あたしと弱味と仮彼女:R   作:近衛龍一

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不思議な気持ち

印刷室を出て外の風にでも当たろうと廊下を歩いていたら、前方から愛子が歩いてきた。

 

「あら、愛子じゃない。部活のミーティングは終わったの?」

「うん。ちょろっと話があっただけだし。今教室に部活道具忘れちゃったから取りにきたところなんだ。優子はどうしたの?」

「印刷機にいじめられたから外の風にあたろうと思って」

「へ?どういうこと?」

 

思い出すだけでも忌々しい印刷室での出来事を愛子に説明する。

 

「それはまた……。で、今水谷君が印刷室に?」

「そういうこと。本当についてないわ……」

「そう? ボクはよかったように思えるけど」

「へ? なんでよ?」

「だって水谷君、案外悪い人じゃなさそうだし」

「何言ってんのよ。あいつのせいであたしは……」

「優子が出来ないからって文句言わずにやるなんて結構優しいんじゃない? それどころか優子を気遣って休憩しろって言ってくれたんだし」

「む……」

「少なくとも最初のイメージよりいいよ」

「まぁ…そう言われれば……」

 

考えてみれば嫌味の一つでも言いそうだけど……。

けどやっぱりそれだけであいつがいい人とは信じたくない。

 

「それか優しいんじゃないとすれば……」

「すれば?」

「優子のこと、好きとか」

「ぶふっ!? ななな、何言ってるのよ! そんなわけないでしょ!?」

「分からないよ? 男の子って好きな女の子に意地悪することとかあるし、でもやっぱり好きだから基本その子にだけは優しくしてね」

「だ、だからってあいつがあたしなんかを……」

「あれ〜? その発言、やっぱ優子も水谷君をカッコいいとは思うんだ」

「う……ま、まぁ見た目は…。でも中身が最悪だから好きではないわ!」

「と、いいつつ顔が真っ赤な優子でした」

「!?」

「あははっ! 嘘だよ。優子ってばウブな反応して可愛い〜」

「あ、愛子!」

「にししっ。それじゃ、水谷君と仲良くね!」

「こ、こら待ちなさい!」

 

言うが早いが『待たないよ〜!』と教室の方向に走り去ってしまった愛子。

運動部の彼女に帰宅部のあたしが追いつけるはずもないので追いかけはしないが、明日必ずシメテやろうと誓うあたしだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ん、帰ってきたのか」

「え、えぇ…。って、もう印刷終わったの?」

「そんなに時間かかるもんでもないだろ。お前待っててもしゃーねーし、俺だって早く帰りてぇし」

 

印刷室に戻ると印刷したプリントを一つずつ冊子にする作業を既に水谷君が始めていた。

あたしも慌てて椅子に座りプリントを一枚手に取る。

 

「慌てんのはいいけど順番間違えんなよ。余計時間かかるからな」

「わ、分かってるわよ」

 

なんだかバカにされたような注意をされ、少し不貞腐れながら黙々と作業に入った。

がーー

 

「どうした。俺の顔見て。何か変か?」

「な、何でもない……」

 

さっき愛子に言われたことを意識してしまって、ついつい見てしまった。

た、確かにカッコいいといえば当然カッコいい。

一目惚れしちゃう女の子だっているだろうし、モテると思う。

あたしだって授業中たまに見てしまうのは話さない分には目の保養になるからだ……たぶん。

だからって人間中身なわけだし、仮にも脅されている身だ。

こいつを好きになるなんてそれこそ天と地が入れ替わらないとありえない話だ。

いや、何度も言うけれども。

 

「何にもねぇなら作業に集中しろ。ダラダラやってると終わんねぇよ」

 

ソファーで寝てたあんたが言うことか。

そう言いたかったが、どう考えても今の立場はあたしの方が下なので何も言えない。

というか、やっぱりこいつがあたしのことを好きなわけないだろ。

さっきから嫌味ばかりじゃないか。

愛子の言っていたことがありえないと改めて結論付けて頭の隅に追いやり作業に集中した。

 

…………なんか、モヤモヤするけど、気のせいよね。

 


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