やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
可能な限り、毎週日曜日更新を目指していますが、リアルの方が忙しく、なかなか時間を取ることができません。
これからも更新ができないようなら活動報告に書きますのでよろしくお願いします。
「これは……」
「きっとこれが『ファウード』の体内の地図だろう。この先でまた地図が見られる機会があるかわからない」
アリシエの言葉に私は目の前にあるモニターをよく観察する。そこに映し出されていたのはまさに人体図を模した地図であった。内臓はもちろん、筋肉にあたる部分も部屋になっているらしく、想像以上に部屋数が多い。『ファウード』の体内には罠があるらしいし、この全てを回る時間はおそらくないだろう。
「ハチマン、メモ帳とかある?」
「ああ、あるぞ」
隣に立つハチマンに声をかけると彼は背中のリュックサックを降ろし、そこからメモ帳とボールペンを取り出した。それを受け取り、メモ帳に目の前の人体図を書き写していく。ハチマンもハチマンでパシャパシャと私のデジカメで人体図を写真に収めている。
「しかし、アリシエ、コントロールルームといえば人間の脳にあたる部分だと思うんだが。口から一番近くないか?」
「ああ、僕もそう思った。だが、ここから脳へ繋がる道がどうしても見つからない」
キヨマロも人体図を紙に書き写しながらアリシエに質問し、彼は淡々とそれに答えた。アリシエの言うとおり、人体図を見る限り、口から脳へ繋がる道は見当たらない。まぁ、脳は人間でも大切な部位であるため、そう簡単に侵入できないようになっているのだろう。
「人間だってそうだ。脳は硬い頭蓋骨に守られてそこに続く道は――」
「――脊髄……神経になるのか。口からの侵入は無理だな」
あまり人体の構図には詳しくないが、キヨマロの言葉から察するに口から侵入できるルートと脳へ繋がるルートは繋がっていないらしい。つまり、どこかで脳へ繋がるルート――神経に移動しなければならないのだ。簡単にはいかないとは思っていたが、想像以上にコントロールルームを見つけるのは難しいかもしれない。
「だが、『ファウード』をコントロールしようしている者がいる以上、必ずどこかに道はあるはずだ。ただ、脳以外の場所にあるかもしれないし、『ファウード』を魔界に帰らせる装置も別の場所にある可能性だって否定しきれない」
「むしろ、バラバラの場所にある可能性が高いでしょ。一緒の場所にあればコントロールルームを見つけるだけで『ファウード』を帰らせられちゃうんだから」
アリシエの言葉を引き継ぐように私は手を動かしながら答える。私ならコントロールルームと『ファウード』を魔界に帰す装置が同じ場所にあった場合、どうにかしてどちらかを別の場所へ移すだろう。それが本当にできるかわからないがその可能性も考慮すれば別々の場所にある可能性の方が高いだろう。
「とにかく、先に進もう。ここで考えていても意味がない」
「アリシエ、この先だ。多分、最初の関門だ」
メモをし終えたのか、キヨマロはペンで紙をトンと叩きながらモニターに映る人体図を見上げる。その時、リーヤが先に繋がる通路を指さしながら大声を上げた。あの先に何が待ち受けているのだろう。人体図を見ればおそらく、人間でいう胃に該当する場所なのだろうが、人間と同じ機能を持っているとは限らないため、決めつけずに進んだ方がよさそうだ。
「さぁ、清麿。ここから先は僕も入ってはいない。ここからが本番だぞ」
そう言ってアリシエは通路に向かって駆け出す。他のみんなも彼の後を追うようにそれに続いた。メモ帳をハチマンに返そうと思ったが仕方ない。私もハチマンと並んでみんなの後を負った。
「こ、これは……」
それからしばらく走り続けていると一つの部屋に出た。いや、部屋と言ってもいいのだろうか。道は部屋の中央までしかなく、その先は行き止まり。そして、道を囲むように下にはマグマのようなものが溜まっていた。なにより、目立つのは壁に埋め込まれている上半身しかない骸骨だった。その骸骨の手には釣りで使うリールのような物があり、きっとあれが罠の一部なのだろう。どことなく、ハイルの『ディオガ・ガルジャ・ガルルガ』に似ていて思わず、顔を顰めてしまった。
「……えい!」
骸骨に気を取られていた私とは違い、落ちないように眼下のマグマを見ていたみんなだったが、ティオは地面に落ちていた石を拾い、徐にマグマへ投擲。石はマグマに触れた瞬間、音を立てて溶けてしまった。
「ヒィイ!? 石が溶けた!?」
「おいおい、早くも行き止まりか?」
それを見ていたキャンチョメが悲鳴を上げ、フォルゴレも絶望した表情を浮かべながら嘆く。だが、それを否定したのは先ほどの人体図を書き写した紙を見ていたキヨマロだった。
「いや、きっとここは喉の奥にあたる。下のマグマみたいなのはきっと胃の……胃液にあたる、と。マップにその奥の部屋があるということは必ず道は――」
「――お前たちはご主人の使いか? それとも敵か?」
キヨマロの言葉を遮ったのは壁の骸骨だった。まさか話すとは思わず、みんなは目を丸くして骸骨を見上げる。そんな私たちの驚きなどお構いなしと言わんばかりに骸骨はただ『答えよ』と回答を促した。
「オ、オヨヨヨヨヨ!? 生きてる!?」
「喋った!? 喋ったあああああああ!」
シスターを始め、みんなは話す骸骨を見てパニックを起こしていた。まずい、骸骨は私たちの立場を聞いていた。もし、使いだった場合、骸骨の存在だって知っているはず。しかし、私たちは驚いてしまった。
「騒がしいな……その様子だと、敵――」
「――いいえ、敵ではない!」
骸骨が私たちを敵と判断する直前、アリシエは冷や汗を流しながら絶叫する。ここは人間で言うと胃にあたる。つまり、食べ物を消化する器官だ。もし、私たちを敵と判断すれば骸骨は私たちを排除しようとするだろう。たとえ、私たちが立っている道を落としてマグマに突き落とす、とか。
「僕らは『ファウード』の主人より、『ファウード』の中の探索を命ぜられた者! どうか、この先の道を案内されたし!」
間髪知れず、アリシエは堂々と嘘を吐く。確かに探索を命じられた者ならば中の様子を知らなくても不思議ではない。だが、かなり苦しい言い分だ。ハチマンもそう思ったのか魔本を背中に隠していつでも心の力を注げるように準備する。
「……よかろう。我が『ファウード』を作りし主人は知に長けた者。その使いならば我が質問に答えられて当然だ。逆に我が主人の使いでもバカがこの中を通ることは許されん」
「清麿、私はバカだから帰るよ! 邪魔したな、ドクロ!」
ここまできて怖気づいたのか、フォルゴレは骸骨の言葉に即答してバッグを持って踵を返す。あまりにも潔い、逃走に私たちは言葉をかけることすらできなかった。
「NO!! ウンコティンティン!!」
しかし、骸骨はいち早く反応して絶叫。すると、私たちが通ってきた道が落ち、マグマの底に消えてしまった。やはり、あの骸骨は道を落とすことができるらしい。それにしても『ウンコティンティン』って何?
「バカは生かしても帰さん。残された道は一つのみ。お前ら全員、我が質問に答えるべし。1人でも間違えば全員、『ファウード』の胃液へと落とされよう」
「えええ!? 一人でも答えられないと全員が!?」
「ウンコティンティン!」
フォルゴレの質問に骸骨はまたよくわからない単語を言って頷く。それにしても質問、か。『ファウード』は魔界にいた。おそらく、この骸骨も『魔界』に関する質問をしてくるだろう。人間組はもちろん、魔界にいた頃の記憶がほとんど残っていない私と記憶喪失のガッシュも答えられるとは思えない。ここは私とモモンでみんなを通路まで運んで出直すべきか。
「では、第一問。私の名前はなぁ~んだ?」
第一問からとんでもない質問が飛んできた。『ファウード』の一部だから『ファウード』ではないのだろうか。いや、それなら主人云々の話をした時、『自分』を作ったと言うはず。つまり、この骸骨は『ファウード』の一部だが、『ファウード』そのものではない。じゃあ、一体、この骸骨の名前は――。
「はい」
「ふぉ、フォルゴレ!?」
「はい、フォルゴレくん」
勢いよく手を挙げたフォルゴレを骸骨はまるで先生のように当てる。自分はバカだと言って逃げようとした彼があれほど自信満々に手を挙げるなんて。もしかして、私たちは見逃したのか、あの人体図にこの骸骨の名前でも書かれていたのだろうか。
一体、フォルゴレはどんな答えを言うのだろう。ちょっとドキドキしながら彼を見上げている。そして、彼は何の怯えも、不安もなく、堂々と答えた。
「ウンコティンティン!」
あ、駄目だ。私たち、溶かされちゃう。