やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
なんとか準備を終えた俺たちはリオウと――奴の
また、こちらとしてはもう少し待って欲しかったが見つかってしまったものは仕方ない。心の力を少しでも回復させるために意識をそちらに向ける。
「……『ファウード』が止まっている?」
周囲の様子を確かめていたリオウはモニターの一つに気づき、ボソリと呟く。そして、俺たちの方を苛立った様子で睨んだ。
「貴様らがやったのか?」
「……どうだろうな?」
本当は最初から止まっていたがあえて挑発するように答える。ここで俺たちは奴らと戦うつもりだ。怒りで冷静さを失ってくれた方が戦いやすい。
「ちっ……
しかし、リオウは意外にも舌打ちをしただけで怒らなかった。それに高嶺のことを名前で呼んだ。やはり、『ファウード』を魔界に帰す装置を止める方法を聞き出そうとしたのだろう。
「まぁ、いい。で? 何のつもりだ。まさかオレを倒す、なんて言わんよな?」
「ハチマン」
「『サルジャス・アグザグルド』」
「……く、くくく」
奴の問いに答えるように俺は呪文を唱え、サイが
「おいおい、冗談はよせ。このタイミングで襲ってくる可能性は考えていたが攻撃呪文を持たない貴様らがか? オレに勝てるとでも?」
「お前を倒すのに攻撃呪文なんか必要ないでしょ?」
「……自身の力を過大評価しているか、それとも格上との力の差すらわからない間抜けか。どちらでもいい」
そこまで言うと奴は自身の
「ここで清麿と同じように殺してやる。惨たらしくな」
「ッ……殺した?」
「ああ、死んだ。間違いなく、な」
俺たちは比較的、嘘を見抜けるタイプだ。視線、声音、態度。その全ての中に奴が嘘を吐いている素振りはなかった。つまり、本当に高嶺はリオウに殺されてしまったのだ。
「……そっか」
サイも俺と同じことを思ったのだろう。彼女の声が低くなる。そして、一気にその小さな体に内包されている魔力を解放した。凄まじい負の感情の乗った魔力。ほぼ同時に『サジオ』の出力を最大にしたが、体が悲鳴を上げて内臓を傷つけたのか、食道を血が逆流して口の端から血が垂れ始める。
「おいおい、いきなり自滅か?」
「ううん、大丈夫。ハチマンが死ぬ前にお前を殺すから」
「そんなことできるわけ――」
そこでリオウは言葉を区切る。いや、噤んだ。俺の隣にいたサイの姿がフッと消えたからだ。俺も気配を消してそっとその場から離れる。幸い、サイの方に奴らの注意が向いているので動いても気づかれなかった。
「なっ、どこへ――」
「ここだよ」
綺麗な黒髪の
「ぐっ」
殺傷能力のない衝撃波とはいえこれほどの威力のそれをまともに受けたら地面に叩きつけられ、ダメージは免れない。なにより範囲がそれなりに大きいため、このままでは
「攻撃呪文、ではないのか!? ハイルめ、報告を怠ったか!」
「こっちも早く反撃の呪文を――」
「――無駄口叩かず術を唱えろよ」
地面に衝撃波が激突し、群青色の爆風がリオウたちの髪を撫でる。やっと、臨戦態勢に入ろうとした時、『気配分散』で奴らの後ろへ回った俺は
「お、おおおおおお!?」
「『サルド』」
いきなり現れたように見えたのだろう。
「バニキス!」
「『ファノン』!」
だが、やはりリオウというべきか。
「せいっ!」
しかし、そのエネルギー弾は俺に着弾する前にサイが綱を伸ばして俺に巻き付けて一気に引っ張る。俺の体はその場から離脱し、エネルギー弾は近くに立っていた柱へぶつかった。
「ごめん、下級呪文でも『サルド』で相殺できそうになかった」
「気にすんな」
『サルド』で救出された俺だったが、本来だったら『サルド』を術にぶつけて相殺させる予定だった。だが、最も弱い呪文でも『サルド』が負けてしまうと判断したサイが予定を変更したのだ。
(さすがにこれだけじゃ終わんねえか)
リオウが強いことはわかっていた。きっと、これまで俺たちが戦ってきた中でも最強の部類と言っても過言ではない。
「……バニキス、油断するな」
「ちっ……」
なにより奴らから油断がなくなったのが痛い。地雷を疑似攻撃呪文代わりにしているがこうなっては簡単には当てられないだろう。
それに加え、このコントロールルームのメインステージは特殊な鉱物でできているらしく、『サルジャス・アグザグルド』を設置しても透明化できなかった。この地雷は透明化できなければ呪文を唱えても新しい地雷は出てこない。一応、
「『サルジャス・アグザグルド』」
再び、地雷をサイに渡す。右手に綱、左手に地雷を持った彼女は黙ったまま、リオウの方へと向かった。俺も『気配分散』を使い、柱に隠れる。
「すぅ……はぁ……」
次の呪文を使うため、心の力を魔本に込めながら深呼吸を繰り返す。ここからは少しの判断ミスが命取りになる。あまり追い詰めすぎて他の奴らを呼ばれたらアウト。ハイルは足止め役として外にいてくれていると思うがその人数にも限りがある。
つまり、リオウに自身が優位な状況だと思わせつつ、ばれずに追い詰め、魔本を燃やす前に『ファウード』の鍵を奪うのが俺たちの勝利条件。それも鍵がどんな形なのかもわからないので戦いながら情報を得なければならないという縛り付き。うん、厳しいね。
(それでも……)
「死ねぇ!」
「『ガルファノン』」
「っ――」
『サルド』を柱に巻き付け、リオウの術を回避するサイを見ながら呪文を唱えるために息を吸う。
俺たちが倒す。そうしなければ日本は滅んでしまうのだから。