「ただいま……」
「おぉ、おかえりなのじゃ姉上。今日はやけに遅かった……って、どうしたのじゃ姉上?顔色が優れんぞい?」
「何でもない……あたししばらく部屋にいるから……」
帰宅後すぐ、必要最低限の会話だけ済ませて自室に戻った。
女の子らしいものをと買ったぬいぐるみを手に取り、ベットに座ってうずくまる。
今日は頭が容量オーバーだ。
自分は何が起きても対応できる、なんて思ってた昔の自分を殴りたい。
いざ『何か』が起こった今日、何一つ出来なかったじゃないか。
負の感情が負を産んで、どんどん深みにはまっていく。
結局まとめるどころか起きたことが頭をぐるぐるまわっただけで時間だけが過ぎていった。
こんな風になったのなんて一度もなかったのに……。
トントン
その時扉がノックされ、返事をする前に扉が開かれる。
「……何よ秀吉」
「帰ってすぐ下着姿になってBL本を読んでいる姉上が制服で部屋に籠るなんぞ珍しいからの。何事かと思って心配してきたのじゃ」
「……あんたあたしをバカにしてるでしょ……?」
「今日の姉上の様子ばかりは放っておけないと言ったまでじゃ」
本当にこいつは……。
勉強は出来ないくせに人の感情だけはすぐに読み取るんだから……。
ま、それとは関係なく帰ってきてからのあたしは確かにあからさまにおかしいでしょうけど。
少しだけ思考が戻り、なんとなく秀吉に質問を投げかけた。
「あんた、水谷陸人って分かる?」
「陸人かの?うむ、よく知っておるのじゃ」
「陸人って……あんたまさか友達?」
「じゃな。去年同じクラスで明久達と一緒によく遊んでいたのじゃ」
「その割に試召戦争の時は淡々と倒されてたけど?」
「そういうやつなのじゃ。あやつは。あまり人と仲がいいのを見られると恥ずかしがる。雄二がウブなやつだといじっておった」
「へぇ……意外ね……」
「して、その陸人がどうかしたのかの………?よ、よもや姉上……!陸人に恋を……!?」
「ないない。……まぁいいわ。ちょっと聞きなさい」
水谷君を知っているなら話は早い。
誰かにこのモヤモヤをぶつけたい気分だったし。
今日起きたことを呟くように秀吉に話すと秀吉は静かに、時折相槌を打ちながら聞いてくれた。
流石に最後に言われたことは話さなかったけど、キスされたことを言うと秀吉も驚いた。
やっぱり意外だったみたい。
話終わるとあれだけ整理出来なかったことがすっと頭に入ってきて、客観的に見ることが出来る。
秀吉に話して正解だ。
こいつは本当に聞き上手だわ。
「ありがと、秀吉。なんかすっきりした」
「それは良かったのじゃ。しかし陸人がそんなことを……。姉上もBL本を盾にされるとは不運じゃったのぅ……」
「本当よ……。いつかはこうなるんじゃないか、って思ってた部分はあるけどよりにもよって水谷君にばれるなんて……」
「憂鬱にもなるのじゃ。あやつはドSじゃからの」
「あいつのイメージってそれしかないの……?愛子もドSだって言ってた」
「そうじゃのぅ……。女は鬱陶しい……とも言っておった。言い寄ってくる女に限ってじゃったが」
「ふぅん……」
「にしても明日から彼女とは……」
「そうなのよ……。それが一番ね……」
目立つだろうな……。
でも、元々目立つことには慣れてるし何とかなる!
………って信じるしかないか。
少しだけ前向きになり、空腹を感じて秀吉と共に一階へと降りていった。