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プロローグ
五月中旬ーー
二年からの新しいクラスにも、進級直後の試召戦争や清涼祭を通して慣れてきた。
学業の方も怠りはないし、生活面でも問題なし。
完全無欠の優等生として先生、生徒から共にいい評価を得ている。
全くもってあたしの計画通りの順調な出だしだ。
「優子、今日は購買?ボクも今日は購買だから一緒にいこうよ!」
「ええ、いいわよ。代表、先に食べててください。愛子と購買に行ってきますから」
「……うん、分かった」
こうしてお昼を一緒に食べる友達もいるし、これで言うことは出来の悪い弟に関してだけだろう。
「う〜ん。ちょっと出遅れちゃったかもね。だいぶ人が多い……」
「そうね……。購買部前はもっと人が多いでしょうし……」
廊下を行き来する人の数はとても多い。
うちのクラスの男子も三限目終了のチャイムが鳴ったと同時に購買に走り出すくらいだし、ゆっくり教室を出たなら完璧に出遅れていのだろう。
流れる人は既にパンを買っていて各自教室に戻っているし、あたし達はどうみても流れに逆らっている。
「これじゃ行くだけで一苦労だわ……」
ため息をつきながら四つ角を曲がろうとした時、あたしはドンッ、と誰かにぶつかった。
「いったぁ〜……」
「ん?人か?小さくて見なかった」
「んなっ……!?」
尻もちをつき、投げかけられた言葉で顔を上げる。
そこにはパンを持った二年の、もっと正確に言えば同じAクラスの生徒が立っていた。
「見えなかった!?普通はそんなこと言う前に先に謝るんじゃないの!?」
確かにあたしの背はぶつかった生徒の胸あたりまでしかなかったが、見えないほどではない。
ただの言い訳にすぎないのだ。
「何で俺が謝るんだよ。お前が逆流してるのが悪いんだろうが」
「それでも心配の一つくらいーー」
「うっせぇな。空、行くぞ」
「そんなこと言わないの陸人。さっさと謝る」
「断る。嫌だね」
「はぁ……ごめんね木下さん。不満かもしれないけど僕の方から謝っておくよ」
ぶつかった方ではない、隣にいた男の子が頭を下げあたしの前を去っていった。
言いたかったことを言うことが出来ず呆気にとられ、その場でしばらく尻もちをついたままのあたしに愛子が声をかける。
「ゆ、優子大丈夫……?」
その声で正気を戻し、ジワジワと怒りがこみ上げてきた。
「何なのよあいつ……!人にぶつかっておいて謝るどころか貶して去っていくなんて普通ありえる……!? っていうかあれうちのクラスのやつよね!?」
「そ、そうだね。水谷君……だったっけ。学年次席2位、スポーツ万能、容姿端麗、学校一もてるんじゃなかったっけ?」
「あんな嫌なやつがもてるなんておかしいでしょ……! ほんっとに頭にくる……!」
「あはは……。水谷君ってドSなイメージだもんね。なんというか人に謝るところが想像できない……」
そうだ、思い出した。
最初の自己紹介の時も名前だけ言って終わったやつだ。
確か試召戦争の時は先鋒で出て我が弟をこてんぱんにしていた記憶がある。
喜びもせず、相手を罵倒するわけでもなく、何も言わずに戻ってきたからなんて偉そうなのだろうと思ったのだ。
まぁその時は秀吉に対する怒りの方が上だったからあまり気にしてなかったけど。
「運が悪かったとしか言いようがないね。どう?立てそう?」
「えぇ…。一応は……」
手を差し出してくれた愛子に力を借りて起き上がり、水谷君が歩いていった方向を見る。
あいつ……!
絶対に許さないんだから……!
☆☆☆☆☆
俺は買ったパンを上に投げながら、隣を歩く空に尋ねる。
「なぁ、あいつって……」
「木下さんのこと? 全く……謝るくらいすればいいのに……」
「何でだよ」
「はぁ……相変わらずというかなんというか……。で、その木下さんがどうしたの?」
「面白いやつだなと思って」
「へ?どういうこと?」
「………いや、大したことじゃねぇ。気にすんな」
「………?」
ふと振り返り後ろを見れば、工藤の力を借りて立ち上がっている木下の姿。
きつめの目つきに高圧的な威勢。
そしてどこにでもいそうな優等生タイプ。
過去に言い寄って来たことのあるやつにもそういうやつはいたはずだというのに、何故か俺は木下のことが気になっていた。
え〜………前作とはだいぶ違うところも多いですね。
陸人の親友の名前も大地から空に。
特に深い理由はありませんが……。