用意した無人機での量産前提用のものであったようだ。

 

「……」

 

 千冬は、してやられたと思う。

 今回の事件の目的は、まず間違いなく自分に暮桜を起動させること。そのためにIS学園を襲撃し、なおかつ多数の無人機を投入して危機感をあおり、さらには撃破後にコアが世界へ流出する可能性を演出して見せた。しかし現実にはこの通り、仮にこのコアがファントム・タスク経由で各国に渡ったとしても、世界の軍事バランスを揺るがすようなことはなかっただろう。

 無論、このコアを再生して無人機を量産するのであれば話は別だが、そんなことができる人物など、篠ノ之束を置いて他にいない。

 

 

 長年の経験から、千冬はある確信を持っている。

 それすなわち、束は千冬にとって不利益になるようなことはしない、というものだ。

 自らが身内と認める数人以外のことは極めて無関心な束であるが、だからこそ千冬や一夏、箒には溺愛と言っていいほどの感情を向けている。

 そんな束の関係者らしい、あのラウラに似た少女が起こした事件が本格的に千冬の根幹を揺らがせるようなことをしたので違和感を感じていたのだが、まさかこんな手段を使えたとは。

 やはり自分ですらまだ束の手の内は見通しきれていないのだと、状況の不利を痛感した。

 

 考えなければならないことは山ほどある。今現在肌身で直接感じている世界の情勢は変化を続け、何が起こるかわからないこともあり、不安と苛立ちが募る。

 だがそれでも前に進むため、千冬は今を必死に生きると決めたのだ。

 

「まあ、いい。ならば引き続き調査を頼む」

「はい。……ところで織斑先生。今日の会議、どうでした?」

「ん? ああ、国際IS委員会の小会議か。……いつも通りだ。これまでも何度か学園への襲撃はあったというのに、この期に及んで何故か急に事件の説明とIS学園の警備体制改善案の報告をしろと来た。……もっとも、会議参加者の目的はその後の私に対する露骨なまでの勧誘と、無人機のコアがいくつか回収されたのではないかと探りを入れることだったのだろうがな」

 

 普段から真面目な表情を崩さない千冬が、珍しくうんざりとした様子を隠さずに言った。つまり、それだけ心労の溜まる内容だったのだろう。

 

 千冬が呼び出されたのは、語った通りに国際IS委員会に名を連ねるお歴々が待ち構えてのもの。「小会議」とは名ばかりで、その実かなりの有力者ばかりが雁首を揃えて千冬の報告を聞き、その後のロビー活動こそ本命とばかりに政治的暗闘が繰り広げられたのだろう。

 これまでも世界最強兵器たるISを操り、なおその操縦者の中で最強の座にある千冬はそういった場に晒されることもあったのだが、だからと言って簡単に慣れることのできる類の物ではないだろうと、真耶は思う。

 自分も大概キツイ仕事させられている自覚はあるが、千冬はそれよりなお一層の重責を担っている。

 

「はー、やっぱり千冬さんは大変なんですねえ」

「そこで人ごとのように言えるお前の立場が時々本当にうらやましいぞ。……それよりも、ワカ。お前からも意見を聞かせてくれ。あの事件、それから最近の動静に対するIS関連企業の間の非公式見解でかまわん」

「非公式ですか? そーですねー……」

 

 そしてワカを連れてきた理由が、これだ。

 なにせワカは、IS業界において極めて広く顔が利く。

 強羅という、彼女の専用機がやたらと頑丈であり各種装備の試験を担ってきた実績から各国の研究機関や企業が開発した装備のテストを手伝うこともあり、同時にかの世界的に有名な装甲偏重の変態企業においてIS関連の渉外担当も任されている、ぶっちゃけ責任者なのだ。公式な試合に出場したことはないので一般的な知名度はないに等しいが、業界内では知る人ぞ知る存在だった。

 ゆえにISに関係する人脈は尋常なものではなく、当人のやたら人懐っこく幼げな性格もあって色々と事情に精通している。

 

 そんなワカが持つ情報は、今のIS学園にとってはなにより貴重なものとなる。

 無論、千冬はこうして地下特別区画までわざわざ招く程度にはワカのことを信頼しているが、それでも慈善事業で情報を提供するなどということはありえない。ワカが、ひいては蔵王重工がIS学園に恩を売ることで得られる利益があるだろうと判断してこそ、千冬もワカを連れて来たのだ。

 

 元より蔵王重工は親IS学園派であり、これまでもいくらかの出資や武器弾薬、整備体勢の支援やグループ企業による学園施設の建設でも協力してくれている。一蓮托生というわけではないが、それでもIS学園の有利こそ蔵王の利益につながりうる。その構図を利用した形だ。

 

 今のIS学園はなにより情報が欲しい。世界各国、各企業の思惑。そしてIS学園がどのように見られているのか。それらを把握しなければ道を誤りかねない。そんな危惧が常にあるのだから。

 

「やっぱりIS学園の体勢は不透明だなーっていうのはみんな言ってますね。あとさっき話に出てきた無人機のコア。いくらか抱え込んでいるだろうって噂になってます」

「そんなっ、隠蔽工作はしてるんですよ!?」

「だから、噂に留まっているのだろう。無人機による襲撃があったことは国際IS委員会に報告してある以上、邪推すれば当然至るべき結論だ。……その噂は周知と思った方がいいな」

「はい、また無人機が襲撃したっていうのは公式発表で私も聞きましたし、そういう陰謀ってありそうですよねー。……あの日私も潜り込めてたらよかったんですけどねえ。久々に大暴れできそうだったのにー」

「そ、それだけは勘弁してもらえませんかっ!? ワカさんが本気で戦ったらIS学園なんて半分くらい海に沈みかねないんですから!」

「えへへ、そんな風に褒められると照れちゃいますっ。……まあそれはさておき、私が会った人たちは、無人機がたくさん出て来て全部撃墜されたみたいだけど、ISコアはやたら頑丈なんでそうそう簡単に砕けたりするとは思えない、って口を揃えて言ってました。確証はないけど状況証拠からして確信できる、っていうのが最近の流行です」

「……はぁ」

 

 ため息は、千冬のもの。

 ワカから聞かされた内容は予想を大きく外れる話ではなく、まだ対応可能なものではあったが、だからといって愉快になれるものでもなかった。

 無人機から回収したいくつかのコアを保有している件を完全に隠し通せるとは思っていなかったが、まさか状況証拠だけからもそこまでの確信に至ってしまうとは。確かに事件を客観的に考えれば自然な考えではあるが、そんな慧眼が喜ばしいはずもない。

 

「あー、それから千冬さんが暮桜をまた持ちだしたことはちょっと驚かれてましたね。てっきりもう引退するんじゃないかなー、するといいなーってみんな戦々恐々してたみたいですから。……ていうか、よく起動できましたね。コアは眠らせてましたし、いっそコアに嫌われてそのまま寝ててくれればいいのにってくらい機体を改造してたんですよね?」

「……ああ、その通りだ。暮桜が……暮桜のコアが起動したのは、これの力だ」

 

 しかも、まだ悩みの種はある。

 それこそ千冬が今も肌身離さず持ち歩いて守っているもの。ポケットの中から取り出せるほどの小さく黒い塊。

 先日大量の無人機とファントム・タスクの刺客が襲撃してきたあの日に渡されたもの。黒鍵だ。

 

「これは、黒鍵。機能や性質についてはよくわからない部分も多いが……ISコアを活性化させ、休眠状態にあるコアでも半ば強制的に目覚めさせることができる。しかも、それによって目覚めたコアの引きだす性能はこちらが想定していた以上のものだった」

「なるほど、それを使ってフレームからスラスターからほとんど総とっかえされた暮桜に起きてもらった、と。……アレですね。強い敵にやられて心肺停止したヒーローが電気ショックで蘇ったら、町一つ消し飛ばすよーなキックを放てるようになるみたいなものですか」

「なんだその不穏当なたとえは」

「でも……それって、下手すると世界レベルの争奪戦を起こしません? ってゆーか、まさか無人機のコアも起こせるんじゃないですか?」

「可能性は、あるな」

 

 掌の上で黒曜石のような輝きを放つ黒鍵を弄びながら千冬はこぼす。

 ……自分が二度とは使いたくないと思っていた暮桜を再び目覚めさせることになった元凶にして、存在を知られれば無人機の存在以上に世界を揺るがしかねないISの始動キー。仮に黒鍵をどこかの国が手に入れ、自国の保有するISコアを一端全て初期化した上で全てに黒鍵による起動を適用すれば。

 国際IS委員会によって割り振られたコアの数がもたらす軍事的均衡は崩壊し、世界に混乱を招くだろうことは間違いない。こんな、手の中に収まるたった一本の鍵で、である。

 

 世界の不安定さは想像を絶する。手の中でくるくると回る鍵は世界の土台をすら同じく揺るがしているような錯覚を生み、千冬に苦悩を刻み込んだ。

 

「でっ、でもコアの起動と言えば、ワカさんの機体のコアはどうしてたんですか? 確か今の強羅より前に一機、別の機体に使ってましたよね」

「ええ、そうです。あの頃も懐かしいですねえ……」

 

 だからこそ真耶は少々話題を変える。

 真耶もなんだかんだでワカとは同年代のIS操縦者だ。ゆえに現役の頃から蔵王の、そしてワカの噂を耳にすることはあった。

 

 やれ蔵王が第一世代の量産型ISを手に入れただの、それを既に原型留めないくらいゴテゴテ装甲くっつけただの、そこにアホほど大量の火器を搭載しただのと。

 でもって呆れるほど大火力の武装を開発し、たまに他企業のテストを手伝ったり、その勢いで他のテストパイロットと模擬戦して丸焼きにしたなどなど、時に耳を疑うような話も多かった。

 

 そんなワカに関する情報として、彼女の専用機として強羅よりさらにもう一代前の機体が存在していた、というものがある。

 蔵王はIS開発黎明期から装備の開発においては一定以上のシェアを占めているが、機体の開発実績は強羅以外にない。ゆえに第二世代機たる強羅を開発するまでの間は、第一世代の機体を改造して使っていたのだという。

 

 つまり、旧試験機と今の強羅の間で機体の乗り換え、ひいてはコアの初期化が行われているということだ。

 

「あ、あー……。それなんですけど、確かこれって千冬さんにも言ってませんでしたよね」

「なんだ、何かやましいことがあるとでも言うつもりか」

「いえいえ滅相もない。……ただ」

「ただ……なんですか?」

 

 しかし忘れてはいけない。

 蔵王重工に、常識は通じないということを。

 

 

「強羅のコアって、初期化せずに乗り換えたんですよ」

「……は?」

 

 そして割とあっさり口にされたのは、そんな言葉である。

 

「……待て。とにかく待て、ワカ。お前と蔵王重工が常識外れだというのは知っているが、一体どういうことだ!?」

「い、いやー。うちのISって、前の機体のころからさんざん魔改造に次ぐ魔改造を続けてたんで、なんかコアもそう言うのに慣れちゃったらしくて。試しに新造した強羅の機体にひょいっとコアを乗せ換えてみたら、ちょっと大がかりな改造かな、くらいに思って受け入れてくれたんですよ」

 

 あははははー、と照れたような誤魔化し笑いを浮かべるワカ。

 世界中のIS関係者が、新たな機体を作るときはこれまでの経験や技量の全ての詰まったコアを、涙を飲んで初期化しているというのに蔵王はといえばご覧の有様なのだという。

 

 ある意味黒鍵以上に世界にとっての脅威なのではなかろうか。千冬がそう思ってしまうのも、無理なことではあるまいよ。

 

 

「……ふっ、やはりお前はどこまで行ってもワカなのだな」

「当たり前じゃないですか千冬さん。私は蔵王のIS使いとして、グレネー道をどこまでも進んでいきますよ」

「そ、それはよしたほうがいいんじゃ……」

 

 しかし、ワカの荒唐無稽さはこの場の空気を少しだけほぐしてくれた。

 

 世界に忍びよる混迷の気配はいまだ全貌すら見えず、行く末は想像もつかない。

 だがそんな時に必要なことは、まずなによりもすかさず脅威に立ち向かうこと。この場に集った三人はそのことを知っている。

 力がある限り、守りたい物を守る。

 お互いの顔に浮かぶ笑顔を見て、三者三様にその決意を心に秘めた。

 

 

◇◆◇

 

 

「はっ、はっ、はっ……」

「一夏、ペース上げすぎだぞ」

「なんの、大丈夫だって」

 

 朝もやにかすむIS学園敷地内。この時期では日が昇っているかも怪しいこの時間帯から、学園内を周回するコースに沿ってランニングに励む二人の生徒がいた。

 

 時に声をかけあい、少々早めながら適度なペースを保っている……ように見せかけて、その実相手だけ先行させてなるものかと無駄な意地の張り合いをしていたりする。

 この毎朝のランニングをしているのは、俺と一夏だ。なんだかんだとIS学園入学直後から今も変わらず続いている、二人の朝の日課である。あのころに比べたらペースもだんだん速くなってきたなーと、たまに回想するときもあるくらいには習慣づいている。

 

 ランニング、とはいいしなそれをしているのは俺と一夏の二人。普段ならば、このままやたらと意地を張ってさらにペースを上げていってランニングのゴールである寮に到着する直前には全力疾走のスプリントになり、勝負を決することになる。

 最近では段々とスプリント開始地点が早くなり、二人揃って寮の入り口でぜえぜえ息を荒げてなにやってんだ俺らは、と色んな意味で疲労感にさいなまれるのだが、この日は少々事情が違った。

 

 ピタリ、と一夏が足を止める。

 

「? ……なあ真宏、今何か聞こえなかったか?」

「聞こえたな。銃声みたいだ。……確かこのあたりは射撃場が近かったから、誰か練習してるんだろ。見に行くか?」

「ん、そうだな。別に急ぐわけじゃないし、たまにはいいか」

 

 普段ならば聞こえない銃声何ぞがしたために、俺も一夏もちょっと気になった。

 別になんぞ悪いことが起きている、なんて考えるほど警戒しているわけでもないが、それでもこんな朝早くから射撃訓練などしているのは一体誰なのか。なんとなーく知りたい気分になったんだ。

 

 

「ふむ……さすがに狙撃ではセシリアに負けるか」

「ええ、わたくしにも意地がありますもの。でも拳銃での単位時間当たりの正確さではとても敵いませんわ」

 

「あれ、ラウラにセシリア」

「あんまり見ない組み合わせだな。場所的にはぴったりだけど」

 

 俺達の耳にも届いていた音はまさしく銃声であった。そして射撃訓練をしていたのは、セシリアとラウラ。天井のない屋外型の施設の中、直線距離で200mほど離れた位置に置かれた的を狙う、狙撃訓練用のレーンに二人はいた。

 

「あら、一夏さんに真宏さん。朝のランニングですか」

「そういえば、毎朝走っているのだったか。基礎体力の向上にはよいことだ」

 

 俺達の姿を認め、二人は腹這いになっていた体を起こす。

 学園の制服ともISスーツとも違う、つなぎか何かにも見える訓練服を着ている姿というのは存外珍しく、その格好からもこの時間からかなり真面目に訓練をしていたのだと知れた。

 

「そういう二人は珍しいな。こんな時間に狙撃訓練だなんて」

「ええまあ、確かに。ラウラさんから狙撃を教えて欲しいと頼まれましたの」

「そうなのか」

「ああ。セシリアの狙撃技術はIS学園随一だ。一度教示を受けたいと思っていたのでな」

 

 立ち上がってくる二人は似たような服であるが、手に持つ狙撃銃の物々しさはISも展開せず生身の女の子が持つ物としては中々に不釣り合いだ。まあ、俺なんかからすればむしろそういうのも燃えるのだが。

 というか、両手で持っているとはいえ平然と狙撃銃を持って揺らぎもしないあたりはさすがに代表候補生といったところだろう。腕力は無論のこと、特にセシリアはこの手の武装の扱いに極めて習熟していればこそのことだ。

 華やかとは決して言えない服装であろうとも、手に持つものが日傘とかそんなんでなく無骨な銃であろうとも、淑女然とした佇まいはさすがだし、ラウラも狙撃銃が体の一部であるかのようだった。

 

「ほー、あんなところの的狙ってるのか」

「そうですわ。実践の場や本国の訓練施設では、さらにもっと離れた的を狙えるところもありましたけどIS学園ではこれが限界ですわね」

「とはいえ、根本的な技術の鍛錬に支障はない。セシリアのアドバイスはためになるぞ」

「なるほどなあ。……俺はどうにも狙撃って性に合わなくて苦手だけど。近づいてグレネードぶっ放す方が得意だわ」

「ホントにな。自分も爆発に巻き込まれるような距離でも構わずグレネード使うもんな。……俺も雪羅に荷電粒子砲があるから、少しは射撃も練習しないと」

「あら、わたくしでよければいつでもお手伝いしますわよ」

「ん、ありがとな。セシリア」

 

 そんなこんなで珍しい時間に珍しいところで偶然顔を合わせた俺達四人。お互いに訓練の合間の雑談ということで、他愛のない会話が弾んでいる。

 狙撃技術に関する専門的な話題になると俺達二人は途端についていけなくなるのだが、弾種や銃の整備、風や湿度が弾道に及ぼす影響から、さらにはコリオリの加速度などという言葉まで飛び出すに至り、俺には二人がゴルゴかあるいは左目義眼でポーカー上手な人に見え始めた。

 

「まあ、それでもわたくしに狙撃を教えてくれた方達にはまだまだ及びませんわ」

「狙撃を教えた……ってことはセシリアの師匠か。一体どんな人たちだったんだ?」

 

 そして、セシリアの言葉には少々の驚きを感じた。

 セシリアとてISやら狙撃やら、それはもう特訓を繰り返して今の実力を身につけたのだというのは想像のつくところだが、そうしてIS学園内でも頭一つ抜けた狙撃の実力を持つセシリアがこうまで素直に実力を認めるような相手とはどんな人なのか、大変興味深い。

 ……まさか、狙撃兵を育てる伝説の怪鳥ケワタガモとか言わないよな。

 あれを撃ってると人間の領域を越えるともっぱらの噂だが。

 

「さすがに教官は人間ですわ、真宏さん。わたくしに狙撃を教えてくれたのは、アイルランド出身の双子の男性でしてよ」

「男? ますます意外だ」

「ええ、もっともですわ。ISがあるこの時代でなお狙撃の教官を務めておられるくらいですから」

 

 恩師の姿を思い浮かべているだろうセシリアは遠い目で空を見上げていた。ほんの数年前のことだろうが、きっと男を見下していた傾向のある当時と、一夏に惚れてちょっとは男という生き物を見直した今とではまた違った感慨があるのだろう。

 その眼差しに宿る尊敬の色を見ればそのことはわかる……のだが、なんかちょっと苦笑が浮かんでもいたりするのは一体なぜだ。

 

「……ただお二人とも少々悪ふざけをする癖がありまして、わたくしも昔は色々なことを吹きこまれましたわ。アイルランドは狙撃の島だとか、そこで一番狙撃が上手い人が王様そげキングになるだとか、お二人のご先祖様は事実そげキングであったとか」

「……へぇー」

 

 ……でも、ケワタガモとかそういうのよりもっと性質悪い物の気がしてきた!

 

「で、でも実力は確かですのよ? 8000フィート以上離れたところからの狙撃を成功させたこともある方達ですもの。ですから、お二人は生身でありながらISにも匹敵する狙撃能力を持つということで、その実力を讃えて『ロックオン・ストラトス』と呼ばれていますわ」

 

 ちなみに、狙撃の世界記録として昔聞いた距離が8120フィート、約2.5km離れた目標の狙撃らしい。

 

「そーなのかー……。ちなみに、その人たちの名前と、それからそげキングだという噂のご先祖さんの名前ってわかる?」

「教官達はディランディ家のニールさんとライルさんですわ。ご先祖様は確か……ウソップ卿とおっしゃって、大航海時代には8000人の部下を従えて海賊相手に勇猛果敢に戦ったのだとか」

 

 案の定か! イギリスって怖い国だなオイ。

 一夏とラウラは感心して聞いているのだが、俺は頭が痛くなってきた。なんだねこの片方死亡フラグの立ってる双子の狙撃屋さんは。アレか、ひょっとしてファントム・タスクって戦争根絶を掲げる組織だったりするんだろうか。セシリアの言葉からそんな情景が浮かんでしょうがねえ!

 

「ふむ、しかしそれならばドイツにも似たような者がいたな。軍の中でも有名なお調子者であったが、実力は確かだと言う話だぞ」

「……ひょっとして、その方は教官からお話に聞いたことがあるかも知れませんわね。お名前はご存知ですか?」

 

 あれ、しかもなんかラウラまで言い出した。

 そりゃあ、各国軍に一人くらいは優秀な狙撃兵がいたっておかしくはないけど、今この話の流れでドイツの狙撃手となると、候補は一人しかいないよーな

 

「ああ、覚えている。名は確か……クルツ・ウェーバーというのだったか」

「……ソウデスカー」

 

 なんかもはや、棒読みでの適当な相槌でも許される気がしてきた。

 そりゃあ狙撃得意だろうよ! 色んな境遇似てる気もするしね! ……なんと言うか、世界は本当におそろしい。いつぞやダリル先輩に例のおじさんのことを聞いたら昔は軍に所属してたけど今はコックやってるって話だったし。しかも日本で店開いてるから、今度連れて行ってやろうとかも言われたし。

 実のところ、女尊男卑なんて噂の上だけの現象なんじゃなかろーかと思うことも、たまにあるのであった。

 

 

 まあそんな感じの見過ごし難いこともありはしたが、基本的に楽しい時間であった、ということにしておこう。

 

 セシリアもラウラも、何も語りはしなかったがこの訓練をただ気が向いたという理由だけでやっていたとは思えない。

 一カ月近く前、一夏は織斑マドカという鏡写しのようによく似た存在を改めて目の当たりにし、マドカの使っていたISサイレント・ゼフィルスはセシリアとの因縁が深い。

 さらにはそのとき初めて姿を見せた少女はラウラの妹と言っていい境遇にある。彼女が操るG3-XというISに搭載されていたVTシステムのことも、ラウラにとっては無視できないことだろう。

 

 俺達は、強くならなければいけない。

 きっと誰もがそう思っている。

 

 

◇◆◇

 

 

「じゃあ一夏、約束通りに」

「覚悟はいいでしょうね」

「覚悟ってなんだよ、覚悟って。まあ、喜んで味見させてもらうさ」

 

 昼休み、IS学園一年一組の教室にそこはかとなく緊迫した空気が漂っていた。

 

 シチュエーション自体は、ほの甘いものだ。

 一人の男子生徒に二人の女子が可愛らしい色と柄の布で包まれた弁当箱を差し出しているという、修羅場になりかねない男女比に目をつぶれば微笑ましい青春の1ページと言えるこの状況。

 ちなみにこれほど面白そうな場面に真宏がいないのは、同じく弁当を作ってきた簪に呼び出されたからだ。今頃二人きりになれる場所を見つけて、爆発しろと言いたくなるほど仲睦まじくランチを楽しんでいることだろう。

 

 ともあれ、こちらで弁当箱を差し出す二人の乙女、シャルロットと鈴の目に宿る光は極めて真剣だ。

 具体的には、背後に不良新聞記者と海なんだか山なんだかわからないやたら厳しそうなおっさんのオーラが見えるくらいには。

 教室内の他の生徒達も気づいている。これは二人の乙女のプライドをかけた本気の勝負。思い人へのお弁当作りというイベントに際し、どちらがより相手の心を掴めるかという戦いなのであることを。

 

「心して味わうがいいわ。今日のメニューは麻婆豆腐よ」

「僕のほうは肉じゃがを作ってみたんだ。たくさん食べてね」

 

 鈴もシャルロットも、しっかりと料理の練習を積んでいる。なにせ相手は積年の主夫業を経て、そんじょそこらの女の子が片手間に作った程度の料理は蹴散らせるほどの腕を持つ。そんな一夏に喜んでもらうため、頑張っておいしい物を作りたいと言うその心、まさしく乙女の為せる技であろう。

 

「それじゃあ、いただきます」

 

 一方の一夏は、そんな思いを知ってか知らずか……いや、普段の性格を思えば確実に知らないだろうが、それでも二人の作ってくれた料理を負けないくらいの真剣さで口に運ぶ。一応この弁当作りの口実は、二人ともそろそろ自分の作った料理の味を一夏に見てもらいたいという体になっているので当然のことではあるだろう。

 丁寧にいただきますと言うのはしっかりとしたしつけの証。少女達は一夏のこういうところを見る度に好感を覚え、……それと同時に「千冬さんの逆光源氏計画」という言葉が脳裏を過ぎるのは気のせいだ、と必死で自分に言い聞かせていたりする。

 

「もぐもぐ」

「ど、どうよ……」

「おいしいかな、一夏……?」

 

 

「……ん、どっちもすごく美味いな。シャッキリポンと舌の上で踊るよ」

「ホント!?」

「よかったぁ……」

「待て、その評価は本当に麻婆豆腐と肉じゃがに対するものなのか」

 

 一夏の言葉に嘘はあるまい。思わず浮かんだ優しい笑顔と、その後も箸を止めずに食べ進めていく健啖ぶりがなによりの証拠だ。食べっぷりの良さは作り手にとって何よりのご褒美で、シャルロットも鈴も、釣られてとてもうれしそうに笑っていた。まあ言葉の選び方にはツッコミ所もあるのだが。

 

「まあ当然だけどね。この私が作ったんだから。中国にいる時から、たくさん練習したのよ」

「へぇ……。やっぱり誰かに教わったのか?」

「そうよ。……いつもおやっさんて呼んでたから結局名前は聞けなかったなあ。でも、色んな事を教えてくれたわよ」

 

 

『火を恐れるな! 火を支配するのだ~!!』

『サンキューおやっさん! 面白いように野菜が揚がるわ!』

 

 

「て感じで。他の弟子の人たちからは『火の王』って呼ばれてたみたい」

「なるほど、中華料理は火力が命だからな」

 

 などと一夏は感心しているが、この場にもし真宏がいた場合、鈴がそのうち火の剣とか使い出さないか不安に駆られていたことだろう。

 

「僕は、料理部に入ってから教わったのが多いかな」

「そういえば、料理部ってどんな感じなんだ? まだ部活貸出でも行ったことないから雰囲気知らないんだけど」

「あー……。あははは、た、楽しいところだよ? 部長は……ちょっと厳しいけど」

「厳しい……って、どんな感じなのよ?」

「うん、孔雀院部長って言うんだけど……」

 

 

『そんなか細い腕で調理がマトモにできると思ってんの!? あの中華鍋をその細い手首でささえられると思ってんの!? 休まずメレンゲを作ることができるっていうの!?』

 

 

「……こんな感じ」

「へ、へぇー」

 

 シャルロットの語る料理部部長殿の武勇伝に、たらりと一筋汗を垂らす一夏。料理に対する命かけんばかりのマジすぎる姿勢もさることながら、IS学園に入学することのできた生徒を評して「か細い腕」扱いするあたりがシャレにならない。

 実際は普通に美人な上級生なのだが、このとき一夏の脳裏に逆三角形のボディを持ったマッスルレディが思い描かれたとして、責められる者など一人もいないであろう。

 

 なんだかんだで鈴も中国時代に代表候補生の管理官の人に料理を振舞ってみて凄絶にダメ出しをされたりしたようだし、シャルロットも料理を練習する傍らISの訓練ですらここまで厳しくあるまいと言うような基礎体力作りをして日々頑張っているらしい。

 こりゃあ自分もうかうかしていられないな、と一夏をして久々に料理を作りたいと思わせるほどの上達が、そこにはあったのだった。

 

 

「二人ともメイン以外に色々入ってるなあ。……ただシャルロット、このウィンナーは、何?」

「ああ、それ。ダゴさんウィンナーだよ」

「タコさんウィンナー?」

「ダゴさんウィンナー」

 

 ただまあなんてーの? 道は踏み外しちゃいけねーよなと思う。

 一夏としてはいままさにもしゃらもしゃらと食べているこのウィンナー。なんの肉でできているかだけは決して確認すまいと誓った。

 

 ……ちなみに、一夏は後日お返しとして主夫欲の赴くままに作った弁当を鈴とシャルロットに振舞い、年季の入った家庭料理の味という物を見せつけられることになるのだが、それは別の話である。

 

 

◇◆◇

 

 

 日が落ち、月が昇る夜の時刻。

 IS学園は全寮生であるために就寝時間が定められており、消灯時間を過ぎれば基本的に電気は消されるようになっている。

 ……まあ、強かなること兵士のごとしと噂されるIS学園生に対してそれがどれほどの効果を発揮しているのかはさっぱりわからないのだが、それでも建前上としては夕食の時間以降、生徒は寮を出ないことになっている。

 

 しかし、抜け出す方法や、抜け出してまでしたいことというのは案外あるものであるようで。

 

「二千万、四千万、六千万、八千万……一億ゥっ!」

「どういう数え方をしているんだ、お前は」

「あれ、箒」

 

 剣道部が使う板張りの剣道場の中。外からバレぬよう電気もつけず、高い位置にある格子窓から入る月の光だけを頼りに素振りに励む一夏と、その様子を見に来た箒の姿があった。

 一夏も箒も、こんな時間だと言うのに道着と袴という装いだ。

 

「今日は部活貸出で稽古をする暇がなかったからな。一夏のことだ、大方一人で鍛錬をしているだろうと思って来てみたのだが……案の定か」

「箒はお見通しか。……いや、別に大したことはしないよ。ちょっと素振りだけでもって思ってさ」

 

 喋りながらも、素振りの手は止めない一夏。なんだかんだとこの一カ月、どれほど忙しくともこの素振りだけは欠かさず続けているのだという。正しく剣を振るうことが剣道において基本中の基本であることは篠ノ之流においても変わらず、最初の頃はそれこそ目も当てられないほどに鈍りきっていた太刀筋も、一夏持ち前のセンスの良さと継続した鍛錬で大分往時の鋭さを取り戻してきた。

 もっとも、それでなお数年に渡って剣を握ってすらいなかった錆付き具合は払拭できていないのだが。

 

「大分マシになってきてはいるな。……どうだ、実感は」

「うー……ん。多少は勘を取り戻せたとは思うんだけど……やっぱりまだまだだな。千冬姉の太刀筋もほとんど見えないままだし」

「千冬さんは例外だ。正直、私もあの人の強さは底が見えん」

 

 月明かりの剣道場だ。男女二人の密会の場としては少々情緒が足りないようにも思えるが、箒にとっては昔から馴染みのある静謐な空間であり、一夏にしても己を鍛える大切なところだ。

 

 そんな二人が揃っていれば、子供のころを思い出す。

 きりのいいところで素振りを終えた一夏は、休憩がてら道場の隅に座って箒と話をすることにした。

 

 

 本当に、どうということのない話だ。

 一夏と箒、それに千冬と真宏を加えた四人で篠ノ之道場に通っていたころの思い出。一夏は今より無愛想で、千冬さんはどこか鋭すぎる空気を身に纏っていたが、それでも真宏を含めたみんなで鍛錬をするのは楽しかった。

 一夏などはあっという間に実力を上げていき箒以上の腕を身につけていたが、真宏だけはいつまでたっても進歩がなく、千冬さんや箒の父に稽古をつけてもらえるときはギタギタにされていた。

 ……まあ、それでもあの頃から真宏の頑丈さは折り紙つきで、一夏や箒以上にボコボコにされつつも一夏や箒以上に長い時間立っていられたのだが。その経験が今の強羅での戦い方に生かされているのだろう。

 

「そんなこともあったよなあ」

「ああ、あったとも」

 

 IS学園に入学したての頃こそ、箒は一夏とぎくしゃくした噛みあわない部分を感じていた。剣を捨て、腕を錆つかせていたのはもちろんのこと、自分自身もまたずっと会いたいと願っていた一夏にいざ対面して、どうすればいいのかわからないところがあった。

 それでも一夏は……そしてついでに真宏は、変わっていなかった。真宏の方は強羅という水を得た魚のようにやたらテンションが高かったりもしたのだが、元々あんな感じだったので問題ない。

 そして一夏もかつて想いを寄せていた頃と同じような優しさを失っていなかった。

 

「……一夏、一つだけ聞いていいか」

「なんだ、箒?」

 

 しかし、だからこそ今の一夏のこの変化は箒に取って見過ごし難い。

 IS学園の授業に部活貸出、専用機持ちを中心とした自主練習。さらにはこうして一人夜の剣道場での素振りに至るまで、一夏はこれまで以上に力を求めている。

それが間違ったことだとは思わない。箒とて剣士のはしくれであるから強くなりたいという気持ちはわかるし、何よりかつて自分が求めた力がただの暴力であったと深い反省をその心に刻んでいる身だ。

 その経験が、一夏の目に宿る光は真摯なものだと教えてくれる。闇雲に、ただ力を得るためだけの鍛錬ではなく、自分が為すべきだと思ったことのため、まっすぐに求める力なのであろうと。

 

「織斑マドカ、と言ったか。あのサイレント・ゼフィルスの操縦者がまた現れたら……お前はどうする?」

「……」

 

 では、一夏の為すべきこととは一体何なのか。それだけは、どうしても聞いておきたい。

 一夏がこうして徹底的に鍛え直しているのは間違いなくあの少女のためだ。

 次にマドカと出会うとき、一夏はその日のためにこそ自らを鍛えているのだろう。真宏あたりであるならば、男同士だからとか言う理由で言葉もなく無駄にわかりあえるのだろうが、箒の場合はそうはいかない。一夏の口から、教えて欲しい。

 

「……どうするかは、どうしたらいいのかは、まだわからない。この前のときだって、あの手を掴みたかったけど、できなかった」

「……そうだな」

 

 一夏と真宏がサイレント・ゼフィルスと対峙したあの戦いの顛末は、箒もある程度は把握している。二人がかりでなんとか押さえ込み、一夏が説得をしたがそれでも想いは届かずに終わってしまったのだと。

 そのことを悔いているだろうことは、想像するまでもなくわかっていることだ。だから次はもっとこの手を伸ばせるように。一夏が願っているのはそういうことのはずだ。

 

「実は俺、今の生活が気に入ってるんだ。箒がいて、千冬姉がいて、真宏がいて、みんなと一緒で。すごく楽しくて、大切なものだと思う」

「ああ、私もそう思う」

「でも、もしあいつがそういう物を知らないんだったら……俺は、教えてやりたい。千冬姉は確かに自慢の姉だけど、それ以外にもすごい物や楽しい物がたくさんあるっていうことを……マドカにも伝えたい」

「……そうか」

 

 だから、あの手を今度こそ。

 薄暗い月の明かりが照らすなか、それでも真剣な表情で拳を握った一夏の横顔は真剣だった。

 

「……よし! ならばお前の鍛錬、私も付き合おう。少々暗いが、一手どうだ」

「ん、そうだな。そういうのも案外練習になるかもしれない。それじゃあ箒、よろしく頼む」

 

 一夏の心はまっすぐだ。そのことが箒にはとてもうれしい。ずっと見つめてきた一夏という少年の心根が、自分のように歪んでしまわなかったことが何よりの喜びだ。

 この気持ちを表す方法を、残念ながら箒は知らない。言葉で語り合うことはどうしても苦手だ。

 しかし剣ならば話は別。強くなりたいという一夏の願いを叶えてやるためにも、今はこれが最良だろうと箒は思う。

 

 剣道場の中央に向かい合い、薄闇に眼を凝らすのではなく全身の感覚を総動員して相手を探り、剣を振るう。古流の息を残す篠ノ之流の修行においてもまれに実践される闇の中の試合。

 

 箒は彼女なりに一夏のことを想っている。わずかな時間ではあるが研ぎ澄まされた感覚で互いを見つめあうこの瞬間。その思いは、きっと一夏にも届いたことだろう。

 

 

◇◆◇

 

 

「……で、なんだかんだでいつものようにみんなと色々あって、最後は結局俺の部屋に来た、と」

「やっぱり真宏の部屋は落ち着くからな」

 

 などと、ベッドに寝転んでいる一夏が言っている。

 今日の分のアニメやら特撮のDVDやらを堪能し、ゲームで激しく反射神経を鍛えてさあ寝るかと考え出した時間、その寸前に一夏が部屋に現れ、当たり前のようにこの部屋に居座ったのだ。

 俺と一夏は、この学園にたった二人の男子生徒だ。これまでもこういうことは数限りなくあったし、逆に俺が一夏の部屋に押し掛けることもあった。

 

 しかもいつの間にやら互いが訪問したときはその部屋の主が茶を淹れるというルールができていて、つまり今日は俺の番ということになる。……友達が遊びに来たら茶を入れるくらいは普通だし、一夏が淹れた茶も美味いからいいんだけど、もしIS学園に生息する俺の宿敵たる猛者達に知られたらまた薄い本が厚くなりそうだなーとか、可能な限り考えないようにしよう。

 

 今日は流石に夜も遅いし、一夏はやたらと健康志向なところがあるから茶菓子はなし。外は寒いし、一夏のことだからきっと冷え冷えとした剣道場で素振りの一つもやってきたはずだから、少し熱めの茶にしておくか。

 

「ほれ、緑茶。粗茶だがな」

「サンキュ、真宏」

 

 茶を入れる間に一夏は今日あったことをなんとなしに話して聞かせて来ていたが、テーブルに茶椀を置くとその前にどかりと座り込んだ。

 ちなみにこうして聞かされた一夏の近況報告の多くは、俺を経由して右から左で千冬さんへ筒抜けになっていたりするんだけどね?。

 

 まったく、この姉弟は本当に仲がいい。

 元々わかっていたことではあるが、最近ではなお一層磨きがかかっているように思う。

 別に、一夏が千冬さんに甘えたり逆に千冬さんが一夏にべったり依存したりしているわけではない。せいぜい触れ合うことといえば授業か自主訓練のときくらいなのだが、今は千冬さんがたまに一夏の鍛錬に付き合ってくれている。

 毎度俺もまとめてボッコボコにされてはいるのだが、それも全て一夏の成長を思えばこそ。千冬さんは元々かなりの恥ずかしがり屋で、そう指摘するだけで鉄拳が飛んでくるような人だったから絶対に認めないだろうがそれでも二人の心はつながっている。

 

 親がいないという境遇を不幸とも感じさせないだけの強い絆があるのだ。

 ……しかし、今の一夏はそのことに罪悪感を感じている。自分の浴する幸せが、本当に自分のものでよかったのだろうかと。脳裏に千冬さんによく似た少女の面影がちらつくたびに思うのだと、数日前に語っていた。

 

「なあ、真宏。……俺、少しは強くなれたかな」

「さあて。それを聞いてくるのは勝手だが、判断するのは俺じゃない」

 

 茶をすすり、顔をしかめる一夏。少し、茶が苦かったかね?

 

「相変わらず真宏は厳しいな。……でも、いつか必ず強くなきゃいけない時がくる。それも、きっとそう遠くないうちに」

「そうかもしれないな」

 

 俺は一夏の言葉を、肯定も否定もしない。

 一夏はなんだかんだで一度決めたことはやり通す男だ。剣道をすると決めたら懸命に腕を磨き、千冬さんのために家のことは全部やろうと決心すれば小学生ながら掃除も洗濯もしてのけたし、料理だって上達してみせた。

 俺のように家族が誰もいないから、それこそ生きるため切実に必要となったからではなく、家族のためにこそ一夏はこれまでの努力を積み重ねてきた。

 

 では、その家族が実はもう一人いるかもしれないとしたら。

 ……ま、やることは決まってるよな。

 

「どっちにしろ、答えは出てるんだろ。……だったら頑張るしかない。明日も千冬さんにしばき倒されようぜ。俺も付き合うからさ」

「すまん、真宏。……正直千冬姉に一人で立ち向かったら生きていられる気がしない」

「知ってるよ。子供の頃から知ってるよそんなことっ。昨日もお花畑見えたよ。その向こうでじーちゃんがムスッとしたまま珍しく『これも勉強だ』とか言ってたよ」

「それはかなりヤバくないか、色んな意味で!? 真宏の場合改造人間とか人造人間とか言われても割と通りそうなんだから!」

 

 だから、深刻になんかなりすぎるなよ一夏。

 せっかく家族が増えるかもしれないってのに、辛気臭い顔をしてたんじゃ縁起も悪い。千冬さんに聞かれたら命が危ないかなーくらいの冗談で笑い合うくらいが、俺達らしいってもんじゃないか。

 

 そんな、いつもと変わらないバカ話をしてその日は別れた。

 ここのところ鍛錬ばかりしていたから一夏の体が保つか少々心配ではあったんだが、少なくとも肉体的には問題ないらしい。俺が言うのもなんだが、呆れたタフさだ。

 だがそれでこそ一夏であるのだろう。そう思って俺はその日、いつものように眠りについた。

 

――朝起きたら、世界が一変しているとも知らず。

 

 

◇◆◇

 

 

 翌日。

 一夏との夜更かしが過ぎてしまったか、どうにも眠い。

 それでもいつもの習慣というのは恐ろしいもので、朝のランニングの定刻通りに目が覚めた。

 もはやこの半年以上で完全に慣れた朝の仕度としてまずはジャージに着替え、ランニング用のシューズを履いて寮の玄関へ向かう。今日も元気に一夏とのランニングが待っているのだからして。

 

 そして部屋を出ててくてくと歩き……談話室に辿り着いたとき、違和感に気がついた。

 この時間、部活の朝練や俺と同じようなランニングの類をする生徒、さらには朝っぱらから腹が減って早く起きてしまってカロリーと脂肪細胞の関係に悩み、悔しいっ、でも食べちゃう……っ! などと早飯にいそしむ子達など数人は起きているのだが……どうやら今日はそんな子たちが朝練にも自主練にも出ず、談話室に集まっているようで人垣を作っているようだった。

 みんな一様にこちらへ後頭部を向けていることから察するに、おそらくその向こう側に何か彼女らの気を引く物があるのだろう。

 あまりに密集しているので一体何があるかは全く見えないのだが……確か、そこにはテレビがあったはず。

 

 朝も早くからあそこまで注目を集めるテレビ。

 ……さぁて、一体何があったんだろうね。

 

「よう、おはよう。一体どうしたんだ」

「あっ、神上くん! 大変、大変だよ!!」

 

 年頃の乙女が大変と言うのだから、あるいはどこぞの人気アイドルグループかなんかが解散発表でもしたのかと一縷の望みをかけてはいたのだが、振り返った表情の真剣さがそんな楽観を否定する。

 やっぱりろくでもないことなのか、と半ばあきらめを抱きつつ人だかりに向かって歩いて行き、ひょいとみんなの頭の間からテレビを覗き込み。

 

 

「なん……だと……」

 

 

 想像を軽く数倍する驚きに目を見開き、割と本気でそんな言葉が口をつく。

 

 テレビの画面が映す映像、テロップの文字。

 ちらと横目に見た同級生達の緊張に歪み固唾を飲んだ表情。

 

 全てが現実離れしたほどの現実感を、否応なく俺に突きつけてきた。

 

「あれ、真宏……それにみんなも、どうしたんだ?」

「……一夏、ちょうどいい。ちょっとこのニュース見ろ」

 

 そんなときに一夏が現れたのは、まさしく最高のタイミングだった。さすがの事態に驚いた俺を現実に引き戻し、これから俺以上に驚いて見せてくれるだろう一夏が来たことで少しだけ落ち着くこともできた。

 だがそれでも、自分の声とは一瞬気付けないほどしわがれた声が一夏の名を呼んだことは、また別種の驚きだ。

 

 

 男女関係については鈍感なくせにこういうときだけ勘のいい一夏が深刻な雰囲気を感じ取ったのか、足早にこちらへ駆け寄ってきて……テレビを見る。

 女性との間をかき分けて画面を目にし、さっきの俺もそうだったのだろうと思うほど大きく目を見開き、唇を震わせるのは、ほぼ一瞬。

 

「どういう……ことだ……」

「よくはわからん。だから、しっかり見ておけ。……世界が終わるかもしれんぞ」

 

 目の前でデュエリスト同士がオーバーレイしたのを目の当たりにしたかのような一夏に対し、俺だって実のところさっきから心拍数が異常なほど上がって息苦しくなっているのだが、務めて冷静に語りかけた。

 

 

 それも、無理からぬことだろう。

 ニュースが伝えた、その内容。

 

 

『アメリカ、ワイオミング州に巨大ミサイル着弾』

『周辺に壊滅的な被害』

 

『犯行声明発表。名義は……ファントム・タスク』

 

「…………………………………………」

 

 誰ひとり声もなくニュースにくぎ付けになる俺達。

 アナウンサーが矢継ぎ早に語る情報はどれもこれもが大破壊を伝えるもので、ヘリコプターか何かによる空撮映像には都市部からさほど離れていない場所に刻まれた巨大なクレーターが映し出されている、衝撃的な光景があった。

 

 これまでの経緯から襲撃慣れしている俺達IS学園生であるが、これは明らかに被害規模が尋常なものではなく、また犯行声明は世界全てに宣戦布告したに等しいこと。

 

 

 誰ひとり逃れられない戦いが始まったのだと、その時俺達は肌身を持って感じていた。

 

 

 これが、世界全土を巻き込みIS学園とファントム・タスクの決着をつける一大事件の、始まりであった。


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