あたしと弱味と仮彼女:R   作:近衛龍一

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もう誰にも止められない

強化合宿2日目

 

いよいよ本格的に合宿のメニューが始まった。

 

とはいってもほとんど自習なんだけどね。

 

あたしは愛子と一緒に早めに自習部屋に移動して勉強を開始。

 

代表も誘ったんだけど坂本君を迎えに行くと言って別行動だ。

 

その後部屋にはAクラスの面々が早め早めに集まり、開始5分前というギリギリの時間にようやくチラホラFクラスの人達も部屋に入ってきていた。

 

まったく……。

 

勉強合宿っていう自覚が無さすぎるんじゃないのかしら?

 

なんてことを思っていると、そんなFクラスに混じって入ってくる水谷君と爽地君の姿が見えた。

 

 

「どうだ?工藤と霧島に昨日のこと話してくれたか?」

 

 

そしてキョロキョロ部屋を見渡してあたしと目が合うと、挨拶もなしに当然かの如くあたしの隣に座る。

 

うん、まぁ分かってたけどね。

 

 

「ええ。ちゃんと理解もしてくれたわ。だけど隣に座る必要はないんじゃないのかしら」

 

「いいだろ別に。減るもんじゃねーし」

 

「嫌よ。どっか行って」

 

 

あたしはそんな水谷君をあしらうように一つ間隔を空けた。

 

ん?ちゃんと見るんじゃなかったのかって?

 

確かにそうするとは決めたけど少なくとも今じゃない。

 

だって今は勉強合宿よ?

 

折角の機会なんだし、勉強の方に集中しないと。

 

それを阻むようなことは排除する。

 

水谷君のことばかり考えているあたしではないのだ。

 

 

「なんだよ、昨日のこと拗ねてんのか?」

 

「違うわよ。ただあんたが隣にいるとちょっかいかけてくるだろうから避けてるだけ。今は自習時間なの。邪魔しないでちょうだい」

 

「つれねーの。ほれほれ」ワシャワシャ

 

「や め て」

 

 

一刀両断。

 

ふっふっふっ。

 

朝まであれだけ悩んでたんだ。

 

1周回って頭を撫でられたくらいでテンパるあたしじゃないのよ。

 

流石の水谷君もこの反応は予想してなかったみたいで、冷たい声を浴びせると大人しく手を離してため息をつく。

 

 

「分かったよ。もう邪魔しねーから。その代わり隣で勉強するくらいいいだろ?」

 

「い や よ」ベーッ

 

「このアマ……!」

 

 

うん。

 

主導権を握るのってやっぱり楽しい……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局あの後しばらく押し問答したけど、あれを続けるだけ時間の無駄だしあたしの気分がスッキリしたところで妥協してあたしに触らないことを前提に隣に座ることを許してやった。

 

 

「僕は『工藤さん』『の』『スカートの』『中に』『興味がある』ってちがーう!」

 

 

ちなみにそんなあたしたちの前では愛子を中心に絶賛漫才中だったりする。

 

主に吉井くんが弄られてるだけだけど。

 

代表は坂本君に身を寄せて幸せそうだし、もはや勉強する環境じゃないのよねこれ。

 

 

「はいはい愛子。それくらいにしておきなさい。そろそろ勉強に集中するわよ」

 

「えー?優子ったら真面目だなー。自習っていうのは遊ぶための時間ダヨ?」

 

「Aクラスの生徒が何を言ってるのよ」

 

「まぁまぁ。いいもの聞かせてあげるからさ」

 

「ん?」

 

「『木下』『俺は』『お前を』『愛』『している』」

 

「……なにこれ」

 

「昨日から水谷君の声集めてたの。どう?興奮した?」

 

「しないわよ!というかやめなさいそれ!色々勘違いされるでしょうが!」

 

 

まったく愛子ったら……!

 

吉井君が島田さんや姫路さんに睨まれて遊び辛くなったらすぐこれだ。

 

ボイスレコーダーを奪おうとするけどヒョイヒョイと避けられて取れる気がしない。

 

悔しいけど諦めようとしたその時、意外な人が愛子からボイスレコーダーを取り上げた。

 

 

「甘いんだよ」

 

「あ」

 

「こんなしょっぱいもん作ってんじゃねぇっての。見てろ」

 

「へ?あっ、ちょっ」

 

 

そう言って水谷君はドライブレコーダー片手にあたしに近づいて、キスする勢いで顔を寄せてきた。

 

当然あたしはそれを避けようとするわけで。

 

座ったまま仰け反ったせいでバランスを崩し畳に倒れてしまった。

 

ヤ、ヤバイ……嫌な予感しかしないんですけど!?

 

人の直感とは怖いものでよく当たる。

 

というか最近の嫌な予感は全部こいつ絡みのことだし全部当たってる。

 

つまるところ、今回もその予感は見事的中。

 

あたしに跨って顔の横に手をついて、じっとあたしを見つめてくる。

 

こ、これって漫画でよくみる床ドンってやつ!?

 

っていうか気がついたら皆こっち見てるし!

 

いつもの通り(本当に悔しい!)水谷君のパターンに持っていかれたと思った時には既に遅し。

 

心を落ち着かせる間もなく更なる追撃がやってくる。

 

 

「俺はお前を世界で一番愛してるぞ、優子」

 

 

キャーーーーーー!!!

 

 

あたしが反応する前にあがる歓声。

 

もはやここは水谷ワールドだ。

 

誰もこいつに逆らえない。

 

そんな雰囲気すら完成している。

 

 

「おおっ。まさかの生声。やるねぇ」

 

「やるねぇ……じゃないわよ!だいたいあんた何もしないって……!」

 

「そんなこと言ってないね。触らないとは約束したが」

 

 

ぐぬぬ……!

 

確かに触ってないけども!

 

触ってないけども!

 

こんなのアウトでしょ!?

 

ほら!あそこのウブそうな子なんて失神しそうじゃないの!

 

 

「ま、ボイスレコーダーなんて使うくらいなら俺に言え。直接言ってやる」

 

「しょうがないなぁ。じゃあ今度から優子をいじる時は水谷君にお願いするよ」

 

「愛子ーーー!!!」

 

 

返して!

 

朝いい友達を持ったななんて思ったあたしの気持ちを返して!

 

 

「ほんと陸人が本気出すと敵なしだね……」

 

「…………人間兵器」

 

「羞恥心ってもんがないのかあいつは」

 

「流石の姉上も打つ手なしとはのぉ……」

 

 

「コラぁぁーー!!吉井達!!騒いでないでしっかり自習せんか!!!」

 

 

「ええっ!?なんで僕達なの!?」

 

「日頃の行いってやつだな」

 

「だなって陸人のせいじゃないかぁ!」

 

 

誰か……誰かこいつを止めてあたしを助けてください………!

 

 

 


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