IS学園の中心で「ロマン」を叫んだ男   作:葉川柚介

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第31話「家族」

 誰もが押し黙っていた。

 

 自動車の往来が絶えない幹線道路が近くにあるわけでなし、IS学園の夜は元より騒々しいわけではないのだが、それでも生徒の精神の安定のためかはたまた見られては困るものがあるのか、学園の敷地内には結構な割合で木が植わっていたりするので、虫の声くらいなら耳をすませばいつでも聞こえてくるはずだ。

 

「…………」

「…………」

 

 しかし残念ながら、今はそういった音すらない。全ての生命が息をひそめているかのような、異常な静寂が降り積もるように満ちていた。

 

 ……だというのに、どうして心臓だけは緊迫感に溢れるビートを刻んでくれているのだろうか。

 

「……ハハッ、ハハハハハハハハ!! 会いたかった! 会いたかったよ……姉さん!!」

 

 言うまでもない。俺達の目の前に対峙する千冬さんと……いまだこの場では名乗っていないが、かつて織斑マドカと自称したサイレント・ゼフィルス操縦者がいるせいだ。

 

 状況はさっきからさほど変わっていない。不意打ちのレーザーを受けた鈴が箒に抱えられてセシリア達のいる校舎屋上へと下がり、無人機の相手をしていた先輩らも同様に距離を取って、無人機共すら動こうとしなかった。

 そして、全員が不気味なほど均等に距離を取って様子を窺う円陣の中心にいるのが千冬さんとマドカだった。

 

 マドカはサイレント・ゼフィルスを展開している。

 ISらしく空中に浮かび、片手に携えた長銃身のレーザーライフルはキャノンボール・ファストの時に取り落としたはずだが、代わりがあったのかはたまた回収したのか。鈴に一撃であそこまでダメージを与えたのだから、威力は少しも落ちていまい。あの時となんら変わらない、ベストの状態だ。

 一方で搭乗者はというと……何とも計りかねる。

 現れた直後は無言でいたというのに、千冬さんを前にしたとわかるや興奮に身を震わせだした。体の芯まで響きそうな笑い声はその発露に間違いなく、尋常ならざる声量はそれだけでこちらに不安を抱かせる。

 

「姉さん、姉さんなら覚えているだろう!? 私だよ!!」

「……」

 

「あっ、あれは……!」

「千冬さんと……同じ顔!?」

 

 何が起きたかわからないとばかり、呆然と成り行きを見守る一夏と俺以外、サイレント・ゼフィルスの操縦者の名前も顔も知らなかった。だからこそ今、目元を隠していたバイザーを額の位置までずりあげて露わになった顔に、誰もが今日何度目になるかもわからない驚きを示した。

 そこにあるのは、麗人と呼ぶのにふさわしい凛とした造作を持つ女性の顔。目を細く歪め、口の端が千切れるのではと危惧するほどに吊りあげられた歪んだ表情を別にすれば、千冬さんにとてもよく似た顔なのだから。

 

 対する千冬さんは、一切の無言。

 こちらはいつも通りのスーツ姿で、左手に何故か一振りの刀を持っているのが違和感と言えば違和感だ。

 おそらくあれは、IS用の装備。鞘におさめられてはいるが、鞘の形状やサイズ、ISの腕部が掴むのに適するように太さや構造が人の持つものとは違いがあるそれは、一夏の雪片弐型にどこか似た印象を感じさせる。

 本来ならばそんな物を生身の人間が持っていれば飛びきり目を引くであろうが、千冬さんの場合はそうはならない。あれだけのゴツイ刀など持っていればそれだけで体勢が揺らぐだろうに、天地を貫く柱のごとく体幹は不動にして自然体。まるで刀を持ってそこにあるのが当たり前であるような、森の奥にて数百年の樹齢を重ねた大樹のような安定感があった。

 まるで北海道のファミレスに生息すると言われる帯刀ウェイトレスのように違和感がない。

 

「……やっぱり、何もしゃべってくれないんだね、姉さん。わかっていた……わかっていたよ。IS学園に大量の無人機が現れるだろうから狩ってこいだなんて任務、怪しいとは思っていた。でもそれが好機だともわかっていたから、ねえ」

 

 マドカの言葉には、やはりと納得できる部分があった。

 IS学園にこういう襲撃事件が起きるのはもはや常識と言っていいが、無人機の襲撃に続いてファントム・タスクの刺客まで現れるとなると話が違ってくる。

 

 これまでに起きた事件の数々。それは俺の視点から観察すると、主に束さんが原因となる物とファントム・タスクが原因となるものに別れている。

 そして今回大量の無人機が襲撃してきたのは、さっきG3-Xの子が言っていた通り束さんの仕業であることは確実だろう。

 ではなぜ、そんなところに束さんとは関係ないはずのファントム・タスクの刺客が現れるのか。ISの強奪を目的としているかの組織からしてみればここがコアを稼ぐ絶好のチャンスだというのはわかるが、今日このときにこういう事件があるとわかっていたかのようなこの対応。一体どうして起きたのやら。

 少なくとも、どこからか情報がリークされたことは間違いない。

 

 疑問を抱いた俺の視線は、自然といまだ簪に支えられたままの少女へ向かう。

 絶対防御が発動したためまともに動けるわけではないようであるが、既にヴォーダン・オージェを閉じてぐったりと身を預けている、束さんに拾われたラウラの妹分である。

 

「……何を見ているのです」

『この状況、君の差し金じゃないかと思ってね』

「もはや隠す意味もないですから言ってしまいますと、おおむね正解です。というより、ああして織斑千冬がここに現れた時点で今回の私の役目は終わったも同然ですが」

 

 やっぱりか。

 これだけ大量の無人機を動員したんだから多分ろくでもないことを企んでいたんだとは思っていたけど……まさか、千冬さんをこうして引っ張り出すためとはね。

 無人機でIS学園の戦力を疲弊させたところに、ファントムタスクの刺客。しかも相手は無人機のコアを狙っているとなれば、千冬さんとて黙ってはいられないだろう。学園や専用機持ち自体にも甚大な被害が出かねないし、最悪の場合この場を襲撃してきた無人機のコアが世界に拡散する恐れもある。

 ここまでの事態となれば、そりゃあなんだってするだろう。それこそ、自分が戦うことを選ぶくらいに。

 

 

「……お前達、まずは無人機共を制圧する。手伝え」

「はっ、はい!」

 

 千冬さんはマドカの言葉に一切答えを返さぬまま、刀を自分の眼前へと構える。

 左手で鞘、右手で柄を持ち、水平に。

 そのまま両手を引けば抜刀することも可能となろう。そういう体勢だ。

 

「連中の目的はIS学園への侵攻だ。急げ。無人機の連中を鎮圧しろ」

「わ、わかりました教官!」

 

 そのまま周囲に指示を飛ばせば、一体誰が逆らえよう。

 千冬さんが構えを変えたことに伴って戦場の空気も自然と動く。

 マドカが凶相をより深めてライフルを構え直し、無人機達が再び突撃の体勢を取り、箒達動ける専用機持ちが各々の武装を掲げ。

 

 それら全てのうち一つでも終わらぬうちに。

 

「――ふっ!」

――……ギ?

 

 まず、一機。

 

 千冬さんが今まで居た位置からかき消えて見えたのと同時、千冬さんに最も近い位置にいた無人機が、いともたやすく胴体から真っ二つに切り裂かれた。

 

 何が起きたのかわからない、と言いたげなひと声を最後に落下していった無人機の背後に、今はもう珍しい第一世代機、暮桜を展開して刀を振り抜いた姿勢のままでいる、千冬さんを残して。

 

『……なあ簪、今の見えたか』

「……か、影くらい、なら」

「……ちなみに言っておきますと、私も目を開けていましたが残像しか見えませんでした。さすが、黒鍵で起動させられたISは違いますね」

 

 や、なんだ今の。ISを使うようになってからこっち、ハイパーセンサーのお陰で銃弾ですら見切れるんじゃないかと思う時があるってーのに、今の千冬さんの動きは一切見えなかったよ!?

 そりゃあもう、黒鍵がどうとか割と聞きながしちゃいけないことを口走っていたことにも気付かないくらいに驚いた。

 もちろんあの人のことだ。純粋な速度だけでなく相手の呼吸を外したり意識していない瞬間を狙ったりくらいのことはしているだろうけど、それでもヴォーダン・オージェ使ってても見えないってどういう人なんだ。

 

 

 千冬さんの姿は、携えた刀を抜刀した瞬間からISを装着したものへと変わっている。

 その姿、紛れもなく暮桜。おそらくあの刀が待機状態の暮桜そのものであり、抜刀を合図に展開されたのだろう。なにそれかっこいい。

 

 このISこそ、かつて世界最強の座を射止めたブレオンの第一世代機だ。

 とはいえ、さすがに数年の月日の経過かはたまた今日この日まで世間的に行方不明で通していたからか、俺の記憶と強羅の中にブチ込んでおいたかこのデータとの間には色々差異がみられる。

 暮桜は高機動ブレオンという、例のゲーム内での一夏みたいな千冬さんの戦闘スタイルに合わせた機体であったのだが、どうやらその傾向はより一層顕著になったらしい。

 

 極限まで絞り込まれた装甲面積の少なさ。空力と関節稼働範囲を1ミクロン単位まで考慮して成形された表面形状、そして背部アンロック・ユニットの大型スラスター。そういった、暮桜を暮桜たらしめている部位がことごとく再設計でもされたらしく変えられていた。

 その結果は、今さっきご覧の通り。ISの目を通してすらまともに捕えられない神速の剣舞。紛れもなく、最強のヴァルキリーの復活だ。

 

「ぼやぼやするな。他の無人機も落とすぞ」

「はっ、はいぃ!」

「……それでは、私はそろそろ失礼します」

『あ、うん。あちこち痛いだろうから気をつけてな?』

「気をつけてな、ではない神上! そいつを捕まえろ!」

「そうなることが分かっていたから言っているんですっ! ゴーレムⅠ! なんとしても足止めしなさい!」

 

――イーッ!!

 

 そして、一気に事態が動きだした。

 ゴーレムⅠもあり得ないほどあっさりと仲間が倒されたことでにわかに緊迫した空気が走り、千冬さんも手近にいたシャルロット達に指示を下す。

 直後に、簪の腕の中で様子を見ていた少女がなんかもう怪我とか何とかなかったんじゃないかというくらいそそくさと立ちあがって帰り支度を始めたりもした。余りの自然な動きについつい送りだそうとしてしまったのだが、言われてみれば確かに捕まえておくべきだった。いかん、初めて見る本気(かもしれない)千冬さんのあり様にちょっと呆然としてたようだ。

 

『くそっ、邪魔だ無人機! ていうか鳴き声変わってないかお前ら!』

――イーッ!!

 

「それでは失礼します。……ああ、そうです神上真宏。今度あなたの作った卵焼きを食べさせてください」

『この状況で一体何!?』

「むー……」

「ご心配なく、更識簪。以前束さまがあなたの作った卵焼きを食べたいと駄々をこねていましたので。その時は私が作った卵焼き(?)を食べていただいたので泡を吹かせてしまいましたが……あなたの味を物にして、束さまの寵愛は以後私が一身にいただきます」

『……あー、そう。まあいいや。ほとぼり冷めたらおいで』

 

 そして、呆然ついでにこんな会話がくり広げられたりもしたし。

 既にしてこのときの俺はもうこの子を捕まえようとかそういう気が完全に萎えていた。もしそうなることを狙ってやっていたのなら、それは紛れもない策士だろう。……完全に天然な気もするのだが。

 

 ともあれ、結果として俺達は無人機に阻まれ、絶対防御が発動しながらも少しふらつく程度でこの場を離脱するあたりからナニカサレタヨウダということがよくわかるほど頑丈な彼女――後にくーちゃんと呼んでくれ、と言われた――を捕えることができず、千冬さんから大目玉を食らうことになるのだが……それはまた別の話。

 

 

 今この場において一番のストーリーは、千冬さんと織斑マドカの手によって紡がれている。

 

 

「姉さん! 待ってよ姉さん! また私を置いて行く気なのか!?」

「……」

 

 千冬さんはこの場において一切無駄なことをしない。

 ただ無人機を屠るという目的のためだけに刀を振るい、一刀につき一体の無人機を確実に処理していく。

 そうなればたとえ相手が逃げの手を打とうとも慌てることはなく、自分の位置を巧みに変え、逃げた先には必ず誰か専用機持ちが待ち構えているよう誘導し、事実今まで一度もイグニッション・ブーストを使うことなく追い詰めては斬り捨てている。

 無人機にしてみれば、恐怖だろう。暮桜はどうやらかなりの改造が施されているようで、加速力や機体出力はかつてモント・グロッソで活躍していた頃より格段に上昇しているらしいと、 強羅がまともに補足するのも難しいところを頑張って分析してくれたのだが、それでも見た目はその数値以上のパフォーマンスを発揮しているように感じられる。

 なにせ相手は第一世代機。本来ならばこの時代、この場に揃ったどの機体よりも性能は劣っているはずなのに、そのことを全く感じさせない力を示しているのだから。

 

 逃げ場がないのは前述の通り。半ばやけになったように反撃を試みたとしても手首、肘、と順に切り飛ばされて最後は胴を薙がれた機体が一体いた。

 近づかれてはまずいと熱線砲を放った機体は軽々とその射撃を避けられて、直後の硬直が解けるより先に懐に入られ、全身縦に真っ二つにされた。

 最後の一機はもっとひどい。逃げられないことを悟って覚悟を決めたか千冬さんに向かいあい……その瞬間、後方から千冬さんをしつこく追いかけ狙っていたサイレント・ゼフィルスのレーザーが回避され、運悪く射線上にいた無人機の全身に突き刺さった。完全なとばっちりである。

 

「あははははっ! この第一世代機すごいよぉ! さすが私のお姉さんんん!」

 

 マドカはそれを見てますます絶好調であーる状態だった。

 以前現れたときはいずれも秘めたる狂気こそあれ表面上はクールだったと思ったのだが、どうやら千冬さんを前にしてその箍が外れたらしい。

 ……マズイな。

 

『簪はみんなと一緒に無人機を頼む! ……一夏、いくぞ! サイレント・ゼフィルスを止める!』

「えっ……。あ、お、おう!」

「わかった。二人とも、頑張って!!」

 

 あることに危惧を覚えた俺は、一夏を促し再び戦場へと舞い戻る。

 一夏の方はダメージもそれなりにあったようだが、当初無人機との戦いでイグニッション・ブーストも零落白夜も使わなかったお陰でまだまだ余裕がある。これならしばらく二人がかりでサイレント・ゼフィルスに挑むくらいのことはできるはずだ。

 

「貴様らっ! また邪魔をする気か!」

『悪いが、無人機を狩ってる千冬さんの邪魔をさせると怒られそうなんでね!』

「今度こそ逃がさない! 体に聞くこともあるからな!」

『おいバカやめろ。そんなこと言うと箒達が敵にまわりかねん』

 

 目まぐるしく無人機を追って飛び回る千冬さんとサイレント・ゼフィルスの間に、俺と一夏が割って入る。他のみんなは千冬さんに命じられて無人機を逃がさないようにするための包囲を形成しているから、必然的にここで対処できるのは俺達だけだった。

 

 ……それにしても、目の前で対峙するとまた違う。

 マドカの目は見開かれ、ついさっきまで喜悦の孤を描いていた唇も今は俺と一夏を前に憎しみの形に歪んでいる。少々怖い性格と思ってはいたが、これまで伝え聞くファントム・タスクの刺客としての行動から冷静な戦士と思っていたのだが、それをここまで変貌させる狂気。本当に、この子は何者なんだ。……いや、容姿や名前からいくつかの予想は尽くが、そんな予想だけでは済まない何かが、彼女の人生にはあったのだろうよ。

 

 だけど、ぶっちゃけ俺はそんなことはどうでもいい。

 俺が気にしているのは唯一つ。……この織斑マドカという少女に対し、千冬さんがどういう行動に出るか、だ。

 

 今はまだいい。千冬さんの中での最優先事項はIS学園を脅かし、さらに放っておくと倒した後に回収可能になるかもしれない無人機のコアが大量に出る可能性を排除することだ。

 とにかく無人機はこの場で一機も逃さず全て倒し、コアは破壊するかIS学園側で回収し、秘密裏に処理する。以前の専用機持ちタッグトーナメントでの対応を考えればそう考えているのは明白だ。

 

 が、それが終わったらどうなるか。この場に唯一残った敵対者、織斑マドカ。ファントム・タスクの刺客であることが確実なだけでなく、織斑という名を持つ因縁も十分にあるだろう相手。

 ……戦場において人が死ぬことなど事故ですらないし、たとえ絶対防御を持つISであっても搭乗者の命が危険にさらされることがあるのは、いつぞやの福音事件からもわかっている。

 

『千冬さんばかりにかまってないで、俺達のことも見てくれよっ!』

「なんだ貴様! トチ狂ってお友達にでもなりにきたか!」

『そうでもあるがああああ! 俺は全てのIS操縦者と友達になる男だ!』

「平然と言い放った!? そんなこと言ってる場合じゃないだろ真宏!」

 

 千冬さんの軌道は鋭いが、サイレント・ゼフィルスはそれについて回っているだけなのだから先回りすることはさほど難しくない。俺と一夏が並んでゆく道を邪魔してやると、相手は闘争心むき出しの形相で俺達を睨んでくる。さすがにセカンド・シフトした二機のISを一息に突破することは不可能と見てか急停止し、しかし内心に溜めた激情は少しも減じていないようだ。

 当然のようにライフルの銃口もこちらを向くが、今さら俺も一夏もそんな程度でビビるような根性はしていない。こうして近くで振るわれるのを見るとやはり千冬さんのものとよく似ている雪片弐型を改めて正眼に構え直す一夏と、徒手空拳に強羅ガードナーを相手に向ける俺。

 

 

 この対峙……とくに、一夏とマドカが改めて向かい合ったことには、きっと大きな意味があるだろう。

 正体がわからなかった、ただサイレント・ゼフィルスの操縦者としてのキャノンボール・ファストにおける遭遇とも、拳銃を手に一夏を殺そうと現れたあの夜とも違う。

 互いにISを身にまとい、同じ舞台に並び立つこの瞬間。

 

 いまならば、声が届く。

 

「お前、マドカ……って名乗ったよな。織斑マドカ」

「ああそうだ。忘れてはいなかったようだな。……お前のことも、ずっと殺してやりたいと思っていた! さあ、これでも食らえ」

『うわ相変わらずあちいっ!?』

 

 しかし、相手はあの時と同じ……いや、それ以上の狂気をむき出しにしている。千冬さんとよく似ていて、それゆえ一夏とも通じる雰囲気を持つマドカの中の何がこれほど苛烈な感情を育ませたのか。残念ながら、一夏にも俺にもわからない。

 

 そのうえ、感傷に浸る間もなく相手はレーザーを乱射してきやがった。

 手持ちのライフルを本命……と見せかけてさりげなく周囲に滞空させていたビットからの連続射撃。一夏は即座に離脱して難を逃れ、俺はその場で身を捻っての回避をし、強羅ガードナーに一発受けとめる。

 

「ふんっ、まともに動けない木偶の坊の分際で!」

『悪いが木偶は木偶でも筋金入りでね! そんな程度じゃ折れないぜ!』

 

 マドカは一時的に千冬さんを追いかけるのを断念して俺達を仕留めることを選んだらしく、俺達の方を向いたまま後方に向かって加速。一気に距離を取りながらまたしてもレーザーとビットの多角射撃を繰り返す。

 

「このっ、待て!」

『あんまり前に出過ぎるなよ一夏!』

 

 それを追う一夏と、さらにその後方から白鐡のスラスターを全開にしてなんとか離されないようにする俺という図式が出来上がる。マドカがしてくるのは絶妙の引き打ちで、機動力の高い白式を相手にトリッキーな軌道変更を混ぜ込む巧みな引き打ちで近寄らせない手腕、敵ながらあっぱれと言うよりない。

 俺もさっきからライフルやらビームマグナムやら弾速の早い物を選び、それらを囮にグレネードを撃ちこんでいるが、さすがに彼我の速度差もあってまともに届くことはなく、場合によってはわざわざ一夏の近くにある時を狙って迎撃され、巨大な爆炎を生みだしたりもしている。

 

「真宏ぉ! 危ないだろ!」

『何を言ってる! 火が怖くてグレネードなんぞ使えるか!』

「俺が巻き込まれるって言ってんだ!!」

 

 もっとも、一夏にしてみれば俺の使うグレネードの有効範囲は大体把握しているし、ましてここ数十分で急速な成長を遂げた一夏ならば相手の銃口の向きと呼吸からどこを撃たれるか把握するなど簡単なことらしく、それに付随するグレネードの誘爆まで見事避け切っているのだが。

 

 だが、そんな俺達の少々ちぐはぐな共闘を快く思わない者がいる。

 他の誰でもない。俺達と戦う相手、織斑マドカだ。

 彼女にしてみれば千冬さんという目標を前にした一世一代の大勝負。それを邪魔したのが一夏であり、俺であり、しかもこんな有様を晒しているのであれば火に油を注ぐように怒りが燃え上がるのも当然のことだろう。

 

「貴様ら……やる気があるのか!?」

「そんなもの、あるわけ……ないだろうが!!」

「!?」

 

 そして意外にも、そんなマドカを止めたのは一夏の一喝であった。

 

 ビリビリと響く声。ISはコアネットワークもオープン・チャネルも持つがゆえに拡声機能など持つはずもなく、ゆえに今の叫びは一夏自身の想いだけが詰まったそのままの大音声だ。

 マドカとて、一夏と同じく織斑の名を持つからこその何らかの共感が働いたのか。びくりと震えたその手が、一時ながら引き金を引くことをやめた。

 

「……お前だって、織斑なんだろ。千冬姉のことを、姉さんって呼ぶんだろ」

「だ、だからどうした」

 

 一夏は俯いている。一夏を見つめるマドカの瞳は揺れている。

 そして語りかける一夏の声もまた、どこか震えた色を帯びるのだった。

 

 俯いた顔はおそらくマドカから窺うことはできず、突然の様子の変わりように虚をつかれたか、さきほどまで総身から禍々しく噴き出していた殺意の色が少しだけ、薄らいだような。

 

 ……それを見ても、俺はなにもしない。

 マドカが戦うと言い張るのならばそれを止めてみせるが、一夏と語らうのであればそれでいい。

 そんな俺の考えを読んだか、ゾクリ、と。ラウラがAICで捕縛した無人機を刀で滅斬りにしている千冬さんのいる空間のあたりから、言い知れぬ悪寒を掻き立てる剥き身の刃のような視線が俺を貫いたような気がした。

 それでも俺は動かない。誰になんと言われようとも、今この場で二人が話す時間だけは死守して見せますよ、千冬さん。

 

 きっと、ここが一夏とマドカの今後を分ける、一番大事な瞬間だから。

 俺が守るべきは、今この二人の語らいを置いて他にはないはずだ。

 

「悪いけど、俺はお前のことを何も知らない。千冬姉に聞こうとしても、家族は俺だけだって言われたよ」

「……ふん」

 

 気のない返事は続きを促す合図であり、しかしその歯はしかと食いしばられている。それでもなお痙攣するように引きつれながら釣り上がる口の端は、未だマドカの心の中に消え止まぬ憎悪の炎のゆらめきか。

 

「でもな。……俺はあの時なんでか納得したんだ。誕生日の夜の道で、お前は俺だって言われたあのときに」

「……」

「俺はまだ何も分からない。お前のことも、千冬姉のことも……俺自身のことも。でも一つだけ、はっきりと言える」

「ほう、なにがだ」

 

 一夏は顔を上げる。

 刀を下ろし、ひたとマドカを見据える瞳の色は驚くほどにお互いそっくりで、しかし一夏の目には強くまっすぐな決意の色がある。

 これから口に出す言葉を真と信じ、そして現実に変えようとする意思の発露だ。

 

 一夏が信じるそれこそは。

 

「俺達は……家族だ。それでいい」

「!?」

『まったく……存外、甘い男なのだな』

 

 一夏の叫びに込められた力は強い。腹の底から響いた声は夜のIS学園に響き渡り、きっと俺達の背後で既にして残り少なくなった無人機をまた一機、今度は17分割してのけた千冬さんにも届いていることだろうよ。

 

 

「何が……何が家族だ! 家族だなどと……!」

「そんなことはわかってる! ……バラバラになった家族を元に戻すのがどんなに難しいかも、外からじゃ何をしたって直せないってことも!」

 

 言葉には、血を吐きながら語るような重みがあった。

 両親がいて、兄弟がいて、時々親戚が家に顔を出す。

じーちゃんばーちゃんは可愛がってくれて、親戚一同集まったら年の近い子供達が大騒ぎ。

 そんな家族を一夏は知らないし……IS学園に来てこっち、たくさんできた大切な友達もみんな家族に恵まれたとは言えない環境にいることが多くあったことが自然と思いだされる。

 

 マドカは、何が家族だと言った。どんな生き方をしてきたのかは知らないが、家族というものを信じられないような境遇にあったことは、想像に難くない。

 

 だがそれは、一夏も同じことだ。

 

 幼いころ、顔も覚えていない両親に捨てられた一夏。残されたのはいまだ成人も程遠い小娘であった千冬さんと、そもそもその頃のことを覚えてもいない一夏二人の姉弟のみ。

 荒れていた時期もあった。千冬さんとほとんど会えない時期もあった。

 「家族」というものを実感できた時間の記憶なんて、数えられるくらいしかないだろう。

 

 それでも一夏は、千冬さんの家族であると誰に憚ることなく宣言できる。

 

 遅く帰る千冬さんを出迎え、待たなくていいから早く寝ろと言われても夜食を用意しておいたのだと、一夏から聞いたことがある。休みの日はそれはもう甲斐甲斐しく世話をしてくれて、いつも部屋がピカピカでどんなに疲れていても家に帰って一夏が整えた布団に入ればぐっすり眠れると、千冬さんに惚気られたことだってあった。

 

 一夏はどんな時でも、家族であろうとした。

 幼いことも、弟であることも、それは何もしない理由にはならない。

 一夏は決して諦めなかった。外に出て働いて支えてくれる千冬さんを、家族を。一夏は自分のできることを精一杯にこなし、支えてきた。

 

 必死に勉強した料理はいつでも千冬さんの心を癒す糧となった。千冬さんが疲れて肩を落とす時があれば、そっとマッサージをして笑顔を浮かべてもらえるように頑張った。

 だから千冬さんは頑張れた。いつどんな時でも一夏のことを大切に思い、一夏も千冬さんを信じている。

 それが、織斑一夏が守った、家族の形だ。

 

 一夏ならば、できる。

 

「家族を守る方法は一つしかない。……つないだ手だけができること。それを信じることだ」

「……!」

 

 まっすぐマドカの目を見据え、刀を引いてその手を差し出すことが。

 

 マドカは躊躇いに揺れる。

 目の前の無防備な一夏に先ほどから変わらずレーザーライフルの銃口を向けているのに、どうしても引き金が引けない。燃えたぎる憎悪を糧にこの場に押し掛けたというのに、目の前の自分によく似た顔の男に武器も持たずに圧倒されていることが信じられないのだろう。

 

 あるいは、という期待があった。

 マドカが一夏の手を取ってくれる可能性。マドカはファントム・タスクの刺客ではあるが、それでもここがIS学園である以上、彼女を守る手段もまたあるだろう。

 

 しかし。

 

「……ぁぁあ、うるさい! うるさいうるさいうるさい!!」

「!?」

 

 結果として、マドカはその手を取ることができなかった。

 

 見境を失くし泣きじゃくる子供のように、最後まで引き金を引くことはなくイグニッション・ブーストで無防備な一夏の懐へと飛び込んで、胴体をライフルの銃身で薙ぎ払う。

 警戒はしていても抵抗はするつもりがなかっただろう一夏は為す術なくその一撃に打たれ、息を詰まらせ吹き飛ばされた。

 

『一夏!』

「邪魔だ!!」

 

 マドカはそれでも止まらない。さっきまで千冬さんを追いかけていた時は凶暴な笑みを浮かべていた顔を泣きだす寸前のように歪めながらも、駆けつけようとする俺にビットからの射撃を浴びせて足止めし、振り上げた手の中にナイフを展開する。

 そのままナイフを逆手に握るなり、一瞬の遅滞もなく追いついた一夏の喉笛へと振り下ろし。

 

「……残念だ」

 

 俺の脇をすり抜けざまに小さく……本当に小さくそう呟いた千冬さんが滑り込ませた雪片の刃に、止められた。

 

「……姉さん! また来てくれたんだね!!

「ああ……無人機は、全て片づけたのでな」

 

 自分を止めたのが千冬さんだと知り、マドカの顔に狂相が戻る。互いの全力を込めて噛みあった刃は一寸たりとも動くことはなく、千冬さんがようやく自分と話してくれた、という素直な喜びの感情が一層マドカを掻き立てる。

 一夏の言葉が、忘れ去られるほどに

 

「流石だよ姉さん! さあ、それじゃあ……今度こそ殺し合おう!!」

「千冬姉!!」

 

 二人は再びスラスターを点火。高機動での近接格闘戦に移り……その場に静止していた一夏では、容易く干渉できない速度領域へと飛び込んでいった。

 

 呆然と伸ばされた一夏の手を取る家族は、いない。

 

『諦めるな、一夏』

「真宏……!?」

 

 だから、今は俺が代わりにその手を掴んだ。

 

『一度振られたぐらいでなんだってんだ。お前は今までたとえどんなに離れることがあっても、その度に必ずまた千冬さんと手を取り合ってきた。だからまた、諦めなければいいだけだろ』

「……ああ、そうだよな」

 

 強羅は握力も強い。コンクリの塊くらいならば粉々にしてしまえるほどの力もあるが、それでもなお全力で白式の手を握る。一夏がこれからしようとしていることには、そんな程度の苦難にはビクともしないくらいの強さと意思が必要だ。これに応えられないようならば、元より不可能なことだろうという想いを込めて握り。

 

 そんな俺の手を、一夏は負けないくらいの力で握り返してくれた。

 なら、大丈夫だろう。

 

 

「あははははは! すごいよ姉さん! とてもじゃないが私じゃあ敵わない!」

「……」

 

「一夏、千冬さんは……!」

「見ての通り、あいつと戦ってる。……かなり、本気らしい」

 

 千冬さんに遅れることしばらく、俺達の傍へと集まってきた箒達みんなも揃って千冬さんとマドカの戦いに目を向けている。

 今はそれ以外、何ができようか。

 

 マドカの駆るサイレント・ゼフィルスは強い。

 束さんが直接制作した紅椿という例外を除けば世界でも最新鋭の第三世代機にして、さらにはBT1号機ブルー・ティアーズのデータも反映しており完成度も高い。その上操縦者たるマドカの技量も高く、BTシリーズのある種の到達点であるフレキシブルを使いこなし、自機とビットを同時に連動させて戦うことすら可能なのだ。

 その実力は多対一戦闘を目的とした機体のコンセプトを想定以上に発現しうるもので、かつてキャノンボール・ファストで戦った時は俺達1年生専用機持ちが揃って攻めかけても倒しきれるものではなかった。

 

「ふっ……!」

「ぐぁっ!? ……あはははは、また斬られたよ!」

 

 だが、それでもなお千冬さんには届かない。

 レーザーは避けられ、ナイフは捌かれ雪片の斬撃が装甲を削る。

 ひたと相手を見据えた千冬さんの視線は逸れることもなく、導かれるように相手との距離をひたすら詰める。

 一斉に放たれる無数のレーザーは絶妙のロールですり抜け交わし、交差の瞬間残光しか見せない速さで振り抜かれた刃がまず2機のビットをまとめて切り裂いた。

 

 あの光……一瞬しか見えなかったけど、刃がビットに当たる瞬間だけに発生したアレは間違いなく零落白夜。どうやらあれだけの技量を誇りながら、なおも最強の斬撃能力は健在らしい。

 

 

 千冬さんはなおも容赦なく、そのまますれ違った直後に第三世代機の白式もかくやという鋭い弧を描いて反転。いまだ振り向ききってすらいないマドカに上方から蹴りをかまして吹き飛ばした。

 蹴られた肩装甲はそれまでのダメージ蓄積もあって砕け散り、PICによるブレーキこそいまだ健在であるものの、サイレント・ゼフィルスは大きく体勢を崩されダメージも大きい。

 

 そんな状態であれば。

 さらに容赦ない追撃に入り、重力方向にまっすぐ加速しながら突っ込んでくる千冬さんを迎撃することなど、マドカにできるはずもない。

 眼前に瞬間移動でもしたのかと見えるほどの速度で迫る千冬さんに、マドカは。

 

「はあああああああっ!」

「あはははははははは!!」

 

 高らかに狂気を感じさせる……それでもそれが嬉しいと言いたげな、寂しい笑い声を上げていた。

 

 

 激突の音は高く響いた。

 大質量の激突が生じさせる轟音は世界を揺るがすほどに大きく……しかし、これまで千冬さんが無人機を斬り捨てていた時のような、ほとんど無音のままに切り裂く時とは明らかに違っていた。

 

 

『峰打ち、ですか』

「黙れ、神上。……それより、貴様たち。サイレント・ゼフィルスは絶対防御が発動したのを確認したが、無人機の中にはまだ動けるものがいるかもしれん。警戒を怠るな」

 

 千冬さんの最後の一撃を受け、地面に激突したサイレント・ゼフィルス。千冬さんが刀を返して峰打ちで済ませたため、ダメージこそ大きいだろうが搭乗者の命が危険ということはないはずだ。

 

 単にファントム・タスクの情報を得るために加減をしただけなのか、それとも別の理由か。

 その答えは、無人機達の残骸の近くに落着したサイレント・ゼフィルスへと向けられた千冬さんの眼差しの奥から読み取るよりないだろう。

 

 俺などでは、どうしたって千冬さんの全てを知り通すことなどできない。だがそれなりに付き合いは長く、今までこの人のいろいろな面を見てきた。その経験を元に推察するならば、今千冬さんの目に揺れる感情は……後悔と自虐だろうか。

 戦いの最中、敵と見定めた相手は斬ることしかできない自分自身への痛みを感じているように、俺には見えた。

 

「……ぼさっとするな。神上はサイレント・ゼフィルスを調べて来い。もしまだ反撃の余力があったとしても、強羅ならば傷一つつかないだろう」

『物理的には事実でも俺の精神がズタボロになりそうな評価ですね。まあいいや、行ってきます……って、ん?』

 

 ともあれ、俺達IS学園陣以外には動く物もなくなった以上、事件は片付いたと見える。あとはゴーレムⅠの残骸を処理するなりコアを回収するなりして、マドカを確保して終わるかと、その時は思った。

 

 当たり前だろう。いかにサイレント・ゼフィルスであれ、マドカであれ。絶対防御が発動してしまえば機体のエネルギーなどほぼ底をついて、体だって無事では済んでいないはずなのだ。

 両腕を立てて、いつでも強羅シールデュオを展開できるようにした状態で先頭に立ち、後ろに一夏達を引き連れてゴーレムⅠとサイレント・ゼフィルスがまとめて墜落しているIS墓場状態となった地点へと向かっていく。

 

 しかし。

 

「くくく……はは、はははははははははァッ!!!」

 

『うおおおおっ!? みんな、俺の後ろに!』

「サイレント・ゼフィルス! まだ動けますの!?」

 

 どうやら今のマドカに常識は通じないらしい。

 山となっていたゴーレムⅠの残骸を跳ね散らし、その中から生き残ったビットによるレーザーが放たれる。

 身構えていたからこそ強羅シールデュオを発動してレーザーを受けとめることができたが、かなり危なかった。しかもこんなことをした下手人は当然、織斑マドカだ。

 

 自機に積もるゴーレムⅠの破片をいらだたしげに払い、改めて立ちあがったサイレント・ゼフィルス。ビットが何機か失われているのはむろんのこと、痛々しいほどに傷だらけの機体もどうしてまともに稼働できているのか、全く理解ができない。

 ダメージレベルだってかなり深刻なところに至っているはずで、展開状態を維持していることすら奇跡に近いはずだ。

 

 

 ただ一つだけわかるのは、マドカの目。

 既にバイザーは失われ、完全にあらわになったその顔の中、血走って爛々と輝く目の色は狂気に染まり……だがどこまでも寂しげだった。

 

「流石だよ、本当にさすがだよ姉さん! ……でも太刀筋が鈍かったね。私が、こうしてまた立ちあがれるほどに!」

『うわっ、ゴーレムⅠ投げてきた!?』

 

 マドカはその場を動かない。ひたと見据える視線は上空の千冬さんを向いたまま、取り押さえようと動き出した俺達に向かって手近に転がっていたゴーレムⅠを引っ掴んで投げつけて牽制し、その間に取り落としていたレーザーライフルを再び掴んだ。

 

 ん……? 一体何をするつもりだ?

 さっきまでの一件で千冬さんにはたとえフレキシブルを使おうともレーザーが効かないということは分かっているはず。それでもなおあのライフルを取って何をするというんだ。……なーんか、無性に嫌な予感がするんだけどさ。

 

「あなたっ、そろそろ負けを認めたらいかがですの!?」\ルナァ! マキシマムドライブ!!/

「えぇい、今はお前に用はないっ!」

 

 俺が妙な不安を感じている最中も主を守るように、砲身が赤熱するも構わずレーザーを撃ち続けるサイレント・ゼフィルスのビットの猛攻。フレキシブルを利用して強羅シールデュオを回り込んでの攻撃はシャルロットと会長が協力して防御して、セシリアのフレキシブルによる射撃が返っていくが、それは相手のシールドビットに阻まれる。無理やり押し通ることはできなくもないだろうが、それでもわずかに場が膠着した。

 その間に、マドカは再び近くのゴーレムⅠを掴みあげる。

 

 今度のゴーレムⅠは胴体から真っ二つに切り裂かれた機体で、上半身部分がほぼ健在。まだ辛うじて動いているところを見るとおそらくコア自体は損傷していない。

 そんなゴーレムⅠがお眼鏡にかなったのだろう。マドカはそれを見て再び恐ろしいほど壮絶な笑みを浮かべ、ライフルを腰の部分にマウントしてから、ゴーレムⅠを吊りあげているのとは逆の手を力いっぱいに引いた。

 

 ……まさか!?

 

「ふんっ!」

「なっ! ゴーレムⅠの胴体を!」

「いいえっ、違うわ! あれは……コアを狙ってる!!」

 

 会長の推測が正しかったことは即座に判明した。

 貫手の形にされた手がゴーレムⅠの胸部にやすやすと突き刺さり、引きずり出されたその手の中に眩い輝きを放つ物があった。

 

 間違いない。ゴーレムⅠのコアだ!

 

「クククっ……! 悪いが終わりじゃない。まだ、こんなこともできるんでなぁ!」

 

 コアはISをISたらしめている未知の技術の結晶であり、究極のブラックボックス。通常兵器とは一線を画す機能の数々を与え……さらにはジェネレータとしての機能も持ち合わせているという噂の、謎の結晶体。

 

 そんな物をむき出しで持ちだして、さらには片手にさっき拾い上げた自慢のレーザーライフルが。……何をする気かなんて、もう聞くまでもなくわかっちゃいないかね。

 

 マドカは、予想を違えず無理矢理引きずりだされたことで異常な励起状態にあるゴーレムⅠのコアをレーザーライフルのジェネレータに放りこむ。本来ならばそんなことをしても不具合が起きるだけなのだろうが、そこをマドカはサイレント・ゼフィルスのコアからライフルのジェネレータを制御し無理矢理エネルギーを押さえ込んでいるのだと、強羅がハイパーセンサーによる分析を教えてくれる。

 

 その結果、ライフルはそれ自体が光りの塊になったのではないかと思うほどの光を発し、明らかに限界を越えた駆動を始めていた。

 

「くっ、貴様……!」

「おっと、危ないな! ……さあ姉さん! これが最後だ、そいつらを、この学園を! 守れるものなら守って見せてくれ! 私を殺してさああああ!!」

 

 そんなマドカの姿が一瞬にしてかき消え、次の瞬間には刀を振り切った姿勢の千冬さんが現れた。……マジか。この土壇場で千冬さんの攻撃を避けただと!?

 おそらく、今のマドカは普通じゃない。既に破損してなくなってしまったバイザーにさえぎられることのない顔は、血圧が危険なほどに上昇しているのか真っ赤に染まり、常軌を逸した反応速度は絶対防御が発動したことによるISの搭乗者生命維持機能の発露が過剰に働いていることが原因だろう。

 サイレント・ゼフィルスがマドカを生かすために為している措置を利用して、自分の身体能力を限界以上に高めているんだ。……間違いなく、命を縮めるような所業だろう。

 

 マドカはそのままこちらに銃口を向けて高速で後ろ向きに遠ざかりだした。あんなことされたら、そうたやすくは追いつけないぞ。

 そして、マドカの手に持つレーザーライフルの砲身が二つに割れ、ISのコアを叩きこまれたジェネレータの炉心部が露出して夜空の星の一つのように輝き、破滅の光を宿している。あんなものが撃たれたら、それこそIS学園だってただじゃ済まないはずだ。

 

『……おいマズいぞ! あんなどこぞの絶唱みたいなものが撃たれたら!! なんとなく噴き出た光が蝶の羽みたいな形になってる気もするし!』

「あながち間違ってないところが怖いっ! ……やめてくれ、マドカ! そんなことしたら、お前も死ぬかもしれないんだぞ!」

 

「死ぬ? ……だからどうした。どうせ私が死んだとしても悲しむような味方はいない。……そう、いないんだ。味方も、そして敵も……ただ、私は」

 

 俺と一夏の叫びに、マドカはオープン・チャネルで答えを返す。その声はどこまでも狂気に染まり、いまや一夏の声も届くまい。

 マドカの中に宿っているのは、おそらくたったひとつの心。

 

 

「ぁ愛してるんだぁあ、姉さんをぉおおおお!! ハハハハハ!!!!」

 

 

 千冬さんへの、歪んだ愛情だけだろう。

 

 端的に言って、状況は極めて悪い。

 マドカはサイレント・ゼフィルスを全速力で退かせているから、一瞬対応できず取り残された俺達との距離はグングンと開いて行く。

 一方でレーザーライフルはジェネレーター炉心からも光をこぼし始め、そうしていられる限界が近いことと、溜めこんだエネルギー量、放出されるだろうレーザーの威力が尋常ではないことを如実に物語る。

 

 マドカにこのまま好きにさせるとまずいことになる。おそらくIS学園自体に甚大な被害をもたらそうとしているだろうあの行動、必ずや止めなければならない。

 

「くっ……!」

『待ってください千冬さん。何をするおつもりで』

「神上!? 止めるな!」

 

 そう、千冬さんは考えたはずだ。

 俺が暮桜の装甲引っ掴んで止めなければ、今にも刀一本携えてマドカを今度こそ本気でぶった斬りに行っただろうくらいには。

 

 そして一夏が家族と呼んだ相手を、家族になれるかもと信じたいマドカを、自身の手で斬り捨てるよりほかにはこの学園を守れる手段が千冬さんにはないだろうことも。

 

「状況が分かっていないのか! あいつがしようとしていることを、察しもつかんとは言わせんぞ!」

『わかってますとも。……千冬さんがどんな気持ちで、何をしようとしてるかもだいたい、ね』

「……!」

『ま、ここは俺に任せてもらえませんか。起きぬけの暮桜に無理させて零落白夜を使うより、少しはマシな手が使えますから』

 

 だけどそんなこと、俺はして欲しくない。

 

 一夏達、織斑姉弟とはなんだかんだで長い付き合いだ。一夏とは今でもご存知の通りの悪友だし、千冬さんだって一夏一人を育て上げるのでも大変だろうに、天涯孤独な境遇にあった俺のことをずっと気にかけてくれていたことを知っている。

 

 親がいなくて辛いこともあったろう。一夏と二人だけで、寂しいこともあったろう。

 それでも気丈に気高く生きてきた、こんな人に目をかけてもらえることが誇らしいと思えた千冬さんが、同じ織斑の名を持つどう見ても血縁な子を斬らなきゃいけないだって? そんなこと、絶対にダメだ。

 

『任せてもらえませんか、千冬さん。絶対に、なんとかします』

「……」

 

 躊躇う時間は、わずかに一瞬。悠長に考えていられるわけがないこの状況で千冬さんが悩めるのはそれが限度だった。

 しかし俺にとっても、この状況を固唾を飲んで見守るみんなにとっても長い長い時間に感じられた。まっすぐに強羅の目を見つめてくる千冬さんと、暮桜の装甲を掴み認めてもらえるまでは離さぬと力を込める強羅の腕。

 ……確かに俺に手段はある。だがその方法と、千冬さんがマドカを斬り捨てることのどちらが確実かと問われれば答えは出せない。

 どちらであれ、IS学園を守るため覚悟を決めて暮桜を復活させただろう千冬さんが選んだ結論ならば、俺はもはや覆すことができないだろう。

 

 おそらく確実に成し遂げるだろうが、マドカが斬られる千冬さんの手段。強羅という機体のせいも相まって成功率は未知数の俺の案。

 

 千冬さんは黙ったまま、暮桜を掴んでいた強羅の腕に手を添え、そっと離させた。

 む……ダメ、か……っ?

 

「……わかった。だが、余計な被害は絶対に出すな」

『! ありがとうございます!!』

 

 そう不安であっただけに、千冬さんからの信頼はとてもとてもうれしかった。それはもう、ロマン魂が唸りを上げてエネルギーを吹きだすほどに。

 

 

『そうと決まれば一夏、なんとかするぞ』

「へ? お、俺もか?」

『ああ。大口叩いといてなんだが、俺一人じゃあできない。……共に行こう。今こそお前の力が必要だ』

「……ああ、わかった!」

 

 千冬さんの信頼、全力で応えなければなるまい。

 生憎と俺が思い描いた手段は一人では実現できないが、一夏と二人ならば可能となる。そのことを理解した一夏は決意を込めた表情で頷き、強羅と白式、二機のISの左腕をがっちりと組み合わせた。

 

『よし、いくぜ!』

 

<システムリンク、開始>

「うわっ、何が始まった!?」

『しばらくじっとしてろ!』

 

 それを合図に、俺の作戦が始まった。

 組まれた腕を通して、白式と強羅のコアが共鳴。ISのシステムをリンクして、とある機能が動きだす。

 

<荷電粒子制御システム、白式から強羅へコピー>

<コア共鳴率上昇。クロッシングリンク形成>

<白式、ロマン魂エミュレート>

 

「ろ、ロマン魂エミュレート!? 他にも色々ツッコミ所あるけど、どういうことだよ!?」

『忘れたのか、一夏。強羅は一度白式と合体してる。そのときに強羅のコアにも白式のコアにもお互いの痕跡が残ってるんだ。だから強羅はセカンド・シフトしたときに白鐡を生みだしたし、他にもそれぞれ影響を受けてる。こうやって直接コア同士でやり取りすれば、一時的にロマン魂の力を貸すことくらいはできるのさ』

「そ、そうだったのか……!」

『俺も初めて知ったんだけどな。なんか、強羅がそんな風に説明してくれてる気がする』

「って、おいいいいいいい!?」

 

 一夏のツッコミもなんのその。白式と強羅は迅速にコア同士の連携を済ませ、準備は既にして整った。

 この腕を離したとき、そこに誕生するのは二機のIS。二人で一つの力を使う、鋼とロマンの申し子だ。

 

 ……実のところ、うらやましいと思ってたんだよ、一夏のことを。

 ついさっき、G3-Xを駆るあの子との対峙の時に一夏が使った技、アバン・ストラッシュ。正しく男の子の憧れで、小学校時代一夏と一緒に傘とか使って練習し、勢い余って篠ノ之道場でも練習してたら道場で変なことをしてるんじゃないと二人揃って千冬さんにしばき倒された思い出もあったりなかったり。

 だから俺もなんかやりたいなーと思っていた。それを実現できる状況が今この瞬間に出揃い、しかもそれがみんなを助けられる手段と来ているのだから、俺の心が震え立たないわけがない。

 

 一夏自身も、マドカのことをなんとかしたいという決意は変わらない。なれば二人のロマンは燃え上がり、溢れるエネルギーは彼方の空でいまだゴーレムⅠのコアを限界まで励起させ続けているサイレント・ゼフィルスのそれにも迫るほどになりつつあった。

 

「なんだ、このすさまじいエネルギーは……!」

「ちょっ、なんか爆風吹いてきたっスよ!? 強羅は無茶苦茶だって聞いてたけど、噂以上じゃないっスか!」

「先輩達の、言う通り……! こんなにすごいの、見たことない」

 

 ひょっとするとロマン魂を直接見るのは初めてかもしれない先輩方と、よくよく知っている簪を筆頭に俺と一夏から少し距離を取って状況を見守ってくれている仲間達から驚きの声が上がる。

 それも当然だろう。

 守るべき校舎と仲間を背に、目の前の敵すら守ろうなどと無謀ですらあることを考えているこの状況。本来ならば不可能なことだと俺でも思うが、力を貸してくれる友と、信じてくれる美人のおねーさんがいる。

 これで燃えないわけがないだろう。

 

「……」

『!?』

 

 あ、でもなんか今ちょっと背中に冷たい視線が突き刺さったような。……だ、大丈夫! おねーさんというのは、あくまで姉のような人という字面通りの意味だから! 俺の心はいつでも簪のものだからな!?

 

 

『とにかく覚悟はいいな、一夏』

「ああ、真宏が何を企んでるのかも、大体わかったしな」

 

 ともあれ、そろそろ時間も限界だろう。本当ならばもっと二機間のリンクを強固なモノにしたかったのだがそんなヒマはない。サイレント・ゼフィルスは十分に距離を取ったと判断したか空中の一点に静止して、星より眩い光を宿したライフルを正確にこちらへ向けている。

 

 そこから放たれるだろうレーザーの威力がすさまじいのは間違いなく、仮に一夏と千冬さんが温存していた零落白夜を使っても、全てを打ち消すことはできないだろう。

 

 ……だから、俺と一夏はこの手を使う。

 

『さぁて、いくか!』

「おう!!」

 

 バシン、と音がして弾け飛ぶように白式と強羅の腕が離れる。

 その反動で生じた回転は路面を砕く勢いで足を踏みしめ止まり、俺と一夏はサイレント・ゼフィルスに向き合った。

 

 視界の中ではハイパーセンサーが自動で望遠してくれたことにより、マドカの表情が見える。衰えぬ凶相を浮かべたまま、面白いとでも言いたげに唇を歪めるのがはっきりとわかり、いまさら引き金を引くことを躊躇わないだろうと悟らせた。

 

 それなら、しょうがない。

 話してわからないのなら相手をしてやる。いつか手を取り合えるその日が必ず来るように、俺は絶対、負けたりしない。

 

『はあああああああああああああああああああっ!!!』

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 腰を落として丹田に力を込め、腹の底から声を出す。本来ISならばこんな風に気合を入れたところで攻撃の威力が上がるなどということはないが、今は別だ。ロマン魂をこの身に宿す俺と一夏ならば、スマイルパクトに気合を……じゃなかった、とにかく心を高ぶらせればそれがすなわち力となる。

 ましてや今は、ISのコア一つを使いつぶす気でエネルギーを絞り出している敵と対峙しているのだから、生半可な気合では足りない。

 

 ロマン魂が作りだしたエネルギーが全身から吹き出すほどに心を燃やす。この心の熱さこそが、力になる。

 全身全霊振り絞り、出し惜しみはなしだ。

 

 

 さぁいくぜ、とびっきりの男のロマン!

 

 

『かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!』

 

 

 総身にみなぎらせた気合はそのままに、俺と一夏は揃った動きで両手首を合わせてマドカに向かって突き出した。

 この時点で、日本出身だったり日本在住歴の長い一部のメンバーは俺達がやることに気がついた。引き攣り笑いを浮かべるものや、手で顔を覆うもの。そして期待に目をらんらんと輝かせる者など色々いるが、それは俺にとってのご褒美だ。

 

 

「めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……っ!」

 

 

 ともかく、続きだ。突き出した手を引き絞り、腰の脇へ。ロマン魂が俺達の心を変換したエネルギーをそのまま両手の中へと捩りこむ。

 

 

『はあああああああああああああああああああああ!!!』

 

 

 そして、集中した気が光となって手の中に灯った。光の球の中に渦巻くのは、雪羅から供給される荷電粒子の塊だ。今はまだ小さいながらも、溜めこまれたエネルギーが強大なことはISを装着した仲間達にもマドカにも伝わっているだろう。

 

 

「めえええええええええええええええええええええ!!!」

 

 

 ロマン魂で作り上げたエネルギーフィールドの中に捕えられた荷電粒子は圧縮と粒子供給を繰り返され、両手の間からこぼれ落ちそうなほどにまで光球を膨れ上がらせた。そこから溢れる青白い光が世界を照らし、強羅と白式の装甲に独特の色と陰影を刻みだす。

 

 そのエネルギーはいまや、遥か遠くのサイレント・ゼフィルスですらたじろぐほど。

 だがそれでも銃口はぶれず、引き金にかかった指も離れはしない。

 

 やはり、やらねばならないか。

 いいだろう。お前の憎しみを込めたその一撃、俺と一夏で全部吹き飛ばしてやる。

 

 そう、この。

 

 

 

 

『「波あああああああああああああああああああああああ!!!!!」』

 

 

 

 

 この国に生まれた男の子なら、一度は真似したことがあるだろうロマン技。かめはめ波で!!

 

「くっ……貴様らあああああああああああああ!!!」

 

 俺と一夏がかめはめ波を放つと同時、マドカも押さえ込んでいたレーザーの威力を全て開放する。

 双方ともに空間を飛翔する速度はほぼ同じ。結果としてお互いの中間地点にて激突し、つぎ込まれたエネルギー量に正しく比例する轟音と閃光を撒き散らした。

 

「う、うおおおおおお!?」

『踏ん張れよ、一夏! ここで俺達が負けるわけにはいかないんだからな!』

「わかってる!!」

 

 しかもそのまま、拮抗状態に陥った。

 いくらISのコア一つから根こそぎエネルギーを汲みだしたにしたって、強羅と白式の二機分合わせた砲撃と同レベルとは……本当に恐れ入る!

 

 だが俺と一夏は諦めてやるわけにはいかない。踏ん張る足はますます力を込め、砲撃の余波と反動で路面の石畳がめくれ上がり、こぼれた荷電粒子の影響で帯電した瓦礫がパリパリと音を立てて跳ねまわる異常な環境になりつつあるが、それでも腕を通して腹と心の底から捩りだすエネルギーを、強羅の炉心を通して注ぎ込み続ける。

 

 マドカは今、何もかもを壊そうとしている。

 千冬さんも、一夏も、俺達も、IS学園も。

 

 だがもしそんなことをして、一体どうなるってんだ。

 欲しい物があって、でも一つも持っていなくて、持ってる一夏がうらやましいから壊すって?

 

 マドカが本当にそんなことを思っているかは知らない。

 だが俺と一夏は、マドカと全力をぶつけあっている俺達は、きっとISでつながっている。だからこんな根拠もない想像に何故か確信を持てた。

 

 織斑マドカはこうすることしか知らない。

 壊すことでしか何かを得ることができないと思っていて、そういう人生を送ってきたのだろうよ。

 

 であるならば、それ以外を知ってる俺達が、少し教育してやらなきゃなあ、一夏。

 

「邪魔だっ! 邪魔をするな、貴様らああああああ!」

『じゃかあしいっ! こんなことしてお前の望む物が手に入るなんて思うなよ!』

「そうだ! 欲しい物があるんなら、俺が手伝ってやる! 必ずその手に届けてやる! ……だから、今は頭を冷やして来い、マドカあああああああああああああああ!!」

 

 気合一声。

 マドカはレーザーライフルのジェネレーターが過負荷による崩壊を始めたのにも構わず、消え去る直前最後の輝きとばかりにさらに一回り太いレーザーを吐きだし。

 

「はああああああああああああああああああっ!!!」

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』

 

 俺と一夏も全身全霊振りしぼって、マドカを貫き月も砕けよと最後の気合を込めて。

 

 

――レーザーと荷電粒子の爆心地から広がった、音の無い真っ白な閃光に世界が包まれた。

 

 

◇◆◇

 

 

「う……あ……」

『一夏ぁ……生きてるか』

「くぅっ、いてて。なんとか、な」

 

 腕が焼けるように熱くて、脳みそがちりちりする。

 視界に入るのは星がほんの2、3個しか見えない薄暗い夜空だけで、体に力が入らないことから地面にぶっ倒れていることと、うめき声以外にもちゃんと返事が返ってきたことから一夏も同様なのだと知れた。

 

 さて、一体何がどうなったのか。

 マドカと俺達の最後の力がとんでもない爆発を生んだのは覚えているんだが、どうやらその瞬間に気絶したらしくて、状況が把握できていない。

 ……んー、強羅のハイパーセンサーも大分混乱してるようだが、それでもよくよく心を落ち着けてみると一夏が大体どのあたりにいるかということや、仲間達が難を逃れてこっちへ駆けつけてくれていることが、なんとか感じ取れた。

 よかった、みんなも学園も、なんとか無事だったようだ。

 

『さすがに疲れたな……。白鐡、大丈夫か? えーと、ほれ無人機のコア。食う?』

「真宏ー、それ色々問題あると思うぞー」

――きゅー

『あれ、いらんのか。お気に召さないんだな』

 

 色々頑張ってくれた白鐡を労う意味で、今のうちに近くに落ちていた無人機のコアをこっそり上げようかと思ったのだが、このコアはいらないらしい。はてさて。物によって味の違いとかあるのかね?

 

 

 そんなやり取りをしながらも空の彼方へセンサーの指向性を向けてみると、空中には俺達が放った荷電粒子とマドカのレーザーによるものだろうイオン化した大気が残留してこそいるものの、IS反応はなし。どうやらマドカはあの爆発のどさくさ紛れに上手いこと逃げたらしい。

 まったく、あれだけボロボロだったのによくやるもんだよ。

 

「……なあ、真宏」

『どうした』

 

 おそるおそるといった気配で、俺達のいる位置とマドカがさっきまでいた上空を警戒しながら仲間達が近づいてくる前に、一夏がプライベート・チャネルで声をかけてきた。

 はて、こんなときに内緒話とは一体何だろう。

 

「俺は、マドカの手を掴めなかった」

『……』

 

 それは、疲労とダメージで掠れていてなお辛そうな、後悔の言葉だった。

 体を動かすだけでも疲れるだろうに、横向けた俺の視界の中で一夏は、夜空に透かした自分の手を見つめている。今まで見たこともないほど、悔しそうな顔をして。

 

 だが、その目には紛れもない決意がある。

 

「でも今度は必ず、掴んでみせる。……だからその時は、力を貸してくれないか、真宏」

『今日の借りもあるしな、任せておけ。もし一夏だけで手が届かないようなことがあったら、お前を投げ飛ばしてでも届かせてやるさ』

 

 だったら、俺は協力を惜しまないよ、一夏。

 そんな心を伝えようと伸ばした拳は、一夏が弱々しく握った拳とかちあってごつりと装甲同士のぶつかる重い音を立てた。

 

 力なんかなくたって、それでもこうして俺達は手を伸ばせる。一夏だけでは手が届かないのなら、一夏と手を繋いだ俺が。それでも届かないならまた別の誰かと手を取って。

 そうすれば、いつかあのマドカにだって届くはずだと、俺は信じた。ちょっとのお金と明日のパンツがあれば生きていけると言ってた男と同じように。

 

 

 今度こそは想いの全てを届けて見せると、一夏は誓った。

 その手を取って助け起こしてくれる仲間達に、疲れた体を預けながら。

 

 

◇◆◇

 

 

「で、戻ってきたわけですけれど……」

「まさか……あれだけの騒ぎがあってまだパーティーを続けている、のか?」

「でも談話室は明かりついてるわよ。いる、んじゃないの」

 

 事件を終えて。

 

 無人機の全機撃破とG3-X及びサイレント・ゼフィルスの撃退をもって、事件は一応の終息を見たといえる。

 サイレント・ゼフィルスと撃ち合い、放たれるレーザーの全てを打ち消してのけた一夏と真宏を回収した千冬は事態の収拾を宣言。別の区画を襲っていた無人機達も教師陣によって全滅したのだと、回復した通信で知らされた。

 

 千冬はこれから待ち受ける山のような事後処理のためその場をあとにし、一夏達事情を知る専用機持ちに緘口令を敷き、時を改めての事情聴取を約束してから去っていった。

 

「なあ、千冬姉」

「学校では織斑先生と呼べ、織斑」

「今は放課後だよ。それと……マドカのことだ」

「……」

 

「今じゃなくていい。でもいつか、あいつのことを教えてくれ。……仲良く、なりたいってのに、相手の事情を何も知らないのはなんだからさ」

「……ふん」

 

 去り際の交わされた姉弟のその会話にどれほどの重みがあったのか。そのことはまだ誰も……一夏ですら、計りきれていなかったことだろう。

 

 

 ともあれそんな事情を経て、戻ってきた専用機持ち一行。

 せっかくだからとフォルテとダリルもまとめて一年生寮に連れて来てみたのだが、さて寮の中は一体どうなっているのだろう。

 パーティーの続きをしているとは言っていたし、戻ってこいとも言われたからこうして来てみたのだが、異様に静かだ。かなり激しい戦闘があったのだから音くらいは届いていたはずで、さすがに少しは大人しく部屋に戻って待機しているのではと思いもするのだが。

 

「でも、多分谷本さん達はやめないよ」

「同感だ。今回の件に関して、ひょっとすると企画した私たち以上に乗り気だったぞ、奴らは」

 

 だからといって、その程度で音を上げるようなIS学園一年生とも思えないのだ、これが。

 

 そんなことを考えながらの歩みは遅く、ようやく談話室の前に来たばかり。この扉を開けたとき、そこには何が待っているのだろうと一行は思い悩んで足踏みしているのであった。

 扉の向こうは、パーティーが続いているにしては妙に静かだ。ゆえに誰もいないかもしれない。慌ただしく逃げたあとの荒れた部屋があるかもしれない。

 ……しかし、最もありそうだなーと思えるのは、こうして戻ってくる一行を待ち構えてなんぞサプライズを仕掛けているのではないか、というものなのである。

 

「だけど、あんまりここにいるわけにもいかないでしょう」

「そうだな。神上あたり、そろそろ休ませた方がいいんじゃねーか? ……こいつならほっといても大丈夫な気がするけど」

「同感っス。ある意味両手に花っすからねー」

 

「何言ってるんですか先輩」

「あう……」

 

 なんにせよ、決断は早くしなければならないだろう。

 フォルテとダリルの言葉通り、ロマン魂を全開に使ってかめはめ波を放った真宏は強羅の装着解除後、ロマン魂の副作用による虚脱状態に陥って一夏に肩を借り、簪に支えられてようやくここまで歩いてきたほどなのだから。

 

「ぁー……なんかもう色々どうでもいいや」

「真宏っ、しっかりして」

 

 真宏のあの有様を初めて見た上級生二人はそれなりに心配しているようだが、確かにそろそろ休ませたほうがいいだろう。適当に真宏の部屋から持ってきた特選ロマンDVDの一本も見せるか、しばらく簪と二人きりにしておけばそれだけで回復するということを最近発見したヒロインズはさして動揺してもいないのだが、確かに今日はそれ以外にも疲れることは多かった。真宏を休ませ、自分達もそろそろ居所を決めたいところでは、あったのだ。

 

「じゃ、じゃあ……開けるわよ」

「覚悟を決めておけ。何が飛び出すかわからんぞ」

 

 そしてついに、鈴と箒が扉に手をかけた。両開きのその扉の先に何があるか。一夏はついさっき自分が受けたばかりのサプライズ的な何かがあることを警戒し、まさか今日の内に自分たちがされる立場になるとは思わなかったヒロインズ一同は身を固くして。

 

「せーのっ」

「頼もうっ!」

 

 ばーん、と開ける。

 

 

 そして、開いた扉のその先に。

 

 

 

 

興<遅かったじゃないか……>興

 

 

 

 

 なんと、かぼちゃで作った某弱王のACフォックスアイの頭部パーツっぽい被り物、すなわち「ジャック・O・ランタン」を頭に被った生徒の群れが!

 

「きゃああああああああああああああ!?」

「ひぃいいいいいいい! な、何をしているんだお前らはああ!?」

「むずむず……」

「おい待て、誰かシャルロットを押えるのを手伝え! いつの間にかとっつきを部分展開しているっ!」

 

「何やってんだ……」

「今だけは真宏がこの状態でよかったよ。普通だったらカオスに拍車かけるだろうからな」

「あ、あはは……同感、かも」

 

 突然のインパクトありすぎる事態に阿鼻叫喚となるヒロイン勢と、ロマン魂の副作用でダウナー状態だから冷静な真宏達。なんというか、逞しいとかそういう次元ではない歓迎の仕方なのであったとさ。

 

 

「あっはっはっは、いやー面白いくらい驚いてくれたわねえ」

「当たり前だ! ……しかし、一体いくつ作ったんだ。というか、どうやって作ったんだ」

 

 そしてまた、パーティーが始まった。

 専用機持ちの面々にせよこの場に残っていた一年生にせよ、さすがに色々やりきった感はあるので比較的穏やかにはなっていたのだが、テーブルにはさっきまでかぶりもの扱いされていたジャック・O・ランタンが本来の使い方で再利用されてずらりと並ぶという異様な光景。はっきり言って安らげる雰囲気ではない。

 

「そりゃあ、みんなでせっせとかぼちゃをくりぬいたり削ったりして、よ。きっと疲れて帰ってくるだろうから驚かせたかったし、真宏くんあたりは確実にああなってるだろうから、元気づける意味も込めて、ね」

「……ふん、そうか」

 

 とはいえ、さすがに実戦で疲労困憊してきた同級生をさらなるコスプレ地獄やら何やらに叩きこむほどの外道はいない。現に、真宏などはとくにコスプレさせられることもなく部屋の隅にあるソファに寝かされている。

 

 簪とセットで。

 

「すぅ……すぅ……。んん~」

「あ、あぅ……」

 

 しかも、膝枕で。

 安らかな寝顔を浮かべ、たまに簪の膝に頬ずりなどして気持ちよさそうに。

 

「おっと神上君はさすがにお疲れみたいね。じゃあちょっと寝かせてあげましょう、そこのソファで!」

「ちょっと、でも枕がないわよ?」

「大丈夫、任せて。ここにちょうどいいのがあるじゃない。ね、簪さん」

「……え?」

 

 などという台本でも用意されていたのではないかと疑わしいやり取りの末、満場一致で簪の膝枕の上に真宏の頭が乗せられた。

 ちなみにその際、簪は赤くなりこそしたものの嫌がったりはしなかったことを追記しておこう。ぶっちゃけ、まんざらでもなさそうである。

 一方楯無は邪魔しちゃ悪いと思いつつも心底うらやましいのか、部屋の隅のほうから何とも言えない視線を注いでいたりする。

 

「いやー、いつもの真宏くんのなんか知らないけど無駄に自信ありげなところもいいけど、案外寝顔はあどけないのねえ」

「ホントホント。こうしてると案外可愛い……って、ん?」

 

 そんな真宏と簪は現在ちょっと遠巻きに好奇の視線にさらされている。ロマン魂の使い過ぎで色々と抜け落ちているからかその寝顔は実際の年齢以上に幼く見えて、ましてや簪の膝枕ということが本能的にわかるのか安心しきった様子。そこはかとなく母性本能をくすぐる表情だった……のだが、ふいにその顔が隠された。

 

 真宏の顔を覆うようにかざされる手。

 意外にも素直な寝顔を隠したのは、誰あろう簪である。

 ちょっと涙目になり、顔を赤くして、無言のうちにそこはかとないヤキモチ感をにじませた、簪である。

 

「……っ!」

「……あ、あー。あははは、大丈夫よ簪さん。別に取ったりしないから」

「そうそう、寝顔かわいいなーってだけだもん。……いやむしろ、それを必死に隠そうとする簪さんこそ可愛くね?」

「ええまったく。ええまったく」

「会長涙出てますよ。感動でなのか嫉妬でなのかは知りませんけど」

 

 などなど、多少大人しくはなったものの、未だあらゆるコスプレが乱舞するこのハロウィンパーティーは楽しくあり続けた。

 

 のほほんさんは一夏達が呼び出される前からずっと眠ったままなのか、今では銀髪のかつらをかぶせられ、ロシアっぽい筒のような帽子を乗せられたまま眠りこけ、一夏はきつねのお面をつけさせられたら何故か誰もが直接触れようとはしなくなったりと、ばっちり中断前の空気を保っていたのだが。

 

 

 パーティーは続く。

 IS学園教師陣は今回の事件の後処理に忙殺されて寮のことまで気が回らないのをいいことに誰憚ることなく騒いで食べて飲んでが繰り返され、途中で復活した真宏も自分がやらかしていたことにしばらく赤くなっていたがすぐに気を取り直して参戦し、そんなこんなでこのパーティーは明け方近くまで続けられた。

 その後は楯無の指揮、ラウラの監修による証拠隠滅……ではなく後片付けが行われ、警察の鑑識が来ても前夜ここでパーティーが行われていたなどとわからないであろうほど綺麗に元通りとされた。

 ある種の完全犯罪である。

 

 

 IS学園として、明日から通常授業が行われるのか、それとも事後処理のため休校となるかはわからない。

 だが部屋に戻るなりばったりと眠りについた一年生一同は、たとえいつも通りに授業が行われたとしても平然と顔を出すだろう。

 それだけの体力もあれば、覚悟もある。ここ数カ月ことあるごとにイベントを潰され続け、それでもなお今日のパーティーを敢行した彼女らはそう決めたし、これから何度同じことがあろうともイベント事はやり遂げると決心した。

 

 強くなるのは、戦う者だけではないのだ。

 

 

◇◆◇

 

 

「ただいま帰りました、束さま」

「あっ、くーちゃんお帰り! ばっちり黒鍵を届けてくれたみたいだね、ありがとう。よーしよしよしよしよしよし」

「束さま、いつの間にここは動物王国になったのですか」

 

 時は、IS学園が無人機、G3-X、サイレント・ゼフィルスの襲撃にあった夜が明けた頃。場所は、いまだ彼女を探す誰もが知らない篠ノ之束の秘密基地。

 そこに、帰還した少女をやたらめったら大げさに出迎える束の姿があった。

 

「ともあれ、束さまにお願いされた届け物は成功しました。織斑千冬が暮桜を起動させたことも確認しています。……やはり、強いですね」

「えへへー、そうでしょー。なんか色々強化されたらしい暮桜ももちろんだけど、ちーちゃんがすごいんだよー。あそこまで強くなれるだなんて、束さんの想像以上だもんね!」

 

 己の娘と呼んで可愛がる少女を抱き上げ、大して広くもない秘密基地の研究部屋にてくるくると回る束と回される少女。不思議とどこかにぶつかることはないのだが、やたらめったらいい笑顔の束と、これだけのことをされながら髪が遠心力で広がるのに任せて無表情な少女の組み合わせというのは、何とも言えないシュールさがあった。

 

「それで、束さま。次は何をしましょうか」

「んー、しばらくはくーちゃんにお願いすることもないかな。なんかごちゃごちゃ動いてるのはいるみたいだけど、束さんには関係ないし」

「……そう……ですか」

「あ、あー……で、でも束さんちょっとお腹すいたなー。何か食べたい気分だなー」

「! 任せてください、束さま。今日は神上真宏にも会いましたから、以前お願いされた卵焼きも少し上手に作れそうな気がするんです!」

「う、うん。待ってるよー……」

 

 しばらく頼みごとがないと聞いてしゅんとする少女に、ついつい勢いでそんなことを頼んでしまった束。娘と心から思うこの子のことを愛する気持ちは強いのだが、それでも以前味わった卵焼き(?)の命を削るような味は天才たる自身の脳細胞にしっかりと刻みこまれており、冷や汗が垂れる。

 まあ喜んでくれたのだからよしとしよう、うんと必死に自分に言い聞かせながら、束はひとまずさっきから行っていた作業の続きに戻るのだった。

 

「ふむふむ、あいつらまた何かするのかと思ってたけど……さすがにそろそろしびれを切らしてきたみたいだね。時間もあんまりなさそうだし、おおげさな動きもありえる、か」

 

 束がしていることは、情報収集。

 とはいっても世界屈指の天才であるがためにそうして知り得た情報がただものであろうはずもなく、世界の行く末を左右しかねない情報であることは間違いなく、しかしそのことを誰に伝えるつもりもない。

 

「ちーちゃん達はどうするんだろう。暮桜も復活したし、ちーちゃん自身も動いたわけだし。……ふふふっ、楽しくなってきたなあ!」

 

 ぽーんと、それまで取りついていた端末の乗ったテーブルを蹴り、キャスター付きの安っぽい作業椅子で後ろへ下がってくるくると回る。

 回転する視界の中、天井を見上げた束の目が映すのはしかし現実の姿ではなく、今知った事実を元に思い描いた世界の未来。これから何が起こるのか、そしてその際千冬が、一夏が、箒が、そして……他の人間と顔は見分けがつくのに今だ名前は覚えきれない真宏が、一体どう動いて行くのか。

 愉快なその想像にいつまでも耽溺する様子は世界を混乱に陥れてなお暗躍するマッドサイエンティストのものではなく、ごく当たり前に友人の活躍を喜ぶ女性のものだった。

 

「んふふっ。さて、それはさておき今日はゴーレムⅠが一杯頑張ってくれたなあ。――みんなにも、また作業用のボディを作ってあげないとね」

――……

 

 そして、そんな束の背後には。

 研究室の外壁に埋め込まれるようにしてしつらえられたメンテナンスコフィンに収められた数機のISがいた。

 

 ゴーレムシリーズに通じる意匠を持つ、黒いIS。現時点で最新鋭の無人機にして、ついさっきまでIS学園を襲撃していた、束にとっての作業用ISに過ぎない無人機ゴーレムⅠを統括制御していた、親ともいうべきISだ。

 あのゴーレムⅠ達はあくまでこのISの手足であり、使われていたコアも本物のISたるこの機体達から操られることを前提とした簡易版のモドキに過ぎない。

 

 それでなおあれだけの実力を持ち、数を揃えられる束保有の戦力。その全貌を知る者は、まだ世界に誰一人としていないのだった。

 

 

「束さまっ、今日は自信作です!」

「……そ、そっかー」

 

 ただそんな束でも、くーちゃんが一体どこから湧いてくるのかわからない自信をみなぎらせて持ってきた卵焼き(真っ黒)を食べたら何が起こるのかまでは、見通せない。

 

 でもとりあえず、この無駄にやる気満々なところはまーくんに似てるかもなーやっぱり染まったか、とか思ったりもするのであった。


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